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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際捕鯨取締条約

[場所] ワシントン
[年月日] 1946年12月2日
[出典] 条約集 第三十五集 第三巻,外務省条約局,1-10頁
[備考] 
[全文]

   一九四六年十二月二日にワシントンで作成

   一九四八年十一月十日に効力発生


 正当な委任を受けた自己の代表者がこの条約に署名した政府は、

 鯨族という大きな天然資源を将来の世代のために保護することが世界の諸国の利益であることを認め、

 捕鯨の歴史が一区城から他の地の区域への濫獲及び一鯨種から他の鯨種への濫獲を示しているためにこれ以上の濫獲からすべての種類の鯨を保護することが緊要であることにかんがみ、

 鯨族が捕獲を適当に取り締まれば繁殖が可能であること及び鯨族が繁殖すればこの天然資源をそこなわないで捕獲できる鯨の数を増加することができることを認め、

 広範囲の経済上及び栄養上の困窮を起さずにできるだけすみやかに鯨族の最適の水準を実現することが共通の利益であることを認め、

 これらの目的を達成するまでは、現に数の減つたある種類の鯨に回復期間を与えるため、捕鯨作業を捕獲に最もよく耐えうる種類に限らなければならないことを認め、

 千九百三十七年六月八日にロンドンで署名された国際捕鯨取締協定並びに千九百三十八年六月二十四日及び千九百四十五年十一月二十六日にロンドンで署名された同協定の議定書の規定に具現された原則を基礎として鯨族の適当で有効な保存及び増大を確保するため、捕鯨業に関する国際取締制度を設けることを希望し、且つ、

 鯨族の適当な保存を図つて捕鯨産業の秩序のある発展を可能にする条約を締結することに決定し、

 次のとおり協定した。

   第一条

1 この条約は、その不可分の一部を成す付表を含む。すべて「条約」というときは、現在の辞句における、又は第五条の規定に従つて修正されたこの付表を含むものと了解する。

2 この条約は、締約政府の管轄下にある母船、鯨体処理場及び捕鯨船並びにこれらの母船、鯨体処理場及び捕鯨船によつて捕鯨が行われるすべての水域に適用する。

   第二条

 この条約で用いるところでは、

1 「母船」とは、船内又は船上で鯨を全部又は一部処理する船舶をいう。

2 「鯨体処理場」とは、鯨を全部又は一部処理する陸上の工場をいう。

3 「捕鯨船」とは、鯨の追尾、捕獲、殺害、引寄せ、緊縛又は探察の目的に用いるヘリコプターその他の航空機又は船舶をいう。

4 「締約政府」とは、批准書を寄託し、又はこの条約への加入を通告した政府をいう。

   第三条

1 締約政府は、各締約政府の一人の委員からなる国際捕鯨委員会(以下「委員会」という。)を設置することに同意する。各委員は、一個の投票権を有し、且つ、一人以上の専門家及び顧問を同伴することができる。

2 委員会は、委員のうちから一人の議長及び副議長を選挙し、且つ、委員会の手続規則を定める。委員会の決定は、投票する委員の単純多数決で行う。但し、第五条による行動については、投票する委員の四分の三の多数を要する。手続規則は、委員会の会合における決定以外の決定について規定することができる。

3 委員会は、その書記長及び職員を任命することができる。

4 委員会は、その委任する任務の遂行のために望ましいと認める小委員会を、委員会の委員及び専門家又は顧問で設置することができる。

5 委員会の各委員並びにその専門家及び顧問の費用は、各自の政府が決定し、且つ、支払う。

6 国際連合と連携する専門機関が捕鯨業の保存及び発展と捕鯨業から生ずる生産物とに関心を有することを認め、且つ、任務の重複を避けることを希望し、締約政府は、委員会を国際連合と連携する一の専門機関の機構のうちに入れるべきかどうかを決定するため、この条約の実施後二年以内に相互に協議するものとする。

7 それまでの間、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府は、他の締約政府と協議して、委員会の第一回会合の招集を取きめ、且つ、前記の第六項に掲げた協議を発議する。

8 委員会のその後の会合は、委員会が決定するところに従つて招集する。

   第四条

1 委員会は、独立の締約政府間機関若しくは他の公私の機関、施設若しくは団体と共同して、これらを通じて、又は単独で、次のことを行うことができる。

(a)鯨及び捕鯨に関する研究及び調査を奨励し、勧告し、又は必要があれば組織すること。

(b)鯨族の現状及び傾向並びにこれらに対する捕鯨活動の影響に関する統計的資料を集めて分析すること。

(b)鯨族の数を維持し、及び増加する方法に関する資料を研究し、審査し、及び頒布すること。

2 委員会は、事業報告の刊行を行う。また、委員会は、適当と認めた報告並びに鯨及び捕鯨に関する統計的、科学的及び他の適切な資科を、単独で、又はノールウエー国サンデフョルドの国際捕鯨統計局並びに他の団体及び機関と共同して刊行することができる。

   第五条

1 委員会は、鯨資源の保存及び利用について、(a)保護される種類及び保護されない種類、(b)解禁期及び禁漁期、(c)解禁水域及び禁漁水域(保護区域の指定を含む。)、(d)各種類についての大きさの制限、(e)捕鯨の時期、方法及び程度(一漁期における鯨の最大捕獲量を合む。)、(f)使用する漁具、装置及び器具の型式及び仕様、(g)測定方法、(h)捕獲報告並びに他の統計的及び生物学的記録並びに(i)監督の方法に関して規定する規則の採択によつて、付表の規定を随時修正することができる。

2 付表の前記の修正は、(a)この条約の目的を遂行するため並びに鯨資源の保存、開発及び最適の利用を図るために必要なもの、(b)科学的認定に基くもの、(c)母船又は鯨体処理場の数又は国籍に対する制限を伴わず、また母船若しくは鯨体処理場又は母船群若しくは鯨体処理場群に特定の割当をしないもの並びに(d)鯨の生産物の消費者及び捕鯨産業の利益を考慮に入れたものでなければならない。

3 前記の各修正は、締約政府については、委員会が各締約政府に修正を通告した後九十日で効力を生ずる。但し、(a)いずれかの政府がこの九十日の期間の満了前に修正に対して委員会に異議を申し立てたときは、この修正は、追加の九十日間は、いずれの政府についても効力を生じない。(b)そこで、他の締約政府は、この九十日の追加期間の満了期日又はこの九十日の追加期間中に受領された最後の異議の受領の日から三十日の満了期日のうちいずれか遅い方の日までに、この修正に対して異議を申し立てることができる。また、(c)その後は、この修正は、異議を申し立てなかつたすべての締約政府についての効力を生ずるが、このように異議を申し立てた政府については、異議の撤回の日まで効力を生じない。委員会は、異議及び撤回の各を受領したときは直ちに各締約政府に通告し、且つ、各締約政府は、修正、異議及び撤回に関するすべての通告を確認しなければならない。

4 いかなる修正も、千九百四十九年七月一日の前には、効力を生じない。

   第六条

 委員会は、鯨又は捕鯨及びこの条約の目的に関する事項について、締約政府に随時勧告を行うことができる。

   第七条

 締約政府は、この条約が要求する通告並びに統計的及び他の資料を、委員会が定める様式及び方法で、ノールウエー国サンデフョルドの国際捕鯨統計局又は委員会が指定する他の団体にすみやかに伝達することを確保しなければならない。

   第八条

1 この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従つて自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。また、この条の規定による鯨の捕獲、殺害及び処理は、この条約の適用から除外する。各締約政府は、その与えたすべての前記の認可を直ちに委員会に報告しなければならない。各締約政府は、その与えた前記の特別許可書をいつでも取り消すことができる。

2 前記の特別許可書に基いて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、収得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従つて処分しなければならない。

3 各締約政府は、この条の第一項及び第四条に従つて行われた研究調査の結果を含めて鯨及び捕鯨について同政府が入手しうる科学的資料を、委員会が指定する団体に、実行可能な限り、且つ、一年をこえない期間ごとに送付しなければならない。

4 母船及び鯨体処理場の作業に関連する生物学的資料の継続的な収集及び分析が捕鯨業の健全で建設的な運営に不可欠であることを認め、締約政府は、この資料を得るために実行可能なすべての措置を執るものとする。

   第九条

1 各締約政府は、この条約の規定の適用とその政府の管轄下の人又は船舶が行う作業におけるこの条約の規定の侵犯の処罰とを確保するため、適当な措置を執らなければならない。

2 この条約が捕獲を禁止した鯨については、捕鯨船の砲手及び乗組員にその仕事の成績との関係によつて計算する賞与又は他の報酬を支払つてはならない。

3 この条約に対する侵犯又は違反は、その犯罪について管轄権を有する政府が起訴しなければならない。

4 各締約政府は、その監督官が報告したその政府の管轄下の人又は船舶によるこの条約の規定の各侵犯の完全な詳細を委員会に伝達しなければならない。この通知は、侵犯の処理のために執つた措置及び科した刑罰の報告を含まなければならない。

   第十条

1 この条約は、批准され、批准書は、アメリカ合衆国政府に寄託する。

2 この条約に署名しなかつた政府は、この条約が効力を生じた後、アメリカ合衆国政府に対する通告書によつてこの条約に加入することができる。

3 アメリカ合衆国政府は、寄託された批准書及び受領した加入書のすべてを他のすべての署名政府及びすべての加入政府に通告する。

4 この条約は、オランダ国、ノールウエー国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国並びにアメリカ合衆国の政府を含む少くとも六の署名政府が批准書を寄託したときにこれらの政府について効力を生じ、また、その後に批准し又は加入する各政府については、その批准書の寄託の日又はその加入通告書の受領の日に効力を生ずる。

5 付表の規定は、千九百四十八年七月一日の前には、適用しない。第五条に従つて採択した付表の修正は、千九百四十九年七月一日の前には、適用しない。

   第十一条

 締約政府は、いずれかの一月一日以前に寄託政府に通告することによつて、その年の六月三十日にこの条約から脱退することができる。寄託政府は、この通告を受領したときは、直ちに他の締約政府に通報する。他の締約政府は他の寄託政府から前記の通告の謄本を受領してから一箇月以内に、同様に脱退通告を行うことができる。この場合には、条約は、この脱退通告を行つた政府についてその年の六月三十日に効力を失う。

 この条約は、署名のために開かれた日の日付を付され、且つ、その後十四日の間署名のために開いて置く。

 以上の証拠として、下名は、正当な委任を受け、この条約に署名した。

 千九百四十六年十二月二日ワシントンにおいてイギリス語で作成した。本書の原本は、アメリカ合衆国政府の記録に寄託する。アメリカ合衆国政府は、その認証謄本を他のすべての署名政府及び加入政府に送付する。

 (署名欄省略)