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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 高病原性鳥インフルエンザの国内発生時の措置について

[場所] 
[年月日] 2004年12月22日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成16年12月22日)

(健感発第1222001号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 本年2月、京都府内の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生したことを踏まえ、京都府と国立感染症研究所が協力して実施してきた「京都府鳥インフルエンザ発生対応の防疫作業従事者における血清抗体検査」について、本日、12月22日付けで調査結果が取りまとめられたので、今後の国内における対策の参考に資するよう、別添のとおり関係資料を送付する。

 また、当該調査結果を踏まえ、高病原性鳥インフルエンザの発生又はその疑いのある農場における人への感染の予防及び発症の予防において、医療用マスク(N95)、ゴーグル及び送排気の機能の付いたマスク又は防護服等のより高い感染防御効果が得られる防護器具並びに抗インフルエンザウイルス薬(リン酸オセルタミビル)の使用等の効果が認められることから、貴職におかれては、引き続き、下記の点に留意の上、防疫作業従事者等に対し十分な個人感染の防御及び発症の予防を図るよう要請する。

 なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に規定する技術的な助言である。


   記

1 高病原性鳥インフルエンザの発生又はその疑いのある農場等において、防疫作業等に従事する際にはウイルスの感染を防止するため、十分な個人感染の防御及び発症の予防に必要な措置を行うよう作業従事者に周知すること。特に、高病原性鳥インフルエンザの発生が確認される前であっても、発生が疑われる旨の情報を入手した場合には、当該農場等の従業員を含め、発生の確認作業に従事する関係職員に対し、十分な個人防御を行うよう周知すること。

2 今後、高病原性鳥インフルエンザの発生があった場合においては、健康危機管理のために、関係職員等への感染の有無を正確に把握する必要があることから、十分な説明に基づく同意を得て、健康調査のほか、検査に必要な検体等の採取にも協力が得られるよう努めること。

3 高病原性鳥インフルエンザの人への感染について正しい知識を持つよう住民等への情報提供を行うこと。

4 情報の分析及び公表に当たっては、個人情報の保護に特に留意すること。

平成16年12月22日

健康局結核感染症課

{担当者などは省略}



京都府における高病原性鳥インフルエンザの抗体価調査の結果について

【概要】

1 平成16年2月に京都府の養鶏場で起こった高病原性鳥インフルエンザの集団発生事例における防疫作業従事者58名(うち、養鶏場従業員16名、京都府職員42名)に対し、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)に対する血清抗体価調査及び作業内容や健康状態に関するアンケート調査を実施した。また、対照群として、作業に従事しなかった京都府職員33名に対し、血清抗体価調査を実施した。

2 血清抗体価調査を実施した91名のうち4名は、1か月程度の間隔をあけて、2回の採血による検査を行ったが、残りの87名については、本年4月以降の1回だけの検査を行った。

3 抗体価調査の結果


   人数 中和抗体価別人数
10未満 10以上
養鶏場従業員 16 12 4(※)
京都府職員 42 41 1
対照群 33 33 0


(※) うち1名は、2回採血による検査の結果、1回目が陰性で、2回目が陽性だったもの

4 感染の原因

 今回の調査では、感染の有無は断定できないが、仮に感染していたとすれば、養鶏場では、集団発生開始後、長期にわたり組織的な感染防御なしに病鳥との接触や汚染環境との接触などが行われており、個人防護具の着用なしに作業に従事していたことによって高率に感染が起こったと考えられる。

 一方、府職員は、高病原性鳥インフルエンザ対策としてのN95マスク着用等の感染防御策が実施される前の初期緊急現地調査の際に、ウイルスが大幅に増幅していたと考えられるもとで、養鶏場の鶏舎において感染したのではないかと考えられる。

5 健康状態に関する調査

 今回、抗体陽性となった5名は、高病原性鳥インフルエンザの発症はしておらず、今後も発症のおそれや他に感染させる可能性もないことから、公衆衛生上、問題はないと考えている。

【調査の意義及び今後の対応】

 本調査は、高病原性鳥インフルエンザ事例への対応が重要となる中で、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染リスク、感染防護、抗インフルエンザウイルス薬の効果等が検証され、個人防護具の着用により、感染が防御できることが判明するなど、今後の対策の確立に寄与する有意義なものであった。

 本調査を踏まえ、厚生労働省としては、本日、都道府県等に対し、防疫作業従事者等への感染防御の徹底の周知等を図るため、高病原性鳥インフルエンザの国内発生時の措置について、通知を発出。



京都府鳥インフルエンザ発生対応の防疫作業従事者における血清抗体検査結果について

国立感染症研究所 感染症情報センター長

同 ウイルス第三部長

平成16年12月22日

1 背景と目的

 平成16年2月に発生した京都府のA養鶏場における高病原性鳥インフルエンザの集団発生に際して、A養鶏場従業員や京都府職員等、延べ7,000人を超える人が現場で防疫作業に従事した。京都府が実施した防疫作業は同月27日から3月22日にわたり行われた。

 防疫作業従事者は、感染予防の目的で個人防護具の着用や抗インフルエンザウイルス薬(リン酸オセルタミビル:商品名タミフル)の予防内服等の感染防御策を行った。しかし、A養鶏場従業員は、京都府が防疫作業を開始した平成16年2月27日以前には、このような感染防御策なしで作業に従事していた。また、高病原性鳥インフルエンザ発生を確認する際に府職員(3名)にて実施された緊急な初期現地調査の時点においては、緊急調査の性格から抗インフルエンザウイルス薬の予防投薬などは行われていなかった。当時、現地においては、ウイルスが大幅に増幅していたと考えられる。

 今回、調査対象となった58名をはじめとする防疫作業従事者に、インフルエンザ様疾患の発生は無かったが、無症状感染者の有無が不明であったため、感染状況把握の目的で血清抗体価調査を行った。

 本調査は、高病原性鳥インフルエンザ事例への対応が重要となるなかで、インフルエンザウイルスの感染リスク、感染防護や抗インフルエンザウイルス薬の効果等を検証し、今後の対策の確立に資するため、関係者の理解と協力を得て実施した。

2 方法

○高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する血清中和抗体価測定

 A型インフルエンザには、血球凝集素(HA)蛋白の違いによって、H1~H15の亜型に分けられる。今回集団発生を起こした高病原性鳥インフルエンザウイルスはH5亜型である。感染後に得られる免疫は感染したHAの亜型特異的なものだけではないが、血清中のウイルスに対する中和抗体価を測定することで、特異的に過去にどの亜型のウイルスに感染したかを推定することができる。

 今回は、京都のA養鶏場の鶏から分離されたH5亜型の京都分離株(A/Chicken/Kyoto/3/2004)に対する中和抗体価を、国立感染症研究所ウイルス第三部にてマイクロ中和抗体法で測定した。

【マイクロ中和抗体法】

 検査する血清を非特異的なウイルス中和活性を除くためにRDE(Receptor Destroying Enzyme)で37℃、一夜(18~20時間)作用させた後、56℃で30分間加温処理する。

 処理した血清を10倍希釈より始めて2倍階段希釈し、それぞれに一定量(100 TCID50)のウイルス(A/Chicken/Kyoto/3/2004)を加えて37℃、30分間反応させる。

 これらのウイルスと血清の混合液をMDCK細胞が培養してある96穴のマルチプレートに接種して37℃で3日間培養する。50%以上中和する最大血清希釈倍数を中和抗体価として測定する。

○採血実施日

 防疫作業終了から約1ヶ月後の平成16年4月19日~28日に採血を行った。

○調査対象者

 検査に同意が得られた防疫作業従事者58名(A養鶏場従業員16名、京都府職員42名)及び、対照群として作業に従事しなかった京都府職員33名から採血を行った。

 なお、調査対象者は養鶏場職員、府職員で長期間業務に従事した者から選定した。

○防疫作業内容、感染防御実施状況及び作業後の健康状態の把握

 アンケート調査および現場視察により把握した。

3 結果

 調査対象者全員から血液採取とアンケートの回答が得られた。防疫作業従事者58名のうち4名については、平成16年3月11日に採取・保存してあった血清が確保され、本人の同意の下に結果的にペア血清として抗体価測定が行われた。他の54名はシングル血清のみが得られた。

○中和抗体価

 対照群33名及び、防疫作業従事者58名のうち53名で、血清中和抗体価が検出感度以下の10未満であった。

 作業従事者のうち、5名で中和抗体価が10以上を示した。(下表)

 詳細は以下の通り。

  ①A養鶏場従業員は、16名のうち12名が中和抗体価10未満であり、10以上は4名であった。そのうち1名は約5週間前の血清で、10未満であり、ペア血清にて抗体陽転が認められた。

  ②京都府職員は、42名のうち41名が中和抗体価10未満であり、10以上は1名であった。


   人数 中和抗体価別人数
10未満 10以上
A 養鶏場従業員 16 12 4(※)
京都府職員 42 41 1
対照群 33 33 0


(※) うち1名は、2回採血による検査の結果、1回目が陰性で、2回目が陽性だったもの

○防疫作業従事者の健康状態

 アンケート調査の結果、ペア血清で抗体陽転が認められた1名は、抗インフルエンザウイルス薬内服開始直後から数日間咽頭痛を訴えていたが、発熱等の全身症状は認められなかった。

 他の4名も発熱等インフルエンザ類似の全身症状は見られなかった。

 なお、防疫作業従事者の健康管理活動を実施した園部保健所においては、今回調査対象となった者を含め、作業終了後も健康状態を継続的に把握した。その結果、消石灰による目の刺激や皮膚炎を訴える者があり、また、発熱、悪寒等を訴える者はあったが、臨床症状及びインフルエンザ迅速検査陰性から、インフルエンザ感染は否定された。

○防疫作業状況

 現場での聴き取り調査によると、京都府による防疫措置が開始された平成16年2月27日以前において、A養鶏場の従業員は、個人防護具の着用無しに作業に従事していた。

 抗体陽性であった府職員は、高病原性鳥インフルエンザ発生を確認するために、当該職員を含む府職員3名でA養鶏場の鶏舎の緊急初期調査に従事していた。

 その際、防護服、ゴム手袋、マスク、ゴーグルは着用していたものの、N95マスクの使用や抗インフルエンザウイルス薬の内服等は行われていなかった。

 消石灰散布作業では、N95マスクを使用していても微粒子がマスクの内側に入り込み、時にむせ込んだり、その後咽頭痛を訴えるなどの出来事が確認された。

4 考察

①抗体検査の陽性判定基準値(カットオフ値)の設定

 今回作業に従事しなかった対照群(京都府職員33名)で全員検出限界の10未満であったことから、10をカットオフ値と設定した。

 その際の職種別陽性率は、A養鶏場職員:25%(4/16)、京都府職員2.4%(1/42)、対照群0%(0/33)であった。

②「血清中和抗体価陽性」の解釈

 A型インフルエンザウイルスに対する中和抗体価は、HAの亜型に特異的である。すなわち、H5亜型のウイルスに対する中和抗体価の上昇は、他のヒトのインフルエンザH1(ソ連型)やH3(香港型)等に対する免疫では起こらない。

 すなわち、H5亜型ウイルスに対する中和抗体価陽性は、過去にH5に感染したことを意味する。したがって、今回、シングル血清で陽性であった4名は過去にH5亜型のインフルエンザウイルスに感染した可能性が高いと判断された。

 しかし、一時点の抗体陽性のみでは、過去のいつ感染を受けたかの時期を推察することはできない。

 ところが、対照群で陽性者が全くいないこと、陽性率の最も高かったA養鶏場では、集団発生が始まってから発覚するまで組織的な感染予防策なしで病鳥や汚染環境との濃厚な接触があったこと等を考え合わせると、これら抗体陽性者は今回の防疫作業に伴った感染の可能性が高いと推察される。

 ペア血清での抗体陽転は感染が最近起こった事を意味している。すなわち、抗体陽転が確認されたA養鶏場の従業員1名は、今回の防疫作業に関連してH5亜型鳥インフルエンザウイルスに感染したと思われた。

 この従業員は、個人防護具着用、抗インフルエンザウイルス薬予防内服が始まった日より数日間咽頭痛を訴えているが、発熱など他のインフルエンザ様症状はなく、消毒薬による刺激など他の原因による症状の可能性もあると考えられた。

 いずれにしても、今回抗体陽性であった5名は、いずれも高病原性鳥インフルエンザウイルスには感染又は感染した可能性が高いと考えられるが、発症はしていなかった。

③感染の原因

 上記のことから、シングル血清で陽性であったA養鶏場従業者3名及び府職員1名は防疫作業に伴い「感染の可能性が高い」、ペア血清で抗体陽転が認められたA養鶏場従業員1名は防疫作業に伴い「感染した」と考えられた。

 A養鶏場では、集団発生開始後、長期にわたり組織的な感染防御なしに病鳥との接触や汚染環境との接触などが行われており、個人防護具の着用なしに作業に従事していたことによって高率に感染が起こったと思われた。

 一方、府職員は、高病原性鳥インフルエンザ対策としてのN95マスク着用等の感染防御策が実施される前の初期緊急現地調査の際に、ウイルスが大幅に増幅していたと考えられるもとで、A養鶏場の鶏舎において感染したのではないかと推察された。

④感染防御作業上の問題点

 N95マスクは、今回の防疫作業、特に消石灰散布などの作業では肉体的負担が大きく、作業負担を減らすようなマスクの使用が必要だと思われた。

⑤感染防御策の有効性

 ほとんどがシングル血清のみによる判定のため、これら感染防御策の有効性を正確に評価する事はできないが、初期の緊急調査時にN95マスクの使用や抗インフルエンザウイルス薬の予防投薬などなしに感染した可能性が高いと推察された府職員を除けば、防疫作業従事者(京都府職員)に中和抗体陽性者がいなかったことから、N95マスク等の個人防護具着用は、感染防御に有効であったと判断される。

 一方、平成16年2月27日以後の京都府による防疫作業従事者は抗インフルエンザウイルス薬の予防服用を受けていた。このうち5名の感染又は感染の可能性が高かった者についても発症者が認められなかったことから、抗インフルエンザウイルス薬の予防服用は、発症阻止に一定の効果があったと推察された。

5 本調査における制約

 これまでヒトへのH5N1亜型インフルエンザウイルスの感染に関する知見が少ないことから、カットオフ値を10にしたことの妥当性が十分に検討できなかった。ほとんどの者がシングル血清のみの評価であったため、厳密な感染時期の特定ができず、感染防御策の有効性の正確な評価を行うことができなかった。

 検査結果が出るまで、時間がかかったが、H5N1亜型インフルエンザウイルスの感染に関する疫学調査の手法が未確立であり、また、世界的にも注視されている中、検査の手法、分析・評価の手法等、信頼性のある科学的検証をしっかりとする必要があったことから、これまで時間がかかった。

6 提言

 以上の結果を踏まえ、今後、養鶏場において高病原性鳥インフルエンザの発生が再び起こった際の参考として、以下の提言を行う。

①養鶏業者に対して

・養鶏業者への啓発と、迅速な発見と報告

 高病原性鳥インフルエンザ発見と対応の遅れは従業員に対して大きな感染リスクとなる。発生時には速やかに従業員への感染防御策を開始する可能性があるため、養鶏場における迅速な発見と保健所、家畜保健衛生所等への連絡が重要である。

②保健行政担当者に対して

・防疫作業における感染防御策(個人防護具)及び抗インフルエンザウイルス薬予防内服の徹底

 感染防御策の実施が、作業に伴う感染防御に有効であると考えられるため、実施の徹底が重要である。また、作業しやすい防護具の選択も重要である。

・作業負担を減らすようなマスクの使用

 N95マスクは、今回の防疫作業、特に消石灰散布などの作業では肉体的負担が大きく、一部でマスクが緩むなどの事象も見受けられた。一方、マスクの形状によっては、個々の顔面にフィットしないものもあるため、今回のように大量の人員が防疫作業に従事するような場合には、マスクの選定や適正使用の徹底が重要となる。

 今回の事例でも順次、高規格のマスクを選定し、超高性能粉塵マスクが使用されたが、作業内容に応じて、N95マスクに加えて、効果が同等で使用者の肉体的負担の少ないマスクも使用できるように考慮すべきである。例えば、フィルター付きマスクやフルフェイス型バッテリー駆動のマスクなどである。

・継続的な調査の推進

 防疫作業に伴う感染リスク、感染防御策の有効性等は、今回の調査のみでは評価できない。高病原性鳥インフルエンザが発生した場合、防疫作業を実施しつつ、作業前の血清保存ならびにこのような健康に関する実態調査を行うことが望ましい。

7 まとめ

 平成16年2月に京都府A養鶏場で起こった高病原性鳥インフルエンザの集団発生事例に際しては、同月27日から3月22日にかけて、京都府によって、作業員に対する感染防御および発症阻止策を講じた上で、防疫作業が行われた。この際に、防疫作業従事者58名を対象に、作業後の同年4月、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に対する血清抗体価調査及び作業内容や健康状態に関するアンケート調査を行った。これらの対象者については、同年4月の一時点のシングル血清抗体価を行うとともに、そのうち4名は防疫作業中の同年3月11日に採取した保存血清が得られ、ペア血清によるウイルス中和抗体価測定が行われた。作業に従事しなかった対照者33名については、同年6月の一時点のシングル血清抗体価を行った。

 対照者の血清中和抗体価が全員検出感度である10未満であった事から、10以上を陽性とした。作業従事者58名のうち、4名がシングル血清にて陽性であり、今回の鶏の集団発生に伴い高病原性鳥インフルエンザウイルスへの「感染の可能性が高い」と判断された。また、ペア血清抗体価が得られた4名のうち1名が抗体陽転を示し、「感染した」と考えられた。これら抗体陽性となった5名は、いずれも発熱等の全身症状が無く、高病原性鳥インフルエンザウイルスには感染した又は感染の可能性が高いと考えられたが、発症はしていなかった。

 シングル血清陽性者4名のうち3名、及びペア血清で抗体陽転のあった者1名はA養鶏場従業員であり、京都府による防疫作業が行われる前に、十分な感染防御策なしに高病原性鳥インフルエンザの発生した養鶏場で死亡鶏の処理作業等に従事しており、その間に高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した可能性が高いと推察された。他のシングル血清陽性者1名(府職員)は、高病原性鳥インフルエンザ対策としての感染防御策が実施される前に、集団発生が起こっている鶏舎にて緊急の初期調査を実施しており、その間に感染した可能性が高いと推察された。

 他の防疫作業従事者に比較し、A養鶏場従業員の陽性率が高かったことから、高病原性鳥インフルエンザの発生時の従業員の感染予防の観点から、養鶏業者への啓発及び迅速な発見と報告が重要と考えられた。また、今回集団発生事例の防疫作業については、延べ7,000人を超える人が従事したが、高病原性鳥インフルエンザの発症事例がなかったこと、一方で長期間業務に従事し今回調査対象となった58名中53名(養鶏場職員を除いた場合42名中41名)は、感染が認められなかったことなどから、個人防護具による感染防御策および抗インフルエンザウイルス薬予防内服による発症阻止策は有効であったと考えられ、防疫作業におけるこれらの徹底が重要であると認識された。今回の調査から得られた知見は限定的であり、今後もこのような防疫作業が行われる際には、健康に関する実態調査を行うことが望ましい。

 今回の調査では、「感染した」又は「感染の可能性が高い」とされた者が5名あったが、高病原性鳥インフルエンザの発症者はいなかった。高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染は一過性であり、ヒトの体内における持続感染はない。したがって、これらの5名については、今後も発症のおそれや他に感染させる可能性はなく、また、今回調査対象となった者以外についても、今般の高病原性鳥インフルエンザの集団発生事例に関し、今後の追加検査の必要性はない。