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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 複数国におけるサル痘の発生に関しての国際保健規則(IHR2005)第2回緊急委員会会合の報告

[場所] 
[年月日] 2022年7月23日
[出典] 厚生労働省
[備考] 
[全文] 

WHO事務局長は、2022年7月21日(木)12:00~19:00(中央ヨーロッパ夏時間、 以下、「CEST」という。)に開催された複数国におけるサル痘の発生に関する国際保健規則(IHR2005)緊急委員会の第2回会合の報告書を発表しました。

WHO事務局長は、このアウトブレイクに関する問題を慎重に検討し、貴重な意見を提供してくれた議長、委員、アドバイザーに心から感謝の意を表します。委員会のメンバーは、今回のサル痘の流行について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(以下、「PHEIC」という。)と決定する助言の合意には達しませんでした。

WHO事務局長は、この公衆衛生事象に関連する複雑さと不確実性を認識しています。委員会メンバーおよびアドバイザーの見解と、国際保健規則(IHR2005)に沿った他の要因を考慮し、事務局長は、複数国におけるサル痘の発生がPHEICにあたると判断しました。

WHO事務局長はまた、委員会の見解を考慮し、以下に示す一連の暫定的な勧告を発出しました。

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複数国におけるサル痘の発生に関連してWHO事務局長が発出した暫定的な勧告

これらの暫定的な勧告は、疫学的状況、伝播のパターン、対応能力に基づいて、それぞれの加盟国に適用されます。各加盟国は、任意の時点で、グループ1またはグループ2のいずれかに該当します。 一部の加盟国は、グループ3および/またはグループ4にも該当する可能性があります。

すべての暫定的な勧告は、人権、包括性、すべての個人と共同体の尊厳に関する確立した原則をしっかりと尊重して実施されることが期待されます。

グループ1:人間にサル痘の発生がない、または21日以上サル痘の症例が検出されていない加盟国。

1.a. サル痘への対応準備のあらゆる側面を強化し、ヒトからヒトへの感染を阻止するために、保健医療および複数セクターの調整機構を活性化または確立する。

1.b. サル痘に罹患した可能性のある個人または集団に対する偏見や差別を避けるための介入を計画、および/または実施し、サル痘ウイルスの未検出感染をさらに防止することを目的とします。これらの介入の焦点は、自発的な報告と治療を求める行動を促進すること、質の高い治療へのタイムリーなアクセスを促進すること、すべてのコミュニティで感染者とその接触者の人権、プライバシー、尊厳が擁護されることです。

1.c. 既存の国の監視システムの一部として、サル痘と適合する疾病について、信頼性が高く、安価で、正確な診断検査へのアクセスを含む疫学的疾病監視を確立し、強化すること。疾病サーベイランスのために、サル痘の疑い例、推定例、確定例の定義が採用されるべきです。

1.d. プライマリーケア、泌尿器科・性感染症外来、緊急医療・救急部、歯科診療所、皮膚科、小児科、HIV診療科、感染症、産科・婦人科、その他の急性期医療施設を含む医療従事者の意識向上と研修により検出能力を向上させること。

1.e. 現時点において加盟国で、今回の複数国における発生の影響を受けているコミュニティ(例えば限定はしないものの、ゲイ、バイセクシャル、その他の男性とセックスする男性(以下、「MSM」という。)、複数の性的パートナーを持つ個人)、およびその他のリスクのある集団(例えば、セックスワーカー、トランスジェンダー)において、サル痘ウイルス感染、関連する予防と保護手段、サル痘の症状と兆候についての認識を高めること。

1.f. 主要な地域ベースのグループ、性的保健および市民社会ネットワークを巻き込み、サル痘およびその潜在的感染について、感染の危険性が高い集団または地域内への、信頼できる事実に基づく情報の提供を増加させること。

1.g. リスクコミュニケーションとコミュニティ支援の取り組みを、濃厚接触が起きうる場 所(例えば、MSM に焦点を当てた集会、施設内において性交を含む性的接触の可能な場所)に集中させる。これには、大規模および小規模のイベントの主催者や、性風俗店の所有者や管理者とともに、個人の保護措置とリスク低減行動を促進するための関与と支援が含まれます。

1.h. 国際保健規則(IHR2005)の規定に基づいて設立された情報経路を通じて、サル痘の推定例、あるいは確定例を、WHO症例報告書(CRF)に含まれる最小限のデータセットを用いて、直ちにWHOに報告すること。

1.i. 1例以上のサル痘の疑い例、推定例、確定例が初めて、あるいは新たに発見された場合、以下のグループ2について列挙された一連の暫定的な勧告を適用または継続できるよう、必要なすべての行動を実施すること。

グループ2:最近ヒト集団にサル痘患者が発見され、かつ/またはサル痘ウイルスのヒト-ヒト伝播が発生している加盟国(主に感染リスクが高いとされる集団や、曝露リスクの高い地域社会を含む)。

2.a. 連携した対応の実施

2.a.i. サル痘ウイルスのヒトからヒトへの伝播を止めることを目標に、状況によって異なるが、ゲイ、バイセクシャル、その他MSMを含む曝露リスクの高いコミュニティーに優先的に焦点を当て、対応策を実施すること。これらの行動には、ターゲットとなる集団へのリスクコミュニケーションとコミュニティへの参加、症例発見、症例の隔離と治療の支援、接触者追跡、サル痘への曝露リスクが高い人への焦点を絞った予防接種の実施が含まれます。

2.a.ii. 患者が発生したコミュニティに権限を与え、彼らが直面している健康リスクへの対応を考案し、積極的に貢献し、監視する上で、彼らのリーダーシップを可能にし、支援すること。技術的、財政的、人的資源を可能な限り拡大し、患者が発生したコミュニティの行動に関する相互説明責任を維持すること。

2.a.iii. 重症サル痘の危険にさらされている可能性のある脆弱な集団(免疫抑制者、子ども、妊婦)を保護する目的で、対応策を実施すること。これらの行動には、的を絞ったリスクコミュニケーションと地域社会の関与、症例発見、症例の隔離と治療の支援、接触者追跡が含まれます。また、臨床的な意思決定を共有する中で、個人にとってのリスクと利益を慎重に考慮した上で、対象を絞った予防接種を行うことも含まれます。

2.b. コミュニティの参画と保護

2.b.i. 状況によって異なるかもしれませんが、サル痘ウイルスの感染、他者への伝播リスクを低減するための行動、及びその地域社会で発見されたサル痘患者の臨床症状についての認識を高め、予防手段の導入と適切な予防方法、及び情報に基づいたリスク低減手段の採用を促進します。様々な状況において、これには症状がある間は皮膚と皮膚の接触や他の形での他人との濃厚接触を制限すること、場合によっては、施設内で性行為が行われるイベントに関しても性的パートナーの数を減らすこと、感染リスクの高いコミュニティが小規模または大規模に集まる際に、個人防護措置の使用と実践をすることも含まれます。

2.b.ii 性的な出会いを助長しそうなもの、あるいは施設内で性行為が行われる場を含む可能性のあるイベント(大小問わず)の主催者と連携し、個人的保護手段及び行動を促し、主催者にそのようなイベントの開催にリスクを考慮したアプローチを適用することを奨励し、リスク対策を講じられないイベントの延期の可能性を議論すること。個人の選択に必要なリスクコミュニケーションや、イベント会場や施設の定期的な清掃を含む感染予防と管理のために、必要なすべての情報が提供されるべきです。

2.b.iii. 対応措置を妨げる可能性のある新たな認識、懸念、及び誤報の拡散に関する体系的なソーシャルリスニング(例 えば、デジタルプラットフォームを通じて)に基づくものを含め、リスクコミュニケーション及びコミュニティ参加の介入策を開発し、対象とします。

2.b.iv. 適切な介入の実施において、個人または集団の偏見をなくし、治療を求める行動、検査、予防措置や治療へのアクセスを適時に行い、サル痘ウイルスの未検出感染を防ぐためのアプローチと戦略について助言するために、感染が発生したコミュニティの代表、非政府組織、選出された市民や社会の代表者、行動科学者と連携すること。

2.c. サーベイランスと公衆衛生対策

2.c.i. 信頼性が高く、安価で、正確な診断検査へのアクセスを含め、既存の国の監視計画の一環として、サル痘に適合する疾病の監視を強化します。

2.c.ii. WHOの症例報告書(CRF)に含まれる最小限のデータセットを使用することを含め、国際保健規則(IHR2005)の規定に基づいて確立されたチャネルを通じて、毎週、サル痘の推定例、確定例をWHOに報告すること。

2.c.iii. リアルタイム又は従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の核酸増幅検査(NAAT)の使用に基づくサル痘ウイルス感染の診断及び関連サーベイランスのための検査能力及び必要に応じた国際的な検体依頼能力を強化すること。

2.c.iv. 循環するウイルス系統群とその進化を判定し、一般にアクセス可能なデータベースを通じて遺伝子配列データを共有するために、世界中の既存の配列決定能力を基に、ゲノム配列決定能力、及び必要に応じて国際的な検体依頼能力を強化すること。

2.c.v. 感染期間中、患者を隔離します。感染者の隔離に関する方針は、健康面、心理面、物質面、および適切な生活を送るための本質的な支援を含むものでなければなりません。隔離期間の後半に隔離方針を調整する場合は、残存する公衆衛生上のリスクを軽減することが必要となります。

2.c.vi. 隔離期間中、患者は外部への感染リスクを最小化する方法について助言されなければなりません。

2.c.vii.サル痘の疑い例、推定例、確定例と思われる人と接触した個人に対して、接触者追跡調査を行います。これには、接触者の特定(秘密保持により保護)、管理、自主的または公衆衛生担当者の支援による健康モニタリングによる 21 日間のフォローアップが含まれます。接触者の管理に関する方針は、健康面、心理面、物質面及び適切な生活への本質的な支援を含むべきです。

2.c.viii. 個人防護具(PPE)の使用が不適切であった可能性のある医療従事者を含む、患者の家庭内、性的、その他の接触者の曝露後予防のための第2世代又は第3世代の天然痘又はサル痘ワクチン(以下、まとめて「ワクチン」という。)の標的使用を検討します。

2.c.ix. ウイルスへの曝露のリスクのある人への曝露前予防のためのワクチン使用を検討する。これは、曝露のリスクが高い医療従事者、オルソポックスウイルスを扱う研究所の職員、サル痘の診断検査を行う臨床検査所職員、曝露のリスクが高いコミュニティや複数の性的パートナーを持つ人のようなリスクの高い行動をとる人々をも含めるべきかもしれません。

2.c.x. 予防接種政策とワクチンの使用に関するいかなる決定にも、国家予防接種技術諮問委員会(NITAG)を招集します。これらは、リスク・ベネフィット分析に基づくものであるべきです。いかなる場合においても、ワクチン接種によってもたらされる可能性のある防御免疫が有効になるまでに必要な時間について、被接種者に通知します。

2.c.xi. ワクチンの展開に関する意思決定プロセスに、感染リスクの高いコミュニティを参加させます。

2.d. 臨床管理及び感染予防・管理

2.d.i. サル痘感染疑い例のスクリーニング、トリアージ、隔離、検査、臨床評価のための推奨臨床ケア経路およびプロトコルを確立し、使用すること。それに従って医療従事者にトレーニングを提供し、それらのプロトコルの実施を監視すること。

2.d.ii. 技術的、管理的及び 個人防護具 の使用を含む感染予防及び管理(IPC)対策に関するプロトコルを確立し、実施すること;それに従って医療提供者にトレーニングを提供し、それらのプロトコルの実施を監視すること。

2.d.iii 保健医療施設及び検査室の環境に適した適切な 個人防護具を保健医療従事者に提供し、その使用に関するトレーニングを全職員に提供します。

2.d.iv. 患部を清潔に保つ、疼痛コントロール、適切な水分・栄養補給の維持など合併症のないサル痘患者の管理と、重度の症状、急性合併症、および中・長期の後遺症のモニタリングと管理のための臨床ケアプロトコルを確立し、更新し、実施すること。

2.d.v. WHOのサル痘に関するグローバル臨床プラットフォームを用いて、データ収集と臨床成績の報告を行います。

2.e. 医療対策研究

2.e.i. サル痘に対する既存または新規ワクチンを、臨床データや結果データの標準化された枠組みやデータ収集ツールを用いた共同臨床効果試験の枠組みの中で使用し、有効性と安全性に関するエビデンスの収集を迅速に行い、ワクチンの有効性に関するデータ収集(例えば、1回または2回投与ワクチンのレジメン比較など)、およびワクチン効果試験を行うためにあらゆる努力を行うこと。

2.e.ii. サル痘の治療に既存あるいは新規の治療薬や抗ウイルス剤を使用する際には、標準化された枠組みや臨床データ・転帰データの収集ツールを用いて、共同臨床効果試験の枠組みの中で、有効性と安全性に関するエビデンス収集を迅速に行うようあらゆる努力をする。

2.e.iii. 共同研究の枠組みの中でサル痘のワクチンと抗ウイルス剤を使用することが不可能な場合、特定の状況下で、臨床結果のためのおかれたデータ収集法(サル痘に関するWHOグローバル臨床プラットフォームなど)を用いて、未承認治験薬の緊急監視使用(MEURI)などの拡大利用プロトコルでの使用を検討することができます。

2.f. 国際渡航

2.f.i. 以下の対策を採用し、適用すること。

●サル痘ウイルス感染に適合する徴候および症状を有する者、または管轄の保健当局によりサル痘の疑い例、推定例、確定例とされている者、またはサル痘患者の接触者として特定され、そのため健康監視の対象となっている人。

・以下に挙げるようなあらゆる個人は公衆衛生上のリスクがなくなったと判断されるまでは、海外を含むあらゆる渡航を避ける必要があります。例外には、紛争や自然災害など、緊急の医療を求めるため、または生命を脅かす状況から逃れるために渡航する必要がある個人、および健康監視の継続を確保するための渡航前の取り決めが、当該国の保健当局、または海外旅行の場合には国の保健当局によって合意された接触者が含まれます。

・国境を越えて働く労働者で、サル痘患者の接触者として特定され、健康監視下にある者は、健康監視が国境の両側/すべての管轄の健康当局によって正式に調整されることを条件に、日常の日常活動を継続することができます。

2.f.ii. 保健当局、輸送当局、輸送機関、入国地点の運営者間の運用チャンネルを確立し、以下を行います。

・旅行中または帰国後にサル痘ウイルス感染に適合する徴候・症状を呈した個人について、国際的な接触者追跡調査を促進します。

・入国地で、サル痘と合致する徴候や症状、感染予防と制御、目的地での医療の受け方に関するコミュニケーション資料を提供する。

WHOは、2.f.iと2.f.iiで指定された以外の一般的または対象を絞った国際渡航関連の追加対策は行わないよう勧告しています。

グループ3:サル痘の人獣共通感染症が発生していることが知られているか、過去に報告されている国、サル痘ウイルスの存在があらゆる動物種で記録されている国、新規感染国を含む各国の動物種への感染が疑われる国を含む、サル痘の人獣共通感染症の既知または疑いのある加盟国

3.a. 自然生息地、森林、その他の野生または管理された環境、野生生物保護区、家庭内および家庭周辺環境、動物園、ペットショップ、動物保護施設など、動物が家庭廃棄物と接触する可能性のある環境における動物から人、人から動物への感染リスクを理解、監視、管理するために、連邦、国、地方、または地域レベルで、必要に応じて公衆衛生、獣医、野生生物当局間でワンヘルスの調整またはその他の仕組みを確立または始動させること。

3.b. 詳細な症例調査と研究を行い、動物からの感染や動物への感染の疑いや記録を含む、感染パターンの特徴を明らかにする。すべての環境において、動物由来およびヒトからヒトへの感染のすべての可能な曝露と様式に関する情報を引き出すために、症例調査票を更新し、適合させていくべきです。継続的な症例報告など、これらの努力の結果をWHOと共有します。

グループ4:医療用医薬品の製造能力を有する加盟国

4.a. 天然痘及びサル痘の診断試薬、ワクチン又は治療薬の製造能力を有する加盟国は、医療用医薬品の製造及び可用性を高めるべきです。

4.b. 加盟国及び製造業者は、WHOと協力して、診断薬、ワクチン、治療薬及びその他の必要な物資が、公衆衛生のニーズに基づき、連帯して、妥当な費用で、それらが最も必要とされる国々に提供され、サル痘の拡散を阻止するための努力を支援することが求められます。


会議議事録

複数国におけるサル痘の発生に関しての国際保健規則(IHR2005)第2回緊急委員会会合は、Zoomによって招集され、議長および副議長はスイス・ジュネーブのWHO本部で直接出席しました。

委員とアドバイザーはビデオ会議で参加しました。委員会メンバー16名のうち15名、委員会アドバイザー10名全員が会議に参加しました。

WHO事務局長は、複数国で発生したサル痘の進展が公衆衛生に及ぼす直接的・中期的な影響を評価し、この事象を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態とするべきか否かについて見解を示すために委員会を再招集したことを示し、歓迎の意を表明しました。

WHO事務局長は、WHOに報告された症例数が増加していること、そしてそれがより多くの国々から報告されていることに懸念を表明し、各地域での感染パターンの複雑さによる課題を強調しました。さらに、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の判断には、公衆衛生を守ることを最終目標とし、複数の要素を考慮する必要があるとの認識を強調しました。

法律顧問の代表は、国際保健規則(IHR2005)の関連条文に基づき、メンバーおよびアドバイザーの役割と責任、緊急委員会の任務について説明しました。

コンプライアンス・リスク管理・倫理部の倫理担当者より、メンバーおよびアドバイザーにその役割と責任について説明がありました。また、メンバーとアドバイザーは、会議の議論と委員会の作業に関する守秘義務、および個人的、職業的、財政的、知的、商業的な利益で利益の相反と思われるものをタイムリーに WHO に開示する各自の責任について注意を促されました。出席した各メンバーとアドバイザーは調査を受け、利益相反は確認されませんでした。

会議の引継ぎは、緊急対策委員会のJean-Marie Okwo-Bele 委員長が行い、会議の目的を次のように紹介しました。

複数国におけるサル痘の発生が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 に該当するかどうかについてWHO事務局長に意見を提供し、該当する場合は、加盟国への一時的勧告案を検討することが会議の目的となります。


発表内容

WHO事務局は世界の疫学的状況を発表し、2022年1月1日から2022年7月20日の間に、WHOの全6地域の72カ国から疑い例と検査確定例を含む14,533例のサル痘患者(ナイジェリアでの3人の死亡と中央アフリカ共和国の2人を含む)がWHOに報告されており、2022年5月初めの実績である47カ国から3,040例の報告より大幅に増加したと報告しました。

これまでサル痘の症例が報告されていなかった多くの国で感染が発生しており、現在、WHOヨーロッパ地域とアメリカ地域の国から最も多くの症例が報告されています。

現在報告されているサル痘の症例の大半は男性で、これらの症例のほとんどは、ゲイやバイセクシャルなど含む男性と性交をする男性(MSM)と自認する男性の間で、都市部で発生しており、社会的・性的ネットワークに集まって発生していることが分かっています。小児の患者の初期報告では、他の症例との疫学的な関連性が不明なものがいくつか含まれています。

また、西アフリカおよび中央アフリカの国々でも患者数が大幅に増加しており、人口統計学的プロファイルはヨーロッパやアメリカ大陸で観察されたものと明らかに異なっており、患者の中に女性や子供が多く含まれています。

数理モデルは、基本再生産数(R0)がMSM集団では1以上、その他の環境では1以下であると推定されています。例えば、スペインではR0は1.8、イギリスでは1.6、ポルトガルでは1.4と推定されています。

アフリカ以外の地域で発生したサル痘の臨床症状は、一般に、性器、会陰・肛門周囲、口腔周囲に限局した発疹病変で、それ以上広がらないことが多く、リンパ節症、発熱、倦怠感、病変に伴う疼痛が生じる前に現れ、過去の集団発生で報告された事例とは異なる自己限定性疾患であるとされています。

報告された症例の平均潜伏期間は7.6~9.2日と推定されています(オランダ、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)、アメリカ合衆国(アメリカ)のサーベイランスデータによる)。平均発症間隔は9.8日(95%信頼区間 5.9~21.4日、イギリスでの17組の症例-接触者に基づく)と推定されます。

医療従事者の間で少数の症例が報告されています。これまでの調査では、職業的な感染例は確認されていませんが、調査は継続中です。

事務局は、サル痘の患者数や発生国は増加しているように見えるが、WHOのリスク評価は2022年6月23日の第1回委員会以降変わっておらず、リスクは「高」とされる欧州地域を除く世界レベルおよびWHO6地域すべてで「中程度」と考えられていることを指摘しました。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)と欧州委員会の保健緊急事態準備・対応局(HERA)が行ったモデリング作業では、患者の隔離と接触者の追跡が、発生を抑制するのに有効である可能性が示唆されています。しかし、本流行への対応でこれまでに得られた運用経験から、このような介入を実際に実施することは非常に困難であることが示されています。症例の特定は診断検査へのアクセスの障壁によって妨げられ、21日間の症例の隔離は現在の新型コロナウイルスパンデミック関連のロックダウン後の状況では難しく、接触者の追跡は多くの場合複数で匿名であるため困難であることが分かっています。ECDCとHERAによるモデリングは、ワクチン接種関連の介入を加えることで、流行のコントロール可能性が高まることを示唆しています。接触者追跡の効果が低い、あるいは実行不可能な場合にワクチンを使用するには、曝露リスクの高い個人に対する曝露前接種が最も有効な戦略であると思われます。しかし、サル痘に対するワクチンの有効性に関するデータは限られており、今回のモデリング作業の限界の1つとなっています。さらに、このようなワクチン接種戦略の運用には、ワクチンへのアクセスに関連した課題もあります。

いくつかの国で得られたウイルスのゲノム配列は、西アフリカの系統群からいくらか分岐していることが示されています。観察されたゲノムの変化が、感染性、病原性、免疫逃避、抗ウイルス剤への耐性、対策効果の低下などの表現型の変化につながるかどうかを理解するための作業が進行中です。

自然環境では多くの動物種がサル痘ウイルスに感受性があることが知られていますが(例えば、各種のリス、ガンビアネズミ、ヤマネ、霊長類など)、異なる環境ではヒトから他の感受性動物種へウイルスが流出する可能性があります。現在までのところ、WHO事務局、ワンヘルスのパートナーである国連食糧農業機関(FAO)および世界動物保健機関(WOAH)が入手できる人畜共通感染事例の文書によるエビデンスはありません。

WHO事務局長はまた、これまでのWHOの対応と、ヒトからヒトへの感染を阻止することを全体目標とした、サル痘に対するWHO戦略的準備・対応計画の策定作業について概説しました。

スペイン、英国、米国、カナダ、ナイジェリア連邦共和国の代表は、自国の疫学的状況と現在の対応努力について表記順に委員会に報告しました。ナイジェリア連邦共和国を除く残りの4カ国は、症例の99%がMSMで発生しており、主に複数のパートナーを持つ者の間で発生していると報告しました。

スペインでは、ここ数週間、感染者が減少しているが、報告の遅れによりデータが不完全である可能性が高いです。ほとんどの症例は主要都市部で報告されており、MSMと疫学的なつながりのある女性や子供の症例報告はごくわずかです。ワクチン接種による曝露前予防が、医療従事者、接触者、HIV感染者に提供されていますが、ワクチンの供給は少ない状況です。

英国は、脳炎を含むサル痘の重症例を数例報告し、また、サル痘の症例定義を修正し、直腸炎など新たに認められた症状を含める予定である。環境調査では、病院や家庭の物質表面からサル痘ウイルスDNA(Ct値が中程度であるため感染性があると推定される)が確認されています。ワクチン戦略は標的型であり、最もリスクの高いMSMの曝露後接種と曝露前接種によって感染を阻止することを目的としています。

米国では、サル痘の症例は全米に広く分布していますが、ほとんどの症例は3つの大都市に集中しています。子供や妊婦に発症したケースは少数ですが、99%は男性同士の性的接触に関連しています。

カナダでは、99%の症例がMSMの間で発生しており、接触者追跡の課題を考慮し、曝露前接種措置に幅広いアプローチをとっており、主要感染者グループを支援する地域主導の組織との連携に強く力を入れています。

ナイジェリア連邦共和国では、2017年9月から2022年7月10日までの間に800件強のサル痘の患者を記録し、確定患者の致死率は3%となっています。症例は31歳から40歳の男性が多く、性行為による感染の証拠は提示されていません。2017年以降の年間報告症例数は、2022年に最も多くなっています。

発表の後、委員とアドバイザーは、事務局と発表国の双方に対する質疑応答セッションを進めました。

委員会は、以下のような広範な問題について引き続き懸念を抱いています。感染動態をさらに理解する必要性があり;MSMの間で偏見を恐れることが健康を維持する行動に与える影響;保健省およびその他の当局による権利に基づくケアの提供に対する潜在的な影響;特に複数の匿名接触者のために、隔離、検査へのアクセス、接触者追跡を含むさらなる感染を止めるための公衆衛生および社会措置の使用に関連した課題;MSMをターゲットとした、地域および国際的な大規模集会と、それに関連した公的および私的な関連イベントが計画されており、性交渉による曝露の機会が増加し、結果として流行が増幅される可能性があること;感染に影響を与える可能性のある介入策の継続的な評価の必要性(例えば、1回投与と2回投与のワクチン接種レジメンや、一部のケースで感染の原因となっている明らかな経皮曝露を考慮した一般的なワクチンの有効性など);また、感染したコミュニティと緊密に連携しながら、対象を絞ったリスクコミュニケーションとコミュニティの関与のための重要な活動を特定し、コミュニティ主導の組織が発生への対応において重要な役割を果たすために必要な支援を提供することです。

特に、近い将来、ワクチンや抗ウイルス薬の価格や流通がどのようになり、公平に入手できるようになるかが懸念事項として上がりました。


審議会

委員会は非公開で再開され、今回のサル痘の流行発生が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に該当するか否かに関する項目を検討し、該当する場合は、国際保健規則(IHR2005)の規定に従ってWHO事務局が起草した暫定的な勧告を検討することになりました。

議長の要請により、WHO事務局は、委員会メンバーの職務を再確認し、国際保健規則(IHR2005)における国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の定義を再確認しました。つまり、国際的に広がることで他国への公衆衛生リスクがあり、国際的に協調した対応を必要とする可能性がある異常事態であるかどうかということになります。

委員会は、事務局が収集したエビデンスと、第1回会合で提案されたサル等の流行を再評価するための考察を比較検討しました。 委員会は、これらの検討事項について情報に基づいた判断を行うための利用可能なデータに対する信頼性が、概して中程度であることに留意しました。

9つの検討事項のうち、現在入手可能なデータに基づくと、前回の会議以降に大きな変化が見られたのは、サル痘の最初の症例を報告した国の数が増えたことと、西アフリカと中央アフリカの一部の国で症例数が増加したことの2点でした。 また、流行に伴う全体的な成長率がわずかに上昇しているというエビデンスもありました。医療従事者の間での症例が報告されていますが、ほとんどが地域社会での曝露を報告しています。性風俗従事者の間での症例は、症例報告やソーシャルメディアの聞き取りから限られた数で報告されています。一部の子供や女性への二次感染が報告されています。脆弱なグループ(免疫抑制者、妊婦、小児)での感染は限定的であると報告されていますが、少数の小児は他の症例との疫学的な関連はないと報告されています。激しい痛みを感じる症例が引き続き報告されており、痛みや二次感染の管理のために入院を必要とする症例もあり、全体の臨床的重症度は前回の会議から概ね変化していませんが、少数の重症例、2名のICU入室、5名の死亡が報告されています。現時点では、ヒトから動物への感染の可能性についてのデータは得られていません。ウイルスゲノムの変化の可能性については、ウイルスの特徴に影響を与えるような変化の報告があり、現在調査中です。中央アフリカに通常存在するウイルス群の通常の環境以外での循環は、現在のところ報告されていません。


結論

委員会メンバーは、検討事項に関して様々な意見を述べました。彼らは、複数国におけるサル等の発生を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)と判断すべきか否かについて、WHO事務局長への助言について合意に達することができませんでした。委員会のメンバーが表明した、PHEICに賛成または反対する意見に関する支持要素は、以下のように要約されます。それには、以下のような意見が反映されています。


国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の決定を支持する委員会メンバーの意見

・サル痘の複数国での発生は、規則第1条に含まれるPHEICを定義する3つの基準([異常事態] (i) 国際的な疾病伝播により他国への公衆衛生リスクを構成する、 (ii) 国際協調対応を要する可能性がある)すべてに合致しています。

・アフリカ以外で現在最も影響を受けているコミュニティは、HIV/AIDSの流行の初期に影響を受けたと報告されたコミュニティであることを念頭に置き、いくつかの国のLGBTI+コミュニティのリーダーが強調したように、この出来事に対応するために利用できるすべての手段や手段を展開する道徳的義務があります。

・世界各地で報告される症例数は増加傾向にありますが、これは実際の流行の規模を過小評価している可能性があります。

・HIVの流行初期を彷彿とさせる小児や妊婦のサル痘感染例。

・今後、サル痘ウイルスが感染しやすい集団に持ち込まれた場合、さらなるサル痘患者の発生が予想されます。

・現在の流行の原因となっている感染様式は完全には解明されていません。

・現在観察されているサル痘患者の臨床像が、これまでに知られている臨床像と異なるっています。

・発生を抑制するための医薬品及び非医薬品の両手段の有効性に関する更なるエビデンスを作成する必要性があります。

・サル痘の発生に関連する罹患率が高い。

・サル痘が世界中でヒトに定着した場合、公衆衛生及び医療サービスに対する将来の潜在的影響を考える必要があります。特に、ヒトに疾患を引き起こすオルソポックスウイルスについては、天然痘が根絶された後、それに対する免疫力が世界的に大幅に低下しています。

・国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の将来的な判断に関連するメリットは以下の通りです。

●意識と警戒のレベルを高め、サル痘ウイルスのヒトからヒトへの感染を食い止める可能性を高める。

●対応努力に対する政治的公約を高める。 対応、研究目的、およびこの病気による社会経済的影響の緩和のための資金投入の機会を増やす。

●特にワクチンと抗ウイルス剤への公平なアクセスを確保するために、対応努力の国際的な調整を強化すること。

●国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を将来的に決定することによって起こりうる偏見、疎外、差別は、緊急事態の宣言の抑止力と見なすべきでなく、対処が必要です。


国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の決定を支持しない委員会メンバーの意見

・WHO事務局から提示された全体的な世界的リスク評価は、2022年6月23日に委員会に提示されたものに関して変更されていません。

・現在、ヨーロッパとアメリカ大陸の12カ国で、最も深刻な感染が報告されていますが、現在入手可能なデータによると、いずれの国でも感染者数の急激な増加は見られず、いくつかの国では安定化または減少傾向の初期兆候が観察されています。

・症例の大部分は、複数のパートナーを持つMSMの間で確認され、運用上の課題はあるものの、この層を対象とした介入によって進行中の感染を阻止する機会があります。医療従事者を含め、この集団以外で観察される症例は、今のところ限られています。

・この病気の重症度は低いと考えられています。

・流行は成熟しつつあり、今後の感染の波は予想でき、政策や介入の効果についてより明確な示唆が得られつつあります。

・国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を将来的に決定することで対応努力を阻害する潜在的なリスクは、以下の理由でメリットを上回ると認識され ています。

●特に同性愛が犯罪とされている国では、LGBTI+のコミュニティが十分に確立されておらず、政府との対話も行われていないため、際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の決定が現在影響を受けているコミュニティに対する偏見、疎外、差別を生み出す可能性があること。サル痘はHIV感染とは異なり、目に見える症状であるため、偏見を最小限に抑えるには、新しいアプローチを開発する必要があると指摘する国もあり、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の文脈では困難である可能性があります。

●2022年5月以降、WHO事務局は、委員会の開催を含め、サル痘の発生に関連して警戒を呼びかける行動をとっており、北半球の多くの国々で即時対応努力を引き起こす効果があったと考えられます。

●各国の対応努力に情報を提供するために事務局が発行した技術的ガイダスは、適切かつ包括的であり、世界中でその実施を阻む障害は確認されていないと考えられる。

●西・中央アフリカ諸国では、サーベイランス、検査施設、対応のための能力構築が必要ですが、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の決定は、そのような努力を促すための手段とは見なされないかもしれません。

●国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の決定は、一般市民の疾病リスク認識を不必要にかつ人為的に高め、その結果、ワクチンの需要を生み出すことになりますが、ワクチンの利用はしっかり検討されねばならないものです。

●国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を決定しないことは、「通常通り」であることは意味しない。WHO事務局長の決定の伝達は、単なる知名度の高い決定を超えて、必要な公衆衛生活動の全範囲の継続性を伝える機会であることに変わりはないでしょう。

審議の後、委員は、WHO事務局長が複数国におけるサル痘の発生を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と判断した場合の暫定的な勧告案について、意見を述べました。


出典

Second meeting of the International Health Regulations (2005) (IHR) Emergency Committee regarding the multi-country outbreak of monkeypox

23 July 2022

https://www.who.int/news/item/23-07-2022-second-meeting-of-the-international-health-regulations-(2005)-(ihr)-emergency-committee-regarding-the-multi-country-outbreak-of-monkeypox