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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 動物展示施設(動物とのふれあい施設を含む。)における動物由来感染症対策について

[場所] 
[年月日] 2006年7月4日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成18年7月4日)

(健感発第0704002号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 今般、神戸市の鳥類展示施設における従業員のオウム病患者発生及び秋田県のふれあい動物イベントにおける来園者等の腸管出血性大腸菌症患者発生がありました(別添参照)。

 また、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)の一部改正による、動物取扱業者の登録制等の施行に伴い、適切かつ効果的な動物由来感染症対策がなされるよう、別紙のとおり、各都道府県等動物愛護管理主管課(室)長あてに、協力依頼をしたところです。

 貴職におかれては、本件について御了知の上、引き続き、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)第10条第1項に規定する感染症の予防のための施策の実施に関する計画に基づき、必要な動物由来感染症対策の実施を要請します。


別紙

○動物展示施設(動物とのふれあい施設を含む。)における動物由来感染症対策について(協力依頼)

(平成18年7月4日)

(/健感発第0704001号/環自総発第060704001号/)

(各都道府県・各指定都市・各中核市動物愛護管理主管課(室)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長・環境省自然環境局総務課長通知)

 今般、神戸市の鳥類展示施設における従業員のオウム病患者発生及び秋田県のふれあい動物イベントにおける来園者等の腸管出血性大腸菌症患者発生がありました(別添参照)。

 動物展示施設における動物由来感染症発生の未然防止、さらには同施設を原因とする感染症発生時の原因究明等においては、感染症担当部門と動物愛護担当部門とのより一層の連携が不可欠であることから、適切かつ効果的な動物由来感染症対策の実施のため、御協力をお願いします。

 なお、厚生労働省のホームページにて「動物展示施設における人と動物の共通感染症対策ガイドライン2003」を掲載しておりますことを申し添えます。

{URLは省略}


(別添1)

神戸市の鳥類展示施設における従業員のオウム病患者発生について

 平成17年12月6日、神戸市内のA施設における従業員のオウム病感染事例が発生したことに伴い、神戸市長より感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、法という。)第15条第5項の規定に基づき積極的疫学調査の結果について報告があったので、その概要、発生時対応及び発生予防に関する分析結果について以下に記す。

I 概要

1.発生の概要及び経緯

 平成17年12月6日、神戸市内の医療機関より神戸市保健所あてに、「A施設の飼育担当者でオウム病を強く疑う患者を診察した。さらに同施設の従業員複数が同様の症状を呈している模様である。」との通報があった。これを受けて、直ちに中央区保健福祉部(対人保健業務所管)及び東部衛生監視事務所(動物衛生業務所管)が合同で調査を開始し、患者の症状・行動調査、施設の管理運営状況の調査及び検査用検体の確保等を図った。

 なお、A施設は12月8日に開園予定であり、通報のあった12月6日は、動物取扱業の営業届出書提出を受けて、東部衛生監視事務所が午後から現地確認を実施する予定の日であった。

 12月6日の調査時点で、A施設の鳥飼育担当者4名が高熱、咳、筋肉痛、肺炎症状を呈して3ヶ所の医療機関を受診(うち3名は入院)しており、さらに複数の従業員が風邪様の症状を呈していることが判明した。また、A施設では飼育している鳥が連日数羽ずつ死亡しており、これら有症者は、鳥の死体の処理や、給餌、清掃等の作業の際に、マスク、手袋の着用が徹底されていなかったことも判明した。

 従業員の発症状況等から施設内の集団感染が疑われたため、営業者は2日後に予定していた開園を延期し、同日自らその旨を公表した。なお、開園前であったため、通報のあった時点では一般客の入園は始まっていなかったが、それまでに内覧会として近隣住民、マスコミ関係者や周辺の企業関係者等、約1,100名が招待され、入園していた。

 12月7日に、入院患者1名の気管支洗浄液からPCR法によりオウム病クラミジア遺伝子が検出されたことから、医師より四類感染症患者としての届出がなされた。これを受けて、同日、神戸市はA施設に対して、法に基づき、施設内の清掃・消毒及び鳥類の移動禁止等を命じた。また、患者発生について公表し、市内全医療機関に情報提供を行い、内覧会参加者が発症した場合の診療への協力及び保健所への連絡を依頼した。さらに、内覧会参加者に対しては、A施設がリーフレットを作成し、対象地域住民への全戸配布または参加企業等へのダイレクトメール送付により、発症時の受診案内を行った。

 12月6日から8日にかけて施設内で採取した死亡鳥、落下糞便等90件を検査したところ、死亡鳥1件及び落下糞便4件からPCR法でオウム病クラミジア遺伝子が検出された。

 また、全従業員のうち同意の得られた者を対象に実施した血清抗体検査(Micro-IF法)の結果、入院患者1名(上記PCR陽性者とは別人)がペア血清でIgGの有意な上昇を示し、オウム病と診断された。さらに、神戸市外の医療機関を外来受診した患者1名が、同医療機関で実施したCF法での血清抗体検査の結果に基づきオウム病と診断され、最終的に合計3名が法に基づく四類感染症患者として届け出られた。なお、内覧会参加者のうち、発熱等の症状を訴えて医療機関を受診した者は5名いたが、いずれもオウム病とは診断されなかった。

 神戸市では、オウム病や動物管理、疫学調査の専門家をアドバイザーとして迎え、「神戸市健康危機管理専門家会議食中毒・細菌感染症部会」(以下、「専門家会議」という。)を3回にわたり開催し、原因の究明及び再発防止策を検討した。その結果、今回の患者発生は、検疫室や病鳥隔離室等の施設設備の不備、個体識別を含めた飼育鳥の健康管理体制の不備、従業員の感染防御策の不備等、「動物展示施設における人と動物の共通感染症対策ガイドライン2003」(以下、「ガイドライン2003」という。)に基づく管理運営がなされていなかったことが原因であり、必要な施設設備を設け、適正な管理運営体制を確立することが再発を防止するための要件であるとの提言を得た。

 専門家会議の意見を踏まえて改善指導を行った結果、A施設は、検疫室・病鳥隔離室等の施設設備や全飼育鳥の個体識別をはじめとする健康管理体制、管理運営のためのマニュアルの整備など、ガイドライン2003に基づく適正管理を実施する体制を整えた。また、A施設は、12月7日より園内の全飼育鳥に対して45日間の抗菌薬投与を行った。その効果の確認のため、神戸市では飼育鳥879羽について検査を行い、5羽を除き陰性であることを確認し、陽性となった鳥5羽については、改めて隔離治療を指示した。

 これらのことから、「患者発生に至った特別な状況は解消された」との専門家会議の意見を受けて、A施設は平成18年3月15日に開園した。

2.施設の概要

 飼養羽数:12月8日までの施設搬入羽数 1,052羽(施設内で死亡した鳥を含む)

     水禽類332、インコ類302、シギ類150、家禽類78、猛禽類37、

     オオハシ類25、その他128

 従事者数:計67人(当時)

  ※ A施設がこの場所で開園することが明らかになった平成16年8月以降、東部衛生監視事務所は営業者に対して10回にわたり動物の愛護及び管理に関する法律に基づく基準並びにガイドライン2003に基づき事前指導を行っており、営業届出書に添付されていた書類には、鳥の検疫室、病鳥隔離室、診療室、バードスタッフ室等の施設設備が記載されていた。しかしながら、12月6日の調査時点でこれらは設置されていなかった。従って、1,000羽を超す鳥類は検疫を実施せずに導入され、個体識別や健康状態の確認、病鳥の隔離措置等も行われることはなく、また従業員も作業後シャワー等の利用ができない状況であった。

   なお、A施設の営業者は島根県、静岡県でも同様の施設を運営しており、平成13年度に島根県松江市の施設で、飼育関係者及び来園者計17名がオウム病に感染した事件が発生している。

3.有症者の状況

 (1) 発熱等の症状を呈する従業員の医療機関受診を指示するとともに、全従業員に対して健康調査及び行動調査を実施した。その結果、A施設に本格的に鳥の導入が始まった11月12日以降、12月15日までに何らかの症状を訴えた者は23名おり、このうち11名が飼育担当者であった。

 (2) 有症者の検査は、神戸市内の医療機関と神戸市環境保健研究所が連携して行った。しかしながら、1,000名を超す内覧会参加者があり、当初は受診者が殺到することも予想されたので、まず迅速キットによりインフルエンザの検査を行い、陰性であった者について、次いで直接蛍光抗体法(FA法)によるクラミジア属の検査を行い、さらにこれが陽性であった者を対象にPCR検査を行うこととした(その後、国立感染症研究所の助言もあり、保管していたすべての患者検体についてPCR検査を追加実施した)。その結果、入院患者1名の気管支洗浄液からPCR法でオウム病クラミジア遺伝子が検出され、12月7日に四類感染症患者としての届出がなされた。

 (3) その後、全従業員のうち、本人の同意が得られた者に対して採血を行い、国立感染症研究所にMicro-IF法によるオウム病クラミジアの血清抗体価の検査を依頼した(1回目採血:12月14日、15日、2回目採血:12月26日、27日。ペア血清が取れた者38名、シングル血清のみの者14名)。その結果、市外の医療機関に入院した患者1名がペア血清でIgGの有意な上昇(16倍→256倍)を示し、オウム病と診断された。

 (4) また、神戸市外の医療機関を外来受診した患者1名が、当該医療機関で実施したCF法でのペア血清抗体検査の結果(4倍未満→16倍)に基づきオウム病と診断され、最終的には合計3名が法に基づく四類感染症患者としての届出がなされた。

 (5) 飼育担当者については、鳥の死体の処理や、給餌、清掃等の作業時に、マスク、手袋の着用が徹底されていなかった。また、個人ごとの担当場所は決められておらず、全員が施設全域に渡って作業を行っており、患者特有の行動若しくは作業内容は特定されなかった。

 (6) 内覧会参加者については、A施設がリーフレットを作成し、対象地域住民への全戸配布または参加企業等へのダイレクトメール送付により、発症時の受診案内を行った。また、神戸市は患者発生について公表し、市内全医療機関に情報提供を行い、内覧会参加者が発症した場合の診療への協力及び保健所への連絡を依頼した。その結果、5名が発熱等の症状を訴えて医療機関を受診したが、オウム病と診断された者はいなかった。

 (7) なお、国立感染症研究所において抗体測定Micro-IF法に用いた菌株(C.psittaciBudgerigar-No.1株)では抗体価の上昇が見られたのは1名のみであったが、A施設の鳥由来の菌株を用いたMicro-IF法により再度測定を行う予定であり、神戸市環境保健研究所において、引続き分離培養により菌株の確立を行っているところである。

4.飼育鳥の状況

 (1) A施設が導入した鳥の仕入れ元リストを入手し、該当施設を所管する自治体(4自治体)に対して、仕入れ状況の確認、従事者及び鳥の健康調査等について調査を依頼したが、いずれの施設も従業員及び飼育鳥の健康状態に異常は見られなかった。

 (2) 12月6日、オウム病とは確定していないものの、その疑いが濃厚であったため、原因究明の一環として死亡鳥1件、落下糞便9件を採取して神戸市環境保健研究所に搬入した。12月7日に、A施設が全飼育鳥に対して抗菌薬投与を開始したとの情報を探知したため、あらためて死亡鳥4件、落下糞便70件、土壌4件、中庭池の水2件を採取した。その結果、死亡鳥1件(北展示室2階で死亡したオキナインコ)、落下糞便4件(長屋門内ヒムネオオハシの糞1件、中庭池で採取した糞3件)からPCR法でオウム病クラミジア遺伝子が検出された。

 (3) A施設は、全飼育鳥に対して12月7日から45日間の抗菌薬投与(ドキシサイクリン、飲水または餌に混ぜて投与)しており、その効果の確認のため、東部衛生監視事務所が投薬終了1週間後の1月27日に、113件の検体(落下糞便または総排泄口スワブ)を採取した。この際、「長屋門」及び「北展示室2階」については個室又はケージ飼育であったため、各室又はケージから糞便を複数採取して1検体とし、各ケージ等での飼育羽数を検査実施羽数として捉えた。「中庭池」については、広い区域内に500羽を超える鳥が放し飼いにされており、すべての鳥を捕獲して検体採取を行うことは困難であると考えられたことから、まず捕獲が困難であり、かつ糞の水分量が多く人への感染リスクは比較的低いと考えられる水鳥を対象から除き、ツルやフラミンゴ等、個体からの検体採取が容易な鳥について、種ごとに1羽ずつ総排泄口スワブにより検体採取を行った。「水鳥・ペンギンプール」についても「中庭池」と同様に取り扱った。

 (4) その結果、「中庭池」で採取したホオジロカンムリヅル1羽が陽性となった(他の112件は陰性)。このため、再度、中庭池で放し飼い飼育されている全ての鳥(検査済みの鳥を除く503羽)を捕獲し、個体識別のうえ総排泄口スワブの検体採取を行った。その結果、4件(マガモ3、オシドリ1)が陽性となった(他の499件は陰性)。検査の結果、陽性となった鳥については再度隔離・投薬して陰性の確認を行った。

5.発生原因の推定及び再発防止策

 オウム病や動物管理、疫学調査の専門家をアドバイザーとして迎えて、専門家会議を3回(平成17年12月27日、平成18年1月25日、2月20日)にわたり開催し、原因の究明及び再発防止策を検討した結果、次の意見が得られた。

 (1) 患者発生当時、A施設には検疫室、病鳥隔離室が設置されておらず、1,000羽を超す鳥類は検疫を実施せずに導入され、病鳥の隔離措置が行われることもなかった。また、飼育鳥は一部を除き個体識別が実施されておらず、発病・死亡等の記録がなされていなかった。

 (2) A施設には常駐の獣医師が1名配置されていたが、開園準備のために本来の業務以外の雑務がほとんどを占め、飼育鳥の健康管理を十分に行える状況ではなかった。また、従業員は一部を除き動物由来感染症に関する適正な感染防止の教育を受けておらず、給餌、清掃、死体処理等の作業時に手袋、マスク着用の徹底等の感染防御措置が講じられていなかった。さらに、従業員は目前の開園準備のために業務量が多くなっており、冬季の環境下で連日深夜まで従事するなど過労気味で、体調維持管理が困難な状況であった。

 (3) このような状況のもと、オウム病クラミジアを保菌していた一部の鳥の糞便の清掃や死体の処理等、濃厚接触をした飼育担当者の一部が感染・発症したものと推測される。なお、排菌の原因としては、長距離移動や新しい環境でのストレス等が引き金となった可能性がある。

 (4) 3名の患者の発症日は11月30日から12月3日までの範囲であり、オウム病の潜伏期間が通常7日から14日とされていることから、11月中旬から下旬にかけて曝露された可能性が高いと推測される。しかしながら、従業員の担当場所が決まっていないことから、すべての飼育担当者があらゆる飼育場所であらゆる鳥と接触をしている可能性があること、病鳥に関する記録類がなく飼育鳥の健康状態の確認ができない等の理由により、現時点では感染源となった鳥または場所の特定はできない。ただし、上述のようにガイドライン2003に基づく管理運営が遵守されていなかったことが原因であったことは明らかであり、必要な施設設備を設け、適正な管理運営体制を確立することが再発防止のための要件であると考えられる。

6.A施設への改善指導

 専門家会議での検討内容を踏まえ、A施設に対して次のような改善指導を行った。

 (1) 検疫室、病鳥隔離室等の施設設備の整備。

 (2) 全飼育鳥の個体識別の実施と個体管理の徹底。

 (3) 鳥類の展示方法の見直し(飼育鳥数の削減や鳥が隠れる場所の確保等のストレス軽減策、鳥との触れ合いをする区域の限定による管理体制の強化)。

 (4) 外部委員を含めた感染症対策委員会の組織。

 (5) 飼育管理に関する各種マニュアルの作成とこれに基づく適正な管理運営。

 (6) 全従業員に対する衛生講習会の実施。

 (7) その他、ガイドライン2003に基づく適正な管理運営。

7.施設の開園

 上記6.の指導事項に対する改善状況の確認やその他必要な調査のため、中央区保健福祉部及び東部衛生監視事務所は、平成17年12月6日以降3月15日までの間に合計27回の立入調査、14回の面接指導を行った。その結果、上記指導事項に従ってA施設は改善を進め、適正な管理運営を実施できる体制が整備されたことが確認できた。

 このことから、「患者発生に至った特別な状況は解消されたと考えられ、これに伴い、施設の開園についてこれを止めるべき特別の理由は解消されたと判断する」という専門家会議の意見を踏まえ、A施設は平成18年3月15日に開園した。

8.開園後の対応

 開園後も、A施設が提出したマニュアルに基づき、適正に管理運営されていることを確認するため、東部衛生監視事務所が継続的に監視指導を実施している。

 なお、現時点では感染源となった鳥又は場所の特定には至っておらず、また、A施設由来の菌株を用いた抗体価測定により感染者の範囲を検証するため、神戸市環境保健研究所が、国立感染症研究所等、関係機関の協力も得ながら、引続き検出されたオウム病クラミジアの遺伝子配列の解析や分離培養等、必要な調査研究を行っているところである。

II 法第16条第1項の規定に基づく分析結果

 動物等取扱業者は、法第5条の2において、展示する動物が感染症を人に感染させることがないように、感染症の予防に関する知識及び技術の習得、動物の適切な管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされているところ、以下の点について注意すべきであったと考えられた。

1.動物の健康管理

 (1) 導入直後の動物については、輸送や環境変化によるストレスにより、病原体を排出しやすいことから、検疫や検査等により適切に取り扱うこと。

 (2) 動物の管理は、十分な知識を有するスタッフが行うことが望ましい。特に導入直後の動物については、他の動物への病原体の拡散を防ぐためにも、できる限り専任のスタッフによる健康管理をおこなうこと。

 (3) 個体識別措置を講じ、個体管理を十分行うとともに、その記録を保持すること。

 (4) 動物に異常が認められた場合には、当該個体を隔離し、適切な処置を講ずるとともに、その他の個体の異常の有無について確認すること。

2.感染防御等

 (1) 動物を取り扱う際には、取扱い前後の手洗いやうがい、手袋やマスクなどの適切な感染防御措置を講じること。特に導入直後の動物を取り扱う際には、感染防御措置を徹底すること。

 (2) 動物を取り扱う者は自己の健康に十分留意すること。

 (3) 動物を取り扱う者に対する、動物由来感染症に関する教育を行うこと。


(別添2)

 秋田県のふれあい動物イベントにおける来園者等の腸管出血性大腸菌感染症発生について

 平成18年5月10日から、秋田県内のA施設のふれあい動物イベントで動物に触れたことが原因と推定される腸管出血性大腸菌感染症の散発事例が発生したことに伴い、秋田県知事より感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、法という。)第15条第5項の規定に基づき積極的疫学調査の結果について報告があったので、その概要、発生時対応及び発生予防に関する分析結果について以下に記す。

I 概要

1.発生の概要及び経緯

 【平成18年5月10日】

 由利本荘市内の医療機関より由利本荘保健所に、腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)感染症発生の届出があった。これを受けて、直ちに同保健所が積極的疫学調査を実施し、患者の行動・喫食状況調査及び家族等接触者の健康調査・検便検査を実施し、手洗い、消毒等の指導を行った。患者は5月7日に下痢、腹痛、嘔吐等の症状を呈し医療機関を受診しているが、家族等接触者には有症状者はおらず、喫食・行動調査により5月5日にA施設に入場し、当該施設付近の中華料理店で喫食していることが確認されたが、食中毒に関連する原因がみられないため、本事例は腸管出血性大腸菌感染症の単発事例と考えられた。

【5月11日】

 秋田市内の医療機関より秋田市保健所に、O157(VT1&2)感染症発生の届出があったとの連絡が入った。同保健所で積極的疫学調査を実施した結果、患者は5月8日に腹痛、下痢、発熱等の症状を呈し医療機関を受診していること、家族等接触者には有症状者はおらず、行動・喫食状況調査により5月5日にA施設に入場し、施設内で開催されたふれあい動物イベントで動物に触れていたこと、及び屋台で喫食していることが確認された。

 これらの事例より、A施設に入場していることが共通であったため、初発の由利本荘市内の患者の行動を再度確認したところ、A施設に入場した際、ふれあい動物イベントで動物に触れていたことが確認された。

 このことから、それぞれ単発事例だと考えられた二つのケースには、A施設のふれあい動物イベントで動物に触れていたことが共通点として判明した。

【5月12日】

 新たに大仙市内で2名、秋田市内で1名、計3名の腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)感染症が発生し、各市内の医療機関の医師から管轄保健所へ届出があった。

 この3事例についても、A施設で動物に触れていたことが共通点であることを確認した。

 以上のことから、A施設を管轄する横手保健所へ発生状況を連絡し、同保健所からA施設へ情報提供を行った。

【5月13日】

 秋田中央保健所に腸管出血性大腸菌O26(VT1)感染症の届出があった。

 本事例は、先に発生した事例とは腸管出血性大腸菌の血清型が異なっているが、A施設で動物に触れていたことが共通点として確認された。

 横手保健所はA施設のイベント企画責任者からふれあい動物イベントの開催状況の聞き取り調査及び衛生指導を行い、施設内の消毒を実施するよう機材の貸し出しを行った。A施設では同日午後6時から保健所の指示に従い、ふれあい動物イベントの会場であったドーム劇場、トイレ及び本館全体(ドアノブを含む)の消毒を実施した。

【5月15日】

 腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)感染症5事例の患者分離株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した結果、5月11日の患者分離株は一部に変異が認められるサブタイプだったが、その他4事例の患者分離株のDNAパターンは、すべて一致していることが判明した。

 同日、横手保健所は、13日にA施設で実施した消毒の効果を確認するため、立入調査をし、ふき取り検査等(ドーム劇場、トイレ、食堂、上水道)を実施した。

 また、A施設からの報告に基づき、展示動物業者の所在地を管轄する県・市の担当者へ連絡し、法第15条第6項の規定に基づく調査への協力要請を行った。

【5月16日】

 動物業者の所在地の県・市から寄せられた情報に基づき、調査が必要な施設を絞り込み、該当する県に関係情報の収集、動物からの糞便の採取を要請した。

【5月17日】

 秋田市内で1名の腸管出血性大腸菌O26(VT1)感染症が発生し、市内の医療機関の医師から秋田市保健所へ届出があった。

 調査を依頼した県から、次のとおり動物業者への立入調査結果の報告があった。

 ① 当該業者の最近における動物イベント開催・参加状況。

 ② これまで開催した動物イベントにおける当該感染症の発生情報はないこと。

 ③ 調査時点においてはA施設で展示した動物の特定は困難であること。

 ④ A施設のふれあい動物イベントにおける動物の取扱い状況。

 ⑤ 当該業者の施設において、動物からの糞便の採取を試みたが困難であったこと。

 同日、5月15日に実施したA施設内のふき取り検査結果により、消毒を実施した箇所から当該菌が検出されなかったことが確認された。

【5月22日】

 秋田市内で1名の腸管出血性大腸菌O26(VT1)感染症が発生し、市内の医療機関の医師から秋田市保健所へ届出があった。

 なお、この患者と17日に届出のあった患者は、市内の同一保育所の園児であることがわかった。

【5月23日】

 横手市内で2名の腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)感染症が発生し、市内の医療機関から届出があった。

 また、5月13日~22日までに発生した腸管出血性大腸菌O26感染症3事例の患者分離株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した結果、DNAパターンはすべて一致していることが判明した。

【5月25日】

 A施設の責任者と面会し、発症者の疫学調査結果からふれあい動物イベントで動物に触れている共通点が多いという事実を公表することについて同意を得た。

【5月26日】

 隣県の感染症発生動向調査情報(第19週)より腸管出血性大腸菌感染症2例が連休後に発生していたことから、疫学調査結果を確認したところ、A施設で動物に触れていることが判明した。

【5月27日】

 県健康推進課で記者会見を開き、ゴールデンウイーク直後から続発している腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)及びO26(VT1)感染症について、発症者の中に連休中、A施設のふれあい動物イベントで動物に触れたという共通点が多いことを発表。

 また、秋田市保健所が腸管出血性大腸菌O26(VT1)感染症の患者が通園していた同市内の保育園園児65名の検便検査を実施した結果、17名が腸管出血性大腸菌O26(VT1)に感染していることが確認された。

【5月28日】

 相談窓口を設置し、腸管出血性大腸菌感染症に関する相談を受け、必要な助言・指導を行った。

【5月29日】

 秋田県健康づくり審議会感染症対策分科会を開催し、事例の分析及び今後の対応策について意見を聴取した。

 また、この席で秋田市保健所から、27日に腸管出血性大腸菌O26(VT1)の感染が確認された秋田市内の保育園児17名のうち3名がA施設に入場し、施設内で開催されたふれあい動物イベントで動物に触れていたことを確認した旨の報告があった。

【5月30日】

 幼稚園・保育所、各保健所へ今後動物触れあいイベント実施上の留意点、感染防止の手洗いの徹底などについて通知文書を発出した。

2.イベントの概要

 開催日:平成18年4月29日(金)~5月8日(日)まで

 開催場所:A施設 ドーム劇場

 入場者数:33,989人(大人:21,732人、子供:12,257人)

3.有症状者(無症状保菌者を含む)の状況

 (1) 家族等接触者への喫食・行動調査及び検便検査を実施した。

  検便検査の結果、5月26日までにO157(VT1&2)が10名、O26(VT1)が17名の計27名に新たな感染(症状がある者を含む)が認められ、二次感染が発生していることが確認された。

 (2) 家族等接触者の検便検査は、秋田県健康環境センターと秋田市保健所が行った。

  また、腸管出血性大腸菌の患者分離株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を秋田県健康環境センターで実施し、DNAパターンの解析を行った。その結果、O157(VT1&2)患者株のDNAパターンは、一致しているものとサブタイプのものの両方が確認された。また、O26(VT1)患者株のDNAパターンについても、一致またはサブタイプの両方が確認された。

4.ふれあい動物イベントに出展した動物の状況

 出展業者:B動物取扱業者、C動物取扱業者

 展示期間:平成18年4月29日(金)~5月8日(日)まで

 出展動物:ダチョウ、シマウマ、エランド、マキシスジカ、ムフロン、カピパラ、山羊、羊、牛(ホルスタイン・ジャージー)、ウサギ、モルモット、子猫、子犬、成犬、ガチョウ、ワラビー、コンゴウインコ、ポニー、フェレット、アヒル、亀、ミーアキャット、蛇、ハムスター、ネズミ、ニホンザル、ホワイトタイガー、イノシシ、チンチラ等(約450頭)

  ※ A施設のイベント会場では、B動物取扱業者所有の動物とC動物取扱業者所有の動物が、同一柵内に混在していた。イベント終了時には、動物の数のみを確認しただけで、どちらの所有動物なのか不明である。

【展示動物業者への調査報告の内容】

 平成18年5月15日付けで、B動物取扱業者の所在地である知事あてに法第15条第6項の規定に基づき、B動物取扱業者への調査依頼をし、5月30日付けで次のとおり回答があった。

(1) B動物取扱業者の従業員の計10名に対し、健康調査及び検便調査を行った。自覚症状を呈する者はおらず、検便結果も全て陰性であった。

(2) イベント出展状況

A施設以外に出展したイベント(出展動物はA施設に出展した動物とは別の動物)の開催状況、及び開催した地域で本県同様の事例が発生していないことを確認した。

(3) A施設でB動物取扱業者が出展した動物

ダチョウ、シマウマ、エランド、マキシスジカ、ムフロン、カピパラ、ウサギ、モルモット、子猫、子犬、ガチョウ、ワラビー、コンゴウインコ等

山羊、羊、牛、成犬(他の動物業者から借用出展)

(4) C動物取扱業者が以下の動物を出展していたこと

ポニー、フェレット、ウサギ、モルモット、山羊、羊、アヒル、亀、ミーアキャット、蛇、ハムスター、ネズミ(種類多数)、ニホンザル、ホワイトタイガー、イノシシ、チンチラ等

(5) 今後の参加予定イベントの確認

(6) 指導事項

 ① 従業員に対して

  ・O157について、感染経路や症状の説明。

  ・感染予防について説明。

  ・検疫調査及び検便検査について依頼。

  ・有症時には医療機関を受診し、及び保健所に連絡をする。

 ② イベントの開催について

  ・主催者側から参加者に対して、動物に触れた後は手洗いをするよう注意喚起をする。

  ・撮影など主催時には石けんなどを持参し、動物に触れた後は手洗いを行う。

(7) 動物の検体(糞便)採取については、直採による検体採取を試みたが採取できなかった。

【現在依頼中の調査内容】

 平成18年6月9日付けで、B動物取扱業者が展示(借用したものを含む。)した動物の検体(糞便)採取を依頼している。

  ・検体(糞便)採取依頼動物:山羊、羊、牛(ホルスタイン、ジャージー)の4種類

5.発生原因の推定及び再発防止策

 A施設では、ふれあい動物イベントの会場であるドーム劇場の入口ホール付近のトイレを手洗い場としていたが、ふれあい動物イベントの順路から見て、出口から最も遠い場所であった。

 ふれあい動物イベント入場者の出口はドーム劇場のステージ裏となっており、その場所にテーブルの上に消毒用エタノールを充填した噴霧器(3つ)を準備し使用させていたが、消毒用エタノールを水で2倍に希釈したものであった。

 その他、牛の排泄物を処理していた係員が、触れあいコーナーの山羊、羊、ウサギ等の世話係を兼ねていたことが確認された。

 また、秋田県健康づくり審議会感染症対策分科会を平成18年5月29日に開催し、事例の分析及び今後の再発防止策を検討した結果、次の意見が得られた。

(1) 動物の検査を実施していないが、展示動物が特定できなくても展示動物業者の施設内の検査を実施できないか。牛は0157を保有する確率が高いので、今後のため調査を実施した方がよいのではないか。

(2) 牛は常在菌として、O157、O26の両方を保菌していることもある。また、疫学的には動物が原因ではないかと考えられる。

(3) 疫学調査及びDNAパターン結果から、A施設が原因施設である可能性が極めて高いとの判断がされる。

(4) 同一保育園内で集団感染が発生したが、感染拡大防止対策として、保育所・幼稚園等への指導が必要である。

(5) 毎年このイベントが開催されるのであれば、今回の事例への対策を明らかにし、再発防止のためにもできる限りの調査をするべきである。

(6) 感染予防対策としては、衛生教育を実施し、動物に触れる前後に手洗いをさせる等、徹底させることが最も大事である。

(7) 展示動物の健康チェック等の調査は困難であるが、動物業者との契約の際に動物の健康チェックを明記する等、事前に確認をしていく必要があると考える。

II 法第16条第1項の規定に基づく分析結果

1.動物等取扱業者について

 動物等取扱業者は、法第5条の2において、展示する動物が感染症を人に感染させることがないように、感染症の予防に関する知識及び技術の習得、動物の適切な管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされているところ、「動物展示施設における人と動物の共通感染症対策ガイドライン2003」を参考とするなどした感染症発生予防のための対策がとられておらず、以下の点について注意すべきであったと考えられた。

(1) 動物の貸出者

 ① 健康管理が十分なされている動物について、ふれあい動物のイベントに貸し出すこと。

 ② 個体識別措置を講じ、個体管理を十分行うとともに、その記録を保持すること。

 ③ 動物の日常管理は、十分な知識を有するスタッフが行うこと。

(2) イベント開催者

 ① 入場前と動物に触れた後は、必ず、石けんを用いて手洗いをし、洗浄後の手指の再汚染がないように、きれいなタオル等で拭くように、全ての入場者に対し、掲示、アナウンス、係員による誘導、パンフレットへの記載等により徹底すること。

 ② 動物とのふれあいの前後に手洗い可能な動線になるように会場を配置すること。また、手洗い設備は、全ての入場者が適切に洗浄できるよう、十分な設備数を確保すること。

 ③ 入場者用に消毒液を配置する場合には十分な消毒効果のある消毒液を充填すること。

 ④ 動物由来感染症の知識のある係員を配置し、入場者に対する説明、適切な指導等を行うこと。

 ⑤ ふれあい会場の床、地面については、適宜、適切に糞便を除去、洗浄、消毒等を行い、清潔に保つこと。また、作業者は糞便の除去等の際に、使用器具の使い回しをしないなど、動物(群)から動物(群)に汚染が拡がらないよう注意すること。

 ⑥ 会場には施設の消毒が可能な消毒設備を備えること。

 ⑦ ふれあい動物のイベント用に借り受ける動物は、健康管理が十分なされていることを確認すること。

 ⑧ ふれあい展示動物については、ストレスにより病原体を排出しやすいこと、また、様々な年齢層の入場者が直接触れることから、適時異常がないことを確認するなど適切に取り扱うこと。

 ⑨ 動物に異常が認められた場合には、当該個体の展示を中止し、その他の動物から隔離して適切な処置を講ずるとともに、その他の個体の異常の有無について確認すること。

2.その他

 今後、次の点に留意して、動物由来感染症対策を進める必要があると考えられた。

(1) 動物由来感染症の感染源調査については、関係部局と連携しながら、また、関係自治体等の協力を得ながら、適切かつ迅速に行う必要がある。また、感染源を特定するためには、必要な検体を適宜確保しておくことが重要である。

(2) 動物等取扱業者への指導に当たっては、感染症対策部門と動物愛護管理担当部門の十分な連携が必要である。