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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「気候変動に対する更なる行動」に関する非公式会合 共同議長サマリー

[場所] 東京
[年月日] 2003年7月4日
[出典] 外務省仮訳
[備考] 
[全文]

 7月2日―4日、気候変動枠組条約締約国17カ国の政府代表及び3名のオブザーバーの参加を得て、外務省主催の「気候変動に対する更なる行動」に関する非公式会合が東京において開催された。本会合は、カナダ政府の貴重な資金的貢献を得て、日本とブラジルにより催された。本会合の目的は、気候変動に関する将来の行動についての参加者の間で率直な意見を交換する機会を提供することであった。議論は、発言者の意見が必ずしも政府の立場を反映するものでないという理解の下で行われた。

 本サマリーは、共同議長をつとめた美根慶樹外務省地球環境担当大使、及び、エバートン・ヴィエラ・バルガス外務省特別問題・環境局長の責任の下に作成された。本サマリーは日本政府及びブラジル政府の立場を拘束するものではない。議論の主要な点を反映させた。

☆気候変動への取り組んでいくための動機に関する議論において

* 気候変動に対する行動に対して支持を動員するという文脈の中で、国民の意識向上が重要である点について以下の通り十分な議論が行われた。

 -温暖化対策のためには、関心のある層を広げ、意識を深めることが必要。また、様々な関係者の経験を共有することが必要である。

 -政府の役割:企業の意見と一般国民の意見のバランスをとること、長期的なニーズと短期的な現実のバランスをとること、民間セクターやその他の関係者が対応策を打ち出せる環境を整備すること、政府の行動に応える形で産業界及び市民社会がより効果的な参加の方法を見つけること。

 -企業の役割:市場機会を探し出し、技術開発や気候変動とそれ以外の問題を解決する方策を追求すること。

 -市民社会の役割:異なる責任について理解を深めることと実際的な貢献を行うこと。

☆気候変動に立ち向かうための国内的な活動についての議論の中で

* 議論の中であがった主要な論点は以下のとおり:

 -国内の状況が、温暖化対策を方向づける要因。

 -(各国により)様々な政策措置、動機、制約が存在する。

 -先進国及び開発途上国にとって経済成長と持続可能な開発を追求しつつ、気候変動対策を講じることが必要。

 -温室効果ガス排出削減のために地域レベルで費用効果的な対策を特定すべき(温暖化対策には付随的利益がある)。

 -(温暖化対策との関連で)生産・消費パターンの変化(の役割)については、異なる見解が示された。

 -過去の経験から教訓を学ぶことが可能。行動しながら学ぶことの必要性。

 -ポートフォリオ・アプローチ(様々な措置等の組み合わせ)の重要性。

* 負担及び競争力について、以下の点が提起された。

 -温暖化対策を通じてビジネスの機会や比較優位が生まれる(エネルギー効率改善)。

 -競争力の問題は、地方、各国、地域、世界のレベル等様々な次元で作用するため、競争力の問題について情報共有が重要。

 -最も安価な措置の特定は重要であるものの、措置が実施されるかどうかはその他の要に影響される。

* 経済モデルに関する説明が行われた後、以下の点が提起された。

 -経済モデルは万能ではないが、政策策定にとって重要な意義があり、経済モデル作成は促進されるべき。

 -経済モデルを通じて(各国間で)共通認識の形成に貢献しうる。

 -気候変動枠組条約の原則を考慮すべき。

 -様々な経済モデルや、モデル計算結果を利用し、モデル間の差違に着目することは有益。

 -経済モデル専門家の間の交流及び経済モデル専門家と政策策定者との間の交流は重要であり、促進すべき。

 -(様々な経済モデルの)前提やアプローチについて透明性を確保することが必要。

 -開発途上国の必要性を考慮しつつ、適応及び脆弱性に関する経済モデルを作成することが重要である。

 -世界的な努力に開発途上国の経済モデル専門家の参加を増大させることが重要。

* 経済モデルに関する議論の中で(気候変動に関わる排出量等の)データに関して活発な意見交換が行われた。

 -政策決定者のために信頼性のあるデータが重要であること。

 -特定の公認されたデータは、見いだし難く、データの不備や、比較可能性の問題が存在する。ただし、様々なデータを活用して得られた傾向は示唆するところが多いかもしれない。

 -様々な国の進捗状況を測定・評価するための客観的な指標は重要。

 -データを引き続き改善し、データ不備を補うことが必要。

☆気候変動に対するグローバルな対応に関する議論において

* 衡平性の確保は中核的な問題とされた。

 -各グループ内及びさまざまなグループ間(たとえば南北間、附属書・・非附属書・、締約国・非締約国)の衡平性は様々な視点から把えられる。

 -各国間、国内、世代間の衡平性は全て関連性がある。

* 気候変動に関する更なる行動を検討するために様々な点が提起された。

 -京都議定書の早期発効及び附属書・国による約束履行は、前進するための必須条件の中に含まれる。

 -当該レジームへのグローバルな参加の重要性が強調された。

 -開発途上国のために技術移転及び資金が必要であり、国際協力が重要。

 -気候変動枠組条約とともに京都議定書が2012年後のレジームを設計する際の基礎となるべき。これと異なる意見にも留意した。

 -早期の行動を評価し、また、締約国の努力を客観的に比較することは重要。

 -非附属書・国の(排出削減)努力に関する透明性を高めることは附属書・国の行動強化のための国内的支持の動員に貢献する。

 -共通だが差異のある責任の原則を含む条約の諸原則及び各国の個別事情の評価に基づき、「参加」及び「約束」をより明確に定義していくことが必要。

 -セクター別アプローチ、政策・措置、排出枠、各国の過去の排出量が気温上昇に与える影響に関するブラジル提案等、様々なアプローチが検討され得る。開発途上国に排出枠を適用する考えには、強い反対があった。

* 上記議論の関連で、気候変動を持続可能な開発に関連づける重要性が議論された。

 -各省庁(エネルギーや運輸関連等)を超えた持続可能な開発戦略・政策の中で気候変動をより統合することは、肝要。

 -温暖化対策においてエネルギー問題において取り組むことは重要な要因。

 -CDM(低排出型の開発の制度)は重要な役割を担う。CDMについて実際的なかつ効果的な手続き及び運用を確保する必要がある。また、経験を通じて学ぶべき。

 -持続的な開発に対する直接投資を含む財源は、気候変動対策に影響を与える。

* (温暖化対策の)時間的な枠組みに関し、様々な意見が表明された。例えば、

 -気候変動枠組条約第2条の長期的な目標の文脈で短期的行動を位置づけることが必要。早期の行動は突然の技術的・社会的変化を回避するために必要。

 -将来の法的枠組みに関する確実性は、民間による長期的な投資決定を助ける。

 -技術研究開発のためは、長期的な時間的枠組みが重要。

* 開発途上国の気候変動に対する脆弱性及び適応に関し、様々な意見が表明された。例えば、

 -特に開発途上国の脆弱性に留意しつつ、附属書・国及び非附属書・国にとって適応に焦点を当てる重要性が増大している。

 -各国、特に開発途上国において、脆弱性に関する研究が不足しているため、脆弱性の評価研究の必要性が強調された。

 -開発途上国に対する能力向上及び財政的な面での支援が必要。

* 気候変動枠組条約の究極目標を達成するための技術の根本的な役割が強調され、様々な意見が取り上げられた。例えば、

 -技術革新を後押しするために(特に先進国による)明確な政策的枠組み、炭素に価値を付す等の推進策が必要。

 -技術の進展は、温室効果ガス排出を抑えるための短期的措置を補完するものであって、代替するものではない。

 -開発途上国への技術普及、移転に関する効果的ルールが重要。

 -技術の飛躍的前進や技術の普及促進のために、これを支援するようなインフラを整備することが必要。

* 当面の取り進め方について

 -COP9においては、第2約束期間とそれ以降の将来とるべきステップに向けて、また、気候変動枠組条約の強化のために、何を議論することが有益かを考える必要がある。

 -附属書・国と非附属書・国の間の更なる信頼醸成及び建設的な相互理解のためには、本会合のような非公式な対話が有益である。