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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] HTLV―1総合対策について

[場所] 
[年月日] 2010年12月20日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成22年12月20日)

(/健発1220第5号/雇児発1220第1号/)

(各都道府県知事・各政令指定都市市長・各中核市市長・各保健所設置市市長・各特別区区長あて厚生労働省健康局長・厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)

 平成22年9月に、総理官邸にHTLV―1特命チームが設置され、HTLV―1対策について検討が進められ、本日、別添1のとおり、「HTLV―1総合対策」(以下「総合対策」という。)が取りまとめられました。

 HTLV―1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)の感染者は、全国に約100万人以上と推定されており、ATL(成人T細胞白血病)やHAM(HTLV―1関連脊髄症)といった重篤な疾病を発症する可能性もあります。

 総合対策においては、HTLV―1について、国民への正しい知識・理解を普及するとともに、相談・診療体制を構築し、HTLV―1の感染予防やATL及びHAM等の治療法の研究開発をより一層推進する必要があることから、国は、地方公共団体、医療機関、患者団体等との密接な連携を図り、総合対策を強力に推進することが提言されています。

 総合対策は、今後のHTLV―1対策の方向性を示すものですので、貴職におかれては、特段の御配意をお願いいたします。

 総合対策に関する検討の経緯等の関連資料については、別添2を御参照ください。

 なお、今後国で実施する対策等については、全国厚生労働関係部局長会議等を通じて、速やかに情報提供を行ってまいります。


[別添1]

HTLV―1総合対策

平成22年12月20日

HTLV―1特命チーム

はじめに

 HTLV―1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)の感染者数は約100万人以上と推定されており、ATL(成人T細胞白血病)やHAM(HTLV―1関連脊髄症)といった重篤な疾病を発症するが、これらの疾病の有効な治療法は未だ確立されていない。このため、多くの感染者は発症の恐怖に向き合いながら様々な苦悩を抱えており、ATLやHAMの患者は有効な治療法を待ち望んでいる現状にある。

 こうしたことから、まず、このウイルスによる感染を可能な限り減らし、将来の発症者を減少させるため、新たな感染を予防する対策を速やかに実施する必要がある。HTLV―1の感染経路の6割以上は、母乳を介した母子感染であることと、人工栄養によって感染のリスクが一定程度低減できることが報告されていることから、妊婦健康診査においてHTLV―1抗体検査を実施し、その結果に基づき適切な保健指導やカウンセリングを行う等の母子感染予防対策が求められる。

 また、妊婦の抗体検査をはじめとして、HTLV―1抗体検査の全国的な実施に当たっては、HTLV―1キャリアに対する相談支援(カウンセリング)体制の整備等を図ることが不可欠である。

 さらに、これまで、HTLV―1、ATL、HAMへの対策は、母子保健、がん、難病などの個別の対策により取り組まれてきたが、国民へ正しい知識・理解を普及するとともに、相談・診療体制を構築し、HTLV―1の感染予防やATL及びHAM等の治療法の研究開発をより一層推進する必要があり、これまでの取り組みを拡充するだけでなく、HTLV―1の感染に起因するこれらの疾患群への対策に総合的に取り組むことが重要である。

 このような状況を踏まえ、平成22年9月に、内閣総理大臣の指示により、「HTLV―1特命チーム」を設け、官邸・政治主導のもと、患者・専門家を交えた検討を行い、「HTLV―1総合対策」を取りまとめた。今後、国は、地方公共団体、医療機関、患者団体等と密接な連携を図りつつ、「HTLV―1総合対策」を強力に推進するものとする。

I 重点対策

 1.感染予防対策の実施

  (1) 全国的な妊婦のHTLV―1抗体検査実施体制の確立

   妊婦健康診査の項目に追加され、公費負担の対象となった、HTLV―1抗体検査を全国的に実施し、適切な保健指導等を実施する体制を整備する。

  (2) 保健所におけるHTLV―1抗体検査の導入

   都道府県等の保健所で実施している特定感染症検査等事業の中で、HTLV―1抗体検査を実施できるように検査体制を整備し、併せて専門職による相談指導を実施する。

 2.相談支援(カウンセリング)

  (1) HTLV―1キャリアやATL・HAM患者に対する相談体制の構築

   妊婦健康診査で感染が明らかになった方々を含め、HTLV―1のキャリアやATL・HAM患者に対して、診療に係る相談をはじめ、心理的・社会的な苦痛等にも対応できる相談体制を構築する。このため、研修会の開催及びマニュアル等の配布等を行う。

   また、相談体制の構築や相談の手引きの作成等においては、患者団体等の協力を得て連携を図る。

 3.医療体制の整備

  (1) 精度の高い検査方法の開発

  HTLV―1のスクリーニング検査の実施にあたっては、検査の精度を高めるとともに、キャリアの発症リスクの解明にも資するため、標準的なHTLV―1のPCR検査方法等の開発について、迅速に研究に取り組む。

  (2) 診療体制の整備

   ATLにあっては、治療に係る医療連携体制の整備・確立等、医療の質の均てん化を目指した診療体制を整備する。HAMにあっては、診療経験数が多いなど、地域で中核的な役割を果たす医療機関を中心とした診療体制に関する情報を国、都道府県が提供し、患者が適切な医療機関にアクセスできる体制を整備する。

  (3) 診療ガイドラインの策定

   ATL及びHAMに関して、標準的治療法の開発・確立を目指して、開発・研究を強力に推進するとともに、診療ガイドラインの策定とその普及を図る。

 4.普及啓発・情報提供

  (1) 国民への普及啓発・情報提供

   厚生労働省のホームページにポータルサイトを作成し、関係情報へのアクセスを向上させるほか、国民への正しい知識の普及を図る。さらに、感染症情報センター、がん対策情報センター、難病情報センター等のホームページにおいて、患者家族などにとって役立つ最新の医療情報等を更新・拡充する。

   都道府県において、母子感染予防対策に関して、医療機関等に掲示するポスターや母子手帳に挟むことのできるリーフレット等の配布を推進する。

  (2) 医療関係者等への普及啓発・研修・情報提供

   感染症情報センター、がん対策情報センター、難病情報センター等のホームページにおいて、医療従事者等に向けた情報を提供する。

   また、医療従事者や相談担当者に、研修等を通じて正しい知識を普及する。

 5.研究開発の推進

  (1) 研究の戦略的な推進

   HTLV―1及びこれに起因するATL・HAMについて、疫学的な実態把握とともに、病態解明から診断・治療など医療の向上に資する研究に戦略的に取り組むよう、総合的な観点から、研究への取り組みを推進する。また、HTLV―1・ATL・HAMに関連する研究班の総括的な班会議を実施し、研究の進捗状況や研究の方向性を共有して、戦略的に研究を推進する。

   特に、HTLV―1への感染者は日本に多いことを踏まえ、国際的にも研究を先導することを目指す。

  (2) HTLV―1関連疾患研究費の拡充

   厚生労働科学研究費補助金において、HTLV―1関連疾患研究領域を設け、研究費を大幅に拡充する。

II 推進体制

 1.国における推進体制

  HTLV―1対策に携わる行政、専門家、患者等による「HTLV―1対策推進協議会」を厚生労働省において開催し、その議論を踏まえて、HTLV―1総合対策の推進を図る。

  また、厚生労働省内の関係各課の連携を一層強化し、窓口担当者の明確化などHTLV―1対策に係る部門の体制強化に努める。

 2.地方公共団体における推進体制

  都道府県にHTLV―1母子感染対策協議会を設置し、HTLV―1母子感染予防対策について検討を行う。必要に応じ、国の「HTLV―1対策推進協議会」との連携を図る。

 3.HTLV―1関連研究班における推進体制

  HTLV―1・ATL・HAMに関連する研究班の総括的な班会議を実施し、研究の進捗状況や研究の方向性を共有して、戦略的に研究を推進する。(再掲)


[別添2]

HTLV―1総合対策に関する関連資料

1.HTLV―1特命チーム[首相官邸]

 (HTLV―1特命チームの配付資料、決定事項等)

 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/htlv/

2.妊婦健康診査におけるHTLV―1抗体検査の実施に関する通知の改正について[厚生労働省 雇用均等・児童家庭局母子保健課]

 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000thw2.html

3.HTLV―1、ATL、HAM等に関する情報

 ●感染症の話[国立感染症研究所 感染症情報センター]

  http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_38/k02_38.html

 ●成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)[国立がん研究センター がん対策情報センター]

  http://ganjoho.ncc.go.jp/public/cancer/data/ATL.html

 ●HTLV―1関連脊髄症(HAM)[難病情報センター]

  http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/128.htm

 ●ヒト白血病ウイルス―I型(HTLV―I)の母子感染について[厚生労働省 雇用均等・児童家庭局母子保健課]

  http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/index.html

 ※このほか、厚生労働省ホームページ「感染症情報」に、近日中にHTLV―1に関するページを設置する予定です。

  http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/index.html(2021年12月13日アクセス)