データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候変動枠組条約第6回締約国会議日本国政府代表団ステートメント

[場所] ハーグ
[年月日] 2000年12月21日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 議長、

 3年前、我々は京都に集い、難杭を極めた交渉の末、温室効果ガス削減のための具体的目標を定めた国際条約の作成に漕ぎ着け、そして今、我々はその京都議定書に真に魂を吹き込めるかどうかの重要な岐路に立たされていると言っても過言ではありません。このCOP6を成功させ、もって京都議定書を批准可能なものとし、「リオ+10」の年である2002年までに発効させるよう、今こそ英知と建設的妥協、そしてそのための政治的決断を示さなければなりません。

 そして日本は、京都議定書の実施にあたり、環境十全性を非常に重視していること、そして、この環境十全性は、京都議定書の具体化と相まって進むものであることを強調したいと思います。

 先ず、このハーグで、我々が合意すべき重要な課題の一つが、途上国により提起されている様々な課題であることを指摘したいと思います。即ち、途上国がそれぞれ共通だが差異ある責任を実施するための技術移転や能力育成を一層強化すること、気侯変動による悪影響への適応措置や対策の実施に伴う経済的影響に適切に対処すること等です。

 我が国は、これらの課題は極めて重要なものと認識しています。そして、長期的な視野に立って、地球規模での対策を推進することが必要であるとの考えの下、開発途上国への協力を既に積極的に推進し成果をあげています。

 具体的には、COP3の際に発表した温暖化対策分野での包括的な対途上国支援パッケージである「京都イニシアティブ」について紹介したいと思います。これにより、我が国は人材育成への協力、最優遇条件での資金協力、我が国の技術・経験の着用・移転を積極的に進めてきており、98年から現在までに2800人に上る人材育成、98年からの2年間で48億ドルに上る資金的一技術的支援を行ってきました。これらの協力が世界の各地で実施されているほか、更にアジア太平洋地域を主な対象としてエコアジア等の開健を通じた政策対話の場を設けるとともに、気侯変動に関する情報ネットワークの構築や各種セミナーの開健なども実施してきています。

 我が国としては、今後ともこのような温暖化分野における途上国支援に引き続き取り組んでいく考えであり、特に途上国が被る悪影響への適応措置についても支援の強化に努めていきます。

 COP6においては、途上国パッケージにつき、ガバナンス、使途、運営、実施、及びスケールといった点につき順番に十分意見交換する必要があると思います。日本はこれに積極的に参加していきたいと思います。

 議長、

 このハーグでは、また、京都メカニズム、吸収源、遵守等に関する実施のルールについても合意しなくてはなりません。

 京都議定書の目標を実現するためには、長期にわたって対策が強化されること、また、その努力に全ての関係者が参加していく仕組みを構築することが必要です。市場経済メカニズムを十分に活用し、経斉効率性の高い措置を実施することにより、結果的に最大限の環境十全性が達成されることとなります。そのような視点から、京都メカニズムの制度を構築する必要があります。そして、その際には可能な限り幅広く、このメカニズムの利益が享受されるべきとの観点から、ODA資金を含めできるだけ幅広い資源を活用できるようにしておくことが重要です。特にODAを十分活用することは、衡平性(equity)を達成する上で、非常に重要です。なお、その利用に定量的上限を設けるなど、京都で各国が困難な交渉の末に辿り着いた合意を敢えて覆すようなことは避けなければなりません。また、CDMの対象事業の限定のように、持続的発展に向けた、途上国の自らの決定を不当に縛るべきではありません。

 吸収源の閏蔑も重要です。我が国は何よりもEnvironmental integrityを重視しております。その上で、吸収源活動が温暖化対策に資するとの基本的認識を新たにし、適切な吸収源活動に対するインセンティブが失われないようにすることが必要です。

 また、遵守制度については、実効性があり、かつ、遵守を促進し不遵守を未然に回避し得る制度を目指すべきと考えています。遵守制度の在り方如何により却って京都議定書発効が遅延するようなことにならないようにせねばなりません。

 議長、

 我が国は、既に世界最高水準のエネルギー効率を達成しております。

 このため、90年時点からの予測される当然増を路まえれば実質20%を越える温室効果ガスを削減する必要があります。

 しかしながら、私としては、次世代に温暖化のない社会を引き鍵ぐことは我々世代の責務であるとの認識の下、そのためにあらゆる努力を払うことを惜しんではならないとの決意であります。

 我が国は、昨年4月には「地球温暖化対策の堆進に関する法律」を世界に先駆けて施行し、更なる省エネを促進するための法改正を行うとともに、再生可能エネルギー等の非化石エネルギーの導入の促進等、既に国内における強力な対策を講じております。

 その上で、我が国は、京都議定書の目標達成のための対策の相当部分を国内対策で行うつもりであることをここに申しあげます。

 このような我が国が既に行ってきている、そしてこれから払う多大な努力を務まえれば、京都メカニズムやシンクの活用はこのような国内対策を補完するものとして、その適切なルール形成が、ここCOP6の場でなされることが、批准に関わる重要問題と考えております。

 議長、

 我々日本人の多くは、わが国で産まれたこの京都議定書に特別の思いをもっています。何十年、あるいは何百年先を視野に入れて全人海的観点から取り組まなければならない地球温暖化に対する重要な一歩となるこの議定書を、我々は出来るだけ早く実施に移し、その対策の実をあげなければなりません。各国は、それぞれ政治的、経済的、社会的に様々な事情を抱えています。その中で共通の目標に対し皆で歩みを進めるために必要なのは、譲るべきところは簸るという勇気ある妥協でありましょう。今ほどこのことが求められている時はないと思います。

 ご静聴ありがとうございました。