[文書名] GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~
1.はじめに
世界規模で異常気象が発生し、大規模な自然災害が増加するなど、気候変動問題への対応は今や人類共通の課題となっている。カーボンニュートラル目標を表明する国・地域が増加し世界的に脱炭素の機運が高まる中、我が国においても2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルの実現という国際公約を掲げ、気候変動問題に対して国家を挙げて対応する強い決意を表明している。
このような中、2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が発生し、世界のエネルギー情勢は一変した。世界各国では、エネルギー分野のインフレーションが顕著となり、我が国においても電力需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰が生じるなど、1973年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される極めて緊迫した事態に直面している。エネルギー安定供給の確保は、言うまでもなく国民生活、企業活動の根幹である中、このような危機に直面し、我が国のエネルギー供給体制がぜい弱であり、エネルギー安全保障上の課題を抱えたものであることを改めて認識することとなった。
過去、幾度となく安定供給の危機に見舞われてきた我が国にとって、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する、「グリーントランスフォーメーション」(以下「GX」(Green Transformation)という。)は、戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味する。
既に欧米各国は、ロシアによるウクライナ侵略を契機として、これまでの脱炭素への取組を更に加速させ、国家を挙げて発電部門、産業部門、運輸部門、家庭部門などにおける脱炭素につながる投資を支援し、早期の脱炭素社会への移行に向けた取組を加速している。欧州連合(以下「EU」という。)では、10年間に官民協調で約140兆円程度の投資実現を目標とした支援策を定め、一部のEU加盟国では、これに加えて数兆円規模の対策も講じている。また、米国では、超党派でのインフラ投資法に加え、2022年8月には10年間で約50兆円程度の国による対策(インフレ削減法)を定めるなど、欧米各国は国家を挙げた脱炭素投資への支援策、新たな市場やルール形成の取組を加速しており、GXに向けた脱炭素投資の成否が、企業・国家の競争力を左右する時代に突入している。
周囲を海で囲まれ、すぐに使える資源に乏しい我が国では、脱炭素関連技術に関する研究開発が従来から盛んであり、日本企業が技術的な強みを保有する分野も多い。こうした技術分野を最大限活用し、GXを加速させることは、エネルギーの安定供給につながるとともに、我が国経済を再び成長軌道へと戻す起爆剤としての可能性も秘めている。民間部門に蓄積された英知を活用し、世界各国のカーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し、日本の産業競争力を再び強化することを通じて、経済成長を実現していく必要がある。
GXの実現を通して、2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年カーボンニュートラルの国際公約の達成を目指すとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換の実現、さらには、我が国の産業構造・社会構造を変革し、将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現すべく、GX実行会議における議論の成果を踏まえ、今後10年を見据えた取組の方針を取りまとめる。*1*
加えて、第211回国会に、GX実現に向けて必要となる関連法案を提出する。
2.エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組
(1)基本的考え方
ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー情勢のひっ迫を受け、G7を始めとする欧米各国では、各国の実情に応じたエネルギー安定供給対策を講じており、足元のエネルギー分野のインフレーションへの対応として、様々なエネルギー小売価格の高騰対策を講ずるとともに、再生可能エネルギーの更なる導入拡大を行いつつ、原子力発電の新規建設方針を表明するなど、エネルギー安定供給確保に向けた動きを強めている。
一方で、国内では、電力自由化の下での事業環境整備、再生可能エネルギー導入のための系統整備、原子力発電所の再稼働などが十分に進まず、国際的なエネルギー市況の変化などとあいまって、2022年3月と6月に発生した東京電力管内などの電力需給ひっ迫に加え、エネルギー価格が大幅に上昇する事態が生じ、1973年のオイルショック以来のエネルギー危機とも言える状況に直面している。
安定的で安価なエネルギー供給は、国民生活、社会・経済活動の根幹であり、我が国の最優先課題である。気候変動問題への対応を進めるとともに、今後GXを推進していく上でも、エネルギー安定供給の確保は大前提であると同時に、GXを推進することそのものが、エネルギー安定供給の確保につながる。
将来にわたってエネルギー安定供給を確保するためには、ガソリン、灯油、電力、ガスなどの小売価格に着目した緊急避難的な激変緩和措置にとどまることなく、エネルギー危機に耐え得る強靱なエネルギー需給構造に転換していく必要がある。
そのため、化石エネルギーへの過度な依存からの脱却を目指し、需要サイドにおける徹底した省エネルギー、製造業の燃料転換などを進めるとともに、供給サイドにおいては、足元の危機を乗り切るためにも再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する。
福島復興はエネルギー政策を進める上での原点であることを踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や帰還困難区域の避難指示解除、福島イノベーション・コースト構想による新産業の創出、事業・なりわいの再建など、最後まで福島の復興・再生に全力で取り組む。その上で、原子力の利用に当たっては、事故への反省と教訓を一時も忘れず、安全神話に陥ることなく安全性を最優先とすることが大前提となる。
GXの実現を通して、我が国企業が世界に誇る脱炭素技術の強みをいかして、世界規模でのカーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、新たな市場・需要を創出し、日本の産業競争力を強化することを通じて、経済を再び成長軌道に乗せ、将来の経済成長や雇用・所得の拡大につなげることが求められる。
こうした基本的考え方に基づき、これまでのGX実行会議などにおける議論を踏まえ、以下の取組を進める。
(2)今後の対応*2*
1)徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換)
省エネルギー(以下「省エネ」という。)は、エネルギー使用量の削減を通した脱炭素社会への貢献のみならず、危機にも強いエネルギー需給体制の構築にも資するため、家庭・業務・産業・運輸の各分野において、改正省エネ法*3*等を活用し、規制・支援一体型で大胆な省エネの取組を進める。
企業向けには、複数年の投資計画に切れ目なく対応できる省エネ補助金を創設するなど、中小企業の省エネ支援を強化する。エネルギー診断や運用改善提案を行う省エネ診断事業を拡充し、中小企業の経営者に対する支援を強化する。
家庭向けには、関係省庁で連携して、省エネ効果の高い断熱窓への改修など住宅の省エネ化に対する支援について、統一窓口を設けワンストップ対応により強化するなど、国民の協力や取組を自然な形で促すとともに、それが国民の快適なライフスタイルとして定着し得るよう消費者に対して省エネの取組への理解と消費行動変化を促す施策等を進める。電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金も活用しつつ、自治体における、地域の実情を踏まえた、省エネ家電等の買い替え支援の取組を後押しする。
改正省エネ法に基づき、大規模需要家に対し、非化石エネルギー転換に関する中長期計画の提出及び定期報告を義務化し、産業部門のエネルギー使用量の4割*4*を占める主要5業種(鉄鋼業・化学工業・セメント製造業・製紙業・自動車製造業)に対して、国が非化石エネルギー転換の目安を提示する。また、省エネ法の定期報告情報の任意開示の仕組みを新たに導入することで、事業者の省エネ・非化石エネルギー転換の取組の情報発信を促す。加えて、水素還元製鉄等の革新的技術の開発・導入や、高炉から電炉への生産体制の転換、アンモニア燃焼型ナフサクラッカーなどによる炭素循環型生産体制への転換、石炭自家発電の燃料転換などへの集中的な支援を行う。
熱需要の脱炭素化・熱の有効利用に向け、家庭向けにはヒートポンプ給湯器や家庭用燃料電池などの省エネ機器の普及を促進するとともに、産業向けには産業用ヒートポンプやコージェネレーションも含めた省エネ設備等の導入を促進する。
ディマンドリスポンスについては、これに活用可能な蓄電池や制御システムの導入支援、改正省エネ法におけるディマンドリスポンスの実績を評価する枠組みの創設等を通じ、更なる拡大を図る。
2)再生可能エネルギーの主力電源化
脱炭素電源として重要な再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら、S+3E(安全性(Safety)、安定供給(Energy security)、経済性(Economic efficiency)、環境(Environment))を大前提に、主力電源として最優先の原則で最大限導入拡大に取り組み、関係省庁・機関が密接に連携しながら、2030年度の電源構成に占める再生可能エネルギー比率36~38%の確実な達成を目指す。
このため、直ちに取り組む対応として、太陽光発電の適地への最大限導入に向け、関係省庁・機関が一体となって、公共施設、住宅、工場・倉庫、空港、鉄道などへの太陽光パネルの設置拡大を進めるとともに、温対法*5*等も活用しながら、地域主導の再エネ導入を進める。また、出力維持に向けた点検・補修などのベストプラクティスの共有を図る。
FIT(Feed in Tariff)/FIP(Feed in Premium)制度について、発電コストの低減に向けて、入札制度の活用を進めるとともに、FIP制度の導入を拡大していく。さらに、FIT/FIP制度によらない需要家との長期契約により太陽光を導入するモデルを拡大する。
再エネ出力安定化に向け、蓄電池併設やFIP制度の推進による、需給状況を踏まえた電力供給を促進する。
洋上風力の導入拡大に向け、早期運転開始の計画を評価するインセンティブ付けを行うなど、洋上風力公募のルールの見直しを踏まえ、2022年末に公募を開始したところ。また、地元理解の醸成を前提とした案件形成を加速させるため、「日本版セントラル方式」を確立する。さらに、排他的経済水域(EEZ)への拡大のための制度的措置を検討する。加えて、陸上風力について関係する規制・制度の合理化に向けた取組を進めつつ、地域との共生を前提に更なる導入を進める。
中長期的な対策として、再エネ導入拡大に向けて重要となる系統整備及び出力変動への対応を加速させる。系統整備の具体的対応策として、全国規模での系統整備計画(以下「マスタープラン」という。)に基づき、費用便益分析を行い、地元理解を得つつ、道路、鉄道網などのインフラの活用も検討しながら、全国規模での系統整備や海底直流送電の整備を進める。地域間を結ぶ系統については、今後10年間程度で、過去10年間(約120万kW)と比べて8倍以上の規模(1000万kW以上)で整備を加速すべく取り組み、北海道からの海底直流送電については、2030年度を目指して整備を進める。さらに、系統整備に必要となる資金調達を円滑化する仕組みの整備を進める。
出力変動を伴う再生可能エネルギーの導入拡大には、脱炭素化された調整力の確保が必要となる。特に、定置用蓄電池については、2030年に向けた導入見通しを策定し、民間企業の投資を誘発する。定置用蓄電池のコスト低減及び早期ビジネス化に向け、導入支援と同時に、例えば家庭用蓄電池を始めとした分散型電源も参入できる市場構築や、蓄電池を円滑に系統接続できるルール整備を進める。
長期脱炭素電源オークションを活用した揚水発電所の維持・強化を進めるとともに、分散型エネルギーリソースの制御システムの導入支援によりディマンドリスポンスを拡大することや、余剰電気を水素で蓄えることを可能とするための研究開発や実用化を進めることなど、効果的・効率的に出力変動が行える環境を整える。
太陽光発電の更なる導入拡大や技術自給率の向上にも資する次世代型太陽電池(ペロブスカイト)の早期の社会実装に向けて研究開発・導入支援やユーザーと連携した実証を加速化するとともに、需要創出や量産体制の構築を推進する。
浮体式洋上風力の導入目標を掲げ、その実現に向け、技術開発・大規模実証を実施するとともに、風車や関連部品、浮体基礎など洋上風力関連産業における大規模かつ強靱なサプライチェーン形成を進める。
太陽光パネルの廃棄について、2022年7月に開始した廃棄等費用積立制度を着実運用するとともに、2030年代後半に想定される大量廃棄のピークに十分対処できるよう、計画的に対応していく。
適切な事業規律の確保を前提に、地域共生型の再エネ導入拡大に向け、森林伐採に伴う影響など災害の危険性に直接影響を及ぼし得るような土地開発に関わる許認可取得を再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法*6*上の認定申請要件とし、関係法令等の違反事業者にFIT/FIP制度の国民負担による支援を一時留保する新たな措置の創設などの制度的措置を講ずる。また、既設再エネの増出力・長期運転に向けた追加投資を促進するための、再エネ施設の維持管理や更新・増設など再エネによる電力供給量を保ち続ける制度的措置も講ずる。
再エネの更なる拡大に向け、安定的な発電が見込める、地熱、水力やバイオマスについても、必要となる規制や制度の不断の見直しを行うなど、事業環境整備を進め、事業性調査や資源調査、技術開発、AIやIoTの導入支援など、それぞれの電源の特性に応じた必要な支援等を行う。
3)原子力の活用
原子力は、その活用の大前提として、国・事業者は、東京電力福島第一原子力発電所事故の反省と教訓を一時たりとも忘れることなく、「安全神話からの脱却」を不断に問い直し、規制の充足にとどまらない自主的な安全性の向上、事業者の運営・組織体制の改革、地域の実情を踏まえた自治体等の支援や避難道の整備など防災対策の不断の改善等による立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化・充実等に、国が前面に立って取り組む。
その上で、CO2を排出せず、出力が安定的であり自律性が高いという特徴を有する原子力は、安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立に向け、エネルギー基本計画に定められている2030年度電源構成に占める原子力比率20~22%の確実な達成に向けて、いかなる事情より安全性を優先し、原子力規制委員会による安全審査に合格し、かつ、地元の理解を得た原子炉の再稼働を進める。
エネルギー基本計画を踏まえて原子力を活用していくため、原子力の安全性向上を目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。そして、地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを対象として、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていく。その他の開発・建設は、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく。あわせて、安全性向上等の取組に向けた必要な事業環境整備を進めるとともに、研究開発や人材育成、サプライチェーン維持・強化に対する支援を拡充する。また、同志国との国際連携を通じた研究開発推進、強靱なサプライチェーン構築、原子力安全・核セキュリティ確保にも取り組む。
既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、現行制度と同様に、「運転期間は40年、延長を認める期間は20年」との制限を設けた上で、原子力規制委員会による厳格な安全審査が行われることを前提に、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることとする。
あわせて、六ヶ所再処理工場の竣工目標実現などの核燃料サイクル推進、廃炉の着実かつ効率的な実現に向けた知見の共有や資金確保等の仕組みの整備を進めるとともに、最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働き掛けを抜本強化するため、文献調査受入れ自治体等に対する国を挙げての支援体制の構築、実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)の体制強化、国と関係自治体との協議の場の設置、関心地域への国からの段階的な申入れ等の具体化を進める。
4)水素・アンモニアの導入促進
水素・アンモニアは、発電・運輸・産業など幅広い分野で活用が期待され、自給率の向上や再生可能エネルギーの出力変動対応にも貢献することから安定供給にも資する、カーボンニュートラルの実現に向けた突破口となるエネルギーの一つである。特に、化石燃料との混焼が可能な水素・アンモニアは、エネルギー安定供給を確保しつつ、火力発電からのCO2排出量を削減していくなど、カーボンニュートラルの実現に向けたトランジションを支える役割も期待される。同時に、水素・アンモニアの導入拡大が、産業振興や雇用創出など我が国経済への貢献につながるよう、戦略的に制度構築やインフラ整備を進める。
大規模かつ強靱なサプライチェーンを国内外で構築するため、国家戦略の下で、クリーンな水素・アンモニアへの移行を求めるとともに、既存燃料との価格差に着目しつつ、事業の予見性を高める支援や、需要拡大や産業集積を促す拠点整備への支援を含む、規制・支援一体型での包括的な制度の準備を早期に進める。また、化石燃料との混焼や専焼技術の開発、モビリティ分野における商用用途での導入拡大を見据えた施策を加速させる。
エネルギー安全保障の観点を踏まえ、国内における水素・アンモニアの生産・供給体制の構築にも支援を行う。特に国内の大規模グリーン水素の生産・供給については、中長期を見据えてなるべく早期に実現するため、余剰再生可能エネルギーからの水素製造・利用双方への研究開発や導入支援を加速する。水素・アンモニアを海外から輸入する場合においても、製造時の温室効果ガス排出など国際的な考え方にも十分配慮するとともに、上流権益の獲得を見据えた水素資源国との関係強化を図る。
国民理解の下で、水素・アンモニアを社会実装していくため、2025年の大阪・関西万博での実証等を進めるとともに、諸外国の例も踏まえながら、安全確保を大前提に規制の合理化・適正化を含めた水素保安戦略の策定、国際標準化を進める。
5)カーボンニュートラルの実現に向けた電力・ガス市場の整備
電力システム改革については、需要家の選択肢の拡大や広域的電力供給システムの形成といった成果が見られる一方、火力発電所の休廃止や原子力発電所の再稼働の遅れなどによる供給力不足や需要家保護の観点からの小売電気事業の規律強化など制度設計上の課題も存在する。
そのため、供給力確保に向けて、2024年度開始予定の容量市場を着実に運用するとともに、休止電源の緊急時等の活用を見据えた予備電源制度、長期脱炭素電源オークションを通じ、安定供給の実現や、計画的な脱炭素電源投資を後押しする。
脱炭素型の調整力確保に向けて、非効率石炭火力のフェードアウトや、よりクリーンな天然ガスへの転換を進めるとともに、発電設備の高効率化や水素・アンモニア混焼・専焼の推進、揚水の維持・強化、蓄電池の導入促進、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)/カーボンリサイクル技術を追求する。また、マスタープランに基づき、費用便益分析を行い、地元理解を得つつ、道路、鉄道網などのインフラの活用も検討しながら、全国規模での系統整備や海底直流送電の整備を進める。地域間を結ぶ系統については、今後10年間程度で、過去10年間と比べて8倍以上の規模で整備を加速すべく取り組み、北海道からの海底直流送電については、2030年度を目指して整備を進める。さらに、系統整備に必要となる資金調達を円滑化する仕組みの整備を進める。なお、電源や系統規模等の制約を有する離島等の地域の実情を踏まえつつ、必要な取組を推進していく。
燃料の調達に万全を期すため、事業者の調達構造の見直し、燃料融通を可能とする枠組みや平時からの戦略的に余剰となるLNGを確保する仕組み(戦略的余剰LNG)を構築するなど燃料調達における国の関与の強化などを進める。
経済インセンティブの活用も含む都市ガス利用の節約、代替エネルギー等の活用、改正ガス事業法*7*によって措置された国による最終的な需給調整等からなる都市ガスの需給対策により、都市ガスの十分な供給量を確保できない場合に備える。
消費者保護の観点から、小売電気事業者に対する事業モニタリングなどの規律強化のため必要な対応を行うとともに、小売電気事業者間の競争を活性化させるべく、長期・安定的な電源へのアクセス強化に向けた方策を実施する。また、送配電事業の中立性・透明性の確保に向けて必要な対応を行う。
6)資源確保に向けた資源外交など国の関与の強化
ロシアによるウクライナ侵略を契機に世界のLNG供給余力がより減少するなど、世界の資源・エネルギー情勢がより複雑かつ不透明となる中、資源の大部分を海外に依存する我が国においては、化石燃料と金属鉱物資源等の安定供給確保のため、国が前面に立って資源外交を行う必要がある。
石油・天然ガス、金属鉱物資源の安定供給確保に向けて、民間企業が開発・生産に携わる海外の上・中流権益確保及び調達を支援するため、積極的な資源外交と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、株式会社国際協力銀行(JBIC)等の政府系機関を通じたLNG確保に向けた国の支援強化の取組を進める。
また、不確実性が高まるLNG市場の動向を踏まえ、長期間の備蓄が困難というLNGの性質を考慮し、民間企業の調達力をいかす形で、戦略的余剰LNGを構築するなど、政策を総動員して安定供給確保を目指す。
サハリン1、2、アークティックLNG2などの国際プロジェクトは、エネルギー安全保障上の重要性に鑑み、現状では権益を維持する。今後とも、G7を含む国際社会と連携しつつ、安定供給の確保に官民一体となって万全を尽くす。
アジア全体でのエネルギー安全保障を実現すべく、アジア各国と連携した上流開発投資や、有事・需給ひっ迫時などにおけるLNG確保のための相互協力体制の構築を行う。また、資源生産国へのLNG増産に向けた働き掛け等を通じ、アジア全体のエネルギー安定供給とカーボンニュートラルの実現に向けた現実的なトランジションを推進する。
地政学リスクに左右されない安定的な国産資源を確保する観点から、特にメタンハイドレートについては、引き続き可能な限り早期に成果が得られるよう、海底熱水鉱床などと併せて、我が国で開発可能な資源について技術開発等の支援を進める。
7)蓄電池産業
2030年までの蓄電池・材料の国内製造基盤150GWhの確立に向けて、蓄電池及び部素材の製造工場への投資や、DX・GXによる先端的な製造技術の確立・強化を支援するとともに、製造時のCO2排出量の可視化制度を導入し、蓄電池製造の脱炭素化や国際競争力の向上を図る。また、2030年頃の本格実用化に向けた全固体電池の研究開発の加速等、次世代電池市場の獲得に向けた支援にも取り組む。
8)資源循環
成長志向型の資源自律、循環経済の確立に向けて、動静脈連携による資源循環を加速し、中長期的にレジリエントな資源循環市場の創出を支援する制度を導入する。ライフサイクル全体での資源循環を促進するために、循環配慮設計の推進、プラスチックや金属、持続可能な航空燃料(以下「SAF」(Sustainable Aviation Fuel)という。)等の資源循環に資する設備導入等支援やデジタル技術を活用した情報流通プラットフォーム等を活用した循環度やCO2排出量の測定、情報開示等を促す措置にも取り組む。
9)運輸部門のGX
① 次世代自動車
省エネ法により導入されたトップランナー制度に基づく2030年度の野心的な燃費・電費基準及びその遵守に向けた執行強化により、電動車の開発、性能向上を促しながら、車両の導入を支援するとともに、充電・充てん設備、車両からの給電設備などの整備についても支援する。また、輸送事業者や荷主に対して改正省エネ法で新たに制度化される「非化石エネルギー転換目標」を踏まえた中長期計画作成義務化に伴い、燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)、電気自動車(BEV:BatteryElectric Vehicle)等の野心的な導入目標を策定した事業者等に対して、車両の導入費等を重点的に支援する。
② 次世代航空機
2030年代までの実証機開発やSAFの製造技術開発・実証、低燃費機材の導入、運航の改善等に取り組む。国際ルールの構築に向けた取組や、国連機関における2050年ネットゼロ排出目標の合意の下、CO2削減義務に係る枠組を含む具体的対策の検討を引き続き主導するとともに、改正航空法*8*に基づく航空脱炭素化推進基本方針の策定等を通じて、SAFの活用促進及び新技術を搭載した航空機の国内外需要を創出する。
③ ゼロエミッション船舶
国際海運2050年カーボンニュートラルの実現、地球温暖化対策計画の目標達成等に向けて、内外航のゼロエミッション船等の普及に必要な支援制度を導入する。カーボンニュートラルの実現に向け経済的手法及び規制的手法の両面から国際ルール作り等を主導し、ゼロエミッション船等の普及促進を始め海事産業の競争力強化を推進する。
④ 鉄道
鉄道アセットを活用した再エネ導入等の促進や鉄道利用促進に係る取組を推進するとともに、省エネ・省CO2車両や燃料電池鉄道車両の導入、水素供給拠点となる「総合水素ステーション」の実証等を推進する。
⑤ 物流・人流
物流・人流における省エネ化や非化石燃料の利用拡大に向けた需要構造の転換を実現するため、事業用のトラック・バス・タクシー等への次世代自動車の普及促進や、再エネ関連施設の一体的な整備支援、鉄道や船舶へのモーダルシフトやドローン物流の実装等によるグリーン物流の推進、MaaS(Mobility as a Service)の実装等による公共交通の利用促進等を図る。
10)脱炭素目的のデジタル投資
デジタル化や電化等の対応に不可欠な省エネ性能の高い半導体や光電融合技術等の開発・投資促進に向けた支援の検討を進める。
情報処理の基盤であるデータセンターについては、今後、省エネ法のベンチマーク制度の対象の拡充等により、省エネ効率の高い情報処理環境の拡大を目指す。
半導体については、継続的な生産や研究成果の社会実装を企業にコミットさせることで、GXを実現するための成長投資を行う。
11)住宅・建築物
2025年度までに省エネ基準適合を義務化し、2030年度以降の新築のZEH(Net Zero Energy House)・ZEB(Net Zero Energy Building)水準の省エネ性能確保やストックの性能向上のため、省エネ性能の高い住宅・建築物の新築や省エネ改修に対する支援等を強化する。あわせて、省エネ法に基づく建材トップランナーの2030年度目標値の早期改定・対象拡大を目指す。また、建築基準の合理化や支援等により木材利用を促進する。
12)インフラ
空港、道路、ダム、下水道等の多様なインフラを活用した再エネの導入促進やエネルギー消費量削減の徹底、脱炭素に資する都市・地域づくり等を推進する。産業や港湾の脱炭素化・競争力強化に向け、カーボンニュートラルポート(CNP)の形成推進や建設施工に係る脱炭素化の促進を図る。
13)カーボンリサイクル/CCS
① カーボンリサイクル燃料
カーボンリサイクル燃料は、既存のインフラや設備を利用可能であり、内燃機関にも活用可能であるため、脱炭素化に向けた投資コストを抑制することができるとともに、電力以外のエネルギー供給源の多様性を確保することでエネルギーの安定供給に資する。
メタネーションについては、燃焼時のCO2排出の取扱いに関する国際・国内ルール整備に向けて調整を行い、化石燃料によらないLPガスも併せて、グリーンイノベーション基金を活用した研究開発支援等を推進するとともに、実用化・低コスト化に向けて様々な支援の在り方を検討する。
SAFや合成燃料(e-fuel)については、官民協議会において技術的・経済的・制度的課題や解決策について集中的に議論を行いつつ、多様な製造アプローチ確保のための技術開発促進や実証・実装フェーズに向けた製造設備への投資等への支援を行う。
② バイオものづくり
初期需要創出のため、例えば、公共調達において、より広範にバイオ製品を利用するよう位置付ける、又は、農業などの異業種展開による市場の拡大を図る。
CO2等を原料とする認証、クレジット化等することにより、価格に適切に反映、また製造プロセス評価や再利用・回収スキームの確立など各種取組によって、バイオ製品利用にインセンティブを付与する。
③ CO2削減コンクリート等
市場拡大に向けて、CO2を削減する効果のあるコンクリート製造設備や炭酸カルシウムを利用する製品等に対して導入支援の実施や需要喚起策の検討を進める。
製造時のコンクリート内CO2量の評価手法を確立するとともに、全国で現場導入が可能な技術から国の直轄工事等において試行的適用を進め、今後技術基準等に反映しながら現場実装につなげる。
④ CCS
2030年までのCCS事業開始に向けた事業環境を整備するため、模範となる先進性のあるプロジェクトの開発及び操業を支援するとともに、CO2の地下貯留に伴う事業リスクや安全性等に十分配慮しつつ、現在進めている法整備の検討について早急に結論を得て、制度的措置を整備する。
14)食料・農林水産業
みどりの食料システム戦略*9*、みどりの食料システム法*10*等に基づき、脱炭素と経済成長の同時実現に資する農林漁業における脱炭素化、吸収源の機能強化、森林由来の素材をいかしたイノベーションの推進等に向けた投資を促進する。
3.「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行
(1)基本的考え方
国際公約達成と、我が国の産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けては、様々な分野で投資が必要となり、その規模は、一つの試算では今後10年間で150兆円を超える。こうした巨額のGX投資を官民協調で実現するため、「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現・実行していく。具体的には、以下の3つの措置を講ずることとする。
・「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策等)
・カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
・新たな金融手法の活用
また、GX投資を始めとする大規模な脱炭素投資を実現するためには、民間事業者の予見可能性を高めることが必要であり、そのため国が長期・複数年度にわたるコミットメントを示すと同時に、規制・制度的措置の見通しなどを示すことが必要となる。そのため、国として、産業競争力強化・経済成長及び排出削減の同時実現に向けた総合的な戦略を定め、GX投資が期待される主要分野において、各分野における新たな製品などの導入目標や、新たな規制・制度の導入時期などを一体的な「道行き」として示す。これを更に産業界や専門家も交えて、進捗評価・分析や必要な見直しを進めていく。加えて、「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を始めとするGXの推進に向けて、国民・産業界の理解醸成に必要な対応を行っていく。
さらに、「成長志向型カーボンプライシング構想」の早期具体化及び実行に向けて、必要となる法制上の措置を盛り込んだ法案を第211 回国会に提出する。なお、関連の制度の一部は将来導入することを踏まえ、その実施のために必要となる詳細な規定の一部については、必要な議論・検討を行った上で、2年以内に措置する。
(2)「GX経済移行債」を活用した大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策)
1)基本的考え方
今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現していくためには、国として長期・複数年度にわたり支援策を講じ、民間事業者の予見可能性を高めていく必要がある。そのため、新たに「GX経済移行債」を創設し、これを活用することで、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行する。その投資促進策は、新たな市場・需要の創出に効果的につながるよう、規制・制度的措置と一体的に講じていく。
まず、現時点で想定される投資や事業の見通しに基づき、企業規模を問わず、再生可能エネルギーや原子力等の非化石エネルギーへの転換、鉄鋼・化学など製造業を始めとする需給一体での産業構造転換や抜本的な省エネの推進、そして資源循環・炭素固定技術等の研究開発等への投資に対して、20兆円規模の国による支援を実施していく。
また、支援策を講ずる際には、個々の事業の実用化の段階、事業リスク、更には市場・製品の性質などに応じて、企業の様々な資金調達手法に即して、補助、出資、債務保証などを適切に組み合わせて実施していく。
当該支援については、まずは国が意志を持ってそのポートフォリオを戦略的に策定していく必要がある一方で、支援事業の効果測定や評価を踏まえ、ポートフォリオの見直しを柔軟に実施していく必要もある。
したがって、支援分野の優先順位付け、支援対象事業の選定等においては、技術や市場の見通し、事業の効果などの要素を検討するとともに、定期的に支援事業の進捗評価・分析を行い、支援継続の要否などを確認するためのチェック機能を設ける。支援対象については、こうした機能を通じて柔軟に見直しを行う。
2)「GX経済移行債」
国として長期・複数年度にわたり投資促進策を講ずるために、カーボンプライシング導入の結果として得られる将来の財源を裏付けとした20兆円規模の「GX経済移行債」を、来年度以降10年間、毎年度、国会の議決を経た金額の範囲内で発行していく。
また、「GX経済移行債」については、これまでの国債(建設国債、特例国債、復興債等)と同様に、同一の金融商品として統合して発行することに限らず、国際標準に準拠した新たな形での発行も目指して検討する。そのためには、①市場における一定の流動性の確保、②発行の前提となる民間も含めたシステム上の対応、③調達した資金の支出管理(支出のフォローアップ、レポート作成等)等の難しい課題を解決し、国際的な認証を受けて発行していくことが必要となる。このため、関係省庁による検討体制を早期に発足させる。
「GX経済移行債」により調達した資金は、GXに向けた投資促進のために支出することを明確化するべく、本基本方針に基づく国によるGX投資の一環として先行的に措置した予算を含めて、エネルギー対策特別会計で区分して経理する。また、償還については、カーボンニュートラルの達成目標年度の2050年度までに終える設計とする。
3)国による投資促進策の基本原則
国による投資促進策の基本原則としては、効果的にGX投資を促進していく観点から規制・制度的措置と一体的に講じていくことに加え、従来のようにエネルギー消費量の抑制や温室効果ガス排出量の削減のみを目的とするものとは異なり、受益と負担の観点も踏まえつつ、民間のみでは投資判断が真に困難な案件であって、産業競争力強化・経済成長及び排出削減のいずれの実現にも貢献する分野への投資を対象とする。
こうした基本原則を踏まえ、国による支援については、以下の条件を満たすものを対象とする。
基本条件
I. 資金調達手法を含め、企業が経営革新にコミットすることを大前提として、技術の革新性や事業の性質等により、民間企業のみでは投資判断が真に困難な事業を対象とすること。
II. 産業競争力強化・経済成長及び排出削減のいずれの実現にも貢献するものであり、その市場規模・削減規模の大きさや、GX達成に不可欠な国内供給の必要性等を総合的に勘案して優先順位を付け、当該優先順位の高いものから支援すること。
III. 企業投資・需要側の行動を変えていく仕組みにつながる規制・制度面の措置と一体的に講ずること。
IV. 国内の人的・物的投資拡大につながるもの(資源循環や、内需のみの市場など、国内経済での価値の循環を促す投資を含む。)を対象とし、海外に閉じる設備投資など国内排出削減に効かない事業や、クレジットなど目標達成にしか効果が無い事業は、支援対象外とすること。
上記の原則に加え、産業競争力強化・経済成長に係るA~Cの要件と、排出削減に係る1)~3)要件の双方について、それぞれ一つずつを満たす類型に適合する事業を支援対象候補として、優先順位付けを行う。
産業競争力強化・経済成長
A. 技術革新性または事業革新性があり、外需獲得や内需拡大を見据えた成長投資
B. 高度な技術で、化石原燃料・エネルギーの削減と収益性向上(統合・再編やマークアップ等)の双方に資する成長投資
C. 全国規模の市場が想定される主要物品の導入初期の国内需要対策(供給側の投資も伴うもの)
排出削減
1)技術革新を通じて、将来の国内の削減に貢献する研究開発投資
2)技術的に削減効果が高く、直接的に国内の排出削減に資する設備投資等
3)全国規模で需要があり、高い削減効果が長期に及ぶ主要物品の導入初期の国内
需要対策
(3)カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
1) 基本的考え方
カーボンプライシングは、炭素排出に値付けをすることにより、GX関連製品・事業の付加価値を向上させるものである。一方で、代替技術の有無や国際競争力への影響等を踏まえて実施しなければ、我が国経済への悪影響や、国外への生産移転(カーボンリーケージ)が生じるおそれがあることに鑑み、直ちに導入するのではなく、GXに集中的に取り組む期間を設けた上で導入することとする。
また、当初低い負担で導入し、徐々に引き上げていくこととした上で、その方針をあらかじめ示すことにより、GX投資の前倒しを促進することが可能となる。こうしたカーボンプライシングの特性をうまく活用することで、事業者にGXに先行して取り組むインセンティブを付与する仕組みを創設する。
これらを、国による20兆円規模の先行投資支援や新たな金融手法の活用とともに実行することで、官民協調での150兆円を超えるGX投資につなげることとする。
具体的なカーボンプライシングの制度設計については、多排出産業を中心に、企業ごとの状況を踏まえた野心的な削減目標に基づき、産業競争力強化と効率的かつ効果的な排出削減が可能となる「排出量取引制度」を導入するとともに、多排出産業だけでなく、広くGXへの動機付けが可能となるよう、炭素排出に対する一律のカーボンプライシングとしての「炭素に対する賦課金」を併せて導入することとする。
また、これらのカーボンプライシングは、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入することを基本とする。具体的には、今後、石油石炭税収がGXの進展により減少していくことや、再エネ賦課金*11*総額が再エネ電気の買取価格の低下等によりピークを迎え後に減少していくことを踏まえて導入することとする。
2)今後の対応
① 「排出量取引制度」の本格稼働
2023年度から試行的に開始する、GXリーグにおける「排出量取引制度」は、参加企業のリーダシップに基づく自主参加型である。企業が自主的に目標設定することで、企業に説明責任が発生し、強いコミットメント・削減インセンティブが高まるという観点から、削減目標の設定及び遵守についても、企業の自主努力に委ねることとする。
参画企業の自主性に重きを置く中で、制度に係る公平性・実効性を更に高めるため、2026年度の「排出量取引制度」本格稼働以降、更なる参加率向上に向けた方策や、政府指針を踏まえた削減目標に対する民間第三者認証、目標達成に向けた規律強化(指導監督、遵守義務等)などを検討するとともに、「排出量取引制度」の進捗や国際動向等を踏まえ、更なる発展に向けた検討を進める。
なお、「排出量取引制度」は、市場機能を活用することで効率的かつ効果的に排出削減を進めることが可能となる一方、市場価格が変動するため、取引価格に対する予見可能性が低い点が課題となるとの指摘もある。このため、諸外国の事例を踏まえ、中長期的に炭素 価格を徐々に引き上げていく前提で、上限価格と下限価格を適切に組み合わせて、その価格帯をあらかじめ示すことで、取引価格に対する予見可能性を高め、企業投資を促進する制度設計を行う。
価格帯は、GXに向けて行動変容を促す効果や、2023年度からの創設を目指すカーボン・クレジット市場での取引価格、国際的な炭素価格等も踏まえ、排出量取引市場が本格稼働する2026年度以降に設定することとし、予見性を高めるために、5年程度の価格上昇の見通しを定めつつ、経済情勢の変動等を踏まえ、一定の見直しを可能とする。
こうした将来的な発展を見据え、2023年度から、国及びGXリーグ参画企業が連携し、必要なデータ収集や知見・ノウハウ蓄積、政府指針の検討等を行っていく。また、「排出量取引制度」に参画する多排出企業を中心に、規制・支援一体型投資促進策の考え方に基づき、「GX経済移行債」による支援策を連動させていくことを検討する。
② 発電事業者に対する「有償オークション」の段階的導入
排出量削減に向けたインセンティブを強化し、カーボンニュートラルを実現するためには、電化と合わせた電力の脱炭素化が重要となる。このため、発電部門で有償オークションを適用するEU等の諸外国の事例を踏まえ、再エネ等の代替手段がある発電部門を対象とし、排出量の多い発電事業者(電気事業法*12*第二条第一項第十五号に規定する発電事業者)に対する「有償オークション」の段階的導入を実施する。
具体的には、発電事業を行うに当たって取得する必要がある排出量に相当する排出枠をオークションの対象とし、排出量の見通しや発電効率(ベンチマーク)等を基礎に、企業のGXの移行状況等を踏まえ、まずは排出枠を無償交付し、段階的に減少(有償比率を上昇)させる。
また、段階的導入の開始時期については、「炭素に対する賦課金」と同様、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入するため、再エネ賦課金総額がピークアウトしていく想定を踏まえて2033年度とする。あわせて、効率的な政策体系を目指し、既存の高度化法*13*等との関係整理を行う。
③ 「炭素に対する賦課金」の導入
多排出産業だけでなく、広くGXへの動機付けが可能となるよう、炭素排出に対する一律のカーボンプライシングとしての「炭素に対する賦課金」を導入することとする。具体的には、代替技術の有無や国際競争力への影響等を踏まえて実施しなければ、我が国経済への悪影響や、国外への生産移転(カーボンリーケージ)が生じるおそれがあることに鑑み、直ちに導入するのではなく、GXに集中的に取り組む5年の期間を設けた上で、2028年度から導入する。化石燃料の輸入事業者等を対象に、当初低い負担で導入した上で徐々に引き上げていくこととし、その方針をあらかじめ示すことで、民間企業によるGX投資の前倒しを促進する。
また、本制度の適用範囲については、既存の類似制度における整理等を踏まえ、適用除外を含め必要な措置を当分の間講ずることを検討するとともに、排出量取引制度における「有償オークション」と「炭素に対する賦課金」については、同一の炭素排出に対する二重負担の防止など、必要な調整措置の導入を検討する。
加えて、エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入していくことを基本とし、「排出量取引制度」の取引価格が最終的には市場で決定されること等も踏まえて、炭素に対する賦課金の水準等を決定できる制度設計とする。
④ カーボンプライシングの実施等を担う「GX推進機構」の創設
排出量取引制度の運営や負担金・賦課金の徴収等(先行投資支援の一部を含む)に係る業務を実施する機関として、「GX推進機構」を創設する。排出量取引制度と炭素に対する賦課金制度との「ハイブリッド型」のカーボンプライシングを導入するため、両制度に関する調整・管理及び徴収業務を、本機構が一体的に実施する。
また、2026年度の「排出量取引制度」本格稼働に向けて、本制度に係る各種実務を円滑に進め、中長期にわたり産業競争力強化と効率的かつ効果的な排出削減の両立が可能な形で制度を安定的に運営するため、排出実績や取引実績の管理、有償オークションの実施、取引価格安定化に向けた監視等を実施する。
(4)新たな金融手法の活用
1)基本的考え方
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、今後10年間で官民150兆円超のGX投資を実現するためには、「GX経済移行債」による国の支援と併せて、民間金融機関や機関投資家等による積極的なファイナンスが必要となる。
2050年カーボンニュートラルの実現という目標に向けて、グリーン・ファイナンスの拡大に加えて、多排出産業によるトランジションの取組に対する投資家・金融機関の資金供給は不可欠であるため、トランジション・ファイナンスに対する国際的な理解醸成へ向けた取組を強化していく。
同時に、GX分野の中には、大規模かつ長期的な資金供給が必要である一方、技術や需要の不透明性が高く、民間金融だけではリスクを取り切れないケースも存在するため、公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法(ブレンデッド・ファイナンス)の確立が重要である。
加えて、我が国は気候関連財務情報開示タスクフォース(以下「TCFD」(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)という。)賛同数が世界一を誇るなど、企業の積極的な情報開示により、産業と金融の対話を進めてきている。今後、国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」(International Sustainability Standards Board)という。)等の議論も踏まえて、気候変動情報の開示も含めた、サステナブルファイナンス全体を推進するための環境整備も図る。
2)今後の対応
① GX分野における民間資金の呼び込み
(グリーン分野)
グリーンボンドガイドライン等におけるグリーン性の判断基準の更なる明確化に向けたグリーンな資金使途の例示の拡充や、市場関係者の協力の下での資金調達者を対象としたプッシュ型の発行促進を行う新たなプラットフォームの構築を行うなど、グリーン・ファイナンスの国内市場発展のために必要な環境を整備する。
(トランジション分野)
国際的なトランジション・ファイナンスに対する理解醸成に向けた取組を強化すべく、トランジション・ファイナンスの適格性・信頼性の担保に向けた取組が必要となる。トランジション・ファイナンスにおいても、分野別技術ロードマップの充実などを行い投資家にとって魅力的なプロジェクトであることを示すことで、資金調達の拡大を図る必要がある。
特に、GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)傘下の金融アライアンスに賛同する投資家・金融機関は、2050年までにファイナンスド・エミッション含めて自社の排出量をネットゼロとすることが求められており、開示方法等によっては、自らのファイナンスド・エミッションを増加させる多排出産業に対する資金供給を躊躇することともなりかねない。このため、ファイナンスド・エミッションに関する国際的な算定・開示方法等を踏まえつつ、トランジション・ファイナンスが積極的に評価されるための枠組みの検討を進める。また、複数社での連携を後押しする競争政策上の対応についても、関係省庁・産業界で連携して引き続き検討を進める。
② 公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法(ブレンデッド・ファイナンス)の開発・確立
事業会社のGX投資と民間金融による資金供給を促進するためには、様々なリスクに対する適切な対応が必要であり、国による中長期の政策ロードマップの提示等を通じて将来の予見可能性を高めることにより民間投資を促進することに加えて、リスクに応じて、公的資金と民間資金をうまく組み合わせていくこと(ブレンデッド・ファイナンス)で、全体として脱炭素技術の社会実装を加速化していくことが重要である。
欧米では、これまでに対処したことのない不確実性を克服するため、公的機関と民間機関が、案件ごとにリスクに応じて、補助金、出資、債務保証などの財政支援と金融手法を提供する方向でGX投資促進策を整備しつつあり、我が国においても、GX投資を新たなアセットクラスと認識して、産業の国際競争力の強化も意識した上で、新たなファイナンス手法を開発・確立していくことが必要である。
現状においては、GX関連技術、金融、気候変動政策等の知見を有する人材群が十分存在しているとはいえないため、こうした新たなファイナンス手法の開発・実行をするためには、官民で知見や経験を共有して協働するための体制整備をしていく。
具体的には、公益性・公平性・中立性を持った公的機関である「GX推進機構」が、必要に応じて、案件関係者(事業者、公的・民間金融機関等、技術開発支援を行った国立研究開発法人等、機関投資家、弁護士や会計士等の専門家等)を集め、各主体におけるリスク許容度をヒアリング・分析し、民金融機関等が取り切れないリスク(通常の投融資よりも長期の期間、莫大な資金量等)を特定した上で、GX技術の社会実装段階における金融手法によるリスク補完策(債務保証等)を検討・実施していく。この際、民間金融機関
に加え、株式会社日本政策金融公庫や株式会社日本政策投資銀行、株式会社産業革新投資機構、株式会社脱炭素化支援機構などの公的金融機関等とも連携しつつ、民間投資の拡大を図る。
③ サステナブルファイナンスの推進
2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、プライム市場上場企業にはTCFD開示等が求められ、これらの取組により、日本のTCFD賛同社数は世界一となっている。他方、開示の内容面は発展途上であり、企業自らの経営戦略に即した実践的な開示を促進することが重要である。このために、TCFDコンソーシアムを通じた人材育成プログラムの提供など、更なる開示支援を行う。
また、脱炭素を含めた非財務情報開示、特にサステナビリティ情報の開示について注目が集まるとともに、重要性が高まっており、国際的にはISSBにおける議論も進んでいる。有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄を設けることとしており、必要な府令改正等の手続を進める。
加えて、下記を含むサステナブルファイナンス推進策を進め、GX分野における資金供給の更なる拡大を図る。
(ESG市場拡大のための市場機能の発揮)
グリーンやトランジションの客観性確保等に向け、2022年12月に策定したESG評価機関等の行動規範の遵守進めるとともに、グリーンウォッシュが懸念されるESG投信に係る監督指針を2022年度末までに策定する。
(金融機関の機能発揮)
金融機関向けの気候変動ガイダンスを2022年7月に公表したことに加えて、産業のトランジションを金融面から支援するための金融機関と企業の対話の在り方等を含め、金融機関による企業の脱炭素化支援を推進するため、2023年6月までに金融機関と企業との対話のためのガイダンスを策定する。
(分野横断的な取組)
社会課題の解決に向けたインパクト投資について、脱炭素化に向けたイノベーションへの資金供給の在り方等を含め検討を行い、2023年6月までにインパクト投資に係る基本的指針を取りまとめる。
4.国際展開戦略
(1)基本的考え方
気候変動問題への対応という人類共通の課題に対応するには、世界各国が足並みをそろえてカーボンニュートラルの実現に向けた取組を進めていく必要がある。現在、各国では、それぞれの事情に応じた脱炭素化に向けた取組が進められているところであり、我が国としては、世界規模でのGXの実現に貢献すべく、クリーン市場の形成やイノベーション協力を主導していく。
また、世界の排出量の半分以上を占めるアジアのGXの実現に貢献すべく、「アジア・ゼロエミッション共同体」(AZEC)構想を実現していくことにより、地域のプラットフォームを構築し、様々な支援と政策協調を行い、アジア各国と共に、エネルギー・トランジションを一層後押しし、エネルギー安全保障を確保しながら、現実的な形での脱炭素に向けた取組を進める。
我が国は、グローバル及びアジアでの取組を共に展開することで、世界の脱炭素化に貢献していく。
(2)今後の対応
世界の脱炭素化に貢献すべく、日本企業の技術をいかしてグローバルなクリーン市場の創設に寄与するとともに、アジアにおける今後増大するエネルギー投資を賄うべく、必要なファイナンス支援等を行っていく。
1)グローバル
グリーン製品の普及のための国際評価手法の確立を進めることで、グリーン鉄やグリーンプラスチック、省エネ製品などの価値が適切に評価される市場形成を進める。
また、企業による社会全体の温室効果ガス削減への貢献(削減貢献量「Avoided Emissions」を含む。)を評価し、こうした評価が価値として認識され、資金リソースが動員されるようにするため、企業の削減貢献を評価する新たな価値軸の構築などを進めていく。
2)アジア
アジアにおいては、今後の膨大なエネルギー投資を賄うべく、再エネを含むクリーンエネルギー・プロジェクトの組成を加速させる。その一環として、アジア各国の実情を踏まえ、持続的な経済成長、エネルギー安全保障、気候変動対策に配慮する形で「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」(AETI)を通じ、カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップ策定支援、アジア・トランジション・ファイナンス・ガイドライン等に基づくトランジション技術・プロジェクトへのファイナンスの後押し、脱炭素技術等に係る人材育成支援等を進める。
また、JBICや株式会社日本貿易保険(NEXI)、JOGMEC、独立行政法人国際協力機構(JICA)などの政府系機関を活用し、公的なファイナンス支援を行う。さらに、二国間クレジット制度(JCM)について、パートナー国の更なる拡大や実施体制強化に加え、CCS等の大規模プロジェクトの実施に向けた検討等を進めながら、活用の推進を図る。加えて、「日ASEAN気候変動アクション・アジェンダ2.0」の取組も推進していく。
5.社会全体のGXの推進
(1)公正な移行
1)基本的考え方
「公正な移行」(Just Transition)は、2009年のCOP15で国際労働組合総連合(ITUC:International Trade Union Confederation)が提唱した概念であり、我が国においてGXを推進する上でも、公正な移行の観点から、新たに生まれる産業への労働移動を適切に進めていくことが重要となる。化石燃料関連産業から低炭素産業への円滑な労働移動を支援することは、国民の生活・雇用を確保するとともに、我が国の経済成長にも資するものであるため、産業ごとの実態も踏まえつつ、大学等での人材育成等を含め国として必要な支援を行う。
2)今後の対応
2022年10月に閣議決定された物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策等も踏まえ、3年で4,000億円の人への投資の政策パッケージを5年で1兆円まで大幅に拡充した。成長分野等への労働移動の円滑化支援、在職者のキャリアアップのための転職支援等を通じて、新たなスキルの獲得とグリーン分野を含む成長分野への円滑な労働移動を同時に進めることで、公正な移行を後押ししていく。
(2)需要側からのGXの推進
1)地域・くらしのGX
地域金融機関や地域の企業等との連携の下、地域特性に応じて、各地方公共団体の創意工夫をいかした産業・社会の構造転換や脱炭素製品の面的な需要創出を進め、地域・くらしの脱炭素化を実現する。
このため、地球温暖化対策計画に基づき、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を選定し、各府省庁の支援策も活用することで、GXの社会実装を後押しする。また、地域脱炭素に向けた「重点対策」を実施し、地域脱炭素を加速化していくため、政府による財政的な支援も活用し、地方公共団体は、公営企業を含む全ての事務及び事業について、地域脱炭素の基盤となる重点対策(地域共生・ひ益型の再生可能エネルギー導入、公共施設等のZEB 化、公用車における電動車の導入等)を率先して実施するとともに、企業・住民が主体となった取組を加速する。「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしをつくる国民運動」等を通じ、国民・消費者の行動変容・ライフスタイル変革を促し、需要を喚起する。
2)カーボンフットプリント等の排出量の見える化を含めた新たな需要創出策
グリーン製品の市場拡大やイノベーション促進のための需要創出が、GXの実現に向けては鍵となる。既に市場に一定程度普及している低炭素製品については、官民による調達を更に拡大するため、カーボンフットプリント、環境ラベルの活用等を進めるほか、グリーン購入法*14*等において調達すべき製品の判断基準や算定方法等について、見直し、検討を行う。また、革新的技術・製品の需要創出のためには、製品・技術の革新性や調達実現に対するインセンティブ付与など、購入主体等の特性を踏まえつつ、需要を拡大するための適切な方策を検討する。さらに、自らの直接排出や購入電気等による間接排出だけでなく、サプライチェーン全体での排出削減と製品・産業の競争力強化を図る観点から、カーボンフットプリントの算定等に関するガイドラインを、2022年度内を目途に策定し、ガイドラインに準拠して算定等されたグリーン製品の官民による調達を推進する。
(3)中堅・中小企業のGXの推進
1)基本的考え方
我が国の産業競争力の強みの一つはサプライチェーンにある。競争力を維持・強化する中でカーボンニュートラルを実現するため、大企業のみならず中堅・中小企業も含めたサプライチェーン全体でのGXの取組が不可欠である。
また、我が国の雇用の約7割を支える中小企業は、日本全体の温室効果ガス排出量のうち約2割程度を占めており、2050年カーボンニュートラルの実現に向けても、中堅・中小企業のGXは極めて重要である。
このため、決して中堅・中小企業を取り残すことなく、社会全体のGXに向けた取組を推進していく。具体的には、中小企業等のGXの取組は、カーボンニュートラルの実現への対応策について知る、自社の排出量等を把握する(測る)、排出量等を削減する、といった取組段階に応じた支援やサプライチェーンにおける脱炭素化の推進が重要である。加えて、中小企業等の取組をサポートする支援機関の人材育成や支援体制の強化、サプライチェーンで連携した取組支援や情報発信の強化、グリーン製品市場の創出などを推進していく。
2)今後の対応
中小企業基盤整備機構におけるオンライン相談窓口の設置や脱炭素経営に係る取組事例の作成等を通じて、カーボンニュートラルの実現への対応策を知るための支援、省エネ診断事業の強化や中小企業も簡易に排出量算定が行えるようにするための国の電子報告システムの改修等による排出量等の見える化(測る)支援、省エネ・省CO2を促進する設備投資支援による排出量等の削減支援を推進していく。また、グリーンに資する革新的な製品の開発やグリーン分野への展開を支援していく。
また、中小企業等の取組を中小企業支援機関や地域金融機関等からプッシュ型で支援する体制を構築するため、支援機関向けの講習会の実施や脱炭素化支援に関する資格の認定制度を創設することなどによる支援機関等の人材育成を支援する。加えて、支援機関に対してカーボンニュートラル関連施策の情報提供、地域ぐるみでの支援体制の構築等を通じた支援機関の体制強化を進めていく。
さらに、下請中小企業振興*15*の「振興基準」に下請事業者の脱炭素化に係る取組を追加したことや、パートナーシップ構築宣言の更なる拡大を進めることにより、中堅・中小企業も含めたサプライチェーン全体での脱炭素化の取組を促進していく。
加えて、2022年11月に取りまとめられた「スタートアップ育成5か年計画」に掲げられた目標も踏まえ、GX関連分野におけるスタートアップ企業の研究開発・社会実装支援等を抜本的に強化する。
6.GXを実現する新たな政策イニシアティブの実行状況の進捗評価と見直し
エネルギーの安定供給の確保を大前提とした上で、成長志向型カーボンプライシング構想を始めとする、GXを実現するための新たな政策イニシアティブを実行していくに当たっては、官民でのGX投資の進捗状況、グローバルな動向や経済への影響、技術開発の動向なども踏まえて、GX実行会議等において進捗評価を定期的に実施し、それを踏まえて必要な見直しを効果的に行っていく。また、その旨を第211回国会に提出する脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案に明記し、確実に実行していく。
{*1* この方針は、2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」、「地球温暖化対策計画」及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を踏まえ、気候変動対策についての国際公約(2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとともに、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す)及び我が国の産業競争力強化・経済成長の実現に向けた取組等を取りまとめるものである。}
{*2* 2021年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画においては、2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す上でも、安定的で安価なエネルギーの供給を確保することは日本の国力を維持・増強するために不可欠であるとの前提の下、「再生可能エネルギーについては、主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組み、水素・CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)については、社会実装を進めるとともに、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。こうした取組など、安価で安定したエネルギー供給によって国際競争力の維持や国民負担の抑制を図りつつ2050年カーボンニュートラルを実現できるよう、あらゆる選択肢を追求する」ことを明記している。第6次エネルギー基本計画では、2050年カーボンニュートラルの実現という野心的な目標の実現を目指す上で、あらゆる可能性を排除せず、利用可能な技術は全て使うとの発想に立つことが我が国のエネルギー政策の基本戦略であることを示しており、今回、ここに改めて示すエネルギー安定供給の確保に向けた方策は全て、この第6次エネルギー基本計画の方針の範囲内のものであり、この方針に基づき「あらゆる選択肢」を具体化するものである。}
{*3* エネルギーの使用の合理化等に関する法律(昭和54年法律第49号)。}
{*4* 省エネ法定期報告書(2021年度報告)より、主要5業種を主たる事業として報告している者等の事業者全体のエネルギー使用量を足し合わせて推計。}
{*5* 地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)。}
{*6* 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108 号)。}
{*7* ガス事業法(昭和29年法律第51号)。}
{*8* 航空法(昭和27年法律第231 号)。}
{*9* 令和3年5月12日みどりの食料システム戦略本部決定。}
{*10* 環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(令和4年法律第37号)。}
{*11* 再生可能エネルギー発電促進賦課金}
{*12* 電気事業法(昭和39年法律第170号)。}
{*13* エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律第72号)。}
{*14* 国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号)。}
{*15* 下請中小企業振興法(昭和45年法律第145号)。}