データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 生物多様性国家戦略2023-2030 〜ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ〜

[場所] 
[年月日] 2023年3月31日
[出典] 環境省
[備考] 
[全文] 

本戦略の背景

【持続可能な世界の構築に向けた潮流】

・ 地球の持続可能性を確保することは、人類の生存にとって最優先の課題である。誰一人取り残すことなく、地球規模課題に統合的に取り組むための世界的な目標である持続可能な開発目標(SDGs)、そして2050年生物多様性ビジョン「自然と共生する世界」の達成には、安定した社会資本とそれに支えられた人的資本の確保が欠かせないが、それらは全て自然資本を土台として成立している。すなわち、自然資本は人間の安全保障の根幹といえる。しかし、この自然資本の安定性を生物多様性の損失と気候危機という二つの危機が揺るがしている。人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一例である「地球の限界(プラネタリーバウンダリー)*1*」は、この二つの危機に関する指標を含め、人類が生存し続けるための基盤となる地球環境の状況は限界に達している面もあると指摘している。

・ 生物多様性と気候変動への世界的な取組は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)に合わせて採択され「双子の条約」とも呼ばれる生物の多様性に関する条約(以下「生物多様性条約」という。)と気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「国連気候変動枠組条約」という。)の下で進められてきた。生物多様性の損失と気候危機の二つの世界的な課題は、現象の観点でもそれらへの対応策の観点でも正負の両面から相互に影響しあう関係にあり、一体的に取り組む必要がある。

・ さらに、2020年以降、世界は新型コロナウイルス感染症のパンデミックという危機に直面している。新興感染症の根本的な発生要因は、都市化を始めとする自然の改変とも深く関わると指摘されており、パンデミックの根本的な要因は、生物多様性の損失と気候危機の二つの危機を引き起こす地球環境の変化と同じである。

・ 人間の活動によりもたらされるこれらの世界的な危機への対処には、人間の活動の在り方を変えるほかに手立てはない。すなわち、社会の価値観と行動の表れとしての社会経済活動による自然資本への過度の負荷を減らし、我々の社会の土台たる健全な自然環境を維持・回復させる必要がある。健全な自然環境は、生態系が有する多様な機能を十分に発揮し、気候変動対策を含む様々な社会課題の解決に貢献する(「自然を活用した解決策(NbS)*2*」)。このような取組を世界に先駆けて我が国が進めていくことは、経済活動における自然資本の持続可能な利用が強く求められることが必然となりつつある国際的な潮流の下で、我が国の国際競争力を高めることにつながる。そのためにも、経済成長のみを豊かさの尺度とする価値観から脱し、包括的な豊かさを追求する新しい価値観に基づく社会へと根本的に変革する必要がある。

【我が国の置かれた状況】

・ 近年我が国では本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎えており、特に地方においては農林業者の減少等により里地里山の管理の担い手が不足し資源が十分に活用されないことが、国内の生物多様性の損失の要因の一つになっている。同時に、海外の資源に依存することで海外の生物多様性の損失にも影響を与えている。すなわち、本来活かすべき身近な自然資本を劣化させながら、その変化を感じ取りづらい遠く離れた地の自然資本をも劣化させている。資源利用の問題は、生物多様性や気候変動への影響だけでなく人権侵害のリスクとも関わっており、持続可能で責任ある調達を行う観点からも国内資源を有効に活用することが求められる。また、地域の森林・農地の管理や鳥獣管理の担い手が減少・高齢化すること等で鳥獣被害が深刻化し、地域の持続可能性を脅かしている。さらに、我が国は世界第6位の広さの排他的経済水域(EEZ)を有する海洋国家であり、水産資源を将来にわたって持続可能に利用する仕組みを構築することも重要となる。

・ 人口減少などの課題に直面している状況は、我が国が世界に先駆けて自然資本を守り活かす社会へと転換していくチャンスでもあり、その転換の先には明るい未来として、持続可能で自然と共生する社会像が描ける。例えば、自立・分散型でできる限り地上資源を活用した災害にも強い適応力のある地域づくりを行うことで、化石燃料や鉱物資源からなる地下資源への依存度を下げることができる。これは同時に、脱炭素社会や循環型社会の構築にも貢献する。また、他国の自然資本への依存度を下げることで、地球規模での生物多様性への影響の軽減につながるとともに、我が国の生存基盤を確保する観点から、安全保障にも資することとなる。これらにより各地域がその特性を活かした強みを発揮しつつ互いに支えあう「地域循環共生圏」の構築が進む。さらに、東日本大震災や大規模な豪雨災害等の教訓を活かし、社会の強靱性(レジリエンス)を高めていくことにつながる。生物多様性は、これまでの地史や進化の歴史等を反映したかけがえのないものであり、このような取組により我が国における多様な生物の生息・生育環境を守り将来世代に引き継ぐことは、今を生きる我々の責任である。こうした新しい社会に向けた取組の成功例が増えつつあり、そのような動きを広く展開していくことで、理想を現実のものにすることができる。

・ 持続可能な社会への転換のために、経済発展と社会課題の解決の両立に関わる様々な議論、例えば「新しい資本主義」、「デジタル田園都市国家構想」、「Society5.0」、「地域循環

共生圏」などの動きを捉えて、統合的に取り組むことが重要である。自然資本を守り活用す

ることは、これらの動きが目指す社会像の実現に向けた土台を提供し、それぞれの社会像に

おける持続可能性の観点を強化する。

・ 気候変動対策について我が国は、「2050年カーボンニュートラル」の目標の下で、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減し、さらに50%の高みを目指して挑戦を続けることを宣言している。生物多様性においても、世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえ、我が国における2050年の「自然と共生する社会」に向けて、2030年までの新たな目標を掲げることが求められている。これら二つの持続可能性のための目標を、相反させずに、同時に達成しなければならない。そのためには、再生可能エネルギーの導入は自然環境と共生するものであることが大前提であり、自然環境の保全に支障をきたす形での再生可能エネルギーの導入を防ぎつつ、自然の機能も活かした緩和・適応策も最大限導入し、地域と共生する形での気候変動対策を進めなければならない。

【生物多様性国家戦略の位置づけと役割】

・ 生物多様性国家戦略は、生物多様性条約第6条に基づき締約国が策定する戦略である。我が国においては、2008年に生物多様性基本法(平成20年法律第58号)が施行されて以降、同法第11条に基づき政府が策定する生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な計画としても位置づけられている。また、環境基本計画やその他関連する計画を踏まえて策定される生物多様性に関する最も基本となる戦略である。さらに、湿地に係る記載は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(以下「ラムサール条約」という。)が締約国に策定を要請している「国家湿地政策」として位置づけている。

・ 生物多様性国家戦略2012-2020は、愛知目標の達成に向けた我が国のロードマップとして、また、自然の恵みを供給する地方とその恩恵を受ける都市との間で支え合う「自然共生圏」の考え方などの自然共生社会に向けた方向性を示すために策定された。自然共生圏の考え方は、第五次環境基本計画において環境・経済・社会の統合的向上に向けて打ち出された「地域循環共生圏」の基礎となった。本戦略では、この方向性をさらに発展させていく必要がある。

・ 本戦略は、愛知目標やこれまでの国家戦略の実施から得られた経験や教訓を踏まえ、昆明・モントリオール生物多様性枠組の達成に向けて必要な事項、世界と我が国のつながりの中での課題、国内での課題を踏まえ、我が国において取り組むべき事項を掲げるものである。

・ 本戦略は、生物多様性分野において新たに目指すべき目標として、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる「2030年ネイチャーポジティブ」を掲げ、その実現のためのロードマップとして策定した。「2030年ネイチャーポジティブ」は政府の取組だけでは達成できない。本戦略では、「2030年ネイチャーポジティブ」を達成するために2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する「30by30目標」を含め、自然資本を守り活用するための行動を全ての国民と実行していくための戦略と行動計画を具体的に示した。

・ 本戦略は2030年度を目標とするが、2031年度以降においても、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に次ぐ2031年以降の世界目標が策定され、それを受けた次期生物多様性国家戦略が策定されるまでの間は、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた我が国の基本戦略として、引き続き本戦略に基づき関係施策を進めていくこととする。

・ 本戦略は2部構成とし、第1部において生物多様性・生態系サービスの現状及び課題並びに「2030年ネイチャーポジティブ」に向けた基本的な考え方及び目標を記載する。また、第2部においては、第1部で掲げる行動目標の達成に向け、2030年度までに取り組む施策を記載する。このほか、附属書においては、30by30目標を達成するための行程と具体策を示した「30by30ロードマップ」、本戦略の推進に当たっての基礎的な情報である「生物多様性の重要性」、及び「国土のグランドデザイン」を掲載する。



第1部 戦略

第1章生物多様性・生態系サービスの現状と課題

第1節世界の現状と動向

1 現状と要因

 豊かな生物多様性に支えられた生態系は、人間が生存するために欠かせない安全な水や食料の安定的な供給に寄与するとともに、暮らしの安心・安全を支え、さらには地域独自の文化を育む基盤となる恵みをもたらし、人間の福利に貢献している。こうした自然の恵みによって我々の生活は物質的には豊かになった一方、人間活動により、世界的に生物多様性と生態系サービスが悪化し続けている。2019年に生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)により公表された「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」によれば、地球上のほとんどの場所で自然が大きく改変されており、例えば、世界の陸地の75%は著しく改変され、海洋の66%は複数の人為的な要因の影響下にあり、1700年以降湿地の85%以上が消失した。また、調査されているほぼ全ての動物、植物の約25%の種の絶滅が危惧されているなど、過去50年の間、人類史上かつてない速度で地球全体の自然が変化していること、このままでは生物多様性の損失を止めることができず、持続可能な社会は実現できないことが指摘されている。

 同報告書では、このような生物多様性の損失を引き起こす直接的な要因を、影響が大きい順に①陸と海の利用の変化、②生物の直接的採取、③気候変動、④汚染、⑤外来種の侵入、と特定し、気候変動による影響も大きな要因として掲げられている。こうした直接的な要因は、急速な人口増加や持続不可能な生産・消費とこれらを助長する技術開発といった間接的な要因によって引き起こされており、直接的・間接的な要因は過去50年で増大しているとされる。

 さらに、同報告書では、自然劣化の直接的・間接的な要因を大幅に減少させ、生物多様性の損失を止め、回復させるためには、経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な「社会変革(transformative change)」が必要と指摘された。このような世界的な生物多様性と生態系サービスの劣化の状況を踏まえ、今後も自然を損なうことなく自然の恵みを継続的に享受していくためには、国立公園や外来種対策等の従前からの自然環境保全に取り組むことに加え、社会や一人一人の価値観や行動を変え、社会経済全体を変革していく必要があるとの認識が国際的に広まりつつある。

2 これまでの取組と昆明・モントリオール生物多様性枠組に関する動向

(1)愛知目標の評価と「自然と共生する世界」(2050年ビジョン)に向けた移行

 ① 愛知目標の評価

 2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、2020年までの生物多様性に関する初めての包括的な世界目標である「愛知目標」が採択された。しかしながら2020年9月に公表された地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)によると、世界全体では愛知目標の20の目標の内、六つの目標が部分的に達成されたものの、完全に達成された目標は無いとされた。この要因として、愛知目標に応じて各国が設定した国別目標の内容や目標レベルが、全般的に愛知目標の達成には不十分であったことが指摘された。

 ② 移行(トランジション)

 また、GBO5においては、生物多様性は「今までどおり」のシナリオでは損失し続けると予測する一方で、生態系の保全と回復の強化、汚染や侵略的外来種及び乱獲に対する行動といったこれまでの自然環境保全の取組に加え、食料のより持続可能な生産や、消費と廃棄物の削減といった様々な分野に連携して取り組めば、低下を止めて反転させ、2030年以降には生物多様性の純増加につながる可能性があることを指摘している。

 そして、2050年ビジョン「自然と共生する世界」を達成するためには、広範な人間活動にわたって「今までどおり」から脱却し、とりわけ八つの分野(①土地と森林、②持続可能な淡水、③持続可能な漁業と海洋、④持続可能な農業、⑤持続可能な食料システム、⑥都市とインフラ、⑦持続可能な気候行動、⑧生物多様性を含んだワンヘルス)において移行(transition)が必要であることが提示されている。様々な国際枠組における議論や報告書等においても、生物多様性との関係性が特に深い以下の分野との統合的な対応の必要性が指摘されており、これらはGBO5で提示された移行が必要な八つの分野とも深く関係している。

1)気候変動

 前述のIPBES地球規模評価報告書において、気候変動は、過去50年間の地球全体の自然の変化をもたらした直接的要因のうち3番目に大きな要因であることが指摘され、2022年2月に公表されたIPCC第6次評価報告書第2作業部会報告書においては、人為起源の気候変動が自然と人間に広範囲にわたる悪影響を及ぼしており、一部の生態系は適応の限界に達していると評価されるなど、気候変動自体が生物多様性に対する大きな影響とリスクをもたらすと認識されている。同報告書では、生態系を活用した適応策(EbA)が気候変動による人々や生物多様性、生態系サービスへのリスクを低減することも指摘された。また同報告書は、地球規模での生物多様性及び生態系サービスの強靱性(レジリエンス)を維持できるかは、地球の陸域、淡水及び海洋の約30~50%の効果的かつ衡平な保全に依存していると示唆している。

 一方で、森林や湿地を始めとする自然由来の緩和ポテンシャルは、パリ協定の2℃目標の達成のために2030年までに必要な二酸化炭素緩和策の約3分の1を有し、費用対効果が高いことが指摘されており、自然は気候変動対策に貢献できるポテンシャルがある。

 2021年6月に公表された「生物多様性と気候変動に関するIPBES-IPCC合同ワークショップ報告書」では、気候変動緩和・適応のみに焦点を絞った対策は、自然や自然の恵みに直接的・間接的な悪影響を及ぼす可能性があること、生物多様性の保全と回復に焦点を絞った対策は、気候変動緩和に大きく貢献することが多いものの、その効果は生物多様性と気候変動の両方を考慮した対策に劣る可能性があることを指摘している。このため、生物多様性、気候変動と社会の間の相互作用を明確に考慮した政策決定が必要であり、これによりコベネフィットを最大化し、トレードオフや人と自然の双方に有害な影響を最小化できるとしている。また、生物多様性条約において、リスク管理の観点から、気候変動への対処として工学的な手法で気候に介入するジオエンジニアリングについて、その生物多様性への影響の検討が進められてきた。

 こうした中、2021年10~11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)においては、気候変動対策に加え、生態系サービス維持のために、林、生物多様性、持続可能な土地利用が果たす重要かつ相互に依存した役割を強調しつつ、2030年までに森林の消失と土地の劣化を食い止め、さらにその状況を好転させるとした「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が発表され、我が国を含む140以上の国・地域が署名した。また、2022年11月に開催された第27回締約国会議(COP27)における「シャルム・エル・シェイク実施計画」においては、気候変動の緩和・適応策に生態系の保護・保全・再生が果たす役割の重要性が指摘された。

 このように、気候変動対策と生物多様性保全との関係を強調する動きがある。

2)食料生産

 次に食料生産との関係がある。GBO5が指摘した移行が必要な八つの分野の半数が農林水産業に関連する分野であり、また、2019年8月に公表されたIPCC土地関係特別報告書*3*によると、農林業・その他土地利用からの温室効果ガス排出量は、世界全体の人為起源の排出量全体の23%を占めるなど、気候変動にも深く関連する分野である。IPBES地球規模評価報告書は、遺伝的多様性を含む多様性の消失は、多くの農業システムの害虫、病原体、気候変動などの脅威に対する強靱性(レジリエンス)を損ない、世界の食料安全保障にとって重大な脅威になると指摘しており、安定的な食料生産の観点からも、生物多様性を維持・回復させることが欠かせない。

 2016年に公表されたIPBES「花粉媒介者、花粉媒介及び食料生産に関するテーマ別評価報告書」では、世界の主要作物種の4分の3以上が花粉媒介者に依存している中、北西ヨーロッパ及び北米におけるデータによると野生花粉媒介者の種数及び特定種の個体数が減少傾向にあることや、花粉媒介者の個体数や多様性等を脅かす直接的要因として土地利用変化、集約的農業管理、農薬の使用、環境汚染、侵略的外来種、病原体、気候変動等が指摘されている。漁業に関しては、2018年に公表されたIPBES「生物多様性と生態系サービスに関する地域評価報告書:アジア・オセアニア地域」では、持続不可能な漁業がこのまま続くと、2048年までに水産資源が枯渇する可能性があると指摘されており、国際連合食糧農業機関(FAO)が2022年に公表した「世界漁業・養殖業白書2022年版」では、乱獲や汚染により世界の漁業資源は減少を続けており、持続可能な水準にある漁業資源の割合は64.6%まで減少したとされた。さらに、2021年9月に開催された国連食料システムサミットにおいては、食料生産が最大で80%の生物多様性の損失の要因となっているとし、人々の栄養、健康、幸福に貢献し、自然の回復及び保護に貢献し、気候に中立で、地域状況に適応し、人間らしい仕事と包摂的な経済力を提供する形態の、人口増加に対応可能な持続可能な食料システムが必要であることが指摘されている。

 また、EATランセット委員会は、地球に不可逆的かつ急激な環境変化を与えず、ヒトの健康に配慮した食事として「プラネタリーヘルスダイエット」も提唱し、植物性由来食品を中心とした食生活への移行を推奨している。

3)新興感染症・ワンヘルス

 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、改めて新興感染症と生物多様性との関係に焦点を当てた。2020年10月に公表されたIPBES「パンデミックと生物多様性ワークショップ報告書」では、1960年以降に報告された新興感染症の30%以上は森林減少、野生動物の生息地への人間の居住、穀物や家畜生産の増加、都市化等の土地利用の変化がその発生要因となっており、パンデミックの根本的な要因は、生物多様性の損失と気候危機を引き起こす地球環境の変化と同じであることを指摘している。こうした中で、人間の健康、動物の健康、環境の健全性はどれが欠けても成立せずこれらの達成に統合的に取り組むことを提案するワンヘルス・アプローチを生物多様性を含む形で拡張し、統合的なアプローチによって農地生態系や都市生態系を含む生態系や野生生物の利用などを管理して、動物の健康・福祉や健全な生態系と人間の健康を推進することも唱えられている。2021年のG7コーンウォール・サミットでは、ワンヘルス・アプローチを強化することにより、その取組の統合を促進することが合意されている。さらに、地球の健康と人間の健康は一体であり、人間の健康と文明は、豊かな自然のシステムと、その賢く責任ある管理・利用に依存するとするプラネタリー・ヘルスも注目されている。

4)海洋環境

 海洋は地球の表面の7割を占め、気候を含めた地球環境の調整や、食料、エネルギー、資源等の供給源として重要な役割を担う。また、藻場・干潟等の「ブルーカーボン」(沿岸域や海洋生態系によって吸収・固定される二酸化炭素由来の炭素)による気候変動の緩和機能が注目されてきており、2019年9月に公表されたIPCC「海洋・雪氷圏特別報告書」によると、その緩和ポテンシャルは世界全体の温室効果ガス年間排出量の0.5%に相当するとされる。一方、海洋生態系は、様々な環境の変動に対し、悪化や回復の反応が陸上に比べて速く、また年ごとの変動が大きいとされており、生物の生息・生育海域の過剰利用や破壊、温暖化や酸性化の進行、酸素濃度の低下等により急激に変化している海洋環境に関する議論も国際的に高まりを見せてきた。G7やG20の閣僚会合等において議論が積み上げられており、例えば2016年のG7茨城・つくば科学技術大臣会合で発出された「つくばコミュニケ」では、科学的根拠に基づく海洋及び海洋資源の管理、保全及び持続可能な利用に向けた取組が掲げられた。また、2019年に開催されたG20大阪サミットにおいて首脳間で共有され、2022年6月現在87の国・地域で共有されている「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」では、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指すことが掲げられた。2017年12月の国連総会で採択・宣言され、2021年から開始した「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030年)」では、海洋科学の推進により、持続可能な開発目標(SDG14「海の豊かさを守ろう」等)を達成するため、2021年から2030年の10年間に集中的に取組を実施することとしており、目指す社会的成果として、きれいな海、健全で回復力のある海、生産的な海、予測できる海、安全な海、万人が利用できる海及び心揺さぶる魅力的な海が設定された。2022年2月にはフランスでワン・オーシャン・サミットが開催され、ハイレベルセグメントでは、海洋生態系の保護・再生、違法漁業への対処と持続可能な漁業の促進、海洋プラスチックごみ等の汚染への対処、気候変動問題の対処等について議論が交わされた。

【健全な生態系の確保・回復】

 1)から3)までの気候変動、食料生産、新興感染症は、ともに土地利用の変化に深く関係するものであり、それぞれの場所において健全な生態系を確保し回復させていくことが重要となる。また、4)の海洋環境においても、IPBES地球規模評価報告書によると、漁獲漁業に代表される生物の直接採取の影響に次いで、土地や海域の利用変化の影響が大きいとされている。2019年の国連総会においては、世界中の生態系の劣化を予防し、食い止め、反転させるための努力を支援し、拡大させるために2021年から2030年までを「国連生態系回復の10年」とすることが決議された。また、2030年までに陸と海の30%以上を保護・保全するいわゆる「30by30目標」が提唱され、昆明・モントリオール生物多様性枠組にも組み込まれた。30by30目標の達成に当たっては、自然保護を目的とした国立公園等の保護地域に加えて、それ以外の場所で生物多様性の保全に資する地域としてOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)の役割も重視されており、2018年に開催された生物多様性条約第14回締約国会議(COP14)では、「保護地域以外の地理的に画定された地域で、付随する生態系の機能とサービス、適切な場合、文化的・精神的・社会経済的・その他地域関連の価値とともに、生物多様性の生息域内保全にとって肯定的な長期の成果を継続的に達成する方法で統治・管理されているもの」として、OECMの定義が決定された。このOECMは持続可能な生産活動の場を含め、より広範囲における生物多様性保全や生態系回復の動きを後押しできる可能性を有するものであり、我が国においても、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている里地里山、企業緑地、社寺林などの区域を自然共生サイトとして認定する制度の構築等を進めている。

【自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)】

 1)から4)までの上述のいずれの分野においても、その課題解決に当たっては自然の積極的な活用が検討されつつある。これらの社会課題の解決に自然を活用し、人間の健康と福利及び自然の恩恵を同時にもたらす「自然を活用した解決策(NbS)」は、気候変動を始め様々な分野において注目され、国連気候変動枠組条約や生物多様性条約における議論でも定着しつつある比較的新しい概念であり、2021年のG7気候・環境大臣会合やG20環境大臣会合においてもNbSの考え方に基づく取組を拡大していく方針が示されている。

 このNbSは主目的の課題解決に加え、複数の効果をもたらすという特徴を有し、近年関心がより高まりつつある自然による癒しや人の健康への好影響等の波及効果も期待されている。NbSはこのような複数の効果をもたらす観点から費用対効果の高い施策として期待されている。「2(1)②移行(トランジション)」で述べたとおり、生物多様性の低下傾向は、自然環境保全の取組だけでは止められないことが指摘される中で、NbSを気候変動対策や持続可能な生産・消費にも活用し、生物多様性保全や自然資本の適切な管理を自然環境保全以外の取組にも組み込んでいくことは、生物多様性の損失を止め、反転させるというネイチャーポジティブにつながるものである。

 さらに、後述のとおり生物多様性分野で金融を通じて企業の環境活動を促す取組が急速に広まりつつある中で、生物多様性保全や自然資本管理を金融・経済と結びつける動きが加速しており、NbSの実践等の取組を金融・経済の議論と結びつける仕組みづくりが我が国においても必要となっている。

(2)生物多様性を保全し自然資本を守り活用する経営

 近年、生物多様性の損失や自然資本の劣化が事業継続性を損なうリスク、あるいは新たなビジネスを生み出す機会として認識されつつあり、国際的には、生物多様性を脱炭素と一体的に取り組むべきビジネス課題と位置づけて事業活動に組み込んでいく動きが加速している。2021年にイギリス財務省により公表されたダスグプタ・レビューは、生物多様性の損失を回復させることは気候変動への対応にも貢献するとした上で、経済、生計、幸福は我々にとって最も貴重な資産である自然に依存し、これらの物や恵みに対する需要は自然の供給力を大幅に上回っていることを指摘している。また、世界経済フォーラム(WEF)が発表した「グローバルリスク報告書2022年版」では、気候変動対策の失敗と異常気象に次いで、生物多様性の損失が、向こう10年のうち世界規模で最も深刻なリスク(第3位)として位置づけられた。

 こうした中で、企業活動における自然資本及び生物多様性への影響や依存及びそれらを踏まえたリスクや機会を適切に評価した上で、目標を設定し開示するための枠組みの構築に向けた議論も行われている。温室効果ガス排出削減のための科学に整合した目標であるSBT(Science Based Targets)のイニシアティブに対して、自然に関する科学に基づく目標の設定手法を開発しているSBTs for Natureの取組が進んでいるほか、脱炭素分野で先行する気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task force on Climaterelated Financial Disclosures)に対して、2021年には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Task force on Nature-related Financial Disclosures)が立ち上がり、2023年の開示枠組の公表に向けて議論が進んでいる。

 企業のあらゆる事業活動は生物多様性・自然資本に影響を与えるとともに依存しており、事業継続性の確保の観点から自然資本の持続的な利活用や生物多様性の保全をビジネスにおける一つの主要な経営課題として捉える見方は、事業会社のみならず投資家・金融機関においても高まっている。こうした動きは社会で脱炭素経営が主流化していく過程に似通っており、次の10年間で自然資本管理や生物多様性保全そのものがビジネスになっていくことが期待される。

(3)昆明・モントリオール生物多様性枠組の採択に向けた動向

 ① 採択までの道のり

 愛知目標に代わる新たな世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組の検討プロセスは、2018年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP14において決定され、その具体的な検討は、2019年1月に愛知県名古屋市で開催されたポスト2020生物多様性枠組*4*アジア太平洋地域ワークショップから開始された。以降、生物多様性条約の公開作業部会(OEWG)や補助機関会合(SBSTTA、SBI)、さらには新型コロナウイルス感染症による影響を受けてCOP15が何度も延期される中で、多数のオンライン会合が開催された。

 また、当該枠組の採択に向け、様々な国際的な決意やイニシアティブが表明された。2020年9月には生物多様性を主要テーマとした初めてのサミットである「国連生物多様性サミット」が開催されるとともに、全世界の首脳級に参画を呼びかけた初めての生物多様性に関するイニシアティブとして、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させるというネイチャーポジティブの考えに基づいた10の約束事項を掲げた「リーダーによる自然への誓約」の署名が開始され、我が国も2021年5月に参加を表明した。2021年1月には当該枠組に30by30目標等の野心的な目標の位置づけを求める国々の集まりである「自然と人々のための高い野心連合(High Ambition Coalition for Nature and People)」が立ち上げられ、我が国も参加を表明した。2021年6月に開催されたG7コーンウォール・サミットでは、首脳コミュニケの附属文書として「G72030年自然協約」が合意され、G7各国はポスト2020生物多様性枠組の決定に先駆けて各国で30by30目標に向けた取組を進めることを約束した。2021年7月に開催されたG20環境大臣会合においては野心的で、バランスのとれた、実用的で、効果的かつ強固なポスト2020生物多様性枠組を実施するための努力を支持し、2021年10月に開催されたCOP15第一部のハイレベルセグメントにおいては、ポスト2020生物多様性枠組の採択に向けた決意を示す「昆明宣言」が採択された。

 こうした様々な検討や議論を経て、最終的には2022年12月にカナダのモントリオールで開催されたCOP15第二部において愛知目標に次ぐ新たな世界目標が「昆明・モントリオール生物多様性枠組」として採択された。

②昆明・モントリオール生物多様性枠組の概要

 昆明・モントリオール生物多様性枠組では、愛知目標で掲げた「自然と共生する世界」が引き続き目指すべき2050年ビジョンとして掲げられるとともに、このビジョンに関係する状態目標として四つの2050年に向けた2050年グローバルゴールが新たに設定された。また、2030年ミッションとして、2030年までに「必要な実施手段を提供しつつ、生物多様性を保全するとともに持続可能な形で利用すること、そして遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を確保することにより、人々と地球のために自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとること。」といういわゆるネイチャーポジティブが掲げられ、それに向けた23個の2030年グローバルターゲットが設定されている。

 23個のグローバルターゲットは三つにグループ分けされている。一つ目のグループでは「生物多様性への脅威を減らす」として、IPBESで特定された生物多様性損失の直接的な要因に対応する八つのグローバルターゲットが掲げられている。二つ目のグループでは「持続可能な利用及び利益配分による人々のニーズを満たす」としてSDGsにも関連する五つのグローバルターゲットが掲げられている。最後のグループでは「実施と主流化のためのツールと解決策」として、社会経済等の間接要因や更には社会の価値観と行動の変化を促す「社会変革」、そして新しい枠組みの実現に通じる10個のグローバルターゲットが設定されている。

 なお、SDGsのゴール14、15は愛知目標を踏まえた2020年を目標年とするターゲットも掲げられていることから、昆明・モントリオール生物多様性枠組はこれらのターゲットを引き継ぐものとしての役割を持つとともに、上述のとおり持続可能性や社会変革に向けた目標設定も多く、SDGsの達成に貢献するものである。

 また、愛知目標では、国ごとの目標設定において大幅な柔軟性を認めたことから、国別目標の積み上げや比較が十分にできなかったという反省を踏まえ、昆明・モントリオール生物多様性枠組では、23個のグローバルターゲットのうち、8個に数値目標が設定されるとともに、グローバルゴール及びグローバルターゲットの進捗を測るヘッドライン指標が設定された。また、レビュー(評価)のメカニズムが強化されており、世界目標の達成に向けた取組の進捗状況を点検する「グローバルレビュー」の実施により、必要に応じて各国における取組と貢献を向上させることが提案され、国家戦略の改定や取組においてその提案を考慮することとしている。

 このように、昆明・モントリオール生物多様性枠組は、2015年に策定された二つの大きな目標であるSDGsとパリ協定の影響を強く受け、SDGsからより社会や福利に貢献する要素を、パリ協定から目標設定やレビューメカニズムに関する知恵を受け継ぎ、より包括的な世界目標として策定されたものとなっている。

第2節我が国の現状と動向

 1現状と評価

(1)我が国の生物多様性の特徴

 我が国は、ユーラシア大陸に隣接して南北に長い国土を有すること、海岸から山岳までの標高差を有すること、モンスーンの影響を受け明瞭な四季の変化のある気候条件、火山の噴火、急峻な河川の氾濫、台風等の様々なかく乱があること、海洋域は深海に至るまで様々な環境を有し、世界第6位の広さの排他的経済水域(EEZ)に大小様々な数千の島嶼を有すること等を背景に、多様な生物の生息・生育環境が広がっている。また、農林業などを通じて人の手が加えられた二次的自然が、明るい環境を好む動植物等の生息・生育地を提供してきた。我が国に生息・生育する生物種は固有種の比率が高いことが特徴で、陸生哺乳類、維管束植物の約4割、爬虫類の約6割、両生類の約8割が固有種である。

 さらに、渡り鳥、ウミガメや海生哺乳類等の一部の野生動物は、アジアや北アメリカ、オーストラリア等の環太平洋諸国から国境を越えて我が国にやってきており、広域に移動する生物にとって我が国は重要な繁殖地・中継地となっている。

(2)現状

 ① 生物多様性・生態系

 「生物多様性及び生態系サービスの総合評価2021(JBO3)」*5*によれば、我が国の生物様性は、過去50年間損失し続けている。生態系の種類によっては損失の速度は弱まりつつあるが、全体としては現在も損失の傾向が継続している状況にある。森林、農地、都市、陸水域、沿岸・海洋、島嶼部の六つの生態系別の評価結果からは、各生態系(森林、農地、沿岸・海洋等)の構成要素の減少や生息・生育環境の変化など、生態系の規模や質の低下が現在も継続しているとともに、その環境に生息・生育する生物の種類や個体数が減少傾向にあることが明らかとなっている。

 里地里山は、奥山自然地域と都市地域との中間に位置し、地域集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域で、我が国の生物多様性保全上重要な地域であるが、農地、水路・ため池、農用林などの利用縮小等により、里地里山を構成する野生生物の生息・生育地が減少した。また、近年では、太陽光発電施設の設置により失われた生態系の面積として、里地里山の環境が多いことが明らかになっている。

 浅海域では高度経済成長期から1980年頃までに毎年40㎢前後が埋め立てられ、干潟や砂浜を利用するシギ・チドリ類の個体数減少などが報告されている。陸水生態系では生物種の絶滅リスクが増大しており、環境省レッドリスト2020に掲載された脊椎動物の50%以上が生活の全て又は一部を淡水域に依存している陸水生態系の種である。

 一方で、全国の都市公園面積は1971~2018年の間において5.4倍へ大幅に増加し、瀬戸内海では1979年に172回観測された赤潮の発生回数が2019年には58回に減少するなど、都市や沿岸域等の一部の生態系では改善が見られたものもある。

 ② 生態系サービス

 JBO3によれば、我々の暮らしは様々な自然の恵みの享受によって物質的には豊かになったが、生態系サービスは過去50年間、劣化傾向にある。食料や木材等の供給サービスは、その多くが過去と比較して低下している(木材の自給率は近年1970年代の水準まで回復している)。海外からの輸入の増加や資源量の変化等により農林水産物の生産量はピーク時より減少し、特に海面漁業の漁獲量はピーク時の50%程度となっている。生産物の多様性も変化しており、林業で生産される樹種の多様性は過去50年間で約40%減少している。

 さらに、食料生産だけでなく、我々の健康や暮らしにも関わり、様々な社会課題の解決にも貢献する大気や水質の浄化などの調整サービスについても低下傾向が示されている。生態系がもたらす防災・減災サービスについては、植林した樹木の成長によって森林の表層崩壊防止サービスは向上しつつある。他方、人口減少や高齢化の影響により手入れ不足の森林においては、防災・減災等、森林の多面的機能が十分発揮されないことが指摘されている湿原が持つ洪水調整サービスについては、湿原からどのような土地利用に転換されるかによるが、湿原面積の大幅な減少により経年的には減少傾向にあると考えられる。また、地域資源の持続可能な利用と密接に関わる文化や伝統知も失われつつある。さらに、野生鳥獣による農林水産業への被害が、営農意欲の減退など、農山漁村へ深刻な影響を及ぼしているほか、ダニ媒介性感染症などの人獣共通感染症による健康へのリスクも顕在化しており、生態系による負の影響(ディスサービス)が顕著になっている。

(3)将来予測

 我が国の生物多様性や生態系サービスの変化に関する将来予測の研究が近年進展してきた。気候変動の観点からは、陸域や海域の様々な生態系における影響が予測されている。環境省の環境研究総合推進費を活用した研究成果によると、例えば、我が国に生息するコンブ類11種のうち約6種が日本海域から消失する可能性や、サンゴ分布可能域が消失する可能性があることが示唆されており、供給サービスや防災・減災に関わる調整サービス、レクリエーション等の文化的サービスに影響を及ぼす可能性がある。また、人口減少社会を迎えた我が国においては、人口分布(人口集中又は人口分散(※1))と重要視する資本の選択(人工資本活用又は自然資本活用(※2))によって、将来の生物多様性や生態系サービスの状態が大きく変わりうるとされている。例えば、自然資本・分散型社会シナリオの方が、人工資本・コンパクト型社会シナリオよりも米生産等の需要と供給のバランスがとれた地方公共団体が多くなることなどが予測されている。このことは、生物多様性を保全し、生態系サービスを持続的に享受するためには、これまでの自然環境保全を目的とした施策に加えて、日々の一人一人の行動や社会の在り方も含めた対策が必要となることを示唆している。

  ※1 人口集中:現在の都心部や市街地に今後、人口が更に集中する。
     人口分散:今後、人口が郊外や中山間地域により分散していく。
  ※2 人工資本活用:人工資本(コンクリートなど)をより積極的に活用する。
     自然資本活用:国内の自然資本(森林など)をより積極的に活用する。

(4)生物多様性の損失要因

 我が国の生物多様性の直接的な損失要因は以下に述べる「四つの危機」に整理することができる。それらの背後には、危機をもたらす間接的な要因としての社会経済の変化があり、さらに、それら全体に社会の価値観や行動が影響を与えている。社会の価値観や行動を変えるためには、社会を構成する一人一人が生物多様性の重要性を理解し行動するとともに、企業による事業活動等に生物多様性を統合する必要がある。しかし、現状ではこれらは不十分であり、生物多様性は主流化されていない状況となっている。生物多様性の損失を止め、回復に向かわせるためには、生物多様性が直面している「四つの危機」に対処することが欠かせないが、同時にこの「四つの危機」を引き起こす社会の価値観と行動を変えなければならない。本戦略においては、これまでの社会の価値観と行動を、社会経済に内在する生物多様性の損失要因として位置づけ、対策の必要性を強調する。

① 生物多様性が直面する四つの危機

 1)第1の危機(開発など人間活動による危機)

 第1の危機は、開発を含む土地と海の利用の変化や乱獲といった生物の直接採取など、人が引き起こす生物多様性への負の影響である。高度経済成長期以降、急速で規模の大きな開発・改変によって、自然性の高い森林、草原、農地、湿原、干潟等の規模や質が著しく縮小した。近年では、大規模な開発・改変による生物多様性への圧力は低下しているが、過去の開発・改変により失われた生物多様性は容易に取り戻すことはできず、加えて、相対的に規模の小さい開発・改変によっても生物多様性は影響を受けている。また、気候変動緩和策は第4の危機(地球環境の変化による危機)への対策としては重要だが、再生可能エネルギー発電設備の不適正な導入に伴い生物多様性の損失が生じている場合があるとも指摘されている。さらに、鑑賞用や商業的利用による個体の乱獲、盗掘なども動植物の個体数の減少をもたらした。環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種に選定されている種の減少要因においても、開発や捕獲・採取による影響が大きい。

 2)第2の危機(自然に対する働きかけの縮小による危機)

 第2の危機は、第1の危機とは逆に、自然に対する人間の働きかけが縮小・撤退することによる生物多様性への負の影響である。里地里山の薪炭林や農用林、採草地などの二次草原等は、かつてはエネルギーや農業生産に必要な資源の供給源として日常生活や経済活動に必要なものとして維持され、同時にかく乱環境に依存する種を含めた動植物の生息・生育環境を提供するなど、その環境に特有の多様な生物を育んできた。しかし、近年では産業構造や資源利用の変化と、人口減少や高齢化による地域の活力の低下、耕作放棄された農地の発生に伴い、農地、水路・ため池、薪炭林等の里山林、採草・放牧地等の草原などで構成される里地里山の多様な環境のモザイク性の消失が懸念されている。また、森林においても、間伐等の森林整備が適切に行われないと、生物の生息・生育地としての森林の機能が低下する。2050年には現居住地域の約2割が無居住化すると推計されているが、集落の無居住地化による土地の放棄は、例えばチョウ類の生息に負の影響をもたらす。近年では、水田やため池の消失等によってタガメやゲンゴロウ等の水生昆虫や、メダカ類などの淡水魚等かつては身近にいた水辺の生物が急激に減少している。さらに、耕作放棄された農地や利用されないまま放置された里山林などがニホンジカ、イノシシなどの生息にとって好ましい環境となることや、狩猟者の減少・高齢化で狩猟圧が低下することなどにより、これらの野生鳥獣の個体数は著しく増加してきた。近年の捕獲対策の強化により、現在は減少傾向にあるものの、分布域は依然として拡大しており、生態系への影響や農林業被害が発生している。このような状況の下、農作物被害額は現在、減少傾向にあるが、営農意欲の減退など、被害額以上に農山漁村へ深刻な影響を及ぼしている。さらに、中山間地域の自然環境や社会環境の変化、クマ類の生息分布の拡大などにより、クマ類等の市街地出没やそれに伴う人身被害が発生している。

 3)第3の危機(人間により持ち込まれたものによる危機)

 第3の危機は、外来種の侵入や化学物質による汚染など、人間が近代的な生活を送るようになったことにより持ち込まれたものによる生物多様性への負の影響である。外来種については、本来の移動能力を超えて人為により意図的・非意図的に国外や国内の他の地域から導入された生物が、地域固有の生物相や生態系を改変し、絶滅危惧種を含む在来種に大きな影響を与えている。一たび国内に定着した外来種の分布拡大を抑えることは容易ではなく、例えば、生態系被害などを引き起こして問題となっているアライグマの分布は2006年から2017年で生息確認メッシュが約3倍に拡大し、ほぼ全国に広がっており、ヌートリアの分布は2002年から2017年で生息確認メッシュが約5倍に拡大している。また、近年では輸入された物品等に付着してヒアリが国内に侵入する事例が増加するなど、人の生活環境への影響の懸念も増大している。さらに、例えば緑化における輸入種子由来のヨモギやコマツナギの使用など、在来種の自然分布域内に遺伝的形質の異なる集団に由来する同種個体が人為により導入されることによる遺伝的かく乱も懸念されている。また、ペットとして飼養されていた動物の遺棄、又は災害時などに逸走することで自然界に定着し、当該地域の生態系や生物多様性に影響を及ぼすことも懸念される。

 汚染については、我が国では戦後の高度経済成長期に発生した公害を踏まえてその防止のための取組が進んだ背景がある。個別には、化学物質について、20世紀に入って急速に開発・利用が進み、生態系が多くの化学物質に長期間ばく露されるという状況が生じている。化学物質の利用は人間生活に大きな利便性をもたらしてきた一方で、中には生物への有害性を有するものや、さらに環境中に残留するものがあり、そのような化学物質の生態系への影響が指摘されている。このような問題に対応するため、農業における化学肥料の使用量や化学農薬の使用によるリスクの低減、工場・事業場排水や生活排水の適切な処理等、化学物質の環境影響の低減に向けた取組が求められる。さらに、近年ではマイクロプラスチックを含む海洋プラスチックごみによる生態系への影響が世界的に懸念されている。水域の富栄養化については、1980年代半ばから改善傾向にあり、その影響も減少傾向にある。

 4)第4の危機(地球環境の変化による危機)

 第4の危機は、地球温暖化や降水量の変化などの気候変動、海洋の酸性化など地球環境の変化による生物多様性への負の影響である。IPCCの第6次評価報告書第2作業部会報告書では、人為起源の気候変動により、自然の気候変動の範囲を超えて、自然や人間に対して広範囲にわたる悪影響とそれに関連した損失と損害を引き起こしていると評価されている。我が国においても既に、温暖な気候に生育するタケ類(モウソウチク、マダケ)の分布の北上や、南方系チョウ類の個体数増加及び分布域の北上、海水温の上昇によるものとみられるサンゴの白化等が確認されている。今後、高山性のライチョウの生息適域の減少及び消失、ニホンジカ等の多雪地域・高標高域への分布拡大、森林構成樹種の分布や成長量の変化等、様々な生態系において更に負の影響が拡大することが予測されており、島嶼、沿岸、亜高山・高山地帯など、環境の変化に対して弱い地域を中心に、我が国の生物多様性に深刻な負の影響が生じることは避けられないと考えられている。

② 危機の背景にある社会経済の状況

 1)経済成長(主に第1の危機の背景)

 戦後の高度経済成長期を含め、GDP(国内総生産)が拡大していく中で、社会資本整備が進められるなど国土の利用は大幅に変化し、交通の利便性や防災機能は大幅に向上した。その一方で、例えば、製造業の拡大に伴い臨海部や内陸部において工業地帯が造成され、沿岸部では広範囲の埋立てが進められるなど、多くの生態系が開発・改変された。現在では急激な開発が弱まっているが、新たな開発の継続や過去の開発による影響が残っている状況にある。また、経済成長に伴う大量生産・大量消費を基調とする生活は生物多様性を脅かす大きな要因となっている。

 2)人口(主に第1、第2の危機の背景)

 明治時代以降の人口増加に伴い、宅地面積は急激に増加し、都市的な土地利用の面積が拡大した。また、地方から都市への人口流出が進み、地方においては里地里山地域の荒廃や耕作放棄された農地の増加、都市においては家庭排水による河川・湖沼や海域での水質悪化等につながった。一方、我が国の総人口は2008年にピークを迎え、減少に転じた。総人口に占める過疎地域人口の割合は減少を続け、過疎地域等において無居住地化が進むと予測されおり、里地里山と人との関わりがこれまで以上に減少していくおそれがある。

 3)産業構造の変化(主に第2、第3の危機の背景)

 我が国の産業別の就業人口について、第一次産業は1970年代の約19%から2015年には約4%に低下した一方で、第三次産業は約47%から約71%に増大する産業構造の変化が生じている。また、戦後から1970年代にかけて、エネルギー源が石油などの化石燃料にシフトし、薪炭が利用されなくなるとともに、化学肥料の生産量が急激に増加するなど、農山村地域における薪や落ち葉等を用いたたい肥などの生物由来の資源の利用が低下した。これらにより、人為的な管理により維持されてきた里山林や草地の管理の放棄が急激に進んだ。

 4)経済・社会のグローバル化(主に第2、第3の危機の背景、他国への影響)

 戦後、経済・社会のグローバル化が急速に進み、食料や木材等の自給率が低下した。これにより、国内の資源利用が減少すると同時に、海外の資源への依存とそれによる影響が増大している。また、我が国の港湾の貨物輸入量は1960年に約0.9億トンであったものが、2013年には約10億トンに達するなど、物の国境を越えた移動が増大している。また、我が国は生きた動物や植物を大量に輸入している。このような経済・社会のグローバル化による人・物の出入りの急増に伴い、生物多様性に影響を与えるおそれのある生物が、意図的・非意図的問わず増加していると考えられる。資源の輸入の増加は、我が国における消費活動が他国の生物多様性に影響を与える「テレカップリング」(ある地域の消費活動と、離れた地域の自然環境との間に起こる相互作用)を生じさせている。すなわち、海外からの資源の輸入に依存することで、資源を供給する国における生物多様性の損失をもたらしており、他国における野生動植物種の絶滅のおそれの増大に影響を与えている。さらに、グローバルな人・物の動きにより、特定の地域で発生した新興感染症が国境を越えて広く国際社会全体に拡大することが懸念される。

 ③ 生物多様性損失の根本的な要因である、社会経済に生物多様性が主流化されていない状況

 生物多様性に対して負の影響を与える社会経済の変化をもたらすものは、社会の在り方と国民全体の価値観・行動であり、生物多様性が主流化されていない状況自体が生物多様性損失の根本的な要因(危機)といえる。例えば、生活・消費活動において資源の持続可能性に配慮した選択をする行動が当然となるような社会経済の構造となっておらず、それを支える価値観も醸成されていない。内閣府による2022年の世論調査によると、「生物多様性」の言葉の「意味を知っていた」人は全体の29.4%、「意味は知らないが、言葉は聞いたことがあった」人が43.2%であり、生物多様性の認知度は上昇傾向にあるが、生物多様性国家戦略2012-2020で定めた目標値である75%以上に届かず、生物多様性に関する認識や理解は、まだ十分に進んでいない状況にある。また、総務省統計局の2021年の社会生活基本調査によれば、ボランティア活動としての「自然や環境を守るための活動」に参加している人の割合は3%と、2001年の8%から減少している。近年では、自然体験をほとんどしたことがない子供や若者も増えており、更に自然との関係が希薄になっていることが懸念される。前述の内閣府世論調査において、自然に「関心がある」人は全体の75.3%であったが、若年層ほど低い傾向があり、自然体験の減少などにより自然への関心が低くなっている可能性がある。ただし、18~29歳の回答において生物多様性の「意味を知っていた」割合は他の年代よりも高く、学校教育等により一定の認知が広がっている可能性もある。

 また、国内外の生物多様性への負荷は、食料・木材などの生物資源の直接的利用だけではなく、非生物資源の利用に伴う汚染・排出物の影響など様々な事業活動から生じている。一般社団法人日本経済団体連合会、経団連自然保護協議会及び生物多様性民間参画パートナーシップの調査によれば、経営方針等に生物多様性保全の概念を盛り込んでいる会員企業の割合は、2009年度から2019年度までの10年間で39%から75%に大幅に増加している。また、本社の事業活動における生物多様性への影響の把握・分析・評価を行っている会員企業の割合は57%に上る一方で、サプライチェーンにおいてこれらを行っている割合は24%にとどまっている。

 生物多様性の重要性や我々の暮らしとの関係性への認識が低ければ、生物に配慮した行動や意思決定にはつながらないと考えられる。こうした生物多様性が主流化されていない状況に対応していくためには、社会の価値観や行動を変えていく必要があり、まずは教育や自然体験の機会を通じて関心や理解を高めることが強く求められる。また、同時に日々の生活において生物多様性に配慮した選択を可能にするための仕組みや、事業者による持続可能な生産・調達を広げる取組が必要となる。また、我が国が有する生物多様性の保全に資する技術や製品・サービスあるいは知見を世界に提供することにより、世界各国が抱えている各種の課題解決に、今後更に貢献していく必要がある。

2 これまでの取組と生物多様性国家戦略2012-2020の点検結果

 2021年1月公表の「生物多様性国家戦略2012-2020の実施状況の点検結果」では、生物多様性国家戦略2012-2020に基づく取組に関して、国別目標の達成に向けて様々な行動が実施されたが、全ての目標が達成されたとは言えず、更なる努力が必要と評価した。さらに、生物多様性の損失を止め、2050年を目標年とする長期目標「自然共生社会の実現」を目指すには、生物多様性の損失に間接的に影響する社会・経済的な要因やその根底にある価値観と行動に変化を引き起こすための新たな取組、そして、評価手法を含む国家戦略の構造等の改善が望まれると指摘している。なお、2020年までの間に重点的に取り組むべき国の施策の方向性として掲げた各基本戦略の達成状況については、次のとおり評価した。

 ① 基本戦略1(生物多様性を社会に浸透させる)

「多様な主体の連携の促進」など、生物多様性を社会に浸透させる取組に着実な進捗が見られたが、生物多様性を社会に浸透させたとまでは言えない。

 ② 基本戦略2(地域における人と自然の関係を見直し、再構築する)人と自然との豊かな関係を着実に作りつつあるが、地域における人と自然の関係を見直し、再構築するまでには至っていない。

 ③ 基本戦略3(森・里・川・海のつながりを確保する)森、里、川、海のそれぞれの中での個別のつながりの確保に向けた取組は着実に進捗したが、森・里・川・海の全体のつながりを確保したとまでは言い切れない。

 ④ 基本戦略4(地球規模の視野を持って行動する)一部数値目標の未達成などの取組の遅れが見られるが、国際的な資金メカニズム等を通じた途上国支援など、地球規模の視野を持った行動は概ねなされた。

 ⑤ 基本戦略5(科学的基盤を強化し、政策に結びつける)科学的基盤の強化と政策への結びつけは概ねなされた。

 JBO3では、これまでの取組や生物多様性・生態系サービスの状況等を踏まえ、我が国の生物多様性の損失速度は過去50年で緩和されてきたものの損失を回復するには至っていないとされた。また、更なる取組の強化・開始が必要であり、そのためには生物多様性損失の直接的な要因を対象とした対策だけではなく、社会の在り方を変えていくための総合的な対策が重要であることが指摘された。

第3節 生物多様性国家戦略で取り組むべき課題

(1)取り組むべき課題の観点

  本戦略で取り組むべき課題を次の観点から整理する。

 ① 世界目標への対応

 生物多様性条約の締約国として、30by30目標を含め、COP15で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組の各目標の達成に向けた取組を国際的に連携して進める必要がある。また、生物多様性とビジネスをめぐるTNFDやSBTs for Natureといった新たな国際枠組に対応していく必要がある。

 ② 世界と日本のつながりの中での課題

 我が国での消費行動がサプライチェーンを通じて海外の生物多様性に影響を与えていることや、地球規模においては人口増加により自然資源への圧力が増大する一方で、国内においては人口減少が進んでいること等を踏まえ、我が国における自然資源の利用の在り方を見直す必要がある。また、グローバル化による国境を越えた物流の増大等による外来種の侵入等に対処する必要がある。

 ③ 国内での課題

 生物多様性・生態系サービスを社会・経済活動の基盤として捉え直し、それらを活かして多様な社会課題の解決につなげる「自然を活用した解決策(NbS)」の取組を進めていく必要がある。その際、健全な生態系を確保するために、従来の保護地域による保全に加え、保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域における取組の促進や、陸域や海域の利用を持続可能にしていく活動、里地里山の自然資源利用やゾーニング等を進めることが重要である。また、生物多様性国家戦略2012-2020において示したように、東日本大震災を踏まえ、恵みと脅威の両面から人と自然との関係を認識するとともに、地域の自然を活かして継続的に復興に取り組むことが重要である。さらに、我が国では人口減少や少子高齢化により自然資源の管理の担い手が減少しており、生物多様性の保全に向けた財政的な支援やデータ基盤整備を含め、多様な主体が連携して活動を効率的・効果的に実施できるよう仕組みを構築する必要がある。その際、ジェンダーや世代等により異なる多様な価値観を考慮しつつ検討を進める必要がある。加えて、生物多様性への理解・関心の低さに対処する必要がある。

(2)具体的課題

 (1)の整理を踏まえ、本戦略において取り組むべき五つの課題を掲げる。

 ① 生態系の健全性の回復

 これまでの取組により、我が国の生物多様性の損失速度は緩和されてきたが回復軌道には乗っていない。また、生物多様性が直面する四つの危機の影響は依然として大きく、今後気候変動による影響の増大等も懸念される。我々の暮らしを支える多様な機能を十分に発揮させるため、生態系の健全性を回復させることが必要である。

 ② 自然を活用した社会課題の解決

 自然環境を社会・経済・暮らしの基盤として再認識し、そこから得られる恵みを維持し回復させる必要がある。特に、我が国では、人口減少や気候変動に伴う社会課題が顕在化しており、また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を踏まえて、人と自然の関係の在り方や自然の活用方法が問われている。このため、人と自然の適切な距離を確保しつつ、自然を持続可能に活用し、多様な社会課題の解決を図ることが必要である。

 ③ ネイチャーポジティブ経済の実現

 生物多様性の損失は、自然資本の直接採取、土地利用の形態、有害物質の排出等の直接要因の他、持続不可能な生産・消費形態を生み出す経済システムや技術開発といった間接要因による生物多様性への負荷に対処しなければ止まらない。また、ビジネスにおける生物多様性の保全をリスクでなく機会と捉え、保全に資する技術・製品・サービスを開発・展開・選択することは、持続可能な経済活動の基盤の維持・増進につながる。持続可能なビジネスのためには、生物多様性・自然資本への配慮が不可欠であり、生物多様性・自然資本の観点を事業活動に統合させることが必要である。

 ④ 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人一人の行動変容)

 生物多様性の危機の根底には、その重要性に対する知識の不足・無関心及び生物多様性の価値が統合されていない社会構造がある。自然は人類の生存・生活に不可欠な存在であり社会経済の基盤であるという価値観を社会に広く浸透させるとともに、行動を促す枠組みづくりを行い、一人一人の具体的行動につなげていくことが必要である。

 ⑤ 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進

生物多様性保全は、多様な主体による取組に支えられており、それらの主体による取組や連携を促す情報・技術の整備・発信や地域レベルでの計画の策定、人材育成、活動支援、法制上、財政上又は税制上の措置等が必要である。また、我が国の海外への資源依存や、国際的な物流等による我が国の生物多様性への影響の状況を踏まえ、国を越えた保全と持続可能な利用に係る協調的な取組や情報・技術の共有が必要である。

第2章 本戦略の目指す姿(2050年以降)

第1節 自然共生社会の理念

 「自然の仕組みを基礎とする真に豊かな社会をつくる」

持続可能な社会を構築するためには、自然が安定し、変化に対するしなやかさを保ち、将来にわたりその恵みを受けることができるよう、共生と循環に基づく自然の理に則った行動を選択することが重要である。また、自然資本を次の世代に受け継ぐべき資産として捉え、その価値を的確に認識して、自然資本を守り持続可能に活用する社会に変革してくことが必要である。これらを通じて、自然の仕組みを基礎とする真に豊かな社会を構築する。

第2節 目指すべき自然共生社会像(長期目標としての2050年ビジョン)

 【2050年ビジョン】

 「『2050年までに、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用され、生態系サービスが維持され、健全な地球が維持され、全ての人々にとって不可欠な利益がもたらされる』自然と共生する社会」を実現する。具体的には次の社会を実現する。

 ① 豊かな生物多様性に支えられた健全な生態系が確保された社会

 それぞれの地域の生物多様性や生態系が、人と自然の関係も含めた地域の特性に応じて地域ごとの知恵や技術も活かしつつ保全・再生され、次の世代に受け継がれる社会。

 そこでは、保護地域とOECMの連携した効果的なシステム等により、生物群集全体の保全の観点から生息・生育地が量的にも質的にも適切かつ十分な範囲で保全され、さらに、自然再生等により生物多様性の回復が進められている。これらにより、地域の個体群がそれぞれに保全され、遺伝的な多様性も確保され、自然災害や気候変動等の様々な変化に対してレジリエントである健全な生態系が確保され、より豊かな生物多様性の基盤となる。さらに、こうした生態系は二酸化炭素の吸収源としても適切に保全・管理されている。

 ② 自然を基盤としてその恵みを持続可能に利用する社会

 生物多様性や生態系が有する固有の価値が尊重されつつ、損失や劣化を引き起こさない持続可能な方法により生物多様性や生態系が利用される社会。また、多様で健全な生態系から生み出される自然の恵みや、自然との関わりの中で様々な恵みを引き出す知識や技術などの文化・暮らしが次の世代に受け継がれ、地域コミュニティが活性化している社会。

 そこでは、化石燃料等の再生不可能な地下資源依存から移行し、地域の自然資本を持続可能な形で利用することで、生物多様性の第2の危機が緩和されるとともに、海外も含めて持続可能な形で生産されていない資源に対する依存の比率が低下し、地球規模での持続可能な社会の構築に寄与している(テレカップリングによる負の影響の解消)。また、生態系が多様な機能を発揮することにより、気候変動緩和のための吸収源の確保や災害リスクに対する強靱性(レジリエンス)の強化に加え、観光や農林水産業などを通じた地域の活性化、健康や福利など、我が国が直面する社会課題が解決している。

 ③ 生物多様性の主流化による変革がなされた社会

 生物多様性や生態系が我々の暮らしを支えていること、すなわち自然資本が社会経済の基盤であることが認識され、公共部門、民間部門、そして、一人一人の行動において、生物多様性と生態系に対する配慮が自分ごととして実行されている社会。

 そこでは、生物多様性と生態系への負荷が少ない持続可能なサプライチェーンが構築され、生態系の回復に向けた取組が社会的・経済的にも高く評価され、生物多様性の回復と事業活動の両立が確保されている。

 地域における生物多様性の在り方がそれぞれの地域で合意され、保全と持続可能な利用を実現するエリアベースの取組に地域の多様な主体が関わり、国土全体と地球規模の生物多様性を考慮した重層的なガバナンスが進められ、多様なセクターや関係する個人が適切な役割分担に基づき取組を行っている。

第3章 2030年に向けた目標

第1節 2050年ビジョンの達成に向けた短期目標(2030年ミッション)

 第2章第2節で掲げた2050年ビジョンの達成に向け、2030年までに達成すべき短期目標(2030年ミッション)を掲げる。

(1)2030年ミッション「2030年ネイチャーポジティブ」

 「2030年までに、『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現する。」

 本戦略において、「ネイチャーポジティブ:自然再興」とは、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」とする。「2030年ネイチャーポジティブ」の実現に向けて、人類存続の基盤としての健全な生態系を確保し、自然の恵みを維持し回復させ、自然資本を守り活かす社会経済活動を広げるために、環境・社会・経済の統合的向上を目指す地域循環共生圏の考え方を踏まえ、これまでの生物多様性保全施策に加えて気候変動や資源循環等の様々な分野の施策と連携し、第1章第3節(2)で述べた課題に対応する以下の五つの基本戦略に沿って取り組んでいく。

 基本戦略1 生態系の健全性の回復

  2030年までに陸と海の30%以上を保全する30by30目標の達成に向け、保護地域に加えてOECMによる保全の取組を進めるとともに、普通種を含めた生物群集全体の保全を図る。また、生産活動を含む多様な目的での陸域や海域の利用において、生物多様性への負荷軽減と質の向上を図る。これらにより、気候変動等への強靱性(レジリエンス)にも寄与する生態系の健全性を回復させる。

 基本戦略2 自然を活用した社会課題の解決

  自然の恵みを活かして気候変動緩和・適応、防災・減災、資源循環、地域経済の活性化、人獣共通感染症、健康などの多様な社会課題の解決につなげる。また、野生鳥獣との軋轢解消に向けた効果的・効率的な鳥獣管理を推進する。これらにより人間の幸福と生物多様性保全の相乗効果をもたらす自然の恵みを維持・回復させる。

 基本戦略3 ネイチャーポジティブ経済の実現

  政府と事業者等が連携し、事業活動と生物多様性・自然資本の関係の評価の方法を確立するとともに、経済に係る制度・システムの在り方を見直し、事業活動による生物多様性・自然資本への負荷を低減し、正の影響を増大させるための施策を実施する。これらにより、事業活動において自然資本を持続可能に利用する社会経済活動を広げる。

 基本戦略4 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人一人の行動変容)

  消費や使用を通じてサプライチェーンの一部を形成するとともに、事業者への働きかけを通じた投資家や助言者としての側面を持つ個人・団体の役割の重要性を踏まえ、新たな技術等も活用しつつ、現代に即した形で、かつての生活・消費活動と生物多様性の密接な関わりを取り戻し、より深化させるための施策を実施する。これにより、一人一人が自然資本を守り活かす社会経済活動を広げる。

 基本戦略5 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進

  生物多様性の評価のための基礎的な調査・モニタリングの充実や、利活用しやすい情報の整備、取組の担い手確保等を進めるとともに、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずる。さらに、地球規模での生物多様性の保全への貢献のため、我が国の知見や経験を活かした国際協力を進める。これらにより、国内及び地球規模での生物多様性保全の取組全体を底上げする。

(2)ネイチャーポジティブの考え方

 ① ネイチャーポジティブについて

 ネイチャーポジティブは、2022年末時点で用語に関する厳密な定義は定まっていないが、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」という基本認識は一致しており、「G72030年自然協約」や、昆明・モントリオール生物多様性枠組においてその考え方が掲げられるなど、生物多様性における重要な考えとなっている。

 このネイチャーポジティブに対応する日本語は「自然再興」を用いることとした。ここで用いる「再興」は、生物多様性の損失を止め、反転させるという意味であるが、それを可能とする、自然資本を守り持続可能に活用する社会へと変革していくためには、今一度「自然」の価値を的確に認識して、共生と循環に基づく自然の理に則った行動を選択するよう、個人と社会の価値観と行動を「再考」していくことを同時に進めることも重要である。

 また、我が国の環境政策においては、ネイチャーポジティブ(自然再興)に加えカーボンニュートラル(炭素中立)、サーキュラーエコノミー(循環経済)の三つの課題の同時解決により、将来にわたって質の高い生活をもたらす持続可能な新たな成長につなげていくことを目指しており、これらの施策の相互の連携が重要課題となっている。

 SDGsにおいてもネイチャーポジティブは重要な意義を持つ。SDGsの17の目標は「経済」「社会」「環境」の3層に分類でき、「経済」は「社会」に、「社会」は「環境」に支えられて成り立つといわれる。この環境を、国民の生活や企業の経営基盤を支える重要な資本の一つ、すなわち「自然資本」として捉えれば、ネイチャーポジティブの実現によって社会・経済の基盤である自然資本を回復させることが、SDGsを達成し持続可能な社会を構築する上で重要な役割を果たすと言える。

 現在の切迫した地球環境の悪化傾向を2030年までに反転させるには、限られた資金や時間、人材といったリソースを最大限活用していく必要がある。そこで注目を集めているのが、自然の有する多機能性という特質を活かすことで、気候変動や生物多様性、社会経済の発展、防災・減災や食料問題など複数の社会課題の解決を目指すアプローチとしてのNbSである。第1章第1節で触れたように、生物多様性の損失を止め、反転させるためには、経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な「社会変革」が必要と指摘されている。異なる社会課題へのアプローチを統合する「傘」としての役割を果たすNbSは、まさにそのための鍵になると期待される。

 このようにネイチャーポジティブは、自然を社会・経済の基盤と捉えた上で、今まで通りから脱却し社会・経済そのものの変革にアプローチをしていくという自然を回復軌道に乗せるための道筋を示した言葉でもある。

 ② ネイチャーポジティブ経済について

 ネイチャーポジティブ経済とは、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることに資する経済である。ネイチャーポジティブ経営に対しても同様に考えることができる。経済界でもネイチャーポジティブを目指す動きが注目されており、世界経済フォーラム(WEF)が2020年に発表した報告書では、世界のGDPの半分以上(44兆ドル)は自然の損失によって潜在的に脅かされており、ネイチャーポジティブ経済に移行することで2030年までに3億9500万人の雇用創出と年間10.1兆ドル(約1070兆円)規模のビジネスチャンスが見込めると指摘している。「G72030年自然協約」においてもネイチャーポジティブ経済の促進が主要な柱の一つとして位置づけられている。

 ③ 基本戦略とネイチャーポジティブ

 本戦略では、五つの基本戦略を通じてネイチャーポジティブの実現を目指す。

 生態系の健全性を回復させること(基本戦略1)で人類の存続基盤が確保される。その基盤の上に成り立つ人々の営みの中で生じる社会課題を、健全な生態系の下で自然が発揮する機能を活用し解決すること(基本戦略2)で、自然から社会への恵みが持続的に維持され、回復する。日々の暮らしで自然の恵みを享受し利用する中で、自然の恵みに対する理解が醸成され、自然や生態系への配慮や評価が組み込まれたネイチャーポジティブ経済を構築する(基本戦略3)とともに、人々の行動変容(基本戦略4)を促す。こうした社会経済の変革により、自然資本を守り活かす自然共生社会へと近づき、更なる生態系の健全性に寄与する好循環が生まれる。そして基盤となる情報整備や国際連携を進めること(基本戦略5)が、これらの取組を支える軸となる。

 こうした基本戦略に係る取組が効果的・持続的に循環することが、ネイチャーポジティブの動力となる。


第2節 五つの基本戦略と個別目標

 2030年までの取組の柱である五つの基本戦略ごとに、2030年までに達成すべき状態を示す「状態目標」及び状態目標を達成するために実施すべき行動を示す「行動目標」を設定する。各状態目標及び行動目標は、我が国の状況及び昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえて設定する。

基本戦略1

 生態系の健全性の回復

 健全な生態系は、我々の暮らしを支える多様な機能の発揮に欠かせない。このため、普通種を含めた生物群集全体の保全の観点から、2030年までに陸と海の30%以上を保全する30by30目標の達成を指標としつつ、国土全体にわたって生息・生育・繁殖地の確保と連結性の向上を図る。また、生産活動やインフラ整備等の目的を含む陸域及び海域の利用・管理において、生物多様性への負荷軽減と質の向上に係る取組を進める。さらに、野生生物の進化への人為的な影響をできる限り減少させるとともに、局所的に生息している野生生物から全国規模で生息している野生生物まで、また種の多様性のみならず地域個体群など遺伝的多様性の保全を含めた総合的な野生生物の保全を強化する。あわせて、自然や社会の変化を踏まえ、人と野生生物の適切な関係を再構築する。これらの取組を効果的に推進するため、関係府省庁の連携体制を強化する。これらにより、生態系レベルから遺伝子レベルまで様々なレベルでの健全性を確保し、気候変動等への強靱性(レジリエンス)にも寄与する生態系の健全性を回復させる。なお、30by30目標の国内達成に向けて、行程と具体策をまとめた「30by30ロードマップ」を2022年4月に公表している(附属書参照)。

(1)生物群集全体の保全に向けた場の保全・再生とネットワーク化

 ① 保護地域による保全

 生態系ネットワーク構築の中核となる脊梁山脈を中心とする奥山自然地域の保全を含め、生物多様性保全の屋台骨としての役割を担う国立・国定公園において、公園区域の指定・拡張、陸域における特別地域等の規制区分の見直しによる保護規制計画の適正化、海域における海域公園地区の指定・拡張等の取組を進めるとともに、管理の質を向上させるための自然再生・希少種保全・鳥獣保護管理・外来種対策等の取組の充実及び管理体制の強化を図る。また、上記以外の保護地域についても、必要に応じた指定・拡張や継続的・効果的な管理を図る。さらに、海洋保護区については、適切な設定や管理の充実・モニタリングの強化に関する検討を進める。保護地域による保全・管理に際しては、将来予想される気候変動による影響への適応の観点も踏まえた取組を進める。

 ② OECMによる保全

 「保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域」(OECM)に関して、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定していくとともに、有志の企業・地方公共団体・団体等による有志連合(生物多様性のための30by30アライアンス)を通じて、30by30目標に係る先駆的な取組を促していく。地域主体での取組を一層促進するために、個人・団体等が参加しやすい経済的措置も活用したインセンティブの創出について検討し、関連する施策を推進する。あわせて、関係省庁が所管している制度等に基づき管理されている地域においても、必要に応じてその地域の生物多様性保全機能が向上されるよう努めることを含め、OECMに該当する可能性のある地域を検討した上で、適切なものについてはOECMとして整理する。また、海域については、関係省庁が連携し、持続可能な産業活動が結果として生物多様性の保全に貢献している海域をOECMとすることを検討し、該当する場所の整理を進める。

 ③ 生態系の質の向上とネットワーク化

 森・里・川・海のつながりを確保するため、国土を構成する地域区分(奥山自然地域、里地里山・田園地域、都市地域、河川・湿地地域、沿岸域、海洋域、島嶼地域)ごとに、それぞれの特性を踏まえ、劣化した生態系の回復や自然の質を向上させ、生態系ネットワークの構築・維持を図る。そのため、天然生林の保全管理や多様な森林整備、草原の再生・維持管理、河川・湖沼・湿原・沿岸域における自然の再生、都市地域における緑地の適切な保全や生物多様性に配慮した緑地の整備等を推進する。特に、国立公園等の保護地域内においては、自然の再生や生態系の維持回復につながる取組として、希少な生物の生育・生息する森林の針広混交林等の育成複層林又は天然生林への誘導、人工構造物の撤去等による河川の連続性の回復、外来種やニホンジカによる生態系への影響低減等を積極的に進める。また、河川を始めとする水系が森林、農地、都市、沿岸域などをつなぐことで国土における生態系ネットワークの重要な基軸となっていることに留意し、統合的な土砂や栄養塩類の管理の観点も踏まえた取組を進める。その際、地域固有の生物相に応じた生態系の広がりや、複数の生態系を含む景観や海域など様々な空間レベルでのつながりを考慮する。他方、生態系がつながることによる負の側面についても十分留意し、鳥獣による農林水産業被害の防止や侵略的外来種の侵入・拡散の防止と防除の促進の観点も考慮する必要がある。さらに、身近な自然が普通種を含む生物の生息場所及び生態系ネットワークの構成要素になっていることに留意し、多様な主体の連携による維持管理を促進する。

 ④ 生物多様性の状況の「見える化」

 30by30目標の達成と多様な生態系のネットワーク化に向けて、世界的に作成が進む生態レッドリストの動きも踏まえ、生物多様性の現状や保全上効果的な地域のマップ化等、生物多様性の重要性や保全活動の効果を国土全体で「見える化」し、生態系の質的な変化を含めて評価・把握する手法の構築を図り、提供する。


(2)陸域及び海域の利用・管理における生物多様性への負荷軽減

 ① 森林

 生物多様性保全など多面的機能の発揮の観点から、多様な生育段階や樹種から構成される森林がバランス良くモザイク状に配置された状態を目指して整備及び保全を推進する。そのため、森林の現況や自然条件等に応じ、育成単層林においては広葉樹の導入等による針広混交の育成複層林への誘導等を含む多様な森林整備を進めるとともに、天然生林の適切な保全・管理を推進する。また、森林内の貴重な野生生物の保護など生物多様性の保全に配慮した森林施業を推進する。管理が適切に行われないことによる森林の多様な生物の生育・生息環境の喪失にも対処し、生物多様性など多面的機能の発揮に資するよう、森林管理の担い手の確保・育成、市町村が主体となった経営や管理等を進める。

 ② 農地

 農地における生物多様性保全に関する評価を進めるとともに、農業における化学肥料の使用量や化学農薬の使用によるリスクの低減、有機農業の推進、家畜排せつ物の適正管理等による環境負荷の低減、多様な生物の生息・生育・繁殖環境となる水路・畦畔や防風林などを含めたモザイク性のある農村景観全体の保全及びこれら多様な環境の広域的な観点からのネットワーク形成等を進める。これらにより、生物多様性に配慮した持続可能な農業を推進する。また、適正な農業生産活動の継続による荒廃農地の発生防止や多面的機能の確保を図る観点から中山間地域等への支援を行う。さらに、管理不足から全国的に減少傾向にある草地における生産性や生物多様性保全等の機能の維持のための整備や管理を促進する。

 ③ 都市

 都市における生物多様性を確保するため、都市公園の整備や緑地の保全、魅力ある水辺空間の創出等により、水と緑のネットワーク形成を推進する。また、緑地・農地と調和した良好な都市環境・景観の形成等を促進する。このため、緑地の確保につながる取組の評価や、緑地の多様な機能の増進に関する取組の支援等を通じて、生物の生息・生育・繁殖環境を損なわず、効果的な整備・管理を行うための地方公共団体や民間事業者における都市の生物多様性保全の取組を推進する。

 ④ 河川・湖沼・湿地(陸水)

 河川・湖沼・湿地の管理において、生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な景観の保全・創出につながる取組や、外来種対策等を推進する。その際、かわまちづくり等の魅力ある水辺空間の創出や広域的な生態系ネットワークの形成を図る。また、河川環境整備や公共用水域の水質改善、流域の地域住民等と協働した取組による水環境への関心・理解の醸成等を通じ、健全な水循環の確保を推進する。

 ⑤ 沿岸・海洋

 ブルーカーボンの吸収源としての活用や水産資源の増殖等において重要な役割をたす藻場・干潟・サンゴ礁等の海域環境の保全・再生・創出を図る。海洋プラスチックごみ対策の観点から、漁具の改良や海洋ごみの回収などを進めるとともに、船舶による外来種の越境移動対策の観点から、船舶等の適正な管理を行い、海の保全・再生を進める。なお、海洋プラスチックごみ対策に当たっては、海域に流出する前に、主要な発生源の一つである内陸地域を巻き込み、陸域でのポイ捨て抑制対策、分別回収の徹底と散乱防止対策、これらの普及啓発等により発生抑制を推進することも重要である。

 また、魚介類の養殖漁場の底質の悪化や富栄養化が生じないよう、飼料開発や漁場管理の適正化に努める。さらに、持続可能な水産資源管理のシステムを構築し、生物多様性の確保と同時に我が国の漁獲生産量の回復を図る。水質浄化及び生物の生息・生育空間の確保の観点から、新たな護岸等の整備や既存の護岸等の補修・更新時には、施工性及び経済性等も考慮しつつ、原則として、生物共生型護岸等の環境配慮型構造物を採用する必要がある。

 また、これらの対策については、河川を始めとする水系が海域との生態系ネットワークをつなぐ基軸となっていることや、表層から深海への物質輸送や海域間の海流ネットワークなどの連結性の視点にも十分留意することとする。

(3)野生生物の保全

 ① 個別の取組の強化と複合的観点の取組

 広域的な捕獲を含めた鳥獣の適切な個体群管理とその担い手確保、二次的自然に生息する種も含めた希少な野生生物の生息域内保全とそれを補完する効果的な生息域外保全・野生復帰等の実施、外来種対策における緊急に対処が必要な生物や広く飼育され野外個体数が多い生物への対応等、個別種に焦点を当てた取組を喫緊の課題に的確に対応しつつ進める。個別の取組を効率的かつ効果的に進めるために、鳥獣の捕獲に用いられる鉛製銃弾に起因する鳥類の鉛中毒対策や、希少種の主な減少要因となっている侵略的外来種や野生鳥獣への集中的な対策など、複合的な目的での野生生物の保護管理を強化する。

 ② 普通種や野生生物の遺伝的多様性等の保全に係る取組

 絶滅危惧の状態にないいわゆる普通種についても、生態系を構成する基盤であり、多様な生態系サービスを発揮させるためにも重要であることから、現状を把握するとともに必要に応じて生息・生育・繁殖地の保全を含めた対策を図る。生物(交雑個体を含む)の人為的な野外放出は、遺伝的多様性の確保、国内由来の外来種や国外由来の在来種の問題等、地域の生物多様性の保全に影響を及ぼすことがあるため、その取扱いに当たって考え方を整理し、生物多様性への著しい支障を生じさせないよう、必要な取組を講じる。

 ③ 野生生物に影響を与える可能性がある飼養動物の適正な管理に係る取組

 経済・社会のグローバル化などを受けて様々な種類の動物が飼養されており、生物多様性に与える影響として、遺棄や放出により自然生態系に影響を及ぼす等の問題が挙げられる。動物の飼養に際しては、動物が逸走しないような施設において管理者や飼い主が適正に管理すること、特に犬や猫についてはマイクロチップの装着と登録を促進することなどにより、適正な飼養管理を推進する。なお、家畜化されていない野生由来動物の飼養については、動物の本能、習性及び生理・生態に即した適正な飼養の確保が一般的に困難なことから、限定的であるべきである。

(4) 保全上重要な地域の保護・保全に関する関係省庁の連携

 (1)から(3)の取組の効果的な推進のため、生物多様性の保全上重要な地域の保護・保全に関連する施策を所管する環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省等の関係省庁の連携体制を強化する。特にユネスコエコパーク等の国際機関による認定を受けた地域においては、関係省庁間や地元関係機関等との連携の下保全・管理の充実を図る。また、国立公園の約6割を国有林野が占めることに鑑み、環境省、農林水産省が所管する制度を組み合わせた保護の徹底、自然体験機会の提供、情報共有や合同研修等による管理体制の充実等、管理当局間の更なる連携を推進する。

基本戦略1における目標の設定

 生物多様性の三つのレベル(生態系、種、遺伝子)のいずれにおいても健全性が確保されていることが、我が国の生態系が全体として健全であることに必須であることから、それぞれのレベルにおける健全性に関する状態目標を設定する。また、それらの状態の達成に向けて生物多様性の損失の直接的な要因に対処するための行動目標や、生物の種及び種内の遺伝的多様性に着目した保全策について行動目標を設定する。

 生態系のレベルにおいては、四つの危機の影響により規模(面積)・質の両面から損失が進んできた。このため、陸域及び海域の利用による損失に対処するための面的な保全を強化する(行動目標1-1)と同時に、利用により生じる負荷の軽減及び劣化した生態系の再生に取り組む(行動目標1-2)必要がある。さらには、汚染や外来種の侵入(行動目標1-3)、気候変動(行動目標1-4)など、陸域・海域の利用の変化以外の損失要因による影響の削減・軽減を図る必要がある。これらにより、生態系の規模・質の両面から健全性を回復させることが求められる(状態目標1-1)。種のレベルにおいては、レッドリスト掲載種の増加など種の存続の危機が高まってきたことから、その損失要因を低減させる取組を行い(行動目標1-5)、各生物種が直面する脆弱性を低減させる必要がある(状態目標1-2)。遺伝子のレベルにおいては、種に対する圧力の増大とともに面的な生息地の広がりやネットワークが失われ、種内で一定のまとまりを持った集団が維持できず、遺伝的多様性が損なわれてきたこと等を踏まえ、これ以上の損を防ぐとともに回復させていく取組を行い(行動目標1-6)、遺伝的多様性を維持する必要がある(状態目標1-3)。

【状態目標】

1-1 全体として生態系の規模が増加し、質が向上することで健全性が回復している

1-2 種レベルでの絶滅リスクが低減している

1-3 遺伝的多様性が維持されている

【行動目標】

1-1 陸域及び海域の30%以上を保護地域及びOECMにより保全するとともに、それら地域の管理の有効性を強化する

1-2 土地利用及び海域利用による生物多様性への負荷を軽減することで生態系の劣化を防ぐとともに、既に劣化した生態系の30%以上の再生を進め、生態系ネットワーク形成に資する施策を実施する

1-3 汚染の削減(生物多様性への影響を減らすことを目的として排出の管理を行い、環境容量を考慮した適正な水準とする)や、侵略的外来種による負の影響の防止・削減(侵略的外来種の定着率を50%削減等)に資する施策を実施する

1-4 気候変動による生物多様性に対する負の影響を最小化する

1-5 希少野生動植物の法令に基づく保護を実施するとともに、野生生物の生息・生育状況を改善するための取組を進める

1-6 遺伝的多様性の保全等を考慮した施策を実施する

基本戦略2

自然を活用した社会課題の解決

 自然環境を社会・経済・暮らし・文化の基盤として再認識し、自然の恵みを活かして気変動緩和・適応、防災・減災、資源循環、地域経済の活性化、人獣共通感染症、健康などの多様な社会課題の解決につなげ、人間の幸福と生物多様性の両方に貢献する自然を活用した解決策(NbS)を進める。また、気候変動を始めとする諸課題への対策と生物多様性との間でのシナジー(相乗効果)を最大化し、トレードオフを最小化することで、生物多様性を維持しつつNbSの効果を最大限発揮させる。さらに、中山間地域等において深刻な課題となっている野生鳥獣との軋轢解消に向けた効果的・効率的な鳥獣管理や、担い手確保を進める。

(1)自然を活用した地域づくり

 地域における自然に関係する取組をNbSの観点から再評価し、NbSの地域における実装を促進する。そのため、技術的支援としてNbSの基本的な考え方や地域における実践の手法を整理し普及を図る。特に、国立公園等において、自然体験活動の促進、利用拠点の整備及び廃屋撤去を含む滞在環境の上質化、利用者負担、プロモーション等を図る「国立公園満喫プロジェクト」の取組を全ての国立公園に展開することや、自然を活かしたアドベンチャーツーリズム・サステナブルツーリズムを推進すること、また、生物多様性の保護と経済社会活動の両立により持続的な発展を目指すユネスコエコパークやユネスコ世界ジオパークの取組を推進すること等により、自然環境を保全すると同時に地域の経済社会を活性化させ、自然環境への保全へ再投資される好循環を形成し、自然を活かした豊かな地域づくりにつなげる。

 自然資源管理に関する伝統知・地域知や文化を踏まえつつ、自然資源を活用した交流・関係人口の創出による都市と農山漁村のつながりの拡大や、観光、野生生物を活かした地域振興、再生可能エネルギーを始めとする自然資本・生態系サービスを活かした地域の魅力向上と経済活動の促進、人口減少を見据えた長期的な視点での放牧、有機農業、ビオトープなど持続可能な土地利用を進める。このため、自立・分散型の社会を形成しつつ、各地域がその特性を活かした強みを発揮しつつ互いに支えあう「地域循環共生圏」の考え方を踏まえ、田園回帰、働き方改革、デジタル田園都市国家構想等の動きを捉え、都市と農山漁村・自然の観光地とのつながりの拡大を促進するとともに、自然を活かしたワーケーション・サテライトオフィス・多拠点居住の推進や地域におけるNbSの推進につながる拠点の形成を進める。

 社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能な魅力ある国土・都市・地域づくりを進めるグリーンインフラの社会実装を官民連携・分野横断により推進する。

(2)自然を活かした課題の統合的解決

 ① 気候変動対策と生物多様性保全のシナジーの強化

 森林や沿岸生態系を始めとする自然生態系の気候変動緩和策(吸収源対策)としての機能を発揮させるため、保護地域の指定などにより自然生態系を健全な状態に保全する。森林については、適切な整備や森林病害虫防除対策を進め、人工林の森林資源の循環利用等を通じて、管理が適切に行われないことによる森林の多様な生物の生息・生育環境の喪失に対処し、自然生態系と地域経済の再生を図る。このため、林地残材の活用や手入れの不十分な里山におけるバイオマス資源のエネルギー源としての活用を進める。また、沿岸生態系においてブルーカーボンの隔離・貯留機能を持つ藻場・干潟や、自然由来で炭素蓄積される湿地等の保全・再生を推進する。

 また、流域治水の取組など気候変動適応策の推進に当たっては、自然環境が有する多様な機能を活かすグリーンインフラの考えを推進し、遊水地等による雨水貯留・浸透機能の確保・向上、海岸防災林・マングローブ林・サンゴ礁による高潮・津波の減衰や海岸侵食の防止、人口減少により生じた空間的余裕を活用した自然再生を含め、気候変動により激甚化・頻発化が進むとされる災害に対してレジリエントな地域を作る「生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)」の実装を推進する。自然災害からの復興に当たっては、原形復旧の発想に捉われず、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進める「適応復興」の観点を踏まえ、災害により生じた生態系の活用を含めた保全・管理を検討する。

② 気候変動対策と生物多様性保全のトレードオフの回避・最小化

 自然の恵みの持続的な享受と気候変動緩和策のトレードオフを回避・最小化し、両立させるため、再生可能エネルギー発電設備の不適正な導入による生物多様性への悪影響を防ぎ、地域の自然の恵みを損なうことなく地域の合意形成に十分配慮した地域共生型の再生可能エネルギーの積極的な導入を目指す。このため、環境影響評価制度等により、環境への適正な配慮とパブリックコンサルテーションを確保する。また、個別法による立地規制や、事業法による事業規律の確保の取組との連携を行う。あわせて、環境保全と再生可能エネルギーの導入促進を両立するため、環境保全、事業性、社会的調整に係る情報の重ね合わせを行い、区域を設定する取組(ゾーニング)や環境影響評価制度等に活用できる基礎的な情報を幅広く提供するためのデータベースの整備を進める。また、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づき、地域住民等の地域の関係者や有識者などが参加する協議会の場で合意形成を図りながら、環境省や都道府県が定める環境配慮のための基準に基づき、市町村が、促進区域を定めること等により、地域の合意形成を円滑化しつつ、環境に適正に配慮し、再生可能エネルギー事業を促進する。特に、生物多様性及び生態系サービスとの関係では、再生可能エネルギー発電設備の設置を促進すべき場所と自然の恵みを享受するために回避・配慮すべき場所の考え方について、将来的な国土利用の在り方を踏まえた上で整理を行い、適切な立地選択や生物多様性保全への配慮のための情報提供やガイドライン作成・活用を推進し、適地に誘導する。また、自然生態系以外の分野において気候変動適応策を実施する際に、人工構造物の設置等による生物多様性への影響を回避するなど、気候変動適応策とのトレードオフの回避・最小化を図る。

③ 身の回りにある様々な課題との統合的解決

 国内バイオマス資源の素材としての活用を促進するための利用技術の研究・開発や資源利用の拡大を図ることで、資源循環と里山の維持・管理を同時に推進する。こうした地上資源の活用促進を通じて、地下資源への依存度を低下させる。また、自然環境保全活動と教育・福祉分野との連携等により、自然体験や心身の健康増進と同時に、生物多様性保全に資する場の保全を図る。また、感動や癒し、ときめきなど、自然とのふれあいから生活の豊かさの向上につなげる取組を促進する。

(3)鳥獣の管理と棲み分けと有効利用

 野生鳥獣との軋轢解消に向け、その再生産力を活かしきれていない里地里山の自然資源利用やゾーニング等を通じた人と自然の棲み分けの取組を進めるとともに、捕獲等をした鳥獣の有効利用を進め、地域づくりに積極的に活用する。このため、捕獲等を行う鳥獣管理や有効利用の担い手の確保・育成に加え、最新のデジタル技術も活用した効率化・省力化の取組を進めるとともに、野生動物管理の専門人材を大学や学会等と連携し育成していく。また、種の存続を脅かす野生鳥獣の大量死や希少鳥獣への悪影響等を生じさせる野生鳥獣に関する感染症の発生を迅速に把握し、対処するため、ワンヘルスの考え方も踏まえ、必要なサーベイランス等の継続・強化を行う。

基本戦略2における目標の設定

 健全な生態系から得られる自然の恵み(生態系サービス)を持続的に享受することが、人類の安全保障の根幹である自然資本を守り社会に活かしていくために必須であることから、自然を活かして地域から世界までの多様な社会課題の解決につなげるともに、生態系からの負の影響を軽減するための状態目標を設定する。また、それらの状態の達成に向け、生態系が有する機能を持続的かつ効果的に活用するための取組、地域や世界が抱える諸課題との統合的な対処に関する取組に関する行動目標を設定する。

 生態系サービスを持続的に享受した社会課題の解決については、特に地域づくりと気候変動対策の観点から目標を設定する。地域づくりの観点では、どの課題にどのように自然を活用するのかを評価し可視化することなど、自然を活用した取組を効果的に推進する(行動目標2-1)とともに、地域づくりに係る幅広い取組において伝統文化に配慮し自然を活かした観点を入れ込む(行動目標2-2)ことで、取組の広がりと同時に高度な技術も活用した自然の活用を図り、生態系サービスを現状以上に享受できるようにしていく必要がある(状態目標2-1)。気候変動対策の観点からは、生態系の保全・再生を通じた気候変動緩和策及び適応策に貢献する取組の強化(行動目標2-3)とともに、気候変動による生物多様性の損失を軽減するためにも重要な再生可能エネルギーの導入に際する生物多様性配慮を進める(行動目標2-4)ことで、生物多様性保全と気候変動対策のシナジーを構築し、トレードオフを緩和する必要がある(状態目標2-2)。また、生態系からの負の影響の軽減については、特鳥獣被害の軽減に焦点を当て、軋轢緩和に向けた取組を強化すること(行動目標2-5)により適切に距離を保った関係を再構築する必要がある(状態目標2-3)。

【状態目標】

2-1 国民や地域がそれぞれの地域自然資源や文化を活用して活力を発揮できるよう生態系サービスが現状以上に向上している

2-2 気候変動対策による生態系影響が抑えられるとともに、気候変動対策と生物多様性・生態系サービスのシナジー構築・トレードオフ緩和が行われている

2-3 野生鳥獣との適切な距離が保たれ、鳥獣被害が緩和している

【行動目標】

2-1 生態系が有する機能の可視化や、一層の活用を推進する

2-2 森・里・川・海のつながりや地域の伝統文化の存続に配慮しつつ自然を活かした地域づくりを推進する

2-3 気候変動緩和・適応にも貢献する自然再生を推進するとともに、吸収源対策・温室効果ガス排出削減の観点から現状以上の生態系の保全と活用を進める

2-4 再生可能エネルギー導入における生物多様性への配慮を推進する

2-5 野生鳥獣との軋轢緩和に向けた取組を強化する

基本戦略3

 ネイチャーポジティブ経済の実現

 ネイチャーポジティブを実現する持続可能な経済活動の実現に向けては、自然資本が外部経済をもたらし、またその損失が外部不経済を発生させている現状を踏まえ、様々な手段で

その内部化を図る必要がある。その一環として、政府と事業者等が連携し、生物多様性・自

然資本と関連する事業活動におけるリスクや機会の評価、目標設定、情報開示等を推進する。また、ESG金融等を通じて、生物多様性・自然資本に関わるリスク・機会を組み込んだ済への移行を実現し、ビジネスがネイチャーポジティブ実現のドライバーとなるための施を実施する。

(1)事業者によるネイチャーポジティブ経営の取組の推進

 ① 生物多様性・自然資本に配慮した事業活動の促進

 生物多様性基本法において国は、事業活動における生物の多様性に及ぼす影響を低減するための取組を促進し、また、事業活動に係る生物の多様性の配慮に関する情報の公開について必要な措置を講ずることとされていることを踏まえ、事業者が自社の事業活動による生物多様性・自然資本への影響や依存度を適切に評価し、企業経営上のリスクと機会を分析して事業戦略に組み込んでいくための支援を行う。具体的には、TNFDやSBTs for Nature等の民間主導の国際枠組の動向を踏まえつつ、サプライチェーンを含む事業活動全体による生物多様性への影響及び生物多様性の損失による事業活動への影響の定量的な評価や重要性、事業活動にとってのリスクや機会、イノベーション等の可能性の分析、並びにこれらの分析に基づく目標設定や対外的な情報開示の手法について、実証事業や企業等への支援を通じて知見を集積し、技術的助言としてガイドライン等により提示・発信し、事業者の取組を促す。

 また、2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)や生物多様性のための30by30アライアンス、民間の自主的な取組(経団連自然保護協議会、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)等)との連携を通じて、事業者と連携及び協働して、政策形成と自発的な活動の促進を図る。サプライチェーンに係るデータ連携や、各種イニシアティブの詳細情報及び国際的な先進事例情報等を官民で共有するためのプラットフォームを構築する。

 これらの取組に際しては、脱炭素、プラスチックの資源循環等を始めとする循環経済等の他分野の取組とも連携し、可能な限り事業者が実効的かつ統合的に取り組めるよう配意する。

 事業者は、国の取組等と連携し、サプライチェーンにも配意しながら、自社の経営戦略に生物多様性や自然資本への配慮を組み込むよう努める。また、OECMに関して、「自然共生サイト」としての認定申請及びその維持管理について、地域の他の主体とも連携して、積極的に貢献していく。

 ② ファイナンスの拡大等による民間資金の導入

 国は、グリーンファイナンスにおける生物多様性・自然資本分野の取組を促進するため、TNFD等による自然関連の評価の情報開示等を踏まえた自然関連のリスクと機会に対する金融機関の認識を深め、金融機関を含めた事業者による生物多様性・自然資本への配慮に係る情報開示や目標設定についての技術的助言を行う。また、グリーンインフラ技術の社会実装や生態系の保全再生等を通じて、グリーンボンド等の民間資金調達手法の活用を促進し、グリーンファイナンス・ESG投資の拡大を図る。

 また、生物多様性・自然資本に配慮した事業活動について、事業会社と金融機関の対話(エンゲージメント)を促すよう技術的助言や体制構築を行う。

 ③ 業界ごとの取組の促進

 国は、みどりの食料システム戦略を推進し、持続可能な食料システムの構築を通じて環境負荷の低減に取り組む。また、持続可能な森林管理や木材の利用促進に努める。

 また、一般社団法人日本経済団体連合会「経団連生物多様性宣言・行動指針」、電機・電子4団体「電機・電子業界における生物多様性の保全にかかわる行動指針」、JBIB「生物多様性に配慮した企業の原材料調達推進ガイドver.1」など、業界単位で各種ガイドラインが策定され、自主的な取組が促進されているところ、生物多様性・自然資本に配慮した事業活動の更なる促進のため、業界団体と連携して計画策定等を支援する。

 ④ 中小企業や地場企業の支援

 国は、中小企業や地場の企業に対して、その状況に応じて、分かりやすい情報発信や人材育成を通じて、段階的に生物多様性・自然資本に配慮した取組を実施できるような道筋を示していく。

 地域での生物多様性・自然資本への配慮や30by30目標などの取組を進める上で、地域金融機関の役割が重要であることから、地域金融機関と連携した普及啓発、ESG地域金融の取組を促進する。

(2)経済的手法の活用と新たな自然資本配慮型ビジネスの創出支援

 ① 経済的手法の調査検討と活用

 国は、事業者等の生物多様性・自然資本の保全に向けた取組を促進するインセンティブとして、OECM認定を受けた土地等の環境価値の見える化とその売買や、寄付等を通じたマネタイズ手法等の経済的手法に関する調査・実証を行う。

 国は、保護・保全エリア等に係る税制優遇措置を検討する。

 ② ネイチャーポジティブ経営や産業の創出促進

 国は、日本企業の技術や知見を活かし、国内外の生物多様性・自然資本の保全等に資する技術・製品の実証、サプライチェーン管理やトレーサビリティ確保に資する支援等を行う。

 また、地方公共団体等と連携し、地域において生物多様性・自然資本の保全や持続可能な利用に資するビジネス創出支援を行う。

 国は、生物多様性・自然資本に関連するビジネスのポテンシャル等を調査し、我が国におけるそれらのビジネス拡大に向けた戦略を策定する。

(3)事業者としての国・地方公共団体の率先垂範

 国は、グリーン購入等を通じて、調達時における生物多様性・自然資本への配慮を率先的に進める。また、自ら行う事業において、生物多様性・自然資本への負荷を削減するよう取組を進める。

(4)国際的な規範形成への積極的関与

 ① 官民の国際枠組への関与

 国は、事業者と連携し、TNFDや生物多様性に関する国際規格(ISO)等の国際的な民間主導のルールづくりに対応するための官民連携体制を構築する。我が国の経験を踏まえた上で、関係諸国と連携しながら実効的なルールが形成されるよう国際的な議論に貢献する。

 ② 国際的な自主的取組の促進

 国は、事業者と連携し、我が国における事業者等の自主的取組を国際的に発信するとともに、国際的な企業連合による、30by30目標やネイチャーポジティブに向けた取組を促す枠組づくりを支援する。

 ③ 遺伝資源・ABS(Access and Benefit-Sharing)

 国は、国際的な遺伝資源に関するデジタル配列情報(DSI)の議論も注視しつつ、遺伝資源へのアクセスと公正かつ衡平な利益配分(ABS)の理念を踏まえ、生物資源を持続可能な形で有効に活用するとともに生物多様性の保全に資するような取組を促進する。このため、国際的な議論への貢献と国内における普及啓発を通じたABSルールの理解、遵守促進や関連事例の蓄積を図る。

(5)ネイチャーポジティブ経営や産業創出に向けた基盤整備

 ① 研究開発

 国は、個々の製品・サービスやサプライチェーンを含む事業活動全体における、生物多様性・自然資本への影響を可視化するための国内外の方法論の整理を行う。また、生物多様性・自然資本を会計や財務情報に定量的に組み込むための方法論の検討や、自主的手法・経済的手法を通じた生態系サービスへの支払い(PES)に関する国内外の事例や研究成果の収集・分析を行う。

 ② 技術開発・データ基盤

 国は、気候変動等他分野の取組と連携し、デジタル技術等を活用し、サプライチェーン上で生物多様性・自然資本への影響を把握する技術や、生態系保全・回復やモニタリングに資する技術開発を支援する。

 また、気候変動等他分野の取組とも連携し、生物多様性・自然資本に係るデータの連携等を促進し、事業者による影響把握や情報開示等を支援する。

基本戦略3における目標の設定

 ネイチャーポジティブ経済の実現を図ることが社会変革に必須であることから、事業活動に生物多様性・自然資本を統合していくための状態目標を、事業活動全般、金融分野、農林水産業分野の観点から設定する。また、それらの状態の達成に向け、調達や土地改変も含む事業活動における生物多様性への影響を評価・分析し開示することを促すための取組や、生物資源の持続可能な利用から得られる便益を保全に活かしていく取組、生物多様性保全に貢献する事業を支える取組に関する行動目標を設定する。

 金融分野の観点では、投融資を通じてネイチャーポジティブ経済の実現を促進するため、企業が自らの活動による生物多様性への影響を定量的に評価・分析し、目標設定と情報開示を行うための技術的助言を行うとともに、企業側の情報開示の促進と金融機関・投資家側の認識向上、両者の対話の促進等により投融資の基盤を整備し(行動目標3-1)、ESG投融資の規模拡大と生物多様性分野への配分を促進していく(状態目標3-1)必要がある。また、事業活動全般において、生物多様性に正の貢献をする技術・サービスを促進することが必要である(行動目標3-2)。同時に、遺伝資源へのアクセスとその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を通じて生物資源の持続可能な利用と生物多様性保全への還元を促進することが求められる(行動目標3-3)。これらを通じ、事業活動全般において生物多様性への正の貢献を増大させ、負の影響を軽減させることがすることが必要である(状態目標3-2)。農林水産業の観点からは、生産から消費に至る各段階において生物多様性への負の影響を軽減し正の貢献を増大させるための支援を講じ(行動目標3-4)、我が国における持続可能な農林水産業の拡大を図る(状態目標3-4)必要がある。

【状態目標】

3-1 生物多様性の保全に資するESG投融資を推進し、生物多様性の保全に資する施策に対して適切に資源が配分されている

3-2 事業活動による生物多様性への負の影響の低減、正の影響の拡大、企業や金融機関の生物多様性関連リスクの低減、及び持続可能な生産形態を確保するための行動の推進が着実に進んでいる

3-3 持続可能な農林水産業が拡大している

【行動目標】

3-1 企業による生物多様性への依存度・影響の定量的評価、現状分析、科学に基づく目標設定、情報開示を促すとともに、金融機関・投資家による投融資を推進する基盤を整備し、投融資の観点から生物多様性を保全・回復する活動を推進する

3-2 生物多様性保全に貢献する技術・サービスに対する支援を進める

3-3 遺伝資源の利用に伴うABSを実施する

3-4 みどりの食料システム戦略に掲げる化学農薬使用量(リスク換算)の低減や化学肥料使用量の低減、有機農業の推進などを含め、持続可能な環境保全型の農林水産業を拡大させる

基本戦略4

 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人一人の行動変容)

 ネイチャーポジティブの実現に向けては、個人・団体レベルでの生物多様性に配慮した日々の生活や取組に加え、消費や使用を通じてサプライチェーンの一部を形成する個人・団体による、消費者や投資家、助言者としての事業者への働きかけも極めて重要である。このため、新たな技術等も活用しつつ、かつての生活・消費活動と生物多様性の密接な関わりを取り戻し、かつ、より深化させるための施策を実施する。施策の実施に当たっては、生物多様性への関わり方や理解が性別や世代等によって異なることがあることも踏まえて、ジェンダーの観点や若者への発信等も含めて対応する。

(1)生物多様性に係る環境教育・環境学習等の推進

 ① 行動変容に向けた生物多様性の理解増進

 国は、国民の取組を促進するための基盤として、生物多様性に係る最新の科学的知見に基づく内外の情報とともに、生物多様性・自然資本・生態系サービスといった概念をわかりやすく整理し、一人一人の生活と自然の結びつきをより明確なものとした情報を発信する。その際には、画一的な発信ではなく、ターゲット層ごとに、メディアやメッセージを組み合わせ効果的なアプローチをとる。あわせて、事業者や関係団体と連携し、生活と自然に関係する情報や指標(フットプリント等)のデータ提供を行う。

 国民は、日々の生活において自然の恵みを利用して暮らしており、国内の生物多様性のみならず、世界の生物多様性の損失に影響を及ぼしていることを踏まえ、生物多様性の重要性を認識することに努める。また、民間団体は、専門的な情報を国民等に分かりやすく伝達することにより各主体の情報の橋渡しを行うことが期待される。

 国、地方公共団体や民間団体等は、事業者、専門的知見を有する者等の多様な主体と連携・協働する場である2030生物多様性枠組実現会議(J-GBF)等において、SNSや各種メディアを通じて国内外に積極的に情報発信を行うとともに、行動変容を議論する場を設け、ナッジ(選択の余地を残しながらもより良い方向に誘導する手法)等の行動科学の知見等を活用し、国民に積極的かつ自主的な行動変容を促す。

 ② 人材育成の推進

 国は、環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律(平成15年法律第130号)及び同法に基づく基本方針に基づき、家庭、学校、職場、地域その他のあらゆる場において、生物多様性に係る環境教育・環境学習が推進されるよう、教職員等の資質向上のための措置、体験の機会の場の認定促進等による体験活動を通じた理解と関心を深めるための措置等を講じる。また、「第2期ESD国内実施計画」を踏まえ、生物多様性を含むSDGsのゴール実現に向け、わかりやすい情報提供、学習の機会や場など学習環境の整備、指導者の育成、ユースや地域に着目した活動促進について、教育機関・地方公共団体、NPO・NGO、企業、研究機関、住民・個人等の多様な関係者の協力も得ながら具体的な取組を推進する。

 学校及び社会教育施設等における生物多様性に関する教育の推進を図るため、NGO団体等と連携して、学校・園庭ビオトープや外来種対策、自然資本の持続可能な利用等を通じた学校教育・リカレント教育等を推進する。

 あわせて、専門的な知識又は経験を有する人材の育成を図るため、地域連携促進センター等とも連携し、地域での研修等の取組を推進する。

(2)消費活動等における行動の変容

 ① 日常生活における生物多様性配慮物品やサービスの選択

 国は、国民が生物多様性に配慮した物品やサービスを選択することができるよう、生物多様性に配慮した選択肢の増加とその普及啓発に係る取組を進めるとともに、事業活動に係る生物多様性への配慮に関する情報の公開、生物多様性に配慮した消費生活の重要性についての理解の増進を進める。これらの取組を促進するため、脱炭素や循環経済等の他の環境や社会課題への対応と連携を図る。例えば、地産地消の推進や食品ロスの削減、木材等の再生可能な資源を利用した製品や再生品の優先的な購入や、生物多様性に配慮した環境ラベル製品、認証品や地理的表示等を踏まえた選択などは、地域の自然資源の持続可能な利用につながり、ひいては生物多様性保全に貢献するものであり、これらの観点から消費者の行動を促す施策を実施する。

 国民や団体は、「基本戦略3ネイチャーポジティブ経済の実現」と呼応して、自らの財やサービスについての消費活動を見直すとともに、事業者の取組評価や事業者への働きかけ・フィードバック、他の消費者への呼びかけ等を通じて、各ステークホルダーの行動変容を推進することが期待される。

 ② コミュニティビジネスや投資等を通じた働きかけ

 国は、民間団体や地方公共団体等と連携して、生物多様性に配慮したコミュニティビジネス等を行うことを支援するとともに、経済的手法やナッジの検討を通じた資金調達の支援を行う。

 国民や民間団体は、生物多様性保全に資するコミュニティビジネス等を行うことに加え、事業者の情報開示を踏まえた投資等を通じて事業者の生物多様性配慮を促す。

(3)生物多様性保全への取組促進

 ① 生物多様性配慮行動の実践・協働

 国民及び民間団体は、植林や自然の管理、外来種駆除、フードバンク・フードドライブ等の生物多様性の保全や自然資源の持続可能な利用に貢献する取組や、30by30目標の達成に向けたOECMに関して「自然共生サイト」としての認定やその維持管理について行うとともに、地域の各主体と連携してこれらの取組に協力するよう努める。

国は、これらの取組を促すよう、支援事業を行うとともに、その他の経済的措置等による支援措置の検討や、ナッジ等を活用した行動促進を進める。

 ② 国民や民間団体が行う保全等への取組支援

 国は、国民や民間団体が行う生物多様性保全上重要な土地の取得や、その維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組を促進するべく、地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成26年法律第85号)に基づく取組の推進や、経済的手法やナッジ等の手法の導入を進める。

 また、地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(平成22年法律第72号。以下「生物多様性地域連携促進法」という。)に基づき、多様な主体の連携のあっせん等を行う地域連携保全活動支援センターの取組を支援することで、こうした取組を促進する。

(4)伝統知や自然観の継承、自然とのふれあい、人と動物の適切な関係に係る理解の醸成

 ① 地域コミュニティ内での取組

 自然環境の維持・管理の主体として地域コミュニティが重要であること、同時に、衰退した地域コミュニティの再興のためには自然との関わり合いが重要であることを踏まえ、国は、地方公共団体とも連携しつつ、地域コミュニティの再興や再構築に関する施策を推進するとともに、共助として地域の生物多様性保全活動への積極的な参画や寄付等の取組を推進する。

 ② 文化的・精神的な豊かさを求める価値観の醸成

 良い暮らしについての多様な観念の受容の観点から、自然が人の心身の健康にもたらす効果を把握し、自然の中で学び、遊ぶことのみならず、働くことや暮らすことで享受できる文化的・精神的な豊かさを求める社会の価値観の醸成を促す。

 ③ 地域における伝統文化、自然観の継承

 鎮守の森、八百万の神に象徴されるような自然に対する敬けんな気持ちといった、我が国における人と自然との共生の考え方や、生物多様性の豊かさに根ざした地域文化(伝統行事、食文化、地場産業など)を守り、地域における暮らしや土地利用の在り方を地域の自然に沿った形にしていくことが、地域の自然環境の保全に寄与することを踏まえて、こうした伝統文化や自然観、地域の自然の恵みを活かし災いを避ける知恵や技術などを収集・共有し継承していく施策を実施する。森・里・川・海のつながりを踏まえて、自然がもたらす文化的・精神的な豊かさや、自然が地域の伝統、食、産業、文化を支えていること、人と自然の共生という自然観の継承を、様々な機会を通じて発信し、地域住民の自然への理解や配慮意識を高め、地域における生物多様性の保全活動を促進する。

 ④ 都市部の居住者の自然とのふれあい

 身近な自然環境とふれあうことは、生物多様性の重要性や自然に根ざして形成されてきた文化・風土などを理解する上で重要であることを踏まえ、人口の多くを占める都市部の居住者が、生物多様性が豊かに保たれている緑地空間や親水空間へのアクセスや日常的な自然体験の機会を増加させられるよう、都市部や都市近郊での緑化の推進や緑地の適切な保全などを進める。また、都市部の居住者が、農業体験や林業体験への参加を通じて、健康の増進や郷土愛の醸成等が図られるよう、市街地及びその近傍にある生産緑地や里山林等の適切な保全・活用を進める。地方と都市部における施策を両輪で進めることにより、分散型・自然共生社会の形成につなげる。さらに、都市部から離れた自然豊かな地域、農山漁村等への交流を促進することで、地域固有の自然に遊び、親しむことや自然を学ぶ自然体験学習を促進する。

⑤ 人と動物の適切な関係に係る理解の醸成

 人と動物の共生する社会を実現するために、動物をみだりに殺し傷つけ、苦しめることのないように取り扱い、動物の命を尊重する考え方及び態度を確立する必要がある。すなわち人と動物の共生は、人が、社会の中において、動物をそれぞれの役割に応じて適正に取り扱うことも包含しており、合理的な目的に応じて、適正な動物の取扱いがなされるならば、実験動物や産業動物等の利用についても、共生の在り方の一つであり、家庭動物や展示動物のみならず実験動物や産業動物も含めた人と動物の適正な関係に係る理解の醸成に向けた取組が必要である。

(5)国民や民間団体の政策への参画の促進

 国は、生物多様性の保全に関する政策形成に民意を反映し、その過程の公正性及び透明性を確保するため、民間団体や専門的知識を有する者等の多様な主体の意見を求め、これを十分に考慮した上で政策形成を図るため、官民連携プラットフォーム、パートナーシップ、有志連合等の取組を進める。

 民間団体は、自らの専門能力を活かした政策提言を行うこと等が期待される。

基本戦略4における目標の設定

 社会全体で生物多様性の保全と持続可能な利用を進めていくためには、生物多様性の重要性に対する知識の不足・無関心や、生物多様性の価値が統合されていない構造を変えることが必須であることから、そのための国民一人一人の価値観の形成と行動変容の促進に関する状態目標を設定する。また、それらの状態の達成に向け、生物多様性を重視する価値観を持った人づくりや、生物多様性に正の貢献をする行動を後押しするための行動目標を設定する。

 価値観の形成の観点では、学校等での教育において生物多様性の重要性について学びを深めることを促進する(行動目標4-1)と同時に、様々な場面で日常的に自然とふれあう機会を増加させ、体験に裏付けられた理解を促す(行動目標4-2)必要がある。また、行動科学の知見を活用して自主的な行動を後押しするナッジ等の取組も併せて行い(行動目標4-3)、生物多様性や人と自然のつながりを重要視した価値観を形成し、行動を促していく必要がある(状態目標4-1)。行動変容の観点からは、特に日常生活と結びつきの深い消費行動の変容と、自然環境の保全・再生に直接関わる行動に着目した目標を設定する。消費行動の観点では、生物多様性に配慮した選択の機会を増やすとともに、それらが選ばれやすくするようインセンティブを提示する(行動目標4-4)ことで、適量購入と循環利用を進め廃棄量を減らすとともに、持続可能な商品を選ぶなど生物多様性に配慮した行動変容を促す(状態目標4-2)必要がある。自然環境の保全・再生に関する行動の観点では、人と自然の共生に関わる伝統文化や地域知・伝統知の継承を含め、地域における自然への理解や配慮を高めるとともに、地域における多様な主体の連携を促す取組等を通じて保全・再生活動を促進し(行動目標4-5)、広く国民が自然環境の保全・再生活動に積極的に参加するよう行動変容を促す(状態目標4-3)必要がある。

【状態目標】

4-1 教育や普及啓発を通じて、生物多様性や人と自然のつながりを重要視する価値観が形成されている

4-2 消費行動において、生物多様性への配慮が行われている

4-3 自然環境を保全・再生する活動に対する国民の積極的な参加が行われている

【行動目標】

4-1 学校等における生物多様性に関する環境教育を推進する

4-2 日常的に自然とふれあう機会を提供することで、自然の恩恵や自然と人との関わりなど様々な知識の習得や関心の醸成、人としての豊かな成長を図るとともに、人と動物の適切な関係についての考え方を普及させる

4-3 国民に積極的かつ自主的な行動変容を促す

4-4 食品ロスの半減及びその他の物質の廃棄を減少させることを含め、生物多様性に配慮した消費行動を促すため、生物多様性に配慮した選択肢を周知啓発するとともに、選択の機会を増加させ、インセンティブを提示する

4-5 伝統文化や地域知・伝統知も活用しつつ地域における自然環境を保全・再生する活動を促進する


基本戦略5

 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進

 生物多様性の保全と持続可能な利用に係る取組を効果的に進めるため、自然環境の現状と時系列・空間的変化を的確に把握し、生物多様性の評価につながる基礎的な調査・モニタリングの充実と利活用しやすい情報整備、調査体制の発展・育成に向けた担い手の確保や活動支援を進める。また、生物多様性に係る取組全体を底上げするため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるとともに、各ステークホルダーの連携による横断的な取組を推進する。

 さらに、地球規模での生物多様性の保全への貢献のため、我が国の知見や経験を活かした国際協力や自然を活用した解決策(NbS)を通じた生物多様性以外の環境分野の課題への対処に資する取組、IPBESへの貢献を進める。

(1)効果的な取組のための情報基盤の整備

 ① 情報基盤の整備、利用者ニーズに応じた情報の提供の推進

 証拠に基づく政策立案(EBPM)、地域における生物多様性保全の取組、及びその評価を促進するため、基礎的・科学的な基盤情報や自然環境データの収集・整備の充実、科学研究の振興を図るとともに、それらのデータを多様な主体の目的に応じて、適切かつ迅速に利活用できるよう、「オープンデータ基本指針」(令和3年6月15日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定)に基づき、オープンデータ化やAPI連携等による官民データの情報提供の基盤・体制や相互の利活を充実・強化する。

 あわせて、データの利用目的に適ったデータ品質を確保するとともに、これらを支る衛星画像やドローン等を用いたモニタリングに係るデジタル技術等の開発支援を行う。また、グリーンインフラを始めとする生物多様性保全等に資する取組の計画・整備・維持管理等に関する技術開発を進めるとともに、地域モデル実証等を行い、地域への導入を支援する。

 ② 生物多様性に関する総合的な評価

 生物多様性損失と社会経済活動の統合的な評価を含め、我が国の生物多様性及び生態系サービスの総合的な評価のための調査・研究を継続的に行い、全国的、あるいは地域的な観点から取組の成果を評価する。また、環境価値の見える化を見据え、生態系サービスや自然資本全体の経済価値評価を行い、多様な主体の行動変容や国民勘定への統合に向けた調査研究を進める。

(2)生物多様性保全のための法制上の措置等及び地域計画

 ① 法制上、財政上又は税制上の措置等

 国は、生物多様性に係る取組全体を底上げするため、生物多様性の保全及び持続可能な施策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずる。具体的には、本戦略に記載されている国主体の生物多様性保全の取組について、必要な法改正や予算確保等により実施していくとともに、民間資金の導入を促進する。また、保護地域やOECMによる効果的な保全を通じた30by30目標の達成に向け、国立・国定公園等において自然環境の質の向上を図るため、利用料・協力金等を保全・管理等に充てる、利用者負担の仕組みを拡充するほか、野生動物観光を始めとするエコツーリズムにおいても、持続性の確保のために自然環境の保全・管理等の費用の負担を求める仕組みを拡充していく。また、地方公共団体や民間が主体となって行われる保全の取組の財政的な支援に努めるほか、必要に応じて保全を支援するための法制上、税制上の措置についても検討を進めていく。さらに、国内の補助金を含む各種奨励措置について、生物多様性に有害なものを特定し、該当する奨励措置の在り方を見直す。

 ② 空間利用に関わる地域計画・生物多様性地域戦略

 陸域及び海域において、保全対象に応じた多様なスケールで生物多様性を考慮した空間計画に基づく統合的な取組を進める。特に、地域レベルでのNbSの考え方に基づく取組を推進するため、生物多様性地域戦略の策定など、地域での生物多様性の保全・活用の取組において関連する地域計画(環境基本計画、緑の基本計画、地域気候変動適応計画、地球温暖化対策推進法に基づく地方公共団体実行計画等)との連携や統合的な策定、これらの計画の共同策定を含む地方公共団体間の広域連携の促進、ランドスケープアプローチを適用した統合的な取組、まちづくりにおける自然を活かした取組、取組を担う人材や中間支援を行う人材等の育成や地域における活動支援を推進する。

(3)各ステークホルダーによる自主的取組、連携取組

 ① パートナーシップによる自主的取組

 事業者等と行政が協定やパートナーシップといった形で、対等な立場での自主的な協力を約束することで、柔軟かつ創意工夫のある取組の促進が期待されることから、業界団体等との連携協定を始めとするパートナーシップによる取組を、定期的なフォローアップや見直しを通じて推進する。

 ② マルチステークホルダーによる連携取組

 国民、事業者、NPO、地方公共団体、国等が連携して取組を進めることで、新たな知見の導入や、異なるセクターによる客観的な評価等を通じたより効果的な枠組の構築や取組促進、広範な意識啓発などが期待されることから、2030生物多様性枠組実現会議(J-GBF)や生物多様性のための30by30アライアンス、つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト、グリーンインフラ官民連携プラットフォームを始めとするマルチステークホルダーによる取組を、定期的なフォローアップや取組の深掘り等を通じて推進する。

(4)国際連携

 我が国の知見や経験を活かした国際協力を進める。具体的には、SATOYAMAイニシアティブによる二次的自然の持続可能な利用に関するプロジェクトやランドスケープアプローチの考え方を組み込んだ生物多様性国家戦略策定支援、Eco-DRRの実施等に係る途上国の能力構築支援、国際的に広がるサプライチェーンにおける生物多様性への負荷の削減等を進める。その際、気候変動等、生物多様性以外の環境分野の課題への対処にも資するこれらの取組による多面的な効果の発揮を追及していく。特に、生物多様性の保全における熱帯林の役割を認識し、国際熱帯木材機関(ITTO)と生物多様性条約事務局による共同イニシアティブを通じた取組を進める。さらに、気候変動や資源循環関係の国際的な協力のうち、生物多様性にも資するもの(NbSを通じた取組)を重視し、関連する協力プロジェクトを増やしていくほか、IPBESによる各種評価報告書への貢献として、我が国の研究の参加促進、技術支援機関の運営支援等を進める。

 また、アジア地域での30by30目標達成に向け、アジア保護地域パートナーシップを通じた保護地域・OECMの指定・管理支援を進める。加えて、生物多様性の保全に資する国際的な枠組である絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)、ラムサール条約、二国間渡り鳥等保護条約・協定、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ等に関する我が国における知見や取組について、関係各国との共有等を進める。さらに、侵略的外来種の非意図的な侵入対策について、国際的な連携を進める。

 また、海洋は連続しており、我が国の管轄海域の環境が他国の影響を受けるとともに、我が国の影響が他国や公海に及ぶ可能性もある。このような海域の特殊性に留意し、1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書(以下「マルポール条約」という。)や船舶バラスト水及び沈殿物の管制及び管理のための国際条約(以下「バラスト水管理条約」という。)等の既存の国際的な枠組みや、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを踏まえた海洋環境を含むプラスチック汚染に関する新たな法的拘束力のある国際文書(条約)の策定など、海洋環境政策における国際連携を主導していく。

基本戦略5における目標の設定

 我が国においてこれまでに蓄積されてきた情報や知見、技術などを国内の生物多様性保全に係る多様な活動に広く展開することや、資金面での支援を含めて我が国の知見を活かした国際協力を進めることが、国内外の生物多様性保全の基盤構築のために必須である。このため、国内における取組の基盤を整える観点で、必要な情報の整備・提供とそれらを用いた活動の効果的な実施に係る一連の取組、また国内及び国際的な取組を資金面から支えるための取組、さらには、二次的自然の保全・持続可能な利用など我が国の知見を活かした国際協力による世界的な生物多様性保全の取組の促進に関する状態目標・行動目標を設定する。

 国内の基盤整備の観点では、継続的に整備された生物多様性情報を基に、効果的な取組につなげる評価手法を開発すること(行動目標5-1)や、情報を解釈して現場における取組を進めるための人材を育てること(行動目標5-2)、マクロな視点で地域における取組を効果的に進めるための計画手法を地域において浸透・発展させること(行動目標5-3)を通じ、地域の多様な主体が様々な情報・手法を用いて現場における効果的な活動を進めていくこと(状態目標5-1)が必要である。また、資金面では、各種補助金・奨励措置等について、国内における生物多様性に有害なものの特定と見直し、生物多様性保全に貢献するものの促進を通じて全体としてポジティブな内容に変えていくとともに、国際的な資源動員への貢献を強化すること(行動目標5-4)で、本戦略の実施に係る十分な資金が確保され、世界的な生物多様性保全に係る資金ギャップの解消に貢献すること(状態目標5-2)が求められる。加えて、我が国における生物多様性の保全と持続可能な利用に係る経験を活かしたプロジェクトの国際的な展開や知見の共有を進めていくこと(行動目標5-5)で、途上国における能力構築等を進め、各国の生物多様性保全を促進していく(状態目標5-3)ことが必要である。

【状態目標】

5-1 生物多様性の情報基盤が整備され、調査・研究成果や提供データ・ツールが様々なセクターで利活用されるとともに、生物多様性を考慮した空間計画下に置き、多様な空間スケールで様々な主体の連携が促進されている

5-2 世界的な生物多様性保全に係る資金ギャップの改善に向け、生物多様性保全のための資金が確保されている

5-3 我が国による途上国支援による能力構築等が進み、その結果が各国の施策に反映され、生物多様性の保全が進められている

【行動目標】

5-1 生物多様性と社会経済の統合や自然資本の国民勘定への統合を含めた関連分野における学術研究を推進するとともに、強固な体制に基づく長期的な基礎調査・モニタリング等を実施する

5-2 効果的かつ効率的な生物多様性保全の推進、適正な政策立案や意思決定、活動への市民参加の促進を図るため、データの発信や活用に係る人材の育成やツールの提供を行う

5-3 生物多様性地域戦略を含め、多様な主体の参画の下で統合的な取組を進めるための計画策定支援を強化する

5-4 生物多様性に有害なインセンティブの特定・見直しの検討を含め、資源動員の強化に

向けた取組を行う

5-5 我が国の知見を活かした国際協力を進める

第4章 本戦略を効果的に実施するための基盤・仕組み

第1節 実施に向けた基本的考え方

 第3章で掲げた2030年までに達成すべき短期目標「2030年ネイチャーポジティブ」を実現するための五つの基本戦略における各状態目標及び行動目標を達成するために、第2部に掲げる各目標に紐付く施策を着実に実施することが必要である。

 これらの施策の実施に当たっては、長期的な視点に立ち、生物多様性が持つ複雑性・不確実性や、本戦略が目指す自然共生社会像に向けた地域の在り方等を踏まえ、以下の考え方に沿っていくことが重要である。

1 科学的な認識と予防的/順応的な取組

 生物多様性の保全と持続可能な利用は、地域における自然との共生の知恵を参考としつつ、自然の特性やメカニズム、歴史性を理解し、科学的データに基づいて行うことが必要であり、政策決定や取組の出発点、基礎となる。それにより、多くの人に取組の重要性や効果を示すことができると考えられる。

 しかしながら、生物多様性に関する知識や理解は限られていることから、生物多様性の損失の要因やそれに伴う生態系サービスの減少の評価、施策の立案・実施においては、その時点での最新の科学的知見に基づいて必要な措置を講じたものであったとしても、常に一定の不確実性が伴うことについては否定できない。とはいえ、不確実性を有することを理由として対策をとらない場合に、一たび問題が発生すれば、それに伴う被害や対策コストが非常に大きくなる可能性や、長期間にわたる極めて深刻な、あるいは不可逆的な影響をもたらすおそれもある。このため、生物多様性の保全と持続可能な利用に当たっては、生物多様性への影響が懸念される問題への対策を、科学的知見が十分ではないことや不確実性を伴うことをもって先送りするのではなく、科学的知見の充実に努めつつ、予防的な対策を講じるという「予防的な取組方法」の考え方に基づいた取組を実施していくことが原則である。なお、一定の不確実性がある中で政策的な意思決定を行うためには、関係者や国民との合意形成が不可欠である。その際には、政策決定者が十分に説明責任を果たすことや、各主体間のコミュニケーションを図ることが重要である。

 また、生態系は複雑で絶えず変化し続けているものであることから、政策判断を行った後においても、生態系の変化に応じた柔軟な見直しが大切であり、新たに集積した科学的知見や、施策の実施状況のモニタリング結果の科学的な評価に基づいて、必要な施策の追加・変更や施策の中止等の見直しを継続して行っていく、「順応的な取組方法」の考え方に基づいた取組を進めることが必要である。

2 わかりやすさの重視

 生物多様性については、我々の生活との関係性が見えにくく、何をすればその保全や持続可能な利用に役立つか分かりにくいという課題がある。日々の暮らしの中で意識することは多くないが、我々の生活は、食料や水、健康など、自然の恵みによって支えられている。これらの生態系サービスは他の社会関係資本等とも複雑に結びついているため、人間の福利における生態系の貢献を直接的に評価することは現時点で困難である。一方で、生態系サービスを評価する取組は進められていることから、その成果等も活用しながら、我々の日々の生活に生態系がどのように関わり、貢献しているかを分かりやすく示していくことが大切である。

 また、生物多様性の保全に関しては気候変動対策と異なり明解な指標はなく、生物多様性の保全のためにとるべき行動やそれによる効果の評価も難しい面がある。このことが気候変動対策と比して、生物多様性保全に係る対策が遅れていると評される一因にもなっており、生物多様性に係る「わかりにくさ」を克服する必要がある。

 このため、生物多様性に関する政策の立案や実行、その効果の検証に至るまでの課程においては、EBPM(証拠に基づく政策立案)の考え方に基づき、施策の実施(インプット)からそれらの成果(アウトプット)、さらにはその結果としての生物多様性保全等の効果(アウトカム)までの道筋をわかりやすい形で示し、それらを教育や普及啓発等により発信していくことが重要である。

 加えて、生物多様性に関する用語には、「自然環境」「生態系」「生物多様性」のように混同されて使われがちなものや、互いに概念に重複があるものなど、一般に伝わりづらいものも多い。また、英語がベースとなっているために、日本人が直感的に理解するには難易度の高い用語もある。このため、生物多様性への理解の増進には、使用する用語の整理を行うことはもちろん、それらの本質的な意味合いを多くの人々が理解しやすい平易な表現で伝える必要がある。

 さらに、本戦略の下で実施される生物多様性に関する施策と、国際的な目標、とりわけ、昆明・モントリオール生物多様性枠組との整合や関係性をわかりやすく示していくことが求められる。これにより、各取組の意義や国内目標・世界目標に対する貢献度が明確になることで、取組が後押しされ、現場レベルのやる気にもつながる。同時に、進捗状況に係る際機関への報告を通じて、我が国の取組に対する国際社会からの理解を得ることにも寄与する。

3 地域性の尊重と地域の主体性

 地域の生物多様性は、それぞれの地域の自然的・社会的条件を背景として長い年月をかけて形づくられてきたものであり、一律ではない。そのため、本戦略の取組を進める上でも、地域の生物多様性を形づくってきた自然環境や野生生物の分布状況、歴史や文化、人と自然との関わり等を踏まえることが重要である。その際には、特に、教育・研究機関、専門家、その地域に長年住む農林漁業者や住民等との連携を図り、協力や助言を得られる体制を整えるとともに、地域で引き継がれている知識や経験に関する情報を蓄積して積極的に活かすことが効果的となる。また、地域で創意工夫を重ねながら行われている既存の活動を発展させる視点も有益である。

 このため、地域が当事者意識を持ち、主体性を発揮し、自ら地域の目標を定め、地域に適した取組を進めることが重要である。そうすることで、地域の生物多様性の保全と同時に、地域の活性化や地域課題の解決にもつなげることが可能となる。更に各地域の活動を結びつけるネットワークを構築し協働や連携を進めることで、担い手の確保や活動の活性化、客観的な活動の評価にもつながる。

このような、地域における生物多様性に関する活動の維持や活性化、土地利用の方向性の検討に当たって有用な手段となるのが、多様な主体の参画を得て地域自らで作り上げる生物多様性地域戦略であり、地域ごとの取組の方向性や各主体の役割、目指すべき地域の姿を明確にすることにより、持続的かつ魅力的な地域づくりが推進されると考えられる。

4 生態系のつながりを意識した取組

 今日、地球上には様々な環境に適応し進化してきた多様な生物が存在しており、これらの生物間、及びこれらを取り巻く大気、水、土壌等の環境との相互作用によって生態系が形成・維持され、更に栄養塩等の物質循環や水循環、動物の移動等を通じ、相互につながっている。また、そこで暮らす生物は、国境を越えて移動するガン類など渡り鳥から、県境を越えて移動するツキノワグマ、海から河川を遡上するアユやサケ、一定の狭い範囲内の湿地と森林を行き来するカエルの仲間、更にはマイクロハビタットに生息する生物に至るまで、様々な生息・移動・繁殖の空間的な広がりやつながりを有している。

 このため、生物多様性の保全と持続可能な利用を図っていく上では、それぞれの生態特性に応じて、生息・生育空間のつながりや適切な配置が確保された生態系ネットワークが、国土全体、更には世界的なつながりも考慮してしっかりと形成されることを念頭に取り組む必要がある。その上で、生態系ネットワークを単なる概念的なものにとどめず、地域の取組、更に周辺地域にも範囲を広げた取組に落とし込んでいく必要がある。

 その際、流域を基軸として関連する流域圏を一つのまとまりとして捉える視点も重要である。森林と海は河川でつながっており、我々の暮らしや文化も、流域を単位として成り立っているものが少なくない。その地域だけの視点で活動を行うのではなく、流域を単位とする生態系や文化のつながりを踏まえた広範な視点を持つことにより、他の地域にも良い波及効果をもたらす活動を進めていくことが可能となる。

 さらに、流域を越えたつながりから、全国規模のつながり、地球規模のつながりまで、様々な階層におけるつながりを持っているほか、異なる階層間もつながりを持っていることから、それぞれのつながりを意識した広域的な視点を持ち、各地域における個別具体的な課題の解決に向けた取組を進めていくことが重要である。

5 長期的な視点に立った取組

 社会経済活動は、ともすれば短期的な生産性・効率性を追求する傾向にある。しかし、自然資本(ストック)から得られる利益を長期的に考えると、自然資本を持続的に保全し、そこから得ることができる様々な恵み(フロー)を利用した方が、これを損ないながら利益を得ることよりも経済的である場合も多いと言われている。このため、短期的な生産性や効率性を求めるのではなく、自然資本を持続的に保全し、その回復能力を超えない範囲で利用していくことの長期的な利益も考慮していくことが原則となる。さらには、これまで長年にわたり自然資本が継続的に損なわれ、事業活動のみならず自然を基盤とする文化や人類の持続可能性までもが脅かされてきたことに鑑みれば、自然資本を単に維持するだけではなく今まで以上に回復させ、そこから得られる様々な恵みを世代を超えて享受できるよう取り組んでいく姿勢が求められる。

 こうした自然資本の中には、人々が長年にわたり培ってきた伝統的な知識に基づき利用されているものがある。その維持・回復は伝統的な知識等の保存や維持にもつながるものであり、また、我が国の自然観や郷土愛を次世代につないでいくことにも資するものであることに留意する必要がある。

 個別の取組に際しては、長期的な変化を見据えて取り組んでいくことが求められる。例えば、少子高齢化の進行により地域のコミュニティの維持や適切な土地の管理もが困難になる地域も生じることが見込まれる。こうした地域については自然林や湿地等の自然を再生し、災害の緩衝地として活用していくといった選択肢も考慮していく必要がある。

 また、気候変動や地球規模での生物多様性の損失等、不確実性の時代であること踏まえれば、将来予測を強化し、更に生じうる様々なシナリオにおいても持続可能性が確保できるよう、状況変化に柔軟に対応できる様々な選択肢とその基盤が必要となる。このため、変化への強靭性(レジリエンス)を兼ね備えた生物多様性豊かな自然資本を長期的視点に立って着実に維持・回復させていくことが重要であるとともに、劣化した自然資本の回復には長い年月を要することを踏まえれば、問題を先送りすることなく迅速に取り組んでいく姿勢も求められている。

6 社会課題の統合的な解決への積極的活用とランドスケープアプローチ

 生物多様性の低下傾向は、生態系の保全と回復の強化、汚染や侵略的外来種への対策等の自然環境の保全そのものを目的とする取組だけでは止められず、持続可能な食料生産や、消費と廃棄物の削減といった様々な分野が連携して取り組む必要があることが指摘されており、そのためには生物多様性に関する社会的な理解と連携・協力が不可欠となる。このため、生物多様性の損失を止め、回復に向かわせるためには、生物多様性・自然資本・生態系サービスを社会・経済活動の基盤として捉え直し、それらを活かして多様な社会課題の解決につなげる「自然を活用した解決策(NbS)」の取組を積極的に進め、社会的な理解と連携・協力を得ていく必要がある。このNbSは、主目的の社会課題の解決に加え、複数の効果をもたらすという特徴があるとともに、近年関心が高まりつつある自然による癒しや人の健康への好影響等の波及効果も期待されている。こうした中、NbSではなく自然環境の保全そのものを目的とする取組であったとしても、気候変動緩和・適応、防災・減災、資源循環、地域経済の活性化、人獣共通感染症、健康などの課題解決に貢献するNbSとしての側面を有するものもあり、あらゆる取組についてNbSとしての意味づけを積極的に行っていくことが、社会的な理解と連携・協力の促進を進める上で重要であると考えられる。

 NbSを含め生物多様性の保全と持続可能な利用を進めるに際して効果的な手法の一つがランドスケープアプローチである。ランドスケープアプローチとは、一定の地域や空間において、主に土地・空間計画をベースに、多様な人間活動と自然環境を総合的に取り扱い、課題解決を導き出す手法のことである。自然環境保全や、社会課題の解決を別々に進めるのではなく、地域ごとに多様なスケールで生物多様性とその他の社会課題との間のシナジーとトレードオフを明確化した上で、自然的条件と社会的条件を統合的に捉え、地域の多様な主体の参画を得て様々な取組と協調することにより、望ましい土地利用の実現を目指すものである。そのためには様々な情報を地図上に明示して「空間計画」として検討を進めることが極めて重要となる。なお、本手法は陸域のみならず里海といったシースケープにおける取組や、陸と海の両方にまたがる取組においても有用であり、土地利用に関係する地域の様々な取組において適用されることが強く期待されるものである。

7 多様な主体の連携・協働の促進

 NbSを含め生物多様性の保全と持続可能な利用を積極的に進めるためには、各主体間の連携と協働が一層重要となる。

 このため、まずは地域においては国、地方公共団体、農林漁業者、事業者、民間団体、専門家、教育関係者、地域住民などの多様な主体間がより一層の緊密に連携し協働できる仕組みを設けていくことが求められる。また、地域の伝統や知恵を有する高齢者と、これからの地域を担う若い世代がともに意思決定に加わり、目指すべき地域像を明確にしながら取り組んでいくことも大切な視点である。さらに、自然の恵みを供給する地方とその恩恵を受ける都市との間で人材や資金、更には知見や人脈を通じて支えあうことや、地域間でのノウハウの伝達のための広域的なネットワークの形成等も、人口減少社会の中で持続可能な取組を効果的かつ効率的に進めるために大切な要素である。また、事業者が民間団体や地方公共団体と協力して活動を展開する事例も増加しており、事業者との協働を促進する視点も欠かせない。さらに中間支援組織によるコーディネートや、科学的知見を有する専門家の参画も重要である。加えて、ジェンダーや世代等により異なる多様な価値観を反映し、主体性を持った取組を促進するため、関係する主体が連携・協働の取組に参加できるようにする必要がある。

 こうした取組を支えていくためには、行政の組織間、組織内での連携体制の構築も必須となる。そして、中央省庁のレベルから出先機関、市町村の各部局のレベルに至るまで、様々なレベルにおいてそれぞれ連携が図られていくことが、地域での取組を効果的かつ効率的に促進するためには重要となる。

第2節 進捗状況の評価及び点検

1 国際枠組への対応

 昆明・モントリオール生物多様性枠組では、愛知目標と比較して数値目標が増加するとともに、世界目標の達成に向けた進捗を測るために、全ての国が共通して生物多様性国家戦略や国別報告書に使用することが求められる「ヘッドライン指標」が設定された。また、各国が同枠組を踏まえて改定する生物多様性国家戦略や国別目標を基に、同枠組に対し各国が行うとしている貢献を世界全体で積み上げる分析を生物多様性条約締約国会議の開催毎に実施し、さらに、国別報告書等を基に、世界目標の達成に向けた各国の取組の進捗状況を点検・評価する「グローバルレビュー」をCOP17及びCOP19において実施することとしている。これらにより、必要に応じて各国における取組の見直しや努力量の向上を提案する仕組みが構築されるなど、評価のプロセスが大幅に強化され、世界目標と各国の生物多様性国家戦略との結びつきが強まった。

 このような動きを踏まえ、本戦略の実施に当たっては、関係府省庁により構成される「生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議」において、我が国の生物多様性に係る状況を加味し、同枠組を踏まえた国別目標である状態目標及び行動目標の進捗を測る指標を設定する。なお、同枠組のヘッドライン指標については、全ての国が共通して使用することとされているものの、COP16までにその詳細が決定されることとされているため、本戦略における状態目標及び行動目標への位置づけについては、国際的な議論の動向を踏まえ、追って行うこととする。また、本戦略の第2部において、行動目標の達成に向け、2030年までに国が取り組む個別施策を整理し、指標による状態目標及び行動目標の進捗状況の把握と併せ、本戦略に基づく各施策の実施状況の把握を行う。

 本戦略の実施状況の点検・評価に当たっては、国際的な報告・評価プロセスのタイミングを踏まえて、効果的・効率的に実施することとする。具体的には、グローバルレビューに向けて各国に提出が求められる国別報告書を作成するタイミングに合わせ、指標や個別施策の実施状況の周期的な点検や、本戦略の中間評価や最終評価を行う。ただし、昆明・モントリオール生物多様性枠組の最終評価のための国別報告書の取りまとめのタイミングが本戦略の最終評価のタイミングとして不適当である場合、本戦略の最終評価としては、最終年度に国別報告書の情報を更新して、本戦略の最終評価とする。

 さらに、中間評価・最終評価等を踏まえた指標や個別施策の見直しやグローバルレビューの結果等を踏まえた本戦略自体の見直しについても必要に応じて検討する。

2 点検・評価

 本戦略の各状態目標及び行動目標の進捗を測るための指標並びに第2部に記載した個別施策の実施状況の点検については、2年に1度を基本としつつ、国際的な報告・評価のプロセスも踏まえて実施する。その結果は生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議において取りまとめる。

 また、本戦略に基づく取組の結果、我が国の生物多様性及び生態系サービスがどのように変化したのかを把握するために、継続的に研究調査やモニタリング等に係る情報収集を行うとともに「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO)」として情報をまとめる特に状態目標の評価に関して、本戦略の達成状況の評価とJBOによる評価を連携させ、効果的・効率的な評価を行う。

 達成状況の評価は、国際的な報告・評価のプロセスを踏まえ、中間評価及び最終評価として実施する。評価を実施する際には、行動目標の達成に向けた取組が、どのように状態目標の達成につながっているかについても評価する。

3 見直し・改定

 本戦略の各状態目標及び行動目標の進捗を測るための指標並びに第2部に記載した個別施策については、中間評価における状態目標及び行動目標の達成状況の評価結果やヘッドライン指標の国際的な議論の動向等を踏まえ、必要に応じて更新や追加等を行う。その結果は生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議において取りまとめる。

 また、本戦略は、グローバルレビューの結果等を踏まえて必要に応じて見直しを図る。

 さらに、最終評価やJBOの結果、生物多様性と生態系サービスの評価・予測に関連する研究成果等の情報を踏まえ、次期生物多様性国家戦略の策定を行う。

4 関係計画等との協調

 生物多様性国家戦略は生物多様性基本法第12条第1項で環境基本計画を基本として策定することとされており、環境基本計画に記載の内容との整合を図る必要がある。具体的には、次期環境基本計画の策定の際に、本戦略に記載した事項を踏まえた記載を取り入れるほか、本戦略の見直しの際には次期環境基本計画の内容を踏まえた検討を行う。

 また、地球温暖化対策計画や循環型社会形成推進基本計画、みどりの食料システム戦略等の本戦略に関連する国の他の計画との協調を図っていく。さらに、関係省庁が策定する戦略・ガイドライン等との間で可能な限り点検等の作業の共通化を図るとともに、内容面でも連携させることで効率的・効果的な実施を図る。

第3節 多様な主体による取組の進捗状況の把握のための仕組み

 昆明・モントリオール生物多様性枠組では、世界目標の達成に向け、地域に即した取組が重要であるとされており、そのためには多様な主体が取組に参画することが必要である。このため、本戦略でも多様な主体の主体的な取組や、各主体の連携協働を重視しており、本戦略の達成状況を評価するためには、多様な主体の取組を如何に把握し、分析・評価を行うかが重要となっている。

 しかし、これまでの生物多様性国家戦略の点検評価において、国以外の主体による取組の成果は十分に加味されていなかった。そこで、本戦略を実施するに当たっては、地方公共団体を始め、企業、NPO、個人といった多様な主体が実施した本戦略の目標達成に貢献する取組を集約する仕組みを構築し、各主体の取組がどの程度本戦略の目標達成に貢献したかを定量的に評価することとする。なお、仕組みの構築に当たっては、集約した情報が各主体にも還元され、一層の取組意欲の向上や、技術の向上、主体間の連携の促進にもつながるよう工夫を行うこととする。

第4節 各主体に期待される役割と連携

本戦略は、生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な考え方と国の施策について取りまとめたものである。しかしながら、その目標達成には、国だけではなく、あらゆる主体が参加、連携、協力、協働、行動することが必要である。本節では基本戦略の達成に向けて、国を始め、各主体に期待される「役割」と「主体間の連携」について、その代表的な例を示す。

1 国

 国は、本戦略の実施主体として、世界目標の達成にも貢献する目標を定めるとともに、全国的・国際的な見地から広域的・統一的に取り組むべき施策をあらゆる手法を駆使して実施する。その際、本戦略の行動計画に位置づけられた施策が効果的に実施されるよう、関係する省庁間又は地方公共団体、事業者等との間の連携を進めるとともに、本省・本庁・本社レベルから現場レベルにいたるまで、各レベル間で密に連携して取組を進めていく。また、国は、各主体がそれぞれ期待される役割を果たすことができるよう、情報の提供や技術的・予算的な支援を行っていく。さらに、生物多様性に係る取組は地域レベルの取組も多数ある中でそれぞれの地域の取組が全国的な取組と整合を取り、より効果的なものとなるよう調整・支援していく役割も期待される。

 例えば、基本戦略1に位置づけられた30by30目標については、国は、保護地域の指定や拡張、管理の強化等を行うとともに、多様な主体による自然共生サイトの登録の促進が図られるよう、制度の構築に加え、地方公共団体や企業、住民団体等にこれらの地域の保全の意義や重要性、インセンティブ、手法等を示し、多様な主体が連携した地域に根ざした保全等の取組を促していく。

 基本戦略2の自然を活用した社会課題の解決に当たっては、生物多様性豊かな自然環境を活用し、気候変動や人の健康、野生鳥獣との軋轢などの社会課題の解決を図るための望ましい在り方を示していくとともに、その推進に当たり必要となる制度の構築や手法の開発等を進めていく。

 基本戦略3の生物多様性と経済の統合に当たっては、国際的な動向も踏まえながら、事業活動全般に生物多様性の観点が取り入れられるよう、生物多様性に配慮した事業活動に係るガイドラインの作成や認証制度の運用、情報開示等の生物多様性に配慮した投融資の基盤づくり等を行うとともに、優良事例を積極的に発信していく。また、国自らも、物品調達や施設の維持管理・整備等に当たって、生物多様性への負荷の軽減を十分に考慮するなど、環境に配慮した行動を率先して行う。

 基本戦略4の一人一人の行動変容に当たっては、生物多様性と一人一人の日常生活との結びつきや、生物多様性を守るために必要とされる行動をわかりやすく提示し、行動科学の知見も踏まえ、地方公共団体や事業者等と連携しながら国民運動として進めていくための普及啓発等を進める。

 これらを進めるための基盤として、基本戦略5に記載した、全国的・広域的な生物多様性に関する情報や調査体制を確保するとともに、生物多様性の保全や持続可能な利用に向けた技術開発等を進める。さらに、地球規模での生物多様性とその持続的な利用に向けて、公平かつ実効性のある国際的なルールの形成への積極的関与を行っていくほか、途上国、とりわけアジア・太平洋地域における持続可能な社会の構築に向けた取組の協力を実施し、国際的な連携を強化していく。

2 地方公共団体

 地方公共団体が地域の自然的社会条件に応じたきめ細かな取組を進めていくことは、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用を進めていく上で極めて重要な役割を果たす。このうち市町村には日々の生活や、地域住民に身近な生物多様性に関する活動、学校教育・社会教育を通じた人材の育成等において重要な役割を果たすことが期待され、都道府県には市町村を越えた生態系ネットワークの構築や人的ネットワークの形成等のより広域的な取組や市町村間の連携促進、更には市町村の取組に対する人的・技術的・資金的支援等において重要な役割を果たすことが期待される。

 例えば、基本戦略1に位置づけられている「30by30目標」の達成に向けては、市町村あるいは都道府県レベルでの目標を設定し、都道府県立自然公園や条例に基づく保護地域はもちろん、より地域に根ざした地域住民に大切にされている里山やビオトープ、境内地、都市緑地等を、地域住民や地域の企業等と一体となって保全することが期待される。都道府県においては、域内に占める保護地域の割合が異なる市町村間での連携した目標設定や取組の促進や、地域の実情に応じたノウハウや情報の蓄積、更には人的ネットワークの構築が期待される。

 基本戦略2の自然を活用した社会課題の解決に当たっては、例えば、再生可能エネルギーの導入に当たり、生物多様性への負荷が生じない、地域と共生したものとなるよう、関係する主体とともに地域にとって望ましい在り方を示していくことが期待される。また、防災・減災や人の健康、地域の活性化など、地域課題の解決に向けて、自然を積極的に活用していく姿勢が求められる。その際、都道府県が有する広域的な知見を、市町村の有する地域に特化した情報と組み合せることにより、効果的な空間計画の作成やその実施の促進が期待される。

 基本戦略3の生物多様性と経済の統合においては、地方公共団体は、生物多様性に配慮した持続可能な農林水産業を促進していくことや、事業者や都市住民と地域の活動との連携に向けたマッチングを推進し、地域の産物の付加価値の向上や関係人口の拡大等を図り、自然を活用した地域経済の活性化を後押ししていくことが期待される。

 基本戦略4の一人一人の行動変容については、地方公共団体は、国や事業者と連携しながら生物多様性を保全するために必要とされる行動を市民に普及啓発するとともに、地域の特色を活かしながら後述の教育機関の活動に係る支援や指導を行うことが期待される。

 これらを実施するための基盤となる基本戦略5について、地方公共団体は生物多様性に関する基本的な行政計画である生物多様性地域戦略を策定する際には、地域に根ざした生物多様性に関する取組を位置づけるとともに、世界目標や本戦略の目標達成に貢献する目標を設定し、その進捗や成果を、国を含め広く共有することが期待されている。また、様々な行政分野に生物多様性の観点を盛り込み、地域のあらゆる主体を巻き込んで計画が策定されることが期待されることから、環境基本計画や緑の基本計画等と統合的に生物多様性地域戦略を策定することにより、分野横断的な取組を推進することも効果的である。さらに、生態系は行政区域を越えてつながっているものであることから、流域等を単位として複数の地方公共団体が共同で生物多様性地域戦略を策定することも、生態系ネットワークを踏まえた取組を進める上で効果的である。

3 事業者

 事業者は、その規模や様態にかかわらず、事業活動において何らかの形で自然資本を利用して商品・サービスを提供する一方で、土地利用の変化や汚染物質の排出、外来種の導入などによって生物多様性に負荷をかけている。そのため、自らの事業活動と生物多様性の関係性を把握し、取引先や顧客とも連携の上、生物多様性への負荷の低減の方策の検討やその実施体制の構築を図ることが求められる。本戦略の基本戦略3において、これら事業活動における目標を掲げており、事業者は中心的な役割を担う主体として期待される。

 特にサプライチェーンについては、原料の生産から輸送、加工、販売、廃棄に至るまでのそれぞれの過程で生物多様性への負荷を低減させる必要がある。また、技術、製品・サービスの提供により、バリューチェーンを通して、社会の様々な場面で生物多様性の保全に貢献したり、生物多様性への負荷を削減することに貢献したりすることも可能である。事業者は自らを取り巻く、サプライチェーン及びバリューチェーンのつながりを認識し、透明性のある適切な情報開示が求められる。

 農林水産業においては、生物多様性に配慮し、生態系サービスの提供を積極的に拡大していくための持続的な生産活動を行っていくことが求められる。開発事業においては、事業の実施により生物多様性への悪影響が生じないよう必要な措置を行うことが求められる。また、金融機関においては、生物多様性に配慮した事業活動に対し優先的に融資を行うなど、ESG投融資を通じた生物多様性の保全への貢献が求められる。

 また、事業活動以外にも、事業者による社会への貢献も期待されるところであり、地域住民と一体となった生物多様性保全の取組の実施や資金の提供等も地域の生物多様性保全に大きく貢献する。特に、工場敷地内の緑地や社有林等の中には多様な動植物の生息地・生育地となっている場所もあり、こうした場所はOECM等として管理されることで生物多様性保全に寄与することも期待される。

4 研究機関・研究者・学術団体

 研究機関・研究者・学術団体は、基礎研究及び応用研究、モニタリング調査等から得られた結果に基づき、我が国の社会経済活動が国内外の生物多様性に与える影響など、生物多様性保全に関する政策決定に対する知見の提供や、効果的な生物多様性保全の方策の提案、更にそれらをわかりやすく社会に伝えていく役割を担っている。研究機関・研究者・学術団体は基本戦略1から4の基盤となる基本戦略5の主要な主体である。

 生物多様性の損失を止め、回復させるための社会変革がうたわれる中、自然科学的理解と人文社会学的理解が統合する学術分野を横断した学際的な研究の重要性は増しており、研究成果の利活用を見据え、地方公共団体や地域の活動団体、事業者等の多様な主体と密接に連携することが期待される。特に、地域に根ざした生物多様性に関する活動の実施に当たっては、地域に十分な情報や知見の蓄積がない場合もある。このため、専門家たる研究者が、地方公共団体や地域の活動団体、事業者等に知見を提供し、それらの活動を後押しすることも期待される。

 また、国際的な取組において学術分野が果たす役割は大きく、我が国の知見や経験を活かした国際協力、生物多様性条約事務局やIPBES等の国際機関への貢献などが期待される。

 このように研究機関・研究者・学術団体の役割は多岐にわたっており、高度の専門知識と幅広い視野を持った次世代を担う研究者や技術者を育成することも期待される。

5 教育機関(学校、博物館等)

 教育機関は、学校教育の場として、また社会教育の場として広く国民の知識習得や体験活動を増進させ、行動変容を促す役割がある。また、教育活動を行うことに加え、行政、研究機関、地域住民をつなぎ、様々な活動を推進する役割がある。

 基本戦略4の一人一人の行動変容について、教育機関は学校教育の場において、生物多様性や人と自然のつながりに関する関心の醸成や、知識の向上を図り、行動変容を促すことが期待される。そのために、生物多様性に関する指導者や担い手の育成が期待される。また、学校以外の場においても、博物館等を通じた学習や体験、活動への参加の機会を提供することが期待される。さらに、こうした取組を地域において活動している主体と連携して取り組むことにより、地域の伝統文化や伝統知・地域知の継承につなげることが期待される。

6 民間団体(NGO・NPO等)

 NGO・NPO等の民間団体は、市民参加モニタリングや自然環境教育を始め、国内外でそれぞれの地域に固有の生物多様性を保全するための様々な活動の実践や、広く個人の参加を受け入れるためのプログラムの提供や体制づくりを進めていく際の核である。また、民間団体による途上国での保全活動や国際的視野での科学的な情報の収集・分析などの活動は、地球規模での生物多様性の保全と持続可能な利用を進めていく上で重要な役割を担っている。本戦略の基本戦略1から5のどの分野においても民間団体が推進の原動力となる。

 このため民間団体には、本戦略の実施に当たり、これまでの活動経験や地域の自然に関する知識を活かして、活動計画の提案や地域の協議会への参加等を通じて、活動計画の作成段階から実施、評価に至るまで積極的に関わることや、活動の実施面における中心的な役割を担うことが期待される。

 また、行政や研究機関、他の地域の民間団体等とのネットワークの活用により、地域間の連携を促進させることも期待される。

7 国民

 生物多様性の損失を止め、反転させるためには、社会全体の変革が必要であり、国民一人一人においても、日常生活において享受する自然の恩恵や、国内外の生物多様性に及ぼす影響を認識し、基本戦略4に掲げた行動変容につなげることによって、生物多様性に配慮した持続可能なライフスタイルに転換していくことが期待される。

 また、地域に根ざした自然環境の保全のための取組の鍵となるのが地域コミュニティである。しかしながら、近年、少子高齢化に伴う担い手の減少や、住民同士のつながりの希薄化などにより、コミュニティの維持が難しくなっている地域も生じてきている。そのため、住民一人一人が地域コミュニティの一員としての自覚を持ち、地域の伝統文化や里山等の地域資源を守り引き継いでいくことが期待される。

 地域コミュニティにおいて、高齢者はこれまでの経験等を活かし、自然災害の歴史や経験、生物多様性に育まれた伝統的な知識や文化を伝えていくことが期待されている。また、次世代を担う若者が地域の意思決定に参加しやすくすることも重要である。若者の取込や、他の地域や団体などとの連携を行い、新しい視点や価値観を取り入れることは、新たな地域活性化の手法の発案にもつながり、地域の持続性を高める方策となりうる。

 こうした新たな視点や価値観を地域づくりに活かしていくため、生物多様性地域戦略やその他の行政計画の策定に当たっても、地域住民の積極的な参画が期待される。また、SNSの普及により、人々はいつでも容易に多くの人とつながることが可能な社会となり、一人一人の生物多様性に関する活動を情報発信することが社会全体に波及効果をもたらす可能性もある。これは我が国の社会全体をネイチャーポジティブに向けていく上で個人の役割がますます重要になっていることを意味し、国民は日頃から生物多様性保全に関する意識を高めていくことが求められている。

第2部 行動計画

(はじめに)

 第2部では、第1部第3章で示した五つの基本戦略ごとに設定された行動目標の達成に向け、2030年までに国が取り組む具体的施策を整理し、網羅的に記載した。

 記載にあたっては、行動目標ごとに現状や求められる対策などの基本的考え方を示した上で、取組の内容や対象等を踏まえて各施策を整理した。施策ごとに実施省庁を明記するとともに、取組の状況を把握するため可能なものは施策に係る指標の現状や数値目標を示した。目標値を掲げている施策において、2030年の目標値のほか、2030年の目標値を設定していない場合は、他の既存計画・戦略等において設定されている目標年(年度)の指標や、目標年を定めず継続的に維持する数値など、現時点で提示可能な目標を記載した。現時点で目標値を未設定のものについては「-」と記載した。

 施策のうち、今後新たに重点的に取り組む施策や、野心的な目標を設定し強化・拡充を図る施策などを重点施策と位置づけ、施策名の末尾に[重点]と表記した。

 なお、各施策の実施に当たっては、第1部第4章第1節で述べた七つの「実施に向けた基本的考え方」の観点に留意する。

 また、これらの具体的施策は、2025年以後に予定される昆明・モントリオール生物多様性枠組の中間評価をはじめ、生物多様性をめぐる今後の国内外の状況変化や各施策の進捗状況を踏まえつつ、必要に応じて拡充・強化を図る。

第1章 生態系の健全性の回復

行動目標1-1 陸域及び海域の30%以上を保護地域及びOECMにより保全するとともに、それら地域の管理の有効性を強化する

 健全な生態系を確保するためには、生態系を面的に保全し、効果的に管理し、それらをつなげることが必要である。我が国を含むG7各国は、生物多様性の観点から、2030年までに陸域と海域の30%以上を保全する30by30目標に取り組むことを約束している。

 2023年1月時点で、日本では陸域の20.5%、海域の13.3%が保護地域として保全されている*6*。30by30目標を達成するためには、国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上に加え、OECMの設定・管理を進めることが不可欠である。

 保護地域の拡張について、陸域においては、最新のデータに基づき選定した今後の国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地について、指定・拡張に向けた調整を順次進める。さらに管理の質の向上を目指して検討を進めるほか、2030年までに国立・国定公園の再検討や点検作業を強化し、必要に応じて周辺エリアの編入又は地種区分の格上げなども進める。海洋については、特に景観・利用の観点からも重要で生物多様性の保全にも寄与する沿岸域について、国立公園の海域公園地区の面積を2030年までに倍増させることを目指す。また、国立公園等について、広範な関係者と連携しつつ、国立公園満喫プロジェクト等により保護と利用の好循環を形成するとともに、保護管理施策や管理体制の充実を図る。一方、新規指定や大規模拡張の対象ではない既存の保護地域においても、法令等に基づく適切な保全・管理を着実に実施していく。

 OECMの設定・管理について、まずは民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域について、「自然共生サイト」として認定する仕組みを構築し、既存の保護地域との重複を除いてOECM国際データベースに登録する。国の制度等に基づき管理されている森林・河川・都市緑地等も生態系ネットワークを構築する場として重要であることから、関係省庁が連携し、OECMに該当する地域を検討し、適切なものはOECMとして整理する。海域については、関係省庁が連携し、多様な主体との連携による効果的な管理とモニタリングの実施を通じて、多面的な利用と生物多様性保全の両立が図られる海域をOECMとすべく、該当箇所の整理を進める。

 さらに、これらの取組を支える体制を強化するため、多様な関係者との連携強化、基礎調査やモニタリングの充実、保全上効果的な地域を可視化したマップ作成など生物多様性状況の「見える化」の推進などを図っていく。

<具体的施策>

1-1-1 国立・国定公園の大規模拡張[重点]

▶ 国立・国定公園総点検事業フォローアップ

 2022年度に選定した国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地を主な対象として、関係機関と調整の上、2030年までに新規指定や大規模拡張等の調整を順次進める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
新規指定及び大規模拡張を実施した国立・国定公園数(累積)  -  14か所
(2030年)

▶ 海域公園地区の倍増

 海域については、特に景観・利用の観点からも重要で生物多様性の保全にも寄与する沿岸域において国立公園の海域公園地区の面積を2030年までに倍増させることを目指す。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
海域公園地区の面積 55,088ha(2021年度末) 110,176ha(2030年)

1-1-2 国立・国定公園の公園計画の点検強化

 保護地域の管理の質の向上のため、国立・国定公園総点検事業フォローアップ結果や自然公園制度の見直しも踏まえて国立・国定公園の再検討や点検作業を強化し、必要に応じて周辺エリアの公園編入や地種区分の格上げを進める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
公園計画の前回点検から10年未満の国立公園地域(計画)数 25地域(計画)
(2022年末)
50地域(計画)
(2030年)

1-1-3 国立・国定公園の管理強化

▶ 国立公園等の管理体制の強化

 環境省現地職員の増員や自然の風景地等を管理する公園管理団体の指定の促進等により、国立公園の管理体制の強化を進める。また、自然公園指導員やパークボランティアを養成することにより、自然公園等の適正な利用とその保護活動の充実を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
公園管理団体の指定数 7団体
(2022年度末)
15団体以上
(2030年度末)
パークボランティア登録者数 1,284人(2021年度末) 前年度以上
自然公園指導員登録者数 2,266人(2022年1月) 前年度以上

▶ 地域参加型の管理強化

 国立公園等において、地域の自然状況を熟知した地元の民間事業者等を活用し、官民一体となり自然環境保全活動を実施し、民間主体による管理保全体制の充実を図る(グリーンワーカー事業)。また、海域のうち、サンゴ、藻場等の優れた景観を有する海域公園地区において、サンゴの食害被害を防ぐためオニヒトデを駆除するなど、保護と利用の両立を目的とした優れた管理体制の確立や効果的な管理手法を導入して対策を実施する(マリンワーカー事業)。

【環境省】

▶ 国立公園における利用の調整

 利用者の集中など過剰利用による植生破壊や野生動物の生息環境のかく乱の防止、質の高い自然体験が得られる場を確保するため、湿原における木道の敷設、高山植物群落における立入防止柵の設置など適切な施設整備を実施する。加えて、利用の分散や平準化のため、自然公園法(昭和32年法律第161号)に基づく利用調整地区やエコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)に基づく特定自然観光資源の指定等、管理手法の検討・実施を行うとともに、限定体験の創出、提供を行う。

【環境省】

▶ 国立公園等におけるニホンジカ対策

 我が国の生物多様性保全上重要な国立公園等のニホンジカによる深刻な生態系被害を受けている又は受ける可能性の高い地域において、国立公園内の自然の風景地の保護のため必要な事業を行い、保全を図る。

【環境省】

▶ 山岳環境保全対策支援事業(山岳トイレ)

 民間山小屋の持つ公益的機能を高めるため、環境整備支援(山小屋トイレ整備等)を行い、国立公園等の山岳地域の優れた景観の保持、衛生環境の維持及び自然環境の保全と適正利用を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
環境配慮型トイレ等を導入した施設数 42か所 約100か所(2030年)


▶ 特定民有地買上事業

 国立公園等のうち自然環境保全上重要な地域内に所在し、生物多様性保全の観点等から保護の必要性が高い民有地の買上を行い、これらの地域の保護管理の強化を図る。

【環境省】

1-1-4 既存保護地域の法令に基づく規制・管理等

 既存の保護地域(※)において、法令や制度等に基づき適切な管理、調査等を着実に実施するとともに、必要に応じて新たな指定や区域の見直し等を行う。

【環境省、農林水産省、文部科学省、国土交通省】

※陸域及び内陸水域の保護地域(対象とする制度は必要に応じ見直すこととする)

種別 面積等
自然公園

(国立公園、国定公園、都道府県立自然公園)

5,602,912ha(2022 年3 月時点)
自然海浜保全地区 91 地区
自然環境保全地域(原生自然環境保全地域、自然環境

保全地域、都道府県自然環境保全地域)

104,637ha(2020 年12 月時点)
鳥獣保護区 3,515 千ha(2021 年11 月時点)
生息地等保護区 1,489ha(2021 年7 月時点)
近郊緑地特別保全地区 3,754ha(2021 年3 月時点)
特別緑地保全地区 2,896ha(2021 年3 月時点)
保護林 98.1 万ha(2022 年4 月時点)
緑の回廊 58.4 万ha(2022 年4 月時点)
天然記念物  − 
都道府県が条例で定めるその他保護地域  − 

注:現在我が国の陸域における保護地域の割合20.5%については、これらの地域のうち地理情報が入手可能な区域を、重複を除き計算したもの。このため、上記の公式な指定面積の合計とは一致しない



※沿岸及び海域の保護地域(対象とする制度は必要に応じ見直すこととする)

種別 面積(重複あり)
自然公園 19,115km2
自然海浜保全地区 91 地区
自然環境保全地域 1km2
沖合海底自然環境保全地域 226,834km2
鳥獣保護区 661km2
生息地等保護区(海域では指定なし)  − 
天然記念物  − 
保護水面 28km2
沿岸水産資源開発区域、指定海域 333,616km2
都道府県・漁業者団体等による各種指定区域  − 
共同漁業権区域 87,200km2

注:現在我が国の海域における保護地域の割合13.3%について、重複等があるため上記の合計面積の割合とは一致しない

(環境省「令和2年度生物多様性条約における2021年以降の国際目標に関する議論に向けた調査検討業務」報告書のデータを更新)


1-1-5 生息地等保護区における希少種の保全

 生息地等保護区ごとに定めている保護の指針に従い対象種の生息・生育状況の把握に努め、適切な管理や、生息・生育環境の維持改善を行うとともに、必要に応じ保護の指針や区域の見直しを検討し、希少種の保全を強化する。

【環境省】

1-1-6 世界自然遺産の保全管理の充実

 白神山地、屋久島が我が国で初めて世界自然遺産へ登録された後、新たな候補地の検討を踏まえ、知床、小笠原諸島が登録された。そして、2021年7月には、候補地として残されていた奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島が登録された。これらの地域において、管理計画に基づきモニタリング調査等を進める。また、地域連絡会議及び科学委員会での議論を通じて地域の合意を図りながら、ユネスコ世界遺産委員会の議論も踏まえて、外来種対策、野生鳥獣管理、観光管理、河川再生、森林管理、気候変動対応等の諸課題に取り組み、順応的な保全管理の充実を図る。

【環境省、外務省、文部科学省、農林水産省】

(目標)遺産地域における世界遺産センターの整備

 各地域において世界遺産センターを整備し、観光利用に当たっての事前レクチャー等を実施するとともに、遺産価値を体感できる施設(VR等)を整え、各地域における適切な保護管理及び外国人を含む利用者対応のための普及啓発体制を整える。

(現状)知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島にはそれぞれ世界遺産センター及びそれに相当する機能を持つ施設が整備済み。

1-1-7 天然記念物の保存・活用の推進

 我が国にとって学術上価値の高い動植物等のうち重要なものを天然記念物に指定し、分布・生態調査や生息・生育環境の維持・復元、食害対策等に関する補助を実施する。また、地方公共団体が天然記念物の指定地を公有化する事業に対し、その一部の補助を実施する。

【文部科学省】

1-1-8 海洋基本計画に基づく生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた取組の推進

 かけがえのない海洋環境を保全するため、海洋基本計画に基づき、生物多様性条約その他の国際約束を踏まえ、30by30目標の達成に向けて、海洋生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的とした海洋保護区やOECMの設定の推進と管理の充実に努める。また、サンゴ礁、藻場、干潟、深海等、多様な生物の生息・生育の場として重要な役割を果たす一方で気候変動等に対して脆弱な生態系の保全や再生に向けた取組を進める。

【環境省、関係府省】

1-1-9 沖合海底自然環境保全地域の基礎調査・モニタリング[重点]

 沖合海底自然環境保全地域を適切に管理するため、海山・熱水噴出域・海溝等に存在する特異な生態系において、画像や環境DNA等の解析により、地域指定当初における自然環境の状況に関する基礎調査を行うとともに、保護区内の環境変化を把握するためのモニタリング調査を継続的に実施する。また、深海を対象とした生物多様性モニタリング技術開発を実施し、沖合海底自然環境保全地域の管理等に活用する。

【環境省、文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
沖合海底自然環境保全地域における延べ調査地点数  2  14(2030 年)
環境省等への情報提供数 年1回以上 年1回以上

1-1-10 効率的な深海生態系モニタリング技術開発

 現在、大がかかりな装置や高額経費を要する深海生態系モニタリング方法に対し、簡便な装置と最新の分析技術を取り入れたモニタリング方法を開発する。そして、沖合海底自然環境保全地域の管理等に活用する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
開発した技術が使用された事例数 なし 1回以上
環境省等への情報提供数(委員会等への出席数) 年1回以上 年1回以上
科学論文数 年1報以上 年1報以上

1-1-11 里海づくり活動の促進及び情報発信

 「瀬戸内海における今後の環境保全の方策の在り方について(答申)」(令和2年3月中央環境審議会)や2021年6月に改正された瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)を基に、生物多様性や生物生産性が確保された地域主体の里海づくりを総合的に進める。また、里海ネット等の活用やシンポジウムなどを通じて、国内のみならず世界に向け「里海」の考え方を情報発信する。

【環境省】

(目標)自然海浜保全地区の拡充、沿岸域の環境の保全・再生と地域資源の利活用の好循環を生み出す里海づくりの推進

1-1-12 30by30アライアンスでの活動[重点]

 環境省を含めた産民官21団体をコアメンバーとする有志連合である「生物多様性のための30by30アライアンス」を通じ、30by30目標に係る先駆的な取組を促し発信する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
30by30 アライアンス参加者数 337(2022 年12 月) 500(2025 年)
自然共生サイト認定登録数  −  100 か所(2023 年)

1-1-13 自然共生サイト認定の推進[重点]

 民間の取組等により生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」に認定する仕組みを2023年度から正式に開始し、2023年には、全国で100か所以上を認定することを目指す。認定サイトは既存の保護地域との重複を除いてOECM国際データベースに登録する。また、一括認定や団体との連携協定、30by30アライアンスによる取組推進等によって認定を促進し、30by30目標達成に向けて可能な限り多くの自然共生サイト認定地を確保する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
自然共生サイト認定登録数  −  100 か所(2023 年)
我が国の陸域における保護地域及びOECMの占める割合 20.5% 30%(2030 年)

1-1-14 国の制度等に基づき管理されている地域のうちOECM該当地域の整理[重点]

 国の制度等に基づき管理されている地域のうちOECMに該当する可能性のある地域を検討した上で、適切なものについてはOECMとして整理する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
我が国の陸域における保護地域及びOECM の占める割合 20.5% 30%(2030 年)

1-1-15 海域におけるOECMの設定に関する検討[重点]

 多様な主体との連携による効果的な管理とモニタリングの実施を通じて、多面的な利用と生物多様性保全の両立が図られる海域をOECMとするため、生物多様性の観点から重要度の高い海域や漁獲等の既存の科学的情報や海底鉱物資源の開発状況等を元にOECMの候補となる海域を抽出し、海域におけるOECMの設定に関する検討を行う。加えて、OECM設定後の効果的なモニタリング手法に関する検討を行う。

【環境省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
我が国の管轄水域内における海洋保護区及びOECM の割合 13.3%

(2021 年)

30%

(2030 年)


1-1-16 海洋保護区及びOECM設定の基盤となる生物多様性情報の整理

 30by30目標の達成を含む海洋生物多様性の保全の推進と持続可能な利用に資するため、既存の「生物多様性の観点から重要度の高い海域」を活用しつつ、海洋保護区及びOECMの効果的な設定の基礎となる生物多様性情報の収集と整理を行う。

【環境省】

1-1-17 生物多様性の重要性や保全効果の見える化[重点]

 奥山から中山間地域、さらに都市部まで陸域の全域をカバーする生物多様性の現状や保全上効果的な地域を可視化したマップを提供する。さらに、更新可能なシステムを開発し、モニタリング機能とマップを連携させることで保全活動の効果が適宜把握できる仕組みとする等、必要な機能を付加・充実させる。本戦略の点検・評価の際には、様々な生態系や地域の保全が効果的かつバランスよく推進されるよう、見える化を活用して、様々な生態系の保全状況の把握に努める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
我が国の陸域における保護地域及びOECM の占める割合 20.5% 30%

(2030 年)


行動目標1-2 土地利用及び海域利用による生物多様性への負荷を軽減することで生態の劣化を防ぐとともに、既に劣化した生態系の30%以上の再生を進め、生態系ネットワーク形成に資する施策を実施する

 我が国の生物多様性の損失をもたらす直接的な要因のなかでも、開発を含む土地と海の利用による影響は非常に大きい。農地や草原等の開発・改変や利用の縮小、湿原や自然湖沼の開拓・埋立、自然河岸・海岸の整備や埋立等により、過去50年間で農地生態系、陸水生態系、沿岸・海岸生態系において規模の縮小が見られた。生態系の質に関しては、森林生態系では天然林から人工林への転換、二次林の放置による種構成・種多様性の変化など、生物の生息・生育環境としての質の変化が生じている。また農地、水路・ため池、農用林、採草・放牧地等が利用されなくなることにより、生息・生育環境がモザイク状に配置された里地里

 山の生態系が消失し、生物多様性の喪失・劣化が進行することが懸念されている。近年では、気候変動対策として重要な再生可能エネルギー発電設備の設置が不適正である場合に、生物多様性に負の影響を及ぼす可能性も指摘されている。さらに、森林や農地の分断により、生息地の分断化に脆弱な種の個体数減少が危惧されているほか、ダム・堰の整備による河川の分断化が進み河川を遡上する生物の移動を妨げている可能性が指摘されるなど、森林・農地・陸水生態系の連続性は、長期的に低下する傾向にある。

 生物多様性を保全するため、土地利用に伴う生態系の更なる劣化を防ぐとともに、劣化し

た生態系の再生や自然の質を向上させ、生態系ネットワークを構築し森・里・川・海のつながりを確保する。具体的には、事業の実施に当たって適切な環境配慮を確保するための環境影響評価や、生態系ネットワークの核となる優れた自然環境を有する地域を特定し保護地域やOECMとしての設定を推進することなどが挙げられる。生態系ネットワークを構成するそれぞれの地域区分の特性をふまえ、多面的機能を発揮する多様な森林づくりの推進、様々な生物の生育・生息・繁殖環境となる農地や水路、草地等の整備・再生、環境に配慮した都市整備、人工構造物の撤去等による河川の連続性の回復や水質の改善、海域環境の保全等を、多様な主体の連携の下で積極的に進める。

 また、河川を始めとする水系が生態系ネットワークをつなぐ基軸となっていることから、総合的な土砂管理や栄養塩類の管理も考慮することや、海域については、表層から深海への物質輸送や生物の生活史における異なる生態系の利用など、海域内での連結性の視点も必要である。

 なお、生態系の劣化防止については、行動目標1-1で挙げた保護地域の設定・運用に係る施策も寄与することから、併せて推進する。

<具体的施策>

1-2-1 環境影響評価の推進

事業の実施に当たり適正な環境配慮が確保され、生物多様性の保全に資するよう、事業計画の立案に先立ち、上位の計画の策定に環境配慮を組み込むための戦略的環境アセスメントの推進に向けた取組、環境影響予測・評価技術を向上させるための環境影響評価図書の継続的公開に向けた取組、環境影響評価法や条例の対象とならない小規模な事業について事業者の自主アセスメントの推進に向けた取組等を含め、環境影響評価制度を適切に推進する。また、環境影響評価法の適切かつ効果的な運用のため、施行状況の継続的な点検・見直しを行うとともに、制度の在り方も含め検討し、総合的に推進する。

【環境省】

1-2-2 金属のリサイクル原料の処理量倍増に向けた取組

使用済み製品等に含まれる金属のリサイクルを推進することは、レアメタルを始めとする鉱物資源の採取・生産時等における生物多様性や大気、水、土壌などの保全、自然環境への影響を低減することに貢献する。「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画のフォローアップ」(令和4年6月閣議決定)において、「2030年度までに(中略)金属リサイクル原料の処理量の倍増を実現する」とされたことを踏まえ、国内外における金属リサイクルの取組を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
使用済小型電子機器等の回収量 102,489t(2020年度) 140,000t(2023年度)

1-2-3 効果的な保護地域・OECMの設定[重点]

国土全体にわたる広域的な観点と属地的な観点の双方から、効果的な保護地域やOECMの設定による生態系の連結性と健全性を高めることで、気候変動等による環境の変化に対しても強靭な国土を形成する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
自然共生サイト認定登録数  −  100か所

(2023年)

我が国の陸域における保護地域及びOECMの占める割合 20.5% 30%
(2030年)

1-2-4 森・里・川・海における生態系ネットワークの形成

・ 森・里・川・海の恵みを将来にわたって享受するため、生態系ネットワークの考え方、計画手法、実現手法等についての情報提供、普及啓発に努める。

・ 生物多様性地域戦略等を用いた、生物多様性ネットワークの可視化を促進する。

【環境省】

1-2-5 森林生態系の保存及び復元、点在する希少な森林生態系の保護管理

・ 原生的な森林生態系や希少な野生生物が生育・生息する森林等について、自然の推移に委ねることを基本とし、国有林と民有林が連携して取り組む。

・ 里山二次林等については、継続的な保全管理等を推進する。

・ 自然環境の保全、野生生物の保護、遺伝資源の保存等を図る上で重要な役割を果たしている国有林野については、地域住民、NPO等と連携を図りながら、希少野生生物の保護等に努める。

【農林水産省】

1-2-6 多様な森林づくりの推進

・ 森林資源の利用や自然かく乱の頻度に応じた間伐、広葉樹林化、長伐期化、針広混交林化、伐採後の確実な再造林を実施する。

・ 路網整備については、計画、設計、施工全ての段階での周囲の環境との調和を図る。

・ 国有林野の管理経営に当たって、自然維持タイプ、水源涵養タイプ等の機能類型に区分し、希少な生物の生育、生息に適した森林の維持、間伐や複層林への誘導等を推進するほか、森林資源の有効活用にも配慮し、公益林として適切な施業を実施する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
公益的機能の一層の発揮のため自然状況等を踏まえて育成複層林に誘導することとされている350万haの育成単層林のうち、育成複層林へ誘導した森林の割合(累計) 1.9%

(2018年度)

2.9%

(2023年度)


1-2-7 生物多様性に配慮した森林計画

 地域森林計画等により、貴重な野生生物の保護に配慮した施業方法の指針を示す。

【農林水産省】

1-2-8 地域における森林の保全管理

森林所有者自ら経営や管理ができない森林について、森林環境譲与税も活用しながら、市町村が主体となった経営や管理を実施することとし、森林所有者への働きかけを行う。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
私有人工林が所在する市町村のうち、新たな制度の下で森林の集積・集約化に取り組んだ市町村の割合 6割

(2020年度)

10割

(2023年度)

私有人工林のうち林業経営を実施する森林として集積・集約化された面積の割合 37%

(2020年度)

5割

(2028年度)


1-2-9 草地の整備・保全・利用の推進

 地域ぐるみでの草地の生産性・機能を維持するための放牧の推進や草地の整備、貴重な草地資源を有する公共牧場等の放牧地を整備する。

【農林水産省】

1-2-10 農村環境における生態系ネットワークの保全

 地域の農業者だけでなく多様な主体の参画を得て、地域ぐるみで農地・農業用水等の資源を保全管理する取組と併せて、水質保全や生態系保全等の農村環境の向上に資する取組を支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
地域による農地・農業用水等の保全管理への延べ参加者数 延べ1,301万人・団体

(2016~2020年度)

延べ1,400万人・団体

(2021~2025年度)

中山間地域等の農用地面積の減少防止 7.2万ha

(2020年度)

7.5万ha

(2024年度)

農地・農業用水等の保全管理に係る地域の共同活動により広域的に保全管理される農地面積の割合

46%

(2020年度)

60%

(2025年度)


1-2-11 湿地間ネットワークの構築

 多様な動植物、特に渡り性水鳥の生息地となっている湿原や干潟等の湿地について、ラムサール条約や渡り鳥の重要生息地の国際的なネットワークである「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP:EastAsian-AustralasianFlyway Partnership)」などの国際的な枠組みを通じて、湿地間のネットワークの構築及び連携協力を推進し、保全や地域住民への普及啓発を図る。

【環境省】

1-2-12 生態系保全に資する用水確保

 自然環境の維持、改善等を図ることを目的とした、農業用水、環境用水等の取得に向けた調査・調整等を支援する。

【農林水産省】

1-2-13 生態系に配慮した道路整備

 動物の生息域分断の防止や、植物の生育環境の保全を図る観点から、動物の道路横断構造物や、動物注意の標識を設置するなど、生態系に配慮した道路の整備に努める。

【国土交通省】

1-2-14 道路整備における動植物の生息・生育環境の形成

 地域によっては、道路整備に当たって周辺の自然環境の現状に配慮しながら、植栽の樹種などを工夫するなどにより、動植物の生息・生育環境の形成に積極的に取り組む。

【国土交通省】

1-2-15 自然環境に関する調査・データの集積と必要に応じた路線選定・構造形式の採用

 自然環境に関する詳細な調査、データの集積に取り組むとともに、それを踏まえた上で、必要に応じて、豊かな自然を保全できるような路線の選定や、地形・植生の大きな改変を避けるための構造形式の採用に努める。

【国土交通省】

1-2-16 盛土のり面等における自然と調和した再緑化

 道路事業に伴い発生した盛土のり面などについては、既存ストックも含めて、地域の気候や土壌などの自然条件に最も調和した植生の活用などにより再緑化を行い、できる限り自然に近い状態に復元する。

【国土交通省】

1-2-17 都市における生物多様性保全の推進[重点]

 都市における生物多様性確保等の取組を官民が連携して推進するため、緑地の確保につながる取組を評価するなど、地方公共団体や民間事業者への支援等を行う。また、2016年度に策定した「都市の生物多様性指標(簡易版)」の普及啓発を図り、都市における生物多様性保全の取組を一層推進する。

【国土交通省】

1-2-18 都市緑化等の推進[重点]

 緑化地域制度などの民有地の緑化を推進するために有効な制度について、制度の普及も含めた一層の推進を図る。また、開発事業における緑に関わる取組を評価し、優秀な事例については認定・表彰することで事業者の努力を促すための都市開発における緑地の評価制度について、制度の普及に努める。

【国土交通省】

1-2-19 都市緑地の保全、都市公園の整備等[重点]

 良好な自然的環境を有する緑地の保全・活用を図るため、特別緑地保全地区等の緑地保全制度の活用を促進するとともに、土地の買入れ、緑地の保全に必要な施設の整備等に対する財政支援を通じて、都市における生物の生息域の確保等の緑地の多様な機能の増進に関する取組を進める。また、都市公園の整備、市民緑地認定制度の活用、雨庭の設置等グリーンインフラの社会実装、生産緑地制度等を活用した都市農地の保全等を推進することにより、生物の生息空間の保全・創出を進める。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
都市域における水と緑の公的空間確保量 13.9㎡/人

(2020年度)

15.2㎡/人

(2025年度)


1-2-20 下水処理施設等の施設空間における水辺の保全・創出

 過密化した都市における貴重なオープンスペースである下水処理施設の上部や雨水渠などの施設空間において、せせらぎ水路の整備や処理水の再利用などによる水辺の保全・創出を図り、都市における生物の生息・生育場所を関係者と連携し提供する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
下水道処理施設等におけるせせらぎ水路等の整備面積 1,147ha

(2020年度)

1,170ha

(2030年度末)


1-2-21 下水処理水及び雨水の再利用等による水循環系の構築

 下水処理水や雨水の再利用、雨水の貯留浸透による流出抑制など、広域的な視点からの健全な水循環系の構築に向けて事業を推進する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
新世代下水道支援事業制度による各年度事業数 2件

(2020年度)

2020年度以降累積22件

(2030年度末)


1-2-22 地域特性に応じた栄養塩類の能動的運転管理の推進

 豊かな海を再生し生物の多様性を保全していくため、地域特性に応じて、季節別に下水放流水に含まれる栄養塩類を能動的に管理する季節別運転を推進する。

【国土交通省】

1-2-23 河川を基軸とした広域的な生態系ネットワークの形成[重点]

湿地等の再生、魚道整備等による魚類の遡上・降下環境の改善等を推進するとともに、地方公共団体、市民、河川管理者、農業関係者等の多様な主体の連携により、河川を基軸とした生態系ネットワーク形成の取組による流域の生態系の保全・創出を推進する。

【国土交通省、農林水産省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
取組方針・目標を定めている「河川を基軸とした生態系ネットワーク」の数 13

(2020年度)

17

(2030年度)


1-2-24 多自然川づくり[重点]

 河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観の保全・創出を推進する。多自然川づくりは全ての川づくりの基本であり、全ての一級河川、二級河川及び準用河川における調査、計画、設計、施工・維持管理等の河川管理における全ての行為で推進する。

【国土交通省】

(目標)河川管理を行うに当たっては、多自然川づくりの推進を図る。

1-2-25 健全な水循環に係る啓発促進

 2014年の水循環基本法(平成26年法律第16号)の成立を受け発足した環境省ウォータープロジェクトを通じて、健全な水循環の維持・回復に関する普及啓発活動の推進や情報発信を行うとともに、地域の水辺の保全・活用を支援することにより、環境保全意識の高揚や水環境保全等の推進を図る。また、新しい時代の水百選の選定を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
環境省ウォータープロジェクト・グッドプラクティス塾への参加者数 575

(2022年度)

 − 

1-2-26 河川流域における土地の利用等による生態系への負荷軽減

▶ 総合的な土砂管理の取組の推進

 流域の源頭部から海岸まで一貫した総合的な土砂管理の取組を、自然環境との調和を図りながら関係機関の連携の下推進する。モニタリングにより土砂動態を把握するとともに、総合土砂管理計画を策定し、透過型砂防堰堤の整備、ダム堆積土砂の下流還元、サンドバイパスによる海岸の侵食対策など、土砂移動の連続性を確保する取組を推進する。

【国土交通省】

▶ ダム整備等の環境配慮

 ダム事業等の大規模な公共事業の実施に当たって、事前の環境調査を実施し、ダム事業等が環境に及ぼす影響について検討し、回避・低減、代償措置等の適切な環境保全措置を講じる。

【国土交通省】

▶ ダムの弾力的管理

 ダム下流の河川環境の保全等のため、洪水調節に支障を及ぼさない範囲で洪水調節容量の一部を有効に活用するダムの弾力的管理及び弾力的管理試験を実施する。また、放流方法の検討をより進め、更に効果的なものとしていく。

【国土交通省】

▶ 水力発電に伴う減水区間の解消による清流回復

 水力発電に伴い河川の流量が著しく減少する減水区間の改善を図るため、発電ガイドラインに基づき、減水区間の解消に努める。また、水利権更新の機会などを捉え、発電に伴う減水区間の清流回復に取り組む。

【国土交通省】

1-2-27 水産生物の生活史に対応した水産環境整備

 水産生物の生活史に対応した藻場・干潟から沖合域までの良好な生息環境空間を創出する水産環境整備を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
水産資源の回復や生産量の向上のための漁場整備による水産物の増産量 0トン

(2021年度)

6.5万トン

(2026年度)

藻場の保全・創造の取組を実施する海域において、藻場面積を維持・回復 約6千ha

(2020年度)

約7千ha

(2026年度)


1-2-28 海の再生プロジェクトによる海域環境の改善

 都市再生プロジェクト第三次決定「海の再生」の実現に向けて、東京湾、大阪湾及び伊勢湾における行動計画に基づき、各種施策を推進する。また、広島湾の行動計画に基づき各種施策を推進するとともに、閉鎖性海域における、全国海の再生プロジェクトを展開する。

【国土交通省、農林水産省、環境省】

1-2-29 生物共生機能を付加させた港湾構造物の導入推進

 老朽化対策と併せて、生物共生機能を付加させた港湾構造物の導入を推進する。

【国土交通省】

1-2-30 沿岸域の水質浄化対策の推進

 自然と生物にやさしい海域環境の創造と親水性の高い海域空間の創出を目的に、ヘドロの除去、覆砂等の水質浄化対策を推進する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
2030年度までの計画(港湾公害防止対策事業)に対する達成率 63%

(2021年度)

100%

(2030年度)


1-2-31 浚渫土砂等を有効活用した干潟・藻場等の再生・深掘跡の埋め戻し

 港湾整備により発生した浚渫土砂等を有効活用し、干潟・藻場等の再生、深掘跡の埋め戻しを推進する。

【国土交通省】

1-2-32 海底にたい積した有機汚泥の浚渫の推進

 周辺市街地や自然に優しい水域環境の創造及び安全で安心な水辺空間の創出等を目的に、海底にたい積した有機汚泥の浚渫を推進する。

【国土交通省】

1-2-33 劣化地の再生・回復に関する調査検討

 2030年までに国土の30%を保全する「30by30目標」の達成に向けて、生態系回復が必要な劣化地調査を実施し、自然共生サイト申請のための再生マニュアルを作成する。また、劣化した生態系の再生手法の検討に当たっては、炭素吸収ポテンシャルを把握し、副次的に炭素中立へ貢献する。

【環境省】

1-2-34 劣化した生態系の再生の強化[重点]

 自然再生事業や生態系維持回復事業等の着実な実施を通じて、野生鳥獣や外来種による被害を受けた自然植生や、開発や管理放棄等による生息地の消滅など影響を受けた生態系など、自然環境や生態系が劣化している場所において、その再生や回復に向けた取組を地域と連携して推進する。

【環境省、農林水産省、国土交通省】

1-2-35 自然再生の推進

 自然再生推進法(平成14年法律第148号)に基づき、NPOや地域住民、関係行政機関など多様な主体が連携して実施する自然再生活動を全国的に推進するため、自然再生専門家会議の運営や自然再生専門家会議委員による学術的観点からの助言や現地指導の実施及び自然再生に係る情報収集、課題解決策の検討、普及啓発等を実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
自然再生推進法に基づく自然再生協議会設置箇所数 27か所

(2021年度)

30か所

(2025年度)

自然再生事業実施計画策定数 49計画

(2021年度)

54計画

(2025年度)


行動目標1-3 汚染の削減(生物多様性への影響を減らすことを目的として排出の管理を行い、環境容量を考慮した適正な水準とする)や、侵略的外来種による負影響の防止・削減(侵略的外来種の定着率を50%削減等)に資する施策を実施する

 IPBES地球規模評価報告書で特定された生物多様性の損失に深刻な影響を及ぼす五つの直接要因にも挙げられている汚染(排水等に含まれる化学物質や農薬、海洋プラスチックなど)と侵略的外来種について、適切なリスク評価の結果等に基づき、その影響を削減・軽減する対策が急務である。

このため、化学物質や農薬等に対するリスク評価及び評価結果を踏まえた適正利用等のリスク管理の推進・拡充、河川や湖沼の水質改善、海洋ごみ等の発生抑制・回収等を通じた汚染対策、侵略的外来種(特に、我が国への定着が非常に危惧されている段階で緊急的な対策が必要な生物や、広く飼育され野外個体数が多い生物)の水際対策・防除・適正管理等の拡充、飼養動物の終生飼養の推進や管理の適正化を進める。これらの対策を継続・強化させることに加え、科学的知見を収集・活用し、更に有効な対策を講じていく必要がある。

<具体的施策>

1-3-1 鉛製銃弾に起因する鳥類の鉛中毒の防止[重点]

 2030年度までに我が国の鉛製銃弾に起因する鳥類の鉛中毒の発生をゼロとすることを目指し、2025年度から全国的な鉛製銃弾の使用規制制度を段階的に導入できるよう作業を進めていくため、鉛汚染の実態把握及び影響評価を進める。評価により、非鉛製銃弾への切替えが必要となった場合には円滑な移行を推進するために必要な移行体制の構築を検討する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
鉛製銃弾に起因する鳥類(猛禽類)の鉛中毒の確認件数 5件

(2021年度)

0件

(2030年)


1-3-2 化学物質の環境リスク初期評価

 生態系への影響の観点を含めて化学物質の環境リスクに関する初期評価(スクリーニング)を行い、環境リスクの高い物質を抽出し、必要な措置の実施を促すことにより、化学物質による人や水生生物への影響を未然に防止する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生態影響の観点から環境リスク初期評価を実施する物質数 12物質※1

(2022年度)

12物質/年程度

※1 2022年度末時点までに413物質実施

1-3-3 化学物質管理の推進

 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号。以下「化審法」という。)に基づき、全ての化学物質に対し、一定量以上の製造・輸入を行う事業者に実績数量の届出を義務づけるとともに、必要に応じて有害性情報の提出を求めること等により、生態系等への影響を考慮した安全性評価を着実に実施する。また、鳥類を含む高次捕食動物に対する有害性評価方法の検討、化学構造式や物理化学的性状から生態毒性を予測する定量的構造活性相関(QSAR)の開発・試行を行う。

【環境省】

(目標)

 1973年の化審法制定以前から市場に存在する化学物質を含む全ての化学物質について、

届出の内容や有害性に係る既知見等を踏まえ、優先的に安全性評価を行う必要がある化学物質を「優先評価化学物質」に指定し、リスク評価を行う。その結果、長期毒性を有する化学物質のうち、相当広範な地域の環境中に相当程度残留等するために、人の健康または生活環境動植物の生息・生育に係る影響を生じるおそれがあると認められる化学物質を「第二種特定化学物質」に指定し、必要な措置を講じる。

(現状)

 優先評価化学物質を218物質指定(2022年3月末)

1-3-4 化学物質排出・移動量届出制度(PRTR制度)運用・データ活用事業

 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号)に基づき、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止する観点から、人の健康や生態系に有害なおそれがある化学物質の環境への排出量や事業所外への移動量の集計・公表などを実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
「PRTR地図上表示システム」の閲覧数 16,548ビュー/年度

(2021年度)

19,051ビュー/年度

(2024年度)


・ PRTR制度において、事業者からの対象化学物質の環境への排出量及び事業所外への移動量の届出を毎年度集計・公表する

1-3-5 化学物質の内分泌かく乱作用に関する検討

 化学物質の内分泌かく乱作用が環境中の生物に及ぼす影響について、2022年10月に取りまとめた「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応―EXTEND2022―」に基づき、試験法の開発を行うとともに、環境中に存在する化学物質等を対象として、確立し試験法を用いた試験・評価を進め、環境リスクが懸念される物質に対するリスク管理につなげていく。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
評価に着手する物質数 10物質/年程度 10物質/年程度

1-3-6 環境中の医薬品等(PPCPs)の環境リスクに関する検討

 医薬品を始めとするPPCPs(pharmaceuticals and personal care products)が環境中の生物に及ぼす影響について、既存知見を収集し、環境中の存在状況や生態毒性に関する情報を充実させた上でリスク評価を進め、環境リスクが懸念される物質を同定する。あわせて、PPCPsの特性を踏まえたリスク評価手法を検討する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生態毒性試験を実施する物質数 2物質/年程度 2物質/年程度

1-3-7 災害事故時の化学物質対策

 大規模災害時などの化学物質漏えい事案からの被害を最小化するため、関係機関への平時からの情報共有や、災害等の緊急時における連携体制の構築等を推進する。

【環境省】

1-3-8 水銀による環境汚染の防止

 水銀による地球規模の環境汚染を未然に防止するため、「水銀に関する水俣条約」及び「水銀等による環境の汚染の防止に関する計画」に基づき、ライフサイクル全体にわたる水銀対策を推進する。

【環境省】

1-3-9 既登録農薬における生活環境動植物の被害防止に係る農薬登録基準の設定[重点]

 2018年に改正された農薬取締法(昭和23年法律第82号)に基づき、農薬の影響評価の対象となる動植物を従来の水産動植物から、鳥類及び野生ハナバチ類等を含む水域・陸域の生活環境動植物に拡大するとともに、既登録農薬の再評価を開始したところであり、今後評価を進め、必要に応じ生活環境動植物の被害防止に係る農薬登録基準の設定や改定を行い、農薬登録制度における生態リスク評価・管理の拡充を図る。

【環境省】

(目標)

2021年度末時点で登録済みの全ての農薬について、生活環境動植物に係る再評価を実施(2038年度)

1-3-10 農薬登録審査における生活環境動植物に対する慢性影響評価の導入[重点]

 農薬取締法に基づく農薬登録審査で行う生活環境動植物に対する影響評価において、現在評価対象としている短期的な農薬ばく露の影響(急性影響)に加えて、長期的な農薬ばく露の影響(慢性影響)に関する評価を導入し、農薬登録制度における生態リスク評価の拡充を図る。

【環境省】

(目標)

 魚類、甲殻類、鳥類に対する農薬の影響評価において慢性影響評価を導入

(2025年度以降)

1-3-11 天敵農薬における生態リスクの評価の拡充とモニタリング手法の検討[重点]

 生きた状態で、その寄生性、捕食性を利用し、病害虫の防除を目的として使用する天敵農薬について、農薬取締法に基づく農薬登録の審査に当たり、放飼地域における定着性や捕食性等の生物学的特性に係る評価を導入し、天敵農薬の生態リスクに対する評価の拡充を図るとともにモニタリング手法の検討を行う。

【環境省、農林水産省】

1-3-12 農薬の適正使用の推進

 最新の科学的知見に基づき農薬登録及び再評価を実施する。また、毎年、農薬危害防止運動を全国で実施する等、農薬の適正使用を推進することにより、農薬の使用による水質汚濁及び生活環境動植物の被害を未然に防止する。

【農林水産省、環境省】

1-3-13 ゴルフ場における農薬の適正な使用の推進

 ゴルフ場から排出される水に含まれる農薬の実態把握に努めるとともに、その結果に基づき、ゴルフ場に対する登録農薬の適正使用や使用量の削減等の適切な改善措置を講じるよう指導を行うことにより、ゴルフ場における農薬の適正な使用を推進し、ゴルフ場周辺の水域における水質汚濁及び水域の生活環境動植物の被害を未然に防止する。

【環境省】

1-3-14 生態リスクが高いと考えられる農薬の河川水モニタリング

 水域の生活環境動植物の被害防止に係る農薬登録基準値と環境中予測濃度が近接しており、相対的に生態リスクが高いと考えられる農薬を対象に、農薬の使用状況を勘案しつつ河川水中の農薬濃度のモニタリング調査を行い、リスク評価結果の妥当性及びリスク管理の実効性を検証する。

【環境省】

(目標)

 相対的に生態リスクが高いと考えられる農薬を対象に、毎年10農薬程度について河川水中の濃度をモニタリングする。

1-3-15 家畜排せつ物の適正管理

家畜排せつ物の不適切な管理に起因する水質汚染等の環境への影響を防止するため、家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(平成11年法律第112号)に基づく家畜排せつ物の適正管理を行う。

【農林水産省】

1-3-16 環境保全型農業の実施による水質改善

 農業者の組織する団体等が実施する、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて行う、地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動を支援する。

【農林水産省】

1-3-17 農山漁村における排水施設の整備等による水質改善

▶ 漁業集落排水施設の整備

 漁港及び漁場の水域環境と漁業集落の生活環境の改善を図るため、都道府県が策定する汚水処理に関する「都道府県構想」に基づき下水道、浄化槽と連携して、効率的に漁業集落排水施設の整備を進める。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
漁業集落排水施設が整備された漁村の人口割合 80%

(2021年度)

約95%

(2026年度)


▶ 集落排水施設の整備等による水質改善

・ 農業用用排水の水質保全等を図り、併せて公共用水域の水質保全に寄与するため、都道府県が策定する汚水処理に関する「都道府県構想」に基づき下水道、浄化槽と連携して、効率的に集落排水施設の整備を進める。

・ 農村地域の環境保全、農業用排水施設からの排水の水質浄化等を図る水質保全施設を整備する。

・ 沖縄県及び奄美群島の農用地からの赤土等の流出、水質負荷軽減のための耕土流出防止施設を整備する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
汚水処理人口普及率 92.6%

(2021年度)

95%以上

(2026年)


1-3-18 下水道の高度処理等による水環境改善

公共用水域の水質保全のため、下水道の整備に加え、湖沼や閉鎖性海域における富栄養化の防止などに資する下水処理場の高度処理化や合流式下水道の改善を推進する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
高度処理実施率 59.9%(2021年末) 65%(2025年末)
合流式下水道改善率 90.4%(2021年末) 100%(2023年末)
汚水処理人口普及率 92.6%(2021年度末) 95%(2026年度)

1-3-19 ダム貯水地における水質保全対策

 ダム貯水地において、冷水放流、濁水長期化、富栄養化の対策を実施する。冷水放流対策として選択取水設備を設置して流入水温に近い水温層を選んで下流に放流し、濁水長期化対策として選択取水設備や清水バイパスを設置して濁水の放流期間の短縮に努め、富栄養化対策として曝気循環装置等を設置してプランクトンの増殖の抑制を図っていく。

【国土交通省】

1-3-20 水生生物の保全に係る水質環境基準

 環境基本法(平成5年法律第91号)第16条に基づき定められる環境基準のうち水生生物の保全に係る環境基準について、類型指定水域において水質汚濁の状況を常時監視するとともに、最新の科学的知見の基に必要な環境基準等の設定及び見直しを行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
類型指定水域における水生生物の保全に係る水質環境基準の達成状況 98.5%

(2020年度)

100%

(毎年度)


1-3-21 湖沼環境保全対策

 湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)に基づく各施策を推進する。具体的には、水質、水生生物、水生植物、水辺地等を含む湖沼の良好な水環境を目指して、湖沼環境の改善に向けた総合的な方策の検討を行い、望ましい湖沼環境の実現を図る。

【環境省】

1-3-22 琵琶湖の保全及び再生

 琵琶湖の保全及び再生に関する法律(平成27年法律第75号)に基づく各施策を推進する。特に、局所的な植物プランクトンの大増殖による水質悪化、水草の過剰繁茂、侵略的外来植物の繁茂、気候変動による湖沼の水循環への影響等、湖沼の管理に関する検討等を行い、関係機関と連携しながら必要な対策を講じる。

【環境省】

1-3-23 海洋環境関連条約等対応

 海洋環境の保全を目的としたロンドン条約、マルポール条約、1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約(油濁事故対策協力(OPRC)条約)やバラスト水管理条約、北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)等の国際的な枠組みに係る対応、国内担を適正に実施し、海洋環境保全に貢献する。

【環境省】

1-3-24 水質総量削減等を通じた閉鎖性海域の水環境改善

 2022年1月に策定した第9次の水質総量削減基本方針に沿って、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の水環境改善を着実に実施する。これまでの取組により、陸域からの汚濁負荷量は着実に減少しているものの、「豊かな海」を目指す上での課題はなお存在することから場所や季節を考慮したきめ細やかな対策や、生物多様性・生物生産性の維持機能を有する藻場・干潟の保全・再生を含め、地域の実情を踏まえた総合的な取組を促進する。

【国土交通省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値(2024年度)
東京湾、伊勢湾、瀬戸内海におけるCOD 東京湾154t/日

伊勢湾131t/日

瀬戸内海374t/日

東京湾150t/日

伊勢湾127t/日

瀬戸内海372t/日

東京湾、伊勢湾、瀬戸内海における窒素含有量 東京湾162t/日

伊勢湾106t/日

瀬戸内海380t/日

東京湾159t/日

伊勢湾106t/日

瀬戸内海389t/日

東京湾、伊勢湾、瀬戸内海におけるりん含有量 東京湾12.1t/日

伊勢湾8.0t/日

瀬戸内海24.3t/日

東京湾11.8t/日

伊勢湾7.9t/日

瀬戸内海24.6t/日


1-3-25 底層溶存酸素量に関する環境基準の類型指定

 環境基本法第16条に基づき定められる環境基準のうち、魚介類等の生息や藻場等の生育に対する直接的な影響を判断できる指標であり、底層を利用する生物の生息・再生産にとって特に重要な要素となる底層溶存酸素量について、類型指定の検討を進める。

【環境省】

1-3-26 サンゴ礁生態系保全に係る陸域に由来する赤土等の土砂及び栄養塩、化学物質等の過剰な負荷への対策の推進

 「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」で設定した特に解決の緊急性が高い重点課題の一つとして、陸域からの土砂・栄養塩・化学物質等の過剰な負荷の軽減対策やその効果の検証を推進する。

【環境省】

1-3-27油 流出事故への対応及び閉鎖性海域における漂流ごみの回収

・ 大規模油流出事故が発生した場合の油防除体制としての大型浚渫兼油回収船を配備するとともに、閉鎖性海域に海洋環境整備船を配備し、漂流ごみや浮流油の回収を実施することにより、生物多様性に影響を与える海洋汚染の防除を行う。

・ 油流出事故による野生鳥獣への油汚染が発生した場合に、関係行政機関や関係団体による救護活動が円滑に実施されるよう、連絡体制の整備や関係者への研修を実施する。

【国土交通省、環境省】

1-3-28 海洋ごみ対策の推進等

 2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の提唱国として、海洋環境を含むプラスチック汚染に関する新たな法的拘束力のある国際文書(条約)の策定において、主要排出国を含むより多くの国が参加する実効的かつ進歩的な枠組みの構築を主導する。国内においては、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和3年法律第60号)に基づき、プラスチック使用製品の設計から廃棄物の処理に至るまでのライフサイクル全般にわたって、3R+Renewableの原則に則り、あらゆる主体のプラスチックに係る資源循環の促進等を図るとともに、美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律(平成21年法律第82号。以下「海岸漂着物処理推進法」という。)の下、海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するべく、都道府県などが地域計画に基づき実施する海岸漂着物等の回収・処理や発生抑制対策などの取組に対する支援を中心に、地域の実情に応じた効果的な海洋ごみ対策の支援・推進に努める。また、マイクロプラスチックを含む海洋ごみの量・分布等の実態把握や海洋プラスチックごみの生態影響の評価など科学的知見の蓄積を進める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
海岸漂着物等地域対策推進事業実施主体数(都道府県)  42

(2021年度)

 43

(2023年度)

海岸漂着物処理推進法の基本方針に基づく地域計画の策定数  42

(2021年度)

 47

(2023年度)


1-3-29 海洋生分解性プラスチックの開発

 海洋生分解性プラスチックの海洋での生分解機構の解明を通し、技術・安全性の評価手法確立に加え、革新的な技術・新素材の開発を行い、技術開発基盤を構築する。加えて、生分解のタイミングやスピードをコントロールする海洋生分解性プラスチックの開発を実施する。

【経済産業省】

1-3-30 環境に配慮した漁具等の開発

 クジラを含む海洋生物に与える影響を抑制する漁具の開発を推進する。

【農林水産省】

1-3-31 特定外来生物等の指定、外来種被害防止行動計画及び生態系被害防止外来種リストの見直し

 2022年の外来生物法改正を踏まえ、適宜特定外来生物、未判定外来生物の指定を進め、「外来種被害防止行動計画」及び生態系被害防止外来種リストの見直しを行う。

【環境省、農林水産省、国土交通省】

(目標)

 行動計画は2024年度までに見直しを行い、リストは2023年度から分類群ごとに見直しを開始する

1-3-32 特定外来生物の水際対策強化・初期防除強化[重点]

 輸入された物品等に付着して侵入する事例が近年増加し、定着が非常に危惧されている状態であるヒアリなどの国内に未定着の特定外来生物について、国際連携の強化のための取組を推進するとともに、侵入を早期に発見し防除対策を実施する体制を構築し、防除手法の開発を行い定着を阻止する。また、局地的に分布する特定外来生物の拡散の可能性のある地域のモニタリングや定着地での地方公共団体と連携した防除事業を進め、国内での分布範囲の拡大を阻止する。

【環境省、内閣官房、総務省、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ヒアリの定着地点数

1-3-33 輸入植物検疫による侵入防止

 農作物等の有用な植物に被害を与えるおそれのある病害虫を対象に、輸入される植物等やその容器包装について、植物防疫所が検査(輸入植物検疫)を実施する。

【農林水産省】

1-3-34 有害水バラスト処理設備の検査

 2017年に発効したバラスト水管理条約に基づき、バラスト水に含まれる外来種の海域間の移動を防止するため、外航船舶に対して有害水バラスト処理設備の搭載が義務付けられている。日本籍船舶に搭載された装置が同条約に基づく要件に適合していることを確認するため、定期的な検査を行う。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
日本籍船舶に搭載された有害水バラスト処理設備がバラスト水管理条約に基づく要件に適合することを確認するための定期検査の実施件数 302件

(2021年度)

毎年度300件程度

1-3-35 定着した特定外来生物の対応のための支援[重点]

 外来魚(オオクチバス、コクチバス、ブルーギル)やアライグマ等について、効果的な被害防止対策をとっていくための指針等を検討するとともに、特定外来生物に指定される予定のアメリカザリガニ・アカミミガメを含めた定着した特定外来生物の対策強化のための地方公共団体等への支援や普及啓発を強化する。

【環境省、農林水産省】

(目標)

 外来魚(オオクチバス、コクチバス、ブルーギル)やアライグマ等について全国的な指針等を2024年度までに策定又は改定する。

1-3-36 農地や水路における外来種のまん延防止に資する技術開発

 農業用水路の通水障害を引き起こす外来種(カワヒバリガイ、タイワンシジミ等)や侵入雑草(アレチウリ、ナガエツルノゲイトウ等)の防除・管理技術を開発促進する。

【農林水産省】

(目標)

・ 2023年度までに、外来水生生物3種以上及び外来植物3種以上の侵略的外来種に適用可能な管理体系を確立する。

・ 確立した侵略的外来種に適用可能な管理体系について、2023年度までに3地域以上で実証する。

1-3-37 外来種による森林・林業被害の防止

 現状の森林生態系への影響に配慮しつつ、順応的な駆除や生息域の拡散防止対策を実施することにより、地域の森林における生物多様性の保全を図る上で必要となる外来種対策を地域で一体的に推進する。

【農林水産省】

1-3-38 外来種による農作物被害の防止

 外来種のうち、農作物に被害を与える病害虫(クビアカツヤカミキリ、スクミリンゴガイ等)について、都道府県等と連携し、適時・適切な防除を推進する。

【農林水産省、環境省】

1-3-39 河川における外来種被害防止の取組実施

 外来種被害防止行動計画(2015年3月環境省、農林水産省、国土交通省作成)に基づき、河川における外来種対策の必要性の普及啓発等の取組を推進する。

【国土交通省】

1-3-40 特定外来生物による内水面漁業被害の防止

 効果的な防除手法の開発・普及を行うとともに、水産業に被害を及ぼす特定外来生物(オオクチバス、コクチバス、ブルーギル)の防除に取り組む内水面漁協等を支援し、外来魚による食害等といった内水面漁業被害の拡大防止を推進する。

【農林水産省】

1-3-41 生物多様性確保上重要な地域における特定外来生物等の防除

 奄美大島において希少種への脅威となっているマングースについて、根絶に向け捕獲圧をかけ続けるとともに、根絶を確認する手法の開発を行い、根絶を達成させる。その他、小笠原諸島や沖縄島等、生物多様性確保上重要な地域における特定外来生物等の防除事業を進める。

【環境省】

(目標)奄美大島のマングース根絶確認について、2025年度までに実施

1-3-42 国立公園等における外来種対策

 国立公園において、生態系へ悪影響を及ぼしている外来種について、捕獲などの防除事業を実施する。また、悪影響を及ぼすおそれのある外来種について、侵入や悪影響を未然に防ぐための種の取扱方針の策定やリスク評価手法の検討を行うとともに、特別保護地区などにおける外来種の放出等の規制を行う。また、国立公園等で行われる緑化に当たっては、「自然公園における法面緑化指針」に基づき、遺伝的かく乱を防止するため、地域性種苗の利用等の必要な配慮を行うとともに、外国産在来緑化植物の利用は行わないものとする。

【環境省】

1-3-43 セイヨウオオマルハナバチ対策

 施設園芸において、花粉交配のために使用されているセイヨウオオマルハナバチを在来種マルハナバチに転換するための実証、講習会の開催等を支援するとともに、在来種の生息域へのセイヨウオオマルハナバチの拡散防止を行う等、適正な管理の必要性について周知徹底する。

【農林水産省、環境省】

1-3-44 外来種の遊漁利用の在り方検討

 漁業権に基づきオオクチバスが遊漁利用されている湖沼においては、関係機関と協力して外来種に頼らない生業の在り方の検討を進める。

【農林水産省、環境省】

1-3-45 公共事業における外来種等の使用回避・拡散防止

 公共事業においては、「生態系被害防止外来種リスト」に記載された外来種の使用を避けることを基本とし、代替種が存在しない場合には、使用した場所から逸出しないよう適切な管理を推進する。また、在来種を用いた緑化に当たっても、遺伝的かく乱を防止するため地域性種苗の利用等の必要な配慮を行うとともに、外国産在来緑化植物の利用は行わないものとする。

【農林水産省、国土交通省、環境省】

1-3-46 飼養動物の適正な管理

 飼養動物の自然界への放出・定着により、地域の生態系に影響を与えるおそれがあることから、飼い主や動物取扱業者等の終生飼養の推進や飼養管理の適正化を図り、動物の個体管理を進める。特に、犬と猫の個体管理を進めるため、マイクロチップを装着した登録頭数を増加させるための施策等を実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
マイクロチップを装着した犬猫の登録頭数 40万頭 1,000万頭

(2022~2030年の累計)



行動目標1-4 気候変動による生物多様性に対する負の影響を最小化する

 IPBES地球規模評価報告書において、気候変動は地球全体の自然の変化を及ぼす3番目に大きな直接要因とされた。気候変動は生物種の喪失や自然環境の劣化、気象災害の多発化・激化や農業生産の減少等、自然と人間に広範囲にわたり様々な形で負の影響を及ぼしている。

 この負の影響を低減させるためには、科学的知見に基づく適切な対策を講じる必要があることから、気候変動及びその影響に関する様々な情報やデータを集積し、分析や評価を進める。また気候変動による影響への対応策を強化し、被害を最小化する取組を推進する。

1-4-1 気候変動影響の評価[重点]

 我が国の気候変動及び気候変動影響に関する科学的知見を集積し、自然生態系をはじめとした、農林水産業や自然災害・沿岸域などの各分野における気候変動影響に関する総合的な評価に向けた検討を進める。

【環境省】

1-4-2 保護地域における気候変動による生態系への影響緩和

 国立公園等の保護地域における自然生態系への気候変動影響を軽減するため、被害や影響の評価を進めるとともに、負の影響への対処の強化等の適応策の実施を推進する。

【環境省】

行動目標1-5 希少野生動植物の法令に基づく保護を実施するとともに、野生生物の生息・生育状況を改善するための取組を進める

 希少野生動植物を将来にわたり保存し、種の絶滅を回避するためには、科学的知見を蓄積するとともに、法令等に基づき捕獲・採取等の規制や流通管理を実施することに加え、生息・生育環境の保全を図ることが必要である。絶滅が危惧される動植物は多く、特に陸水生態系では長期的に種の絶滅リスクが増大している。環境省の「環境省レッドリスト2020」(2020年3月公表)では、我が国の絶滅危惧種は3,716種となった。これに「海洋生物レッドリスト」(2017年3月公表)における絶滅危惧種56種を加えると、我が国の絶滅危惧種の総数は3,772種となっている。なお、2024年度以降の公表を目指している第5次レッドリストからは、これまで検討体制が分かれていた陸域・海域を統合したレッドリストを作成することとしている。

 レッドリスト掲載種のうち、特に絶滅のおそれが高く、法規制による対策効果があると考えられる種については、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づく国内希少野生動植物種に指定し、捕獲や譲渡し等を規制するとともに、その個体の繁殖や生息地等の整備が必要なものについては、保護増殖事業計画を策定し、保護増殖事業を実施している。また、その生息・生育環境の保全を図る必要があるものについては、生息地等保護区を指定し、開発行為等を規制している。2023年1月時点で442種が国内希少野生動植物種に指定され、計75種について56の保護増殖事業計画を策定し、全国10か所の生息地等保護区を指定している。

 こうした取組を今後も着実に実施していくに当たり、レッドリストの見直しを行うとともに、法に基づく対策の効果や保全の優先順位を踏まえつつ、適切に国内希少野生動植物種の指定を行う。また、保護増殖事業の実施に当たっては、対象となる国内希少野生動植物種の指定の解除等を目指し、維持・回復すべき個体数等の水準及び生息地の条件等を具体的に定めるなど、具体的な目標設定の下進める。対策の実施に当たっては、生息・生育地の維持・改善、脅威となっている外来種の駆除などの生息域内保全を基本としつつ、本来の生息域内における保全施策のみでは近い将来種の存続が極めて困難となるおそれがある種については、生息域内保全の補完として、飼育下繁殖などの生息域外保全や野生復帰の取組を進める外国産希少種の保護に関しては、ワシントン条約附属書I掲載種及び二国間渡り鳥保護条約等通報種を種の保存法に基づく国際希少野生動植物種として指定しており、2023年3月時点で812種類が指定されている。これらの種は外国為替及び外国貿易法(昭和24年律第228号)に基づき輸出入規制が行われており、国内においては種の保存法により譲渡しや陳列・広告を原則禁止している。種の保存のためには国際的な協力が不可欠であることから、条約締約国会議等による対象種の変更に対し適切に国内法を対応させ、関係機関の連携の下で適正な法運用を行い、希少野生動植物に関する違法行為の監視を徹底する。

 また、比較的個体数の多い普通種についても、生物多様性や生態系の維持に重要な役割を果たしていることから、実態の把握や保全に向けた取組を進める。

 これらの取組を効果的に推進するため、他の行動目標に属する施策とも複合的に対策を進め、人為的な種の絶滅を可能な限り回避し、野生生物の生息・生育状況の改善に取り組む。

<具体的施策>

1-5-1 レッドリストの作成と国内希少野生動植物種の指定

絶滅のおそれのある野生動植物種の保全の基礎データとなるレッドリストについて、これまで検討体制が分かれていた陸域と海域を統合した環境省第5次レッドリストを2024年度以降に公表することを目指し、科学的知見を集積し、絶滅のおそれについて可能な限り定量評価を行う。また保全の意識醸成のために種ごとの情報を記載したレッドデータブックを作成し、広く普及を行う。特に絶滅のおそれが高く、法規制による対策効果があると考えられる種については、保全の優先順位も踏まえ、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種への指定を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
絶滅危惧種のうち種の保存法により指定されている種の割合 12% 15%

(2030年度)


1-5-2 保護増殖事業等による希少種の保全

 それぞれの種の特性や生息・生育状況を踏まえ、地方公共団体や保全団体、研究者、動植物園等と連携し、事業の完了を目指し定量的な目標設定の下、保護増殖事業を実施し、生息・生育状況の改善を図る。その結果として、複数の種について、環境省レッドリストにおいて絶滅のおそれがより低いカテゴリーへ移行し、又は、絶滅のおそれがある状態でなくなり、保護増殖事業が完了する事例を創出する。その他の種についても、保全方策に係る手引きの作成や、地域住民等関係者の理解醸成や連携等により、地域や民間主体の保全活動を支援・促進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
保護増殖事業の実施により、その生息状況が改善され、保護増殖事業の目的が達成されて、事業を完了した種数 0種

(2022年)

5種程度

(2030年)

下位計画等で定量的な目標を設定している保護増殖事業の種数 12種

(2022年)

24種

(2030年


1-5-3 指定動植物による生息地管理も含めた生態系保全

 捕獲や採取等の規制対象となる動植物の見直し・選定を行い、国立公園に生息・生育する絶滅危惧種等の動植物の保全を強化する。

【環境省】

(目標)

 保護区の適切な保護・管理のため、全国の国立公園において見直し作業を進める。

1-5-4 希少な野生動植物の適正な流通管理

 ワシントン条約、外為法、種の保存法に基づく、希少野生動植物種の国際取引及び国内流通管理のために、適正な法運用を行うとともに、関係省庁及び関係機関が連携・協力して、違法行為の監視を徹底し、適切な取り締まりを行うなど、効果的な管理方法の検討と実施を進める。

【環境省、警察庁、外務省、経済産業省、財務省、農林水産省】

1-5-5 身近な自然も含めた生物の生息・生育環境の保全

 農地・農業水利施設等の整備に当たり、環境への負荷や影響の低減を図るなど生態系への配慮を推進する。

【農林水産省】

1-5-6 普通種を含む身近な自然環境の保全[重点]

 絶滅危惧の状態にないいわゆる普通種については、生態系を構成する基盤であり、多様な生態系サービスを発揮させるためにも重要であることから、現状及び経年変化を把握するとともに必要に応じて生息・生育・繁殖地の保全を含めた対策を図る。身近な自然が普通種を含む生物の生息場所及び生態系ネットワークの構成要素になっていることに留意し、多様な主体の連携による維持管理を促進する。

【環境省】

1-5-7 自然生態系の機能に着目した生物指標の検討[重点]

 比較的出現率が高く個体数も多い普通種と呼ばれる昆虫類等について、環境指標となり得る種を選定し、その生態、形態等の特徴、近年の増減傾向や調査手法等の情報を整理する。また、その結果について、今後グリーンインフラやEco-DRR等の施策を進める際の生物多様性保全上の価値や具体的な機能の可視化につなげるとともに、OECMとして認定される場所の認定基準や、認定後のモニタリングへの活用を検討する。

【環境省】

1-5-8 光害対策ガイドラインの改定・普及

 不適切な屋外照明灯の使用から生じる光は、動植物の生息・生育に悪影響を及ぼすとともに、過度な明るさはエネルギーの浪費であり、地球温暖化の原因にもなる。このため、光害対策ガイドラインの内容については、照明関連技術の向上などに基づき、必要に応じて逐次ガイドラインを見直し、その充実を図るとともに普及啓発を図る。

【環境省】

1-5-9 複合的な野生生物管理の推進[重点]

 野生生物の保護管理に係る複合的な観点から、希少種保全や外来種対策、野生鳥獣の保護管理等の各分野の取組について見直し・検討を行い、必要な対策を実施する。

【環境省】

行動目標1-6 遺伝的多様性の保全等を考慮した施策を実施する

 遺伝的多様性は、生態系の多様性及び種の多様性と並んで生物多様性を構成する要素である。遺伝子レベルの多様性が低下することは、種の存続を危険にさらし、絶滅のおそれを増大させることにつながる。また、個体数の少ない希少種はもちろんのこと、生息・生育地が分断され、集団のサイズが縮小している種などにおいても遺伝的多様性が低下している可能性がある。

 このため、実態の把握を進めるとともに、絶滅のリスクが高い種については種子保存等による遺伝資源の保全を図る。

 さらに、国内に自然分布する在来種と国外に分布する同種との間には遺伝子レベルの差異がある可能性が高いため、国外種の持ち込みや人為的な野外放出は、在来種との交雑等を引き起こし、地域の生物多様性の保全に影響を及ぼすことが懸念される。このため、その取扱いに当たって考え方を整理し、生物多様性への著しい支障を生じさせないよう必要な対策行う。遺伝子組換え生物については、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)に基づき適切な措置を講じる。また、ゲノム編集技術の利用により得られた生物であってカルタヘナ法の規制の対象とならないものについては、その取扱いを定めた通知に基づき適切に対する。

<具体的施策>

1-6-1 生物の放出に係る対策の在り方の検討[重点]

遺伝的多様性の確保の視点を踏まえ、生物の人為的な野外放出についての考え方を整理

し、必要な対策を講じる。

【環境省】

1-6-2 遺伝子組換え技術等を利用して得られた生物による生物多様性への影響の防止

カルタヘナ法の適切な施行を通じ、遺伝子組換え生物等の使用等による生物多様性への影響を防止するなど生物多様性の確保を図る。また、ゲノム編集技術を利用して得られた生物であってカルタヘナ法の規制の対象とならない生物の使用等についても、生物多様性への影響に係る知見の集積と状況の把握を図るため、当面の間、情報の収集をする。さらに、カルタヘナ法規制や遺伝子組換え生物等に関する普及啓発を図る。

【環境省、経済産業省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
遺伝子組換え生物による生物多様性影響の発生件数  0  0

1-6-3 希少種の遺伝的多様性の維持・確保

 保護増殖事業対象種を中心に、遺伝的多様性の評価に基づく個体群ごとの保全(生息域内保全)を推進する。また、生息域内保全の補完として、動物園・水族館・植物園・昆虫館等と連携し、種の状況と特性に応じた効果的な生息域外保全を組み合わせることにより、希少種の遺伝的多様性の維持・確保を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
遺伝的多様性の評価に基づき個体群ごとの生息域内保全がなされている保護増殖事業対象種の数 18種

(2022年)

36種

(2030年)


1-6-4 新宿御苑における植物多様性保全の推進

 新宿御苑は、2006年から公益社団法人日本植物園協会(以下、「日本植物園協会」という。)の植物多様性保全拠点園ネットワークに参加し活動を行っている。引き続き新宿御苑が保有する温室等の施設を活用し、日本植物園協会及び加盟植物園と連携して、日本国内の野生植物の生息域外保全と有用植物資源の系統保存の中核として貢献する。

【環境省】

1-6-5 絶滅危惧種の生殖細胞・種子保存

 絶滅危惧種の生息域外保全の手段の一つとして、生殖細胞や種子等の保存を進める。動物については、国立研究開発法人国立環境研究所、公益社団法人日本動物園水族館協会、大学等関係機関とも連携し、絶滅のおそれの高い種や個体群について、生殖細胞の凍結保存等を進める。植物については、2006年から種子保存施設としての役割を担っている新宿御苑において、その機能の拡充を図り、日本植物園協会と連携を強化する。これにより更なる絶滅危惧種の絶滅リスクの低減と遺伝資源の確保に努める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
保護増殖事業対象種のうち生殖細胞等の保存がされている動物の種又は地域個体群の数 5種

(2022年)

10種・個体群

(2030年)

日本産絶滅危惧植物種のうち自生地情報を持つ種の保存数 日本産絶滅危惧植物種の475種について自生地情報を持つ種子・胞子を保存 日本産絶滅危惧植物種の600種について自生地情報を持つ種子・胞子を保存

1-6-6 遺伝資源の収集・保全、利用

・ 農業分野に関わる国内外の遺伝資源について、農研機構で実施する農業生物資源ジーンバンク事業において、探索収集から特性評価、保存、配布及び情報公開を実施する。

・ 地鶏等の遺伝資源について、始原生殖細胞(PGCs)を用いた遺伝資源の凍結保存等の技術習得のための研修会等の開催や技術導入の取組を支援する。

・ 生物多様性の保全の観点で重要な林木遺伝資源の収集・保存・評価を推進する。

・ 薬用植物資源研究センターにおいて、薬用植物資源の積極的な収集、恒久的保存、栽培、優良品種育成、組織培養等に必要な技術に関する研究、薬用植物の有効成分の化学的、生物学的評価に関する研究、未利用植物資源の開発に関する研究等、薬用植物遺伝資源の持続的な利活用に関する研究を推進する。

【農林水産省、厚生労働省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
アジア地域等の未探索遺伝資源の収集・保存 600点

(2021年度)

3千点以上

(2021~2025年度の累計)



第2章自然を活用した社会課題の解決

行動目標2-1 生態系が有する機能の可視化や、一層の活用を推進する

 自然の恵みを活かして様々な社会課題の解決に役立てようとする取組は「自然を活用した解決策(NbS)」と呼ばれる。NbSには、気候変動対策や防災・減災といった社会課題の解決において、自然環境が有する多様な機能を活用するグリーンインフラや生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)、生態系を活用した適応策(EbA)などが含まれる。我が国においても、このようなアプローチを防災・減災や地域づくりに積極的に活用する機運が高まっている。特に、地震や豪雨などの自然災害が頻発し「災害大国」とも呼ばれ、近年は気候変動による災害の激甚化といった環境変化に加え、社会インフラの老朽化などの社会問題にも直面している我が国において、災害を回避する土地利用の見直しや、地域づくりに関する古来の知も参考に自然を活用するグリーンインフラやEco-DRRの取組を進めることが急務となっている。一方、これらの取組を現場で実装するに当たっては、その基盤となる情報や知見、ノウハウが不足している。

 このため、各種情報に基づき保全・再生すべき場所や防災・減災効果の高い場所等を可視化する取組や、保安林等の多面的機能を有する区域の指定等を通じ、計画的な区域指定や効果的な管理手法の検討を進め、グリーンインフラやEco-DRRの普及を図り生態系の有する機能を最大限活用することを目指す。

<具体的施策>

2-1-1 気候変動対策と生物多様性保全の一体的な取組[重点]

 気候変動と生物多様性の損失の関連、生態系の回復等が気候変動への適応及び緩和に重要な役割を果たすことを踏まえ、気候変動適応計画において、NbSを、防災・減災や暑熱対策等の適応策としても活用することの意義や、調査研究及び地域実装を推進する方針を定め、取組を進める。

【環境省】

2-1-2 自然を活用した解決策の地域実装[重点]

 NbSの実装に向け、生態系が有する機能の可視化及び効果的な生態系の保全管理に必要な技術的情報やデータの提供等を通じ、地域における生物多様性の保全と持続可能な利用や土地利用に関する計画等への位置づけや、計画に基づく事業の実施を促進する。また、健康や地域経済への貢献など、より広い観点でのNbSを推進するための地域における自然に関係する取組を進める。

【環境省】

2-1-3 Eco-DRRの推進[重点]

 NbSのうち、特にEco-DRRについて、生態系保全上の効果と防災・減災上の効果が期待できる区域を可視化する「生態系保全・再生ポテンシャルマップ」の作成を通じた取組の推進を図る。とりわけ、地方公共団体や地域の団体によるマップを用いた計画策定や、現場における取組の実施の支援を強化する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性地域戦略に生態系を活用した防災・減災を位置づけている都道府県の数  0

(2022年)

47都道府県

(2030年)


2-1-4 グリーンインフラの社会実装の推進[重点]

 産学官の多様な主体が参加するグリーンインフラ官民連携プラットフォームにおけるグリーンインフラの社会的な普及、グリーンインフラ技術に関する調査研究、資金調達手法等の検討等の活動の拡大を通じて、分野横断・官民連携によるグリーンインフラの社会実装を推進する。

 また、グリーンインフラの計画・整備・維持管理等に関する技術開発を推進するとともに、地域モデル実証等を行い、地域への導入を推進する。さらに、グリーンボンド等の民間資金調達手法の活用により、グリーンファイナンス、ESG投資の拡大を図る。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
グリーンインフラ官民連携プラットフォームに登録している地方公共団体のうち、グリーンインフラの取組を事業化した自治体数 16自治体

(2021年)

70自治体

(2025年)


2-1-5 2027年国際園芸博覧会の開催を通じたグリーンインフラの推進[重点]

 国際園芸博覧会は、国際的な園芸・造園の振興や花と緑のあふれる暮らしの創造等を目的に各国で開催され、2027年国際園芸博覧会では、グリーンインフラを実装し民間資金を活用した持続可能なまちづくりのモデル等を国内外に発信する具体的な機会とし、SDGs達成やグリーン社会の構築に向けた取組を推進する。本博覧会でのグリーンインフラの実装は、グリーンインフラを国内外に普及し、多様な主体による技術開発等を誘発し、開催後も日本モデルとして国内外への普及を推進する。

【国土交通省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
2027年国際園芸博覧会における参加者数(ICT活用や地域連携などの多様な参加形態を含む)  - 1,500万人
2027年国際園芸博覧会における有料来場者数(2027年国際園芸博覧会における参加者数の内数)  - 1,000万人

2-1-6 治山対策の推進

 保安林等における治山施設の設置、機能の低下した森林の整備、海岸防災林等の整備を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
適切に保全されている海岸防災林等の割合 96%

(2018年度)

100%

(2023年度)


2-1-7 保安林の指定の計画的な推進

・ 水源涵養や土砂流出の防止など、特に公益的機能の発揮が要請される森林については、保安林の指定を計画的に推進する。

・ 魚つき保安林など、公益的機能の発揮が要請される森林については、保安林としての指定を計画的に推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
森林の持つ多面的機能を総合的かつ高度に発揮させる保安林の面積 1,225万ha

(2020年度)

1,301万ha

(2033年度)


2-1-8 農業・農村の強靱化の推進

 頻発化・激甚化する災害に対応した排水施設整備・ため池対策や流域治水の取組を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
湛水被害等が防止される農地及び周辺地域の面積 約5.8万ha

(2021年度)

約21万ha

(2025年度)


行動目標2-2 森・里・川・海のつながりや地域の伝統文化の存続に配慮しつつ自然を活かした地域づくりを推進する

 人口減少・少子高齢化や、ウィズコロナ・ポストコロナの時代への対応など、社会の大きな変化に際し、持続可能でレジリエントな自然共生社会の実現に向け、自立・分散型の視点を取り入れた地域づくりの重要性が高まっている。地域の資源の循環利用を強化することは、再生不可能な資源に依存する社会から、再生可能な資源に立脚した社会への転換を促すことにつながる。流域を構成する森・里・川・海のつながりを意識しつつ、各地域が資源や個性を活かして互いに支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮され、SDGsやSociety5.0の実現にもつながる。

 また、自然の中で働くことや生活することで享受できる文化的・精神的な豊かさに対する理解を促すことも必要である。地方では高齢化や過疎化が進む一方で、豊かな自然の恵と、その自然環境に根ざした伝統や文化を有している。生物多様性を基礎とする地域固有の源や美しい風景、それに基づく豊かな文化が引き継がれることで、地域への誇りや愛着が生まれ、それが地域の個性となり、人を引き付け、地域の活力や自立につながっていく。

 このため、地域の自然や資源、文化伝統を活用し、観光振興や産業・雇用の創出、都市との交流拡大等に取り組むことで、自然環境の保護と利用の好循環を形成し、豊かで活力ある地域づくりを推進する。具体的には地域循環共生圏の総合的な推進、国立公園満喫プロジェクトの展開、エコツーリズムやワーケーション等を通じた都市と農山漁村のつながりの拡大、地域産業への新規就業者の育成、農林水産業の多面的機能の発揮、自然的名勝や文化財等の保全・活用などに取り組む。

<具体的施策>

2-2-1 環境で地域を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業

 第五次環境基本計画で提唱された「地域循環共生圏」づくりに取り組む地域のプラットフォームを形成するため、地域循環共生圏の創造に向けて取り組む地域・地方公共団体の人材の発掘、地域の核となるステークホルダーの組織化や、事業計画策定に向けた構想の具体化などの環境整備を推進するとともに、地域・地方公共団体が、地域の総合的な取組となる事業計画を策定するに当たって、専門家のチームを派遣する等の必要な支援を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
地域循環共生圏づくりに取り組む地域の数(累計)  106

(2020年10月時点)

 300

(2030年)


2-2-2 循環型社会形成推進交付金等

 循環型社会形成推進交付金等により、市町村における廃棄物系バイオマスの堆肥化、飼料化、メタン化、バイオディーゼル燃料化などを行う施設の整備を推進する。

【環境省】

2-2-3 国立・国定公園における質の高い自然体験活動の促進[重点]

 2022年4月に施行された改正自然公園法の自然体験活動促進計画制度等を活用し、各国立・国定公園において、地域で合意された統一方針による自然体験活動の取組を促し、当該公園の自然の特性を踏まえた質の高い自然体験活動の充実を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ビジョン・利用体験活動計画が記載された公園計画数  - 全国34国立公園において計画を記載

(2030年)

自然公園法に基づく自然体験活動促進計画の認定数  - 17件

(2030年)

国立公園における自然体験コンテンツガイドラインを満たす自然体験コンテンツ  - 全国34国立公園

(2025年)


2-2-4 国立・国定公園における利用拠点の上質化[重点]

 国立公園等の魅力向上と誘客促進のため、2022年4月に施行された改正自然公園法の利用拠点整備改善計画制度等を活用し、各国立・国定公園の集団施設地区・温泉街等の利用拠点において、地域で合意された統一方針による計画の策定・共有を進めるとともに計画に基づく廃屋撤去などの景観改善の取組を促進させ、当該利用拠点の滞在環境の上質化を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
自然公園法に基づく利用拠点整備改善計画の認定数 0か所

(2022年4月時点)

5か所

(2025年)

利用拠点整備改善計画又は利用拠点計画に基づき整備改善を実施した利用拠点数 25か所

(2021年度)

35か所

(2025年)


2-2-5 国立公園満喫プロジェクトの推進

▶ 国立公園満喫プロジェクト

 日本の国立公園のブランド力を高め、国内外の誘客を促進し、自然を満喫できる上質なツーリズムを実現する国立公園満喫プロジェクトの取組を全国に展開し、国立公園の保護と利用の好循環により、優れた自然を守り地域活性化を図り、来訪者の感動体験を目指す。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国立公園を訪問した訪日外国人利用者数  −  667万人

(2025年度)

国立公園区域内における日本人延べ宿泊者数 1952.6万人

(2021年度)

3,205万人

(2025年度)


・ 2025年までに、訪日外国人の国立公園利用者数を新型コロナウイルスの影響前の水準

に回復させる。

・ 2025年までに、日本人の国立公園利用者数を新型コロナウイルスの影響前の水準に復させるとともに、質の高いツーリズムを目指す。

▶ 民間提案による宿舎事業を中心とした国立公園利用拠点の面的な魅力向上

 国立公園の美しい自然の中での感動体験を柱とした滞在型・高付加価値観光を推進する

ため、モデル地域を選定し、民間提案による高付加価値な宿泊施設を中心とした国立公園

利用拠点の面的な魅力向上に取り組む。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
モデル事業の実施箇所数  −  2地区以上(2025年度)

▶ 地域協議会の設置と方針・計画策定

 地域の多様な主体と一体となって国立公園満喫プロジェクトに取り組むため、各公園における地域協議会の設置を推進する。また、公園計画及び管理運営計画に利用の方針を位置づけるとともに、その行動計画としてステップアッププログラム等の策定を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国立公園満喫プロジェクト地域協議会の設置公園数 12  − 
ステップアッププログラムが策定された公園数 12  − 
国立公園満喫プロジェクト地域協議会の開催回 14  − 

▶ 自然体験コンテンツの充実

 国立公園の訪問者に自然と人々の物語を知るアクティビティを提供するため、各公園の利用の方針に沿った魅力的な自然体験コンテンツ造成・磨き上げ、体験コースの設定、人材育成、ワーケーション等の新たな利用やサステナブルツアーの推進、広域的な利用の推進、国内外への普及宣伝等を実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
高付加価値な自然体験コンテンツ数 383 *1*

(2022年2月時点)

全国34国立公園で展開

(2025年) *2*

施設整備を行い定常的にワーケーションの実施が可能な国立公園数 16公園

(2022年2月時点)

25公園

(2025年)

人材育成事業に参加した地域数 49地域

(2021年度)

70地域

(2025年度)


*1* 磨き上げたコンテンツ数。ガイドラインを満たすかどうかは含まない数値

*2* 国立公園における自然体験コンテンツガイドラインを満たす自然体験コンテンツ


▶ 景観改善及び施設整備

 国立公園の訪問者に魅力的な施設とサービスを提供するため、廃屋撤去等による景観改善や多様な宿泊施設の誘致等により集団施設地区・温泉街の利用拠点の魅力向上を図るとともに、公共施設の民間開放の推進、展示解説のデジタル・多言語化等により魅力的な利用施設の整備・管理を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ビジターセンター来訪者数 1,037,955人 *1*(2021年)  − 
廃屋撤去した拠点数 17か所(2022年2月時点)  − 

*1* 利用者の多い12直轄VCの利用者数


▶ 脱炭素化に向けたゼロカーボンパークの推進等

 国立公園の訪問者に地域のサステナビリティを体感・共感してもらうため、国立公園の利用拠点等における脱炭素化等の取組を進めることを目指したゼロカーボンパークの推進等により地域の持続可能な発展に貢献する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ゼロカーボンパークの登録数 7か所(2022年4月時点)  − 


▶ 利用者負担や限定体験等の仕組みづくり

 国立公園の訪問者に地域のサステナビリティを体感・共感してもらうため、ICTも活用した利用者負担の仕組みづくり、利用のルールの設定、限定体験の推進等により保護と利用の好循環を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
利用者負担の新規仕組みの件数 21件(2022年2月時点)  − 

2-2-6 自然とのふれあいから生活の豊かさの向上につなげる取組

 自然とのふれあいは、日常体験し得ない感動を得られ、ストレスの緩和にもつながるとされている。また、「青少年の体験活動の推進に関する調査研究報告書」(2020年度)によると小学生の頃に体験活動を多くしていた子供は、その後、自尊感情が高くなる傾向が見られる。このため、国立公園等において、インタープリテーションを伴った自然を五感で体験するプログラムを提供する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ビジョン・利用体験活動計画が記載された公園計画数  0 全国34国立公園において計画を記載

(2030年)

高付加価値な自然体験コンテンツ数 383 *1* 

(2022年2月時点)

全国34国立公園で展開

(2025年)*2*

人材育成事業に参加した地域数 49地域

(2021年度)

70地域

(2025年度)


*1* 磨き上げたコンテンツ数。ガイドラインを満たすかどうかは含まない数値

*2* 国立公園における自然体験コンテンツガイドラインを満たす自然体験コンテンツ


2-2-7 長距離自然歩道(ロングトレイル)の推進

 日本の豊かな自然、歴史や文化に触れ、国土や風土を再認識し、自然保護に対する意識を高めるため、ロングトレイル(長距離自然歩道)の整備、利活用を推進する。

【環境省】

指標 現状値 目標値
トレイル利用者数 5,053万人

(2020年)

7,758万人

(2024年)


2-2-8 ユネスコエコパークの取組の推進[重点]

 生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目的とするユネスコエコパークの取組の活性化のために、国際的な動向や国内の優良事例の共有、ワークショップの開催や、国立公園等の各種取組との連携などを図りながら、我が国におけるユネスコエコパークの活動による自然を活かした地域づくりを促進する。

【文部科学省、農林水産省、環境省】


2-2-9 ジオパークの取組推進

▶ ユネスコ世界ジオパークの取組の推進

 国際的な地質学的重要性を有する地質遺産を保護し、科学・教育・地域振興等に活用することにより自然と人間との共生及び持続可能な開発を実現することを目的とするユネスコ世界ジオパークの取組の活性化のために、我が国におけるユネスコ世界ジオパークのユネスコへの推薦及び審査に係る協力や情報発信等を行う。

【文部科学省】

▶ 国立公園におけるジオパークと連携した取組の推進

国立公園とジオパークが重複した地域において、国立公園と連携した地形・地質の保全活用計画の策定や連携した取組に関するシンポジウム等の開催を実施し、地形・地質を活かした国立公園の魅力発信・地域活性化を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ジオパークと連携した地形・地質の保全・活用推進事業の実施地域数 14 20

(2030年度)


2-2-10 持続可能な観光の推進

 「持続可能な観光」の実現に向けて、地球環境に配慮した旅行を促進するため、観光事業者の取組や旅行者の意識・行動を改善する取組を推進するほか、モデル形成を通じた地域におけるマネジメント体制の構築等の取組の全国展開を図るとともに、オーバーツーリズム等の弊害を生じさせないための受入環境整備や地域の資源を活かしたコンテンツ造成等に取り組む。

【国土交通省】

(目標)

 地域主体で、オーバーツーリズムを引き起こすことなく、観光で得られた収益を地域内で循環させることにより、地域の社会経済の活性化や文化・環境の保全・再生を図る。

2-2-11 エコツーリズムの推進

・ エコツーリズム推進全体構想認定地域に係る情報発信の支援等のほか、エコツーリズムに関する特に優れた取組に対する表彰を行うとともに、自然資源を活用して地域活性化に取り組む地域を対象にガイドやコーディネーター等の人材育成を行う。

・ エコツーリズム推進法の基本理念(①自然環境への配慮、②観光振興への寄与、③地域振興への寄与、④環境教育への活用)を踏まえた、地域におけるエコツーリズムの推進を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
エコツーリズム推進全体構想認定数が1以上の都道府県数 15 47

(2028年度)


2-2-12 野生生物の保全に資する観光の促進

 地域に生息する野生生物の観光資源としての利用が持続可能であり、野生生物の保全に資するものとなるよう、地域におけるルール作成や利益の一部を保全に活用する仕組みづくりに関する情報提供を行うとともに、ツアー造成やプロモーションを支援する。

【環境省】

2-2-13 サンゴ礁生態系における持続可能なツーリズムの推進

 「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」で設定した特に解決の緊急性が高い重点課題の一つとして、過剰な利用や不適切な利用の抑制とともに、自然や地域の文化に関する認識を高めるような、持続可能なツーリズムのモデル事例の構築や保全への理解を深める効果的な多言語対応の普及啓発ツールの開発等を推進する。

【環境省】

2-2-14 自然等の地域資源を活かした温泉地活性化推進事業

 温泉入浴に加え、周辺の自然、歴史・文化、食などの地域資源を楽しみ心身ともにリフレッシュする新しい温泉地の過ごし方である「新・湯治」を推進し、温泉地の活性化を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
「チーム新・湯治」チーム員登録数 366団体・個人

(2021年度末)

前年度比10%増加

2-2-15 地域共生型の地熱利活用を通じた地域づくり

 温泉モニタリングによる科学的データの収集・調査や周辺の自然環境及び景観への影響低減策の検討、地域への伴走支援等により、地域の自然や社会と共生した地熱利活用を推進することを通じた地域活性化を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
連続温泉モニタリング装置の設置地域数、設置基数 1地域・1基

(2021年度末)

20地域・50基

(2024年度)


2-2-16 自然を活かしたワーケーション・サテライトオフィスの推進

国立公園や農泊地域におけるワーケーション等新たな利用の促進など、自然を活かしたワーケーション等の取組を推進する。

【環境省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
施設整備を行い定常的にワーケーションの実施が可能な国立公園数 16公園

(2022年2月時点)

25公園

(2025年)


2-2-17 山村地域の活力維持に向けた取組

・ 林業の新規就業者の確保・育成に向け、就業ガイダンス及び林業作業士(フォレストワーカー)研修等に必要な経費を支援する。

・ 健康、観光、教育等の分野で森林空間を活用して、新たな雇用と収入機会を生み出す「森林サービス産業」の創出・推進の取組を実施する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
安全かつ効率的な技術を有する新規就業者数 720人

(2021年度)

1,200人

2025年度まで毎年度

森林サービス産業に取組む地域数 21地域

(2021年度末)

45地域

(2025年度)


2-2-18 里地里山の未来拠点形成の推進

重要里地里山等の生物多様性保全上重要な地域において、環境的課題と社会経済的課題の統合的解決に向けた新たな仕組みづくりを推進するため、里地里山の資源を活用したスモールビジネスを創出など、里地里山の保全・活用に資する先進的・効果的な活動の支援等を行う。

【環境省】

2-2-19 多様な主体による里山林への働きかけの推進

・ 森林の多面的機能発揮とともに関係人口の創出を通じ、山村地域のコミュニティを維持する。

・ 活性化を図るため、地域住民等による活動組織が実施する森林の保全管理等の取組を支援する。

・ 森林の持続可能性が確保された形で木質バイオマスのエネルギー利用を進める。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
各支援メニューごとに設定された森林の多面的機能の発揮に関する目標を達成した活動組織の割合 80%

(2020年度)

80%

(2026年度)

木材の燃料利用量 700万㎥

(2019年度)

800万㎥

(2025年度)


2-2-20 農山漁村の活性化に向けた多岐にわたる生物多様性保全の取組

・ 農業・農村の有する多面的機能を次世代に継承し、その便益を国民が幅広く享受できるよう、集落内外の多様な人材・土地改良区等の組織と協力しながら、地域の共同活動への参加者を増加させる。

・ 地域の農業者だけでなく多様な主体の参画を得て、地域ぐるみで農地・農業用水等の資源を保全管理する取組と併せて、水質保全や生態系保全等の農村環境の向上に資する取組を支援する。

・ 世界農業遺産及び日本農業遺産について、情報発信を通じた認知度向上等の取組を支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
地域による農地・農業用水等の保全管理への延べ参加者数 延べ1,301万人・団体

(2016~2020年度)

延べ1,400万人・団体

(2021~2025年度)

中山間地域等の農用地面積の減少防止 7.2万ha(2020年度) 7.5万ha(2024年度)
農地・農業用水等の保全管理に係る地域の共同活動により広域的に保全管理される農地面積の割合 46%

(2020年度)

60%

(2025年度)


2-2-21 農業生産活動維持に向けた中山間地域等への支援

 中山間地域等において、農業生産条件の不利を補正することにより、将来に向けて農業生産活動を維持するための活動を支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
中山間地域等の農用地面積の減少防止 7.2万ha(2020年度) 7.5万ha(2024年度)

2-2-22 水産業・漁村の多面的機能の発揮への取組の支援

 環境・生態系の維持・回復や安心して活動できる海域の確保など、漁業者等が行う水産業・漁村の多面的機能の発揮に資する地域の活動を支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
対象水域での生物量の増加割合 0%(2021年度) 20%増加(2025年度まで)

2-2-23 かわまちづくり等の魅力ある水辺空間の創出[重点]

 人と水や生物とのふれあいの場として重要である水辺について、安全に水辺に近づける親水護岸の整備等を行い、水辺に親しむ空間や、水や生物にふれられる環境教育の場として活用する。さらに、民間活力を積極的に引き出すための機運の醸成に加えて、地域の創意工夫を促し、地域振興拠点の整備等を促進することにより、かわまちづくり等の地域特有の景観、歴史、文化、観光基盤などを有する魅力ある水辺空間をまちづくりと一体となって創出する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
水辺の賑わい創出に向け、水辺とまちが一体となった取組を実施した市区町村の数 433市区町村

(2020年度)

658市区町村

(2025年度)


2-2-24 風致地区を活用した都市における風致の維持

 風致地区は、樹林地、水辺地など、良好な自然環境を維持・創出し、都市における生物の生息・生育の場を提供していることから、今後も制度の的確な運用を図る。

【国土交通省】

2-2-25 生物多様性にも貢献する歴史的風土の保存

 我が国の歴史上意義を有する建造物、遺跡等が周囲の自然的環境と一体をなして古都における伝統と文化を具現し、及び形成している土地の状況である「歴史的風土」を保存するために地方公共団体が行う行為規制に伴う損失補償や土地の買い入れ、施設の整備、景観阻害物件の除去に対し、国の補助による支援を行う。

【国土交通省】

2-2-26 自然的名勝の保存・活用の推進

 我が国にとって芸術上又は観賞上価値の高い庭園等、自然環境を構成要素とする名勝を指定し、保護に関する取組を推進する。具体的には、調査などに関する補助や、地方公共団体が指定された名勝を公有化する事業に対し、その一部の補助を実施する。

【文部科学省】

2-2-27 文化財保存活用地域計画の作成支援

 2018年の文化財保護法(昭和25年法律第214号)の改正により新たに制度化された、当該市町村における文化財の保存・活用に関するマスタープランかつアクションプランである「文化財保存活用地域計画」を市町村が作成するに当たり、支援する。

【文部科学省】

2-2-28 文化的景観の保存・活用

 自然と人間とが関わりながら育まれた文化的景観を保護する観点から、適切な保護の措置が講じられていて重要な文化的景観を対象として、重要文化的景観の選定を推進する。

また、選定された地域について修理・修景を行う整備事業や普及啓発に係る取組に対する

補助を実施する。

【文部科学省】

2-2-29 福島グリーン復興プロジェクト

福島県内の豊かな自然を保全し、魅力の向上や周遊の仕組みづくり等を通じて自然公園利用者の回復等を図りながら、自然の恵みや持続可能な活用等を次世代に継承することを目的に福島県と進める福島グリーン復興プロジェクトを推進する。

【環境省】

2-2-30 復興まちづくりに資する公園緑地の整備

「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」を周知し、復興まちづくりに資する公園緑地の整備に当たっての地域生態系の復元・保全を行う取組を推進する。

【国土交通省】


行動目標2-3 気候変動緩和・適応にも貢献する自然再生を推進するとともに、吸収源対策・温室効果ガス排出削減の観点から現状以上の生態系の保全と活用を進める

 人口減少や農山漁村の過疎化、社会資本の老朽化といった社会課題に直面する我が国において、地域の特性や土地利用の状況、地域のニーズに即したNbSの推進は、気候変動緩和・適応の分野でもその有用性が大いに期待される。

 2020年度の我が国の森林等の吸収源対策による吸収量は4,450万トン(2020年度総排出量11億5,000万トンの約3.9%)であり、その内訳は森林吸収源対策による吸収量4,050万トン、農地土壌炭素吸収源対策による吸収量270万トン、都市緑化等の推進による吸収量130万トンとなっている。

 また、海洋生態系に取り込まれる炭素、いわゆる「ブルーカーボン」が、吸収源の新しい選択肢として世界的に注目されている。炭素を固定する海洋生態系(ブルーカーボン生態系)として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられ、その評価に向けた検討が進められている。また、都市緑地によるヒートアイランド現象の緩和、遊水池等による雨水貯留・浸透などの機能は、気候変動への適応において非常に重要な役割を果たしている。

 このように森林を始めとする自然生態系が有する多面的機能を活用した気候変動緩和・適応対策を推進するとともに、その手法や評価に係る調査・研究や技術開発を促進する。あわせて、生態系が有する機能を将来にわたり持続的に、かつ最大限に発揮できるよう、科学的な知見に基づき、生態系を再生・保全し自然資本を適切に管理していく。

<具体的施策>

2-3-1 生態系が有する機能を活かした気候変動対策の推進

 生態系を活用した適応策(EbA)や生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)について、生態系機能の評価や可視化に関する取組を進めるとともに、地方公共団体等の実務者向けの手引きの普及・活用を通じて地域における取組を推進する。

【環境省】

2-3-2 森林吸収源対策

 適切な間伐の実施等の取組に加え、人工林において「伐って、使って、植える」循環利用の確立を図り、木材利用を拡大しつつ、エリートツリー等の再造林等により成長の旺盛な若い森林を確実に造成していく。

【農林水産省】

2-3-3 森林病害虫防除対策及び林野火災の予防による森林の保全

 森林生態系の保全のため、都道府県等と連携して、松くい虫やナラ枯れの被害対策等の森林病害虫防除対策を推進するとともに、林野火災の予防に取り組む。また、病害虫に対して抵抗性を有する品種の開発など、生物害に対する森林被害軽減・共存技術の開発を行う。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
保全すべき松林の被害率が1%未満の「微害」に抑えられている都府県の割合 85%

(2021年度)

100%

(2025年度)


2-3-4 都市緑化等による吸収源対策等の推進

 都市緑化等による温室効果ガス吸収源対策として、吸収量の算定方法等の整備や都市緑化等の意義や効果の普及啓発を行うと共に、温室効果ガスの吸収源となる都市公園の整備や、緑地の保全等への支援を行う。また、都市公園や建築物の敷地等において緑化による地表面被覆の改善等のヒートアイランド対策を進めることにより、冷暖房需要を低減する等、間接的な二酸化炭素排出量の削減につながる取組を推進する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
都市公園等の整備面積 84千ha

(2020年度)

85千ha

(2030年度)


2-3-5 バイオマス利活用の推進

・ バイオマス活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的として、2022年9月に「バイオマス活用推進基本計画(第3次)」が閣議決定され、2030年に達成すべき目標を定めており、今後、目標の達成に向け、施策を推進する。

・ 地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指すバイオマス産業都市を推進する。

・ みどりの食料システム戦略推進交付金により、地域のバイオマスを活用したエネルギー地産地消の実現に向けた施設整備等を推進する。

【農林水産省、関係府省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
バイオマスの利用率

(バイオマスの年間産出量に対する利用率)

約74%
 
約80%

(2030年)

バイオマス産業の規模

(製品・エネルギー産業のうち国産バイオマス関連産業の市場シェア)

1%
 
 
2%
(2030年)
 
バイオマス活用推進計画を策定した都道府県数

バイオマス関連計画を活用の市町村数

19都道府県

392市町村

全都道府県

全市町村

(2030年)


2-3-6 下水道バイオマス等の利用推進

 地域で発生する生ごみ、食品廃棄物、家畜排せつ物等のバイオマスを下水処理場に集約することや、廃棄物処理施設との熱融通など地域全体での連携を推進しつつ、広域的・効率的な汚泥利用とともにメタン発酵や乾燥・炭化処理によるエネルギー化等を進める地域のエネルギー拠点化を推進するともに、関係府省が連携した利用者の理解の醸成や需給マッチング支援等の取組を通じた肥料化・リン回収等の緑農地利用の促進を図る。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
下水道バイオマスリサイクル率 37%

(2021年度)

50%

(2030年度)


2-3-7 気候変動適応策の推進[重点]

 気候変動影響に関する総合的な評価を踏まえて、科学的に確認された最新の気候変動影響に対応できるよう、各分野で施策を検討し、気候変動適応を推進する。また、地域の実情に応じた気候変動適応を推進するため、マニュアルの整備や研修の実施等により、地方公共団体が自然生態系分野を含む地域気候変動適応計画を円滑に策定・実施できるよう支援を行う。

【環境省】

2-3-8 自然環境が有する多様な機能を活用した流域治水の推進[重点]

 流域治水の推進に当たっては、自然環境が有する多様な機能を活かしたグリーンインフラの活用を推進し、以下の取組を推進する。

・ 遊水地等による雨水貯留浸透機能の確保・向上を図る。

・ 災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を積極的に保全又は再生することにより、生態系ネットワークの形成を推進する。

・ 都市山麓グリーンベルト整備事業の推進により、市街地に隣接する山麓斜面にグリー

ンベルトとして一連の樹林帯の形成を図る。

【国土交通省、農林水産省、環境省】

2-3-9 気候変動への適応と自然環境に配慮した海岸保全に係る整備・検討

 気候変動に伴う長期的な海水面の上昇が懸念されており、海岸にとっても海岸侵食の進行やゼロメートル地帯の増加、高潮被害の激化、生物の生息域の変化など深刻な影響が生ずるおそれがあることから、潮位、波浪などについて監視を行うとともに、それらの変化に対応するため、気候変動の影響を踏まえた海岸保全基本計画への見直しを推進し、所要の整備・検討等を進める。あわせて、養浜、潜堤や人工リーフの整備などにより海岸の侵食対策を行うとともに、砂浜を保全・回復し、自然とふれあうことのできる快適な空間の創出を進める。

【国土交通省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
気候変動影響を防護目標に取り込んだ海岸の数 0(2021年) 39(2025年)
海面上昇等の影響にも適応可能となる順応的な砂浜の管理が実施されている海岸の数 1(2021年) 20(2025年)

2-3-10 ブルーカーボン生態系の利活用によるCO2吸収源の拡大に向けた取り組みの加速[重点]

 海洋における炭素隔離・貯留(ブルーカーボン)を利用した気候変動の緩和機能の定量的評価手法等について、調査・研究を推進する。また、藻場・干潟等の造成・再生・保全の取組の推進等に取り組む。

【国土交通省、農林水産省】

2-3-11 革新的な省CO2実現に向けた自然由来の素材(セルロースナノファイバー:CNF)の社会実装や普及展開への促進

 CNF活用製品等の市場化を目指す事業者にむけて、製品と材料のマッチングや気候変動対策・資源循環のLCA評価を行う。また、ライフサイクルでのCO2削減が期待できるCNF製品については、その商用規模生産のために必要な設備の導入を支援するほか、製造コスト低減に資するプロセス技術や複合化・加工技術の開発を促進する。

【環境省、経済産業省】

行動目標2-4 再生可能エネルギー導入における生物多様性への配慮を推進する

 気候変動は生物多様性の損失をもたらす主要な要因の一つであり、気温上昇による生息地の縮小や劣化、気候変動に脆弱な種の衰退などを引き起こしていることから、生物多様性保全の観点からも再生可能エネルギーの導入などの気候変動対策を推進する必要がある。一方で、風力・太陽光・地熱等の再生可能エネルギーの導入に当たり、生物の行動、生息地や保全上重要な地域への悪影響を回避するための調整などが課題となっている。

 生態系への負の影響を最小化しながら再生可能エネルギーの導入を推進し、生物多様性の保全と気候変動の緩和を両立させていくためには、再生可能エネルギー導入の計画段階において、生物多様性保全上重要な地域をあらかじめ特定し、回避することにより、生態学的に適正な立地選定を行う等、必要な対策を講じることが最も重要である。あわせて、地域住民の理解と協力を得られるよう十分な合意形成を図っていく必要がある。

<具体的施策>

2-4-1 地球温暖化対策推進法に基づく地域脱炭素化促進事業の促進[重点]

 地球温暖化対策推進法に基づく地域脱炭素化促進事業に関する制度の下、地域における円滑な合意形成を図りつつ、生物多様性の保全を含め環境に適正に配慮し、地域に貢献する再生可能エネルギー事業を促進する。

【環境省】

(目標)

 地球温暖化対策推進法に基づく地域脱炭素化促進事業に関する制度の下、地域における円滑な合意形成を図りつつ、生物多様性の保全を含め環境に適正に配慮した促進区域の定を行い、地域に貢献する再生可能エネルギー事業の導入が拡大できている。

2-4-2 再生可能エネルギー導入における環境影響評価の推進

 再生可能エネルギーの事業の実施に当たり、適正な環境配慮が確保され、生物多様性の保全に資するよう、環境影響評価制度を適切に推進する。

【環境省】

2-4-3 再生可能エネルギー発電設備の立地選択における生物多様性配慮の主流化

 生物多様性の保全及び生態系サービスの持続的な享受と、再生可能エネルギー発電設備の導入とのトレードオフを回避するため、地図上での情報の見える化を含め、適切な立地選択の方法をまとめた指針を取りまとめるとともに、見える化に必要となるデータを提供する。また、トレードオフの回避に係る情報を事業者だけでなく投資家等に提供することで、投融資を通じた生物多様性保全と気候変動対策の両立を促進する。

【環境省】

2-4-4 風力発電施設のバードストライク対策

 再生可能エネルギーを最大限導入するには、地域と共生する形での適地の確保に取り組むことが必要であり、風力発電施設におけるバードストライク対策は生物多様性保全上の観点から重要な課題の一つとなっている。事業者も含めた関係機関の連携体制を確保して知見を集約し、累積的影響の把握を含むより効果的なバードストライク対策を明らかにしていく。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
バードストライク対策に資するガイドラインの作成や手引きの改定数  1

(2022年)

 3

(2030年)

鳥類にとって風力発電施設設置への脆弱性を示すセンシティビティマップの環境影響評価図書(風力発電施設)への引用割合 94%

(2022年)

98%

(2030年)



行動目標2-5 野生鳥獣との軋轢緩和に向けた取組を強化する

 ニホンジカ、イノシシ等の野生鳥獣の生息数の増加や分布域の拡大により、農林水産業や生活環境への被害といった、生態系への深刻な影響が続いている。近年野生鳥獣による農作物被害額は減少傾向にあるが、2021年度の農作物被害額は155億円となっており、依然して高い水準にある。また、クマ類等の大型獣類の市街地等への出没も地域社会の喫緊の問題となりつつある。さらに、野生鳥獣に関する感染症は、人の健康や社会経済活動のみならず、我が国の生物多様性保全にも大きな影響を及ぼすおそれがある。

 野生鳥獣による農林水産業への被害は営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加、さらには森林の下層植生の消失等による土壌流出などにもつながり、人口減少や高齢化等が進む農山漁村の地域づくりに深刻な影響を及ぼしている。

 一方、深刻な被害をもたらしているニホンジカ、イノシシ等は食肉等に利用できるなど、資源としての価値を有している。捕獲した鳥獣の利活用について、2021年度に処理されたジビエ利用量は2016年度と比べて1.7倍の2,127トンと、外食産業での利用の拡大・着しており、また、ペットフードなどの他用途の開拓により、利用量が増加している野生鳥獣による被害を低減し人との軋轢を緩和するため、里地里山の資源利用やゾーニング等を通じた人と鳥獣の棲み分けの取組を進めるとともに、被害防止対策や捕獲による個体群管理、市街地等に出没させない環境管理、捕獲した鳥獣の有効利用による地域振興等、共存に向けた取組を進める。あわせて、鳥獣の捕獲及び利活用の担い手や専門人材の確保・育成を図っていく。また、人間の健康、動物の健康、環境の健全性の三つに統合的に取り組み、分野横断的に課題を解決していくワンヘルス・アプローチを踏まえ、感染症対策等を推進する。

<具体的施策>

2-5-1 鳥獣被害防止対策の推進[重点]

 農林水産業や生態系等へ鳥獣が及ぼす深刻な被害の一層の低減に向け、鳥獣被害防止特措法に基づく市町村による被害防止計画の作成を推進し、緩衝帯の整備による生息環境管理、防護柵の設置による被害防除、鳥獣の生息密度を適正に保つための個体数管理といった取組を総合的に支援する。また、都道府県が行う広域的な捕獲、ICT等の新技術の活用等による効果的な被害対策を推進する。

【農林水産省、環境省】

2-5-2 シカ等による森林被害の防止

 シカ被害を効果的に抑制するため、都道府県による広域的な捕獲の取組を推進するとともに、林業関係者によるシカの捕獲効率向上対策の成果の横展開を図る。また、効果的なシカ被害対策を実施していく上で特に有効なICT等を活用した新たな捕獲技術等の開発・実証を実施するとともに、国有林野内のシカ被害が深刻な奥地天然林や複数の都府県にまたがる地域において国土保全のためのシカ捕獲事業を実施する。あわせて、近年顕在化しつつあるノウサギ食害の深刻化を防ぐため、対策の実証検討を行う。

【農林水産省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
鳥獣害防止森林区域を設定した市町村のうち、シカ被害発生面積が減少した市町村の割合

59%

(2020年度)

対前年度以上
 

2-5-3 カワウの食害による内水面漁業被害の軽減

 カワウの食害による内水面漁業被害の低減のため効果的な個体数管理手法や防除手法の開発・普及するとともに、農林水産省、環境省、都道府県等とで広域的な連携を進め、全国各地で捕獲及び防除等を中心とした各種対策を効率的かつ効果的に実施する。

【農林水産省、環境省】

2-5-4 トドによる漁業被害の軽減

 トドによる漁業被害の軽減に当たって、生物多様性に配慮しつつ、その科学的知見に基づく来遊個体群の管理を行う等の対策を推進する。

【農林水産省】

2-5-5 ゼニガタアザラシの保護管理

 希少鳥獣であるゼニガタアザラシによる漁業被害が深刻化しているため、種の保全に十分配慮しながら総合的な保護管理を推進する。特に、「えりも地域ゼニガタアザラシ特定希少鳥獣管理計画」に基づき、えりも地域ゼニガタアザラシ個体群と沿岸漁業を含めた地域社会との将来にわたる共存を図るため、地域個体群の持続可能性に留意しつつ、生息数モニタリング、個体群管理(個体数調整)、漁業被害の低減に向けた被害防除事業等を継続実施する。

【環境省】

(目標)2014年比80%まで個体数を削減し、その水準を維持

2-5-6 基本指針を踏まえた鳥獣保護管理施策の推進

 野生鳥獣との軋轢を緩和し、人と鳥獣との適切な関係を構築するため、鳥獣の保護・管理の状況の変化や社会的変化に応じて、5年ごとに鳥獣保護管理法に基づく基本指針の見直しを行うとともに、国、地方公共団体、研究機関、民間団体等が連携・協力して、基本指針を踏まえた施策を総合的に推進する。

【環境省】

2-5-7 指定管理鳥獣(ニホンジカ・イノシシ)の適正管理の推進[重点]

 農林水産業や生態系等に深刻な影響を及ぼすニホンジカ及びイノシシについては、2023年度の半減目標の達成に向け、指定管理鳥獣捕獲等事業等により、引き続き捕獲の強化を図るとともに、それまでの取組状況等を踏まえ、2024年度以降の目標の在り方を検討し、広域的かつ集中的な管理の継続・強化を図る。

【環境省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ニホンジカの個体数 285万頭(2020年) 147万頭(2023年)
イノシシの個体数 87万頭(2020年) 60万頭(2023年)

2-5-8 特定鳥獣の科学的・計画的な保護管理の強化[重点]

 ニホンジカ、イノシシ、サル、クマ、カワウ等の特定鳥獣については、第二種特定鳥獣管理計画に基づき、適切な管理の目標の設定・評価・見直しによる、科学的・計画的な保護管理を強化するとともに、県境を越えて広域に移動する鳥獣については、関係機関が携し広域的な管理の強化を図る。また、近年増加するクマ、イノシシ等の市街地等への出没に対応するための体制構築等を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
第二種特定鳥獣管理計画(ニホンジカ及びイノシシ)の目標を達成した都道府県の割合

ニホンジカ:13%

イノシシ:19%

ニホンジカ:100%

イノシシ:100%(2030年)

ニホンザルとクマ類の恒常的に生息する都道府県における特定鳥獣保護管理計画の作成割合 ニホンザル:62%

クマ類:67%

ニホンザル:100%、

クマ類:100%

(2030年)

鳥獣管理を目的とした複数都道府県等で構成される広域協議会の設置状況 クマ類:4

カワウ:4

クマ類:16

カワウ:5

(2030年)


2-5-9 鳥獣の捕獲等の適正化

 狩猟は、鳥獣の個体数管理に一定の役割を果たしており、適正な鳥獣保護管理の推進の観点から、狩猟者及び狩猟免許制度等の在り方について検討を行う。また、ニホンジカ、イノシシ等の鳥獣の管理が強化される中で、わなの使用に伴う錯誤捕獲の増加も懸念されることから、錯誤捕獲される鳥獣の種類、数等について情報収集し、対策の検討を行う。錯誤捕獲の防止は、捕獲等の非対象種を保護する観点で重要であるとともに、鳥獣の計画的な管理にも寄与するものであることにも留意し、錯誤捕獲の防止に効果が見込まれる場合には、わなの形状の見直しや使用規制等の措置を検討する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
錯誤捕獲の発生状況を収集し、活用している都道府県数  25  47

(2030年度)


2-5-10 鳥獣の保護・管理におけるデジタル化の推進

 政府全体のデジタル化に対応しつつ、科学的・計画的な鳥獣の保護・管理を進めるため、鳥獣保護管理法に基づく手続きのオンライン化を進めるとともに、都道府県等が収集する捕獲情報を「捕獲情報収集システム」により一元的に収集・管理し、活用しやすいオープンデータとして提供することで、鳥獣の保護・管理の効率化・省力化を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
都道府県における捕獲情報収集システムの利用率 68%

(2022年度)

100%

(2030年度)


2-5-11 地域資源としての捕獲鳥獣の利活用に向けた取組

 生息環境管理、個体数管理、被害防除等の対策への支援と併せて、捕獲された個体の処理加工施設の整備や衛生管理の高度化、処理加工施設と流通販売関係者が連携した取組等を支援し、地域資源としての捕獲鳥獣の利活用を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ジビエ利用量 2,127t

(2021年度)

4,000t

(2025年度)


2-5-12 次世代の鳥獣保護管理の担い手の確保・育成

 狩猟者や認定鳥獣捕獲等事業者等の鳥獣保護管理の担い手の確保・育成するため、鳥獣保護管理に必要な人材を明確にするとともに体系的な確保・育成方策の検討を行う。また、目的達成のため、それぞれの地方公共団体職員や狩猟者、認定鳥獣捕獲等事業者等を対象とした技術研修の実施、大学や学会等と連携した専門人材の育成、専門的知見及び技術有する者を登録・活用する人材登録事業の活用、狩猟免許取得を促すイベントの企画・コンテンツ製作等の各種事業を推進する。

【環境省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
40代以下の狩猟免許所持者数 5.5万人

(2018年度)

6.6万人(2割増加)

(2030年度)

夜間銃猟等の認定を受けている認定鳥獣捕獲等事業者の割合 14%

(2021年度)

25%

(2030年度)

都道府県当たりの専門的知見を有する職員の平均数 3.7人

(2022年度)

5.0人

(2030年度)


2-5-13 鳥獣被害防止対策の担い手の確保・育成

 鳥獣被害対策実施隊の設置推進や農業者等の多様な者の参画を促し、鳥獣被害防止対策の担い手の育成・確保を行う。また、体系的な研修による人材育成の充実強化を行い、捕獲者や処理加工施設に従事する者の人材育成を推進する。

【農林水産省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
鳥獣被害対策実施隊の隊員数 42,053人(2022年度) 43,800人(2025年度)

2-5-14 野生鳥獣に関する感染症への対応

 野生鳥獣に関する感染症は、人の健康や社会経済活動のみならず、我が国の生物多様性保全にも大きな影響を及ぼすおそれがあることから、その影響をできる限り抑制又は低減するため、生物多様性保全上のリスクを評価するとともに、早期に感染症の発生を確認し、ワンヘルス・アプローチの観点も踏まえ関係者が連携して迅速に対応するための体制等の整備を行う。また、生物多様性の保全の観点のほか、家畜衛生の観点からも大きな影響を及ぼす、高病原性鳥インフルエンザや豚熱については、関係省庁・都道府県が連携してサーベイランスを実施し、ウイルスの早期発見と発生時の迅速かつ円滑な対応に努める。ウイルスを運ぶ可能性のある渡り鳥の飛来状況や感染症発生状況等については、国民への分かりやすい情報提供や関係機関への情報共有を行う。さらに、野生イノシシの豚熱感染は農場での豚熱発生の要因となることから、野生イノシシの豚熱の感染状況について国民への分かりやすい情報提供を行うとともに、経口ワクチンの散布により野外ウイルス濃度低減を図る。加えてアフリカ豚熱の野生イノシシへの侵入防止と侵入時の防疫体制の強化を図る。

【環境省、厚生労働省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
野生鳥獣に関する感染症により、種の存続を脅かす野生鳥獣の大量死や希少鳥獣への悪影響が確認された数  1

(2022年度

(年末時点))

 0

(毎年)

関係機関が連携して全国的なサーベイランスや対策等を実施している、生物多様性保全上重要な野生鳥獣に関する感染症数  3

(2021年度)

 3

(毎年)

生物多様性保全上のリスク評価において優先度が高いとされた感染症のうち、具体的な対策の検討等を行った感染症の数 2/30

(2021年度)

10/30

(2023年度)


2-5-15 愛玩動物に関する感染症への対応

 飼い主等への普及啓発において、ワンヘルス・アプローチの観点も踏まえ、野生動物と愛玩動物、人の間における人獣共通感染症の感染防止を周知することで、生物多様性保全に寄与する。

【環境省、厚生労働省、農林水産省】


第3章 ネイチャーポジティブ経済の実現

行動目標3-1 企業による生物多様性への依存度・影響の定量的評価、現状分析、科学に基づく目標設定、情報開示を促すとともに、金融機関・投資家による投融資を推進する基盤を整備し、投融資の観点から生物多様性を保全・回復する活動を推進する

 企業等の事業活動は様々な形で生物多様性・自然資本に依存しており、生物多様性・自然資本を適切に保全・管理していくことが事業の持続可能性を高めることにつながる。

 生物多様性保全と経済活動の好循環を目指す動きとして、自社やサプライチェーンの上流や下流も含めた事業活動による生物多様性・自然資本への影響や依存度を適切に評価し、経営上のリスクと機会を分析して事業戦略に組み込んでいくとともに、その情報を適切に開示していく取組が広がっている。生物多様性は温室効果ガス排出量のように数値化できる指標が少なく、事業活動による影響を定量的に示すのは容易ではないこと等から、気候変動対応に比べて取組が進んでいるとは言い難い状況であった。しかし近年、TNFDやSBTs for Natureなどの国際的なルールづくりの議論が急速に進んでおり、ESG投資の分野においても生物多様性への関心が高まっている。

 こうした流れを捉え、TNFD等の国際的な枠組に対応できるよう、国や企業など様々な主体が連携しながら生物多様性に係る評価や情報開示に係る仕組みの整備、サプライチェーンに係るデータ連携、ノウハウや情報共有のためのプラットフォーム構築等を進める。

あわせて、生物多様性の保全・回復に資する投融資を拡大させていくため、金融機関・投

資家側の認識向上、金融機関・投資家と企業の対話の促進等により投融資の基盤を整備する

とともに、生物多様性の分野での保全・回復に資する事業を資金使途としたグリーンボンド

等の普及を図っていく。

<具体的施策>

3-1-1 国際的なルール形成への参画及び国内企業の巻き込み[重点]

 TNFD、SBTs for Nature、ISO/TC331(国際標準化機構に設立された生物多様性に関する専門委員会)等における民間イニシアティブにおける議論に関して、我が国のビジネスセクターの実情に即した枠組になるよう積極的に議論に貢献する。あわせて、国内のイニシアティブ(JBIB、経団連自然保護協議会等)とも連携し、企業による生物多様性配慮の経営への盛り込みや目標設定・情報開示を促進するためのガイドラインの作成と普及等を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国際的なイニシアティブ(SBTs for Nature,TNFD等)及び国内のイニシアティブ(JBIB、経団連自然保護協議会等)に参加・賛同・認定を受けている企業の数又は割合 企業数 218

(2022年)

企業数 300

(2025年度)

生物多様性の配慮を経営に取り込んでいる企業の数又は割合 75%※

(2019年度)

80%

(2025年度)

生物多様性の配慮に関する目標設定及び情報開示を行っている企業の数又は割合 目標設定 55%

情報公開 74%

 

目標設定 60%

情報公開 80%

(2025年度)


※出典:「生物多様性に関するアンケート-自然の恵みと事業活動の関係調査-」<2019年度調査結果>

(一般社団法人日本経済団体連合会、経団連自然保護協議会、生物多様性民間参画パートナーシップ)

3-1-2 ネイチャーポジティブ経済研究会[重点]

 2022年3月に立ち上げたネイチャーポジティブ経済研究会を通じて、ネイチャーポジ

ティブとビジネスに関する国際及び国内の状況分析及びそれらを踏まえた我が国として

のビジョンや戦略の策定を行い、民間企業による生物多様性・自然資本の保全及び持続的

利用に関する取組を促進する。

【環境省】

(目標)

 2023年度内にネイチャーポジティブ経済の実現に向けたビジョン及び道筋を示したネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)を策定する。

3-1-3 サプライチェーン対応、指標・見える化、データ整備[重点]

 国際的な民間イニシアティブによるルールメイキングの動向を踏まえ、サプライチェーン対応、指標・見える化、データ整備を進めることにより、国内企業が生物多様性・自然資本に配慮した持続可能な経営を推進するための支援を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
サプライチェーン対応、指標・見える化、データ整備を実施している企業の数又は割合  −   − 

3-1-4 情報開示、定量評価及び定量目標設定の支援[重点]

 国際的な民間イニシアティブによるルールメイキングの動向を踏まえ、TNFDやSBTs for Nature等に関するガイドラインを策定し、国内企業が生物多様性・自然資本に配慮した持続可能な経営を推進するための支援と普及啓発を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性の配慮を経営に取り込んでいる企業の数又は割合 75%

(2019年度)

80%

(2025年度)

普及啓発に関するセミナー等の開催件数 16件/年

(2021年)

80件

(2025年度累積)


3-1-5 生物多様性・自然資本に関する情報開示、グリーンファイナンスの促進[重点]

 企業の生物多様性や自然資本に関する情報開示を進めるとともに、当該分野におけるグリーンファイナンスを推進する。また、グリーンインフラの社会実装に向け、グリーンボンド等の民間資金調達手法の活用により、グリーンファイナンス、ESG投資の拡大を図る。

【環境省、国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
TNFDへの賛同団体数(国内)  45  90(2025年度)

3-1-6 環境に配慮した不動産へのESG投資促進

 生物多様性など環境に配慮した優良な不動産へのESG投資が促進される不動産投資市場の形成に向けた環境整備を推進する。

【国土交通省】

行動目標3-2 生物多様性保全に貢献する技術・サービスに対する支援を進める

 事業者はその事業活動を通じ、自然の恵みを原材料として利用、加工、流通して商品・サービスを提供する一方で、土地利用の変化や汚染物質の排出などによって生物多様性に負荷をかけている。このように事業者の活動は生物多様性に依存し、かつ影響を与えており、生物多様性への負荷の低減や、生物多様性保全への貢献に積極的に取り組むことが求められいる。事業者による生物多様性保全に貢献する技術やサービスを支援することは、事業活動における環境負荷を低減させるのみならず、生物多様性に配慮した商品等の選択肢が増えることで、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることができる社会の構築につながる。

 事業者の取組を支援するため、革新的な技術開発やサービス等を通じて環境負荷の軽減に貢献する事業者に関する情報を発信するほか、グリーン購入法に基づき公的機関が率先して環境物品等の調達を進めることで、社会全体の需要の転換を促す。さらに、環境保全に焦点を当てた技術の社会実装を促す。

<具体的施策>

3-2-1 ネイチャーポジティブに係るビジネス分野の取組支援[重点]

 生物多様性の保全に資する技術、製品・サービスを提供している企業の数及び市場規模の拡大を後押しするための情報共有基盤を拡充する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性の配慮を経営に取り込んでいる企業の数または割合 75%
80%

(2025年)

生物多様性の保全に資する技術、製品・サービスを提供している企業の数及び市場規模 8.5兆

(2019年)

9.0兆円

(2025年)


3-2-2 優良事例の情報発信

 我が国の企業が有する生物多様性保全に係る技術、製品、サービスについて、優良事例を取りまとめ国内外へ情報発信する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性ビジネス貢献プロジェクトへの掲載件数 50件

(2022年)

200件

(2025年)


3-2-3 政府調達におけるグリーン購入の推進

 国等の公的機関が率先して環境物品等の調達を推進するとともに、環境物品等に関する適切な情報提供を促進することにより、需要の転換を図り、持続的発展が可能な社会の構築を推進する。

【環境省】

3-2-4 スマート農業技術の社会実装の推進

 AI等を用いた早期・高精度な発生予測技術や効率的な農薬・肥料散布技術など環境保全に焦点を当てたスマート農業技術の開発や実証を通じて、生物多様性保全の視点にも立った栽培技術の確立・普及等の取組を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
データを活用した農業を実践する農業の担い手の割合 49%

(2021年参考値)

ほぼ全て

(2025年)


行動目標3-3 遺伝資源の利用に伴うABSを実施する

 医薬品の開発や農作物の品種改良など、遺伝資源の価値は拡大する一方、世界的な森林減少や砂漠化の進行等により、多様な遺伝資源が減少・消失の危機に瀕しており、貴重な遺伝資源を収集・保存し、次世代に引き継ぐとともに、持続可能な形で積極的に活用していくことが重要となっている。

 2010年に我が国で開催されたCOP10で「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)に関する名古屋議定書」が採択された。遺伝資源の取を確実なものとし、その利用によって開発された医薬品等が人類の福利に貢献し、遺伝資源の利用から得られた利益を遺伝資源の提供国に適切に配分して遺伝資源を育む生態系の保全を進めていくことが、この議定書が目指す姿である。我が国では2017年に名古屋議定書を締結し、その国内措置として遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(以下「ABS指針」)が策定された。本指針は、提供国法令の遵守の促進に関する措置及び利益を生物多様性の保全等に充てる等の遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS: Access and Benefit-Sharing)の奨励に関する措置を講ずることにより、

提供国等からの信頼を獲得し遺伝資源を円滑に取得できるようにすることで、日本国内における遺伝資源に係る研究開発の推進に資するものであり、また提供国から我が国に持ち込まれた遺伝資源の適切な利用を促進するものとなっている。

 ABS指針は、施行後5年の経過に先立ち、施行状況等に関するフォローアップが2021年度から2022年度にかけ行われたところであり、制度改正の必要性は無いとの方針が示された一方、ABS指針の正しい理解や普及啓発の継続、技術的な課題について引き続き議論を深めていくこと等が必要とされている。

 ABSの理念に基づき遺伝資源を持続可能な形で有効利用するとともに生物多様性保全にも資する取組を進めるため、国内制度の遵守や普及啓発、国際的な動向も含めた情報の収集・共有、更に遺伝資源の適切かつ積極的な活用に向けた国際的な連携の強化等を図る。

<具体的施策>

3-3-1 名古屋議定書の国内措置(ABS指針)の推進

▶ 遺伝資源の利用に伴うABSの実施

 名古屋議定書に基づき、提供国のABSに関する国内制度の遵守の促進及び普及啓発を実施し、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を実現させることで、生物多様性の保全と持続可能な利用に貢献する。

【経済産業省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、環境省】

▶ 名古屋議定書の国内実施

 名古屋議定書の国内担保措置の運用により、我が国における海外遺伝資源の適法取得及び適正利用を促進する。これに当たり、これまでのABSの実施を進める上で見えてきた遺伝資源の取得、利用に係る技術的な課題への対応の検討も進める。また、国際的な名古屋議定書のレビューの観点も踏まえつつ、産業、学術分野ごと、また業種を超えた事例収集や情報共有を進める。

【環境省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
名古屋議定書、ABS指針の関連分野の研究者等の認知度


名古屋議定書の認知度:

内容を知っている72.3%

ABS指針の認知度:

内容を知っている66.0%

(2019年度)

名古屋議定書の認知度:

内容を知っている80%

ABS指針の認知度:

内容を知っている70%

(2030年度)


出典:平成31年度環境経済の政策研究(「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(ABS指針)」の見直しに向けた、提供国措置の便益・コスト等の評価に関する研究)」(関連分野における研究者、技術者等に対して行ったアンケート調査)

3-3-2 遺伝資源の収集・保全、利用(ABS関係)

 遺伝資源利用に係る国際情勢の動向調査等を実施するとともに、「食料及び農業のための植物遺伝資源条約(ITPGR)」の「多数国間の制度」を通じて我が国の品種開発の発展にとって重要な植物遺伝資源の導入を円滑に推進する。

【農林水産省】

3-3-3 独立行政法人製品評価技術基盤機構による二国間連携の取組

 独立行政法人製品評価技術基盤機構による二国間の取組として、アジア諸国/地域の一部と政府機関及び傘下の研究機関との間で、微生物資源の保全と利用に関する文書を作成し、海外の微生物資源の保全と持続可能な利用のための取組を実施し、資源保有国に遺伝資源の保全や収集、利用に関する技術を移転するとともに、海外資源へのアクセスルートの確保及び資源国との合意に基づく資源移転とその利用により、我が国の企業に遺伝資源の利用の機会を引き続き提供していく。

【経済産業省】

行動目標3-4 みどりの食料システム戦略に掲げる化学農薬使用量(リスク換算)の低減や化学肥料使用量の低減、有機農業の推進などを含め、持続可能な環境保全型の農林水産業を拡大させる

 農林水産業は、本来、自然に働きかけ、適切に利用し、その恵みを享受する生産活動であり、生物多様性と自然の物質循環が健全に維持されることにより成り立つものである。我が国においては、昔から人間による農林水産業の営みが、地域特有の景観や自然環境を形成し、多様な生物種にとって貴重な生育・生息環境を提供し、生態系を形成・維持するなど生物多様性に大きな役割を果たしている。一方で、環境への配慮を欠いた農地や水路の整備、過剰な農薬・肥料の使用、過剰な漁獲などの活動が野生生物種の生育・生息環境を劣化させ、生物多様性に大きな影響を与えてきた。また近年では、農山漁村の過疎化、担い手の減少なによる農林水産業の活動の停滞に伴う、里山林の利用の低下や耕作放棄された農地の増加などにより、里地里山に身近に見られた生物が減少するとともに、人間活動の縮小に伴い鳥獣被害が深刻になっている。このように、農林水産業と生物多様性は密接に関係しており、農林水産業を持続可能なものとして維持・発展させていくためには、生物多様性を守らなければならないことを生産者だけでなくサプライチェーン全体が認識する必要がある。

 こうしたことを踏まえ、「みどりの食料システム戦略」や「農林水産省生物多様性戦略」等に基づき、化学農薬の使用によるリスクや化学肥料の使用量の低減、有機農業の拡大など持続可能な農林水産業の実現に向けた取組を進める。

 また農林水産業の現場が現在直面している、担い手の減少・高齢化、地域コミュニティの衰退や生産性の低下等の課題を克服しながら、持続可能な食料生産の構築と環境負荷の低減を実現していくため、関係者の行動変容と、それを後押しするイノベーションを創出する農業・林業・畜産業・水産業の各分野において、生産から消費に至る全ての段階で生物多様性への負荷軽減に向けた取組が進むよう、関係者の意欲的な取組を引き出し、革新的な技術、生産体系の開発と社会実装に取り組むとともに、ノウハウの普及や人材育成を図っていく。

<具体的施策>

3-4-1 みどりの食料システム戦略[重点]

 みどりの食料システム戦略の実現に向け、2030年目標や、環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(令和4年法律第37号)に基づき、新技術の開発、有機農業の推進、環境負荷低減の見える化等を進める。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値(基準値) 目標値
化学農薬使用量(リスク換算) 23,330(リスク換算値)

(2019農薬年度)(注)

10%低減

(2030年)

化学肥料使用量 90万トン

(2016年)

72万トン(20%低減)

(2030年)

有機農業の取組面積 25.2千ha

(2020年)

63千ha

(2030年)


注)2019農薬年度は、2018年10月~2019年9月とする。

3-4-2 有機農業の推進

・ 有機農業の拡大に向けた現場の取組を推進するため、新たに有機農業に取り組む農業者の技術習得等による人材育成等を支援する。

・ 地域ぐるみで有機農業に取り組む市町村等の取組を推進するため、有機農業の生産から消費まで一貫し、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻きこんで推進する取組の試行や体制づくりについて、物流の効率化や販路拡大等の取組と一体的に支援する。

・ 現場の実践技術の体系化と普及を促進するとともに、2040年までに、主要な品目について次世代有機農業技術を確立する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
指標現状値目標値 25.2千ha(2020年) 63千ha(2030年)

3-4-3 環境に配慮した農法の推進

・ 農業者の組織する団体等が実施する、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて行う、地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動(有機農業、冬期湛水管理など)を支援する。

・ 耕畜連携の強化による家畜排せつ物由来の堆肥や食品循環資源由来の堆肥の利用、緑肥の利用等による土づくりを推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
有機農業の取組面積 25.2千ha(2020年) 63千ha(2030年)

3-4-4 持続可能な営農を通じた田園地域や里地里山の環境整備の推進

 中山間地域等において、農用地面積の減少を防止し、農業の有する多面的機能を確保するため、農業生産活動を維持する活動を支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
中山間地域等の農用地面積の減少防止 7.2万ha(2020年度) 7.5万ha(2024年度)

3-4-5 国産飼料の増産・利用のための体制整備

 飼料生産組織の作業効率化・運営強化や飼料作物の優良品種利用・安定生産、公共牧場の利用、国産濃厚飼料の生産振興、未利用資源の新たな活用・高品質化などの国産飼料の一層の増産・利用のための体制を整備する。

【農林水産省】

3-4-6 施肥の効率化・スマート化

 土壌や作物の生育に応じた施肥や局所施肥等で施肥を効率化するとともに、データの蓄積・活用により「スマート施肥」を導入する。

【農林水産省】

3-4-7 病害虫の総合防除の推進

化学農薬のみに依存せず、病害虫・雑草が発生しにくい生産条件の整備(予防)や、病害虫の発生予測(予察)に重点を置いた「総合防除」の取組を推進する。

【農林水産省】

(目標)

植物防疫法(昭和25年法律第151号)の改正に基づき国が策定する基本指針に即して、都道府県が総合防除の実施に関する計画を策定することにより、総合防除を推進。

3-4-8 家畜排せつ物の利活用の推進

 耕種農家のニーズにあった高品質な堆肥の生産や、ペレット化を通じた広域流通等、地域の実情に応じた家畜排せつ物の利活用の推進。家畜排せつ物のメタン発酵によるエネルギー利用や、発酵残渣の液肥利用を推進する。

【農林水産省】

3-4-9 GAPの普及推進

 我が国共通の国際水準GAPの取組基準である国際水準GAPガイドラインに基づく都道府県との連携による普及活動や、GAPに取り組む農業者のメリットの明確化、指導体制

の強化や面的取組の拡大、実需者・消費者のGAPの認知度向上等の取組を進め、国際水準GAPの取組の拡大を図る。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国際水準GAPを実施する農業者数 24,653経営体

(2021年度)

24万経営体

(2030年度)


3-4-10 畜産GAP取得推進

 適正な廃棄物等の保管・処理等による環境負荷の低減につながる畜産GAPの認証取得への支援など、取組の拡大を支援する。

【農林水産省】

3-4-11 適切な生産活動を通じた木材の需要拡大への取組

・ 素材生産・流通・加工の低コスト化や品質・性能の確かな製品の安定供給体制の整を中心とする構造改革を推進する。

・ CLTや木質耐火部材等の開発・普及、公共建築物や民間の非住宅分野等への国産材等

の利用拡大を推進する。

・ 森林の持続可能性が確保された形で木質バイオマスのエネルギー利用を推進

・ 木質バイオマス由来のセルロースナノファイバー、改質リグニン等の化石資源由来製品代替となる新素材の研究・技術開発及びその普及を促進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国産材の供給・利用量 3,400万㎥

(2021年度)

4,200万㎥

(2030年まで)

新素材の開発・実証件数 3件(2021年度) 毎年度3件

3-4-12 森林施業の適切な実施に向けた新技術の導入や人材育成

・ 適切な森林整備に向けて、森林経営計画の作成の中核を担う森林施業プランナーや森林の持続経営を実践する森林経営プランナーを育成する。

・ 森林施業の適切な実施に向けて、成長に優れた苗木や機械を活用した新たな造林技術の導入を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
認定森林施業プランナーの現役人数 2,206人

(2021年度)

3,500人

(2030年度)

認定森林経営プランナーの現役人数 67人

(2021年度)

500人

(2025年度)


3-4-13 合法伐採木材等の流通及び利用の促進

 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(平成28年法律第48号)に基づき、全ての事業者に合法伐採木材等を利用するよう努めることが求められている。同法が目指す合法伐採木材等の流通及び利用拡大のため、情報提供サイト「クリーンウッド・ナビ」を通じた情報の提供、幅広い関係者の参加による協議会を通じた普及啓発活動への支援を実施する。

【農林水産省、経済産業省、国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
第一種登録木材関連事業者が取り扱う合法性が確認できた木材の量 3,035万㎥

(2019年度)

4,350万㎥

(2025年度)


3-4-14 脆弱な生態系の保護と持続的な漁業の共存[重点]

 我が国が加盟している地域漁業管理機関の科学委員会による公海底魚漁業が海山等に存在する脆弱な生態系に与える影響に係る評価を踏まえ、各加盟国等と協力しつつ、持続的な漁業との共存が可能な適切な管理措置の導入に取り組む。

【農林水産省】

3-4-15 水産資源調査・評価の充実・精度向上

 資源評価対象魚種を順次拡大し、当該魚種の調査を開始する。我が国周辺水域の主要魚種(マイワシ、マサバ等)や公海等で漁獲される国際漁業資源(サケ、カツオ・マグロ等)について、調査・評価等を実施する。海洋環境の変動等による水産資源への影響を調査し資源変動メカニズム及び中・長期的な資源動向を究明する取組や、漁場形成及び漁獲状況等をリアルタイムに把握する取組等を支援する。

【農林水産省】

3-4-16 MSYベースの水産資源評価に基づくTAC管理の推進

漁業法(昭和24年法律第267号)の改正においては、TAC(漁獲可能量)による管理が基本とされており、2021年漁期から8魚種について、改正漁業法に基づくTAC管理が開始されている。引き続き、ロードマップ及びTAC魚種拡大に向けたスケジュールに従い、TAC魚種の拡大を推進し、2023年度までに漁獲量ベースで8割をTAC管理とする。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
漁獲量※1 のうちTAC魚種の占める割合 60.5% 80%

(2023年度)


※1 遠洋漁業で漁獲される魚類、国際的な枠組みで管理される魚類(かつお・まぐろ・かじき類)、さけ・ます類、貝類、藻類、うに類、海産ほ乳類は除く。

3-4-17 水産資源管理におけるIQ管理の導入

 IQ(漁獲割当て)による管理については、ロードマップに従い、2023年度までに、TAC魚種を主な漁獲対象とする沖合漁業(大臣許可漁業)に原則導入する。

【農林水産省】

3-4-18 水産資源管理における資源管理協定への移行

 国や都道府県による公的規制と漁業者の自主的な取組の組合せによる資源管理推進の枠組みは今後も存続し、自主的な取組を定める資源管理計画は、改正漁業法に基づく資源管理協定に移行することになっており、2023年度までに、現行の資源管理計画から、改正漁業法に基づく資源管理協定への移行を完了させる。

【農林水産省】

3-4-19 水産資源管理のルールの遵守

 アワビ・ナマコ等の沿岸域の密漁や我が国周辺水域における外国漁船の違法操業に対する取締りを強化するとともに、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(令和2年法律第79号)に基づく特定の水産動植物の国内流通及び輸出入の適正化を図る。

【農林水産省】

3-4-20 国際水産資源の持続的利用

 持続的な漁業の達成に向け、FAOが行う、途上国へのIUU(違法、無報告、無規制)漁業対策支援、ワシントン条約への科学的助言の提供等に必要な経費を支援する。さらに、漁業補助金規律の適切な策定・実施のため、WTOを通じて途上国メンバーに対して、漁業当局の関連会合への参加、補助金等の通報の改善等を支援する。また、資源状況の悪化が懸念されているマグロ類を含む高度回遊性魚類の持続可能な利用・管理について、我が国の漁業生産及び消費における立場を十分に踏まえ、地域漁業管理機関を通じて、科学的根拠に基づく保存管理措置の設定や、IUU漁業の排除に取り組む。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
違法漁業防止寄港国措置協定(PSM協定)の批准国数 74か国

(2022年度)

75か国

(2026年度まで)

我が国及びFAO専門家の知見を活かした生物多様性の確保と水産資源の持続的利用の両立への貢献  − 
 − 
世界の全漁獲量の約90%を占める漁獲量上位国(33か国・地域)のうちの途上国20か国全てがWTOに漁業補助金を通報する 10か国

(2018年度)

20か国

(2026年度まで)

カツオ・マグロ類等資源の適切な保存管理措置を地域漁業管理機関において採択する WCPFC:5

ICCAT:20

(2021年度)

WCPFC:毎年6

ICCAT:毎年8



3-4-21 捕鯨対策

 鯨類の資源管理に必要な科学的データの収集を推進するとともに、国際機関と連携しつつ、資源管理を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
捕獲可能量 379頭/年

3-4-22 人工種苗生産技術の開発・普及

 ニホンウナギ、クロマグロ、ブリ、カンパチの養殖において、人工種苗生産技術の開発・普及を推進し、天然資源に負荷をかけない持続可能な養殖体制を目指す。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ニホンウナギ、クロマグロ、ブリ、カンパチの人工種苗比率 1.9%

(2019年)

100%

(2050年)


3-4-23 さけ・ます増殖事業の推進

 国立研究開発法人水産研究・教育機構が実施するふ化放流のモニタリングや技術開発の結果等を踏まえて、野生魚を活用したふ化放流技術の研究などを進め、人工種苗放流技術の高度化を図り、河川及びその周辺の生態系や生物多様性に配慮したさけ・ます増殖事業を推進する。

【農林水産省】

3-4-24 環境・生態系と調和した栽培漁業の推進

 「人工種苗放流に係る遺伝的多様性への影響リスクを低減するための技術的な指針」に基づき、生態系や資源の持続性に配慮した栽培漁業を推進する。

【農林水産省】

3-4-25 養殖における環境負荷の軽減

・ 養殖漁場ごとに漁場改善計画を定めて漁場環境を管理するとともに、海洋環境への負荷軽減が可能な養殖業を推進する。

・ 伝染性疾病の発生予防及び発生時における指導や、特定疾病のまん延防止措置を支援する。

・ ワクチン等の開発支援や、組織的なワクチン接種の推進等による防疫体制整備の支援を行い、養殖魚における疾病被害を低減する。

・ 薬剤耐性菌の監視・動向調査の結果を踏まえ、薬剤耐性に関する研修会等の実施により、知識・技術の普及啓発を行い、養殖魚における薬剤耐性菌の発生を低減する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
養殖生産額に対する魚病推定被害額の割合

 3.0%  3.0%

3-4-26 漁業における混獲の削減

 サメ類や海鳥、ウミガメの混獲を回避する技術の開発や漁業者への普及・啓発を通じ、混獲を削減する。

【農林水産省】

3-4-27 魚粉代替原料の開発・普及

 生餌から、環境負荷が少なく給餌効率の良い配合飼料への転換や、魚粉代替原料の開発・普及を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
養殖業における配合飼料使用比率 44%(2019年) 100%(2050年)

3-4-28 赤潮・貧酸素水塊、栄養塩類不足への対応

 海域ごとの赤潮・貧酸素水塊や栄養塩類不足による漁業被害への対策技術の開発・実証・高度化を実施する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
我が国の養殖生産量 970千トン(2020年度) 970千トン(各年度)

3-4-29 漁村地域における新規就業者の確保

 漁業への就業前の者への資金の交付、漁業現場での長期研修を通じた就業・定着の促進、海技士免許等の資格取得及び漁業者の経営能力の向上等を支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
新規就業者数 1,744人(2021年度) 各年度2,000人


第4章 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人一人の行動変容)

行動目標4-1 学校等における生物多様性に関する環境教育を推進する

 生物多様性の損失を止め社会変革を実現するためには、生物多様性の重要性等に対する人々の知識と関心を高め、行動の変化につなげることが不可欠である。その基礎となるのが、学校等における生物多様性を含めた環境教育の推進と、それを支える人材の育成である。

 我が国は国際的な枠組みである「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」の理念を踏まえ、関係省庁が連携して2021年5月に「第2期ESD国内実施計画」を策定した。また学習指導要領では、小・中・高等学校の各段階において「持続可能な社会の創り手」となることが期待されることを明記しており、ESDを推進していくこととしている。

 学校以外の場においても、幅広い世代の多くの人々が環境について学ぶ機会を得られるよう、NPOや地域住民等の様々な主体が、里地里山、河川、湿地など身近な自然を活用した多様な環境学習や自然体験の機会の提供等を行っている。

 このような生物多様性を含めた環境教育を更に推進するため、指導者や専門知識を有する人材の育成を目的とした教職員や企業・団体の職員向け研修・セミナーの実施、環境教育のための人材認定等事業の登録などに加え、環境教育等に役立つ情報の発信、セミナーやイベント等を通じた普及啓発を進める。さらにESD活動支援センターを起点としたESD推進ネットワークも活用し、家庭や地域など学校以外での教育を担う民間団体の取組を促進する。

 あわせて、環境学習の場を提供するため、河川や下水道等の活用や、都市公園や学校施設等の整備を進める。

<具体的施策>

4-1-1 環境教育の推進

 学校や地域で環境教育を実践・推進するリーダー人材の育成、自然体験活動等を提供する「体験の機会の場」の認定、民間事業者が行う人材認定等事業の登録・公示、環境保全に関する専門的な知識等を有する環境カウンセラーの登録、環境教育の推進に関する情報の整備・発信等により、地域、学校、家庭等における環境教育を普及し、持続可能な社会づくりの基盤形成を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
教職員等環境教育・学習推進リーダー養成研修の参加者数 458

(2021年度)

600

(2030年度)

「体験の機会の場」利用者数 16,557

(2021年度)

30,000

(2030年度)

人材認定等事業登録制度の登録事業数 51(2021年度) 70(2030年度)
地方公共団体における環境教育関連施策実施数 970

(2021年度)

1,400

(2030年度)


4-1-2 持続可能な開発のための教育(ESD)の推進

・ ESD活動支援センター(全国・地方)及び地域ESD推進拠点によるネットワークの形成や連携により、各地域で行われている持続可能な開発のための教育(ESD:EducationforSustainableDevelopment)の事例の共有や情報発信、人材の育成支援などを通じて、地域に根ざしたESDを全国に普及する。

・ ユネスコ未来共創プラットフォーム事業におけるユネスコスクールの取組の活性化や、SDGs達成の担い手育成(ESD)推進事業におけるカリキュラム等の開発・実践や教師教育の推進等を通じて、「第2期ESD国内実施計画」に基づきユネスコエコパークやユネスコ世界ジオパークの活用や様々なステークホルダーと連携しながら、国内におけるESDの推進を行う。

【文部科学省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
全国ESDフォーラム参加人数 478人(2021年度) 525人(2025年度)
地方ESD関連フォーラム参加人数 4,711人

(2021年度)

5,182人

(2025年度)


4-1-3 博物館等の機能強化の推進

 動植物園、水族館、自然系博物館等の博物館が、身の回りの自然や生物環境について楽しみの中で学習する機会を提供し、生物多様性の保全や、持続的な人と自然との関係性を考えるための教育実践の場として機能するよう、活動の充実を図る。

【文部科学省】

4-1-4 下水道を活用した環境学習の推進

 都市内の水循環や公共水域に排出する汚濁負荷の管理など、下水道の重要な役割を広く情報発信するため、下水道管理者と地域住民との情報共有を進めるとともに、環境学習の中で、多様な生態系の保全などにも資する下水道の役割を明確に位置づけ、子どもたちに下水道の仕組みや流域における下水道の役割について正しく理解してもらうほか、処理場見学会の開催など下水道施設を学びの場として積極的に活用する。また、地域住民や教育関係者、NPO等と連携し、多様な生態系の生息・生育場所の創出を図る場としての下水道施設の役割などについて、積極的に情報発信し、国民への理解に努める。

【国土交通省】

(目標)

・ 小中高生を対象とした環境教育に関する展示の実施や、9月10日の「下水道の日」に関連する国、地方公共団体等の行事を通じて、国民の下水道に対する理解・関心の向上を図る。

・ 国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」にて広報等に係る優れた取組を実施している地方公共団体やNPO団体を表彰することにより、国民の下水道に対する理解・関心の向上を図る。

4-1-5 河川における環境教育の推進

 「川に学ぶ社会」の実現を目指して、子どもたちの川を活かした体験活動や環境学習の場を拡大し、また地域の子どもたちの体験活動の充実を図る「子どもの水辺」再発見プロジェクトや川の自然環境や危険性を伝える「指導者育成」などを進める。また、地域と連携し河川を活かした学習・自然体験活動、学校教育関係者と連携した学校教育への教材提供等を進める。

【国土交通省、文部科学省、環境省】

(目標)

・ NPO等の団体とも連携の下、指導者育成や水難事故防止に向けた講座等を開催する。

・ 河川環境教育、水難事故防止啓発のための、教材作成、情報発信を充実させる。

4-1-6 海辺における体験活動等の指導者養成を目的としたセミナー開催の推進

 海辺における体験活動等の指導者養成を目的としたセミナーを、地方公共団体や教育機関等と連携しながら全国の主要な地域で開催を支援する。

【国土交通省】

4-1-7 環境教育の場となる都市公園の整備の推進

 利用者・地域・学校などと一体となった環境教育・環境学習などの指導者や実践者の養成の場や機会を提供するとともに、それらのプログラムを実践する都市公園等の整備を行う。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
都市域における水と緑の公的空間確保量 13.9㎡/人

(2020年度)

15.2㎡/人

(2025年度)


4-1-8 環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進

 環境負荷の低減や自然との共生を考慮した学校施設の整備を推進し、整備された施設を環境教育にも活用する。

【文部科学省】

行動目標4-2 日常的に自然とふれあう機会を提供することで、自然の恩恵や自然と人との関わりなど様々な知識の習得や関心の醸成、人としての豊かな成長を図るとともに、人と動物の適切な関係についての考え方を普及させる

 生物多様性に対する認識・関心を高めるために環境教育と合わせて重要なのは、自然とのふれあいを通じた体験に基づく理解の醸成である。

 自然との直接的なふれあいによって、自然に対する関心が生まれ、自然について考える力が養われる。また、自然が人の心身の健康にもたらす効果を認識し、自然の中で暮らすことで享受できる文化的・精神的な豊かさを求める価値観が醸成される。かつては、日常生活の中で自然との接点があり、人間も自然の一部であると感じる機会にも恵まれていた。しかし、都市化・工業化の進行に伴って人と自然との関係は希薄化し、自然との接触機会が少なくなり、特に若い世代を中心に自然とのつきあい方を知らない人たちが増えている。このような中で、自然とふれあう機会を増やすことにより、人が自然生態系の構成要素のひとつであることを認識し、自然との共生への理解を深めることにつながる。

 自然とのふれあいは、国立公園等に出かけて大自然の風景に感動し、身近な自然に接して安らぎを覚え、自然の仕組みを知り、自然の中で活動しようとする、自然の恵みを享受する様々な活動として捉えられる。概観しただけでも野外レクリエーション・観光、保健休養、ボランティア活動、さらに昆虫や愛玩動物等の身近な動植物とのふれあいや飼育などといった多様な側面がある。

 自然とのふれあいに係る施策の推進に当たっては、多様なニーズに対応した魅力ある自然体験プログラムの提供、自然とふれあう場の整備・保全、情報発信、自然とのふれあいを求める人々とその機会を提供する施設や団体・人材とのネットワーク構築等に総合的に取り組むことが必要である。特に人口の多くを占める都市部の居住者が、生物多様性が豊かに保たれている緑地・親水空間へのアクセスや自然体験の機会を増加させられるよう取組を進める。また、人と動物の共生する社会の実現に向けて、人と動物の適切な関係に係る考え方を普及する。

<具体的施策>

4-2-1 自然とのふれあいの機会の提供

 国立公園等における自然体験活動の推進や、みどりの月間など、全国各地で自然とのふれあいに関する各種行事の実施等を推進し、自然とのふれあいの機会を提供するとともに、自然の恩恵や自然と人との関わりなどの様々な知識の習得及び人としての豊かな成長を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
地方環境事務所が集計したみどりの月間の行事参加者数 904人

(2021年度)

4,500人

(2023年度)

自然体験教育活動推進事業の実施地域数 12

(2021年度)

前年実績以上

4-2-2 森林における体験・ふれあいの場の提供

 国有林野においては、優れた自然景観を有し、森林浴、自然観察、森林スポーツ等に適した国有林野を「レクリエーションの森」として設定している。また、自ら森林(もり)づくりなどを行うことを希望する民間団体等と協定を締結してフィールドを提供する「協定締結による国民参加の森林(もり)づくり」を推進している。さらに、企業等が国と分収林契約を結ぶことで、社会貢献、社員教育又は顧客とのふれあいの場としての森林(もり)づくりを可能とする「法人の森林(もり)」の設定を推進する。

【農林水産省】

4-2-3 新宿御苑の緑や施設を活用した生物多様性や再生可能エネルギーに関する普及啓発

 環境教育エリアの維持管理と情報発信の強化、環境教育イベントや園内ガイドの実施、「環境の杜」構想に基づく環境学習機会の提供や外部団体等による育成者指導講習等の受入れを行う。

【環境省】

4-2-4 国立公園等における保護と利用のための施設整備

 国立・国定公園や国民公園等において、利用者が安全かつ快適に自然を体験できるよう、自然環境保全のための整備を行うとともに、公園利用に必要な施設の整備と適切な管理を行うことにより、自然環境の保護と利用が好循環し、自然と人が共生する社会の構築や国土強靱化を進め、各地域が固有の自然資源を磨き上げて、活力のある地域を創出する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国立公園及び国定公園の年間利用者数 656,728千人(2019年) 前年比101%

4-2-5 国内外への国立公園等の情報発信

 2022年4月に施行された改正自然公園法により国立公園等の情報発信等が努力義務として盛り込まれたことも踏まえ、国立公園等の魅力の発信等に関してホームページやパンフレット等を活用して国内外向けに情報発信を行い、国立公園等への来訪促進、自然への興味・関心の喚起、環境配慮意識の醸成を促進する。また、国立公園オフィシャルパートナーと連携して国立公園の美しい景観の魅力を世界に向けて発信する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国立公園を訪問した訪日外国人利用者数 93万人

(2020年度)

667万人

(2025年度まで)

ウェブサイトにおける国立公園内自然体験コンテンツの予約数(サイトから予約可能なページへの遷移数含む) 1,230件

(2021年度)

3,000件

(2025年度まで)


4-2-6 日光国立公園「那須平成の森」管理運営事業

 自然環境モニタリングを行い、順応的な生態系管理を行うとともに、那須平成の森フィールドセンター、那須高原ビジターセンターを中心に、ガイドツアーの実施等自然体験活動を実施している。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
那須平成の森ガイドウォーク参加者アンケートの満足度(7段階評価の上位2評価の合計) 96%

(2021年度)

100%以上

(毎年度)


4-2-7 子ども農山漁村交流プロジェクト

 子どもたちを対象とした農山漁村体験、自然体験を通じて、自然、文化等の魅力について学び、生物多様性への理解を促進させる。また、こうした体験活動の推進は、受入地域にとっての地方創生にも資するため、本取組を実施する都道府県、市区町村をモデル団体として委託し、成果を全国の都道府県、市区町村へ周知を図るとともに、国立公園等受入地域でのプログラム開発の支援等により本取組を推進する。

【総務省、内閣官房、内閣府、文部科学省、農林水産省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
子どもの農山漁村体験の取組人数 小学生32万人

中学生37万人

高校生15万人

(2016年度)

小学生65万人

中学生75万人

高校生30万人

(2024年度)


4-2-8 都市農業の推進、農泊支援、情報発信等を通じた都市と農山漁村の交流・定住の促進

・ 市民農園や農業体験農園の開設促進に向けた取組や都市住民の都市農業への理解醸成の取組等への支援により、都市農業の多様な機能の発揮を促進する。

・ 農泊に取り組む地域における実施体制の構築、観光コンテンツの開発、滞在施設等の整備等の一体的な支援を実施する。

・ 農泊に取り組む地域と国立公園との連携により自然体験コンテンツの造成等を行い国立公園における滞在期間の延長と地域経済への貢献を推進する。

・ 世界農業遺産及び日本農業遺産について、情報発信を通じた認知度向上等の取組を支援する。

・ 渚泊やワーケーション等による都市漁村の交流人口や関係人口を創出する取組を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
グリーン・ツーリズム施設年間延べ宿泊者数及び訪日外国人旅行者数のうち農山漁村体験等を行った人数  - 
1,540万人

(2025年度)


4-2-9 海辺の環境教育の推進

 海辺の自然環境を活かした自然体験・環境教育に関する取組を地方公共団体やNPO等と連携しながら全国各地で展開する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
海辺の自然学校開催実績数 13件(2020年度) 21件以上(毎年度)

4-2-10 港湾における自然・社会教育活動の場の整備

 港湾の良好な自然環境の市民による利活用を促進し、自然環境の大切さを学ぶ機会の充実を図るため、地方公共団体やNPOなどが行う自然・社会教育活動の場ともなる干潟の整備を行う。

【国土交通省】

4-2-11 港湾緑地整備の推進

 多様な生物の生息・生育空間であり、地域住民が自然に親しめる港湾緑地の整備を推進する。

【国土交通省】

4-2-12 国立青少年教育振興機構における自然体験活動の推進

 独立行政法人国立青少年教育振興機構において、国立青少年教育施設における青少年の自然体験活動等の機会と場の提供、指導者の養成及び質の向上、民間団体が実施する自然体験活動等に対する支援等を通して、青少年の自然体験活動を推進する。

【文部科学省】

4-2-13 体験活動等を通じた青少年自立支援プロジェクト

 体験活動の機会や場を充実させるための事業を実施するとともに、体験活動に関する普及啓発や調査研究、民間企業が実施する優れた取組に対しての顕彰事業を実施する。

【文部科学省】

4-2-14 全国「みどりの愛護」のつどいの開催

 全国「みどりの愛護」のつどいについて、全国の都市公園を会場として開催し、より一層国民のみどりに対する意識の高揚を図る。

【国土交通省】

4-2-15 人と動物の共生する社会の実現

 飼養動物の飼育やふれあいなどの経験を通して、「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」に位置づけられる動物を愛護する気持ちや、人と動物の共生に係る理解が醸成されるきっかけのひとつとなる。これらにより、野生動物を含む人と動物の適切な関係に係る考え方や態度の変革を促し、生物多様性の保全に寄与する。

【環境省】

行動目標4-3 国民に積極的かつ自主的な行動変容を促す

 社会全体でネイチャーポジティブを実現し定着させていくためには、国民一人一人が生物多様性に配慮した商品やサービスを自らの意思で選択できるような社会を構築することが鍵となる。そのためには、規制的手法(法律等)、財政的手法(補助金等)、そして情報的手法(普及啓発・情報提供等)といった伝統的な政策手法に加え、行動科学等の知見も活用するなど、多様なアプローチが必要である。

 我が国では、既に「定着した行動変容」として国際的に評価され、取り上げられることの多いクールビズという事例もある。しかしながら人々の意識や行動に係る取組については、ある条件で効果の見られた手法について、別の条件下でも同様の効果が見られるとは限らない。手法の活用に当たっては、必ずしも万能なものではないと考え、どのような条件でどの程度の効果が見られ、また、効果が見られない場合は要因の検討や改善を試みるといった事例を重ねながら明らかにすることが重要である。

 人々が意識や行動を見直し、自発的に生物多様性の保全に資する選択をするようになるためには、そのきっかけとなる情報や体験、実際に行動を起こす場の提供などが求められる。このため、多様な主体との連携を促すプラットフォーム構築やイベント等の実施、行動科学に関する知見の収集や活用、官民連携の推進等を通じ、人々の行動変容につなげていく。

<具体的施策>

4-3-1 2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)の活動[重点]

 国内での社会変革を実現するため、国民、経済界、NGO・NPO、地方公共団体などの主体間の連携、協働を進めるためのマルチステークホルダー型のプラットフォームの設置等、以下の事業を実施する。

・ 多様な主体が情報交換・認識共有等を行う総会・フォーラム・WG等の設置・運営

・ 生物多様性に関する普及啓発ツールの作成・活用による普及啓発を実施

・ セクター横断的な取組を進めるためのフォーラム等の開催

・ ナッジ等を活用した行動変容に関する議論や実装【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
プラットフォーム関係会議開催数 年5回以上 年5回以上
生物多様性の保全につながる活動への意向を示す人の割合 90%

(2022年度)

90%

(2030年度)


4-3-2 行動科学等の知見を活用した行動変容の促進[重点]

 生物多様性の主流化(認識の向上)、国民や企業等を対象とした行動変容(例えば、消費者を対象とした場合、日々の暮らしへの訴求等)に向けた議論・検討を実施する。消費行動や生産行動、寄付行為などを通じた生物多様性保全に向けた個人や個社の取組を促すための仕組みやフレームワークを検討する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性の保全につながる活動への意向を示す人の割合 90%

(2022年度)

90%

(2030年度)

生物多様性の保全につながる活動を既に実施している人の割合 56.3%

(2022年度)

60%

(2030年度)


・ 行動科学等を活用した意識改革や行動変容の効果を把握する

・ 行動科学等の活用により意識改革・行動変容を促す割合を向上させた効果的な広報・普及啓発を推進する

4-3-3 「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクト等による行動変容

地域版SDGsである地域循環共生圏を暮らしの観点から実装するための国民運動である「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトや、それらに基づく官民連携による広報活動等を展開し、各界各層の生物多様性主流化に向けた行動変容を促す。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
広報等の国民へのアプローチ数(HPアクセス数) 25,324pv

(2022年度)

30,000pv

(2030年度)


4-3-4 あふの環2030プロジェクト

あふの環プロジェクトをプラットフォームとし、多様なステークホルダーとの対話を進めながら、価格重視の消費から持続可能性重視の消費へと行動変容を促し、持続可能な生産消費を促進する。

【農林水産省、消費者庁、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
環境に配慮されたマークのある食品・商品を選ぶことを意識している消費者の割合 32.2%

(2020年度)

50%

(2025年度)


4-3-5 森林・林業が果たす役割等の普及啓発の促進

 企業・NPO等のネットワーク化、緑化行事の開催を通じた普及啓発活動の促進、森林環境教育や木育の推進、林業体験学習等の促進等を推進する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国産材の供給・利用量 3,400万㎥(2021年度) 4,200万㎥(2030年度まで)
森林ボランティア団体数 4,474団体(2021年度) 4,582団体(2025年度)

行動目標4-4 食品ロスの半減及びその他の物質の廃棄を減少させることを含め、生物多様性に配慮した消費行動を促すため、生物多様性に配慮した選択肢を周知啓発するとともに、選択の機会を増加させ、インセンティブを提示する

 「大量生産・大量消費・大量廃棄」型のライフスタイルが、生産から消費の各段階において生態系を劣化させる要因となっている。本来食べられるにも関わらず廃棄されている食品、いわゆる「食品ロス」の量は2020年度で522万トンに上る。また、1年間に新たに国内に供給される衣料品の約96%が使用後に手放され、約62%はリユースもリサイクルもされず廃棄されている。服がごみとして廃棄された場合、再資源化される割合は5%ほどで、ほとんどはそのまま焼却・埋立て処分されており、その量は年間で約48万トンにもなる。

 こうしたライフスタイルや産業構造を変革するため、食品ロスの削減をはじめとして、これまで必ずしも生物多様性との関係性が意識されてこなかった消費・廃棄、資源循環に関わる分野において、各分野の協力とそれを取り巻く消費の価値観の変革を進める。生産や流通、消費段階でのロスの削減はもちろんのこと、生物多様性に配慮した商品やサービスの選択肢を増やしていくとともに、人々がそれらを積極的に選択するようなインセンティブを提示していく必要がある。具体的には、多様な関係者と連携しながら、教育や普及啓発、リサイクル技術の開発、エコラベル等認証製品の普及、フードバンク等社会的なインフラの構築等を統合的に推し進める。あわせて、生物多様性に配慮した各商品やサービスについて、それらを選択することが生態系の保全にどのように寄与するのか等の情報を分かりやすく発信していく。

<具体的施策>

4-4-1 食品ロス削減

・ 食品事業者における商慣習の見直しに向けた検討・調査やフードバンク活動の支援等を通じた食品ロス削減を目指す。

・ 食品廃棄ゼロを目指す先行エリアの創出や飲食店における食べ残しの持ち帰り(mottECO)、フードドライブなどの食品ロス削減対策を通して、消費者等の行動変容を促進する。

【農林水産省、環境省、消費者庁、経済産業省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
事業系食品ロス量 275万トン

(2020年度)

273万トン

(2030年度)

※2000年度比で半減

家庭系食品ロス量 247万トン

(2020年度)

216万トン

(2030年度)

※2000年度比で半減


4-4-2 プラスチック資源循環の推進

▶ プラスチック資源循環戦略に基づく取組

・ 2022年4月1日に施行されたプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律に基

づき、製品の設計から廃棄物の処理に至るまでの、プラスチックのライフサイクル全

般で、あらゆる主体による資源循環の取組を促進する。

・ プラスチック資源循環の取組全体(メーカー・リテイラー・ユーザー・リサイクラー

の連携)を支援する。

【環境省、経済産業省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ワンウェイプラスチック排出抑制  - 
25%(累計)

(2030年度)

プラスチック製容器包装のリユース・リサイクル率  - 
60%

(2030年度)

プラスチックの再生利用量  - 
倍増

2030年度)

使用済みプラスチックの有効利用  - 
100%

(2035年度)

バイオマスプラスチック導入量  - 
200万トン

(2030年度)

プラスチック製容器包装・製品のデザインの、リユース・リサイクル可能なものへの転換(2025年度まで)  - 
 - 

▶ 食品産業・農畜産業におけるプラスチック資源循環の推進

・ 飲料用PETボトルの有効利用を促進する取組等食品産業が実施するプラスチック資源循環の取組を支援する。

・ 使用済み農業用プラスチックの排出抑制と適正処理の推進、生分解マルチの利用促進、被覆肥料の被膜殻の流出防止等に取り組み、プラスチック資源循環を推進する。

【農林水産省、環境省、経済産業省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
飲料用PETボトルの有効利用(回収率) 96.7%

(2020年)

100%

(2030年度)

農業分野におけるプラスチック排出量に対する再生処理量(熱回収を含む)  - 
100%

(2035年度)


4-4-3 サステナブルファッションの推進

・ 社会全体で、これまでの「大量発注・大量生産・大量消費・大量廃棄」から脱却し、「適量発注・適量生産・適量購入・循環利用」に転換していく。

・ 「サステナブルファッション」の実現に向けて、事業者の取組の推進(環境配慮設計・サプライチェーンの透明性の確保・環境負荷の把握等)や生活者の理解と行動変容等の実現に向けたラベリングや情報発信等を促進する。

・ リユース、リペア、メンテナンス、シェアリング、サブスクリプションなどの取組によって、使用済み製品等を有効活用しながら、サーキュラーエコノミー実現に向けた新たなビジネスモデルの取組を推進する。

・ 衣料品は、混紡品が多く、染色や高機能付加のための表面加工がされ、さらにファスナーなどの副資材などにより、リサイクルが困難なものも多い。素材毎の分離・選別や、リサイクル技術の高度化に向けた技術開発を進めるとともに、社会実装に向けて、衣類回収のシステム構築に向けた実態把握を進める。

・ 「サステナブルファッション」の実現に向けて、関係省庁が一丸となって取り組む。

【環境省、経済産業省、消費者庁】

4-4-4 有機農業を含む環境保全型農業に対する消費者の理解と関心、信頼の確保

・ 国産の有機食品を取り扱う小売や飲食関係の事業者と連携し、生物多様性の保全や地球温暖化防止など、SDGsの達成に貢献する有機の取組の持つ価値や特徴を消費者に広く発信することにより国産の有機食品の需要喚起の取組を推進する。

・ 国産有機農産物等に関わる新たな市場を創出していくため、これらを取り扱う流通、加工、小売等の事業者と連携して行う、国産有機農産物等の消費者需要及び加工需要を喚起し、事業者間のマッチングを促進する取組を支援する。

・ 有機農業を活かして地域振興につなげている地方公共団体の相互の交流や連携を促すためのネットワーク構築を推進し、学校給食での有機食品の利用など有機農業を地域で支える取組事例の共有や消費者を含む関係者への周知が行われるよう支援する。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
週1回以上有機食品を利用する消費者の割合 17.5%

(2017年度)

25%

(2030年度)

有機農業の取組面積 25.2千ha

(2020年)

63千ha

(2030年)


4-4-5 環境と調和のとれた食料生産とその消費に配慮した食育の推進

 「第4次食育推進基本計画」に掲げられた目標達成に向けて、地域の関係者が連携して取り組む食育活動を重点的かつ効率的に推進するとともに、食育推進全国大会の開催や環境との調和の視点を加味したフードガイドの普及啓発を行い、食育の全国展開を図る。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
環境に配慮した農林水産物・食品を選ぶ国民の割合 69.3%

(2021年度)

75%以上

(2025年度)


4-4-6 脱炭素の意識と行動変容の発信・展開

 脱炭素行動と暮らしにおけるメリットを「ゼロカーボンアクション30」として整理し、積極的に発信することでより多くの国民の具体的な取組の実施につなげる。また、幅広い層を対象に各対象のニーズに応じた教材やコンテンツ等を作成し、各取組とも連動させながら効果的に提供する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
CO2排出量削減推定効果 228.8万t-CO2

(2020年度)

537万t-CO2(2030年度)

※2030年46%削減


4-4-7 生物多様性の保全に取り組む生産者からの優先調達を支援する認証制度の活用

・ 水産エコラベルの国内外への認知度向上及び認証取得を促進する。

・ 森林認証材取得に向けた合意形成及び森林認証材の普及を図る。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国内における国際的に通用する水産エコラベルの生産段階認証の認証数 93

(2021年度)

225

(2025年度)


行動目標4-5 伝統文化や地域知・伝統知も活用しつつ地域における自然環境を保全・再生する活動を促進する

 地域の自然に根ざした伝統行事、食文化、地場産業などの地域文化は、持続可能な自然資源の利用に関する知恵や、人と自然の共生という価値観を育んできた。また、農林水産業始めとする地域における適切で継続した営みが、里地里山等の生物多様性豊かな環境の形成につながっている。

 このため、伝統文化や地域知・伝統知の継承を含め、地域における自然への理解や配慮を高め、持続可能な活用を図るとともに、地域における多様な主体の連携を促す取組等を通じて自然環境の保全・再生活動を促進する。

<具体的施策>

4-5-1 伝統文化や伝統知に配慮した地域におけるOECM推進[重点]

 伝統工芸や伝統行事といった地域の伝統文化のために活用されている自然資源の場としての価値を有する区域についても「自然共生サイト」として認定を進める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
「自然共生サイト」認定の「3.ア生物多様性の価値」基準のうち、(5)「伝統工芸や伝統行事といった地域の伝統文化のために活用されている自然資源の場としての価値」を選択するサイト数  - 

 - 


4-5-2 地域における生物多様性の保全に関する活動の促進

 地域における生物多様性の保全再生に資する先行的・効率的な活動を支援することにより、国土全体の生物多様性の保全・再生を進める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性保全推進支援事業での支援数(累計) 479件

(2021年度)

800件

(2025年度)


4-5-3 生物多様性地域連携促進法に基づく取組の推進

 生物多様性地域連携促進法に基づく地域連携保全活動計画の策定、地域連携保全活動支援センターの設置及びその活用を支援し、行政、地域住民、農林漁業者、NPO、学校・大学、企業等の地域における多様な主体の連携による生物多様性保全活動を促進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
地域連携保全活動計画の策定数 16地域(2022年9月) 32地域(2030年度)
地域連携保全活動支援センターの数 19施設(2022年9月) 27施設(2030年度)

4-5-4 パートナーシップによる生物多様性保全の取組の支援

 各主体のパートナーシップによる取組を支援するため、地球環境パートナーシッププラザ及び地方環境パートナーシップオフィスを拠点として、情報の収集・提供や様々な主体の交流の場のデザインなどを実施する。

【環境省】

4-5-5 国立公園等における聞き書き等を通じた暮らしと自然や文化との関わりの把握と活用

 聞き書きなどを通して、国立公園で暮らす人たちに、自分たちの暮らしと自然や文化との関わりについて、地域の想いやエピソード、ストーリーをまとめる。これらを地域の魅力発信や自然体験コンテンツの造成等に資するインナーブランディングに活かすとともに、地域が国立公園や自然の価値を再認識することで、国立公園に対する誇りや保全意識の向上を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
聞き書きによる地域のインナーブランディングに取り組む国立公園数  1

(2022年度)

 20

(2030年度)


4-5-6 食文化の保護・継承による農山漁村の活性化

 各地固有の伝統的な食品等の食文化の保護・継承に取り組むことにより、農山漁村の活性化につなげる。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
郷土料理や伝統料理を月1回以上食べている国民の割合 61.7%

(2021年)

50%以上

(2025年)


4-5-7 地域の暮らしとサンゴ礁生態系のつながりの構築

 「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」で設定した特に解決の緊急性が高い重点課題の一つとして、多様なステークホルダーの協働による地域主体のサンゴ礁生態系の保全活動や、保全活動に関する普及啓発、持続的な利用の促進等の取組を推進する。

【環境省】

第5章 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進

行動目標5-1 生物多様性と社会経済の統合や自然資本の国民勘定への統合を含めた関連分野における学術研究を推進するとともに、強固な体制に基づく長期的な基礎調査・モニタリング等を実施する

 生物多様性の保全と持続可能な利用に係る取組を効果的に実施するには、科学的知見に基づいた計画や政策の策定を行う必要がある。生物多様性や生態系サービスは一定の時間をかけて変化するため、様々な要因による影響や施策の効果等は、その発現までにタイムラグが生じると考えられる。このため、基盤となる情報を長期的・継続的に整備することが重要となる。

 我が国では、植生や野生動植物の分布など自然環境の状況を調査する基礎調査や、様々な

生態系タイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査するモニタリング調査等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化を把握している。それらの結果は生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっていることから、こうした基礎調査を着実に継続・強化していく。

 また、限られた人員や予算の中でも着実にこれらの調査等を継続できるよう、より効率的で効果的な調査手法の検討を進めるとともに、生物多様性や社会経済等をめぐる最新の動向に対応するため新たな研究・技術開発も促進していく。

 これらの調査研究から得られた成果に基づき、生物多様性の損失と社会経済活動の統合的な評価を含め、生物多様性及び生態系サービスの総合的な評価を進める。

<具体的施策>

5-1-1 自然環境保全基礎調査[重点]

▶ マスタープラン策定

 新技術の導入等による効率的な調査手法や実施体制、データ利用の利便性向上等の検討含め、今後の自然環境保全基礎調査の実施方針・調査計画等をまとめたマスタープランを策定。同プランに基づき、長期に継続してかつ効果的に生物多様性保全の取組を支える、基礎的・科学的な基盤情報や自然環境データの収集・整備を推進する仕組みを強化する。

【環境省】

▶ 総合解析

 自然環境保全基礎調査等、生物多様性に係る自然環境調査の結果(50年間に及ぶ長期ビッグデータ)をベースに、他主体に分散する、社会地理や気候変動関連分野も含む自然環境情報等の関連データを収集・援用し、施策への効果的な反映に資する総合的な解析を実施する。もって、我が国の自然環境の現状やその変化について示すとともに、生物多様性保全施策への自然環境保全基礎調査のデータ利活用をこれまで以上に推進する。

【環境省】

▶ 自然環境保全基礎調査の実施

 自然環境保全法(昭和47年法律第85号)の規定に基づき、全国の自然環境を把握する調査等を企画・実施し、国土の生物多様性の現況と変化状況を把握する。上記マスタープラン、総合解析を踏まえ、収集した生態系の分布情報や生物の生息・生育データを取りまとめ、提供し施策の推進を支援する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
全国的な自然環境のセンサス調査実施数・範囲(対象生態系と生物分類群) 調査実施数:5

[範囲]

生態系:2

生物分類群:2

(2022年度)

調査実施数:

8~10/年度以上を維持

[範囲]

生態系:

2~4/年度以上を維持

生物分類群:

2~3/年度以上を維持

生物の生息動向に関するデータの閲覧数 22,762,286件

(2020年度)

23,000,000件以上

(2023年度)

※前年度実績値以上

生物動向を把握する生物の個別報告をいきものログ上で提供した件数
17,044

(2021年度)

22,000件以上

(2023年度)

※前年度実績値以上


5-1-2 モニタリングサイト1000[重点]

 我が国における様々な生態系の現状とその変化を把握し、その結果を保全施策等につなげていくことを目的として、全国に約1,000か所のモニタリングサイトを設置し、各生態系の基礎情報を長期間に渡って定量かつ継続的に把握する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
長期的かつ定量的な調査を実施する地点数 1,089か所

(2021年度時点)

1,000か所以上を維持

5-1-3 鳥類標識調査

 鳥類の生態や移動経路・生息状況等を把握するための基礎データの収集・蓄積を通じ、野生鳥類の保護管理を推進するため、鳥類観測ステーションにおいて、継続的に標識調査を実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
全国9か所での鳥類標識調査の年間実施回数 283回

(2021年度)

280回以上を維持

5-1-4 ガンカモ類の全国一斉生息調査

 ガンカモ類の生息状況に関する全国的な一斉調査が、1970年に各都道府県の協力を得て開始され、毎年継続的に調査が実施されている。全国で同時期に実施されたガンカモ類の個体数等の結果を集計、報告書の作成等を行い、我が国におけるガンカモ類の冬期の生息状況を把握し、野生動物保護管理行政の基礎資料とする。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
全国でのガンカモ類の生息数等の概況調査 全国47都道府県において年に1回の調査を実施
ガンカモ類の生息調査のウェブサイトのアクセス数 8,351件

(2021年度)

前年度実績以上

5-1-5 森林資源のモニタリングの推進

 木材生産のみならず、生物の多様性、地球温暖化防止、流域の水資源の保全等、国際的に合意された「基準・指標」に係るデータを統一した手法により収集・分析する森林資源のモニタリングを推進する。

【農林水産省】

5-1-6 河川水辺の国勢調査

魚類、底生動物調査については原則5年、それ以外については原則10年でこれらの調査を一巡できるよう河川水辺の国勢調査を実施し、全国的な河川環境に関する情報を収集するとともに、全国的な傾向や地域的な生物の生息・生育状況の特徴などを把握する。また、今後も更に調査データの利活用の推進を図る。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
水辺の国勢調査の実施河川数・ダム数 河川:138、ダム湖:144

(2020年度)

河川:138、ダム湖:144

(2025年度)


5-1-7 湖沼調査

 自然環境把握のための基礎情報として、湖沼の地形データを、保全・利用のニーズを勘案しつつ最新測量技術を用いて順次更新・高度化するとともに、電子国土基本図を通じて広く提供する。

【国土交通省】

(目標)湖底地形データを整備・更新して、電子国土基本図を通じて提供する

5-1-8 有明海・八代海等の環境保全・回復、水産資源の回復

 2017年3月の有明海・八代海等総合調査評価委員会報告(平成28年度委員会報告)で設定された再生目標の達成に向けた再生方策等に取り組むとともに、2022年3月の中間取りまとめで整理された課題の解決に向けた検討・取組を行う。

【環境省、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】

5-1-9 水産資源動向等のデータの蓄積

・ 資源評価対象魚種を順次拡大し、当該魚種の調査を開始

・ 我が国周辺水域の主要魚種(マイワシ、マサバ等)や公海等で漁獲される国際漁業資源(サケ、カツオ・マグロ等)について、調査・評価等を実施する。

・ 海洋環境の変動等による水産資源への影響を調査し資源変動メカニズム及び中・長期的な資源動向を究明する取組や、漁場形成及び漁獲状況等をリアルタイムに把握する取組等を支援する。

【農林水産省】

5-1-10 海洋におけるプラスチック分布実態と分布プロセスの解明研究

 日本の沖合表層及び深海底におけるプラスチックの分布実態を把握し、ホットスポット的にプラスチックごみが集積する場所と量を把握するとともに、その集積プロセスを解明する。得られた情報は、国際ネットワークIMDOS(Integrated Marine Debris Observing System)や環境省等に提供する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
科学論文数 年2報以上
環境省等への情報提供数(委員会他各種会合等への出席数等) 年1回以上
国際会合・シンポジウムにおける情報提供数 年1回以上

5-1-11 プラスチックが海洋生物・生態系に与える影響研究

 最終的にプラスチックが集積する深海域においてプラスチックが海洋生物に与える影響やプラスチックに起因する生態系の変動に関する科学的な情報を創出する。得られた情報は、国際ネットワークIMDOS(IntegratedMarineDebrisObservingSystem)や環境省等に提供する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
科学論文数 年2報以上
環境省等への情報提供数(委員会他各種会合等への出席数等) 年1回以上
国際会合・シンポジウムにおける情報提供数 年1回以上

5-1-12 サンゴ礁の保全・回復

 水産資源の産卵場、餌場、幼稚仔魚の育成場となっているサンゴ礁の面的な保全・回復のための技術の開発に取り組む。

【農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
実証海域におけるサンゴ幼生の着底率 9.5%(2021年度) 10%以上(2025年度)

5-1-13 サンゴ群集に関する科学的知見の充実と継続的モニタリング・管理の強化

 「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」で設定した特に解決の緊急性が高い重点課題の一つとして、サンゴ礁の状態や保全活動のモニタリングやその情報を収集・整理・発信する取組等を推進する。

【環境省】

5-1-14 海域環境データベースへのデータの蓄積と内容の充実化

 東京湾等の閉鎖性水域や沿岸海域の環境情報を取得し、海域環境データベースへのデータの蓄積と内容の充実化を図る。

【国土交通省】

5-1-15 港湾における研究の推進

 世界最大規模の干潟水槽(メソコスム)の活用や現存する自然干潟、造成した干潟・藻場における生物調査や物質循環の調査研究から得られる知見を基礎として、沿岸域の生態系モデルの開発を行いながら沿岸域の豊かな生物多様性を維持するための研究を推進する。

【国土交通省】

5-1-16 リサイクル材の現地実証試験の実施

 カルシア改質材や鉄鋼スラグ等のリサイクル材を用いた干潟造成への活用に向けて、現地実証試験を実施する。

【国土交通省】

5-1-17 広域的な浚渫土砂等の品質調整・需給調整手法の検討

 港湾の建設資材として有効利用を図るために広域的な浚渫土砂などの品質調整・需給調整手法の検討を行う。

【国土交通省】

5-1-18 負荷削減や干潟・浅場造成などの効果比較・評価

 豊かな生態系の回復に必要な行政施策(負荷削減や干潟・浅場造成など)の効果を比較・評価する。

【国土交通省】

5-1-19 海洋における生物多様性の実態と変動解析

 深海を含む海洋の生物多様性を環境DNAや映像から実態を把握するとともに環境変動に伴った動態を解析する。得られたデータは海洋生物多様性データベース(BISMaL)を通じてユネスコ傘下にある海洋生物多様性データベース(OBIS)に登録し、海洋生物多様性研究の発展に貢献する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
科学論文数 年2報以上
OBISへのデータ提供数 一つ以上のデータセット登録・更新

5-1-20海洋生物多様性に係る情報の公開・提供

海洋を中心とする生物圏について、生物の調査及び生態・機能等の研究を行うとともに、資源としての多様な生物における潜在的有用性を掘り起こし、社会と経済の発展に資する知見、情報を国内外に提供する。また、これらの生物圏の大気・海洋や固体地球との相互関係を理解し、海洋生物多様性及び生態系を総合的に把握するための情報を海洋生物多様性データベース(BISMaL)を通じて提供する事で、将来発生し得る地球環境変動の影響評価に貢献する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
海洋生物多様性データベース

(BISMaL: Biological Information System for Marine Life)が統合・公開した日本周辺海域における調査研究に基づく生物出現記録数

2,365,263

(2009-2022年)

3,000,000

(2030年まで)


5-1-21 放射線による自然生態系への影響の把握

福島第一原発の周辺地域での放射性物質による生態系への影響を長期的に把握するため、関係する研究機関や学識経験者等とも協力しながら、野生動植物の試料の採取と分析を実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
放射性物質による影響を調査・把握した分類群の数 3又は6(年度により異なる)

5-1-22 南極地域観測事業

 1956年に開始された我が国の南極地域観測事業では、南極の海洋・陸上の生態系や生物相を対象に、南極観測船による海洋調査、湖沼における潜水調査、氷河末端域における調査を実施するとともに、遺伝子解析を中心とした様々な手法による極限環境と遺伝的特性の解明を行う。また、国立極地研究所学術データベースを介した成果の公開を行う。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国立極地研究所学術データベース公開データ数 74,398件 前年度実績以上

5-1-23 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

 開発途上国などのニーズを基に、生物多様性に関係する研究を含む環境・エネルギー分野や生物資源分野などにおける地球規模課題を対象とし、その解決及び科学技術水準の向上に資する新たな知見を獲得すること、及び開発途上国の人材育成とその課題対処能力の向上を目的として、社会実装の構想を有する国際共同研究をODAと組み合わせて実施する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性関連プロジェクトの実施数 48件 64件(2030年度)

5-1-24 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)

 東アジア地域の13か国が参加する東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)では、2022年時点で10カ国31地点地域の森林、11カ国19地点の湖沼・河川について、酸性雨や大気汚染による生態系への早期把握・実態解明のためのモニタリングを実施している。今後も、東アジアにおける酸性雨等大気汚染による影響を未然に防止するため、同ネットワークの活動を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
降水や大気中の酸性成分等をモニタリングし、EANETにデータを提供しているサイトの数 62サイト 62サイト
EANETが定めた精度管理目標値を満たすデータの割合 91%
100%

(2023年度)


5-1-25 環境研究の総合的な推進[重点]

 環境研究総合推進費を活用し、気候変動問題への対応、循環型社会の実現、自然環境との共生、環境リスク管理等による安全の確保など、持続可能な社会構築のための環境政策の推進にとって不可欠な科学的知見の集積及び技術開発の促進を目的として、環境分野のほぼ全領域にわたる研究開発を実施する。

【環境省】

5-1-26 環境DNA分析技術を用いた調査手法の標準化・一般化[重点]

 近年発展している環境DNA分析技術を用い、水域に生息する淡水魚類・両生類・海洋生物の分布情報の効率的かつ効果的な収集や希少種・外来種対策、生物調査の効率化に資するため、同技術を用いた調査手法の標準化及び一般化の推進を行う。

【環境省、文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
環境DNAのウェブサイトの年間アクセス数
9,387件

(2021年度)

12,000件以上

(2025年度)

「調査手法の手引き」の累計ダウンロード数
1,682件

(2021年度)

3,000件以上

(2024年度)


5-1-27 生物多様性・自然資本の価値評価

 生物多様性・自然資本の経済価値評価を行うことにより、あらゆるセクター(国・地方公共団体・企業・市民等)において、生物多様性保全に配慮した政策・事業の意思決定・合意形成や、資金・人員の動員促進を図る。

【環境省】

5-1-28 生物多様性及び生態系サービスに関する総合的な評価・予測[重点]

 我が国の生物多様性及び生態系サービスの現状を総合的に評価し、生物多様性国家戦略に基づく取組の効果を分析するため、「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO)」の取りまとめを行う。また、社会経済活動(生物多様性損失の間接要因)による影響や、気候変動対策との統合的な解決策の実施を含めて、生物多様性・生態系サービスに係る評価・予測を実施する調査研究を推進する。

【環境省】

5-1-29 ESG投資を先導する生態系サービスの経済性評価技術の開発[重点]

 野生昆虫を利活用した果樹・野菜類の花粉媒介サービスや土着天敵による病害虫防除等の生物的コントロール等の生態系サービスを適切に検出・分析・モニタリングするための技術開発及び生態系サービスを定量的に示すための指標を決定する。

【農林水産省】

行動目標5-2 効果的かつ効率的な生物多様性保全の推進、適正な政策立案や意思決定、

 活動への市民参加の促進を図るため、データの発信や活用に係る人材の育成やツールの提供を行う

 生物多様性の保全を進めるに当たっては、科学と政策の連携を強化し、取組を始める時点で得られる最新の科学的知見に基づいた施策の立案を行うとともに、実施過程において得られた知見を施策にフィードバックする順応的な取組を行う必要がある。このため、学術研究や調査・モニタリング、そのほか各地で実施されている様々な取組等を通じて蓄積されたデータは、多様な主体が目的に応じて適切かつ迅速にアクセスでき、効果的な取組につなげるため活用される必要がある。

 しかしながら現状では、データを共有するためのツールや制度、データを発信・活用できる人材、関係者の連携体制が十分に整っていない。

 貴重なデータを有効利用し施策や取組に反映するため、オープンデータ化やAPI連携等による官民データの情報提供の基盤・体制や相互の利活用を充実・強化する。あわせて、利用目的に適ったデータ品質の確保、デジタル技術等の高度化を図るとともに、こうしたデータの取扱いや、情報を解釈して現場における取組を進めるための専門人材を育成する。さらに、データ公開等を通じて市民の情報リテラシーを向上させ、生物多様性の取組に対する市民参加につなげる。

<具体的施策>

5-2-1 生物多様性国家戦略に貢献する地域の取組の集約・可視化[重点]

 生物多様性国家戦略に掲げる目標の達成に貢献する地方公共団体や企業、活動団体等による地域に根ざした活動を集約・共有する仕組みを構築し、各活動の貢献の定量的評価及び可視化を図る。

【環境省】

(目標)

 多様な主体による地域に根差した活動を集約・共有する仕組みを構築する。

5-2-2 生物多様性情報システム(J-IBIS)

 各種調査の実施により収集した自然環境情報について、希少種情報等に配慮しつつ一層の電子化・オープンデータ化を進め、インターネット上で生物多様性情報システム(JIBIS)を通じAPI連携等による国内外への官民データの情報提供の基盤・体制を充実強化することで、各種施策やニーズに応じた自然関連データの利活用や相互利用を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性情報システムの月平均アクセス件数
801万件

(2021年度)

800万件以上

5-2-3 いきものログ[重点]

 「いきものログ」(生物多様性情報等の収集・管理、提供のプラットフォーム)を活用し、多様な主体からの各種生物の生息・生育情報の収集と、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)等の多様な主体への情報共有・提供を通じて、我が国の生物分布に関するデータの安定・継続的な収集と把握の促進につなげる。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
GBIFへの累計データ登録数 401,982件

(2022年度)

500,000件以上

(2030年度末)

市民参加型生物調査(団体調査)を実施している関係主体数の累計 113件

(2022年12月31日時点)

181件

(2027年度)


5-2-4 施策・事業に係る環境配慮を確保するための情報基盤整備

 施策の策定や事業の実施に当たり、適正な環境配慮が確保され、生物多様性の保全にするよう、地域特性を把握するための自然環境・社会環境に関する情報をウェブサイト上の地理情報システム(環境アセスメントデータベース[EADAS])により提供する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
環境アセスメントデータベースの年間延べ閲覧者数 27万
前年度実績以上

5-2-5 研究開発、産業利用のための知的基盤整備

 工業などに利用できる微生物資源の効率的保存法を開発し、分類同定のための学術的分析を進める。また、研究、産業に提供するための遺伝資源の収集・保存や特性評価の強化、研究材料の配布及び情報の整備によって研究開発、産業利用のための知的基盤を整備する。

【経済産業省】

5-2-6 生物多様性クリアリングハウスメカニズム(CHM)

 生物多様性情報の情報源情報(メタデータ)を検索することができる生物多様性クリアリングハウスメカニズム(CHM)を安定的に運用する。生物多様性情報について、国の機関、地方公共団体、研究者等による情報源情報(メタデータ)を登録し、より広い共有を図る。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性情報の情報源情報(メタデータ)の登録件数 5,441件

(2021年度)

6,000件以上

(2030年度)


5-2-7 科学的情報等の共有・活用促進

 科学的情報に基づく自然環境保全施策の推進に寄与することを目的とし、自然系調査研究機関連絡会議の開催等を通じ地方公共団体や自然系調査研究機関との相互の情報交換、情報共有を促進し、ネットワークの強化を進めるとともに、関係者の情報リテラシーの向上につなげる。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
構成機関相互のネットワーク強化のため、調査研究・活動事例発表会及び連絡会議開催数 それぞれ年1回

5-2-8 地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業

 気候変動、防災等の対策や生物多様性に関する取組に貢献するため、地球環境ビッグデータ(観測データ・予測データ等)を蓄積・統合解析・提供するプラットフォーム「データ統合・解析システム(DIAS)」を運用・整備するとともに、プラットフォームを利活用した研究開発を推進する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性に関する取組に貢献するアプリケーション等を開発し、DIASにて提供した数

 1

(2021年)

 2

(2030年)


5-2-9 ナショナルバイオリソースプロジェクト

 2002年度より開始された、ライフサイエンス研究の発展のために多様なバイオリソース整備を行う「ナショナルバイオリソースプロジェクト」において、時代の要請に応えたリソースの収集・保存・提供を推進するとともに、利活用に向けたデータベースや付随情報の整備に引き続き取り組む。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
中核拠点が大学・研究機関等に提供した実験動物・植物等を用いて発表された論文数 1,021報

(2020年度)

前年度以上の実績値

5-2-10 化学物質環境実態調査

 化審法制定時の附帯決議等を踏まえ、1974年度以降、化学物質の一般環境(水質、底質、生物、大気等)中での残留実態の調査を、毎年度継続して実施し、結果を公表している。本調査の結果は、化学物質の環境リスクの評価等を行うための基礎資料として活用される。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
調査結果を要望部署にフィードバックできた物質・媒体数 37物質・媒体

(2021年度)

 -

5-2-11 農林水産分野における生物多様性保全の取組評価の推進

・ 生物多様性の保全の取組の見える化手法の状況を調査・分析し、生産者や企業等の参考となる情報の提供を進める。

・ 生きものブランドを検討する際に、地域の生物多様性戦略に留意しながら、地域や日本の生物多様性全体の保全に貢献できるような活動を行うように後押しする。

・ 生物多様性の保全に貢献する農法の効果を水田の鳥類とそのえさ生物や植物を用いて評価する手法の活用を図る。

【農林水産省】

5-2-12 河川環境に関する技術開発[重点]

 河川環境管理の高度化・効率化を図るため、新たな河川環境情報図の整備、新技術による環境調査などを推進する。また、河川生態学術研究など河川環境に関する調査・研究について学識経験者や各種機関と連携して推進と成果の活用を図る。

【国土交通省】

(目標)河川水辺の国勢調査マニュアル改訂

5-2-13 海洋生物ビッグデータ活用技術高度化[重点]

 海洋生物・生態系の保全・利用を促進するため、海洋生物・生態系研究と情報科学の融合を図り、海洋生物に関するデータ収集・選別技術及びビッグデータの生成・解析技術の高度化等を行い、社会的成果の創出をステークホルダーとの連携により目指す。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
本事業で整備されたデータや解析技術を用いた論文数、学会発表数(累積値)  6
 500

(2030年度)

構築したデータベースのデータ数  121
 130

(2023年度)


5-2-14 「海洋状況表示システム」(海しる)の運用

 我が国における海洋状況把握(MDA)の能力強化のため、関係府省及び政府機関等保有している気象、海象、防災、海洋生物・生態系等にかかる広域性・リアルタイム性の高い海洋情報を集約・共有・提供する「海洋状況表示システム」(海しる)を運用する。

【内閣府、国土交通省】

5-2-15 日本海洋データセンターの運用

日本海洋データセンターへの海洋環境に関する基礎データの集積を推進し、海洋調査機関との連携を一層強化する。

【国土交通省】

5-2-16 効率的・効果的なマイクロプラスチック分析技術開発

現在ボトルネックとなっているマイクロプラスチックの材質や量の計測に対し、採集から計測まで効率的・効果的に計測する技術を開発する。得られた情報は、国際ネットワークIMDOS(Integrated Marine Debris Observing System)や環境省等に提供する。

【文部科学省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
開発した技術が使用された事例数 なし 年1回以上
環境省等への情報提供数(委員会他各種会合等への出席数等) 年1回以上
国際会合・シンポジウムにおける情報提供数 年1回以上

5-2-17 微生物資源の「持続可能な利用」の促進

 独立行政法人製品評価技術基盤機構において、資源保有国との国際的取組の実施などにより、資源保有国への技術移転、我が国企業への海外の微生物資源の利用機会の提供などを行い、微生物資源の「持続可能な利用」の促進を図っていく。

【経済産業省】

5-2-18 有用微生物資源の保存及び提供

 独立行政法人製品評価技術基盤機構において、国内外から収集した有用な微生物資源の保存及び研究開発や産業利用のための提供を継続する。

【経済産業省】

5-2-19 生物標本・資料の収集及び維持管理体制の強化

 生物多様性センターでは約65,000点の生物標本及び95,000点の資料を所蔵しており生物多様性センターなどにおける生物標本・資料の収集及び維持管理体制の強化を進める。

【環境省】

5-2-20 マルチステークホルダーによる連携取組[重点]

 国民、事業者、NPO、地方公共団体、国等が連携して取組を進めることで、新たな知見の導入や、異なるセクターによる客観的な評価等を通じたより効果的な枠組みの構築や取組促進、広範な意識啓発等を実施する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
J-GBFの活動(プラットフォーム関係会議開催数) 年5回以上
年5回以上
30by30アライアンス参加者数
337

(2022年12月)

500

(2025年)

森里川海の活動(広報等の国民へのアプローチ数(HPアクセス数)) 25,324pv

(2022年度)

30,000pv

(2030年度)

グリーンインフラ官民連携プラットフォームに登録している地方公共団体のうち、グリーンインフラの取組を事業化した自治体数 16自治体

(2021年)

70自治体

(2025年)


5-2-21 全国水生生物調査

 河川に生息する水生生物を指標とした水質の調査は、調査を通じて身近な自然に接することにより、環境問題への関心を高める良い機会となることから、市民参加型の全国水生生物調査を引き続き実施する。

【環境省、国土交通省】

5-2-22 流域関係者連携による河川等の水質調査の推進

 地域住民と協働して、水生生物等の簡易的な指標を用いた水質調査や人の感覚による水質評価を実施することにより、地域の河川環境保全に対する関心・理解を醸成する。

【国土交通省】

行動目標5-3 生物多様性地域戦略を含め、多様な主体の参画の下で統合的な取組を進めるための計画策定支援を強化する

 持続可能な自然共生社会の実現に向け、地域の生物多様性に関する課題に対してその地域の各主体が連携し地域ぐるみの活動を行うことが重要である。その際、多様なスケールで 生物多様性とその他の社会課題との間のシナジーとトレードオフを考慮した統合的な取組を進め、望ましい土地利用の実現を目指す必要がある。

 生物多様性は地域によって様々な特性を有することから、管理や保全に当たっては地域レベルでの実効性ある取組を推進することが重要であり、地域の実情に即した目標や指標の設定、具体的な施策等を盛り込んだ計画の策定が不可欠である。地方公共団体が策定する生物多様性地域戦略について、47都道府県が策定済みである一方、市区町村で地域戦略を策定しているのは2022年12月時点で全体の約9%にとどまっている。さらに策定済みの地域においても、今後、昆明・モントリオール生物多様性枠組や本戦略を踏まえた地域戦略の見直しが期待される。

 このため、マクロな視点で地域における取組を効果的に進める計画手法を地域に浸透させるとともに、生物多様性地域戦略や、国土利用計画や緑の基本計画等の関連する地域計画等の策定促進、各計画間の連携の推進、ランドスケープアプローチを適用した統合的な取組、人材育成や地域における活動を支援する。また計画策定にかかる検討や意思決定等において、女性や若者等の主体による参画を推進する。

<具体的施策>

5-3-1 ランドスケープアプローチを用いた統合的な取組の推進

 ランドスケープアプローチの観点から、地域ごとに多様なスケールで生物多様性と他の社会課題との間のシナジーとトレードオフを明確化した上で、自然的条件と社会的条件を統合的に捉え、地域の多様な主体の参画を得て様々な取組を協調することにより、望ましい土地利用の実現を目指す。また、そのために必要な空間計画の策定やマップ化等の見える化を進めるとともに、ランドスケープアプローチを取り入れた各種計画や戦略の策定等を支援する。

【環境省】

5-3-2 生物多様性地域戦略策定の推進[重点]

生物多様性基本法第13条第1項の規定により地方公共団体が策定に努めることとされる生物多様性地域戦略について、地域の実情を踏まえつつ本戦略の目標達成に貢献する生物多様性地域戦略が多くの地方公共団体で策定されるよう、技術的助言等の方策を講じる。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性地域戦略策定地方公共団体の割合 都道府県100%

市区町村9.0%

(156/1741市区町村)

(2023年2月末)

都道府県100%

市区町村30%

(2030年度)

本戦略の策定を踏まえ、生物多様性地域戦略を改定した地方公共団体の割合 0%

2023年2月時点で生物多様性地域戦略を策定済みの地方公共団体のうち、80%

(2030年度)

生物多様性国家戦略2023-2030を踏まえた策定・改定に際し、技術的支援等を実施した地方公共団体数 0地方公共団体

30地方公共団体

(2025年度)


5-3-3 国土利用計画及び国土の管理構想による国土の適正な利用・管理の推進[重点]

 国土利用計画(全国計画)において、OECMによる保全地域の拡大等の自然環境の保全・再生・活用を含む国土の適正な利用・管理に関する基本的な方向性を示すとともに、その方向性の実現に向けて、全国計画を基本とする都道府県計画及び市町村計画の策定・改定と、それらの実行計画となる都道府県、市町村及び地域の各レベルの管理構想の取組を一体的に推進する。

【国土交通省】

5-3-4 緑の基本計画の策定等の推進

 市町村が定める緑の基本計画の策定や改定に当たり、「生物多様性に配慮した緑の基本計画策定の手引き」等の活用を促し、生物多様性の確保に配慮した公園緑地等の整備や維持管理を推進する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性の確保に配慮した緑の基本計画の策定割合 53%

(2020年度)

60%

(2027年度)


5-3-5 意思決定プロセスにおける女性参画の推進[重点]

 生物多様性の保全に関わる、広範なステークホルダーの意見を統合し、より効果的で実効的な取組を行うため、生物多様性に関する会議における、女性の参加比率を向上させる。加えて、多様な主体が意思決定プロセスに参加しやすくなるよう、開催形体や参画方法を配慮する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性保全に関する審議会の女性委員の比率 22%

(2021年度)

40%

(2025年度)

生物多様性保全に係る環境省の管理職ポストのうち、女性が占める割合 12.3%

(2023年1月時点)

30%

(2030年度)



行動目標5-4 生物多様性に有害なインセンティブの特定・見直しの検討を含め、資源動員の強化に向けた取組を行う

 COP10で採択された愛知目標において、遅くとも2020年までに、資源動員を現在のレベルから顕著に増加させるという目標が掲げられ、2012年10月に開催されたCOP11において資源動員に関する暫定的な目標が合意されたことも踏まえ、国際的フォーラムにおける議に積極的に参加するとともに、各国の事例等も参考に、我が国における多様な主体の資源員の把握手法について検討を行った。また愛知目標の達成のための途上国の能力養成を目的とした生物多様性日本基金により、149か国の生物多様性国家戦略の策定・改訂支援、87件の能力強化プロジェクト等を実施した。しかしながら愛知目標は達成されず、世界的な生物多様性の損失は続いている。

 生物多様性の保全のためには、愛知目標下での取組の教訓も活かしつつ、効果的・選択的に資源を動員し生物多様性に係る取組全体を底上げする必要がある。そのため必要な予算を確保するとともに、民間資金も含めたあらゆる資源の導入を促進し、国や地方公共団体、民間が主体となって行う保全の取組を財政的に後押しする。

 また、民間や地方公共団体等の取組を促進するため、生物多様性の価値の市場取引に向けた議論や税制上の措置など、生物多様性の保全に取り組むインセンティブを高めるための検討を行う。あわせて、既存の補助金を含む各種奨励措置等について、国内における生物多様性に有害なものを特定し、その在り方を見直すことで、全体として生物多様性保全に貢献するポジティブなインセンティブを増加させていく。

 なお、資源動員に当たっては、生物多様性の保全のみならず、気候変動対策にも寄与するなど相乗的な効果が期待できる取組に優先的・重点的に配分するなど、効率性に配慮する。さらに、生物多様性をめぐる取組を地球規模で推進していくためには、途上国への資金供与や技術移転、能力養成が必要であることが強く指摘されていることから、国際的な資源動員への貢献を強化する。

<具体的施策>

5-4-1 生物多様性への資源動員の強化

 国内外における生物多様性に係る取組全体を底上げするため、生物多様性の保全及び持続可能な利用に資する施策の実施に必要な法制上、財政上又は税制上の措置等を講ずるとともに、国際的な資源動員への貢献を強化する。その際、気候変動対策など他の施策との

相乗効果等、資源配分の効率性に配慮する。

【環境省、関係府省】

5-4-2 「生態系サービスへの支払い」の推進

 生態系サービスの受益者が、その恩恵に対する資金負担を行う「生態系サービスへの支払い」の事例に関する情報提供等を通じて、国内での普及を推進する。

【環境省】

5-4-3 乾燥地の保全、砂漠化対処

 乾燥地域等の自然資源を総合的に保全・管理するための手法を検討し、研究・調査などを実施する。また、それにより得られた科学的知見を条約締約国会議や補助機関会合などにおいて提供しながら、世界の砂漠化問題に積極的に取り組む。

【環境省】

5-4-4 生物多様性保全等に資する優遇措置等

 生物多様性の保全をはじめ自然環境の保全活動などを行う特定公益増進法人に対する寄付金の優遇措置や、自然公園や保安林などに指定された区域内の土地に係る所得税・法人税・地方税の特例などの税制上の措置を講じる。

【環境省、農林水産省】

5-4-5 自然共生サイト認定に係るインセンティブの検討[重点]

 自然共生サイトの認定を受けた土地の生物多様性の価値を証書化等し、取引されるような枠組みの検討を進めるとともに、それ以外の税制等の経済的なインセンティブについての導入可能性や実効性等の検討を行う。

【環境省】

5-4-6 生物多様性に有害・有益な奨励措置に係る対応[重点]

 国内の補助金を含む各種奨励措置について、生物多様性に有害なものを特定し、該当する奨励措置の在り方を見直す。有害な奨励措置の特定作業に当たっては、生物多様性への影響を見極めるため、関係省庁間で十分に検討・協議の上で実施する。また、見直しについては奨励措置の利用者に十分配慮し、対処する。あわせて有益な奨励措置の増加に取り組み、優良事例については横展開すべく情報発信等に取り組む。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
廃止、見直し等を行った生物多様性に有害な補助金・奨励措置の予算総額  -
 -
生物多様性に有益な奨励措置の支出額  -
 -

行動目標5-5 我が国の知見を活かした国際協力を進める

 生物多様性の保全のためには、国境をまたいで移動する生物や海洋環境の保全、地球規模の気候変動対策、野生動植物の国際取引の規制等、一国では対応が不可能な課題に対し国際社会が連携して取り組まなければならない。また我が国は食料やエネルギー等の多くを海外の資源に依存していることから、こうした資源の供給元である途上国を中心に、世界的な生態系の保全に積極的な役割を果たす責任がある。

 我が国は長期的な科学的データの蓄積や環境に配慮したインフラ整備、里山などの二次的自然の持続可能な利用、自然と共生する価値観、Eco-DRRの実施などの様々な知見や経験に加え、専門知識を有する人材を有している。これらの強みを活かして生物多様性に寄与する技術やノウハウ等の国際的な展開や共有、各国間の連携強化を図るとともに、国際的議論に積極的に関与し、生物多様性の保全に資する条約や協定等に基づく取組の推進、途上国における能力構築や国際的な枠組み等を通じた資金供与を進めるなど、世界的な生物多様性保全の取組の推進に貢献していく。

<具体的施策>

5-5-1 SATOYAMAイニシアティブ

▶ SATOYAMAイニシアティブの推進

生物多様性条約COP10から14までの決定を踏まえ、二次的自然環境における生物多様性の保全とその持続可能な利用を目指す「SATOYAMAイニシアティブ」を世界規模で推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
SATOYAMAイニシアティブに関連するプロジェクトの実施数 458件
600件

(2028年)


▶ SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップの推進

COP10期間中に設立された「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」への参加を広く呼びかけるとともに、参加団体間の情報共有や協力活動を促進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップへの参加団体の本部事務所等所在国数  73
 100
(2030年)
SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップへの参加団体数 283団体
400団体

(2030年)


▶ GEF、CEPFによる国際支援

地球環境ファシリティー(GEF)やクリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)等を通じて、SATOYAMAイニシアティブに関連した活動に対する支援の機会を促進する。

【環境省】

5-5-2 途上国における陸域・沿岸域の持続的自然資源管理

 途上国において、技術協力、有償資金協力等を活用し、政策・計画策定の能力向上、科学的情報基盤の整備、地域住民との協働等を通じた地域における実証・モデル化、リソース確保と連携によるスケールアップ等を通じて、自然環境の減少と劣化を防ぐことで、生物多様性の維持、温室効果ガスの排出抑制、自然災害の軽減化など生態系サービスを確保し、自然環境からの様々な恵みを享受し続けられる社会の構築を目指す。

【外務省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
自然環境保全を担う途上国機関の体制強化、人材育成人数

 -


自然環境保全を担う中央/地方政府における48以上の機関の体制が強化され、行政官等が12,000人養成される。(2030年)

5-5-3 開発協力大綱等に基づく生物多様性分野への支援

 開発途上国のニーズ、生物多様性を取り巻く国際社会の動向、気候変動などの地球規模の課題などを踏まえ、より効果的かつ効率的に生物多様性分野を含めた環境分野における

国際協力を推進する。

【外務省】

5-5-4 クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)

 世界銀行、地球環境ファシリティ及び国際NGOコンサベーション・インターナショナルが2000年8月に共同設立したクリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)を通じて、途上国における生物多様性ホットスポットの効果的な保護を支援する。

【財務省】

5-5-5 JICAを通じた国際協力の推進

・ 二国間協力としては、国際協力機構(JICA)を通じた技術協力を実施し、開発途上国における持続可能な森林経営や生物多様性保全への取組を推進する。

・ 援助実施機関であるJICAにおいても、「JICA環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月公布)を踏まえ、適切な環境社会配慮の下で、案件形成・実施に努める。

【外務省、財務省】

5-5-6 途上国の森林減少・劣化の抑制と持続可能な森林経営の促進

開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+(レッドプラス))の促進や森林の防災・減災機能の強化に資する技術開発や人材育成等を支援する。

【農林水産省】

5-5-7 途上国の森林保全・造成等のための国際的支援

途上国における森林保全・造成に関する技術・資金協力、合法で持続可能な木材サプライチェーンの構築、及び森林の整備・保全等による山地流域の強靭化に関する二国間の国際協力や国際機関を通じた多国間の支援をする。

【農林水産省、外務省】

5-5-8 国際熱帯木材機関(ITTO)プロジェクト支援

国際熱帯木材機関(ITTO)加盟国における、合法で持続可能な熱帯木材の貿易及び熱帯林の持続可能な経営を促進するため、森林認証制度の普及を含む、違法伐採対策や森林経営能力開発プロジェクト等の実施を支援し、熱帯林を始めとする森林の保全に貢献する。

【外務省、農林水産省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
持続可能な森林経営の促進(ITTO加盟生産国において持続可能な経営が認証されている森林面積(FSCとPEFCの合計)) 36.4百万ha

(2021年度)

50百万ha

(2030年)

合法的に伐採された木材貿易の促進(ITTO加盟生産国におけるCoC(Chain of Custody)認証取得数)

5,484

5,484

(2021年度)

8,000

(2030年)


5-5-9 国際熱帯木材機関(ITTO)と生物多様性(CBD)条約事務局との共同イニシアティブ支援

 生物多様性の保全における熱帯林の役割を認識し、ITTO‐CBDの覚書(MoU)に基づく、熱帯林の生物多様性に係る共同イニシアティブを通じた取組を実施する。

【農林水産省、外務省】

5-5-10 国際熱帯木材協定(ITTA)実施

 合法的に伐採された熱帯木材の国際貿易の拡大及び多様化、及び熱帯木材生産林の持続可能な経営を促進することを目的とする国際熱帯木材機関(ITTO)事務局の活動を支援するとともに、関連会合に積極的に参画し、加盟国と必要に応じた積極的な情報交換を行い、国際熱帯木材協定(ITTA)を適切に実施する。

【外務省、農林水産省】

5-5-11 IPBESの活動促進

 政策決定プロセスにおける科学的知見の活用を促進し、科学と政策のインターフェースを強化するため、IPBES(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)に対して科学的根拠に基づく効果的、効率的な枠組みとなるよう積極的に参加・貢献し、そのための国内体制を整備する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)会議への専門家派遣人数  0

※コロナにより会議開催なかったため

 5

(2030年)


5-5-12 GEOSS構築のための取組の推進

 地球観測に関する政府間会合(GEO)に参画し、気候変動、災害、生物多様性等の地球規模課題への対応に向けた政策決定等に貢献するため、幅広いユーザに対して、各国の衛星、海洋、地上等の地球観測データ及びそれらを活用し得られた情報等を提供する全球地球観測システム(GEOSS)の構築・発展に関する国際協力を推進する。

【文部科学省】

(目標)

生物多様性を含む地球規模課題への対応に向けた政策決定等に貢献するため、各国の地球観測データ及びそれらを活用し得られた知見等を共有するための基盤であるGEOSSの構築・発展に関する国際協力を推進する。また、GEO次期戦略ミッションにおいて、生物多様性に関する取組を重点的取組事項として位置づける。

5-5-13 アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(APBON)

 アジア太平洋地域における生物多様性の保全のための取組をより効果的に推進するため、各国の現状についての情報交換などを通じ、同地域における生物多様性モニタリングの観測ネットワークの活動を支援し、地域の連携を深める。アジア太平洋海域においても同様の取組を行う(AP-MBON)。

【環境省、文部科学省】

(目標)

 生物多様性情報の収集・提供を行う場であるアジア太平洋地域生物多様性観測ネットワークのメンバー国あるいは地域のうち、ウェブセミナーに出席した研究者の国あるいは地域の割合が7割以上を維持

5-5-14 アジア太平洋地域地球変動研究ネットワーク(APN)

 アジア太平洋地域地球変動研究ネットワーク(APN)を通じて、地域研究者との共同研究や能力開発、ワークショップ開催等を通じ、地域各国の政策担当者との連携強化を促進する。

【環境省】

(目標)

 研究支援等を通じ、生物多様性に関する専門家グループと連携してアジア太平洋地域の科学的能力向上に貢献する。あわせて、生態系、生物多様性を重点分野の一つに捉え戦略的に取り組み、各種関連会議への情報のインプットや職員の参加を推進していく。

5-5-15 生物多様性条約関連会合等への対応

▶ 生物多様性条約関連会合への参加

生物多様性条約関連会合への参加を通じ、効果的な条約実施の推進、我が国の知見・取組の共有など、地球規模での生物多様性の保全及び持続可能な利用の達成に貢献していく。

【環境省、外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性条約関連会合(代表団登録が求められる公式会合)のうち、日本政府代表団等が参加した割合 100%
100%

▶ 生物多様性条約締約国会議及び関連会合の結果に関する周知

 生物多様性条約の締約国会議や、関連する科学技術補助機関(SBSTTA:Subsidiary Bodies for Scientific, Technical and Technological Advice)などにおける議論の状況等を国民に周知し、条約の実施への国民の協力を促す。

【環境省】

(目標)

 概ね2年に一度の周期で開催される生物多様性条約COP開催後には、その内容の結果報告を行い、また、概要をまとめた国民向けの資料等を作成・公開する。

▶ 国際会議等への専門家の派遣

生物多様性分野の国際的な議論に貢献するため、生物多様性条約関連会合や国際機関への派遣など、国内の生物多様性分野の専門家の発掘・支援・育成を行う。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)会議への専門家派遣人数  0

※コロナにより会議開催がなかったため

 5

(2030年)

生物多様性に係る条約関連専門家会合に派遣した専門家の数

※コロナにより会議開催がなかったため

 3

(2030年)


5-5-16 生物多様性条約の適切な実施

 生物多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目的とする、生物多様性条約の事務局の活動を支援するとともに、条約関連会合に積極的に参画し、関係の締約国と必要に応じた積極的な情報交換を行い、条約を適切に実施する。

【外務省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性条約の目的の達成に向けた国際的なルール作りの推進(生物多様性条約締約国会議における決定の数) 35本
(2022年度)
38本
(2030年度)

5-5-17 生物多様性日本基金

 途上国がCOP15で採択される昆明・モントリオール生物多様性枠組を達成するための国際協力を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
生物多様性日本基金を通じ生物多様性条約事務局が主催した能力構築の等の会議開催累積数  -


(2030年)
生物多様性条約事務局主催の能力構築等の会議に参加し、生物多様性国家戦略の改訂を実施した国の累積数  -

 170
(2030年)

生物多様性日本基金を通じCOMDEKS(SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム)により支援した途上国の数  -

 10
(2028年)

5-5-18 生物多様性条約カルタヘナ議定書実施

 現代のバイオテクノロジーにより改変された生物であって生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるものの国境を越える安全な移送、取扱い及び利用の分野において十分な水準の保護を目的とする、生物多様性条約カルタヘナ議定書の事務局の活動を支援するとともに、条約関連会合に積極的に参画し、関係の締約国と必要に応じた積極的な情報交換を行い、条約を適切に実施する。

【外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
カルタヘナ議定書の目的の達成に向けた国際的なルール作りの推進(カルタヘナ議定書締約国会議における決定の数) 14本

(2022年度)

18本

(2030年)


5-5-19 生物多様性条約名古屋議定書実施

 遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること並びにこれによって生物の多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用を目的とする、生物多様性条約名古屋議定書の事務局の活動を支援するとともに、条約関連会合に積極的に参画し、関係の締約国と必要に応じた積極的な情報交換を行い、条約を適切に実施する。

【外務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
名古屋議定書の目的の達成に向けた国際的なルール作りの推進(名古屋議定書締約国会合における決定の数)

12本
(2022年度)
16本
(2030年)

5-5-20 日中韓生物多様性政策対話

日中韓生物多様性政策対話において、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施に向けた3か国間の知見の共有等を進める。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
政策対話の開催数 年1回 年1回

5-5-21 ラムサール条約及び条約湿地の保全、賢明な利用及び普及啓発

 ラムサール条約湿地において生息・生育する動植物の保全及びワイズユース(賢明な利用)を促進するとともに、条約湿地の質をより向上させていく観点から、これまでに登録された全ての湿地について最新状況を把握し、ラムサール情報票(RIS)の更新を行う。そのため、関係省庁、地方公共団体や地域住民、NGO、専門家、地域住民、ユースなどと連携し、条約湿地に関するモニタリング調査や情報整備、湿地の再生、優良事例の共有、湿地教育を含む普及啓発活動等を推進する。

 なお、国際的に重要な湿地の基準を満たすことが明らかであって、登録によって地域による保全等が円滑に推進されると考えられる湿地については、地域の合意が図られ要件が整ったものについて登録を進める。加えて、特に我が国に渡来する水鳥類の渡りのルート上に位置するアジア太平洋地域において、湿地の現況調査や条約湿地の候補地選定支援、普及啓発等を進めることにより、アジア太平洋地域におけるラムサール条約の履行や、渡り鳥及び湿地保全への国際協力を行う。

【環境省、外務省、農林水産省、国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
日本国内登録湿地のラムサール条約情報票(RIS)の更新数  12
(2022年)
 53
(2030年)

5-5-22 ラムサール条約の実施

 国際的に重要な湿地及びこれらの湿地に生息する、水鳥を含む多様な動植物の保全を促進することを目的とする、ラムサール条約の事務局の活動を支援するとともに、条約関連会合に積極的に参画し、関係の締約国と必要に応じた積極的な情報交換を行い、条約を適切に実施する。加えて、同条約の勧告に基づき、提出することとなっている国別報告書について、関係省庁、地方公共団体やNGO等と協議し作成を進める。

【外務省、農林水産省、国土交通省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国内のラムサール条約登録湿地面積
155,174ha
(2022年度)
20万ha
(2030年)

5-5-23 渡り鳥の保全等に関する二国間条約・協定の推進

 アメリカ合衆国、中国、オーストラリア、ロシアとの間で締結する二国間渡り鳥等保護条約・協定について、この枠組みに基づき、各国と約2年ごとに定期会議を開催し情報交換を行う。また、必要に応じて渡り鳥の飛来経路などの生態解明や保全の必要性の高い種の共同調査等を行うなど、各国と連携・協力し渡り鳥の保護施策の強化・研究促進等を図る。韓国との間では日韓環境保護協力協定に基づき渡り鳥などの保護協力を行う。

【環境省、外務省】

(目標)

 二国間渡り鳥保護条約・協定等に基づく二国間会議を、各国と約2年おきに開催するため、国内における渡り性鳥類の調査及び専門家ワークショップ開催するなどの取組を実施する。

5-5-24 東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)の活動推進

 東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)は我が国を含む東アジア・オーストラリア地域の渡り鳥の飛来経路(フライウェイ)において、各国の関係省庁、国際機関、NGO等の様々な主体の連携・協力を促進し、渡り性水鳥とその重要な生息地を保全するための国際的な枠組みである。我が国には34か所のネットワーク参加地があり、これらの参加地において、普及啓発、調査研究、研修、情報交換などの活動を推進する。

【環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
新たに登録するネットワーク参加地数  1
(2021年度)
 5
(2030年度)

5-5-25 移動性野生動植物種の保全に関する条約(ボン条約)

 「移動性野生動植物種の保全に関する条約」(ボン条約)では、条約の附属書に掲載される絶滅のおそれのある移動性野生動植物種の保全のため、捕獲の禁止や種毎の協定・覚書の締結などが行われている。我が国は、本条約で捕獲が禁止される動物について我が国とは意見を異にする部分があるため、本条約を批准していないが、渡り性の鳥類については近隣国と二国間条約・協定を結ぶほか、関連する様々な条約等を通じ絶滅のおそれのある移動性野生動物種の保全に努めている。既存の取組を着実に実施するとともに、ボン条約に関しては、継続的な情報の収集に努め、必要な場合には、本条約又は関連する協定・覚書への対応も検討する。

【環境省】

5-5-26 野生動植物取引規制実施

 野生動植物の保護について、資源利用と生態系・環境の保全を調和させる持続可能な利用の考え方に立つ措置がとられるよう、ワシントン条約関連会合に積極的に参画し、関係の締約国と必要に応じた積極的な議論及び情報交換を行うとともに、条約を適切に実施する。

【外務省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
ワシントン条約締約国会議における決議及び決定の採択によるワシントン条約の下での規範作りの推進(締約国会議の決議及び決定数) 248本
(2018年度)
250本
(2030年)

5-5-27 ワシントン条約MIKE(ゾウ密猟監視)プログラム支援

 アフリカにおけるゾウの密猟の根絶や関係者の監視能力向上等に係るプロジェクト(レンジャーの育成や密猟監視ポストの建設等)を支援し、野生動植物違法取引対策の強化を通じ、我が国主導による地球環境問題の解決に向けた取組を促進する。

【外務省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
途上国における多数国間環境条約の遵守及び実施等の促進(環境条約事務局や国際機関等による会合開催や途上国の能力構築の支援、環境条約の遵守・実施促進を目的とするプロジェクト等の事業) 1事業
(2022年度)


1事業
(2030年)



5-5-28 東南アジアにおける持続的な水産業の推進

 東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)への資金拠出及び専門家派遣による、ASEAN地域における国際資源管理の推進や環境・安全配慮型養殖手法の開発の推進を通じ、水産生物資源利用分野におけるASEAN諸国との協力関係の強化を図る。

【農林水産省】

5-5-29 国際的なサンゴ礁生態系保全への貢献

 国際的に劣化及び損失の著しいサンゴ礁生態系の保全のため、ICRI等の国際会議への参加や国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターの取組を通じて、情報の収集、我が国の取組の発信を行う。また、東アジア地域におけるサンゴ礁保全に貢献するため、地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)東アジア地域におけるサンゴ礁モニタリングデータの地域解析を行うとともに、地域解析のために収集したGCRMN東アジアの国と地域の各モニタリングデータについて、管理及び利用方法について整理し、適切なデータベースを構築する。

【環境省】

5-5-30 大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの実現に向けたプラスチック汚染に対処する新たな国際的枠組みづくり及びそのための国際協力[重点]

 大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの実現に向け、海洋環境を含むプラスチック汚染に関する新たな法的拘束力のある国際文書(条約)の策定において、主要排出国を含むより多くの国が参加する実効的かつ進歩的な枠組みの構築を主導する。そのため、プラスチックの環境モニタリング手法の調和やデータベースの構築、3R・廃棄物適正処理に関する技術支援、ERIA地域ナレッジセンター(ERIA)を通じた知見共有や、研修による人材育成等の国際協力により、同枠組みの実効性強化を促進する。

【環境省、外務省、経済産業省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
廃棄物管理人材育成数 17,000人(2022年8月) 10,000人(2025年)

5-5-31 バラスト水管理条約に関わる国際的議論への積極的関与

 2017年9月に発効したバラスト水管理条約について、IMOの海洋環境保護委員会における条約の見直しに向けた議論に積極的に参加する。

【国土交通省、環境省】

5-5-32 世界遺産条約のより良い実施への貢献

2022年は、1972年のユネスコ総会での世界遺産条約採択から50年の節目を迎えた。我が国は、世界遺産委員会の委員国として、これまでの知見や経験を活かし、世界遺産条約のより良い実施のために貢献する。

【外務省】

5-5-33 アジア・太平洋地域におけるユネスコの科学分野事業への協力

 ユネスコエコパークやユネスコ世界ジオパーク事業等のユネスコにおける科学分野事業に関して、主にアジア・太平洋地域におけるネットワーク会合への支援等を通じ、我が国の知見や経験の共有やネットワーク機能の強化を行うことで、国際協力を促進する。

【文部科学省】

5-5-34 独立行政法人製品評価技術基盤機構による多国間の取組

 独立行政法人製品評価技術基盤機構による多国間の取組として、日本、韓国、中国、インドネシアなど12か国による微生物資源の保全と利用を目的としたアジア・コンソーシアムを設立(2004年)し、各国の遺伝資源機関とのネットワークの構築により、保存微生物、技術情報、遺伝資源移転ルールの共有化及び人材育成などを引き続き実施するととに参加国・機関数を増やしアジア諸国/地域の遺伝資源機関のネットワークの拡大と強化を行う。

【経済産業省】

5-5-35 食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約の適切な実施

 我が国が2015年10月28日に加盟した食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約を適切に実施する。具体的には、特に同条約第1条の「生物の多様性に関する条約の(イ)食料及び農業のための植物遺伝資源の持続可能な利用」に沿った協力を「遊牧民伝承に基づくモンゴル草原植物資源の有効活用による草地回復プロジェクト」等を通じて行う。

【外務省、農林水産省】

5-5-36 砂漠化対処条約の実施

 地球規模の影響が懸念されている砂漠化の進行に関し、国際的協調の下に対処するための措置の実施推進を目的とする、砂漠化対処条約の事務局の活動を支援するとともに、条約関連会合に積極的に参画し、関係の締約国と必要に応じた積極的な情報交換を行い、条約を適切に実施する。

【外務省、環境省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
締約国会議における規範等(決定等)の採択数
36本
(2022年度)
40本
(2030年)

5-5-37 アジア保護地域パートナーシップ等を通じた国立公園の情報発信

 国立公園における地域の多様な主体と連携協力した保護管理システムや誘客施策など我が国の先進的な取組を国内外に発信し、「アジア保護地域パートナーシップ」等を通じて、各国間の国立公園等の保護地域やOECMに関する情報共有・発信を進め、各国の保全管理の水準を向上させる。

【環境省】

5-5-38 下水道分野の海外展開の推進

下水道の計画・建設から管理・運営に至るまで、我が国の産学官のあらゆるノウハウを結集し、海外で持続可能な下水道システムを普及させ、公共用水域の水質の保全に資するための国際協力を推進する。具体的には、政府間会議やセミナー等の開催、途上国を対象とした研修の実施、本邦下水道技術の海外実証事業の実施、下水道グローバルセンター(GCUS)による官民連携での海外展開活動等を通じ、下水道分野における海外展開を推進する。

【国土交通省】

(現状と目標)

指標 現状値 目標値
国内外で開催したセミナー、政府間対話等の数
11件
(2022年度)
11件
(2023年度)



附属書 30by30ロードマップと本戦略の背景にある基礎的情報

 本附属書では、本戦略の基本戦略1の柱となる取組の一つである「30by30目標」の達成に向けた行程を示すものとして、2022年4月に公表した「30by30ロードマップ」や、本戦略を読み進める上で参考となる基礎的情報について掲載した。

1 30by30ロードマップ

 2022年12月の昆明・モントリオール生物多様性枠組の採択に先立ち、2021年6月のG7コーンウォール・サミットにおいて、我が国を含むG7各国が30by30目標に取り組むことを約束した。これを受け、30by30目標を国内で達成するための行程と具体策を取りまとめ、2022年4月に生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議名で公表したもの。本ロードマップは、30by30目標の観点から本戦略を整理したものとなる。

2 生物多様性及び生態系サービスの重要性の解説

 前・生物多様性国家戦略である「生物多様性国家戦略2012-2020」に掲載されていた「生物多様性」及び「生態系サービス」の重要性について、時点更新したもの。本戦略を読み進める上で参考となる基礎的情報である。

3 「自然共生社会における国土のグランドデザイン」

 前・生物多様性国家戦略である「生物多様性国家戦略2012-2020」に掲載されていた「自然共生社会における国土のグランドデザイン」について、抜粋したもの。2002年に策定された「新・生物多様性国家戦略」以降、目指すべき姿として掲げている「自然と共生する社会」の実現に向けて、自然生態系の変化に要する期間を踏まえ、少なくとも100年という長期的な視点で記述した基本的な姿勢及びビジョンである。


1 30by30ロードマップ

 2022年12月の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に先立ち、2021年6月のG7サミットにおいて、我が国を含むG7各国が30by30目標に取り組むことを約束した。これを受け、生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議は、30by30目標を国内で達成するための行程と具体策を示した「30by30ロードマップ」を2022年3月30日に決定し、4月8日に公表した。その際に、本ロードマップを次期生物多様性国家戦略に組み込み、より明確な国家方針とすることとしていた。本ロードマップは、30by30目標の観点から本戦略を整理したものとなる。

{30by30ロードマップ概要、図は省略}

{目次は省略}

1.キーメッセージ

 個人、事業者、地域、そして社会全体が自然環境から得られる恵み「生態系サービス」に依存している。衣食住のみならず、私たちの社会経済も、そうである。だからこそ自然環境は「自然資本*7*」としてみられている。自然環境を安定的な資本としているのは、生物の間にあるあらゆる差異(すなわち「生物多様性」)とつながりである。差異とつながりがある「健全な生態系*8*」が、自然資本の強靱性や冗長性を高める。

 しかし、自然の回復力を超えた資本の利用によって、社会は物質的には豊かになった一方で、生態系サービスは過去50年間で劣化傾向にあることが指摘されている。私たちが持続的に生態系サービスを得ていくためには、地球規模で生じている生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」に向けた行動が急務となっている。他方、都市への人口集中、生活様式あるいは産業構造の変化によって、人と自然との結びつき*9*が希薄化した。このため生活や生業の中でその恩恵を直接実感できる人は少なくなり、この危機に対して、必ずしも高い関心が得られているとは言えない状況となっている。

 こうした中で、生物多様性の損失を止め、人と自然との結びつきを取り戻すため、2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標が提唱された。これがいわゆる30by30(サーティ・バイ・サーティ)(以下「30by30目標」という。)である。

 健全な生態系の確保のためには、可視的な種に着目した保全施策だけではなく、水、大気、光等の無機的環境や目に見えない微生物等も含め、生態系をエリアベース*10*で保全し、効果的に管理し、それらをつなげなければならない。そのため、我が国では、国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上及び「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM:Other Effectivearea-based Conservation Measures)」の設定・管理を、この30by30目標を達成するための中心施策に据える。これらの取組は、国や地域、事業者そして一人ひとりの力を結集し、進めていくものである。

 昨今、自然を活用した解決策(NbS: Nature-based Solutions)という考え方が、国際的にも注目されている。例えば、気候変動の文脈においても、健全な生態系は温室効果ガスの吸収源としての役割を果たす。NbSを適用するには、健全な生態系がなくてはならない。30by30目標の達成を目指すことは、地域の経済・社会・環境問題の同時解決につながるNbSのための健全な生態系を確保する基盤的・統合的アプローチである。これは、地域での持続可能な開発目標(SDGs)の実践である「ローカルSDGs=地域循環共生圏」にも直結する。

 30by30目標は明確な数値を有する基盤的・総合的な目標として国際的に注目されている生物多様性の目標であり、自然の状態を一つの物差しで測ることが困難である中で、達成に向けた多様な主体による貢献が可視化できる特徴がある。

 一人ひとりが参加できる世界目標である30by30目標を我が国で達成し、持続可能で豊かな暮らしと心身の健康が守られる社会を次世代へと継承しよう。

2.本ロードマップの目的

 本ロードマップでは、我が国としての30by30目標を達成するために必要とされる2030年までに集中して行う取組・施策を中心に、30by30目標達成までの行程と具体策を示すものとする。

3.30by30目標達成のための主要施策

①保護地域の拡張と管理の質の向上

 陸域*11*は20.5%が、海域*12*は13.3%が既に保護地域に位置づけられている。

 陸域については、今後、国立公園等の拡張により現状からの上乗せを目指すこととし、とりわけ、国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地を示した国立・国定公園総点検事業(2010年公表)のフォローアップを行い、未了のエリアを中心に指定・拡張の取組を継続するとともに、生態系や利用に関する最新のデータ等に基づき指定・拡張の候補地について再評価した上で、今後の国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地を選定する。さらに、管理の質の向上を目指した地種区分の格上げ等について検討を進める(取組①-1)。この作業で抽出した候補地を主な対象として、関係機関と調整の上、2030年までに日高山脈襟裳国定公園及び周辺エリアをはじめとした新規指定や大規模拡張等の調整を順次進める。また、2030年までに国立・国定公園の再検討や点検作業を強化し、必要に応じて周辺エリアの国立・国定公園への編入や地種区分の格上げを進める(取組①-2)。

 海域については、特に景観・利用の観点からも重要で生物多様性の保全にも寄与する沿岸域において、国立公園の海域公園地区の面積を2030年までに倍増させることを目指す(取組①-3)。

 さらに、国立公園等について、広範な関係者と連携しつつ、国立公園満喫プロジェクト等により対象となる自然の保護と利用の好循環を形成するとともに、自然再生、希少種保全、外来種対策、鳥獣保護管理をはじめとした保護管理施策や管理体制の充実を図る(取組①-4)。

②保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理

 30by30目標は、主にOECMにより達成を目指すこととする。このため、まずは、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域について、国によって「自然共生サイト(仮称)」として認定する仕組みを2022年度に試行し(取組②-1-a)、その制度の構築(取組②-1-b)と認定等の実施を進め、既存の保護地域との重複を除いてOECM国際データベースに登録する(取組②-1-c)。

 自然共生サイト(仮称)は、事業者、民間団体・個人、地方公共団体による様々な取組によって、本来の目的に関わらず生物多様性の保全が図られている区域を認定の対象とする。例えば、ナショナルトラスト、バードサンクチュアリ、ビオトープ等民間団体が生物多様性保全を目的として管理している場所のみならず、企業の水源の森、手入れがされている里地里山や森林施業地、企業敷地や都市の緑地、研究や環境教育に活用されている森林、防災・減災目的の土地・河川敷、試験・訓練のための草原といった多様なエリアのうち、管理の結果として生物多様性の保全が図られている区域が該当しうる。また、これらには沿岸の干潟等も含みうる。30by30目標が我が国の生態系の多様さを表現したものとなるよう、特に陸域については目標達成に向けて、可能な限り多くの自然共生サイト(仮称)認定地を確保する。

 2023年には、全国で100地域以上を先行的に自然共生サイト(仮称)として認定する(取組②-2)ことを目指し、更にその後も取組を進めていく。そのため、2022年度以降には、後述の3.④の取組とあいまって、認定実証事業等の実施、一括認定や団体との連携協定(取組②-3)、後述の4.②のアライアンスによる取組推進等によって自然共生サイト(仮称)認定を加速する。

 国の制度等に基づき管理されている森林、河川、港湾、都市の緑地も、生態系ネットワークを確保し、さらに生態系サービスを提供する場として重要であることから、関係省庁が連携し、このような地域のうちOECMに該当する可能性のある地域を検討した上で、適切なものについてはOECMとして整理する(取組②-4)。具体的にどのようなエリアをどの程度OECMとすることで目標達成できるのかについては、我が国の国土の特徴に応じた適切な類型を整理し、後述の3.③の「見える化」の結果を踏まえつつ、検討する(取組②-5)。

 海域については、既に13.3%が保護地域に指定されているところ、残り約17%の追加的な保全が必要となっている。これらについては、関係省庁が連携し、持続可能な産業活動が結果として生物多様性の保全に貢献している海域をOECMとすることを検討しており、該当する場所の整理を進める(取組②-6)。

③生物多様性の重要性や保全活動の効果の「見える化」

 後述の8.に述べる効果を発揮する社会を実現するためには、単に30%の面積的な目標を達成するだけでは十分ではない。脊梁山脈等の原生的な自然は引き続き保護地域として保護する一方で、より身近な里地里山、さらには都市部において生物多様性が豊かな場所を確保していく必要がある。我が国は、世界的にも高いレベルで生物の分布情報が蓄積されており、生物多様性の重要性や保全活動の効果の見える化について、マクロ生態学やデジタル技術を活用して進める。まずは、数年以内に、奥山から中山間地域、さらに都市部まで陸域の全域をカバーする、生物多様性の現状や保全上効果的な地域を可視化したマップを提供する(2024年目途)(取組③-1)。さらに、更新可能なシステムを開発し(取組③-2-a)、モニタリング機能とマップを連携させることで保全活動の効果が適宜把握できる仕組みとする等、必要な機能を付加・充実させる(取組③-2-b)。

④生態系がつながり合い、健全に機能するための質を高める取組

 ①や②の取組によって保全されたエリアは、健全な生態系を確保するための骨格である。生態系が健全に機能するためには、同時並行的に、保全されたエリア及びその周辺地域等における自然環境の質を高めていく必要がある。特に、日常における生態系サービスの享受のためには、原生的な自然だけではなく、人々の営み・暮らしの場である(里地里山や都市等の)場所において、自然環境の質を高めていくことが重要である。

 そこで、①の区域について、広範な関係者と連携しつつ、国立公園満喫プロジェクト等により対象となる自然の保護と利用の好循環を形成するとともに、自然再生、希少種保全、外来種対策、鳥獣保護管理をはじめとした保護管理施策や管理体制の充実を図り(取組①-4再掲)、自然生態系の質をさらに向上させる。②の自然共生サイト(仮称)の管理活動を通じて保全効果が確認された取組が全国的に展開されるよう、その管理の方法をマニュアル化する(取組④-1)。これを、自然共生サイト(仮称)等の管理者や今後自然共生サイト(仮称)の認定を目指す者等に対して提供する(取組④-2)。国の制度等に基づき管理されている地域においては、当該制度に基づく適切な管理等を通じ、生物多様性保全機能が持続的に発揮され、必要に応じてその地域の生物多様性保全機能が向上されるよう努める(取組④-3)。また、保全されたエリアのみならずその周辺地域等においても生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)、自然再生、希少種保全、外来種対策、鳥獣保護管理、里山管理等の自然環境の保全の取組を多様な公的・民間の資金を積極的に活用し実施するとともに、マニュアルや情報を提供し、取組を支援する(取組④-4)。

⑤脱炭素、循環経済、有機農業、都市における緑地等の取組との連携

 本ロードマップの取組をさらに進めるためには、生物多様性保全の取組と同じく地域レベルで行われている相互に関連した各種施策と連携し、自然を活用した解決策の導入を促進する必要がある。このため、脱炭素先行地域、地域循環共生圏、プラスチックの資源循環、有機農業を始めとした環境保全型農業、都市における緑地、河川等の生態系ネットワーク、グリーンインフラ等の取組について、自然共生サイト(仮称)の取組と連携し、自然共生サイト(仮称)等の管理者や今後認定を目指す者等に対して情報発信する。また、再生可能エネルギーの推進と生物多様性保全にはトレードオフが生じ得るため、生物多様性に不可逆的な影響を及ぼさないよう環境配慮事項に関する情報も併せて提供する(取組⑤-1)。

4.主要施策を支え、推進する横断的取組

 ① 関連データの利活用や相互利用の促進

  主要施策3.③の「見える化」等のデータの利活用、相互利用の促進に資するべく、環境省をはじめとした関係省庁、地方公共団体、研究機関及び民間団体等が有する各種データについて、オープンデータ化やAPI連携によるデータ連携や情報提供を推進する。

 ② 多様なステークホルダーの参画(事業者等による積極的な取組の促進、消費等行動の変容、地域主体の取組へのインセンティブ)

  事業者、地方公共団体、民間団体等からなる30by30目標達成に向けたアライアンスを通じて、各ステークホルダーの自主的取組を促す。この際、アライアンスのプラットフォームサイトを構築する等により、30by30目標に向けた取組を国内外に発信するとともに、保全に取り組む主体とそれを支援したい主体のマッチング等を推進する。

  また、国立公園等における自然環境の保全や利用を推進するため、国の関係機関、地方公共団体、地域団体、公園管理団体、事業者、自然保護団体、研究者等の広範な関係者による協力や連携体制の構築を推進する。

  さらに、生態系保全の重要性に対する認知度を向上させるとともに具体的な行動変容を促すために、ナッジ等の行動科学の知見やデジタル技術も活用し、30by30目標に向けた取組の推進に向けたクラウドファンディング、寄付、生物多様性配慮型の消費行動等の取組を検討し推進する。

  加えて、「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」における森里川海アンバサダーや賛同企業とも連携して取り組む。

 ③ 30by30の経営への組込みに向けた仕組みづくり、サステナブルファイナンス等の推進

  OECMを推進するため、自然共生サイト(仮称)の環境価値を見える化し、認定やその維持管理を経済的に支援する方法をはじめ、インセンティブを高める仕組みについて検討する。

  また、サステナブルファイナンスの観点から、30by30目標への事業者等の取組が、国内外で金融機関等に適切に評価されるよう、ポスト2020生物多様性枠組等の目標設定や情報開示に係る国際的議論にも積極的に参画する。あわせて、30by30目標達成にけた取組を盛り込んだ国内の事業者や金融機関向けのガイダンスの作成やモデル事業等を行う。

 さらに、保全活動に取り組む事業者等を高く評価する社会的風土の醸成を進める。

 ④ デジタル技術等を活用した効率的なモニタリング等

衛星画像、ドローン、環境DNA分析技術等の新たな技術を活用し、調査やモニタリングコストの低廉化や省力化を促進する。また、4.①で得られたオープンデータ等を活用し、保護・保全に資するVR等の新たなサービス提供を検討する。

 ⑤ 国際発信及び国際的な協力

生物多様性条約締約国会議や、SATOYAMAイニシアティブ、アジア保護地域パートナーシップ等の国際的な枠組みを通じて我が国の30by30目標達成に向けた取組(自然共生サイト(仮称)認定の仕組みを含む)を発信し、国際的な浸透を図るとともに、生物多様性日本基金(JBF:Japan Biodiversity Fund)等による国際協力を引き続き行う。

5.期待される役割

 (国の役割)

  環境省は、国立公園をはじめとする保護地域の拡張や管理の質の向上を行うとともに、関係省庁や地方公共団体に同様の取組を促す(主要施策3.①)。また、OECMの仕組み構築と自然共生サイト(仮称)における実証事業、認定等の実施を行うとともに(主要施策3.②)、「見える化」(主要施策3.③)、データ連携等(横断的取組4.①)、経済的インセンティブを含む支援措置の検討と実施(横断的取組4.③)を行う。また、生態系がつながり合い健全に機能するための質を高める取組に関して、マニュアルや情報提供による支援を進める(主要施策3.④)。関係省庁は、適切な場合、保護地域の拡張等につとめる(主要施策3.①)とともに、自然共生サイト(仮称)の認定状況や「見える化」(主要施策3.③)の検討状況等をもとに、環境省と調整し、所掌する制度等に基づき管理されている地域のOECMに該当する可能性のある地域を検討した上で、適切なものについてOECMとしての整理を段階的に進める。また、当該制度に基づく適切な管理等を通じ、生物多様性保全機能が持続的に発揮され、必要に応じてその地域の生物多様性保全機能が向上されるよう努める(主要施策3.②、主要施策3.④)とともに、海域のOECMの整理を進める(主要施策3.②)。

  また、有機農業を始めとした環境保全型農業、都市における緑地、河川等の生態系ネットワーク等の取組のうち、生物多様性保全に貢献するものについて、取組を強化し環境省施策と連携を進めるとともに、生物多様性保全に資するグリーンインフラを推進する(主要施策3.⑤)。

  さらに、主要施策を支え、推進する横断的取組については、環境省が主体となり、必要に応じて関係省庁が連携し進める(横断的取組4.①~⑤)。

 (地方公共団体の役割)

  地方公共団体は、関係する国立・国定公園等(都道府県立自然公園や都道府県自然環境保全地域をはじめ条例に基づき指定等されている地域を含む)の保護地域の拡張や管理の質の向上を行う(主要施策3.①)とともに、「見える化」(主要施策3③)も活用しながら、自然共生サイト(仮称)に該当する地域の申請を進め、その適切な管理を進める(主要施策3.②)。また、国の制度等に基づき地方公共団体が管理する地域がOECMとして整理された場合は、その適切な管理を進める(主要施策3.②)。

  また、保全されたエリアのみならずその周辺地域においても様々な取組を実施する(主要施策3.④、主要施策3.⑤)。さらに、地方公共団体が所有する自然関連データの利活用や相互利用に貢献する(横断的取組4.①)とともに、30by30目標の達成に向け、地域のステークホルダーの自主的な取組の促進を促す(横断的取組4.②)。

 (事業者の役割)

  事業者は、事業実施における生物多様性への影響に配慮しつつ、保護地域やOECMの保全に貢献する(主要施策3.①、主要施策3.②)。また、自らが管理・所有する土地について、積極的に自然共生サイト(仮称)申請等を進め、30by30目標に貢献するとともに、それらの取組について、適切に目標設定や情報開示を行うよう努める(主要施策3.②、横断的取組4.③)。

  また、30by30目標に貢献する製品・サービスの取扱い等を通じて消費者の環境配慮型の消費を促す(横断的取組4.②)。金融機関は、事業会社のこうした取組を踏まえてサステナブルファイナンスを推進するよう努める(横断的取組4.③)。さらに、国際枠組みにおける生物多様性に係る検討について、国と連携の上、30by30目標やOECMに係る取組が国内外で適切に評価されるよう積極的に発信する(横断的取組4.⑤)。

 (研究機関(大学・博物館等)・研究者・学術団体の役割)

  研究機関・研究者・学術団体は、保護地域やOECMの保全に貢献し(主要施策3.①、主要施策3.②)、自らが管理・所有する土地について、積極的に自然共生サイト(仮称)申請等を進める(主要施策3.②)とともに、自然関連データの利活用や相互利用に貢献し(横断的取組4.①)、デジタル技術等を活用した効率的なモニタリングに関する知見(横断的取組4.④)のほか、30by30目標に関して幅広く科学的知見の収集・提供を行う。

 (民間団体の役割)

  民間団体は、保護地域やOECMの保全に貢献する(主要施策3.①、主要施策3.②)とともに、「見える化」(主要施策3.③)も活用しながら、自らが管理・所有する土地について、積極的に自然共生サイト(仮称)申請等を進め、その適切な管理を進める(主要施策3.②)。

  また、国、地方公共団体、事業者、個人等の取組を評価すること、30by30目標等の情報を国民に分かりやすく伝達すること等による主体間の情報の橋渡しや、自らの専門的能力を活かした提言等を行う(主要施策4.①、主要施策4.②)。

 (国民の役割)

  国民は、一人ひとりが持続可能で生物多様性に配慮した生産活動への理解を深め、配慮型消費行動や生物多様性に関連した寄付、地域で行われる各種生態系の質を高める取組への積極的参加等により、30by30目標達成に貢献する(横断的取組4.②)。

6.中間評価の実施

 本ロードマップ策定後、「見える化」の仕組みの構築により、生物多様性保全上、効果的な地域を把握・検証するとともに、陸域の30by30目標達成の具体的な内容を示す。また、各施策の進捗状況について、可能な限り定量的な評価も含めフォローアップを行うことにより、30by30目標を確実に達成する。

7.30by30目標の背景

 ① 国際的な背景

  2010年に採択された愛知目標では、2020年までに少なくとも陸域の17%、海域の10%を保全するエリアベースの目標が掲げられた。我が国は、2020年までに陸域の20.5%、海域の13.3%を法律等に基づく保護地域に指定し、目標を達成した*13*。現在、世界的に劣化の進む生物多様性の損失を止め回復軌道に乗せるために、エリアベースの保護・保全のための、より野心的な目標が議論されている。法律等に基づく保護地域に並んで、愛知目標で提唱されたOECMも、目標達成のためのエリアベースの保全手法として重要視されている。

  2021年に英国・コーンウォールで開催されたG7サミットは、G7・2030年「自然協約」を採択した。この中で、G7各国は、国の状況やアプローチに応じて、2030年までに、自国の陸域と海域の少なくとも30%を保全すること等を約束した。

愛知目標に代わる新たな世界目標となる「ポスト2020生物多様性枠組」案においても同様のエリアベースの保全目標が提案されており、2030年に向けた主たる目標として盛り込まれることが期待される。

 ② 生物多様性保全の観点から30%以上を保全する意義

  現時点で得られている国際的な科学的知見の例として、世界の陸棲哺乳類種の多くを守るためには、既存の保護地域を総土地面積の33.8%にまで拡大することが必要とする指摘がある。また、世界中で両生類・鳥類・哺乳類等を保全しようとした場合に、世界の陸地の26~28%の割合を保全すべきとの研究報告もある。海洋についても、例えば既往の144の研究をレビューした結果、その過半数は海洋の3割以上を保護すべきとし、平均すると世界の海洋の37%は保護される必要があるとされている。

  国内での科学的知見においても、陸域に関して、今後、我が国の保護地域を現状の国土面積の20.5%から30%まで効果的に拡大すると、生物の絶滅リスクが3割減少する見込みがあるとする研究報告がある。同研究では、里山や都市等民有地に分布している希少種の生息・生育地の保全措置が重要になると指摘し、農林業者・個人・事業者による、身近な自然を保全する活動が、我が国の生物多様性を未来に引き継げるかどうかの鍵になるとしている。

このように、生物多様性を保全するためには、陸域と海域の30%以上の保全を目指すことが重要である。

 ③ 気候変動対策とのシナジーの観点から30%以上を保全する意義

  2021年に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、気候変動対策の方向性と政治的メッセージを示す包括的な文書として採択された「グラスゴー気候合意」において、自然と生態系を保護・保全・回復することの重要性が強調されている。加えて、我が国を含めた140カ国以上の有志国が参加し、森林及びその他の陸域生態系の保全及び回復の加速化等にコミットした「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が発表された。

  また、パリ協定に基づくNDC(国が決定する貢献)においても、多くの国が海洋生態系や沿岸湿地生態系によるCO2の吸収(ブルーカーボン)について言及しており、現在、実際に国別温室効果ガスインベントリへの組込みが済んでいる国は米国とオーストラリアの2カ国のみであるが、ブルーカーボンを通じた排出削減・吸収量の組込みは、今後本格化していくと想定される。さらに、NbSは、温暖化を2℃未満に安定させるために2030年までに必要とされる費用効果的な緩和策の、約30%を提供できる可能性があるとも言われている。

このように、生物多様性や生態系の保全は気候変動対策の重要な一翼を担うことが国際的にも広く認識されている。

 ④ 我が国の自然環境の特徴に応じた目標達成

  我が国における30by30目標の達成に向けて、次のような我が国の自然環境の特徴や課題に応じて取組・施策を進める必要がある。

  我が国は、国土の大部分が大陸縁辺に位置し、複数のプレートの境界を有する島弧であることを背景に、およそ北緯20度から北緯45度の中緯度地域において南北約3,000kmにわたる長い国土であること、海岸から山岳までの大きな標高差や縦断勾配が大きい急流河川が多いこと、大小さまざまな数千の島嶼を有すること、季節風の影響によりはっきりとした四季の変化のほか様々な要因により、多様な生物の生息・生育環境がつくりだされてきた。

  多様な野生動植物が生息・生育する森林は、国土の3分の2を占め、そのうち奥地脊梁山地の多くは国立・国定公園等に指定されており、これら森林は、生態系ネットワークの根幹として生物多様性保全上重要な要素である。

  里地里山は、農地、ため池、樹林地、草原等を含む多様な生態系のモザイクであり、国土の約4割を占めるといわれている*14*。この里地里山は、農林業活動等により適度に人の手が加わる中で、本来、氾濫原等の攪乱環境に適応した種を含む特有の生態系が形成されている。過去には里地里山が広い面積にわたって生産の場として利用されてきたが、その自然資源に対する社会的経済的な要請は低下しており、人口の減少と高齢化が進む中で里地里山の維持管理が課題となっている。

  また、国土の約4%を占める河川をはじめとした湖沼、湿原、湧水池等の水系は、国土における生態系ネットワークの重要な基軸となっている。さらに、氾濫原の平野に発達した都市内にも、貴重な生態系が残されている。深海から沿岸・里海までの多様な海域には、海棲哺乳類、海鳥類、魚類をはじめ多くの生物が生息している。我が国の海域は、黒潮、親潮、対馬暖流等の海流と、列島が南北に長く広がることから、多様な環境が形成されている。また、沿岸域には約35,000kmの長く複雑な海岸線や、豊かな生物相を持つ干潟・藻場・サンゴ礁・砂浜・砂堆・岩礁・海草帯・マングローブ林等の多様な生態系がみられ、それぞれの生態系を守っていくことが求められている。

8.30by30目標の達成によって期待されるNbS効果

 ①脱炭素・適応策:CO2の吸収・固定、防災・減災に寄与する自然の再生

  地球の物質循環において自然生態系の果たす役割は大きく、気候変動問題を考える上でも自然生態系の理解は重要である。

  IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の専門家が共同で発表した「生物多様性と気候変動ワークショップ報告書」によれば、森林の減少と劣化の削減は人為的な温室効果ガスの削減に貢献するとされており、その削減量は0.4~5.8GtCO2e/年になると推定されている。また、沿岸域で堆積物底を有する塩生湿地、海草藻場等の生態系はブルーカーボン生態系と呼ばれ、昨今、知見の集積も進み新たなCO2吸収源として注目されている。2019年に公表されたIPCCの「海洋・雪氷圏特別報告書」においても、世界全体のブルーカーボン(沿岸湿地植物生態系を通じた現場での炭素固定)の気候変動緩和ポテンシャルは、世界全体の温室効果ガス排出量の0.5%を相殺する程度と、その効果についての評価も進められている。

  これら以外にも例えば、人間活動により排出される二酸化炭素年間総量のうち、約23%を陸上生態系が、約26%を海洋及び海洋生態系が吸収しているとの試算もある。

  このように、陸上及び海洋の生態系の保全・管理を進めることによって、さらにCO2の吸収源・貯留源としての機能が維持・拡大することが期待される。また、木質バイオスの提供、発電用の水源涵養といった生態系サービスを積極的に活用することや、炭素クレジット制度の利用により、化石燃料由来のCO2排出抑制に寄与することも期待される。

  さらに、自然災害との関係では、森林による斜面崩壊の防止機能や、遊水地による

洪水調整機能が認められており、30by30目標の達成により、気候変動による激甚化、頻発化が予想される気象災害を含む自然災害に対する防災・減災の効果が期待される。

 ② 循環経済:プラスチック代替のバイオマス資源の持続的な生産

  プラスチック製品の原料となる石油化学用ナフサをはじめ、我が国で消費している化石燃料の多くは輸入されている等、私たちは海外の化石資源に頼って生活している。一方で、長年にわたる人の自然への働きかけにより維持・保全され、木材や竹製品や炭といった自然資源を供給してきた国内の里地里山の多くは管理放棄され、生物多様性が劣化している。近年、鋼板よりも軽くしなやかなセルロースナノファイバー等バイオマス由来の新素材の開発が進んでいる。これらによりプラスチックを含む化石資源由来素材の代替を図ることが期待される。また、バイオマス資源による熱やエネルギーの地域内の循環利用の動きも活発である。こうした地域のバイオマス資源の持続可能な利用促進により、地域経済循環が強化され、里地里山の管理が推進されることが期待される。

 ③ 農山村:鳥獣被害の防止、感染症対策と豊かな恵み

  ニホンジカやイノシシといった増えすぎた野生鳥獣による農作物被害は、2020年度でも約161億円に上り、営農意欲の低下を招いている。ニホンジカの増加と分布拡大により、マダニ媒介感染症の拡大が懸念されており、さらに全国的に拡大傾向にある特定外来生物であるアライグマによって人の生活圏までマダニや感染症が伝播するリスクはきわめて高いと言われている。薪炭林や茅場の減少等、人の自然への働きかけの変化により、山菜やきのこの採取地が減少した。特に奥山との境界地域である里地里山において、管理放棄や管理不足により環境が遷移し荒廃した場所に適切に手を加ることによって、特定の動植物種が増えすぎるのを防ぎ、野生動物や自然環境と人との適切な距離感を保ちつつ、地域の自然を活かした豊かな産品を享受することが期待される。

 ④ 食:環境に配慮した持続可能な農業の推進

  多様な自然資源を利用することによって成り立っている農業は、生態系サービスへの依存度も高い。病害虫を抑制する天敵は周辺の生物相からもたらされる等、生態系が有する機能を可能な限り活用し、自然の病害虫制御作用が促されることで、病害虫の被害の軽減による生産力の向上と農業の持続性の確保が図られるとの指摘もある。果樹や果菜類等の生産には訪花昆虫が欠かせない。我が国の農業は、野生のハナバチ等から総額で約3,300億円分の送粉サービスを受けているという報告もある。さらに、都市部の庭等が周辺の農地の送粉昆虫の維持に貢献している可能性も指摘されている。多様な生物を育む環境保全型農業等の推進とともに、自然、都市、農村の連結性の改善により、こうした生態系サービスの維持・拡充が期待される。

 ⑤ 健康・観光・いやし・ときめき・感動・地域活性化:疲れを癒し、免疫力を高め、健康な生活と活力ある地域を支える自然とのふれあい

  国立公園等の豊かな自然を目的とした観光や自然とのふれあいは国内外で注目されており、国立公園のみでも年間延べ3億人以上が訪問し、心身の豊かさの形成に貢献し、観光消費額も年間1兆円を超えるとされ、地域活性化にも貢献している。また、コロナ禍で自然・健康への関心も高まる中、アドベンチャーツーリズムやアウトドア事業への関心も高まり、産業規模も拡大している。これらはエリアベースの豊かな自然が確保されていることが前提となっている。

  森林浴には精神物理学的な健康(well-being)を促すための効果がある。精神的な効果のみならず、自然とのふれあいが、人間の共生微生物を多様化させて、免疫システムの均衡を維持し、アレルギー疾患を防ぐとする見解があり、実証研究や政策への反映も進んでいる。国内でも、自然を活用したワーケーションが注目され、関係人口や定住人口の増加に効果がみられている。このように、人々の心身の健康増進やwell-being、地域の活性化につながることが期待される。

{表は省略}


2 生物多様性及び生態系サービスの重要性の解説

 以下、前・生物多様性国家戦略である「生物多様性国家戦略2012-2020」の第1部第1章第1節及び第2節の記述の時点更新である(一部加除修正あり)。

第1章 生物多様性の重要性

 現在、地球上には3,000万種とも推定される生物が存在し、我々はそれらの多様な生物によって構成される生態系がもたらす恵みを享受することにより生存している。本章では、多様な生物が関わりあう生態系から私たちが得ることのできる恵みと人々の生活との関係を通じて、生物多様性の重要性について整理する。

第1節 生物多様性とは何か

 1 地球の成り立ちと生命の誕生

  約46億年前に地球が誕生した後、原始の海の中で有機物から原始生命体ができたのは約40億年前と考えられている。原始の地球の大気には酸素はなかったと考えられているが、光合成を行うラン藻類などが出現したことで大気中の酸素が増え始め、現在の大気の構成となった。また、その酸素を元に地球を取り巻くオゾン層が形成されて太陽からの有害な強い紫外線を防ぎ、陸上に生命が進出できる環境ができた。そして、植物が陸上に進出して太古の森を作り、動物もその環境の中に上陸し、陸上の生態系が形成された。長い時間をかけて、数え切れない生命とそのつながりによって地球の大気や土壌が形成され、過去の生命がつくり上げた環境の上で次の時代の生命進化するということが繰り返されてきた。

  また、様々な環境の変化の中で、適応できなかった種は絶滅する一方、新たな環境に適応して多くの種が生まれ、現在の多様な生物は作り上げられてきた。

 2 大絶滅と人間の活動

  現代は「第6の大量絶滅時代」とも言われる。生命が地球に誕生して以来、これまでに生物が大量に絶滅する、いわゆる大絶滅が5回あったと言われているが、現代の大絶滅は、過去の大絶滅と比べて種の絶滅速度が速く、その主な原因は人間活動による影響であると考えられている。

  人間は科学技術を発達させてきたが、現代においても、過去に絶滅した種をよみがらせることはできていない。また、生態系が自らの回復能力を超え、不可逆的な状態へと至ってしまった場合、全く同じ生態系を人間が再現することもできない。さらに、個体数が著しく減少した種については、個体数の回復に向けた取組により順調に個体数が回復しても、自然状態で安定的に存続するには課題がある場合もある。例えば、北海道東部地域に生息し、乱獲や湿原の開発により一時数十羽まで個体数が減少したタンチョは、給餌や生息環境の保護によって1,500羽を超えるまでに回復してきているが、遺伝的な系統が非常に少ない状況にあるといわれている。マガンをはじめとしたガン類についても、明治時代に狩猟によって大きく個体数が減少し、その後の保護によって個体数は回復してきているものの、越冬地は特定の地域に限られており、かつてのように広く分布する状況には至っていない。

  このように自然には未だに人間にとって知られていないことや、対応できないことが少なくない。加えて、1970年代に40億人であった世界の人口は、現在80億人に到達し、国連の将来人口推計によれば、今世紀末には100億人を越えると予測されており、地球上の限られた資源をこれまで以上に皆で分かち合いながら利用していくことが必要である。開発や過剰利用等により既に不可逆的な状態にある生態系もあるが、我々は短期的な生産性や効率性を求めるのではなく、生態系を持続的に保全し、生態系の回復能力を超えない範囲で利用していくことにより、その恵みを持続的に享受していくことが可能となるとともに、地球の長い歴史の中で時間をかけて育まれてきたかけがえのないいのちのつながりを維持していくことができることを常に考えて行動する必要がある。

 3 生物多様性とは何か

  生物多様性条約では、生物多様性はすべての生物の間に違いがあることと定義され、生態系の多様性、種間(種)の多様性、種内(遺伝子)の多様性という3つのレベルでの多様性があるとされている。

  生態系の多様性とは、干潟、サンゴ礁、森林、湿原、河川など、いろいろなタイプの生態系がそれぞれの地域に形成されていることである。地球上には、熱帯から極地、岸・海洋域から山岳地域まで様々な環境があり、生態系はそれぞれの地域の環境に応じて歴史的に形成されてきたものである。一般的に生態系のタイプは、自然環境のまとまりや見た目の違いから区別されることが多いが、必ずしも境界がはっきりしているものではなく、生物の移動や物質循環を通じて相互に関係している場合も多いといえる。また、里地里山のように二次林、人工林、農地、ため池、草原などといった様々な生態系から構成されるモザイク状の景観をまとまりとして捉え、生態学の視点から地域における人間と環境の関わりを考えていくことも行われている。

  種の多様性とは、様々な動物・植物や菌類、バクテリアなどが生息・生育しているということである。世界では既知の生物だけで約175万種が知られており、まだ知られていないものも含めると地球上には3,000万種とも言われる生物が存在すると推定されている。また、我が国は南北に長く複雑な地形を持ち、湿潤で豊富な降水量と四季の変化もあることから、既知の生物だけで9万種以上、まだ知られていないものまで含めると30万種を超える生物が存在すると推定されている。加えて、我が国の生物相は固有種の比率が高いことが特徴であるが、その保全を考えていく際には、種数や個体数だけ着目するのではなく、種の固有性を保全していくことが重要である。例えば、2011年6月に世界自然遺産に登録された小笠原諸島は、陸産貝類をはじめ、独特の進化の過程を示すさまざまな種分化が見られる点が評価されたものであるが、このような世界的に重要な地域においても、クマネズミやグリーンアノール、アカギ等の外来種が入り込み、小笠原諸島にしかいない固有種等の生息・生育地を脅かすなどその影響が問題となっている。

  遺伝子の多様性とは、同じ種であっても、個体や個体群の間に遺伝子レベルでは違いがあることである。例えば、アサリの貝殻やナミテントウの模様は様々だが、これは遺伝子の違いによるものである。また、メダカやサクラソウのように地域によって遺伝子集団が異なるものも知られている。なお、メダカは、遺伝的に大きく北日本集団と南日本集団に分かれており、2011年には北日本集団が新種として記載されたが、南日本集団も遺伝的に複数の地域集団に分けられることが知られている。

  このように自然界の様々なレベルにおいて、それぞれに違いがあること、そしてそれが長い進化の歴史において受け継がれた結果として、現在の生物多様性が存在している。生物多様性の保全に当たっては、それぞれの地域で固有の生態系や生物相の違いを保全していくことが重要である。

第2節 いのちと暮らしを支える生物多様性

 1 生態系サービスとは

  この地球の環境とそれを支える生物多様性は、人間を含む多様な生命の長い歴史中で創られた、かけがえのないものであり、それ自体に大きな価値がある。

  我々の暮らしは、食料や水、気候の安定など、多様な生物が関わりあう生態系から得ることのできる恵みによって支えられており、これらの恵みは「生態系サービス」と呼ばれる。国連の主導で行われたミレニアム生態系評価(2005年)では、食料や水、木材、繊維、医薬品の開発等の資源を提供する「供給サービス」、水質浄化や気候の節、自然災害の防止や被害の軽減、天敵の存在による病害虫の抑制などの「調整サービス」、精神的・宗教的な価値や自然景観などの審美的な価値、レクリエーションの場の提供などの「文化的サービス」、栄養塩の循環、土壌形成、光合成による酸素の供給などの「基盤サービス」の四つに分類された。

  生態系サービスの価値は、市場で取引されるもの以外は市場経済の中では見えにくくなっているが、生態系サービスを提供する生態系、生物多様性や自然資源のことを「自然資本」として捉え、それを劣化させることなく持続的に利用していくために、適切なコストを支払って保全していく必要がある。そのため、生態系サービスが有する価値を評価して、その価値を可視化しようとする取組が進みつつある。

  生物多様性と生態系サービスとの関係については、単一種の作物から食料を効率的に得ることができる場合もあるように、必ずしも生物の多様性と直接的な結びつきがないように考えられる場合もあるが、生物多様性が維持されていることよって、私たち観賞用の植物や医薬品など、様々な用途に対応した供給サービスを得ることが可能となっている。また、生物多様性の高い生態系では病害虫の抑制などといった調整サービスに優れ、レクリエーションの場の提供をはじめとした文化的サービスの多くは生物多様性とも深い結びつきを持っている。このように、我々が将来にわたって様々な生態系サービスを享受することを可能としていくためには、その源となる生物多様性を維持・回復していくことが重要である。

  また、複数の生態系サービス間の関係については、ある生態系サービスの向上を追求した場合、複数の生態系サービスが正の相乗効果によって向上する場合と、ある生態系サービスは向上するものの、他の生態系サービスは低下するといったトレードオフ(二律背反)の関係にある場合がある。例えば、都市域における緑地の確保は二酸化炭素の吸収や都市住民のレクリエーションの場の提供など、複数の生態系サービスの向上につながる。一方、マングローブ林を伐採し、エビの養殖場などのために開発することは短期的にはエビの養殖による商業的利益をもたらすが、魚類等の繁殖場所の消失や、二酸化炭素の吸収、海岸の保全などの様々な生態系サービスの低下につながる。生態系サービスを通じて生物多様性の保全と持続可能な利用を考えていく際には、このような生態系サービス間の関係性についても考えていくことが必要である。また、生態系は生物の生息・生育の場の提供をはじめ、生物多様性を維持する上で重要な様々な機能を有しており、これらの機能を損なうことがないようにしていくことも必要である。

  次に生物多様性の保全と持続可能な利用を進めることの重要性について具体的な生態系サービスを例に紹介する。

2 いのちと暮らしを支える生物多様性

(1)生きものが生み出す大気と水(基盤サービス)

 我々を含む多くの生物の生存に不可欠な酸素は大気の約20%を占めている。これは他の惑星では見られないものであり、この酸素はラン藻類や多様な植物の数十億年にわたる光合成により作られてきたものである。

また、食物連鎖を支える一次生産は、植物が太陽エネルギーを利用して担い、栄養豊かな土壌は、生物の死 骸がバクテリアなどの土壌中の微生物に分解されることなどにより形成され、生命の維持に欠かせない水や生物の豊かな海に不可欠な窒素・リンなどの栄養塩の循環には、森林などの水源涵養の働きや栄養塩の供給が大きな役割を果たしている。気温・湿度の調節も大気の循環や森林などを構成する植物からの蒸散により行われている。このように、人間を含むすべての生命の生存基盤である環境は、こうした自然の物質循環を基礎として成り立っている。

(2)暮らしの基礎(供給サービス)

【食料や木材などの資源】

 我々が食べている米、野菜、魚、肉や、住居に使われる木材、衣類に使われる綿や麻などは、我が国の田畑、森林、海などから農林水産業を通じて、あるいは海外からの輸入を通じてもたらされている。

 我が国は、豊かな水と肥沃な土壌に恵まれ、米をはじめとする様々な農産物が生産されており、こうした農産物は、益虫や害虫など様々な生物とのつながりの中で育まれている。例えば、クモは、農地の中で害虫を含む多くの虫を食べることでいのちをつなぎ、農産物の生産を助けている。このように農地には多様な生物がいて、我々はそれらの生物との関わりの中で農産物を生産している。

 森林から採れる食料も重要である。かつて日本人は、キノコや山菜、木の実など豊かな森林の恵みを多く利用して生活をしていた。現在は、生活様式も変わり、かつてほどこれらは食料として不可欠ではなくなっているが、森林は地域の風土が育む我が国らしい食材の宝庫である。

 また、先史から、魚介類は日本人の食生活を支える貴重な食料であった。海洋、沿岸の藻場・干潟、川や湖で獲れる多くの種類の魚類、貝類、イカ・タコ類、海藻など自然の恵みは我が国の食文化を特徴づけている。

 北陸や東北から北海道にかけては、サケ類が毎年海から河川を目指して集まってる。また、全国各地の多くの河川では、春になるとアユの遡上が見られる。さらに、養殖とされるウナギやマグロも、一部を除き、人工親魚から得た卵をふ化させる完全養殖によって供給されているわけではなく、多くの場合、天然のシラスウナギや小型のマグロを獲ってきて育てたものである。このように魚介類の採取は自然の力に依存したものである。このため、海や川などからの水産資源の安定的な確保のためには、水産有用種の資源の状態が良好であることに加え、海洋や河川等における生物の多様性が豊かで健全であることが不可欠である。我々はそれらの生物多様性を保全しつつ、持続可能な方法で生物資源を利用していかなければならない。

 木材は、我が国において昔から様々な用途で利用されてきたものであり、世界文化遺産に登録されている法隆寺をはじめ伝統的な建築物は木で造られており、現在に至るまで私たちの居住に木材は欠かせない材料である。また、農機具をはじめとする様々な道具も木材を利用して作られており、生活に欠かせないものであった。このように我が国では、森林に恵まれた環境を活かし、木材をその種類や性質に応じて生活の中に多様な形で取り入れた「木の文化」がつくられてきた。

 現在でも、住宅を建てる際には木材が大量に使われているほか、近年は建築基準の合理化に加え技術開発も進み、木造で高層建築物を建築する取組も広がっており、木材はやすらぎのある住空間を創造する上での一つの重要な要素として再認識されつつある。また、暖房の燃料や再生可能エネルギーの供給源として、その価値が見直されてきている地域もある。さらには、紙の生産のためにも大量の木材が使われている。我々の生活を営む上で、昔も今も生物多様性の構成要素の一つである森林からの恵みである木材は必要不可欠なものである。

 このほか、絹、羊毛などの動物繊維、綿、麻などの植物繊維も、それぞれの特徴を活かして衣料をはじめ様々な用途に用いられている。

 我が国は、食料と木材の約6割を海外から輸入しており、世界の生物多様性の恵みを利用して暮らしている。世界的には、過剰な耕作や放牧など資源収奪的な生産による土地の劣化、過剰な伐採や違法伐採、森林火災などによる森林の減少・劣化、過剰な漁獲による海洋生物資源の減少などの生物多様性の損失が進んでいる。海外の自然資源を利用する我が国の消費が輸出国の生物多様性の損失の上に成り立っている面があることに一人一人が気付くとともに、我々の生活が多くのいのちの上に成り立っていることを自覚し、国内だけでなく国外の生物多様性も保全しつつ、持続可能な利用がされるよう、日々の生活の中で配慮していくことが大切である。また、地球規模で生物多様性の損失が懸念される中、食料、木材などの資源の多くを輸入することは海外から多くの窒素等の物質を輸入していることを意味している。例えば、過剰な窒素等は湖沼や海域の富栄養化などを引き起こす原因となり、また、窒素の蓄積によって生長が助長される一部の植物が他の植物を駆逐し、植物群落の構成に変化を引き起こしている例もある。このようなことから、我が国としては、窒素循環など物質収支の観点も含め、国際的な視野に立って自然環境や資源の持続可能な利用の実現に努力する必要がある。

【生物の機能や形の利用】

・ 医薬品

  生物の機能や形態は、それぞれの種に固有のものであり、このような性質は、遺伝により、次の世代に受け継がれていくものである。それぞれの種が持つDNA上の遺伝情報は、40億年という生物進化の歴史の中でつくり上げられてきたものであり、我々はその長い歴史に支えられた多様な生物の機能や形態の情報を、様々なかたちで暮らしに利用している。

  こうした生物の機能を人間が利用している身近な例としては、医薬品が挙げられる。伝統的に植物をはじめ多くの生物が医薬品として使われており、例えば、アスピリンはヤナギの樹皮の成分が鎮痛・解熱に効果があったことから合成されたものである。また、インフルエンザを治療するリン酸オセルタミビル(販売名:タミフル)という薬の原料は、中華料理の材料になる八角(トウシキミの実)から抽出されたシキミ酸をもとに合成されたものである。菌類や細菌類が持つ成分や酵素は、新薬、化粧品、機能性食品などの原料となるのみならず、開発に係るバイオテクノロジーの進歩にも重要な役割を担っている。また、現時点では利用されていない生物資源であっても、将来、科学技術の進展などにより重要な価値を生み出す可能性を秘めたものもある。多様な生物を保全していくことは、将来における様々な利用可能性を次世代に引き継いでいくことでもある。

・ 品種改良

  我々の食生活を支えている主な食料は、米、小麦、大豆、とうもろこしや牛、豚、鶏などとなっている。これらは数多くの野生生物の中から人間にとって有用な生物を選抜し、交配していくという農業の進歩の歴史の結果である。こうした品種改良は、生産効率を上げ、生活を豊かにしてきた。なお、品種改良は「一様化(特定の品種に集中すること)」という面も持っている。このことは一見多様性と反しているようにも思われるが、これを支えるためには、品種改良の選択肢を広げるための近縁の野生生物の豊かな遺伝資源が維持されている必要がある。また、一様化してしまった作物や家畜が将来の環境変化に対応できなくなったときには、さらなる改良のための遺伝資源がなければならない。例えば、19世紀初めにアイルランドで栽培されていたジャガイモは単一品種に限られ、遺伝的多様性を欠いていたため、1845年から数年間にわたって発生した疫病によってジャガイモが全滅し、飢饉をもたらしたことが知られています。一方、ジャガイモの原産地であるアンデス地方では、複数の品種を混ぜて栽培する習慣が伝統的に存在していたため、特定の疫病によってジャガイモが全滅するような被害を招くことがなかったと言われている。このように効率的・効果的な農産物の生産の基礎を支えるものとして生物多様性は重要である。

・ 形態や機能の利用

  長い年月をかけて進化し、適応してきた生物は、人間の技術では真似のできない機能を多く持っている。蚕からとれる絹は、通気性、吸湿性、肌触りに優れ、紫外線を低減する機能を有しており、役割を終えた後は自然に分解され生態系に負担がかからない。これは化学繊維の技術が発達したといっても完全に真似のできるものではない。

自然界にある形態や機能を真似したり、そこから示唆を得ることで、人類の問題を解決したり、画期的な技術革新をもたらすことができることもある。これは生物の真似という意味から、バイオミミクリーと呼ばれる。例えば、カワセミのくちばしを真似てデザインされた空気抵抗の少ない新幹線の先頭車両や、ハスの葉の表面構造を真似て開発された汚れの付きにくい塗装などがその分かりやすい例である。

生物が持つこのような機能や能力がふんだんに隠されている豊かな生物多様性は、将来の技術開発の可能性を秘めた宝の山でもある。

(3)文化の多様性を支える(文化的サービス)

【自然と共生してきた日本の智恵と伝統】

  島国である我が国は、近海では暖流と寒流が流れ、四季の変化が明瞭であり、湿潤な気候は豊富な降雨をもたらし、多くの動物が棲み、様々な植物が息づいている。このような我が国は、古来より豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)と呼ばれ、すべてのものが豊かに成長する国土で日本人は四季とともに生きる文化を育んできた。その一方、地震や火山の噴火、土砂災害など常に自然災害と隣り合わせの生活を余儀なくされてきた。

  このように、豊かで時に荒々しい自然を前に、日本人は自然と対立するのではなく自然に順応した形で様々な知識、技術、花鳥風月などを題材とした特徴ある芸術、豊かな感性や美意識をつちかい、多様な文化を形成してきた。その中で、自然と共生する伝統的な自然観が形成されてきたと考えられる。

  例えば、我が国では、農作物の生産などのために畑、水田、ため池、草地などが形成されてきたが、その際、自然に対する畏怖から、鎮守として神社や祠を置いて八百万(やおよろず)の神を祀(まつ)り、そのまわりを鎮守の森で覆った。こうした、すべてを利用することなく残しておくといった考え方や自然に対する敬けんな気持ちの表れは、日本人の自然との共生の姿を表しているともいえる。里地里山の利用においても、利用しすぎないための地域独自の決まりや仕組みがあり、現在でも山菜を採るときには来年以降のことを考えて一部を残すという地元の人たちは多い。恵みであると同時に大きな脅威ともなる自然と共生する社会を築いていくためには、自然を畏れ敬い、こうした限りある自然や資源を大切にしてきた伝統的な智恵や自然観を学び、共有していくことが必要である。

【地域性豊かな風土】

  我が国には、自然と文化が一体になった「風土」という言葉がある。地域の特色ある風土は、それぞれの地域固有の生物多様性と深く関係し、様々な食文化、工芸、芸能などを育んできた。例えば、食文化は地域で採れる野菜や魚、きのこなどの様々な食材を、その土地にあった方法で調理することで生まれる。我が国の伝統食である雑煮も、材料や調理法、餅の形にいたるまで地域によって様々な特徴がある。また、我が国の気候は気温が高く湿潤なため、様々な発酵食品が発達することになった。漬け物、馴鮨(なれずし)、味噌、醤油、日本酒などは、それぞれの地域に適した微生物と、気候、水、そして食材が複雑に関係している。しかし、現代では、食品の大量生産や大規模な流通、それに伴う伝統的な技術や知識の喪失、食材となる地域固有の生物の減少などが進み、地域色豊かな伝統的な食文化は失われつつある。

  また、都市では身近な自然とのふれあいや生物多様性の豊かな自然地域での体験動を渇望する住民が増えている。一方、日常的に自然と接触する機会がなく自然との付き合い方を知らない子どもたちも増えている。自然の中で遊び、自然と密接に関ることを知らないまま育つことが、精神的な不安定が生じる割合を高める一因となっているとの指摘もある。このような時代こそ、豊かな自然に接し学ぶ機会を提供することが、次の世代を担う子どもたちの健全な成長のために必要とされている。このように、豊かな生物多様性にも支えられ、育まれてきた文化の多様性は、我々に精神的な恩恵をもたらす豊かな生活の基盤であり、地域に固有の財産として文化面での奥行きを増し、地域社会の持続的な発展に役立ってきたことを十分理解する必要がある。

(4)自然に守られる私たちの暮らし(調整サービス)

  我々の暮らしは、健全な生態系に守られている。例えば、人工林の間伐の推進や広葉樹林化・長伐期化、天然生林の保全などにより、多くの動植物を育む多様で健全な森林の整備・保全を進め、また生物が多く生息・生育する川づくりや河畔林の保全を行うことは、流域全体で見ると、山地災害の防止や土壌の流出防止、安全な飲み水の確保に寄与する。また、豊かな森林は大雨や強風による被害を軽減したり、サンゴ礁は台風等による高波から国土を守る天然の防波堤となったり、海岸侵食を防いだりしている。大規模な土木工事ができなかった昔の人々は、自然の地形に従って土地を利用してきた。そうした智恵を活かし、自然の地形に逆らわない形で居住環境などを整備することも、より効率的に安全を確保する上で大切である。

  また、森林や海洋等による温室効果ガスの吸収は気候の調整に重要な役割を果たしている。森林による温室効果ガスの吸収量は、森林の高齢化等を受けて、2003~2004年頃をピークに現在減少傾向にあるとされるが、炭素吸収量を増加させるために、適切な間伐の実施等の取組に加え、炭素を貯蔵する木材の利用を拡大しつつ、エリートツリー等の再造林等により生長の旺盛な若い森林を確実に造成していくことが重要である。海域についても、藻場による年間炭素吸収量(ただし、固定量ではない)は二酸化炭素換算ベースで約470万トン年であることが推定されている。

  さらに、農業は食料の生産に加え、多様な生物の生息・生育環境を生み出す活動であるという視点に立ち、環境に配慮した農薬・肥料などの適正使用を進めるとともに、有機農業をはじめとする環境保全型農業を積極的に進めることが、生物多様性の保全だけでなく、安全な食料の確保に寄与することにもなる。こうした農業生産環境における土壌微生物や地域に土着する天敵をはじめとする生物多様性の保全が図られることで、農業生態系の病害虫抑制の機能が発揮されることになる。これらの例でも示されるように、生物多様性を尊重して暮らしの安全性を考えることは、特に世代を超えた長期のスケールで見た場合、経済的な投資の効率性という点でもメリットがあるといえる。

  生物多様性は、人間も含む多様な生命の長い歴史の中でつくられたかけがえのないものである。そのため我々は、地域本来の生態系を大きく変質させてしまう生物や人間にとって危険な生物、有害な生物については被害を発生させないように努めていく必要がある。また、生物多様性は様々な生物が複雑に関係し合い成り立っており、未解明なことが少なくないことや、今は利用されていないものであっても将来有用なもの、または重要な価値を生み出す可能性を秘めたものがあることなどを理解するとともに、これらの生物が長い進化の歴史を経て人間とともに地球に存在する意味を理解し、人間にとって危険な生物や有害な生物等であっても、その存在そのものの尊さを認めることを忘れてはならない。

3 「自然共生社会における国土のグランドデザイン」

 以下、前・生物多様性国家戦略である「生物多様性国家戦略2012-2020」(以下、前戦略という。)の第1部第3章第2節の抜粋である。

第1節 自然共生社会における国土のグランドデザイン

 1 基本的な姿勢「100年計画」

  現在豊かな森林の生態系が見られる明治神宮の森も、もともとは森のない荒れた土地

でした。そこに100年先を考えて新たに人の手で森をつくっていくという明確なビジョンが描かれ、100年近い年月を経て今のように豊かな森になったものです。このように、生物多様性の保全と持続可能な利用を図っていくためには、自然生態系が攪乱と回復を繰り返したり、人為的な環境変化に対して損失、劣化または適応、回復していくのに要する時間を踏まえ、少なくとも100年という長期的視野で考えることも重要です。このため、生物多様性の保全と持続可能な利用に携わる多様な主体が長期的視点に立って取組を進められるよう、自然共生社会における国土のグランドデザインを、100年先を見通した共通のビジョンとして示します。ただし、生態系や場所によって、回復等に要する時間スケールが異なることに留意しながら取組を進めることが必要です。

  まず、「自然共生社会における国土のグランドデザイン」を100年先を見通して考える上での基本的な姿勢を、「100年計画」として以下に掲げます。

「100年計画」

 ① 自然の恵みと脅威を認識した上で一方的な自然資源の収奪、自然の破壊といった自然に対する関わり方を大きく転換し、生物多様性の保全上重要と認められる地域を保全するとともに、人間の側から自然に対して貢献をしていくことにより、人口が増を続けた過去100年の間に破壊してきた国土の生態系を、人口が減少に向かう次なる100年をかけて回復する。

 ② 総人口の減少により国土の利用に余裕を見出せる中で、地域資源を最大限に活用し、地域固有の自然や文化に根ざした個性的で魅力的な地域づくりを通じて地域の自立的発展を目指す動きとともに、生態系サービスの需給について地域間の互恵関係の維持発展を目指す。

 ③ とりわけ一次産業従事者の減少・高齢化により現在の国土管理の水準を維持できない地域が生じることや、集約型の都市構造への転換、社会資本の維持や更新のための投資が増大することなどによって国土利用の再編を進めようという動きの中で、国土管理に必要な投資の重点化・効率化に加えて、安全・安心な国土の形成と自然との共生を重視したエコロジカルな国土管理を進める。

 ④ 国土全体にわたって自然の質を着実に向上させることを目指す。その際、さまざまな取組の効果が発現するには長期間を要することから、順応的な態度が欠かせず、鳥獣による農林業被害の問題、里地里山の保全活用、里海・海洋の保全、都市における生物多様性の確保などについては、人と自然のより良いバランスを、社会的な合意を得つつ段階的に取り戻していく。

 ⑤ 100年の間に、自然環境や社会経済の状況の変化に応じて、取組の内容や方法を柔軟に見直すという順応的な保全管理には、科学的データの集積という裏付けが必要である。また、国際的な社会情勢の変化や人々の意識や行動様式の変化、生物多様性に関わる新たな社会経済的な仕組みや制度的枠組みが実現している可能性なども考慮する必要がある。

  このグランドデザインの実現に向け、【(捕足)前戦略の短期目標の目標年である】2020年までの間に取り組むべき国の施策の大きな方向性を【(捕足)前戦略の】第4章第1節「基本戦略」に掲げ、その「基本戦略」に沿った具体的施策を【(捕足)前戦略の】第3部「行動計画」に掲げています。

  グランドデザインは基本的に100年の間大幅に変更する性格のものではありませんが、5年程度を目途に行う国家戦略の見直しの機会に、その時点の状況に応じて基本戦略に掲げる取組方向との関係を確認するほか、10年程度経過した見直しの機会には、自然環境や社会経済の状況の変化に応じた見直しの必要性についても検討を行います。

2 国土のグランドデザインの全体的な姿

「自然共生社会における国土のグランドデザイン」の全体的な姿として、次の5つを挙げます。

 ① 地球規模から国土レベル、地域レベル、流域レベルなどの生態系の空間的なまとまりの階層性やつながりに着目し、生物多様性国家戦略と生物多様性地域戦略が、国と地方の適切な役割分担のもと、それぞれが連携しつつ、階層的・有機的に形づくられている。これらに基づいて、十分な規模の保護地域を核としながら、それぞれの生物の生態特性に応じて、生息・生育空間のつながりや適切な配置が確保された生態系ネットワークが国土全体を通じてしっかりと形成されている。森林や農地、都市、沿岸域などの地域を連続した空間として結びつけている河川・湿原などの水系のほか、海岸部、特に都市部の道路沿いの緑地や保全・再生・創出された緑地などは、国土における生態系ネットワークの基軸と位置づける。

 ② 地球温暖化の影響を受けて脆弱な生態系である島嶼・高山帯などに生息・生育する一部の種では絶滅のリスクが高まるが、国内全体にわたるモニタリング体制が構築される中で、動植物の効果的な保護がなされることによりレッドリストの中でランクが下がる種がランクが上がる種を上回るなど国土全体では種の絶滅リスクが低下する。人口減少や国内資源の有効活用などを背景に、海外の自然資源への依存度が低下することや、さらに意図しない外来種の導入に対する水際でのチェック体制が充実し、優先度に基づく計画的な防除が各地で進展し、ペット等の適正な飼養管理の徹底や保全上重要な地域における駆除が図られることにより、外来種による新たなリスクの拡大はなくなっている。

 ③ 農林水産業や事業者による原材料調達などの活動は生物多様性への影響にも配慮した持続可能な方法で行われ、地域に固有の希少種の保護など生物多様性の保全の取組と両立する形で国内の自然資源の有効活用が進んでいる。

 ④ 渡り鳥が飛来する湿地の保全・再生や海洋保護区のネットワーク化など、アジア太平洋地域を中心に国境を越えた生態系ネットワークの形成が進む。ペットの輸入を含め海外の自然資源への依存度の低下や国際協調による水産資源の持続可能な利用の進展などにより、わが国が地球規模の生物多様性に与える負の影響は低下している。

 ⑤ 生物多様性の保全と持続可能な利用がさまざまな社会の仕組みに組み込まれ、資源産出国への国際協力、基金による助成などの経済的措置や事業者による社会貢献活動などが定着している。生物や自然に関する教育が充実しており、市民は、自らの意志で、生物多様性の保全・再生活動への参加や活動支援のための寄付、生物多様性に配慮した商品・サービスの選択的な購入などにより、生物多様性がもたらす豊かさを享受し、また、そうした行動を通じて自然と共生した社会における新しいライフスタイルを確立する。

3 国土の特性に応じたグランドデザイン

  わが国の自然環境の特性を国土レベルで概観した場合、わが国はユーラシア大陸の東側、およそ北緯20度から北緯45度の中緯度に位置する南北約3,000kmにわたる弧状列島であり、帯状に配列する複数の地帯構造から構成されています。気候帯としては亜熱帯から亜寒帯までを含み、主な植生は南から順に亜熱帯常緑広葉樹林(琉球列島、小笠原諸島)、暖温帯常緑広葉樹林(本州中部以南)、冷温帯落葉広葉樹林(本州中部から北海道南部)、亜高山帯常緑針葉樹林(北海道)に区分され、森林限界を超えた領域では高山植生が成立しています。また、植物相、動物相はともに複数の地理区に属しており、さらに渡瀬線、ブラキストン線などといった生物地理上の境界線によって区分されます。わが国の生物多様性は、このような特性を持つ自然的基盤とその上に積み重ねられてきた自然そのものの営み、人々の長い年月にわたる暮らしの営みによって形づくられてきたものです。自然共生社会における国土のグランドデザインでは、わが国の国土が地形・地質や気候、植生帯、生物相などの違いによって区分されることを踏まえた上で生物相と人間活動の関係も考慮に入れる必要があります。

  わが国の国土は、陸域と海域に大別され、このうち陸域は、生物相と人間活動の違いから、奥山自然地域、人工林が優占する地域を含む里地里山・田園地域、都市地域にけられます。さらに、河川・湿地地域は、河川をはじめとした水系を通じて、これらの地域をつないでいます。

  一方、海域は、陸域の影響を顕著に受けており、海岸線を挟む陸域と海域を一体的にとらえていくことが望ましい沿岸域と、沖合から外洋へと広がる海洋域に分けられます。さらに、島嶼は、面積的に限られた空間の中にさまざまな自然環境が存在し、それらが微妙なバランスの上に成り立つ独特の生態系が見られることから、陸域から沿岸域までを一体的にとらえていくことが望ましいといえます。

  このようなことから、自然共生社会における国土のグランドデザインでは、以下の7つの地域区分を基本的な単位として考えていくこととします。

  ただし、同じ種類の地域区分であっても、例えば、北海道と沖縄では自然環境そのものが異なり、農業や漁業などの形態も異なっているように、気候や植生帯、人間活動などの違いによる地域性があります。また、地形単位で見た場合、例えば、同じ都市地域であっても、盆地に位置するものと氾濫原に位置するものでは立地環境が異なっています。このように同じ地域区分であっても全国一律のものではなく、自然環境や人間活動によって違いがある点を踏まえ、国土のグランドデザインの実現に向けた取組を進めていく必要があります。

(1)奥山自然地域・・・相対的に自然性の高い地域

(2)里地里山・田園地域(人工林が優占する地域を含む)・・・(1)と(3)の間に位置する地域

(3)都市地域・・・人間活動が集中する地域

(4)河川・湿地地域・・・各地域を結びつける生態系ネットワークの基軸となる水系

(5)沿岸域・・・海岸線を挟む陸域及び海域

(6)海洋域・・・沿岸域を取り巻く広大な海域

(7)島嶼地域・・・沿岸域・海洋域にある島々

  また、国土のグランドデザインの実現に向けた取組を進めていく際には、それぞれの地域区分をどのようにつなげていくのかというデザインが必要となります。わが国の土地利用はモザイク状に広がっており、各地域区分の配置は地域によっても異なりますが、一つの考え方として、流域を基軸として関連する地域を含む流域圏を一つのまとまりとして各地域区分のつながりを考えていく方法があります。その際には、流域圏内の人・もの・資源を活用し、健全な水循環や物質循環、生態系を保全・回復するとともに、水やエネルギー、食料の持続可能な供給を可能とし、災害などに対しても強靱な社会を構築することにより、国土の多様性と環境変化への強靱さを担保することを目指し、各地域区分のつながりを考えていくこととします。

  次に、流域圏の構成要素となる7つの地域区分ごとのグランドデザインを示します。

(1)奥山自然地域

【現状】

  奥山自然地域は脊梁山脈などの山地で、全体として自然に対する人間の働きかけが小さく、相対的に自然性の高い地域です。国土における生物多様性を考える上では、いわば屋台骨としての役割を果たす地域であり、原生的な自然、クマ類、ニホンカモシカなどの大型哺乳類やイヌワシ、クマタカなど行動圏の広い猛禽類の中核的な生息域、水源地などが含まれます。現在、国土面積の2割弱を占める、自然林と自然草原を合わせた自然植生の多くがこの奥山自然地域に分布しています。本州中部や北海道などにおいては山稜部に広く分布する一方、中国地方のように現在では自然植生が標高の高い山岳部などごく一部にしか残されていない地域では、自然の遷移にゆだねられた二次林など相対的に自然性の高い地域がこの奥山自然地域にあたります。

  この地域は、気候条件に応じて成立する代表的、典型的な自然植生がまとまって残されている地域であり、各地域の代表的な動植物が将来にわたって存続していくための核となる地域(コアエリア)の一つとして重要です。

  急峻なところでは、地形改変により一度植生が失われると回復が難しいことが多く特に高山・特殊岩地の生態系は厳しい環境条件のため、小規模な人間活動に対しても脆弱です。また、ニホンジカの生息域の拡大や生息数の増加により、下層植生の衰退、それに伴う裸地化など、森林生態系への影響が深刻化しているほか、亜高山帯、高山帯などでは地球温暖化の進行による高山植物群落等への影響が懸念されています。

【目指す方向】

 ・ 地方ごとにまとまりのある十分な広がりを持った奥山自然地域を保全する。

 ・ 自然優先の管理を基本とし、登山などの人間活動が生態系に対して不可逆的な変化をもたらさないようにする。

 ・ ニホンジカの適切な保護管理を進め、森林生態系への影響を抑制する。

【望ましい地域のイメージ】

  国土の生態系ネットワークにおける中核的地域の一つであり、各地域の代表的な動植物を存続させていくためのエリアとして自然優先の管理を基本とする地域となっている。

  自然林に隣接した二次林を、自然の遷移にある程度ゆだねて自然林へ移行させるなど、自然の質の向上のための取組によって、まとまりのある奥山自然地域が確保されている。イヌワシやクマタカなどの猛禽類の繁殖成功率が向上し、西日本においても、それまで生息域が孤立していたツキノワグマが人里離れた森の中で木の実を食べるなど、二次林のうちある程度自然の遷移にゆだねられた森林がまとまって広がっている。また、ニホンジカは生態系に対して不可逆的な変化をもたらさない程度の生息数に維持されている。これらにより人為の影響が少なく、大型哺乳類の主な生息域にもなっている奥山自然地域が地方ごとにまとまりを持って保全されている。

  周囲に低地があることで隔てられた形となっている高山においては、固有種や遺存種が地球温暖化の影響を受けて種の構成や分布範囲を変化させているが、外来種が排除されるなど地球温暖化以外の人為的な影響を受けないよう保全されモニタリングが続けられている。

  山岳部を楽しむ登山者は、脆弱な地域やオーバーユースとなっている地域に立ち入るときに、入山の認定を受けて奥山の自然へのインパクトがより小さくなるように配慮するとともに、ルールに従って楽しんでいる。

  それまでのオーバーユースに伴う踏みつけによって痛んだ山岳部の植生はボランティアの協力もあって修復され、ササが密生して森林の天然更新が困難になった地域や人為的な改変跡地では、人が補助的に手を加えて自然を再生するなどの取組により生物多様性に富んだ豊かな森林が見られるようになっている。

(2)里地里山・田園地域(人工林が優占する地域を含む)

【現状】

  里地里山・田園地域(人工林が優占する地域を含む)は、相対的に自然性の高い奥山自然地域と人間活動が集中する都市地域との中間に位置しています。この里地里山・田園地域(人工林が優占する地域を含む)は、里地里山のほかに、人工林が優占する地域や水田などが広がる田園地域を含む広大な地域です。

  里地里山は、長い歴史の中でさまざまな人間の働きかけを通じて特有の自然環境が形成されてきた地域で、集落を取り巻く二次林と人工林、農地、ため池、草原などで構成される地域概念です。

  二次林や水田、水路、ため池などが混在する自然環境は、多くの固有種や絶滅危惧種を含む多様な生物の生息・生育地となっており、都市近郊では都市住民の身近な自然とのふれあいの場としての価値が高まってきています。同時に人間の生活・生産活動の場でもあり、多様な価値や権利関係が錯綜するなど多くの性格を併せ持つ地域です。

  この地域では、水田耕作に伴う水管理の方法、二次林や二次草原の管理方法など地域ごとに異なる伝統的な管理方法に適応して、多様な生物相とそれに基づく豊かな文化が形成されてきました。奥山自然地域とともに、わが国の多様な生物相を支える重要な役割を果たしてきた地域といえます。

  昭和30年代以降、エネルギー革命による資源利用の変化や農業の近代化に伴い、二次林は手入れや利用がなされず放置されるところが増え、二次草原は大幅に減少するとともに、昭和60年代頃からは、耕作放棄地も増加しています。こうした変化に伴い、クマ類、ニホンジカ、イノシシ、ニホンザルなどの中・大型哺乳類の生息分布の拡大や生息数の増加が見られ、人の生活環境や農林業などへの被害が拡大している状況にあります。なお、本地域は、今後人口減少や高齢化が進むことにより、他の地域に比べ、人との関わりが全体として減少していくと考えられます。

【目指す方向】

 ・ 奥山に近い地域や都市に近い地域といった各地域の今後の自然環境や社会状況の変化を見据えつつ、効率的な保全活用を進める。

 ・ 生物多様性をより重視した、持続可能な農林業の活性化を通じて、人と自然のより良い調和を実現する。

 ・ 緩衝帯の整備などにより、人と鳥獣との適切な関係の構築を進める。

 ・ エコツアーでの利用やバイオマス資源の利用などを含め地域の自然資源の積極的な有効活用や新たな価値の発見と創造による農山村の活性化を進める。

・ 保全活動の取組への支援や都市住民、事業者なども含めた地域全体で支える新たな仕組みづくりを進める。

【望ましい地域のイメージ】

  農地を中心とした地域では、自然界の循環機能を活かし、生物多様性の保全をより重視した生産手法で農業が行われ、田んぼをはじめとする農地にさまざまな生物が生き生きと暮らしている。農業の生産基盤を整備する際には、ため池や畦が豊かな生物多様性が保たれるように管理され、田んぼと河川との生態的なつながりが確保されるなど、昔から農業の営みとともに維持されてきた動植物が身近に生息・生育している。そのまわりでは、子どもたちが虫取りや花摘みをして遊び、健全な農地の生態系を活かして農家の人たちと地域の学校の生徒たちが一緒に生物の調査を行い、地域の中の豊かな人のつながりが生まれている。耕作が放棄されていた農地は、一部が湿地やビオトープとなるとともに、多様な生物を育む有機農業をはじめとする環境保全型農業が広がることによって国内の農業が活性化しており、農地として維持されている。また、生物多様性の保全の取組を進めた全国の先進的な地域では、タンチョウやコウノトリ、トキなどが餌をついばみ、大空を優雅に飛ぶなど人々の生活圏の中が生きものにあふれている。都市に近い地域では、動植物種の供給源となり、エコロジカルネットワークを形成するとともに、住民の自然とのふれあいの場等となっている。

  二次林は、かつてのような利用形態により維持管理される範囲が限られている一方で、積極的に維持管理を図ることとされた地域では、明るく入りやすい森林として管理されることで子どもたちの冒険の場となり、在来種であるオオムラサキやカブトムシがごく普通に見られ、春の芽吹きと美しい紅葉が見られるなど季節の変化に富んだ風景をつくり出している。大きく広がっていた竹林は、一部は自然林や二次林として再生されるとともに、管理された竹林で家族がタケノコを掘る姿が見られる。また、里山の管理でうまれる木材はシイタケなどの山の恵みを生産するほだ木や、ペレットなどのバイオマス資源として地域内で利用されている。人工林は、間伐の遅れも解消し、立地特性に応じて、広葉樹林化、長伐期化などにより、生物多様性の保全の機能が高まるとともに、地域の公益的機能の高度発揮に対する要請、木材需要の動向等に応じて、多様な森林の整備・保全が進められている。人工林から持続的に生産される材は間伐材や端材も含め、有効利用が進んでいる。このような形で維持管理が行われている二次林・人工林・農地などが一体となった里地里山では、多様な土地利用・資源利用と都市住民をはじめとした多様な主体の連携・協働を通じて、さまざまなタイプの生態系が混在する状態が復活している。かつて広く分布した二次草原は、草資源のバイオマス利用なども通じて、全国各地で維持管理が継続され、多くの野草が咲き、チョウ類が飛び交うなど希少となってしまっていた動植物種が増え、普通に見られるようになっている。それとともに、風景が美しく保たれ、それに惹かれて移り住んできた都市住民や外国からの観光客などが増え、エコツーリズムの浸透もあって生き生きとした地域づくりが実現している。また、そうした中で里地里山の価値が広く国民に認識され、公的または民間の資金やボランティアにより維持管理の一部が支えられるようになっている。そして、自然資源の利活用を通じた豊かな生物多様性との関わりの中で、地域ごとにつちかわれてきた生物多様性を利用する伝統的な知識、技術が子どもたちへと引き継がれ、地域の文化と結びついた固有の風土が尊重されている。

  また、広葉樹林化などによる多様な森林づくりが進み、生息環境が改善されることに加えて、森林と農地や人里との境界部分では見通しの良い緩衝帯の設置、人里に放置された農作物や果樹など特に冬場に鳥獣の餌となるものの除去、地域全体での追い払いなどの防除対策のほか、適切な狩猟も通じた個体数調整などにより、クマ類、ニホンジカ、イノシシ、ニホンザルなどの中・大型哺乳類は農地や人里に出没しにくくなっている。

(3)都市地域

【現状】

  都市地域は人間活動が集中する地域であり、高密度な土地利用、高い環境負荷の集中が見られます。また、都市では食料をはじめ、多くの生態系サービスを他の地域に依存しており、生態系サービスを通じて他の地域と関係しています。都市における樹林地や草地などの緑地は、都市に生きる生物の生息・生育の場として重要であるとともに、都市住民にとっても身近な自然とのふれあいの場として貴重なものとなっています。しかしながら、市街地の拡大に伴い、ヒバリやホタル類など多くの身近な生物の分布域が郊外に後退し、その結果、斜面林、社寺林、屋敷林など都市内に島状に残存する緑地に孤立して細々と生きる生物、カラス類やムクドリなど人為的な環境にも適応することのできた一部の生物など、都市地域で見られる生物は非常に限られています。歴史的に都市環境の要素として組み込まれたお堀や河川、水路に生息する魚類などは少なくなり、そこではペットのミドリガメ等が放され、外来植物が繁茂する状況も見られます。居住地周辺において身近な自然とのふれあいや生物多様性の保全活動への参加を求めるニーズは急速に高まりつつある一方で、生活圏に緑地が少なく、生物多様性に乏しいことを背景に、自然との付き合い方を知らない子どもたちやそれを教えることのできない大人たちも増えています。

【目指す方向】

 ・ 豊かな自然に包まれ、水と緑にあふれる都市づくりを周辺地域と一体的に進める。

 ・ 緑地による生態系ネットワーク(エコロジカルネットワーク)を形成し、都市における生物多様性の確保を図る。

 ・ 日常的な暮らしの中で身近な自然とのふれあいの場と機会を確保する。

 ・ 地球規模の視点に立った持続可能な社会経済活動や消費行動を定着させる。

【望ましい地域のイメージ】

  人口も含めてコンパクトになった市街地には、高エネルギー効率、長寿命の建物が建ち並び、発達した公共交通が立派に育った厚みのある街路樹の並木の中を移動している。また、都市の中や臨海部には、低未利用地を活用して、明治神宮のような森と呼べる大規模な緑地が造成されることで各都市の中にも巨木がそびえ、その上を猛禽類が悠々と空を舞うとともに、都市住民や子どもたちが身近に生物とふれあうことのできる小さな空間が市街地内のあちこちに湧水なども活用して生まれている。これらの街路樹や緑地は地球温暖化対策やヒートアイランド現象の緩和、都市における良好な景観の形成などにも貢献している。

  丘陵地や段丘崖沿いの緑地、河川、湧水地、海岸などを基軸とし、都市内で樹林地や水辺地が保全、再生、創出され、風の道が確保されるとともに、水循環の健全性の確保や健全な生態系をネットワークにすることで生物多様性の回復が図られている。土地利用に余裕が見いだせるようになった郊外部では、森林や湿地などの自然の再生により、豊かな生態系が回復している。また、その生物多様性の状態は市民が主体となってモニタリングが行われている。

  地形の変化に富み、樹林を有する緑地が増え、学校や幼稚園・保育園などには生物がたくさん生息するビオトープがあり、都市に居住しながらも幼い子どもたちが土の上で遊びや冒険をしながら育っていく。また、こうした森や緑地の管理は地域の大人が積極的に協力して行うことで、子どもも含めた地域のコミュニティのつながりが強くなっている。企業等の民間事業者の所有地においても緑地が確保され、生態系ネットワークの拠点となっている。

  都市の郊外部の谷にある小規模な水田などで、保全活動が活発に行われ、共同で管理される農地で人々がいきいきと農作業などに携わるとともに、その作業のまわりで子どもたちが魚取りや水遊びに歓声をあげている。

  都市住民が消費する食べものや木材について、生物多様性の保全や持続可能な利用に配慮して生産したものや近郊で採れたものを選ぶ人が増え、そうした商品に付加価値が付くことが当然となるとともに、大きな公園で開催されるフェスティバルなどで広く商品が紹介され、都市の消費者と近郊の農業者などを結びつけている。こうした水と緑が豊かな都市は、景観にすぐれ観光の拠点ともなることで活気にあふれている。

(4)河川・湿地地域

【現状】

  水は、地球上の多くの生命にとって欠かせないものです。そして、河川をはじめとし、湖沼、湿原、湧水地などの水系は生物多様性の重要な基盤です。水系は森林、農地、都市、沿岸域などをつなぐことで国土の生態系ネットワークの重要な基軸となります。そのつながりを通じて流域から生み出される土砂や栄養分、さらには土地利用による汚濁物質を下流へと運ぶとともに、海からサケやウナギなどが遡上します。

  水系は、魚類などの水生生物や水鳥をはじめ多様な生物の生息・生育地として重要です。特に湿原は、生物多様性が豊かな地域であり、保水、浄化、洪水調節、地域の気候緩和といった機能を有する一方、人為の影響を受けやすい脆弱な生態系といえます。

  これまで河川沿いの氾濫原の湿地帯や河畔林は、農地、宅地などとして営々と開発、利用され、また、洪水等の災害を防止するための河川改修や流域の土地利用の変化により、流量の減少、水循環の経路の変更や分断、砂礫の供給の減少、攪乱の減少や水質汚濁などが生じたことから、河川生態系は大きな影響を受けてきました。自然湖沼においても、干拓・埋立、湖岸改修、水位の改変、水質汚濁、富栄養化、外来種の侵入などによって、湖沼生態系は大きな影響を受けてきました。日本に生育する水草のおよそ3分の1の種が絶滅危惧種に選定されるなど、水辺環境には多くの絶滅危惧種が存在します。その一方で、水質などの河川環境が改善する中でアユの遡上が回復した事例もあります。

【目指す方向】

 ・ 安全・安心と環境が調和した多様な河川空間の保全・再生、豊かな水量の確保と河川本来の変動性の回復、河川の上下流や流域をつなぐことなどで、海域とのつながりも念頭に置きつつ、多様な生物の生息・生育環境を流域の視点から保全・再生する。

 ・ 河川・湿地地域を基軸とした国内・国際的な生態系ネットワークを実現する。

 ・ さまざまな水生生物とふれあえるように水質を改善するとともに、地下水や湧水を含めた健全な水循環を確保する。

 ・ 豊かな生態系と地域の歴史・文化、生活が調和した日本らしい川や湖沼を取り戻す。

【望ましい地域のイメージ】

  自然河岸や河川周辺の氾濫原としての湿地帯や河畔林などの保全が進み、自然を再生する取組もあって、河川内では、洪水による攪乱などを通じて、川が形づくられ、それに伴い多様な河川空間が形成されている。そこには多様な河川生態系が存在し、河道には、ヤナギ類の河畔林やカワラノギクなどの河原に特有の植物が生育し、河口部には二枚貝のヤマトシジミや、ヒヌマイトトンボなどの汽水域に特有の生物が生息している。その流れの中には瀬や淵が形成され、また生物が餌をとったり、繁殖するのに適した河床が存在するなど、河川は水生生物や魚類などの良好な生息・生育地となっている。こうした河川の変動性を保つためのさまざまな技術が活かされている。

  河川内の淀み(ワンド)や河川周辺の湿原には、コウホネや、アサザなどの浮葉植物、エビモやヤナギモなどの沈水植物が繁茂し、ギンブナなどの生息・産卵の場所となっている。河川と周辺の湿原や農地などの間では、生物の移動が可能となっており、かつて普通に存在していたナマズやギンブナといった河川と水田の両方を行き来する生物も多く見られる。また、河川の上流から河口、沿岸域の間の連続性も改善され、流域における健全な水の循環による豊富な水量と良好な水質が維持される中で、アユやハゼの遡上が回復するなど豊かな水域の生態系が保たれている。

  流域の汚濁負荷の削減が進み、河川に流入する水質が改善することで、源流部から河口部まで清らかな水が流れている。湖沼でも水質改善や水位変動の回復、外来種対策などが進んでいる。水質の改善された湖沼や湿原、冬期にも水が張られている水田や河口部の干潟にはアジア太平洋地域からの渡り鳥が飛来し、国内外を通じて、渡り鳥の飛来地のネットワークが確保されている。

  都市部における雨水の浸透、農地における水環境の改善などにより、かつての身近な水路や湧水が再生され、人々の生活とともに健全な水循環が確保されている。美しい水辺と豊かな自然環境が地域に存在することで、歴史・文化、住民の生活と調和した日本らしい川の風景が創り出されている。このような水循環を通じて育まれた在来の魚が、地域色豊かな食材として日常の食卓にのぼっている。夏には水質が甦った川で歓声をあげて子どもたちがたくましく遊んでいる。

(5)沿岸域

【現状】

  陸域、海域が接し、それらの相互作用のもとにある沿岸域は、海水と淡水が混ざる河口の汽水域や複雑で変化に富んだ海岸、その前面に位置する干潟・塩性湿地・藻場・サンゴ礁などの浅海域を含み、漁業をはじめとするさまざまな産業やレクリエーションの場などにも利用される人との関わりが深い地域であり、豊かな生物多様性を有しています。海岸には砂浜、断崖、干潟などその形状に応じて特有の動植物が見られ、また海岸沿いの植生帯や渚の自然環境は、国土の生態系ネットワークの重要な基軸ともなります。

  浅海域には干潟、塩性湿地、藻場、サンゴ礁などが分布し、水産資源を含む多様な生物の生息・生育の場、水質の浄化、自然とのふれあいの場などさまざまな重要な機能を有しています。一方で、浅海域は沿岸開発による直接的影響に加え、流域からの負荷、栄養物質や淡水の流入など陸域の影響を強く受けており、砂浜海岸や干潟の形成には河川の土砂運搬機能が重要な役割を果たしています。また、東北地方太平洋沖地震に伴う津波によって東北地方を中心とする太平洋の沿岸域では甚大な被害を受けたように、沿岸域は津波や高潮、さらには海岸侵食といった自然災害を受けやすい地域でもあります。

  沿岸域の中でも、自然生態系と調和しつつ人手を加えることにより、生物多様性の保全と高い生物生産性が図られている地域は里海と呼ばれています。この地域は歴史的に見て、私たちの生活や文化と密接な関わりを持ってきました。例えば、漁業者による自主的な共同管理により、生物多様性を保全しつつ、その要素の一部である水産物を持続的に利用してきた場所や、アマモ場の再生や海洋ごみの回収など多様な主体の協働により生態系の保全が図られてきた場所でもあります。

【目指す方向】

 ・ 陸と海が接する沿岸域本来の人と海のつながりと豊かな生物相を取り戻す。

 ・ 現存する干潟・塩性湿地・藻場・サンゴ礁などを含む浅海域や自然海岸の保全を優先するものとし、さらに多様な生物の生息・生育環境の再生・創出により、人が近づき楽しむことのできる海辺を復活する。

 ・ 適切な資源管理に基づく持続可能な漁業を進める。

 ・ 上流での森づくりや水質改善などの取組を通じて、沿岸域での持続可能な漁業を活性化する。

 ・ 海岸防災林の再生等を通じた安全・安心と環境が調和した沿岸域の保全・回復と持続可能な利用を進める。

 ・ これらの実現に向け、科学的知見に基づく海洋保護区の適切な設定と管理の充実を進める。

【望ましい地域のイメージ】

  沿岸域では、生物の生息・生育地として残された重要な干潟、塩性湿地、藻場、サンゴ礁などが、地球温暖化の影響による海水温・海水面の上昇の影響を大きく受けているが、データの集積や健全な生態系の保全の取組、水深、潮流、底質などの環境条件を十分踏まえて行われる科学的な知見に基づいた再生の取組とあわせ、科学的知見に基づく海洋保護区の設定とその適切な管理を含む措置により生息環境が改善され、干潟、藻場、サンゴ礁などの沿岸域生態系が台風など自然の攪乱を受けつつ豊かに確保されている。また、各地の干潟では、アサリなどの貝類や、シオマネキなどのカニ類をはじめとするさまざまな海生生物が多く生息し、シギ・チドリ類が餌をついばみ、多くの人々が海辺の生きものの観察や調査に参加したり、潮干狩りを楽しんでいる。内湾などの閉鎖性海域においては、栄養塩バランスが適切に確保され、ヘドロのたい積や貧酸素水塊の発生、漂流・漂着ごみなど沿岸環境の悪化の問題が改善され、上流の森林は漁業者をはじめ関係者の協力を得て適切に維持され、豊かな漁場が保全されている。豊かな生命を育む沿岸域は、多様で豊富な魚介類を持続的に供給するとともに、北の海ではアザラシが、南の海ではジュゴンが泳ぐ姿が見られるなど、人間と自然の共生のもとに健全な生態系を保っている。砂浜から干潟や藻場を通じて海底につながる生態系の連続性が確保されることにより、西日本ではカブトガニの生息が確保されている。また、河川から沿岸域、海洋までの連続性が確保されることにより、モクズガニなどの両側回遊性の生物の生息が確保されている。地域ごとのあるべき里海の姿が設定され、その里海を目指し、参加・協働の取組が継続して行われている。

  海岸は、地球温暖化による海水面上昇の影響を受けているものの、自然海岸が保全されるとともに、山からの連続性が確保された河川からの土砂の供給を受けて、砂浜が維持され、ウミガメの上陸やコアジサシの繁殖が見られるとともに、海浜植物が豊かに生育している。そして、アジアをはじめとする各国の協力により、ごみのないきれいな海岸で人々が海水浴に興じている。

(6)海洋域

【現状】

  沖合から外洋へと広がる国土の約12倍の広さの排他的経済水域などを持つわが国にとって、海洋域は生物多様性を支える基質的な構造です。海洋は地球の表面のほぼ7割を占め、水循環の巨大なストックであると同時に、その膨大な熱エネルギーにより、地球の気候の形成に大きく関わっています。また、炭素循環を通じて、二酸化炭素の大きな吸収源(シンク)として機能し、大気の安定化を担っています。日本は周囲を海に囲まれた島国であり、陸上の気候、ひいては陸上の動植物の分布や生態系も海に強く影響されています。

 日本近海では、北は親潮、南は黒潮といった海流が流れ、寒冷及び温暖な水塊が遠隔地の生物とともに運ばれてくることや、地史的に隔離されたことのある日本海や、8千メートルの深さに達する日本海溝など変化に富んだ海洋構造であることが、わが国の海洋の生物多様性を豊かなものとしています。

【目指す方向】

 ・ 広域に移動・回遊をする動物の保全を、国際的な協調の動きを踏まえつつ推進する。

 ・ 水産資源をはじめ海洋全般のデータを整備し、遺伝的多様性を確保しつつ、必要に応じて国際的な連携を図り、生態系アプローチと適切な資源管理に基づく持続可能な漁業を進める。

 ・ 国際的な連携により、海洋汚染の防止・除去の取組を強化する。

 ・ これらの実現に向け、科学的知見に基づく海洋保護区の適切な設定と管理の充実を進める。

【望ましい地域のイメージ】

  海棲哺乳類、海鳥類、ウミガメ類、魚類などその生活史において長距離の移動・回遊をする生物について、太平洋諸国をはじめとする関係国と協力した保全活動及び持続可能な利用が行われ、科学的知見に基づく海洋保護区の設定とその適切な管理を含む措置により生息環境が改善されるとともに、混獲を回避する技術の向上が図られている。そして、こうした生物が豊かに生息する海洋域では、国際的な協調の動きも踏まえつつ、必要な場合は地域漁業管理機関等の枠組みを通じて、生物多様性を保全する取組とともに、科学的根拠に基づき設定された漁獲可能量をはじめとするルールにのっとった持続可能な漁業が盛んに行われている。

  生態系に影響を与える漂流・漂着ごみや有害な化学物質・油の流出による海洋汚染の防止・除去については、国際的な連携による取組が進んでいる。

(7)島嶼地域

【現状】

  わが国は、北海道、本州、四国、九州という主要4島のほかに、6,800あまりと言われる大小さまざまな島嶼を有し、有人島は400あまりとなっています。周囲を海に囲まれ、生物の行き来が限られていることから、既に周辺地域では見られなくなった在来の生物相が島嶼という限られた空間の中で残されている場合があります。また、小笠原諸島や南西諸島をはじめとして海によって隔離された長い歴史の中で、独特の生物相が見られる島々が存在します。こうした島嶼では小さな面積の中に微妙なバランスで成り立つ独特の生態系が形成されており、生息・生育地の破壊や外来種の侵入による影響を受けやすい脆弱な地域といえます。島嶼地域には、もともと分布が非常に限定された地域固有の種が多く、また、人為的な影響も受けやすいことから、島嶼地域に生息・生育する種の多くが絶滅のおそれのある種に選定されています。

【目指す方向】

 ・ 希少種の保護増殖や外来種の防除などにより独特の生態系や固有の生物相の保全を推進する。

 ・ 独自性を活かした豊かな地域づくりを進める。

【望ましい地域のイメージ】

  島嶼においては、侵略的な外来種は根絶され、対馬のツシマヤマネコ、西表島のイリオモテヤマネコ、奄美のアマミノクロウサギ、沖縄のヤンバルクイナ、小笠原のムニンノボタンなど固有の動植物や在来の動植物が安定して生息・生育し、それらの独特の生態系や固有の生物相が十分に調査され、かけがえのない地域の資産として、島によっては世界の資産として広く認識されている。また、水際では、島外からの外来種の侵入がないようチェックされているほか、固有の種の夜間調査に観光客が小グループに分かれて参加するなど、特徴ある自然や文化を活かし、環境に細心の注意を払ったエコツアーが盛んに行われ、独自の自然と島の文化を紡ぐ豊かな地域づくりが進んでいる。

  ウミガメ類、アホウドリやウミガラスなどの海鳥類、アザラシ類などの海棲哺乳類の産卵地・繁殖地・生息地は、生物多様性を保全する上で重要な地域として、人による過度の干渉がなく保存されている。

{*1* 地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化(①生物圏の一体性(生態系と生物多様性の破壊)、②気候変動、③海洋酸性化、④土地利用変化、⑤持続可能でない淡水利用、⑥生物地球化学的循環の妨げ(窒素とリンの生物圏への流入)、⑦大気エアロゾルの変化、⑧新規化学物質による汚染、⑨成層圏オゾンの破壊)を引き起こしており、地球システムの安定性を保つことのできる範囲(プラネタリーバウンダリー)を超えて人間が活動を拡大すると、回復不可能な変化が引き起こされるとする。}
{*2* Nature-based Solutions。健全な自然生態系が有する機能を活かして社会課題の解決を図る取組。}
{*3* 「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書」}
{*4* 生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第二部で昆明・モントリオール生物多様性枠組が決定されるまで、当該枠組の仮称として「ポスト2020生物多様性枠組」が使用されていた。
{*5* 2021年3月環境省生物多様性及び生態系サービスの総合評価に関する検討会}
{*6* 陸域については自然公園、自然海浜保全地区、自然環境保全地域、鳥獣保護区、生息地保護区、近郊緑地特別保全地区、特別緑地保全地区、保護林、緑の回廊、天然記念物、都道府県が条例で定めるその他保護地域のうち、地理情報が入手可能な区域を重複を除き算定した面積の、国土面積に対する割合。海域については、日本の管轄圏内の水域に対する洋保護区の面積割合(重複を除く)。}
{*7* 自然資本とは、地球上の再生可能/非再生可能な天然資源(例:植物、動物、大気、土壌、鉱物)のストックを意味する。(出典:Atkinson and Pearce 1995; Jansson et al.1994)。}
{*8* ここでは、過去からの推移や人間との関わり等に応じて、存在するべき動植物が生息生していける生態系として位置づける。}
{*9* ここでは、生態系サービスにみられる物質的に加えて、精神的なつながりも含めることとする。}
{*10* 一定の区域や地域といった場の単位をもとに、生物多様性の保全と持続可能な利用を図る考え方。}
{*11* このロードマップでは、内陸水域が含まれるものを意味する用語として主に用いる。}
{*12* このロードマップでは、沿岸域及び外洋域を意味する用語として主に用いる。}
{*13* 陸域については、自然公園、自然環境保全地域、鳥獣保護区、生息地等保護区、保護林、緑の回廊等により保全・管理されている区域のうち、GISデータが得られたもの。海域については、海洋保護区として、自然公園、沖合海底自然環境保全地域、鳥獣保護区、保護水面、共同漁業権区域、指定海域、沿岸水産資源開発区域等。}
{*14* 森林や河川等の面積との重複あり。}
{攪乱に「かくらん」とルビあり}
{涵養に「かんよう」とルビあり}
{海棲に「かいせい」とルビあり}
{島嶼に「とうしょ」とルビあり}
{強靱に「きょうじん」とルビあり}
{海棲に「かいせい」とルビあり}
{陸棲に「りくせい」とルビあり}
{脊梁に「せきりょう」とルビあり}