データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連環境計画(UNEP)特別会合(ナイロビ会議)における宣言(ナイロビ宣言)

[場所] ストックホルム
[年月日] 1982年5月18日
[出典] 環境白書
[備考] 
[全文]

 ストックホルムで開催された国際連合人間環境会議の10周年を記念して、1982年5月10日から18日までの間、ナイロビに参集した諸国で構成された世界共同体は、同会議において採択された宣言及び行動計画を実施するため講じられた諸措置を検討した結果、これまでに達成された成果を更に発展させるように各国政府及び国民に対し厳粛に要請するとともに、世界環境の現状について重大な懸念を表明し、かつ、世界環境を保全し及び改善するために全世界的、地域的及び国内的な努力を一層強化する緊急の必要性があることを確認する。

1. ストックホルム会議は、人間環境のぜい弱さについての公衆の認識と理解を深める上で大きな力となった。これ以降、環境科学の大きな進歩が見られた。教育、広報活動及び研修は、著しく充実された。ほとんどすべての国において、環境法令が制定され、また、相当数の国において、環境保全のための規定が憲法の中に定められた。国際連合環境計画(UNEP)のほか、あらゆる場において、新たな政府機関及び非政府機関が設立され、また、環境面での協力に関する多くの重要な国際取決めが締結された。ストックホルム宣言の諸原則は、1972年当時と同様に今日もなお有効である。これらの原則は、将来にわたって環境に係る基本的な行動指針となる。

2. しかしながら、主として環境保全の長期的な価値についての洞察と理解が不十分であったため、また、環境保全の方法と努力に関する調整が適切でなかったため、さらには、資源が活用できず、その配分も不公平であったという理由によって、環境保全のための行動計画は、部分的に実施されただけであり、その結果は、満足できるものではない。これらの理由により、行動計画は、国際社会全体に対し十分な効果をもたらさなかった。幾つかの無統制又は無計画な人間の行為は、ますます環境悪化を引き起こしている。森林の減少、土壌及び水質の悪化並びに砂漠化は、驚くべき規模のものとなりつつあり、世界の多くの地域において、生活条件を深刻に脅かしている。劣悪な環境条件に伴う疾病は、人類に悲惨な状況をもたらし続けている。オゾン層の変化、二酸化炭素濃度の上昇、酸性雨等の大気の変化、海洋及び内水の汚染、有害物質の不注意な使用及び処分並びに動植物の種の絶滅は、人間環境に対する一層の深刻な脅威となっている。

3. 過去10年間に、新たな認識が生まれた。すなわち、環境の管理及び評価の必要性、環境、開発、人口及び資源の間の密接かつ複雑な相互関係、並びに特に都市部において人口増加により生じた環境への圧迫が、広く認識されるようになった。この相互関係を重視した総合的で、かつ、地域ごとに統一された方策に縦うことは、環境的に健全で、かつ、持続的な社会経済の発展を実現させる。

4. 環境に対する脅威は、浪費的な消費形態のほか貧困によっても増大する。双方とも人々に環境を過度に利用させる可能性がある。したがって、第3次国際連合開発の10年のための国際開発戦略及び新国際経済秩序の樹立は、環境悪化を防止し、かつ、改善するための全地球的な努力の主要手段の一つである。市場機構と計画機構を連携させることもまた、健全な開発並びに環境及び資源の合理的な管理に資する。

5. アパルトヘイト、人種隔離、あらゆる形態の差別、植民地その他の形態の抑圧及び他国による支配がないほか、戦争、特に核戦争の脅威並びに軍備のための知的資源及び天然資源の浪費のない平和で安全な国際情勢が人間環境に資するところは、大きいであろう。

6. 環境問題の多くは、国境を越えるものであり、適当な場合には、国家間の協議と国際的な協調行動を通じ、すべての国の利益のために解決されるべきである。したがって、各国は、条約や取決めを含む環境法の漸進的発展を促進し、学術研究及び環境管理のための協力を拡充すべきである。

7. 当該諸国の力の及ばない外的要因を含む低開発状態に起因する環境上の欠陥は、深刻な問題を提起しているが、これらの問題は、国内及び国家間の技術的及び経済的資源の一層公平な配分によって対処することができる。先進諸国及び環境破壊を被っている開発途上国を支援すべき立場にある諸国は、当該開発途上国がその最も深刻な環境問題に対処するため行っている国内的な努力を支援すべきである。天然資源の保全と両立する経済的及び社会的な進歩は、適当な技術、特に他の開発途上国からの適当な技術を利用することによって可能となるであろう。

8. 天然資源の開発及び利用のための環境的に健全な管理方法を開発するために、また、伝統的な牧畜方法を近代化するために、より一層の努力が必要である。資源の代替、再利用及び保全を促進する際には、技術革新の役割に特に注意が払われるべきである。伝統的及び在来型エネルギー源の急速な枯渇は、エネルギー及び環境の効果的管理及び保全に対し、新しく困難な問題を提起している。国家又は国家の集団の間における合理的なエネルギー計画の策定は、有益であろう。新・再生可能エネルギー源の開発といった措置は、環境に対し、非常に有益な効果を有するであろう。

9. 環境に対する被害を予防することは、既に発生した被害を多くの労力と費用をかけて修復することよりも望ましい。予防措置の中には、環境に影響を及ぼすすべての行為に係る適当な計画の策定が含まれねばならない。広報、教育及び研修を通じて環境の重要性に対する一般的及び政治的な認識を高めることもまた重要である。環境を改善するためには、各人の責任ある行動と参画が不可欠である。この分野においては、非政府機関が特に重要な、かつ、しばしば啓発的な役割を担っている。多国籍企業を含むすべての企業は、工業生産の方法若しくは技術を採用する際、又はこれらを他国へ輸出する際、環境についての自らの責任を十分に認識すべきである。この点に関しては、時宜を得た、かつ、適切な立法措置が重要である。

10. 諸国で構成された世界共同体は、環境保全の分野における国家努力及び国際協力の一層の強化及び拡大に関する約束と同様にストックホルム宣言及び行動計画についての支持を厳粛に再確認する。世界共同体は、また、全地球的な環境についての協力に係る主要な触媒的な機関としてのUNEPを強化するための支援を再確認するとともに、環境問題に対処するため、特に環境基金を通じて利用可能な資源を増加させることを訴える。世界共同体は、我我の小さな惑星が人間としての尊厳ある生活を万人に保証するような状態で将来の世代に引き継がれること確保するため、世界のすべての政府及び国民対し集団的に個別的に、その歴史的責任を果たすように要請する。