[文書名] 大木浩環境大臣「京都議定書の締結の決定に当たって」
● はじめに
先月の国会での承認を経て、本日の閣議で京都議定書の締結を決定しました。本日中に国際連合に寄託致します。
今年8月から9月にかけて開催されるヨハネスブルグ・サミットの最終日までの発効に間に合う期間内に、日本として京都議定書を締結できるようご尽力いただいた関係者に深く感謝します。これにより、日本は、人類の未来を守る世界の取り組みの中で、率先した役割を果たすことができました。
1997年に開催された地球温暖化防止京都会議の議長を務めた私としては、感慨深いものがあります。しかし、同時に、京都議定書の目標の達成と気候変動枠組条約の究極の目標である地球規模の温暖化防止への更なる取り組みを進めていく責任を改めて痛感しております。日本及び世界の各界各層の皆さんに対して、地球温暖化防止に向けた行動への参加と協力を訴えたいと思います。
● 国内対策の推進
まず、第一には、日本国内の取り組みについて訴えたいと思います。
京都議定書が発効すれば、日本は2008年から2012年の第一約束期間に1990年比6%の温室効果ガス削減目標を確実に達成する義務が生じます。
今後行っていく対策は地球温暖化対策推進大綱に盛り込まれていますが、私としては、特に次の事項に努力を傾けたいと考えています。
[1] 生産、消費・生活の改革{この文下線有り}
企業においては新たな技術開発と実用化された技術を使った製品の市場への投入が必要です。これに対応して、消費者においては環境にやさしい製品の率先購入が望まれます。政府としても、自らが第一級の「環境にやさしい消費者(グリーン・コンシューマー)」となるよう率先実行していきます。また、企業や消費者の取り組みが互いに支え合い、強め合って拡大していくような施策を進めます。とりわけ、改正地球温暖化対策推進法に定められている地方レベルでの地球温暖化防止活動推進センター、地域協議会、地球温暖化防止活動推進員と国レベルで設置されている「環の国くらし会議」との連携を強化し、各々が対策実行や温室効果ガス削減の数値目標を立てて行う草の根の活動を支援する方策を講じます。
[2] 経済的措置導入の促進{この文下線有り}
市場が生み出す活力を用いて地球温暖化対策を効率的に進めていくためには、排出量取引や税制度など市場メカニズムを通じた経済的手法は有用であり、既にいくつかの国で実施されています。地球的規模での市場が形成されつつある今日、世界的なルールの形成に日本としても積極的にかかわっていけるよう、経済的手法について早急に検討を進め、できるものから実行します。
[3] 森林保全対策の強化{この文下線有り}
二酸化炭素の吸収源である森林について、生物多様性の保全や水源涵養などの多様な価値にも留意し、国民の参加を得つつ、森林を活用しながら保全し、子孫に受け継いでいくための施策を強化します。
● 地球的規模の取組
第二には、京都議定書の早期発効と地球温暖化防止へ向けて更なる国際的取り組みが必要であることを訴えたいと思います。
私たちは、生態系の適応、食料生産、持続可能な開発が可能であるように温室効果ガスの濃度を安定化させるという気候変動枠組条約の究極の目標達成に向けて、地球的規模の取り組みを着実に進めていかなければなりません。
地球全体では、温室効果ガスの排出量と大気中濃度は増加の一途をたどっています。先進国の義務を定めた京都議定書は、地球温暖化防止の重要な歩みですが長い過程の中の第一歩です。日本は、京都議定書の締結により先進国としての責務を誠実に果たしていることを世界に示すとともに、発効に向けた国際的モメンタムを前進させました。それを更に進めるため、私は、特に次の事項について努力を傾けたいと考えています。
[1]先進国への働きかけ{この文下線有り}
京都議定書の発効のため、批准に向けて検討を進めているロシア等の先進国に対して、早期に批准するよう要請していきます。あわせて、世界最大の温室効果ガスの排出国であるアメリカに対しても、世界各国と協力しながら、引き続き批准を求めます。
[2] 開発途上国参加への道づくり{この文下線有り}
2013年以降の第二約束期間の交渉は、遅くとも2005年から開始されます。この交渉において、中国やインドなどの開発途上国の積極的参加が得られるよう、世界の英知を集めて、これらの国についての協力のあり方や参加の方法についての研究を早急に進めます。
[3] 地域の特性に応じた温暖化国際協力の検討と実行{この文下線有り}
地球温暖化の影響は確実に現れており、その動向を科学的に監視し、予測していくことはもとより、海水面の上昇、氷河や凍土の融解によりその脅威にさらされている太平洋の島国、ヒマラヤ地域の国、高緯度地域の国について、地球温暖化による影響を緩和する対策の検討を進め、関係国と協力して、できるものから実行します。
● おわりに‐世界のモデルとなる新しい経済社会づくりへの挑戦‐
日本が、6%削減目標を達成することは容易ではありません。しかし、これは、21世紀の世界のモデルとなる新しい経済社会、すなわち、地球の自然と共生する経済社会を作り上げようという挑戦です。この挑戦は、新たな産業や雇用を産み出すとともに、国民のライフスタイルを変え、日本の経済や社会に新たな活力を生みだしていくものと信じます。