[文書名] 日本水協力イニシアティブ
1.包括的取組
我が国は、世界の水問題の解決のためには、ガバナンスの強化、キャパシティ・ビルディング、資金が重要であると認識。
水を巡る問題は多面的であり、水が不足しているアフリカのような地域がある一方、アジアのモンスーン地域のように水が多すぎることによる問題を抱えている地域もある。このため、飲料水と衛生のみならず、水の生産性向上、水質汚濁防止、防災対策、水資源管理も含めた包括的な取組を地域の事情に応じて実施する必要がある。
このような認識に基づいて、我が国は従来より水分野への協力を重視しており、量的には、過去3年間(1999〜2001年度)に水分野に関し6,500億円(約57億ドル)以上のODAを実施してきた。
そのうち、MDGsやWSSDにおいて目標が定められている飲料水と衛生分野においては、過去3年平均の世界のODA資金総額(約30億ドル)のうち、1/3に相当する約10億ドルを担っており、援助国・国際機関を通じ最大のドナーである。
今後は、このような取組を継続し、特に、
(1)貧困な国・地域への飲料水・衛生分野への支援
(2)都市部を中心とした大規模資金ニーズへの対応
(3)キャパシティ・ビルディングへの支援
に積極的に取り組んでいく。
(1)貧困な国、地域の飲料水及び衛生ニーズへの支援
アフリカを始めとする貧困な国及び地域において絶対的に不足する安全な飲料水及び基本的な衛生への支援を行う。このため、新たに「水資源無償資金協力」を創設し、2003年度予算政府案において、160億円を計上。
(2)途上国の都市部を中心とした大規模資金ニーズへの対応
次のような案件に対し、世界的にみても極めて譲許的な条件(現行金利は原則として0.75%)で円借款を供与する制度の運用を2002年度に開始した。
1)感染症対策・貧困削減に資する上水道
2)下水処理施設等の水質汚濁防止案件
3)自然環境保全等の案件
4)我が国の有する技術等を活用可能な都市洪水対策案件等
(3)途上国の自助努力、キャパシティ・ビルディングへの支援
2003年度以降、今後5年間で上水道、下水道分野における計画策定、運営及び維持管理等の能力を向上することを目的として、約1,000人の人材育成を行う。
2.国際的なパートナーシップの構築・強化
水問題解決にあたっては、一国だけではなく、ドナー国、国際機関、NGOがグローバルに取り組んでいく必要があることから、国際的なパートナーシップの強化を図る。特に、我が国として以下の取組を行う。
(1)日米水協力イニシアティブの具体化
昨年9月のWSSDの際に発表。アフリカ(ガーナ、マリ、ニジェール、セネガル)、アジア(フィリピン、インドネシア、バングラデシュ等)における水分野の協力を対象としてその具体化を図る。また、円借款と米国の投資保証制度の連携について検討に着手する。
【具体的内容】
(1)西アフリカ地域
ガーナ、マリ、ニジェール、セネガルが協力の対象国として合意された。
これらの国において、水供給及び衛生分野でNGOと連携しつつ協力する。
また、ギニア・ウォーム対策においても日米で協力する。我が国は既にカーター財団との協力実績あり。
(2)アジア
フィリピン及びインドネシアにおいて、都市部における洪水対策や主に農村部における灌漑施設を支援するとともに、島嶼部における農村地域の水供給・衛生施設について協力を検討する。
バングラデシュにおいて、地下水の水源に含まれる砒素汚染に関する対策に関して、地質調査や代替水源の確保のための深井戸掘削について協力する。我が国は、現在、ユニセフと連携し、井戸掘削、住民の啓発活動など幅広い協力を行っている。
(3)投資保証
アジア地域などを対象に、円借款と米国の開発信用制度(中央、地方政府による投資を保証する制度)との連携のための検討に着手する。
(2)水分野における日仏協力
第3回世界水フォーラムの際に発表。今後、アフリカ(セネガル川流域、ジブチ)及びアジア(ラオス)において協力の具体化及び検討に着手する。
(1)セネガル川流域
水資源管理と農業用水の生産性の改善に重点を置いて、「セネガル川開発機構(OMVS)」とも緊密に協力しつつ、セネガル川*注1*流域の開発についての協力を強化する。
また、地域と国家当局のオーナーシップ及び地域レベルで既に存在する水供給管理のための枠組みを十分尊重しつつ、水供給プロジェクトと能力開発を協調して行う。
*注1*セネガル川は、ギニア、マリ、モーリタニア、セネガルを流れる全長1,800kmの川。
(2)ジブチ
ジブチ国内の水供給源の増加に貢献することを目的として、ジブチの帯水層の塩水化*注2*に関する問題に取り組むために協力する。
*注2*帯水層は、井戸あるいは水源へ向けて水が通過する地層帯を意味している。ジブチは、この帯水層が含有塩分のためにしばしば飲料水源として不適切となっている。
(3)ラオス
両国は、ビエンチャンの水不足に取り組むため協力する。具体的には、日本の開始した水供給システムの能力強化を目的としたマスタープラン調査を踏まえ、具体的プロジェクトの進め方等について検討する。
また、両国は、その他の開発途上地域に協力を拡大するために更なる協議を行うとともに、現地レベルで様々な援助関係団体と協力していく。
3.具体的取組
包括的取組みを具体化するため、また、国際社会の目標達成に向けた努力の一環として、我が国は、以下の6つを柱として、水分野における経済協力を進める。
(1)安全な飲料水の供給と衛生
アフリカやアジア地域などにおいて増大する需要に的確に対応するため、都市、地方など地域特性に応じ井戸掘削や上下水道の計画づくり、整備、適正な維持管理、運営に関する協力を総合的に推進する。
(主な取組)
1) アフリカ地域における地下水開発を中心とした整備、維持管理の強化
(タンザニア、セネガル、マリ、モーリタニア、ザンビア)
2) アジア地域における上下水道の整備、維持管理の強化
(スリランカ、インドネシア、カンボジア、ミャンマー、タイ、中国、ベトナム、フィリピン、ネパール、パキスタン)
3) 中東地域における安定した水供給への協力
(モロッコ、チュニジア、エジプト)
4) 中南米地域の都市部を中心とした上下水道の整備
(メキシコ、ペルー、ブラジル、グアテマラ)
5) 大洋州地域における水供給施設の能力強化
(フィジー)
6) アジア、アフリカ地域における水因性疾病対策(ヒ素対策、ギニアウォーム(メジナ虫))の強化
(バングラデシュ、ニジェール)
(2)水の生産性向上
アジアのモンスーン地域などにおいて灌漑用水、水産資源の生産性を向上させ、限られた水資源を効率的に活用する計画づくり、インフラ整備、能力の向上を支援する。また、アフリカの乾燥地域においては、作物の品種改良などにより、限られた水資源を効率的に活用することを支援する。
(主な取組)
1) 途上国政府の政策・技術の強化
(ネパール、バングラデシュ、インドネシア、ベトナム)
2) 灌漑施設の整備、技術の改善による農作物の増産
(フィリピン、インドネシア、インド、チュニジア、タンザニア、ガーナ)
3) 住民参加に配慮した灌漑施設の整備、地域農民の組織強化
(ペルー、インドネシア、フィリピン)
4) 水の再利用に向けた計画づくり、インフラの整備
(レバノン、シリア、チュニジア)
5) アフリカにおけるネリカ米の開発・普及の促進
(3)水質汚濁改善と生態系保全
公共水質の汚染による生活環境の悪化や自然環境への影響が進行している地域において、環境を保全ないし改善するための取組みを支援する。
(主な取組)
(1)水質保全・産業排水及び生活排水対策の強化
(フィリピン、パラグアイ、中国、モーリシャス)
(2)産業公害規制施策とクリーナープロダクション技術のパッケージ協力
(ベトナム、フィリピン、インドネシア、タイ、インド、ヨルダン)
(3)沿岸地域、淡水湖沼、湿地の環境・生態系の保全を目的とした水質改善
(ケニア、ミャンマー、ネパール、インドネシア、フィリピン、中国、ブラジル)
(4)防災対策と洪水被害の軽減
台風など異常降雨による洪水や土砂災害に対し、我が国の防災技術、ノウハウを活用して途上国における洪水被害、土砂災害の予防や軽減を図るための計画づくり、インフラ整備、技術の向上を支援する。
(主な取組)
1)洪水予警報システムの整備・改善による災害予防
(バングラデシュ)
2)治水のための総合的なマスタープランの策定、整備、治水技術の向上
(パキスタン、中国、インドネシア、フィリピン)
3)自然遊水池の活用など現地資源を利用した洪水対策
(フィリピン、ラオス)
4)衛生施設の整備にも配慮した洪水対策
(スリランカ、ベトナム)
(5)水資源管理
水資源管理のための計画づくりや政策への提言を通じて、水資源の効率的な開発・利用を促進する。
(主な取組)
1)水資源開発管理計画の策定、実施機関の能力向上
(ベトナム、インドネシア、レバノン)
2)水源の涵養を目的とした砂漠化防止等による流域管理
(中国、ペルー、チュニジア)
3)効果的・効率的利用のための施設の改善と維持管理機関の強化
(インドネシア、フィリピン)
(6)NGOとの連携強化
安全な飲料水の供給と衛生、農業生産性の向上、災害対策などの分野において、国際、現地、日本の多様なNGOとの連携を強化する。