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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)の推進について」の一部改正について

[場所] 
[年月日] 2016年11月25日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

(平成28年11月25日)

(健感発1125第1号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

(公印省略)

 結核に関する特定感染症予防指針の一部を改正する件(平成28年厚生労働省告示第399号)が本年11月25日に告示され、同日から適用されることに伴い、「結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)の推進について」(平成16年12月21日健感発第1221001号各都道府県・政令市・特別区衛生主管部(局)長宛て当職通知)を別紙のとおり改正し、同日から適用することとした。ついては、貴管内関係機関等に周知いただくとともに、服薬確認を軸とした患者支援のより一層の取組をお願いしたい。


(別紙)

○結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)の推進について

(平成16年12月21日)

(健感発第1221001号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

(公印省略)

 結核患者に確実に抗結核薬を服用させることにより結核のまん延を防止するとともに、多剤耐性結核の発生を予防する必要性が高いことにかんがみ、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「法」という。)第53条の14及び第53条の15に基づく保健所の保健師等による患者の家庭訪問指導及び結核患者等に対する医師による「処方された薬剤を確実に服用する」旨の指示並びに服薬確認を軸とした患者支援の推進については、結核に関する特定感染症予防指針(平成19年厚生労働省告示第72号。以下「指針」という。)第3の2を踏まえ、別添「日本版21世紀型DOTS戦略推進体系図」も参酌の上、引き続き地域の事情に応じたDOTSの積極的な取組を要請する。

 なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に規定する技術的な助言とする。



(別添)

日本版21世紀型DOTS戦略推進体系図

{図は省略}

1 DOTS対象者

 結核患者については、再発及び薬剤耐性菌の出現を防止するため、治療の完了を徹底する必要がある。また、潜在性結核感染症の者においては、発症を予防するため、潜在性結核感染症の治療を確実に行うことが重要である。そのため、全結核患者及び潜在性結核感染症の者(以下単に「患者」という。)をDOTS対象者とする。

2 院内DOTS

目的:患者の治療の成功を目指して、入院中の病院、地域の医療機関、保健所等が連携して治療終了まで一貫した支援を行い、患者自身が服薬の重要性を理解し、確実に服薬できるように規則的内服を動機づける。

実施主体:患者が入院している病院

参加者:医療機関・・・医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師等

    保健所・・・医師、保健師、結核事務担当等

    その他、必要に応じて関係機関も参加する。

方法:

   ①教育指導:結核の知識、服薬の重要性等について十分に説明を行う。

   ②服薬支援:医療従事者による直接服薬確認及び患者の結核・治療の理解度に関する評価を行う。

   ③保健所等との連携:患者の治療及び服薬に関する情報をDOTSカンファレンス又は個別の連携により関係機関と共有し、必要に応じて諸制度を活用する。

    さらに、社会福祉士等を中心とし、服薬継続の妨げになり得る社会的要因に関して、チームによる包括的な支援を実施するとともに、患者の包括的な分析に基づいて、退院後も見据えた診療方針を策定する。

    また、実施の際には、院内DOTSガイドライン(日本結核病学会エキスパート委員会編)等も参考となる。

3 DOTSカンファレンス及び個別患者支援計画の作成

目的:医療機関や保健所等の関係機関が協議し、治療開始から終了に至るまでの患者に対する服薬支援を切れ目なく行う。

実施主体:保健所

参加者:医療機関・・・医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師等

    保健所・・・医師、保健師、結核事務担当等

    その他の関係機関・・・社会福祉士、介護関係者、服薬支援者等

方法:入院している患者に対しては、保健所は主治医と担当看護師を交えた個別のDOTSカンファレンスを持つ。退院前には必要に応じて、社会福祉士等も参加する。保健所は主治医の診療方針に基づいた個別患者支援計画(注1)を作成し、退院後の確実な服薬支援方法について検討及び協議する。多くの患者を扱っている病院や保健所においては、月1回以上定例的に開催する方法も有効である。

   退院後は外来治療中の受療状況や服薬状況を確認し、関わる職種が参加して個別患者支援計画の評価・見直しを定期的に行う。

   同様に、入院していない患者(通院で治療を開始する患者)に対しても、保健所は個別患者支援計画を作成し服薬状況を確認する。この際、DOTSカンファレンスを関係機関との地域連携パスや個別の連絡等で代用することも可能である。

    (注1)個別患者支援計画:治療開始から終了に至るまでの一連の患者支援について示したもの。この中で、退院後の具体的な服薬支援方法(いつ、誰が、どのように、服薬確認を行うのか等)を計画する。この際、患者の治療中断リスク、背景、環境等を考慮して、「日本版21世紀型DOTS戦略推進体系図」の「退院後・通院中の地域DOTSの実施」に沿って、地域DOTSの実施頻度(※1)と実施方法(※2)を定める。

    ※1 実施頻度の選択:患者のリスク等に応じて、服薬確認頻度を以下のA~Cより選択する。

     A:治療中断のリスクが高い患者の服薬確認・・・原則毎日

      対象患者:住所不定者、アルコール依存者、薬物依存者、治療中断歴のある者、再発患者等治療中断のリスクの高い患者

     B:服薬支援が必要な患者の服薬確認・・・週1~2回以上

      対象患者:介護を必要とする在宅高齢者や独居高齢者で退院後の治療継続に不安があるため入院を余儀なくされている者等、治療中断のリスクが高いが、外来DOTSの実施が困難であると考えられる者を含む。

     C:A・B以外の患者の服薬確認・・・月1~2回以上

      対象患者:施設等に入所している高齢者等、服薬確認が可能な生活環境にある者を含む。

    ※2 実施方法の選択:服薬確認方法は、それぞれの患者の治療中断リスク、背景、環境等を考慮して、外来DOTS、訪問DOTS、連絡確認DOTSのうち最適な服薬確認方法を選択する。状況に応じて、3つの方法を弾力的に組み合わせて実施する。

4 地域DOTS

目的:患者の確実な治療完遂のため、患者の治療中断リスク、背景、環境等を考慮し、患者と相談の上、本人にとって最も適切かつ確実な服薬確認の頻度と方法を採用して実施する。その際、保健所は必要に応じて地域の服薬支援者(注2)等の関係者とも連携する。

実施主体:保健所

参加者:保健所・・・医師、保健師、結核事務担当等

    医療機関・・・医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師等

    その他の関係機関・・・社会福祉士、介護関係者等

方法:保健所は個別患者支援計画に基づいて服薬支援を行う。入院している患者に対しては、入院中に面接を行い、入院していない患者(通院で治療を開始する患者)に対しても、速やかに訪問・面接を実施し、服薬支援について説明し理解と承諾を求める。

   また、患者がハイリスクグループ(高齢者、住所不定者、高まん延国出身者等)やデインジャーグループ(発症すると二次感染を生じやすい職業)であるか否かに関わらず、患者の確実な治癒のため、法第53条の14に基づき、保健所長は必要に応じ、患者に十分説明し、理解を得た上で、患者の服薬継続に適した関係機関(ハイリスクグループが居住・滞在する施設(注3)、ハイリスクグループが一定以上の頻度で通う施設(注4)、ハイリスクグループの居宅等に一定以上の頻度で訪問する者(注5)、デインジャーグループが就労する場所(注6)の事業主その他患者の状況や各地域の実情等に応じて保健所長が適当と認めるもの)に対して、地域DOTSの実施を依頼することができる。

   なお、保健所は毎月、主治医から患者の菌所見などの基本的な病状に関する情報を収集する。

   また、実施の際には、地域DOTSを円滑に進めるための指針(日本結核病学会エキスパート委員会編)等も参考となる。

     (注2)服薬支援者:患者の服薬を見届けるあるいは見守る者のことで、病院、診療所、薬局の他に、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則(平成10年厚生省令第99号)第27条の10に定めるものが該当する。具体的な職種は以下のとおり。

     なお、患者を診察治療し、処方せんを交付する等の医業は、あくまでも医師が行うこと。

     また、保健所は服薬支援者に対して、結核に関する定期的な研修を実施するなど、効果的な服薬支援を行うことができるよう努めるものとする。

     ・保健所・・・保健師、その他の保健所職員、患者への対面服薬確認を行う看護師等結核や服薬指導に関する訓練を受けた非常勤職員(職種は問わない)

     ・介護保険関係機関・・・保健師、看護師等

     ・福祉機関・・・社会福祉士等

     ・市町村・・・保健師、看護師等

     ・医療機関・・・看護師等

     ・薬局・・・薬剤師等

     ・その他、保健所長が適当と認めるもの・・・ケアマネジャー、ヘルパー、民生委員、結核予防婦人会員、障害者相談員、母子保健推進委員、社会福祉協議会職員、地域包括支援センター職員等

     (注3)ハイリスクグループが居住・滞在する施設:病院・診療所(介護老人保健施設を含む。)、介護保険等の入所系サービスを提供する事業者、矯正施設等

     (注4)ハイリスクグループが一定以上の頻度で通う施設:学校、介護保険等の通所サービスを提供する事業者等

     (注5)ハイリスクグループの居宅等に一定以上の頻度で訪問する者:訪問看護、訪問介護等を提供する者等

     (注6)デインジャーグループが就労する場所:病院・診療所、学校、薬局等

1)外来DOTS

 ・服薬確認場所:入院していた病院や地域の医療機関の外来、薬局、介護老人保健施設又は保健所

 ・服薬確認方法:患者は、看護師、保健師、薬剤師、医師等の目の前で服薬をする。

 ・記録:服薬を確認した看護師、保健師、薬剤師、医師等は、診療録・結核登録票等に記録し、本人の服薬手帳にサインをする。

 ・土日・祝日の対応:飲み終わった薬の包装(PTPシート)を翌日に持参させる等、弾力的に確認を行う。

 ・薬剤の保管:服薬確認頻度の高い患者の薬剤は医療機関の外来又は保健所で管理する。服薬確認頻度の低い患者は自身で薬剤を管理し、外来DOTS時に持参する。

 ・来所しないときの対応:看護師など施設等の職員は、その日のうちに保健所担当者に連絡をする。保健所は早急に家庭訪問を行うなど対応する。

2)訪問DOTS

 ・服薬確認場所:家庭等

 ・服薬確認方法:保健所保健師の他、関係機関の服薬支援者が、その患者のリスクに応じて訪問し、直接、服薬を見届ける。なお、保健所長は服薬支援者が行う服薬確認について監督指導するとともにその責任を負うものとする。

 ・記録:服薬を確認した保健師、看護師、薬剤師及びその他の服薬支援者は、診療録・結核登録票等に記録し、本人の服薬手帳にサインをする。

 ・土日・祝日や訪問しない日の対応:飲み終わった薬の包装(PTPシート)などで、弾力的に確認を行う。

 ・薬剤の保管:薬剤は家庭で保管するが、薬の飲み忘れを防ぐ保管の方法を工夫する。

 ・服薬に問題がある場合の対応:服薬支援者は、その日のうちに保健所担当者に連絡をする。保健所は早急に家庭訪問を行うなど対応する。

 ・受療に問題がある場合の対応:保健所は直ちに主治医や関係機関と協議して適切な対応をとる。

3)連絡確認DOTS

 ・服薬確認場所:特に所定の場所はない。

 ・服薬確認方法:保健所は、患者本人にとって最も適切かつ確実な方法で服薬状況を確認する。また、患者への支援強化のため、保健所長は必要に応じ、法第53条の14に基づき、服薬支援者に連絡確認DOTSの実施を依頼することができる。

  なお、保健所長は服薬支援者が行う服薬確認について監督指導するとともに、その責任を負うものとする。

  例えば、福祉施設や矯正施設等に入所している患者については施設職員等が、学校に通学している患者については養護教諭等が毎日、直接服薬を未届け又は見守り、保健所はその状況(記録)を確認する。ただし、確認のみが目的にならないよう十分留意する。目的は患者の確実な治癒であるため、患者と可能な限り面接を行うなど信頼関係を築くことに努める。

 ・記録:患者及び施設職員等の服薬支援者は本人の服薬手帳に毎日の服薬状況を記録する。

 ・薬剤の保管:薬剤は家庭又は施設で保管するが、薬の飲み忘れを防ぐ保管の方法を工夫する。

 ・受療に問題がある場合の対応:服薬支援者は治療中断等の問題が生じたときは、無理に服薬をするよう指導することは避け、その日のうちに保健所担当者に連絡をする。保健所は直ちに主治医と協議して適切な対応をとる。

5 コホート検討会

 目的:DOTS対象者全員の治療成績のコホート分析とその検討を行う。具体的には、地域DOTSの実施方法及び患者支援の評価・見直しを行い、地域DOTS体制の強化を図る。併せて、地域の結核医療及び結核対策全般に関する課題について検討を行う。必要に応じて患者の服薬支援に関わる全ての職員の参加を得る。

実施主体:保健所

参加者:保健所・・・医師、保健師、結核事務担当、感染症の診査に関する協議会委員等

    医療機関・・・医師、看護師、薬剤師等

    その他の関係機関・・・社会福祉士、介護関係者、服薬支援者等

実施頻度:年2回以上

     感染症の診査に関する協議会に併せて実施することも可能。

評価指標:

  ・全結核患者及び潜在性結核感染症の者に対するDOTS実施率

   (指針における目標:DOTS実施率95%以上)

   <DOTS実施率算定式>

    DOTS実施率=DOTSを実施した者/対象年の新登録者(転入者を含む。)

     (治療開始前に死亡した者、治療開始後1か月未満に死亡した者及び転出者を除く。)

  ・治療が終了した者(1年前に登録された患者)の治療成績

   (指針における目標:肺結核患者の治療失敗・脱落率5%以下)

  ・患者の治療に関する把握状況

   (目標例:菌所見(培養・同定・感受性)の把握率100%)

評価のためのチェックポイント

  ・毎月の菌所見、使用薬剤、治療状況、副作用の有無等の把握

  ・菌(培養)陰性化の確認

  ・DOTS実施状況(個別患者支援計画に沿った支援の評価)

  ・治療失敗、中断例に関する症例検討の実施

  ・接触者健康診断の状況

結果の還元:コホート観察による治療成績や実際に行われた患者支援に関する情報を医療機関に還元する。