データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候変動とエネルギー安全保障に関する更なる協力のための日本とオーストラリアの共同声明

[場所] シドニー
[年月日] 2007年9月9日
[出典] 外務省仮訳
[備考] 
[全文]

1. 安倍晋三日本国内閣総理大臣及びジョン・ハワード・オーストラリア首相は、本日、気候変動及びエネルギー安全保障が持続的かつ実効的で、地球規模での行動を必要とする優先課題であるとの共通の認識に達した。両首脳は、気候変動の課題が深刻であることを認識した。両首脳は、また、安定的で入手可能なエネルギー供給を確保することが両国の経済にとって重要であることを認識した。両首脳は、これらの課題に対処するために強力かつ実効的な行動をとる必要があるとの共通の認識を表明し、日本とオーストラリアが現実的で永続的な解決を見出す国際的な努力の先頭に立っていることに留意した。

2. 日本とオーストラリアが気候変動とエネルギーに関するパートナーシップを強化していくことは、自然なことである。日本は世界最大のエネルギー輸入国の一つであり、世界で最もエネルギー効率の良い国の一つである。日本への主要なエネルギー供給国であるオーストラリアは、日本のエネルギー安全保障にとって重要である。両首脳は、日本における天然ガスの消費が他の化石燃料の消費よりも急速に伸びており、近い将来にオーストラリアが日本への液化天然ガスの最大の供給元となる見込みであることに留意した。両首脳は、気候変動及びエネルギーに関する二国間協力を強化する意図を確認した。

3. ハワード首相は、安倍総理による「美しい星50」の提案を、新たな気候変動に係わる枠組みに関する地球規模の努力への主要で前向きな貢献として支持した。ハワード首相は、オーストラリアが国内の排出削減に関する長期的目標を2008年に発表する意向であることに留意した。両首脳は、APEC首脳会合で発出した気候変動、エネルギー安全保障及びクリーン開発に関する宣言(シドニー宣言)が、新たな国際的枠組みに関する地球規模の総意を構築する上で主要な一歩であるとの確信を表明した。両首脳は、2007年12月にインドネシアで開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC)において、特に「アンブレラ・グループ」の連携の下で、すべての主要排出国が参加する2013年以降の包括的な合意に向けて、両国が他の国とともに協力するという共通の決意を強調した。さらに、両首脳は、排出を緩和する努力を奨励することにより、そうした合意へのすべての主要排出国の参加を確保するため、緊密に協力することを決定した。両首脳は、新たな枠組みは実効的で、柔軟かつ多様で、異なる国の状況に対応し、環境保全と経済発展の両立を確保するものでなければならないとの見解を共有した。両首脳は、APEC、国連気候変動枠組条約、国際エネルギー機関(IEA)、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)、東アジア首脳会議(EAS)などすべての関連する国際的フォーラムにおいて新たな枠組みに関する協力を促進していく意図も確認した。両首脳は、また、低炭素社会への転換を促進するため、更なる努力が行われるべきであるとの見解を共有した。両首脳は、各家庭による温室効果ガス削減のための日本の国民的運動や、オーストラリアにおける非効率な電球を撤廃する事業、太陽光発電システムの学校、家庭及び地域向けの設置を支援する事業を含む幅広い分野での努力等、両国がそれぞれ払っている努力を強調した。両首脳は、開発途上国が気候変動の影響に対処できるよう支援する努力を継続することも決定した。

4. 両首脳は、気候変動に関する今後の地球規模の行動についての対話を開始するとの米国によるイニシアティブを歓迎し、2007年9月27日及び28日にワシントンDCにおいて開催されるエネルギー安全保障と気候変動に関する第1回主要経済国会合に参加することを期待する。両首脳は、このプロセスは今後地球規模の総意を形成することに大きく貢献するであろうとの見解を共有した。

5. 両首脳は、革新的な技術の開発と普及が、中期的・長期的に気候変動の課題に対処する上で鍵となる要素であるとの共通の認識に達した。両国は、APPの積極的な参加国であり、エネルギー安全保障と経済成長という目標を達成しつつ温室効果ガスを削減するための新技術の開発と普及を促す多くのセクター別の事業で協力している。

6. 両首脳は、APPのもとでの日本とオーストラリアとの建設的協力は、費用対効果が高く、よりクリーンで、より効率的な技術と実施への重要な貢献となるであろうとの見解を共有した。2007年に開始予定の酸素燃焼技術と二酸化炭素の貯留を活用する世界初の実証例となるカライドAプロジェクトは、温室効果ガスを隔離するために世界各地の発電所に設置することが可能な技術を発展させるための重要な貢献となろう。両首脳は、日本とオーストラリアが、メタンを従来以上に回収することで経済的利益を得つつ二酸化炭素を地中の炭層に恒久的に貯留する、炭素隔離技術を開発するため作業していることを認識した。両首脳は、鉄鋼分野における二酸化炭素削減ポテンシャルの試算が最良の技術事例の普及を促す一つの取組となることを再確認した。両首脳は、気候変動に関して主要な発展途上国とともに作業することが、大気環境の改善を促進し、地域の環境汚染対策に資することを認識した。両首脳は、こういった実践的な作業がパートナーシップの典型的事例であり、また、これらの課題に国際的なレベルで対処する日本とオーストラリアによる主要な貢献をなすことを確認した。

7. 両首脳は、炭素隔離リーダーシップ・フォーラム、メタン市場化パートナーシップ、水素経済のための国際パートナーシップを含む様々なフォーラムを通じて、先端的な低排出技術を促進するため、他の国際的なパートナーとともに協力することの重要性を再確認した。

8. 両首脳は、森林の減少・劣化に由来する排出の削減が気候変動に関する地球規模の取組の主要な要素であることを認識し、本年12月のインドネシアでの国連気候変動枠組条約締約国会議でこの点に関する議論がなされるであろうことを歓迎した。ハワード首相は、森林と気候に関するグローバルイニシアティブのもとで最近開催された63カ国によるハイレベル会合に日本が参加したことを歓迎した。両首脳は、違法伐採対策を含む森林の減少・劣化に対処する努力が重要であることを強調し、また、地球規模の炭素監視システムに向け、オーストラリア地球温暖化局と日本の関連機関が統合的な森林・炭素の監視システムを発展させるために協力することを歓迎した。

9. 両首脳は、APEC首脳によるエネルギー効率向上に向けたAPEC全体での目標の採択を歓迎し、このことは、エネルギーの大幅な節約の可能性を引き出し、エネルギー安全保障を高め、費用対効果の高い方法で温室効果ガスを削減するよう促すこととなろうと確認した。両首脳は、日本とオーストラリアの両国が、APECエネルギー作業部会やEASを通じ、エネルギー効率目標及び行動計画の設定を奨励することによって、エネルギー効率化の推進に積極的に関与していることを認識した。両首脳は、また、エネルギー効率目標と行動計画、更には、2007年5月のAPECエネルギー大臣会合で合意された自発的なエネルギー・ピア・レビュー・メカニズムの策定が、効率化の進展を促すことを認識した。

10. 両首脳は、東アジア地域におけるエネルギー市場の統合やバイオ燃料、エネルギー効率に焦点が当てられた本年8月の第1回EASエネルギー大臣会合における成果を歓迎した。

11. 両国間においては、日豪エネルギー高級事務レベル協議がエネルギー及び鉱物資源分野における国際的及び国内での政策課題、貿易・投資の機会、研究開発協力について討議する場を提供している。この協議は1985年に開始され、2003年に強化された。両首脳は、安定的かつ信頼の出来る資源の供給国であるオーストラリアと液化天然ガス、石炭及びウランを含むエネルギーの需要国である日本の二国間の強固なエネルギーに関する関係を維持させていくことの重要性を再確認した。両首脳は、特に石炭インフラの整備と運営によって、日本への石炭供給の安定化を図ることの重要性を認識した。

12. 両首脳は、原子力の平和的利用に対する日本とオーストラリア両国の強い関与に留意し、この分野における互恵的な協力を強化していくことを決定した。日本は、この分野において先進技術と経験を有している。原子力発電は、日本のエネルギー構成において重要な役割を果たしており、また、温室効果ガスの排出削減戦略の重要な要素である。ハワード首相は、原子力の平和的利用に強く関与している日本がオーストラリア産ウランの最大の消費国の一つであることを歓迎した。両首脳は、気候変動への長期的な対応には、核不拡散、原子力の安全及び核セキュリティを確保した形での原子力エネルギーの利用が含まれ得ることに留意した。

13. ハワード首相は、第4世代原子力発電所の関連技術について協力を行っている政府間のパートナーシップである第4世代原子力システムに関する国際フォーラムへの参加に対するオーストラリアの関心を表明した。このフォーラムは、多くの国が原子力分野における先進的な研究開発に関心を有していることを反映している。日本国総理は、このパートナーシップへのオーストラリアの加盟を支持することを表明した。

14. 両首脳は、また、地域において原子力発電が核不拡散、原子力の安全及び核セキュリティを確保した形で推進されるよう、日本とオーストラリアが協力することを決定した。両首脳は、アジアにおける民生用原子力技術に関する一層の協力が、地域におけるクリーンエネルギーとしての原子力エネルギーの発展を促すことに留意した。日本とオーストラリアは、アジア原子力協力フォーラムへの共同参画を通じ、アジアにおける民生用原子力技術に関して、特に、原子力の応用における安全に関する文化が発展するよう、協力を拡大する。

15. 両首脳は次の具体的行動を行うことを発表した:

  ○ウラン:エネルギーと鉱物に関する日豪高級事務レベル協議(HLG)の次回会合における議論を拡大し、ウラン及び相互に関心のある原子力関連事項に焦点を当てる。ウランの貿易、輸送及び投資の問題並びに、原子力エネルギーの分野における技術及び研究協力が議題となり得る。この拡大された対話ではビジネス間の協議の機会を提供する。

  ○原子力に関する協力:原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とオーストラリア政府との間の協定を1982年に締結して以来、二国間の原子力に関する協力が著しく拡大してきたことに留意し、両国政府は、これまでの協力を振り返り、新たな活動分野の可能性について協議する。