データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連防災世界会議開会式における天皇陛下のおことば

[場所] 神戸市 ポートピアホテル
[年月日] 2005年1月18日
[出典] 宮内庁
[備考] 
[全文]

 世界から多数の参加者を迎え,国連防災世界会議が,10年前,阪神・淡路大震災により大きな被害を受けた兵庫県神戸市において開催されることを誠に意義深いことと思います。

昨年暮れに起こったスマトラ沖の大地震とそれにより発生した大津波は周辺の国々はもとより広範な地域に被害をもたらし,現在死者・行方不明者は18万人を超すといわれています。この災害の犠牲者に対し,深く哀悼の意を表します。

 津波による災害は,日本ではしばしば起こっています。近年では1993年に起こった「平成5年北海道南西沖地震」で,奥尻島などが地震,津波,火災の大きな被害を受け,200人以上の死者・行方不明者が生じました。震災からほぼ2週間後,私どもは被災地を訪れましたが,災害の悲惨な状況は,誠に痛ましいものでありました。

 日本で記録に残る大きな津波は,1896年の「明治三陸地震津波」で,死者が2万人以上に達しました。その後,1933年に,再び「三陸地震津波」が同じ地域を襲い,この時も,死者・行方不明者がほぼ3,000人に達しました。この2回の津波の間には,ほぼ40年の開きがありますが,2度目の災害の発生に当たり,地震後の津波の襲来に対する警戒心が人々の間に十分になく,このことが被害の増大を招いたことが知られています。

 このような例を考えるとき,防災の上で最も大切なことは,過去の災害から教訓を引き出し,それに対していかに対応するかということだと思います。昨日この地で行われた阪神・淡路大震災10周年のつどいで発表された1・17宣言は,「忘れない」をテーマとしています。現在,神戸市の人口の4分の1が震災の経験のない人々だということを聞き,このテーマの重要性を感じました。

 世界の各地域において,毎年のごとく,台風やハリケーン,洪水,地震,旱魃{かんばつとルビあり}などの自然災害によって,多数の人命が失われ,大きな被害が生じています。日本は地震帯の上にあり,火山の多い急峻{峻にしゅんとルビあり}な地形を持ち,さらに台風の通り道に当たるため,古くから様々な自然災害に見舞われてきました。しかし,国民が力を合わせて,治水治山に努力し,また,風水害の予知や,災害発生時の早期警報の改善などに努めた結果,近年では,自然災害による1年間の死亡者数が減少し,防災の効果が現れていることをうれしく思っています。

 自然災害がもたらす被害は,その災害の性格や地域によってさまざまに異なる面がありますが,その予知や,防災対策,さらには,災害が発生した際の被災者の救援,被災地の復興などについては,国境を越えて,過去の経験に学び,将来に備えることが可能であると思います。また,今回の大津波のごとく,大規模で広範囲にわたる災害に際しては,救援と復興のための国際的な協力が必要であり,この度も,日本を含む多数の国が参加して,支援活動が進められていることは,心強いことであります。

 この度の世界会議は,1994年に横浜で開催された世界会議以来10年間の,世界における災害の状況や防災活動を振り返り,人々の生命や生活を自然災害から守るために,災害に対する備えを強め,安全で安心して暮らせる社会を築くことを目指して,それぞれの経験を分かち合う貴重な機会であります。この会議での意見交換を通じて,日本が長年にわたる経験によって培ってきた防災についての知識や技術が,世界各国の自然災害による被害の軽減に少しでも役立つことがあれば幸せに思います。

 会議が実り多い成果を挙げ,一層安全な世界に向かって進むことを願い,開会式に寄せる言葉といたします。