データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 森喜朗総理特使による国連気候変動ハイレベル会合におけるステートメント

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2007年9月24日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

議長、

各国代表の皆様、

御列席の皆様、

 本日、国連気候変動ハイレベル会合という重要な会合にて、スピーチをする機会を頂いたことを誠に嬉しく思います。

 気候変動は、人類全て、特に、貧困に苦しみ脆弱な国に生きる人々にとって、人間の安全保障に深く関わる問題です。

 去る5月、我が国は「美しい星50」を提案し、その中で、温室効果ガスの排出を2050年までに現状に比して半減するという世界全体に共通の目標を提案しました。

 この目標を達成するためには、省エネ、再生可能エネルギー、先進的な原子力などの革新的技術の開発が決定的な役割を担います。日本は、技術開発とその普及を、国際協力を通じて促進します。例えば、石炭火力発電所からの二酸化炭素の排出量をゼロにしようという国際プロジェクトが始まっており、我が国も、こうした取組に世界最先端の技術で貢献します。

 また、「低炭素社会づくり」という長期のビジョンを示したいと思います。日本は、自然と共生した生活、公共交通等の効率的な移動システム、コンパクトなまちづくりなど、生活様式や社会システムの変革を打ち出していきます。

議長、

 我が国は、2013年以降の実効的な国際的枠組の構築に関する「3原則」を提案しました。第1の原則は、「全ての主要排出国が参加し、京都議定書を超え、世界全体での排出削減につながること」です。第2の原則は、「柔軟かつ多様性のある枠組みとすること」です。そして第3の原則は、「環境の保全と経済発展とを両立すること」です。この3原則について皆様の支持を頂きたいと思います。

 日本は、この問題に対し、エネルギー対策面からも取り組んでいきます。具体的には、エネルギー効率の向上と原子力の安全で平和的な利用を確保するための取組を全世界に広げていきます。また、セクター別アプローチは、産業界の知見を効果的に共有するための鍵となります。

 加えて、途上国においては、地域的な大気汚染と地球温暖化に統合的に取り組むアプローチ、すなわち「コベネフィット・アプローチ」も効果的であると考えます。

 こうした原則について、米国が主催する主要経済国会合、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」、東アジア首脳会合など様々な場において議論することは、国連気候変動枠組条約の下でのコンセンサスづくりに貢献するものと考えます。先般のAPEC会合では、将来の行動について首脳間で大変建設的な議論が行われました。同条約の枠組の中で、全ての国が参加する新しい議論の場を作ることが必要です。来年のG8サミット議長国として、我が国は、主要経済国間の議論を加速したいと考えています。

議長、

 日本は、我が国の提案に応えて温室効果ガスの排出抑制と経済成長を両立させようとする志の高い途上国に対して、我が国の技術と経験を活かし、従来行っている途上国支援を振り向けるのではなく、新たな「資金メカニズム」を通じて支援を行います。

 気候変動への適応については、まず開発政策において主流化することが重要です。我が国は、新たな「資金メカニズム」の中で、自然災害、食料・水問題などの形で気候変動の影響を受ける途上国、とりわけ最貧困国に配慮していきます。

議長、

 気候変動は国境なき課題であり、地球上の全ての国が参画するものでなければ意味がありません。そこで、全ての国が、できるところから始めようではありませんか。

 ここで、私は、ハイブリッド車、風力発電機、太陽電池といった、温室効果ガスの削減に効果のある製品の関税を、各国が自主的に削減又は撤廃することを提案します。

 第2に、政府調達におけるグリーン購入の促進を呼びかけます。日本は、環境性能を考慮してリストアップされた製品を購入することを政府に義務づける法律を制定し、しっかりと実施しています。また、財からサービス及び建物へ、中央政府から地方政府へと、取組が拡大される予定です。

 最後に、ライフスタイルや行動の転換が排出削減に大きく寄与することを忘れてはなりません。日本では、空調を、夏は28℃以上に、冬は20℃以下に設定することを国民に呼びかけています。ここで、各国政府に対しても、オフィスの空調を、効率が良く控えめな温度に設定することを提案します。そして、加盟国の合意の下、この提案を国連にも導入すべきと考えます。

 以上の取組の実施に当たっては、各国首脳のリーダーシップが鍵となります。我が国は、京都議定書に定められた6%削減という我が国の目標を確実に達成するため総力を挙げて取り組んでいます。さらに、来年のG8北海道洞爺湖サミットを、環境にやさしいカーボン・ニュートラルなものにすることを宣言しました。

 私たちの小さな立場の違いにとらわれず、世界全体で、この問題に共に対処すべき時が来ていると切に感じます。

 御清聴ありがとうございました。