データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] オゾン層の保護のためのウィーン条約

[場所] ウィーン
[年月日] 1985年3月22日
[出典] 外務省条約局,条約集(昭和63年 多数国間条約),1567‐1598貢.
[備考] 
[全文]

昭和六十年三月二十二日 ウィーンで作成

昭和六十三年九月二十二日 効力発生

昭和六十三年四月二十七日 国会承認

昭和六十三年九月三十日 加入の閣議決定

昭和六十三年十二月二十七日 公布及び告示(条約第八号及び外務省告示第六五八号)

昭和六十三年十二月二十九日 我が国について効力発生

 前文

 この条約の締約国は、

 オゾン層の変化が人の健康及び環境に有害な影響を及ぼすおそれのあることを認識し、

 国際連合人間環境会議の宣言の関連規定、特に、「諸国は、国際連合憲章及び国際法の諸原則に基づき、自国の資源をその環境政策に従って開発する主権的権利を有し、及び自国の管轄又は管理の下における活動が他国の環境又は国の管轄の外の区域の環境を害しないことを確保することについて責任を有する」と規定する原則21を想起し、

 開発途上国の事情及び特別な必要を考慮し、

 国際機関及び国内機関において進められている作業及び研究、特に国際連合環境計画のオゾン層に関する世界行動計画に留意し、

 国内的及び国際的に既にとられているオゾン層の保護のための予防措置に留意し、

 人の活動に起因するオゾン層の変化を防止するための措置は、国際的な協力及び活動を必要とすること並びに関連のある科学的及び技術的考慮に基づくべきであることを認識し、

 オゾン層及びその変化により生ずるおそれのある悪影響についての科学的知識を一層増進させるため、一層の研究及び組織的観測が必要であることを認識し、

 オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康及び環境を保護することを決意して、

 次のとおり協定した。

 第一条 定義

 この条約の適用上、

1 「オゾン層」とは、大気境界層よりも上の大気オゾンの層をいう。

2 「悪影響」とは、自然環境又は生物相の変化(気候の変化を含む。)であつて、人の健康、自然の生態系及び管理された生態系の構成、回復力及び生産力又は人類に有用な物質に対し著しく有害な影響を与えるものをいう。

3 「代替技術」又は「代替装置」とは、その使用により、オゾン層に悪影響を及ぼし又は及ぼすおそれのある物質の放出を削減し又は実質的に無くすことを可能にする技術又は装置をいう。

4 「代替物質」とは、オゾン層に対する悪影響が削減され、除去され又は回避される物質をいう。

5 「締約国」とは、文脈により別に解釈される場合を除くほか、この条約の締約国をいう。

6 「地域的な経済統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成され、この条約又はその議定書が規律する事項に関して権限を有し、かつ、その内部手続に従ってこの条約若しくはその議定書の署名、批准、受諾、承認又はこの条約若しくはその議定書への加入が正当に委任されている機関をいう。

7 「議定書」とは、この条約の議定書をいう。

 第二条 一般的義務

1 締約国は、この条約及び自国が締約国であり、かつ、効力が生じている議定書に基づき、オゾン層を変化させ又は変化させるおそれのある人の活動の結果として生じ又は生ずるおそれのある悪影響から人の健康及び環境を保護するために適当な措置をとる。

2 締約国は、この日的のため、利用することができる手段により及び自国の能力に応じ、

(a) 人の活動がオゾン層に及ぼす影響並びにオゾン層の変化が人の健康及び環境に及ぼす影響を一層理解し及び評価するため、組織的観測、研究及び情報交換を通じて協力する。

(b) 自国の管轄又は管理の下における人の活動がオゾン層を変化させ又は変化させるおそれがあり、その変化により悪影響が生じ又は生ずるおそれのあることが判明した場合には、当該活動を規制し、制限し、縮小し又は防止するため、適当な立法措置又は行政措置をとり及び適当な政策の調整に協力する。

(c) 議定書及び附属書の採択を目的として、この条約の実施のための合意された措置、手続及び基準を定めることに協力する。

(d) この条約及び自国が締約国である議定書を効果的に実施するため、関係国際団体と協力する。

3 この条約は、締約国が1及び2の措置のほかに追加的な国内措置を国際法に従ってとる権利に影響を及ぼすものではなく、また、締約国により既にとられている追加的な国内措置に影響を及ぼすものではない。ただし、当該追加的な国内措置は、この条約に基づく締約国の義務に抵触するものであつてはならない。

4 この条の規定は、関連のある科学的及び技術的考慮に基づいて適用する。

 第三条 研究及び組織的観測

1 締約国は、適宜、直接に又は関係国際団体を通じて次の事項並びに附属書I及び附属書IIに定める事項に関する研究及び科学的評価に着手すること並びにその実施に協力することを約束する。

(a) オゾン層に影響を及ぼす可能性のある物理学的及び化学的過程

(b) オゾン層の変化が及ぼす人の健康に対する影響その他の生物学的影響、特に、生物学的影響のある太陽紫外放射(UV‐B)の変化が及ぼす影響

(c) オゾン層の変化が及ぼす気候的影響

(d) オゾン層の変化及びそれに伴うUV‐Bの変化が人類に有用な天然及び合成の物質に及ぼす影響

(e) オゾン層に影響を及ぼす可能性のある物質、習慣、製法及び活動並びにこれらの累積作用

(f) 代替物質及び代替技術

(g) 関連のある社会経済問題

2 締約国は、附属書Iに定めるオゾン層の状態及び他の関連要素の組織的観測のための共同の又は相互に補完的な計画を、直接に又は関係国際団体を通じ、国内法並びに国内的及び国際的に行われている関連活動を十分に考慮して適宜推進し又は策定することを約束する。

3 締約国は、適当な世界的な資料センターを通じた研究資料及び観測資料の収集、確認及び送付が定期的かつ適時に行われることを確保するため直接に又は関係国際団体を通じて協力することを約束する。

 第四条 法律、科学及び技術の分野における協力

1 締約国は、附属書IIに定めるところにより科学、技術、社会経済、商業及び法律に関する情報であってこの条約に関連のあるものの交換を円滑にし及び奨励する。当該情報は、締約国の合意する団体に提供する。当該団体は、情報を提供する締約国により秘密とされた情報を提供された場合には、当該情報がすべての締約国により入手可能となるまで、その秘密性を保護するため、当該情報を開示しないことを確保し、一括して保管する。

2 締約国は、自国の法令及び慣行に従い、開発途上国の必要を特に考慮して、技術及び知識の発展及び移転を直接に又は関係国際団体を通じて促進することに協力するその協力は、特に次の手段を通じて実施する。

(a) 他の締約国による代替技術の取得の円滑化

(b) 代替技術及び代替装置に関する情報及び特別の手引書又は案内書の提供

(c) 研究及び組織的観測に必要な装置及び設備の提供

(d) 科学上及び技術上の要員の適当な訓練

 第五条 情報の送付

締約国は、次条の規定に基づいて設置される締約国会議に対し、事務局を通じて、この条約及び自国が締約国である議定書の実施のためにとった措置に関する情報を、この条約又は関連議定書の締約国の会合が決定する書式及び間隔で送付する。

 第六条 締約国会議

1 この条約により締約国会議を設置する。締約国会議の第一回会合は、次条の規定により暫定的に指定される事務局がこの条約の効力発生の後一年以内に招集する。その後は、締約国会議の適常会合は、第一回会合において決定する一定の間隔で開催する。

2 締約国会議の特別会合は、締約国会議が必要と認めるとき又は締約国から書面による要請のある場合において事務局がその要請を締約国に通報した後六箇月以内に締約国の少なくとも三分の一がその要請を支持するとき、開催する。

3 締約国会議は、締約国会議及び締約国会議が設置する補助機関の手続規則及び財政規則並びに事務局の任務の遂行のための財政規定をコンセンサス方式により合意し及び採択する。

4 締約国会議は、この条約の実施状況を絶えず検討し、更に次のことを行う。

(a) 前条の規定に従って提出される情報の送付のための書式及び間隔を決定すること並びに当該情報及び補助機関により提出される報告を検討すること。

(b) オゾン層、生ずる可能性のあるオゾン層の変化及びその変化により生ずる可態性のある影響に関する科学上の情報を検討すること。

(c) オゾン層を変化させ又は変化させる可能性のある物質の放出を最小にするための適当な政策、戦略及び措置の調整を第二条の規定に基づき促進すること並びにこの条約に関連のある他の措置に関して勧告を行うこと。

(d) 第三条及び第四条の規定に基づき、研究、組織的観測、科学上及び技術上の協力、情報の交換並びに技術及び知識の移転のための計画を採択すること。

(e) 必要に応じ、第九条及び第十条の規定に基づいてこの条約及びその附属書の改正を検討し及び採択すること。

(f) 議定書及びその附属書の改正を検討すること並びに改正が決定された場合には、当該議定書の締約国に対し当該改正を採択するよう勧告すること。

(g) 必要に応じ、第十条の規定に基づいてこの条約の追加附属書を検討し及び採択すること。

(h) 必要に応じ、第八条の規定に基づいて議定書を検討し及び採択すること。

(i) この条約の実施に必要と認められる補助機関を設置すること。

(j) 適当な場合には、関係国際団体及び科学委員会、特に世界気象機関、世界保健機関及びオゾン層調整委員会に対し、科学的研究、組織的観測その他この条約の目的に関連する活動に係る役務の提供を求めること並びに適宜これらの団体及び委員会からの情報を利用すること。

(k) この条約の目的の達成のために必要な追加的な行動を検討し及びとること。

5 国際連合、その専門機関及び国際原子力機関並びにこの条約の締約国でない国は、締約国会議の会合にオブザーバーを出席させることができる。オゾン層の保護に関連のある分野において認められた団体又は機関(国内若しくは国際の又は政府若しくは非政府のもののいずれであるかを問わない。)であつて、締約国会議の会合にオブザーバーを出席させることを希望する旨事務局に通報したものは、当該会合に出席する締約国の三分の一以上が反対しない限り、オブザーバーを出席させることを認められる。オブザーバーの出席及び参加は、締約国会議が採択する手続規則の適用を受ける。

 第七条 事務局

1 事務局は、次の任務を遂行する。

(a) 前条及び次条から第十条までに規定する会合を準備し及びその会合のための役務を提供すること。

(b) 第四条及び第五条の規定により受領した情報並びに前条の規定により設置される補助機関の会合から得られる情報に基づく報告書を作成し及び送付すること。

(c) 議定書により課された任務を遂行すること。

(d) この条終に基づく任務を遂行するために行った活動に関する報告書を作成し及びその報告書を締約国会議に提出すること。

(e) 他の関係国際団体との必要な調整を行うこと。特に、その任務の効果的な遂行のために必要な事務的な及び契約上の取決めを行うこと。

(f) 締約国会議が決定する他の任務を遂行すること。

2 事務局の任務は、前条の規定に従って開催される締約国会議の第一回通常会合が終了するまでは、国際連合環境計画が暫定的に遂行する。締約国会議は、第1回通常会合において、この条約に基づく事務局の任務を遂行する意思を表明した既存の関係国際機関の中から事務局を指定する。

 第八条 議定書の採択

1 締約国会議は、その会合において、第二条の規定により議定書を採択することができる。

2 議定書案は、締約国会議の会合の少なくとも六箇月前に事務局が締約国に通報する。

 第九条 この条約及び議定書の改正

1 締約国は、この条約及び議定書の改正を提案することができる。改正に当たっては、特に、関連のある科学的及び技術的考慮を十分に払うこととする。

2 この条約の改正は、締約国会議の会合において採択する。議定書の改正は、当該議定書の締約国の会合において採択する。この条約及び議定書の改正案は、当該議定書に別段の定めがある場合を除くほか、その採択が提案される会合の少なくとも六箇月前に事務局が締約国に通報する。事務局は、改正案をこの条約の署名国にも参考のために通報する。

3 締約国は、この条約の改正案につき、コンセンサス方式により合意に達するようあらゆる努力を払う。コンセンサスのためのあらゆる努力にもかかわらず合意に達しない場合には、改正案は、最後の解決手段として、当該会合に出席しかつ投票する締約国の四分の三以上の多数票による議決で採択するものとし、寄託者は、これをすべての締約国に対し批准、承認又は受諾のために送付する。

4 3の手続は、議定書の改正について準用する、ただし、議定書の改正案の採択は、当該会合に出席しかつ投票する当該議定書の締約国の三分の二以上の多数票による議決で足りる。

5 改正の批准、承認又は受諾は、寄託者に対して書面により通告する。3又は4の規定に従って採択された改正は、この条約の締約国の少なくとも四分の三又は関連議定書の締約国の少なくとも三分の二の批准、承認又は受諾の通告を寄託者が受領した後九十日目の日に、当該改正を批准し、承認し又は受諾した締約国の間で効力を生ずる。その後は、改正は、他の締約国が当該改正の批准書、承認書又は受諾書を寄託した後九十日目の日に当該他の締約国について効力を生ずる。ただし、関連議定書に改正の発効要件について別段の定めがある場合を除く。

6 この条の規定の適用上、「出席しかつ投票する締約国」とは、出席しかつ賛成票又は反対票を投ずる締約国をいう。

 第十条 附属書の採択及び改正

1 この条約の附属書又は議定書の附属書は、それぞれ、この条約又は当該議定書の不可分の一部を成すものとし、「この条約」又は「議定書」というときは、別段の明示の定めがない限り、附属書を含めていうものとする。附属書は、科学的、技術的及び管理的な事項に限定される。

2 この条約の追加附属書又は議定書の附属書の提案、採択及び効力発生については、次の手続を適用する。ただし、議定書に当該議定書の附属書に関して別段の定めがある場合を除く。

(a) この条約の附属書は前条の2及び3に定める手続を準用して提案され及び採択され、議定書の附属書は同条の2及び4に定める手続を準用して提案され及び採択される。

(b) 締約国は、この条約の追加附属書又は自国が締約国である議定書の附属書を承認することができない場合には、その旨を、寄託者が採択を通報した日から六箇月以内に寄託者に対して書面により通告する。寄託者は、受領した通告をすべての締約国に遅滞なく通報する。締約国は、いつでも、先に行った異議の宣言に代えて受諾を行うことができるものとし、この場合において、附属書は、当該締約国について効力を生ずる。

(c) 附属書は、寄託者による採択の通報の送付の日から六箇月を経過した時に、(b)の規定に基づく通告を行わなかつたこの条約又は関連議定書のすべての締約国について効力を生ずる。

3 この条約の附属書及び議定書の附属書の改正の提案、採択及び効力発生は、この条約の附属書及び議定書の附属書の提案、採択及び効力発生と同一の手続に従う。附属書の作成及び改正に当たっては、特に、関連のある科学的及び技術的考慮を十分に払うこととする。

4 附属書の追加又は改正がこの条約又は議定書の改正を伴うものである場合には、追加され又は改正された附属書は、この条約又は当該議定書の改正が効力を生ずる時まで効力を生じない。

 第十一条 紛争の解決

1 この条約の解釈又は適用に関して締約国間で紛争が生じた場合には、紛争当事国は、交渉により紛争の解決に努める。

2 紛争当事国は、交渉により合意に達することができなかつた場合には、第三者によるあっせん又は仲介を共同して求めることができる。

3 国及び地域的な経済統合のための機関は、1又は2の規定により解決することができなかつた紛争について、次の紛争解決手段の一方又は双方を義務的なものとして受け入れることをこの条約の批准、受諾、承認若しくはこれへの加入の際に又はその後いつでも、寄託者に対し書面により宣言することができる。

(a)締約国会議が第一回通常会合において採択する手続に基づく仲裁

(b)国際司法裁判所への紛争の付託

4 紛争は、紛争当事国が3の規定に従って同一の紛争解決手段を受け入れている場合を除くほか、当該紛争当事国が別段の合意をしない限り、5の規定により調停に付する。

5 いずれかの紛争当事国の要請があつたときは、調停委員会が設置される。調停委員会は、各紛争当事国が指名する同数の委員及び指名された委員が共同で選出する委員長によって構成される。調停委員会は、最終的かつ勧告的な裁定を行い、紛争当事国は、その裁定を誠実に検討する。

6 この条の規定は、別段の定めがある議定書を除くほか、すべての議定書について準用する。

 第十二条 署名

 この条約は、千九百八十五年三月二十二日から同年九月二十一日まではウィーンにあるオーストリア共和国連邦外務省において、同年九月二十二日から千九百八十六年三月二十一日まではニュー・ヨークにある国際連合本部において、国及び地域的な経済統合のための機関による署名のために開放しておく。

 第十三条 批准、受諾又は承認

1 この条約及び議定書は、国及び地域的な経済統合のための機関により批准され、受諾され又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、寄託者に寄託する。

2 この条約又は議定書の締約国となる1の機関で当該機関のいずれの構成国も締約国となっていないものは、この条約又は関連議定書に基づくすべての義務を負う。当該機関及びその一又は二以上の構成国がこの条約又は同一の議定書の締約国である場合には、当該機関及びその構成国は、この条約又は当該議定書に基づく義務の履行につきそれぞれの責任を決定する。この場合において、当該機関及びその構成国は、この条約又は当該議定書に基づく権利を同時に行使することができない。

3 1の機関は、この条約又は議定書の規律する事項に関する当該機関の権限の範囲をこの条約又は関連議定書の批准書、受諾書又は承認書において宣言する。当該機関は、また、その権限の範囲の実質的な変更を寄託者に通報する。

 第十四条 加入

1 この条約及び議定書は、この条約及び議定書の署名のための期間の終了後は、国及び地域的な経済統合のための機関による加入のために開放しておく。加入書は、寄託者に寄託する。

2 1の機関は、この条約又は議定書の規律する事項に関する当該機関の権限の範囲をこの条約又は関連議定書への加入書において宣言する。当該機関は、また、その権限の範囲の実質的な変更を寄託者に通報する。

3 前条2の規定は、この条約又は議定書に加入する地域的な経済統合のための機関についても適用する。

 第十五条 投票権

1 この条約又は議定書の各締約国は、一の票を有する。

2 地域的な経済統合のための機関は、1の規定にかかわらず、その権限の範囲内の事項について、この条約又は関連議定書の締約国であるその構成国の数と同数の票を投票する権利を行使する。当該機関は、その構成国が自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。

 第十六条 この条約と議定書との関係

1 国及び地域的な経済統合のための機関は、この条約の締約国である場合又は同時にこの条約の締約国となる場合を除くほか、議定書の締約国となることができない。

2 議定書に関する決定は、当該議定書の締約国が行う。

 第十七条 効力発生

1 この条約は、二十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の日の後九十日目の目に効力を生ずる。

2 議定書は、当該議定書に別段の定めがある場合を除くほか、十一番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の日の後九十日目の日に効力を生ずる。

3 この条約は、二十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の後にこれを批准し、受諾し、承認し又はこれに加入する締約国については、当該締約国による批准書、受講者、承認書又は加入書の寄託の日の後九十日目の日に効力を生ずる。

4 議定書は、当該議定書に別段の定めがある場合を除くほか、2の規定に基づいて効力が生じた後にこれを批准し、受諾し、承認し又はこれに加入する締約国については、当該締約国が批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託した日の後九十日目の日又はこの条約が当該締約国について効力を生ずる日のいずれか遅い日に効力を生ずる。

5 地域的な経済統合のための機関によって寄託される文書は、1及び2の規定の適用上、当該機関の構成国によって寄託されたものに追加して数えてはならない。

 第十八条 留保

 この条約については、留保は、付することができない。

 第十九条 脱退

1 締約国は、自国についてこの条約が効力を生じた日から四年を経過した後いつでも、寄託者に対して書面による脱退の通告を行うことにより、この条約から脱退することができる。

2 議定書の締約国は、当該議定書に別段の定めがある場合を除くほか、自国について当該議定書が効力を生じた日から四年を経過した後いつでも、寄託者に対して書面による脱退の通告を行うことにより、当該議定書から脱退することができる。

3 1及び2の脱退は、寄託者が脱退の通告を受領した日の後一年を経過した日又はそれよりも遅い日であって脱退の通告において指定されている日に効力を生ずる。

4 この条約から脱退する締約国は、自国が締約国である議定書からも脱退したものとみなす。

 第二十条 寄託者

1 国際連合事務総長は、この条約及び議定書の寄託者の任務を行う。

2 寄託者は、締約国に対し、特に次の事項を通報する。

(a)この条約及び議定書の署名並びに第十三条及び第十四条の規定に基づく批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託

(b)第十七条の規定に基づきこの条約及び議定書が効力を生ずる日

(c)前条の規定に基づく脱退の通告

(d)第九条の規定に基づくこの条約及び議定書に関して採択された改正、締約国によるその受諾並びにその効力発生の日

(e)第十条の規定に基づいて行われる附属書の採択、承認及び改正に関するすべての通告

(f)この条約及び議定書の規律する事項に関する地域的な経済統合のための機関の権限の範囲及びその変更についての当該機関による通報

(g)第十一条3の規定に基づく宣言

 第二十一条 正文

 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。

 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

 千九百八十五年三月二十二日にウィーンで作成した。

 附属書I 研究及び組織的観測

1 締約国は、主要な科学的問題が次のとおりであることを認識する。

(a)生物学的影響のある太陽紫外放射(UV‐B)の地表に到達する量を変化させると考えられるオゾン層の変化並びにその結果として人の健康、生物、生態系及び人類に有用な物質に生じ得る影響

(b)大気の温度構造を変化させ得るオゾンの鉛直分布の変化並びにその結果として気象及び気候に生じ得る影響

2 締約国は、第三条の規定に基づき、次の分野において研究及び組織的観測を実施し並びに将来の研究及び観測に関する勧告を作成するため協力する。

(a)大気の物理及び化学に関する研究

(i)包括的な理論モデルに係る事項

 放射過程、力学的過程及び化学的過程の間の相互作用を考慮したモデルの一層の開発、人工及び天然の各種の物質が同時に大気オゾンに及ぼす影響の研究、人工衛星その他による観測資料の解釈並びに大気科学的及び地球物理学的要素の変化傾向の評価並びに当該要素の変化の原因を特定する方法の開発

(ii)屋内研究に係る事項

 速度係数、吸収断面積、対流圏及び成層圏における化学的及び光化学的過程の仕組み並びにすべての関連のあるスペクトル領域における屋外観測を支援する分光学的資料

(iii)屋外観測に係る事項

 天然及び人工起源の重要な気体成分の濃度及びフラックス、大気力学に関する研究、直接測定及び遠隔測定の機器を使用して行う大気境界層よりも上にある光化学的に関連のある物質の同時測定、異なる感知器の相互比較(人工衛星に搭載する計測器のための相互に関係する共同観測を含む。)並びに重要な大気数量成分、太陽スペクトルフラックス及び気象要素の三次元的な場

(iv)大気数量成分、太陽フラックス及び気象要素を測定するための感知器(人工衛星用であるかないかを問わない)を含む計測器の開発

(b)健康上及び生物学上の影響並びに光分解の影響に関する研究

(i)可視及び紫外の太陽放射の人体に対する照射と(a)皮膚がん(黒色腫{腫にしゅとルビ}のものであるかないかを問わない。)の進行との関係及び(b)免疫機構への影響との関係

(ii)UV‐Bが(a)農作物、森林その他の陸上生態系並びに(b)水中の食物網及び漁業に及ぼす影響(波長依存性を含む。)。この場合において、水中の食物網及び漁業に及ぼす影響には、海洋植物プランクトンの酸素発生に及ぼす悪影響を含む。

(iii)UV‐Bが生体物質、種及び生態系に作用する仕組み(UV‐Bの線量及び線量率と応答との関係並びに光回夜、順応及び防護を含む。)

(iv)諸波長領域の相互作用の可能性を考慮に入れるために多色光放射を使用して行う生物学的作用スペクトル及びスペクトル応答の研究

(v)UV‐Bが生物圏の平衡に重要な生物の種の感受性及び活性並びに光合成及び生合成のような一次過程に及ぼす影響

(vi)UV‐Bが汚染物質、農業用化学物質その他の物質の光分解に及ぼす影響

(c)気候への影響に関する研究

(i)オゾンその他の微量成分が放射に及ぼす影響並びにこれが地表及び海面の温度、降水分布、対流圏と成層圏との間の交換のような気候要素に及ぼす影響の理論的研究及び観測による研究

(ii)(i)の気候への影響が人の活動の諸側面に及ぼす影響の調査

(d)組織的観測

(i)人工衛星による観測網及び地上の観測網を統合した全球オゾン観測組織を最大限に活動させることによるオゾン層の状態(すなわち、気柱全量及び鉛直分布の空間的及び時間的変動)の観測

(ii)水素酸化物、窒素酸化物、塩素酸化物及び炭素化合物の元となる気体の対流圏及び成層圏における濃度の観測

(iii)地上の観測網及び人工衛星による観測網の双方を利用した地表から中間圏までの温度の観測

(iv)人工衛星による測定を利用した地球の大気圏に到達する波長別の太陽フラックス及び地球の大気圏外への熱放射の観測

(v)地表に到達する太陽フラックスであって生物学的影響のある紫外領域のものの波長別の観測

(vi)地上及び空中の観測網並びに人工衛星による観測網を利用した地表から中間圏までにおけるエーロゾルの性質及び分布の観測

(vi)地上における高水準の気象観測事業の維持による気候上重要な要素の観測

(viii)地球的規模の資料を解析するための改良された手法を用いた微量成分、温度、太陽フラックス及びユーロゾルの観測

3 締約国は、開発途上国の特別な必要を考慮して、この附属書に定める研究及び組織的観測に参加するために必要な科学的及び技術的訓練を促進するため協力する。比較可能な又は標準化された科学的資料を作成するため、特に観測機器及び手法の相互校正に重点を置く

4 次に掲げる天然及び人工起源の化学物質(順序不同)は、オゾン層の化学的及び物理学的性質を変化させる可能性があると考えられている。

(a)炭素を含む物質

(i)一酸化炭素(CO)

 一酸化炭素は、天然及び人工の発生源から大量に発生しており、対流圏内の光化学において主要なかつ直接の役割及び成層圏内の光化学において間接の役割を果たすと考えられている。

(ii)二酸化炭素(CO2

 二酸化炭素は、天然及び人工の発生源から大量に発生しており、大気の熱構造に影響を及ぼすことにより成層圏のオゾンに影響を及ぼす。

(iii)メタン(CH4

 メタンは、天然及び人工の発生源を有しており、対流圏及び成層圏のオゾンに影響を及ぼす。

(iv)非メタン炭化水素

 非メタン炭化水素は、多種の化学物質として存在し、天然及び人工の発生源を有しており、対流圏内の光化学において直接の役割及び成層圏内の光化学において間接の役割を果たす。

(b)窒素を含む物質

(i)一酸化二窒素(N2O)

 一酸化二窒素は、その主たる発生源が天然のものであるが、人工のものの重要性が高まりつつある。一酸化二窒素は、成層圏のオゾンの量の調節に決定的な役割を果たす成層圏の窒素酸化物の主要な元である。

(ii)窒素酸化物(NOx

 地上の発生源からの窒素酸化物は、対流圏内の光化学においてのみ主要なかつ直接の役割を、成層圏内の光化学において間接の役割を果たすが、対流圏界面近くにおける窒素酸化物の注入は、対流圏上部及び成層圏のオゾンの変化を直接引き起こす可能性がある。

(c)塩素を含む物質

(i)完全にハロゲン化されたアルカン類、例えば、CCl4、CFCl3(CFC‐11)、CF2Cl2(CFC‐12)、C23Cl3(CFC‐113)、C24Cl2(CFC‐114)

 完全にハロゲン化されたアルカン類は、人工的なものであり、塩素酸化物の元となる。この塩素酸化物は、特に高度三十キロメートルから五十キロメートルまでの領域におけるオゾンの光化学において決定的な役割を果たす。

(ii)部分的にハロゲン化されたアルカン類、例えば、CH3Cl、CHF2Cl(CFC‐22)、CH3CCl3、CHFCl2(CFC‐21)

 一塩化メタンの発生源は、天然のものであるが、その他の部分的にハロゲン化されたアルカン類でこの(ii)に例示されたものの起源は、人工的なものである。部分的にハロゲン化されたアルカン類の気体は、また、成層圏の塩素酸化物の元となる。

(d)臭素を含む物質

 完全にハロゲン化されたアルカン類、例えば、CF3Br

 完全にハロゲン化されたアルカン類の気体は、人工的なものであり、塩素酸化物と同様の挙動を示す臭素酸化物の元となる。

(e)水素を含む物質

(i)水素(H2

 水素は、その発生源が天然及び人工のものであり、成層圏における光化学において副次的役割を果たす。

(ii)水(H2O)

 水は、その発生源が天然のものであり、対流圏内及び成層圏内の光化学において決定的な役割を果たす。水蒸気の成層圏における発生源には、メタンの酸化及び少量ではあるが水素の酸化が含まれる。

 附属書II 情報の交換

1 締約国は、情報の収集及び共有が条約の目的を達成するため及びとられるべき措置が適当かつ衡平であることを確保するための重要な手段であることを認識する。よつて、締約国は、科学、技術、社会経済、商業及び法律に関する情報を交換する。

2 締約国は、収集し及び交換する情報を決定するに当たり、情報の有用性及び取得費用を考慮すべきである。締約国は、更に、この附属書に基づく協力が、特許、企業秘密並びに秘密情報及び所有権の対象となる情報の保護に関する国内法令及び慣行に従って行われなければならないことを認識する。

3 科学上の情報

 科学上の情報には、次のものを含む。

(a)入手し得る国内的及び国際的資源の最も効果的な利用のため研究計画の調整を促進する目的で交換する政府及び民間で計画中又は実施中の研究に関する情報

(b)放出に関する資料で研究に必要なもの

(c)地球の大気の物理及び化学並びにその変化についての感度の高さ、特にオゾン層の状態及びオゾンの気柱全量又は鉛直分布のあらゆる時間尺度における変化の結果として年ずる可能性のある人の健康、環境及び気候に対する影響に関し専門家が検討した刊行物に公表された科学的成果

(d)研究成果の評価及び将来の研究に関する勧告

4 技術上の情報

 技術上の情報には、次のものを含む。

(a)オゾン層を変化させる物質の放出を削減するための化学的代替品及び代替技術の利用可能性及び費用並びに計画中又は実施中の関連のある研究

(b)化学的代替品その他の代替品及び代替技術の使用に伴う制限及び危険

5 附属書Iに掲げる物質に関する社会経済上及び商業上の情報

 附属書Iに掲げる物質に関する社会経済上及び商業上の情報には、次のものを含む。

(a)生産及び生産能力

(b)使用及び使用形態

(c)輸出入

(d)オゾン層を間接的に変化させる可能性のある人の活動に係る費用、危険及び利益並びに当該活動を規制するためにとられ又はとることが検討されている措置が及ぼす影響に係る費用、危険及び利益

6 法律上の情報

 法律上の情報には、次のものを含む。

(a)オゾン層の保護に関連のある国内法、行政措置及び法的な研究

(b)オゾン層の保護に関連のある国際取極(二国間取極を含む。)

(c)オゾン層の保護に関連のある特許権の利用の可能性並びに特許権の実施許諾の方法及び条件