[文書名] 大韓民国政府と中華人民共和国政府との刑事司法共助条約
大韓民国と中華人民共和国(以下、「当事国」とする)は、主権の相互尊重、平等及び互恵の基礎の上に、刑事司法共助に関する両国間の協力の効率性を増進することを希望して、次のように合意した。
第1章
一般規定
第1条
適用範囲
1.当事国は、この条約の規定により刑事事件に関する捜査・起訴または裁判手続において最も広範囲な共助措置を互いに提供する。
2.この条約の目的上、刑事事件とは、各当事国の法によって成立する犯罪に関する捜査・起訴または裁判手続を意味する。
3.共助は次を含む。
ア.書類の送達
イ.人々の陳述を含む証拠の取得
ウ.情報・書類・記録及び証拠品の提供
エ.人または物の所在または身元の確認
オ.専門家による評価の取得と提供
カ.捜索及び押収要請の執行
キ.被拘禁者及び他の人々によって証拠を提出させたり、捜査に協力するようにすること
ク.犯罪取得物と関連する共助措置
ケ.被要請国の法によって禁止されてない他の形態の共助
4.この条約は次には適用されない。
ア.如何な人の犯罪人引渡
イ.被要請国の法及びこの条約によって許容される範囲外において要請国で宣告された刑事判決の被要請国における執行
ウ.刑の服役のための受刑者の移送
エ.刑事事件での裁判手続の移管
第2条
連絡経路
1.この協約の目的上、当事国は、司法共助を相互に要請し、提供するために、各自の指定された中央機関を通じて直接連絡するか、外交経路を通じて連絡しなければならない。
2.第1項で規定された中央機関は大韓民国の場合、法務部長官または同長官が指定した公務員とし、中華人民共和国の場合、司法部とする。
第3条
共助の拒絶及び延期
1.被要請国が次に該当するものと判断する場合、共助を拒絶することができる。
ア.共助要請が政治的犯罪またはその性格上軍事的犯罪と関連する場合
イ.共助要請の履行が被要請国の主権・安全保障・公共秩序または他の本質的な公共利益を侵害する憂慮がある場合
ウ.共助要請がある人の人種・性別・宗教・国籍または政治的見解を理由としてその人を起訴または処罰するために行われたり、またはいかなる事由でその地位が損傷される憂慮があると信じる相当の根拠がある場合、または
エ.共助要請の対象行為が被要請国の法定犯罪を構成しない場合
2.共助の履行が被要請国で進行中の捜査・起訴または裁判手続を妨害する憂慮がある場合、被要請国は共助を延期することができる。
3.共助要請を拒絶したり、その履行を延期する以前に、被要請国は自国が必要であると判断する条件下で共助を提供しうるかどうか検討しなければならない。要請国がこのような条件付共助を受諾する場合、その条件を遵守しなければならない。
4.被要請国が共助を拒絶または延期する場合、要請国にその拒絶または延期の理由を通知しなければならない。
第2章
共助要請と共助
第4条
共助要請書の内容
1.共助要請書は次を含む。
ア.共助要請と関連する捜査・起訴または裁判手続を進めている権限のある機関の名称
イ.共助要請の目的及び要請する共助に関する説明
ウ.関連事実と法の要旨を含め、捜査・起訴または裁判手続の対象事項に関する説明
エ.共助要請の履行が要望される時限
2.共助要請は、必要かつ可能な限度内において、また次を含まなければならない。
ア.証拠取得の対象になる者の身分・国籍及び所在に関する情報
イ.送達対象者の身分と所在及び当該裁判手続と同人との関係に関する情報
ウ.所在把握対象者の身分及び所在に関する情報
エ.捜索場所及び押収対象物に関する説明
オ.共助要請の履行において遵守されることを希望するいかなる特別な手続または要件に対する説明
カ.要請国に参与を求められた者が受け取る手当・経費及び謝金に関する情報
キ.秘密に扱いすべきであることの必要性及びその事由
ク.共助要請の適切な履行に必要な他の情報
3.被要請国は、共助要請書に含まれている情報がその要請を処理することに十分ではないと判断する場合、追加情報を要請することができる。
4.共助要請は書面にして、要請機関が署名または捺印しなければならない。緊急の場合、共助要請は他の形式でも行われるが、その後、迅速に書面で確認しなければならない。
第5条
言語
この条約による共助要請書と補充書類には、被要請国の言語または英語での翻訳文を添付しなければならない。
第6条
共助要請の履行
1.被要請国はその国内法に従って共助要請を迅速に履行する。
2.被要請国の法に反しない限り、共助要請は要請国が要請した方式で履行することができる。
第7条
被要請国への資料の返還
被要請国の要請がある場合、要請国はこの条約によって提供された資料をできる限り速やかに返還しなければならない。
第8条
秘密の保護
被要請国は、要請を受けた場合、共助要請書、その内容、補充書類及び要請に従って取ったすべての措置を秘密に維持するため最大限の努力をする。要請が、要請された秘密性を違反することなしに履行できない場合、被要請国は要請国にこれを通報しなければならず、この場合、要請国はそれにもかかわらず共助要請を履行すべきかを決定しなければならない。
第9条
使用の制限
1.要請国は、被要請国の事前同意なしに、この条約によって取得した情報や証拠を、要請書に記載された捜査・起訴または裁判手続以外の他の目的のために使用してはならない。
2.要請国は要請がある場合、要請書で記載された捜査・起訴または裁判手続上必要な場合を除いて、被要請国により提供された情報や証拠を秘密に維持しなければならない。
第10条
書類の送達
1.被要請国は要請国から送達のため送付された書類を送達しなければならない。
2.ある者の出席を求める書類の送達のための共助要請は、緊急な場合に被要請国が別に同意しない限り、出席が求められる日の少なくとも60日以前に、被要請国に提出されなければならない。
3.被要請国は送達後、送達の日付・場所及び方法が記載され、送達機関の署名や捺印が印された送達証明書を要請国へ発送しなければならない。送達されない場合には要請国に対してその事実と理由を通報しなければならない。
第11条
証拠の取得
1.被要請国は、自国の法及び要請に従って要請国に送付するために、人々から証言を取得したり、他の方法で陳述を得たり、彼らに証拠品を提出するよう要求しなければならない。
2.被要請国は自国の法が許容する限度内で、要請に従って共助を履行する間、捜査・起訴または裁判手続において共助要請書に明示された司法関係者の参席を許容しなければならず、その関係者に、被要請国が同意した方式で証拠取得の対象者に対して尋問できるよう許容することができる。直接尋問が許容されない場合、同関係者が被要請国を通じて証拠取得対象者に対して尋問する事項を提出することが許容される。
3.第2項の目的上、被要請国は要請によって、要請履行の時間と場所を要請国に迅速に通報しなければならない。
第12条
証拠提出の拒否
1.この条約によって証拠を提出することを要求された者は、被要請国での裁判手続において類似な場合、被要請国の法がその人に証拠提出の拒否を許容または要求する場合、証拠提出を拒否することができる。
2.この条約によって証拠提出を要求された者が要請国への法的証拠の提出を拒否する権利や義務があることを主張する場合、被要請国は要請国に対してその権利や義務の存在可否に関する確認書を提供するよう要請することができる。
3.被要請国が当該人によって主張された権利や義務の存在に関する確認書を要請国から受理した場合、反証がない限り、その確認書はその権利や義務の存在に関する十分な証拠になる。
第13条
人または物の所在または身元の確認
被要請国は要請に従って、共助要請書で記載されたいかなる人または物についてもそのの所在を把握し、その人の身分を確認するため努力しなければならない。
第14条
証拠提出または捜査協力のための関係者の活用
1.要請国は、ある人を裁判手続において証人または専門家として出席させたり、捜査手続きに協力するよう求めたりするため、被要請国の協調を要請することができる。同人は支給されるいかなる費用・手当及び謝金に関しても通報をうける。
2.被要請国は同人の応答を要請国に迅速に通報しなければならない。
第15条
証拠提出または捜査協力のための被拘禁者の活用
1.被要請国は要請国の要請のある場合、捜査・起訴または裁判手続に協力するため、自国領土内で拘禁されている者を要請国に一時的に移送する。ただし、その被拘禁者の同意があって、移送条件に関する中央機関間の事前の書面合意がある場合に限る。
2.被要請国の法において被移送者を続けて拘禁することが求められる場合、要請国は同人を続けて拘禁し、共助要請の履行が終了する時、被拘禁者を送還する。
3.被要請国が移送された者をそれ以上拘禁状態におく必要がないと要請国に通報した場合、彼は釈放されなければならず、第14条で規定された者と同じように処遇される。
4.この条の目的上、移送された者が要請国で拘禁されていた期間は、被要請国で賦課された刑の服役期間に算入される。
第16条
証人と専門家の保護
1.第14条または第15条によって要請国へ出席した者は、要請国への入国前のいかなる作為や不作為に関連して、または要請国の領土内での同人の証言または感情と関連して、要請国によって起訴・拘禁されたり、または他のいかなる個人の自由に対する制限を受けたりすることはなく、その共助要請と関係のない捜査・起訴または裁判手続で証拠を提出したり捜査に協力したりする義務はない。
2.この条の第1項は、自由に出国できるようになった者がそれ以上の滞在が必要でないと公式に通知されて以後15日の期間内に要請国を離れなかったか、または出国後自発的に戻った場合にはそれ以上適用されない。ただし、この期間において、自分に責任がない事由でその者が要請国の領域を離れなかった期間は含まれない。
3.第14条または第15条によって証拠を提出したり、捜査に協力することを拒否する者は、これを理由に、要請国で刑罰を受けたり、強制的な措置の対象となったりはしないし、要請書・召還状または類似の書類によって刑罰や強制的な措置の脅しは受けない。
第17条
捜索及び押収
1.被要請国は、自国法の許容する限度内でいかなる物の捜索・押収も、また要請国からの送付に関する共助要請を実行しなければならない。ただし、その共助要請書は、被要請国の法において、そのような措置を正当化する情報を含まなければならない。
2.被要請国はいかなる捜査の結果においても、押収の場所及び状況そして押収品の事後保管に関連して、要請国が要求できる情報を提供しなければならない。
3.被要請国は、送付品に関する第3者の利益を保護するために必要であると考えられる条件に要請国が同意することを求めることができる。
第18条
犯罪取得物
1.要請がある場合、被要請国は犯罪取得物がその管轄内に存在するかを確認するよう努力し、要請国にその調査結果を通報しなければならない。要請国は、その要請においてそのような取得物が被要請国の管轄内にあると判断する根拠を被要請国に通報しなければならない。
2.第1項に従って、犯罪取得物として疑われるものが発見された場合には、被要請国は、そのような取得物に対する処分制限及び没収のための自国法上許容される措置を取らなければならない。
3.この条を適用する際、そのような取得物に対する第3者の法的権利は、被要請国の法に従って尊重されなければならない。
4.没収された取得物を管理する被要請国は、自国の法に従ってこれを処分する。被要請国は、自国の法が許容する限度内で没収された取得物を要請国へ移送することができる。
第19条
刑事裁判結果の通報
一方の当事国は要請のある場合、他方の当事国の国民と関連する刑事裁判の結果を他方の当事国へ通報しなければならない。
第20条
法令に関する情報の交換
当事国は要請がある場合、各々の国家で施行中であるか、あるいは廃止された法令と司法慣行の適用に関して相互に通報しなければならない。
第21条
犯罪経歴の提供
一方の当事国は要請のある場合、他方の当事国の刑事事件において起訴された者の犯罪経歴を他方の当事国に提供する。ただし、その者がその当事国で刑を宣告された前歴がある場合に限る。
第22条
確認及び認証
1.第2項を条件として、共助要請書とその補充書類及び要請に応じて提供される書類または他の資料は、いかなる形態の確認または認証も要求されない。
2.被要請国の法によって禁止されない限り、書類・記録または他の資料は、要請国の法によって認定されるように、要請国の要請に従って一定の形式により、あるいは確認書を添付して送付しなければならない。
第23条
費用
1.被要請国は、要請国が負担する次の費用を除外した共助提供の費用を負担しなければならない。
ア.第11条第2項により被要請国の領域へ、またはその領域からいかなる者を護送することに関連する費用
イ.第14条または第15条により、その者の要請国への入国、要請国からの出国、要請国での滞在と関連して支給しなければならない手当または費用。その手当または費用は、その手当または費用が発生した当事国の基準または規定によって支給される。
ウ.専門家の費用及び謝金
3.要請国は要請のある場合、自国が負担する経費・手当及び謝金を予め支給する。
4.共助要請の履行が例外的な性格の費用を必要とすることが明確である場合、当事国は要請された共助が提供される条件を決定するために協議しなければならない。
第24条
外交官及び領事館員による書類の送達及び証拠の取得
いかなる当事国でも、他方の当事国の法を違反せず、いかなる形態の強制措置も取らない限り、自国の外交官または領事館員を通じて他方の当事国の領域内にある自国民に書類を送達して、その者から証拠を取得することができる。
第3章
最終規定
第25条
他の約定
この条約は、他の条約・約定または他の事由によって当事国間に存在する義務に影響を及ぼさず、他の条約・約定または他の事由によってお互いに共助を提供したり、これを続けることを妨害しない。
第26条
協議
ある一方の要請のある場合、当事国はこの条約の解釈・適用または履行に関し外交経路を通じて迅速に協議しなければならない。
第27条
発効及び終了
1.この条約は批准を条件とする。批准書はソウルで交換される。この条約は批准書交換後30日で発効する。
2.この条約は、関連する作為及び不作為がこの条約の発効以前に発生したとしても、発効以後に出されるいかなる共助要請に対しても適用される。
3.どの当事国でも、いつでも外交経路を通じた書面での通報によってこの条約を終了することができる。終了は、その通報の日から6ヶ月が経過すれば成立する。
以上の証拠として、以下の署名者は各々の政府から正当に権限を委任されてこの条約に署名した。
北京で1998年11月12日、ひとしく正文である韓国語、中国語及び英語で各2部ずつ作成した。解釈上相違がある場合には英語の本文が優先される。
大韓民国のため、中華人民共和国のため