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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)

[場所] ロンドン
[年月日] 1972年12月29日
[出典] 環境省
[備考] 
[全文]

この条約の締約国は、

 海洋環境及び海洋環境によって維持される生物が人類にとって極めて重要であること、並びにその質及び資源を害されないような海洋環境の管理の確保についてすべての人が関心を有していることを認め、

 廃棄物を同化しかつ無害にする海洋の受容力及び天然資源を再生産する海洋の能力が無限ではないことを認め、

 諸国が、国際連合憲章及び国際法の諸原則に基づき、自国の資源をその環境政策に従って開発する主権的権利を有すること、及び自国の管轄又は管理の下における活動が他国の環境又は国の管轄の外の区域の環境を害しないことを確保することについて責任を有することを認め、

 国の管轄の外の海底を規律する諸原則に関する国際連合総会決議第二千七百四十九号(第二十五回会期)を想起し

 海洋汚染が投棄並びに大気、河川、河口、排水口及びパイプラインを通ずる排出等の多くの原因から生ずること、並びに諸国がそのような海洋汚染を防止するための実行可能な最善の手段を講じるとともに、処分すべき有害な廃棄物の量を減少させる製品及び工程を開発することが重要であることに留意し、

 投棄による海洋汚染を規制する国際的行動は、遅滞なくとることができるものありかつ遅滞なくとられなければならないが、その国際的行動が海洋汚染の他の原因をできる限り速やかに規制する措置についての討議を妨げてはならないものであることを確信し、

 特定の地理的区域において共通の利益を有する諸国に対しこの条約を補足する適当な取極を締結するよう奨励することにより海洋環境の保護について改善することを希望して、

 次のとおり協定した。

第一条

 締約国は、海洋環境を汚染するすべての原因を効果的に規制することを単独で及び共同して促進するものとし、また、特に、人の健康に危険をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれがある廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する。

第二条

 締約国は、次条以下の諸条に定めるところに従い、自国の科学的、技術的及び経済的な能力に応じて単独で、並びに共同して、投棄によって生ずる海洋汚染を防止するための効果的な措置をとるものとし、また、この点に関して締約国の政策を調和させる。

第三条

 この条約の適用上、

1(a)「投棄」とは、次のことをいう

 (i)海洋において廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること。

 (ii)海洋において船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物を故意に処分すること。

(b)「投棄」には、次のことを含まない

 (i)船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物及びこれらのものの設備の通常の運用に付随し又はこれに伴って生ずる廃棄物その他の物を海洋において処分すること。ただし、廃棄物その他の物であって、その処分に従事する船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物によって又はこれらに向けて運搬されるもの及び当該船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物における当該廃棄物その他の物の処理に伴って生ずるものを処分することを除く。

 (ii)物を単なる処分の目的以外の目的で配置すること。ただし、その配置がこの条約の目的に反しない場合に限る。

(c)海底鉱物資源の探査及び開発並びにこれらに関連して行われる沖合における加工から直接又は間接に生ずる廃棄物その他の物の処分は、この条約の適用を受けない。

2「船舶及び航空機」とは、種類のいかんを問わず、水上、水中又は空中を移動する機器(自動推進式であるかどうかを問わず、エアクッション船及び浮遊機器を含む。)をいう。

3「海洋」とは、国の内水を除くすべての海域をいう。

4「廃棄物その他の物」とは、あらゆる種類、形状又は性状の物質をいう。

5「特別許可」とは、事前の申請に基づきかつ附属書I及び附属書IIの規定により個別的に与えられる許可をいう。

6「一般許可」とは、附属書IIIの規定により事前に与えられる許可をいう。

7「機関」とは、第十四条2の規定に基づいて締約国が指定する機関をいう。

第四条

1 締約国は、この条約の定めるところにより、次の(a)から(c)までに別段の定めがある場合を除くほか、廃棄物その他の物の投棄(その形態及び状態のいかんを問わない。)を禁止する。

(a)附属書Iに掲げる廃棄物その他の物の投棄は、禁止する。

(b)附属書IIに掲げる廃棄物その他の物の投棄は、事前の特別許可を必要とする。

(c)他のすべての廃棄物その他の物の投棄は、事前の一般許可を必要とする。

2 いずれの許可も、附属書IIIに掲げるすべての事項について慎重な考慮(附属書IIIB及びCに掲げる投棄場所の特性についての事前調査を含む。)が払われた後でなければ与えてはならない。

3 この条約のいかなる規定も、締約国が廃棄物その他の物であって附属書Iに掲げられていないものの投棄を自国について禁止することを妨げるものと解してはならない。当該締約国は、そのための措置を機関に通知する。

第五条

1 前条の規定は、荒天による不可抗力その他人命に対する危険又は船舶、航空機若しくはプラットフォームその他の人工海洋構築物に対する現実の脅威がある場合において人命又は船舶、航空機若しくはプラットフォームその他の人工海洋構築物の安全を確保することが必要であるときは、適用しない。ただし、投棄がその脅威を避けるための唯一の方法であると考えられること及び投棄の結果生ずる損害が投棄を行わなかつた場合に生ずる損害よりも少ないと十分に見込まれることを条件とする。投棄は、人命及び海洋生物に対する損害の可能性を最小限にするように行われなければならず、また、その投棄については、直ちに機関に報告されるものとする。

2 締約国は、人の健康に対して容認し難い危険をもたらしかつ、他のいかなる実行可能な解決策をも講ずることができない緊急の場合においては、前条1(a)の規定の例外として特別許可を与えることができる。当該締約国は、特別許可を与えるに先立ち、影響を受けるおそれがあるすべての国及び機関と協議するものとし、機関は、他の締約国及び適当な国際機関との協議の上、第十四条の規定により、当該締約国に対し、とるべき最も適した手続を速やかに勧告する。当該締約国は、措置をとるべき最終時点を考慮し及び海洋環境に対する損害を防止する一般的義務に即して実行可能な最大限度まで当該勧告に従うものとし、また、自国がとる措置を機関に通報する。締約国は、そのような状況において相互に援助することを誓約する。

3 締約国は、この条約の批准若しくは加入の時に又はその後に、2の規定に基づく自国の権利を放棄することができる。

第六条

1 各締約国は、次のことを行う一又は二以上の適当な当局を指定する。

(a)附属書IIに掲げる物の投棄及び前条2に規定する緊急の場合における投棄に必要な特別許可をその投棄に先立って与えること。

(b)他のすべての物の投棄に必要な一般許可をその投棄に先立って与えること。

(c)投棄を許可したすべての物の性質及び数量並びに投棄の場所、時期及び方法を記録すること。

(d)この条約の適用上、単独で又は他の締約国及び権限のある国際機関と協力して海洋の状態を監視すること。

2 締約国の適当な当局は、投棄が意図されている次の物につき、1の規定により事前の特別許可又は一般許可を与える。

(a)当該締約国の領域において積み込まれる物

(b)当該締約国の領域において登録された船舶若しくは航空機又は当該締約国を旗国とする船舶若しくは航空機にこの条約の締約国でない国の領域において積み込まれる物

3 適当な当局は、1(a)及び(b)に規定する許可を与えるに当たっては、附属書IIIの規定並びに適切と認める追加の基準措置及び要件に従う。

4 各締約国は、直接に又は地域的取極に基づいて設立される事務局を通じて、機関及び適当な場合には他の締約国に対し、1(c)及び(d)の定めることに係る情報並びに3の規定により採用する基準、措置及び要件を報告する。報告の手続及び性質は、締約国が協議の上合意する。

第七条

1 各締約国は、次のすべてのものにつき、この条約を突施するために必要な措置をとる。

(a)当該締約国の領域において登録され又は当該締約国を旗国とする船舶及び航空機

(b)投棄が意図されている物を当該締約国の領域において積み込む船舶及び航空機

(c)当該締約国の管轄の下にある船舶、航空機及び固定され又は浮いているプラットフォームで投棄を行っていると認められるもの

2 各締約国は、この条約の規定に違反する行為を防止し及び処罰するため、自国の領域において適当な措置をとる。

3 締約国は、この条約を特に公海において効果的に適用するための手続(この条約の規定に違反して投棄を行っていることが発見された船舶及び航空機についての報告に関する手続を含む。)の作成に協力することに同意する。

4 この条約は、他国の主権の及ばないことが国際法により認められている船舶及び航空機については、適用しない。もつとも、各締約国は、適当な措置をとることにより、自国が所有し又は運用する当該船舶及び航空機がこの条約の目的に沿って運用されることを確保するものとし、また、その措置を機関に通報する。

5 この条約のいかなる規定も、各締約国が海洋における投棄を防止するため国際法の諸原則に基づき他の措置をとる権利に影響を及ぼすものではない。

第八条

 この条約の目的を推進するため、特定の地理的区域における海洋環境について擁護すべき共通の利益を有する締約国は、地域的特性を考慮した上で、特に投棄による汚染を防止するため、この条約に適合する地域的取極を締結するように努める。地域的取極については、機関がこの条約の締約国に通告するものとし、この条約の締約国は、当該地域的取極の目的及び規定に即して行動するように努める。締約国は、この条約の締約国及び地域的取極の締約国が従うことができるような調和のとれた手続を作成するため、地域的取極の締約国と協力するように努める。監視及び科学的調査の分野における協力については、特別の考慮を払う。

第九条

 締約国は、次の事項に関して援助を要請する締約国に対し、機関その他の国際団体における協力を通じて援助を促進する。

(a)科学及び技術の分野における要員の訓練

(b)調査及び監視のために必要な設備及び施設の提供

(c)廃棄物の処分及び処理並びに投棄により生ずる汚染を防止し又は軽減するための他の措置

 これらの事項に関する援助は、関係国内において行われることがこの条約の目的を推進するために望ましい。

第十条

 締約国は、あらゆる種類の廃棄物その他の物の投棄が他の国の環境又は他のすべての区域の環境に与える損害についての国家責任に関する国際法の諸原則に基づき、投棄についての責任の評価及び投棄に関する紛争の解決のための手続を作成することを約束する。

第十一条

 締約国は、第一回締約国協議会議において、この条約の解釈及び適用に関する紛争の解決のための手続について検討する。

第十二条

 締約国は、権限のある専門機関その他の国際団体において、次の物によって生ずる汚染から海洋環境を保護するための措置を促進することを誓約する。

(a)炭化水素(油を含む。)及びその廃棄物

(b)その他の有害又は危険な物質であって投棄の目的以外の目的で船舶によって輸送されるもの

(c)船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物の運用によって生ずる廃棄物

(d)すべての原因から生ずる放射性汚染物質(船舶から生ずるものを含む。)

(e)化学兵器及び生物兵器を使用する戦争の用に供される物質

(f)海底鉱物資源の探査及び開発並びにこれらに関連して行われる沖合における加工から直接又は間接に生ずる廃棄物その他の物

 締約国は、また、適当な国際機関において、投棄を行っている船舶が使用する信号に関する規則の法典化を促進する。

第十三条

 この条約のいかなる規定も、国際連合総会決議第二千七百五十号C(第二十五回会期)に基づいて招集される国際連合海洋法会議による海洋法の法典化及び発展を妨げるものではなく、また、海洋法に関し並びに沿岸国及び旗国の管轄権の性質及び範囲に関する現在又は将来におけるいずれの国の主張及び法的見解をも害するものではない、締約国は、海洋法会議の後にかついかなる場合にも千九百七十六年以前に機関が招集する会議において、沿岸国が自国の海岸に接続する水域においてこの条約を適用する権利及び責任の性質及び範囲を定めるために協議することに同意する。

第十四条

1 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府は、寄託政府として、組織に関する事項について決定を行うため、この条約の効力発生の後三箇月以内に締約国会議を招集する。

2 締約国は、1の会議の時に存在する権限のある機関であって、この条約に関して事務局としての任務について責任を負うものを指定する。この条約の締約国あって当該機関の加盟国でないものは、当該機関がその任務を遂行するに当たって要した費用につき適当な拠出を行う。

3 機関の事務局の任務には、次のことが含まれる

(a)少なくとも二年に一回締約国協議会議を招集し、及び締約国の三分の二の要請がある場合にはいつでも締約国特別会議を招集すること。

(b)締約国及び適当な国際機関との協議の上、4(c)に規定する手続の作成及び実施について準備し及び援助すること。

(c)締約国からの照会及び情報を検討し、締約国及び適当な国際機関と協議し、並びにこの条約に関連する問題であってこの条約に特に規定されていないものに関して締約国に勧告を行うこと。

(d)第四条3、第五条1及び2、第六条4、次条、第二十条並びに第二十一条の規定に基づいて機関が受領したすべての通知を関係締約国に送付すること。

 機関の指定が行われるまでの間、これらの任務は、必要に応じて寄託政府が行うものとし、このための寄託政府は、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府とする。

4 締約国協議会議及び締約国特別会議は、この条約の実施について常に検討を行うものとし、特に次のことを行うことができる。

(a)この条約及び附属書を検討し並びに次条の規定によりこの条約及び附属書の改正を採択すること。

(b)科学の分野における適当な団体に対し、この条約(特に附属書の内容)に関連する科学的又は技術的側面につき締約国又は機関と協力し及び締約国又は機関に助言するよう要請すること。

(c)第六条の規定により行われた報告を受領し及び検討すること。

(d)海洋汚染の防止に関心を有する地域的機関との協力及びこれらの地域的機関の間における協力を促進すること。

(e)適当な国際機関との協議の上、第五条2の手続(例外的かつ緊急の場合を決定する基準を含む。)並びに助言のための協議の手続及び例外的かつ緊急の場合における物の安全な処分(適当な投棄区域の指定を含む。)のための手続を作成し又は採択し、並びにそれに従って勧告を行うこと。

(f)必要と認める追加の措置を検討すること。

5 締約国は、第一回締約国協議会議において、必要な手続規則を定める。

第十五条

1(a)この条約の改正は、前条の規定により招集される締約国会議において、出席する締約国の三分の二以上の多数による議決で採択することができる。改正は、締約国の三分の二が改正の受諾書を機関に寄託した後六十日目の日に、改正を受諾した締約国について効力を生ずる。その後は、改正は、他のいずれの締約国についても、当該他の締約国が改正の受諾書を寄託した後三十日で効力を生ずる。

(b)機関は、すべての締約国に対し、前条の規定による特別会議の要請、締約国会議において採択された改正及びその改正が各締約国について効力を生ずる日を通報する。

2 附属書の改正は、科学的又は技術的検討に基づいて行う。前条の規定により招集される会議において出席する締約国の三分の二以上の多数による議決で承認される附属書の改正は、改正を受諾する各締約国についてはその受諾を機関に通告した後直ちに、また、他のすべての締約国については会議による承認の後百日で効力を生ずる。ただし、改正を直ちに受諾することができない旨をその百日の終わりまでに宣言する締約国については、この限りでない。締約国は、会議における改正の承認の後できる限り速やかに、改正の受諾を機関に通告するように努めなければならない。締約国は、いつでも、先に行った異議の宣言に代えて受諾を行うことができるものとし、この場合において、先に異議の申し立てられた改正は、当該締約国について効力を生ずる。

3 この条の規定に基づく受諾又は異議の宣言は、機関に文書を寄託することによって行う。機関は、当該文書の受領をすべての締約国に通告する。

4 この条において機関に課される事務局の任務は、機関の指定が行われるまでの間、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府がこの条紛の寄託政府の一として暫定的に遂行する。

第十六条

 この条約は千九百七十二年十二月二十九日から千九百七十三年十二月三十一日まで、ロンドン、メキシコ・シティ、モスクワ及びワシントンにおいて、すべての国による署名のために開放しておく。

第十七条

 この条約は、批准されなければならない。批准書は、メキシコ政府、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府及びアメリカ合衆国政府に寄託する。

第十八条

この条約は、千九百七十三年十二月三十一日後は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、メキシコ政府、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府及びアメリカ合衆国政府に寄託する。

第十九条

1 この条約は、十五番目の批准書又は加入書の寄託の日の後三十日目の日に効力を生ずる。

2 この条約は、十五番目の批准書又は加入書の寄託の後に批准し又は加入する各締約国については、当該締約国による批准書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。

第二十条

 寄託政府は、締約国に対して次の事項を通報する。

(a)第十六条から第十八条まで及び次条の規定に基づいて行われたこの条約の署名、批准書又は加入書の寄託及び脱退

(b)この条約が前条の規定により効力を生ずる日

第二十一条

 締約国は、寄託政府に対し六箇月前に文書による予告を行うことにより、この条約から脱退することができるものとし、また、寄託政府は、すべての締約国に対し速やかに当該予告を通報する。

第二十二条

 英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、メキシコ政府、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府及びアメリカ合衆国政府に寄託するものとし、これらの政府は、その認証謄本をすべての国に送付する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 千九百七十二年十二月二十九日にロンドン、メキシコ・シティ、モスクワ及びワシントンで本書4通を作成した。