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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 結核に関する特定感染症予防指針の一部改正について

[場所] 
[年月日] 2011年5月16日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成23年5月16日)

(健感発0516第1号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

 平素より、結核対策の推進につきまして、ご理解とご協力を賜り誠にありがとうございます。

 標記につきましては、厚生科学審議会感染症分科会結核部会(以下、「結核部会」という。)における議論を踏まえ、結核に関する特定感染症予防指針(平成19年厚生労働省告示第72号。以下「指針」という。)を別添のとおり改正することとなりましたので、下記のとおり、主な改正事項とその留意事項について通知いたします。

 つきましては、今般の改正の趣旨を踏まえ、対策の一層の推進を図っていただきますようお願いいたします。


   記

第1 改正の趣旨

 結核については、指針に基づき、予防のための施策を総合的に推進しているところであるが、結核患者の減少に伴う結核病床の減少、高齢化による基礎疾患を有する合併症患者の増加など、昨今の結核を取り巻く状況の変化を踏まえ、結核の予防のための総合的な施策の推進を図るため、地域医療連携体制の構築、地域DOTSの推進などを指針に位置づけるもの。

第2 主な改正内容

1 原因の究明について(指針第一関係)

結核の発生状況の把握に当たり、薬剤感受性検査及び分子疫学的手法からなる病原体サーベイランスの構築に努めることとしたこと。

2 発生の予防及びまん延の防止について(指針第二関係)

 (1) 「二 法第五十三条の二の規定に基づく定期の健康診断」について

  ① 我が国における結核患者の多くは高齢者であるとともに、基礎疾患を有する結核患者が増加していることから、これらの者に対し、咳(せき)、喀痰(かくたん)、微熱等の有症状時において、早期受療の勧奨等きめ細やかな対応を行うこととしたこと。

  ② 早期発見の観点から、結核以外の疾患で入院している高齢者等についても、結核に感染している可能性を念頭に置く必要があることについて、医療従事者に周知することとしたこと。

  ③ 市町村が定期の健康診断の対象者を定める際には、都道府県単位または対象者百万人程度での患者発見率が〇・〇二から〇・〇四パーセント以上をその基準として参酌することを勧奨するとしたこと。

なお、人口百万人に満たない市町村においては、都道府県と連携し、基準の設定に必要な疫学的情報の把握に努めることとされたい。

 (2) 「三 法第十七条の規定に基づく結核に係る健康診断」について

  感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第17条に基づく結核に係る健康診断を充実強化するため、感染症法第15条に基づく積極的疫学調査も併せて実施することとしたこと。また、必要かつ合理的な範囲において対象者の範囲を広げるほか、IGRA及び分子疫学的手法を積極的に取り入れることが重要であるとしたこと。

3 医療の提供について(指針第三関係)

 (1) 「一 基本的考え方」について

  今回の改正において、

  ① 都道府県の区域では、標準的な治療のほか、多剤耐性結核や複雑な管理を要する結核の治療を担う中核的な病院を確保するとともに、地域ごとに合併症治療を主に担う基幹病院を実情に応じて確保する等、地域医療連携体制の整備を進めること

  ② 中核的な病院での対応が困難な結核患者を受け入れ、地域医療連携体制を支援する高度専門施設を国内に確保することが重要であるとしたこと。この点について、次のことに留意すること。

   ア 「中核的な病院」として想定されるのは、結核医療の拠点となっており、標準治療のほか、多剤耐性結核患者や管理が複雑な結核治療を担うことができる公的な病院等である。各都道府県に1か所以上を目安として中核的な病院を確保すること。

   イ 「地域ごとに合併症治療を主に担う基幹病院」(以下「地域の基幹病院」という。)とは、合併症治療を含む結核医療を担うことのできる感染症指定医療機関を指し、地域の実情に応じ、例えば、二次医療圏ごとに1ヶ所以上を目安として確保することなどが考えられる。なお、モデル病床は、重篤な他疾病合併症患者に限って、結核治療を行うものであるが、この利用を含めて考慮することとする。

   ウ 「高度専門施設」とは、外科治療等の結核の高度専門医療を担うことができる施設を指す。これらの施設は、国内で広域的に確保し、中核的な病院でも治療が困難な患者を受け入れ、また、他の病院に対する技術的な支援を行うなど地域医療連携体制の支援を行うこととする。

    具体的には、公益財団法人結核予防会複十字病院及び国立病院機構近畿中央胸部疾患センターがこれにあたる。

   エ 「地域医療連携体制」とは、中核的な病院を中心として、地域の結核医療の向上・普及のため研修等の開催、臨機応変な相談体制の確立、医療機関等の関係者間での患者情報の共有等により、一貫した治療の提供を行い、地域の結核医療を確保することである。

    具体的には、中核的な病院は、地域の結核医療の向上・普及のため、研修・症例カンファレンス等の開催や、臨機応変な相談体制をとることで、その他の結核医療を担う医療機関等への技術支援を行い、地域の中で、必要に応じて患者の紹介を行うこととする。また、その際には、保健所が関係医療機関への調整を行うなどの積極的な協力を行うことが円滑な連携構築のためには望ましい。

    また、指針において、結核患者に対する医療の提供に当たっては、結核病床を確保することが必要であるが、結核病床が不足している地域等があることも踏まえ、中核的な病院、地域の基幹病院及び結核病床を有する一般の医療機関が連携して、個別の患者の病態に応じた治療環境を整備するとともに、身近な地域の医療環境を確保することが必要であるとしたところである。

 (2) 「二 結核の治療を行う上での服薬確認の位置付け」について

  今般、以下のとおり改正されることを踏まえ、服薬確認を軸とした患者支援を実施できる体制をより一層推進されたい。

  ① 直接服薬確認療法(以下「DOTS」という。)を普及・推進していくに当たっては、DOTSカンファレンスやコホート検討会の充実強化や、治療履歴や服薬状況が分かる地域連携パスの導入等により、関係機関の連携体制の強化を図ること。

  ② 地域の医療機関、薬局等との連携の下に服薬確認を軸として行う患者支援(以下「地域DOTS」という。)については、医療機関や薬局における外来でのDOTSを推進していくとともに、特に都市圏の住所不定者等が多い地域では、これらの者が受診しやすい外来医療施設の整備を検討すべきであること。

  ③ 地域DOTSが有効に成り立つためにも、医療機関は保健所と連携し、入院中からの患者教育を十分に行うべきであること。

 (3) 「三 その他結核に係る医療の提供のための体制」について

  ① DOTSを普及・推進していくに当たり、結核の早期発見の観点から、保健所等においては、結核の診断が遅れないよう医療機関に対して啓発を行うとともに、普及啓発や相談のための連絡体制を構築することが重要であるとしたこと。また、地域医療連携体制の構築のため、保健所が中心となり、医師会等の協力を得るよう努めることや、介護・福祉分野との連携を行うことなどが重要であるとしたこと。

  ② 結核菌検査に当たっては、公益財団法人結核予防会結核研究所(以下「結核研究所」という。)、地方衛生研究所、医療機関、民間の検査機関等の関係機関が連携して精度管理を行うこととしたこと。

4 研究開発の推進について(指針第四関係)

 結核のり患リスクが高いグループや感染リスクのある場所を特定するとともに、感染経路の把握や海外からの人の移動が国内感染に与える影響を検証するため、分子疫学的手法を用いた研究を推進することとしたこと。

5 人材の養成について(指針第六関係)

 (1) 人材の養成に当たっては、国並びに都道府県、保健所を設置する市及び特別区(以下「都道府県等」という。)のほか、大学、関連諸学会、独立行政法人国立病院機構の病院(以下「国立病院機構病院」という。)等の関係機関が教育研修を連携して実施することとしたこと。

 (2) 結核医療に従事する医師や看護師が減少している中、地域における医療従事者からの症例に関する相談体制を確保するため、国立病院機構病院等の病院や結核研究所等の関係機関が広域におけるネットワークの強化を図り、必要に応じ地域への支援を行っていく工夫が必要であるとしたこと。

6 普及啓発及び人権の尊重について(指針第七関係)

 都道府県が実施する結核予防技術者地区別講習会等を通じ、国、都道府県等及び医療機関が結核に係る取組み等に関する情報を共有する等の連携を図ることとしたこと。

7 施設内(院内)感染の防止等について(指針第八関係)

 小児結核の診療経験を有する医師が減少しているため、小児結核を診療できる医師の育成、小児結核に係る相談対応、重症患者への対応等、小児結核に係る診療体制の確保のための取組みが必要としたこと。

8 具体的な目標等について(指針第九関係)

 (1) 平成27年までに、人口10万人対結核り患率を15以下とするほか、肺結核患者のうち再治療を受けている者の割合を7パーセント以下とする成果目標を設定したこと。

  これらの目標値については国全体として毎年評価を行い、その結果を踏まえ、翌年度以降の施策に反映するものとする。

 (2) 平成27年までに、全結核患者に対するDOTS実施率を95パーセント以上とするほか、治療失敗・脱落率を5パーセント以下、治療を開始した潜在性結核感染症治療開始者のうち治療を完了した者の割合を85パーセント以上とする事業目標を設定したこと。

  これらの目標値については、国及び都道府県等において毎年評価を行い、その結果を踏まえ、翌年度以降の施策に反映するものとする。

  なお、全結核患者に対するDOTS実施率については、現行の結核に関する特定感染症指針では、分母を喀痰塗抹陽性結核患者としていたが、新指針では全結核患者数と改めたものであり、分子はこれまでどおりDOTSを実施している患者数として算出すること。

第3 施行期日

 平成23年5月16日