[文書名] 「アフリカ・グリーン成長戦略―低炭素成長と気候変動に強靱な開発にむけて」要素案
2011年5月1〜2日にセネガルのダカールで開催したTICAD閣僚級フォローアップ会合においてアフリカ低炭素成長・持続可能な開発戦略の策定が合意された。アフリカにおける持続可能な低炭素成長を促進する中長期的な共通ビジョンを構築する本戦略の策定にむけて,日本はアフリカ諸国と緊密に協力していく意向。このことは世界のグリーン経済への移行に対する日本の積極的な貢献にもつながる。2013年以降,日本を始めとした国際的なパートナーの間で,アフリカへの支援や投資を行うにあたって本戦略が有益な指針となることにより,シナジー効果が促進されることを期待する。今後,2012年の第4回TICADフォローアップ会合において本戦略に関する中間報告を行い,また,2012年中の適当な機会に最終報告を行う予定である。
1.アフリカにおける気候変動問題の課題と機会
(1)現在,気候変動問題は,アフリカにとって主要な開発課題の1つである。特に,脆弱国において重大な負の影響を与えており,特にアフリカにおいては同問題への対応が持続的な開発と人間の安全保障の実現のために必要不可欠な要素となっている。同時にアフリカには再生可能エネルギー等グリーン成長分野に大きな潜在力があり,当該分野における投資も増えている。
アフリカ諸国政府は,国際社会の支援を活用しつつ,気候変動分野での脆弱性を克服し,「気候変動に強靱な(climate resilient)」経済成長を目指すとともに,再生可能エネルギー分野を含むグリーン成長により,その成長を加速することが重要である。
(2)気候変動分野において,アフリカ各国は地域特性,開発の優先度,社会・文化的な要素等から多様な開発ニーズを有しており,国別の開発戦略を策定した国も多い。一方,気候変動問題は1カ国では対応できない課題も多く,多数国間で共通の課題に取り組むことが不可欠であり,域内の協力関係も構築されつつある。このような地域・国を超えた協力が適応・緩和双方の分野で強化される必要がある。
(3)本戦略はアフリカ諸国のオーナーシップに基づき,各国の優先順位に留意しつつ,アフリカ諸国とその開発パートナーとの間で,地域に共通する中長期的なビジョンを構築し,持続的で包括的な経済成長を促進することを目指す。
2.低炭素成長戦略(目標と方針)
<目標>
アフリカ諸国による「アフリカ・グリーン成長」(適応+緩和)を支援
アフリカ諸国の適応分野での課題を克服すると同時に,緩和分野における取組を推進しグリーン成長を実現する。
<方針>
(1)適応と緩和を統合した形で検討
◦気候変動起因の問題がアフリカの開発を阻害する要因となっているため,適応分野の課題にはできるだけ速やかに対応することを目指す。
◦低炭素社会としてのアフリカの自然環境を保全しつつ,バランスのとれた経済成長を実現するために,各分野において気候変動に配慮した開発を進める。
◦各国が策定したNAMAs,NAPs,及び地域ごとのニーズにも留意しつつ,セクター別及び分野横断的課題の検討を行う
◦開発度合いが異なるアフリカ諸国の状況にあわせた適切な技術を移転する。
(2)オーナーシップの強化
◦気候変動関連の方策・実施における高いレベルでの国ごとのオーナーシップの強化
◦さまざまなステークホルダーの関与を促進する。
◦既存の国別/国境を越えた/地域的な戦略やイニシアティブとの補完性を確保する。
(3)国際社会と民間部門のパートナーシップの強化
◦この戦略を民間企業とも幅広く共有することにより,公的セクターと民間セクターの連携が一層促進されるとともに,公的な支援を触媒とした民間投資呼び込みの可能性を増加させる。
◦官民連携を強化し,雇用創出,特に若い世代の雇用促進に繋げる。
(4)将来の気候資金のために,開発パートナー間での調整の向上
◦この戦略をアフリカ諸国及び各開発パートナー(ドナー,NGO等)が指針の1つとして活用することで,本分野における既存のイニシアティブからの知見に基づき,各国・地域が個別に実施している政策,計画の調和,及びバイとマルチの支援の連携が促進される。
◦将来の気候変動分野における長期資金(緑の気候基金を含む)による支援においても,(アフリカ諸国が支援を受ける場合に、)国際社会が本戦略を活用することを期待する。
◦各国・地域レベルでのセクター間の連携が促進される。
3.低炭素成長戦略における個別セクターの取組
(1)エネルギー分野
◦エネルギー・サービスの欠如は産業の発達を阻害し,医療サービスや教育を受ける機会を制限し,貧困化の固定につながる。一方,経済成長の過程ではエネルギー需要が著しく増大するため,エネルギーの安定供給の確保とともに環境への適切な配慮が必要。
◦水力,太陽光・太陽熱,地熱,バイオマス,風力など,再生可能エネルギーの活用と電力網の整備によるエネルギーアクセスの向上を図ることを検討。
◦省エネを通じたエネルギーの効率的な利用促進策を検討。
(2)農業分野
◦気候変動の影響に強い食料安全保障体制を実現する観点から,食料の一層の増産と農業生産性の向上をはかることが急務。
◦このため,気候変動に適応するための品種改良,灌漑,畜産,収穫管理システム,栽培技術など農業技術や農業インフラの向上/強化を検討。
(3)森林分野
◦アフリカは世界で最も森林の減少率が高い地域の1つ。アフリカにおける深刻な森林減少は干ばつや洪水といった自然災害の規模と頻度を増幅し,農業にも悪影響を与える可能性がある。
◦森林減少を抑えるために,REDD+プロジェクトの取組促進等の方途を検討。
(4)防災分野
◦本年のアフリカの角における干ばつの例にもあるとおり,アフリカにおいて近年大規模な自然災害が発生しており,社会・経済システムに深刻な影響を与えている。また,貧困層が大きな被害を受けることで大量の難民が発生し,二次的被害が長期化する問題もある。
◦洪水・干ばつ・沿岸浸食・地滑り等の自然災害が発生した場合に遅滞ない緊急支援の実施を確保するとともに,将来の災害に備えた対処能力向上等の方途を検討。
(5)水分野(含む,衛生分野)
◦水と衛生の問題は,人の生命に関わる重要な問題であり,気候変動の影響も大きい。
◦清潔な水を供給できる給水施設や衛生施設(含む,廃棄物処理施設)の整備,アクセスの改善,および水資源(含む,地下水)管理に関する人材育成等の方途について検討。
(6)運輸分野
◦持続的な経済成長のためには運輸インフラの整備が必要であり,各国の国内インフラのみならず,各地において広域インフラの整備がすすんでいる。
◦環境に配慮し,自然災害の発生も念頭においたクリーンで効率的な運輸インフラ整備の方途を検討。
(7)分野横断的な課題
◦セクター横断的な課題として,ジェンダーにも配慮しながら,人材の育成,組織の機能強化,データの収集や知識の共有・蓄積,気候変動分野における内外関係者間の政策対話の促進が必要とされている。この観点から,アフリカ各国による低炭素成長の策定に資する技術協力を積極的に検討。
◦また,気候変動分野における資金調達メカニズムの確立と環境技術の活用の観点から,CDM及び二国間オフセット・クレジット制度のアフリカにおける活用の促進及びそれに関連する能力向上等の方途を検討する。
◦一部のセクターにおいては一層の民間資金の活用が持続可能な経済成長,技術移転の観点から有益であり,公的資金を触媒とした民間資金の呼び込み,BOP事業の導入が必要とされている。具体的な取組の一つとして,日本がすでにアフリカ諸国で実施しているLighting(電化支援等), Lifting(産業基盤整備等), Linking(通信網整備等)の3つのLを旗印としたプロジェクトを今後も継続していく。
◦気候変動対策において一般市民やコミュニティレベルでの理解が重要であり,気候変動対策に関する啓蒙活動や広報を促進する。