データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 世界低炭素成長ビジョン-日本の提言

[場所] ダーバン
[年月日] 2011年11月29日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 気候変動対策に効果的に取り組むためには,国際的な枠組みの構築に加え,先進国,途上国が連携して,技術,市場,資金を総動員し,官民一体となって世界全体で低炭素成長を実現する必要がある。

 気候変動問題を真に解決するためには,今後,先進国のみならず,経済発展に伴い温室効果ガスの排出増が見込まれる途上国においても,排出削減と経済成長を両立させ,持続可能な発展を実現することが重要である。我が国は,先進国の責務として,自らの強みである環境技術・製品を活用しながら,政策面での協力等を通じて,これまで培った経験を共有することで,地球規模での排出削減に貢献する。また,気候変動の影響に脆弱な途上国における取組を官民一体となって推進し,気候変動の影響に強い低炭素型社会への転換に貢献する。

 我が国としては,そのための具体的な取組として以下の3つのアプローチにより率先して関連施策を実施するとともに,国際社会全体でも同様の取組を進めるよう各締約国に対し積極的に働きかけていく。

 なお,本ビジョンは,来年の「リオ+20」の主要テーマの一つであるグリーン経済についての議論に対する具体的貢献にもつながるものである。

1.先進国間の連携:更なる排出削減に向けた技術革新への取組

 CO2排出を削減し,低炭素社会へ移行していくためには,省エネルギー対策,既存の低炭素技術の利用などを推進するとともに,長期的な視野に立った技術革新への取組が不可欠である。

 (1)我が国は,太陽電池の更なる低コスト・高効率化など,革新的な低炭素技術の開発を他の先進国と連携して取り組んでいく。

 (2)また,「国際エネルギー機関」(IEA)の有する技術ネットワーク,「国際省エネルギー協力パートナーシップ」(IPEEC)及び「国際再生可能エネルギー機関」(IRENA)といった,既存の国際的な枠組みを最大限活用しつつ,国際連携を推進する。

 (3)さらに,気候変動の科学,大規模な地球環境変化の監視,気候変動政策に貢献する全球地球観測システム(GEOSS),全球気候観測シス テム(GCOS)等の国際連携を強化していくため,先進国間での観測連携を念頭に,我が国としても温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)等の地球環境観測衛星による観測態勢の構築に取り組む。

2.途上国との連携:低炭素技術の普及・促進,新たな市場メカニズムの構築

 気候変動問題を解決するためには,先進国の低炭素技術・製品を速やかに普及させる仕組みを官民一体で構築し,今後,経済発展に伴い温室効果ガスの排出増が見込まれる途上国において,排出削減と経済成長を両立させる低炭素成長を実現することが重要である。この一環として,我が国としては,これまで重要な役割を果たしてきた京都議定書におけるクリーン開発メカニズム(CDM)のさらなる改善を目指すほか,新たな市場メカニズムの具体化に向け,二国間協力(二国間オフセット・クレジット制度)や地域協力をさらに推進していく。

 (1)我が国は,世界の成長センターかつ最大の温室効果ガス排出地域である東アジアを始め,地域に根ざした低炭素成長モデルの構築を目指し,政策対話・協力等を推進する。本年5月の日中韓サミットでとりまとめた「再生可能エネルギー及びエネルギー効率の推進による持続可能な成長に向けた協力」や「グリーン・メコンに向けた10年」イニシアティブに基づくメコン地域諸国での協力,昨年韓国が設立したグローバル・グリーン成長研究所(GGGI)との様々な形での協力,先般インドネシアとの間でとりまとめた「気候変動分野における二国間協力」,本年11月に東京にてUNIDOとの協力の下開催し,途上国における排出削減の在り方について意見交換を行った「グリーン産業開発支援国際会議」はその一環である。

 さらに,東アジア首脳会議(EAS)の下での地域協力の取組として,東アジア低炭素成長パートナーシップ構想を提唱した。先般の東アジア首脳会議での各国首脳の賛同を受け,来年4月に域内メンバー国の政府・民間関係者による東アジア低炭素成長パートナーシップ対話を開催する。

 (2)また,我が国としては,低炭素成長に科学の側面からも協力を行っていく。東アジアにおいては長期的な低炭素社会シナリオや低炭素政策・技術のロードマップの策定など,科学に基づく政策支援に取り組む研究機関間のネットワークを構築するとともに,アジア太平洋地域においては科学的基盤づくりを行うアジア太平洋地球変動研究ネットワークへの支援も引き続き行っていく。

 (3)我が国は,二国間オフセット・クレジット制度の設計と実施に向けた知見・経験の共有のためにこれまで28か国との間で実現可能性調査を進めている。また,一部のアジア諸国との間で同制度に関する政府間協議を開始した。同制度の2013年からの運用開始を目指し,今後これらの相手国との間でモデル事業の実施,キャパシティ・ビルディング及び共同研究を推進すると共に,他の関心のある諸国との間でも政府間協議を進める。これらの取組を通じ,途上国との幅広い協力関係の構築を目指すとともに,積極的に情報発信を行っていく。

3.途上国支援:脆弱国への配慮

(1)我が国のコミットメント

ア 我が国は,COP15で表明した,総額150億ドルの2012年までの途上国短期支援のうち,既に125億ドル(2011年10月末時点)を実施した。我が国としては,既に表明したコミットメントを引き続き着実に実施する。特に,アフリカ,後発開発途上国(LDC),小島嶼国など脆弱国に対する支援を重視しており,これら諸国の要請に応えるべく,気候変動関連の無償資金協力のうち半分以上を適応分野に充当し てきた。また,世銀等と連携しつつ,来年5月に我が国が主催する太平洋・島サミットに向けて,太平洋島嶼国向けの自然災害リスク保険の開設を検討する他,小島嶼国に対する低炭素型社会への移行支援を実施していく。

イ 2013年以降も,切れ目なく支援を実施することが重要であり,我が国は,特に脆弱国に対して国際社会とともに着実に支援を行っていく。中長期の気候変動資金の柱の一つとなり得る緑の気候基金については,付加価値の高い基金となるよう引き続き設計の議論に貢献していく。さらに,世銀を通じたアフリカ向けの制度・能力強化の支援(レディネス・サポート)など途上国の支援の受入れ体制の整備にも努めていく。

(2)支援の重点事項

我が国としては以下の分野に重点をおいて支援を実施していく。

 また,我が国は,世界適応ネットワークの一つとしてアジア太平洋地域で運営されているアジア太平洋気候変動適応ネットワーク(APAN)を支援しており,同地域における適応に係る情報・知識の共有といった途上国の適応対策に引き続き貢献していく。

イ 官民連携の強化

 公的資金は途上国支援において引き続き重要な役割を果たすが,同時に民間資金の呼び込みに向けた効率的な仕組みの構築が重要である。このため我が国としては,JICA,JBIC,NEXI,NEDO等のリソースを一層活用しつつ,民間との協調融資・協力を進めていく。また,BOPビジネスの事業化の可能性を探るため,協力準備調査を今後とも進める。COP17では多くの日本企業関係者とともにエコプロダクツ展を開催予定であるが,今後とも経済ミッション派遣など民間レベルの対話を支援していく。

 また,「エネルギー効率に関するグローバル・パートナーシップ」 (GSEP)など官民パートナーシップを促進していく。

ウ 低炭素成長に向けた支援及び脆弱国との政策対話の強化

 我が国は,脆弱国においても,低炭素成長に向けた支援を重視している。その一環として,アフリカ開発会議(TICAD)の枠組みの下,アフリカ諸国やアフリカ連合(AU),世銀,UNDP等の関係機関と共にアフリカにおける低炭素成長に関する戦略を策定中である。この戦略 は,2013年以降,国際社会が対アフリカ支援を行う際の指針となり得るものである。具体的な取組の一つとして,Lighting(電化支援), Lifting(産業基盤整備), Linking(通信網整備)の3つのLを旗印としたプロジェクトをアフリカ諸国において既に実施中であるが,今後も本戦略に基づきこうした取組を継続していく。なお,本戦略は,COP17で同戦略の骨子,来年のTICAD閣僚級フォローアップ会合で中間報告を公表し,最終報告は来年10月に我が国で開催される世銀・IMF総会の際に公表予定である。

 また,我が国は,脆弱国との政策対話を重視しており,今年11月はじめに東京でアフリカ諸国の交渉担当者との政策対話を実施した。今後,他の脆弱国との間でも同様の政策対話を実施していく。

エ 人材育成の重視

 途上国が上記支援を受け入れ,自立的に気候変動対策に取り組む体制を構築するには,人材育成が極めて重要である。日本は,気候変動対策や森林保全などの気候変動対策分野で2010年には約3,000人の専門家派遣・研修員受入を実施した。今後とも人材の能力開発を支援していく。