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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 南極のあざらしの保存に関する条約

[場所] ロンドン
[年月日] 1972年6月1日
[出典] 外務省条約局,条約集(昭和55年 多数国間条約)1397‐1409頁
[備考] 
[全文]

昭和四十七年二月十一日 ロンドンで作成

昭和五十三年三月十一日 効力発生

昭和四十七年十二月二十八日 署名

昭和五十五年五月九日 国会承認

昭和五十五年八月十九日 受諾の内閣決定

昭和五十五年八月二十八日 受諾書寄託

昭和五十五年八月五日 公布及び告示(条約第二十七号及び外務省告示第三〇七号)

昭和五十五年九月二十七日 我が国について効力発生

 締約国は、

 千九百五十九年十二月一日にワシントンで署名された南極条約に基づいて採択された南極の動物相及び植物相の保存のための合意された措置を想起し、

 南極のあざらしが商業的猟獲から害を受けやすいことについて広く憂慮されていること及びそのため効果的な保存措置が必要であることを認め、

 南極のあざらし資源が海洋の環境における重要な生物資源であり、この生物資源の効果的な保存のため国際協定が必要とされていることを認め、

 このあざらし資源を過度の猟獲によつて枯渇させるべきではなく、したがつて、いかなる猟獲もその最適の持続的生産の水準を超えないように規制すべきであることを認め、

 科学的知識を改善し、もつて猟獲を合理的な基礎の上に置くため、南極のあざらし資源に関する生物学上の調査その他の調査を奨励するとともに、これらの調査及び将来の猟獲活動に係る統計に基づいて情報を得るようあらゆる努力を払うべきであり、その結果として適当な追加の規制措置について定めることができることを認め、

 国際学術連合会議の南極研究科学委員会(SCAR)が、この条約において同委員会に要請される任務を遂行する意思を有することに留意し、

 南極のあざらしの保護、科学的研究及び合理的な利用を図るとの目的を推進し及び達成すること並びに生態系の満足すべき均衡を維持することを希望して、

 次のとおり協定した。

第一条 適用範囲

(1)この条約は、南緯六十度以南の海域に適用するものとし、締約国は、この海域について南極条約第四条の規定を確認する。

(2)この条約は次の種類について適用することができる。

 みなみのぞうあざらし(ミロウンガ・レオニナ)

 ひょうあざらし(ヒュドルルガ・レプトニュクス)

 ウエッデルあざらし(レプトニュコテス・ウェデルリ)

 かにくいあざらし(ロボドン・カルキノファグス)

 ロスあざらし(オンマトフォカ・ロスィ)

 みなみおつとせい属(アルクトケファルス属)に属する種類

(3)この条約の附属書は、この条約の不可分の一部をなす。

第二条 実施

(1)締約国は自国民又は自国を旗国とする船舶が、この条約の他の規定に従う場合を除くほか、前条に掲げる種類のあざらしをこの条約の適用される区域内で殺さず又は捕獲しないことに同意する。

(2)締約国は、自国民及び自国を旗国とする船舶について、この条約を実施するために必要な法令その他の措置(適当な許可制度を含む。)をとる。

第三条 附属書に定める措置

(1)この条約は、締約国が採択する措置について定めている附属書を含む。締約国は、将来、あざらし資源の保存、科学的研究及び合理的かつ人道的な利用に関する他の措置を随時採択することができるものとし、これらの措置は、特に次の事項について定める。

(a)猟獲許容量

(b)保護される種類及び保護されない種類

(c)解禁期及び禁猟期

(d)解禁区域及び禁猟区域の指定(保護区域の指定を含む。)

(e)あざらしの生活を乱すことが禁止されている特別区域の指定

(f)種類ごとの性別、大きさ又は年齢に係る制限

(g)猟獲の時間に係る制限並びに猟獲努力量及び猟獲方法についての制限

(k)使用する猟具、装置及び器具の型式及び仕様

(i)猟獲報告その他統計上及び生物学上の記録

(j)科学的情報の検討及び評価を容易にするための手続

(k)その他の規制措置(効果的な検査制度を含む。)

(2)(1)の規定により採択される措置は、入手可能な最良の科学的及び技術上の証拠に基づいたものとする。

(3)附属書は、第九条に定める手続に従つて随時改正することができる。

第四条 特別許可

(1)この条約の規定にかかわらず、いずれの締約国も、次のことを目的として、限られた数量のあざらしをこの条約の目的及び原則に従つて殺し又は捕獲するための許可証を発給することができる。

(a)人又は犬に不可欠な食物を供給すること。

(b)科学的調査に供すること。

(c)標本を博物館、教育施設又は文化施設に提供すること。

(2)各締約国は、他の締約国及び南極研究科学委員会に対し、できる限り速やかに、(1)の規定に基づいて発給したすべての許可証の目的及び内容を通報するものとし、また、これらの許可証に基づいて殺され又は捕獲されたあざらしの頭数を通報する。

第五条 情報の交換及び科学上の助言

(1)各締約国は、附属書に定める期限までに、附属書に規定する情報を他の締約国及び南極研究科学委員会に提供する。

(2)各締約国は、毎年十月三十一日前に、当該年の前年の七月一日から当該年の六月三十日までの間に第二条の規定によりとつた措置に関する情報を他の締約国及び南極研究科学委員会に提供する。

(3)(1)又は(2)の規定により提供すべき情報を有しない締約国は、毎年十月三十一日前に、その旨を正式に通知する。

(4)南極研究科学委員会は、次のことを行うよう要請される。

(a)この条の規定により受領した情報を評価し、締約国間における科学的資料及び情報の交換を奨励し、科学的調査計画を勧告し、この条約の適用される区域内での猟獲活動を通じて統計上及び生物学上の資料を収集することを勧告し並びに附属書の改正を示唆すること。

(b)この条約の適用される区域におけるいずれかの種類のあざらしの猟獲が当該種類のあざらしの総資源量又は特定の区域の生態系に著しく有害な影響を与えている場合には、入手可能な統計上及び生物学上の証拠その他の証拠を基礎として報告を行うこと。

(5)南極研究科学委員会は、いずれの猟期においても、いずれかの種類のあざらしの猟獲許容量の限度を超えて猟獲が行われるおそれがあると予想する場合には、その旨を寄託政府に通知するとともに、猟獲許容量の限度に達すると予想される日を通知するよう要請される。寄託政府は、これらの通知を締約国に通報する。各締約国は、通報を受けた場合には、当該予想される日の後締約国が別段の決定を行うまでの間において自国民及び自国を旗国とする船舶が当該種類のあざらしを殺し又は捕獲することを防止するため、適当な措置をとる。

(6)南極研究科学委員会は、情報を評価するに当たつて必要な場合には、国際連合食糧農業機関に対し技術上の援助を求めることができる。

(7)第一条(1)の規定にかかわらず、締約国は、国内法令に従い、同条(2)に掲げる南極のあざらしであつて南緯六十度以北の浮氷海域において自国民及び自国を旗国とする船舶が殺し又は捕獲したものに関する統計を検討のため相互に及び南極研究科学委員会に通報する。

第六条 締約国間の協議

(1)締約国は、商業的猟獲が開始された後はいつでも、次のことを目的とする締約国会議の招集を寄託政府を通じて提案することができる。

(a)締約国の三分の二以上の多数(会議に出席するすべての署名国の賛成票を含む。)による議決で、この条約の実施のための効果的な取締制度(検査を含む。)を設けること。

(b)この条約に基づく任務で締約国が必要と認めるものを遂行するための委員会を設置すること。

(c)その他の事項を検討すること。これらの事項は、次のことを含む。

(i)独自の科学上の助言を提供すること。

(ii)商業的猟獲が相当の規模に達した場合には、三分の二以上の多数による議決で、この条約により南極研究科学委員会に要請される任務の一部又は全部を与えられる科学諮問委員会を設置すること。

(iii)締約国の参加を得て科学的計画を実施すること。

(iv)新たな規制措置(猟獲の一時的禁止を含む。)を定めること。

(2)締約国の三分の一が同意した場合には、寄託政府は、できる限り速やかに、(1)の締約国会議を招集する。

(3)この条約の適用される区域におけるいずれかの種類のあざらしの猟獲が当該種類のあざらしの総資源量又は特定の区域の生態系に著しく有害な影響を与えている旨の報告を南極研究科学委員会が行つた場合には、いずれかの締約国の要請により締約国会議を開催する。

第七条 運用の検討

締約国は、この条約の運用について検討するため、この条約の効力発生の後五年以内に会合するものとし、その後は少なくとも五年に一回会合する。

第八条 この条約の改正

(1)この条約は、いつでも改正することができる。締約国が提案する改正案は、寄託政府に提出するものとし、寄託政府は、これをすべての締約国に送付する。

(2)寄託政府は、締約国の三分の一の要請がある場合には、改正案を検討するための会議を招集する。

(3)改正は、寄託政府がすべての締約国から改正の批准書又は受諾書を受領した時に効力を生ずる。

第九条 附属書の改正

(1)いずれの締約国も附属書の改正を提案することができる。改正案は、寄託政府に提出するものとし、寄託政府は、これをすべての締約国に送付する。

(2)各改正案は、締約国に対する寄託政府からの通告書に明記されている日から百二十日以内に、異議の通告が受領されず、かつ、締約国の三分の二が寄託政府に対し書面により承諾を通告した場合には、当該通告書の日付の日の後六箇月ですべての締約国について効力を生ずる。

(3)通告書の日付の日から百二十日以内にいずれかの締約国による異議の通告が受領された場合には、締約国は、次の締約国会議においてこの問題を検討する。その締約国会議においてこの問題に関する全会一致の合意が得られない場合には、締約国は、当初の改正案又はその締約国会議によつて提案された新たな改正案についての承諾又は反対をその締約国会議の終了の日から百二十日以内に寄託政府に通告する。当該機関の終わりまでに締約国の三分の二が改正案を承認した場合には、改正は、その締約国会議の終了の日から六箇月で、その時までに承認を通告した締約国について効力を生ずる。

(4)改正案に対し異議を申し立てた締約国は、いつでもその異議を撤回することができるものとし、撤回した場合には、当該改正は、既に効力を生じているときは直ちに、その他のときはこの条の規定に基づいて効力を生ずる時に、当該締約国について効力を生ずる。

(5)寄託政府は、承認又は異議の通告を受領したとき、異議の撤回の通告を受領したとき及び改正が効力を生じたときは、直ちに、その旨を各締約国に通報する。

(6)附属書の改正が効力を生じた後にこの条約の締約国となる国は、改正後の附属書に拘束される。改正が効力を生ずるまでのの間にこの条約の締約国となる国は、他の締約国について適用される期限までにその改正を承認し又はこれに対して異議を申し立てることができる。

第十条 署名

 この条約は、千九百七十二年六月一日から十二月三十一日まで、ロンドンにおいて、同年二月三日から二月十一日までロンドンで開催された南極のあざらしの保存に関する会議に参加した国による署名のために開放しておく。

第十一条 批准

 この条約は、批准され又は受諾されなければならない。批准書又は受諾書は、ここに寄託政府として指定されるグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府に寄託する。

第十二条 加入

 この条約は、締約国の同意を得てこの条約に加入するよう招請される国による加入のために開放しておく。

第十三条 効力発生

(1)この条約は、七番目の批准書又は受諾書が寄託された日の後三十日目の日に効力を生ずる。

(2)この条約は、その効力発生の後に批准し、受諾し又は加入する国については、その批准書、受諾書又は加入書が寄託された後三十日目の日に効力を生ずる。

第十四条 脱退

 いずれの締約国も、いずれかの年の一月一日以前に寄託政府に通告を行うことにより当該いずれかの年の六月三十日にこの条約から脱退することができるものとし、寄託政府は、その通告を受領したときは、直ちに、その旨を他の締約国に通報する。いずれの他の締約国も、寄託政府から脱退の通告の写しを受領した時から一箇月以内に、同様に脱退の通告を行うことができるものとし、この場合において、この条約は、脱退の通告を行つた締約国について当該いずれかの年の六月三十日に効力を失う。

第十五条 寄託政府による通報

 寄託政府は、すべての署名国及び加入国に対し、次の事項を通報する。

(a)この条約の署名並びに批准書、受諾書又は加入書の寄託及び脱退の通告

(b)この条約の効力発生の日及びこの条約又は附属書の改正の効力発生の日

第十六条 認証謄本及び登録

(1)この条約は、ひとしく正文である英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により作成し、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府に寄託する。同政府は、この条約の認証謄本をすべての署名国及び加入国に送付する。

(2)この条約は、寄託政府が国際連合憲章第百二条の規定により登録する。

 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 千九百七十二年六月一日にロンドンで作成した。