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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候変動適応計画

[場所] 
[年月日] 2023年5月30日
[出典] 環境省
[備考] 令和3年10月2日 閣議決定,令和5年5月30日 閣議決定(一部変更)
[全文] 

はじめに

 気候変動適応計画(以下「本計画」という。)は、気候変動適応法(平成30年法律第50号。以下「適応法」という。)第8条第1項の規定に基づき変更するものである。

 近年の平均気温の上昇、大雨の頻度の増加により、農産物の品質の低下、災害の増加、熱中症のリスクの増加など、気候変動及びその影響が全国各地で現れており、気候変動問題は、人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われている。2018年、我が国は平成30年7月豪雨や台風第21号、記録的な猛暑に見舞われた。2019年には台風第15号(令和元年房総半島台風)及び第19号(令和元年東日本台風)、2020年には令和2年7月豪雨と、大雨や台風による災害が相次いだ。これらは、多くの犠牲者をもたらし、また、国民の生活、社会、経済に多大な被害を与えた。また、2021年8月にも西日本から東日本の広い範囲で大雨となり、九州北部地方と中国地方では線状降水帯も発生して記録的な大雨となった。個々の気象現象と地球温暖化との関係を明確にすることは容易ではないが、今後、地球温暖化の進行に伴い、このような猛暑や豪雨のリスクは更に高まることが予測されている。

 世界全体が新型コロナウイルス感染症という歴史的危機に直面する中で、感染防止と社会経済活動の両立は世界共通の課題である。一方で、今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって地球温暖化は進行し、大雨等極端現象の頻度が増えると予測されており、今後の豪雨災害等の更なる頻発化・激甚化等、将来世代にわたる影響が強く懸念されている。このような認識は、2050年頃に社会の中心を担う将来世代からも表明されているところであり、地域・性別・世代を超えて、気候正義に基づいたシステムチェンジが必要という意見もある1。さらに私たちは、「コロナ危機と気候危機」とも言われる時代の大きな転換点に立っているという認識のもと、新型コロナウイルス感染症の拡大前の社会に戻るのではなく、持続可能で強靱な社会システムへの変革を実現することが求められている。

 2018年10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)により公表された「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC特別報告書」(1.5℃特別報告書)では、将来の世界の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには、2050年前後には世界の二酸化炭素排出量が正味ゼロになっている必要があると示されている。我が国においても、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けることとしている。しかしながら、2050年カーボンニュートラル実現に向けて気候変動対策を着実に推進し、気温上昇を1.5℃程度に抑えられたとしても、熱波のような極端な高温現象や大雨等の変化は避けられないことから、現在生じており、又は将来予測される被害を回避・軽減するため、多様な関係者の連携・協働の下、気候変動適応策に一丸となって取り組むことが重要である。

 気候変動対策として緩和策(温室効果ガスの排出削減等対策)と適応策は車の両輪であり、政府においては、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)及びそれに基づく地球温暖化対策計画並びに適応法及び本計画の二つの法律・計画を礎に、気候変動対策を着実に推進していく。

(気候変動適応に関する国際的な動向)

 IPCCは、1988年の設立以来、気候変動の最新の科学的知見の評価を行い、報告書として取りまとめている。

 IPCCが提供する気候変動に関する科学的知見も踏まえ、国際的には、2015年12月に国連気候変動枠組条約の下でパリ協定が採択され、2016年11月に発効した。パリ協定は、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前の水準と比べて2℃より十分に下回るよう抑えること、並びに1.5℃までに制限するための努力を継続するという緩和に関する目標に加え、気候変動の悪影響に適応する能力並びに気候に対する強靱性を高めるという適応も含め、気候変動の脅威に対する世界全体での対応を強化する目的が掲げられた。

 2018年10月、IPCCにより1.5℃特別報告書が公表された。これはパリ協定が採択された、気候変動に関する国際連合枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、IPCCに対し工業化以前の水準から1.5℃の気温上昇にかかる影響や関連する地球全体での温室効果ガス排出経路に関する特別報告書を提供することを招請したことを踏まえて作成されたものである。1.5℃上昇であっても、健康、生計、食糧安全保障、水供給、経済成長などに対する気候関連リスクが増加し、2℃上昇ではさらにリスクが増加することが示された。一方で、こうした気候関連リスクを低減する適応のオプションが幅広く存在すること、気温上昇を2℃ではなく1.5℃に抑えることでほとんどの適応ニーズが少なくなることが示された。

 IPCCは2019年8月に「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関する特別報告書」(土地関係特別報告書)、2019年9月に「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書」(海洋・雪氷圏特別報告書)を公表した。土地関係特別報告書では、工業化以前の期間以来、陸域の気温の平均気温に比べて2倍近く上昇していること、気候変動は土地に対して追加的なストレスを生み、生計、生物多様性、人間の健康及び生態系の健全性、インフラ、並びに食料システムに対する既存のリスクを悪化させることが示された。海洋・雪氷圏特別報告書では、積雪の深さ、面積及び期間の減少、並びに北極域の海氷の面積及び厚さの減少、永久凍土の温度上昇がみられること、世界平均海面水位の上昇の加速は、氷床と氷河の融解が大きく寄与していることが示された。

 また、2021年8月から2023年3月にかけて、IPCC第6次評価報告書の各作業部会報告書及び統合報告書が公表された。第1作業部会報告書では、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないこと、大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れていること、気候システムの多くの変化(極端な高温や大雨の頻度と強度の増加、いくつかの地域における強い熱帯低気圧の割合の増加等)は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大することが示された。第2作業部会報告書では、気候変動の影響・適応・脆弱性に関する最新の科学的知見がまとめられ、人為起源の気候変動は、極端現象の頻度と強度の増加を伴い、自然と人間に対して、広範囲にわたる悪影響とそれに関連した損失と損害を、自然の気候変動の範囲を超えて引き起こしていることなどが示された。第3作業部会報告書では、気候変動に関する国際連合枠組条約第26回締約国会議(COP26)より前に発表された国が決定する貢献(NDCs)の実施に関連する2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高い見込みであることなどが示された。これらを踏まえ、2023年3月に公表された統合報告書では、この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つこと、また、この10年の間の大幅で急速かつ持続的な緩和と、加速化された適応の行動によって、予測される損失と損害を低減し、多くの共便益をもたらすことなどが示された。

 2015年9月には、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される持続可能な開発目標(SDGs)が国連総会において採択され、我が国においても、SDGsの実施に向けた取組を進めている。SDGsには、気候変動、更には、食料、保健、水・衛生、インフラ、生態系など、適応に関連する目標が多く含まれている。また、SDGsの採択に先立ち、2015年3月に、第3回国連防災世界会議において、世界各国で防災体制を強化するための仙台防災枠組2015-2030が採択された。パリ協定の下の適応とSDGs、仙台防災枠組は、気候変動に対応できる強靱で持続可能な社会を構築するという共通する目標を有しており、国際的にこれらの目標等の間で連携を図ることの重要性が強調されている。

(2015年適応計画等に基づく取組)

 我が国における気候変動影響及び適応に関する調査研究の進展や国際的な動向を踏まえ、既存の研究による気候変動予測や影響評価等について整理し、気候変動が日本に与える影響及びリスクの評価について包括的に審議するため、2013年7月に中央環境審議会地球環境部会の下に気候変動影響評価等小委員会を設置した。同小委員会において、農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然災害・沿岸域、自然生態系、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7つの分野、30の大項目、56の小項目に整理し、気候変動の影響について、500点を超える文献や気候変動及びその影響の予測結果等を活用して、重大性(気候変動は日本にどのような影響を与えうるのか、また、その影響の程度、可能性等)、緊急性(影響の発現時期や適応の着手・重要な意思決定が必要な時期)及び確信度(情報の確からしさ)の観点から評価が行われた。その結果を踏まえ、2015年3月に中央環境審議会により「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について」が取りまとめられ、環境大臣に意見具申がなされた。

 意見具申を受け、2015年11月、政府全体として気候変動の影響への適応策を総合的かつ計画的に進めるため、目指すべき社会の姿等の基本的な方針と、基本的な進め方、分野別施策の基本的方向、基盤的施策及び国際的施策を定めた「気候変動の影響への適応計画」(以下「2015年適応計画」という。)が閣議決定された。その後、各府省庁は2015年適応計画に基づき、農林水産業、水環境・水資源、生態系、自然災害、健康、産業・経済活動、国民生活といった各分野において、気候変動適応に関する施策を着実に実施してきている。また、2016年8月に、気候変動適応に関する情報基盤として、関係府省庁の連携によりA-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)が構築され、国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)が運営を開始した。加えて、2017年7月に、関係府省庁連携の下で「地域適応コンソーシアム事業」が開始され、全国6ブロックに設置された地域協議会において、国の地方行政機関、都道府県・政令指定都市、有識者、地域の研究機関等が参画の下、各地域の気候変動影響及び適応に関する関係者間の情報共有や連携が推進されている。

(適応法の規定に基づく取組)

 我が国における気候変動適応に関する取組は、気候変動影響及び気候変動適応に関する調査研究、影響評価、2015年適応計画の策定及び実施と、段階的に進展してきた。その中で、気候変動適応の法的位置づけを明確化し、一層強力に推進していくべく、2018年6月13日に適応法が公布され、同年12月1日に施行された。適応法施行前の同年11月には適応法の規定2に基づき、気候変動適応計画(以下「2018年適応計画」という。)が策定された。また、2018年12月に国立環境研究所が「気候変動適応センター」を設立し、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供、地方公共団体や地域気候変動適応センターへの技術的助言や援助が進められている。加えて、全国7地域で「気候変動適応広域協議会」が組織され、各地域の幅広い関係者の連携協力の下、地域の状況に応じた気候変動適応策等が検討されている。

 2018年適応計画の進捗管理については、関係府省庁により構成される「気候変動適応推進会議」においてフォローアップを行い、2020年度までの施策の進捗状況を把握・公表している。その際、関係府省庁において適切なアウトプット指標を設定し、年度ごとの指標の変化を確認すること等により、計画に基づく各施策の進捗状況を把握した。

 また、2020年12月には、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価に関する最新の科学的知見を踏まえ、「気候変動影響評価報告書」(以下「2020年影響評価報告書」という。)を作成、公表した。本報告書では、科学的知見に基づき、農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然災害・沿岸域、自然生態系、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7分野71項目を対象として、重大性、緊急性、確信度の3つの観点から評価を行った。根拠とした引用文献は1,261件と、前回評価時(2015年)の約2.5倍であり、31項目で確信度が向上し、その結果55項目(77%)で確信度が中程度以上となった。また重大性、緊急性についても、新たに3項目が「特に重大な影響が認められる」、8項目が「対策の緊急性が高い」と評価された。

 2021年10月には、2020年影響評価報告書で示された最新の科学的知見を勘案しつつ、関係府省庁間における調整、中央環境審議会地球環境部会気候変動影響評価等小委員会における報告、パブリックコメント等を経て、気候変動適応計画(以下「2021年適応計画」という。)の変更が閣議決定された。2018年適応計画と同様、2021年適応計画についても進捗管理を行うこととし、これまでに2021年度における施策の進捗状況を把握・公表している。

(適応法の改正による熱中症対策の強化)

 熱中症対策を強化するため、第211回国会で成立した気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律(令和5年法律第23号。以下同法による改正後の気候変動適応法を「改正適応法」という。)では、熱中症の発生の予防を強化する仕組みを創設する等の措置を講じ、熱中症対策を一層推進することとされた。改正適応法に盛り込まれた具体的な措置としては、現行の政府における熱中症に関する計画を熱中症対策実行計画(以下「実行計画」という。)として、法定の閣議決定計画に格上げすること、現行の熱中症警戒アラートを「熱中症警戒情報」として法律に位置づけるとともに、より重大な健康被害が発生し得る場合に、一段上の「熱中症特別警戒情報」を発表すること、さらに地域における熱中症対策の強化のため、市町村長による指定暑熱避難施設や熱中症対策普及団体の指定を制度化すること等が規定された。

 本計画は、改正適応法を踏まえ、2021年適応計画について新たに第4章を設けて実行計画の基本的事項を定める等の措置を講じるため、関係府省庁間における調整を経て、今般、変更するものである。


第1章 気候変動適応に関する施策の基本的方向

第1節 目標

 適応法は、気候変動に起因して、生活、社会、経済及び自然環境における気候変動影響が生じていること並びにこれが長期にわたり拡大するおそれがあることに鑑み、気候変動適応を推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的としている。

 これを踏まえ、本計画では、気候変動適応に関する施策を科学的知見に基づき総合的かつ計画的に推進することで、気候変動影響による被害の防止・軽減、更には、国民の生活の安定、社会・経済の健全な発展、自然環境の保全及び国土の強靱化を図り、安全・安心で持続可能な社会を構築することを目指す。

 気候変動適応の推進に当たっては、科学的知見の充実及び我が国の調査研究機関等の英知を集約した情報基盤の整備を図り、信頼できるきめ細かな情報に基づいて、多様な関係者が連携し、各分野において効果的に気候変動適応を推進していく。また、国内外の脆弱性の高い集団や地域に配慮しつつ、現在及び将来の気候変動影響による被害の防止・軽減に主眼を置くことは当然であるが、これに加えて、将来の気候変動予測を踏まえて、例えば、新たな農林水産物のブランド化や自然災害に強靱なコミュニティ作りを行うなど、適応の取組を契機として地域社会・経済の健全な発展につなげていく視点も重要である。さらに、人口の減少やアフターコロナなどの社会経済的視点に加え、自然の性質を活かして災害をいなしてきた古来の知恵にも学びつつ、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進める「適応復興」やNbS(Nature-based Solutions:自然を活用した解決策)といった新たな視点についても考慮することが重要である。

第2節 計画期間

 適応法を踏まえて、21世紀末までの長期的な展望を意識しつつ、今後おおむね5年間における気候変動適応に関する基本戦略及び政府が実施する気候変動適応に関する施策の基本的方向等を示す。

第3節 関係者の基本的役割

気候変動適応の推進に関しては、国だけでなく、地方公共団体、事業者、国民等、多様な関係者がそれぞれ以下の基本的役割を担いながら、相互に密接に連携して取り組むことにより、相乗的な効果を発揮することが期待される。

1.国の基本的役割

(1)気候変動適応の総合的推進

 国は、本計画の下、総合的かつ計画的に気候変動適応に関する施策を推進する。また、国は、気候変動等に関する科学的知見の充実及びその効率的かつ効果的な活用を図り、国、地方公共団体、事業者、国民等のあらゆる主体の気候変動適応を推進するため、気候変動等に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行う情報基盤を構築することによりその体制の確保を図る。加えて、気候変動適応の進展の状況をより的確に把握・評価する手法の開発を図る。さらに、適応法に基づく国及び地方公共団体の施行の状況を定期的に把握し、法の施行に関連する課題等について検討を行う。

(2)気候変動適応に関する施策の率先実施

 国は、関係行政機関の連携協力の下、防災に関する施策、農林水産業の振興に関する施策、生物の多様性の保全に関する施策等、関連する施策に積極的に気候変動適応を組み込み、率先して各分野における気候変動適応に関する施策を推進する。

(3)多様な関係者の気候変動適応の促進及び連携の確保

 国は、気候変動適応に関する施策や具体的な取組事例等に関する情報の提供、広報活動・啓発活動等を通じて、地方公共団体、事業者、国民等の多様な関係者の気候変動適応に対する理解を醸成し、それぞれの主体による気候変動適応の促進を図る。また、気候変動適応広域協議会等の枠組を通じて、国の地方行政機関、地方公共団体、事業者、地域気候変動適応センター等の地域における気候変動適応に関係を有する者の広域的な連携を確保する。

(4)国際協力の推進

 国は、気候変動等に関する情報の国際間における共有体制を整備するとともに、開発途上地域に対する気候変動適応に関する技術協力等の国際協力を推進する。

(5)科学的知見の充実・活用及び気候変動影響の評価

 国は、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価、並びにこれらの調査研究や気候変動適応に関する技術開発を推進し、科学的知見の充実を図り、気候変動等に関する情報基盤を強化するとともに、科学的知見を気候変動適応に関する施策に活用する。また、これらの最新の科学的知見を踏まえ、中央環境審議会の意見を聴いて、気候変動影響の総合的な評価を行う。

2.地方公共団体の基本的役割

(1)地域の自然的経済的社会的状況に応じた気候変動適応の推進

 地方公共団体は、地域の自然的経済的社会的状況に応じた気候変動適応に関する施策を推進するため、本計画を勘案し、地域気候変動適応計画3を策定するよう努める。その際、関係部局の連携協力の下、防災・国土強靱化に関する施策、農林水産業の振興に関する施策、生物の多様性の保全に関する施策等、関連する施策に積極的に気候変動適応を組み込み、各分野における気候変動適応に関する施策を推進するよう努める。特に、都道府県は、管下の市町村における気候変動適応に関する施策の実施及び地域気候変動適応計画の策定を促進するため、率先して気候変動適応に関する施策を推進するとともに、市町村に対する技術的な助言等を行うよう努める。

(2)地域における関係者の気候変動適応の促進

 地方公共団体は、気候変動適応に関する施策や具体的な取組事例等に関する情報の提供等を通じて、地域における事業者、住民等の多様な関係者の気候変動適応に対する理解を醸成し、それぞれの主体による気候変動適応の促進を図る。また、気候変動適応広域協議会への参画等を通じて、国の地方行政機関、地方公共団体、事業者、地域気候変動適応センター等の地域における気候変動適応に関係を有する者と広域的な連携を図り、地域における気候変動適応を効果的に推進するよう努める。

(3)地域における科学的知見の充実・活用

 地方公共団体は、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供並びに技術的助言を行う拠点として、地域気候変動適応センターを確保し、地域における科学的知見の充実を図り、気候変動適応に関する施策に活用するよう努める。

3.事業者の基本的役割

(1)事業内容の特性に応じた気候変動適応の推進

 事業者は、自らの事業活動を円滑に実施するため、その事業活動の内容に即した気候変動適応を推進するよう努めるとともに、国及び地方公共団体の気候変動適応に関する施策に協力するよう努める。また、事業者の気候変動適応に関する優良な取組事例の共有や気候変動等に関する情報が提供されること等により、国、地方公共団体、国民、他の事業者における気候変動適応の推進に資することが期待される。

(2)適応ビジネスの展開

 気候変動適応の推進は、適応に関する技術・製品・サービスの提供等、新たな事業活動(適応ビジネス)の機会を提供する。適応ビジネスに携わる事業者は、適応ビジネスを国内外に展開することを通じて、国、地方公共団体、国民、他の事業者及び開発途上国をはじめとする諸外国における気候変動適応の推進に資することが期待される。

4.国民の基本的役割

(1)気候変動適応の重要性に対する関心と理解

 気候変動は、国民一人一人の生活に対して影響を与えるおそれがあることから、国民は、気候変動の影響が自らの問題として認識し、気候変動適応の重要性に対して関心と理解を深めるよう努める。

(2)気候変動適応に関する施策への協力

 国又は地方公共団体が気候変動適応のために行う施策の実施には、国民の協力が必要なものもあることから、国民は気候変動に関する施策に協力するよう努める。

5.気候変動適応の推進に関して国立研究開発法人国立環境研究所が果たすべき役割

(1)気候変動影響及び気候変動適応に関する情報基盤の整備

 国立環境研究所は、国、地方公共団体、事業者、国民等、あらゆる主体が科学的知見に基づき気候変動適応を推進できるよう、気候変動適応に関する情報基盤であるA-PLATの充実・強化を図り、DIAS(データ統合・解析システム)とも連携して、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行う。その際、国立環境研究所は、自らが率先して気候変動影響及び気候変動適応に関する調査研究及び技術開発に取り組むとともに、気象、防災、農林水産業、生物多様性、人の健康等、気候変動等に関する調査研究又は技術開発を行う国の機関又は独立行政法人や、地域気候変動適応センターと緊密に連携し、必要に応じて共同研究を実施すること等により、これらの機関が有する関連する研究成果、データ、情報等を活用し、情報基盤の充実・強化を図る。加えて、国民一人一人が日常生活において得る気候変動影響に関する情報の有用性に留意し、地方公共団体や地域気候変動適応センター等の協力も得つつ、適切に情報を収集、整理、分析し、その活用を図る。

(2)地方公共団体に対する技術的援助

 国立環境研究所は、地域気候変動適応計画の策定又は推進に対して、都道府県及び市町村の意向を勘案し、A-PLATが提供する科学的知見を積極的に活用すること等により、技術的助言等を行う。

(3)地域気候変動適応センターに対する技術的援助

 国立環境研究所は、地域気候変動適応センターと意見交換を行い、地域における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価並びにこれらの調査研究等を推進する上で必要となる情報やノウハウの提供等により、地域気候変動適応センターの活動に対して、技術的助言等を行う。

第4節 基本戦略

 気候変動適応に関する施策を科学的知見に基づき総合的かつ計画的な推進を図り、本計画の目標を達成するため、以下のとおり基本戦略を設定する。政府においては、これらの基本戦略の下、関係府省庁が緊密に連携協力し、第2章に示す分野別施策と第3章に示す基盤的施策を効果的に推進する。

1.施策への気候変動適応の組み込み

基本戦略① あらゆる関連施策に気候変動適応を組み込む

 気候変動適応に関する施策の推進に当たっては、防災、農林水産業、生物の多様性の保全、その他の関連する施策との連携を図ることが重要となる。諸外国の気候変動適応に係る国家戦略では、既存の政府の取組や規制枠組みの中に気候変動適応を組み込んでいくことで、気候変動適応を主流化(メインストリーミング)させるアプローチが広く採用されている。

 このため、政府は、関係府省庁の連携協力の下、防災、農林水産業、生物多様性の保全など関連する施策に気候変動適応を組み込み、効果的かつ効率的に気候変動適応に関する施策を推進するとともに、政策の主流にしていくことを目指すことが重要である。また、地方公共団体においても同様に、地域気候変動適応計画の策定を契機とし、関係部局の連携協力を図り、関連する施策に気候変動適応を組み込んでいくことが求められる。

 気候変動適応の具体的な手法について、IPCC第5次評価報告書では、早期警戒情報システム、ハザードマッピング、水資源の多様化、下水道等による雨水・汚水の管理、道路インフラの改善等による災害リスクマネジメント、湿地・都市緑地空間の維持、生息地分断の低減等による生態系管理、洪水が起こりやすい地域・他のリスクが高い地域の開発管理等による土地利用計画、防波堤や堤防、貯留施設、新たな作物、節水、自然再生、生態学的回廊、土壌保全、植林等による構造的・物理的手法、保険や建築基準等による制度的手法、意識向上等による社会的手法等、ハード・ソフト両面からの多種多様な手法が示されている。具体的な手法の検討にあたっては、我が国の社会経済及び自然環境の状況や地域ごとの特性、分野ごとの特性、気候変動影響の程度等を踏まえて、工学的・生態学的手法、土地利用、社会的・制度的手法等の様々な手法を適切に組み合わせ、社会システムや自然システムの健全性や連結性を確保し、強靱性を発揮できるよう、総合的に適応を進めていくという視点を持つことが重要である。また、適応策の立案や推進にあたっては、時間軸を意識することも重要である。気候変動の影響が現れている分野への対応は既に実施されている取組を含め、あらためて適応策として位置付けることで更なる推進を図る。将来現れるであろう影響にあっても、ひとたび気候変動の影響が顕在化すれば社会経済及び自然環境に大きな影響を与えうる分野について、様々な事象を想定してその対策のための施策立案・事前の対応を検討する。特に、長期にわたって利用され続ける施設・設備等の整備、維持管理、更新等を着実に進めるにあたっては、将来の気候変動影響の変化も考慮した設計等を心がけ、適応策を効果的かつ効率的に実施することが重要である。

 気候変動に伴う自然災害の激甚化・頻発化の懸念を踏まえ、想定される最大規模の水災害及びそれに伴う複合的な災害影響により最悪の事態が発生したとしても、人命被害の回避や経済被害の最小化を図るとともに、早期の復旧・復興を実現し、経済活動が機能不全に陥らない、国土の強靱性、強くしなやかな国土づくりの観点を持つことが必要である。そのため、激甚化する風水害への対策等を定めた「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を着実に推進するなど、事前に備える国土強靱化に計画的に取り組み、災害に屈しない国土づくりを進める。

 また、あらゆる主体が、各分野で、気候変動対策と防災・減災対策を包括的に講じていく、すなわち「気候変動×防災」の考え方を組み込んでいくことも重要である。地域を災害前の元の姿に戻すという原形復旧の発想に捉われず、自然の性質を活かして災害をいなしてきた古来の知恵にも学びつつ、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進める「適応復興」の発想を持ち、いわば「災害をいなし、すぐに興す」社会を目指す。このため、被災後に速やかに対応できるよう、災害発生前から未来を見据え、復興後の社会やまちの絵姿を地域で検討し共有し「より良い復興」を目指す、事前復興の取組を進めることも重要な視点である。

 また、第5次環境基本計画(平成30年4月17日閣議決定)では、環境・経済・社会の統合的向上に向けた取組を具体化していくこととしている。こうした考え方は、IPCC第5次評価報告書においても指摘されている。同報告書では、適応の戦略には、他の目標にも資する相乗効果(コベネフィット)を伴う行動が含まれており、利用可能な戦略や行動は、人間の健康、生計、社会的・経済的福祉及び環境の質を向上することを支援しつつ、起こり得る様々な将来の気候に対する強靱性を増すことができるとされている。

 我が国においても、適応とコベネフィットをもたらす、すなわち適応を含む複数の政策目的を有する施策の推進が重要である。例えば、食料・農林水産業では、「みどりの食料システム戦略」(令和3年5月12日農林水産省策定)に基づき、災害や気候変動にも強い持続的な食料システムの構築を目指す取組が行われている。

 また、NbSの考え方を組み込んでいくことが重要である。生態系ネットワークの構築を含め、健全な生態系を維持・再生することが、吸収源としての機能による緩和策に貢献するのみならず、防災・減災を含む適応策にも貢献することに留意し、 Eco-DRR (Ecosystem-based Disaster Risk Reduction :生態系を活用した防災・減災)や、EbA (Ecosystem-based Adaptation :生態系を活用した適応策)の取組を進めていく必要がある。その際、2021年のG7首脳会合で採択された「G7・2030年自然協約」において、2030年までに少なくとも陸域及び海域の30%を保全又は保護するための新たな世界目標を支持し、自国においても同じ割合の保全又は保護の範を示すとされたことを踏まえ、保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定これら地域の質の改善を行っていくことが重要であり、NbSの推進の基礎となる。一方で、気候変動は生物多様性の損失をもたらす直接要因であり、気候変動により生物多様性が失われると、生態系による気候変動対策への貢献が損なわれ、それによりさらに気候変動が進むといった負のフィードバックが生じるおそれがあることから、「生物多様性国家戦略」(平成24年9月28日閣議決定)を踏まえ、緩和・適応と生物多様性保全を統合的に進めることも重要な視点である。こうしたNbSの考え方を踏まえ、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進めるグリーンインフラの社会実装を分野横断・官民連携により推進することが重要である。

 気候変動を安全保障上の課題と捉える動きは各国にも広がっており、例えば、気候変動による複合的な影響に起因する水、食料、土地などの不足は、限られた土地や資源を巡る争いを誘発・悪化させるほか、大規模な住民移動を招き、社会的・政治的な緊張や紛争を誘発するおそれがあると考えられている。このことから、気候変動は国家、そして人間の安全保障に関わる重要な問題との認識の下、気候変動適応に関する施策を推進する必要がある。

 このように、気候変動の影響から人命や社会、国土を守るためには、包摂性のあるリスクコミュニケーションにより知見や情報を社会で共有し、あらゆる分野のあらゆる主体、あらゆる関係者が主体的に連携・行動できるよう、ジェンダー平等や脆弱性の高い集団や地域にも配慮した意志決定・合意形成プロセスの充実を図りつつ、施策を展開することが必要となる。

2.気候変動等に関する科学的知見の充実及びその活用

基本戦略② 科学的知見に基づく気候変動適応を推進する

 気候変動に関する施策は、気候変動及び気候変動影響に関する科学的知見を踏まえて適切に実施していく必要がある。将来の気候変動及び気候変動影響の予測・評価には、不確実性を伴うこと、世界各国の社会経済状況の変化や国際レベルでの緩和策の実施状況等によっても変わることから、常に最新の科学的知見を踏まえることが重要となる。

 このため、政府は、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価並びにこれらの調査研究を推進するとともに、最新の研究成果等を踏まえて気候変動予測等に関する科学的知見を整備する。さらに、複数の要素が相互に影響しあうことで、単一で起こる場合と比較して広域かつ甚大な被害をもたらす「複合的な災害影響」や、ある影響が分野を超えてさらに他の影響を誘発することによる影響の連鎖、異なる分野での影響が連続することにより影響の甚大化をもたらす「分野間の影響の連鎖」について、知見の充実を図る。また、調査研究等の成果や科学文献により得られる最新の科学的知見を踏まえ、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の専門家等から構成される中央環境審議会の意見を聴取し、定期的に気候変動影響の総合的な評価を行う。

 観測・監視の推進に当たっては、陸上の定点観測、高山帯から沿岸域に至るまでの様々な生態系の観測、船舶やアルゴフロート等による海洋・極域の観測、航空機による観測、人工衛星等によるリモートセンシングによる観測などを、効果的に組み合わせて実施する。予測・評価の推進に当たっては、IPCC等の国際的な動向にも注目しつつ、気候モデルの高度化や、影響モデルの精緻化を進める。調査研究の推進に当たっては、個々の調査研究等機関による調査研究に加え、気候変動影響の総合的な評価を的確に行うことができるよう、多様な分野における気候変動影響の評価を可能な限り統一的に行うことを目指し、多くの調査研究等機関が参画する共同研究を推進する。また、地域レベルでの気候変動影響の評価を推進するため、国立環境研究所や調査研究等機関と、地域気候変動適応センターをはじめとする地域の研究機関による共同研究を推進する。

 国、地方公共団体、事業者等による気候変動適応に関する取組を推進するため、政府は、防災、水資源管理、営農支援、生物多様性保全、健康等、気候変動適応に関する技術開発を推進するとともに、気候変動適応に関する技術の積極的活用を図る。また、効果的・効率的な気候変動適応の推進にあたっては、適応の進展の状況を的確に把握し、評価する必要があることから、適応策の効果を定量化するための知見の充実を図る。

3.気候変動等に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行う体制の確保

基本戦略③ 我が国の研究機関の英知を集約し、情報基盤を整備する

 気候変動及び気候変動影響の観測、監視、予測及び評価のデータや科学的知見等の気候リスク情報、気候変動適応に関する技術や優良事例等の情報は、国、地方公共団体、事業者、国民等の各主体が気候変動適応に取り組む上での基礎となるものである。各主体が、気候リスク情報や気候変動適応情報に容易にアクセスでき、正確で分かりやすい形で気候リスク情報等を得ることを可能とすることは極めて重要である。

 他方、気候リスク情報は、気温や降水量などの気候変動に関するデータに加え、米の収量、湖沼の水質、動植物種の分布、河川流域の氾濫確率、熱中症のリスク等の気候変動の影響に関する情報など、広範囲にわたっている。また、空間的には、世界的なレベルから、全国、都道府県、市町村レベルまで、様々なスケールが考えられる。例えば、地方公共団体において適応策を検討する場合には、ダウンスケーリングを用いた高解像度の気候予測データや、それに基づく影響評価の情報が必要となる場合がある。さらに、時間スケールについても、過去、現在、近未来、21世紀末に至るまで様々であるとともに、それぞれの情報の確信度も高いものから低いものまで幅がある。

 このため、政府は、国立環境研究所を中核とした気候変動適応の情報基盤であるA-PLATや、気候変動等の地球規模課題の解決に資する情報システムであるDIASの充実・強化を図る。

 さらに、5G(第5世代移動通信システム)などの情報通信技術の活用やIoT、人工衛星、ドローン等の新たな手段による情報の入手と、これらビッグデータのAI技術を活用した情報処理などの進展の著しい情報分野、新型コロナウイルス感染症対策を契機に社会的に普及が進んだ非接触・リモート型等のデジタル分野における技術の活用を念頭に、関連するあらゆる情報の共有・活用を推進することも必要となる。

 また、政府は、国立環境研究所と連携し、地方公共団体、事業者、民間団体、国民等が有する気候変動等に関するデータや気候変動適応に関する取組事例等の情報を、気候変動適応情報プラットフォームに集約し、その共有を図る。将来的には、地域の気候変動等に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行う体制については、地域気候変動適応センターが中核となることが望ましいことから、政府は、地域気候変動適応センターに対する国立環境研究所による技術的援助が円滑に行われるよう、国立環境研究所への必要な支援を行う。

4.地方公共団体の気候変動適応に関する施策の促進

基本戦略④ 地域の実情に応じた気候変動適応を推進する

 気候変動影響の内容や規模は、地域の気候条件、地理的条件、社会経済条件等の地域特性によって大きく異なり、早急に対応を要する分野等も地域により異なる。また、地域にとっては、気候変動適応を契機として、地域それぞれの特徴を活かし、第5次環境基本計画において示された「地域循環共生圏」の創造による強靱で持続可能な地域社会の実現につなげていく視点も重要である。したがって、地域において気候変動適応を進めるに当たっては、地域特性を熟知した地方公共団体が主体となって、地域の実情に応じた施策を展開することが重要となる。

 多くの地方公共団体は、これまでも、気候変動適応に関する施策を実施してきた。都道府県・政令指定都市を中心に、地域気候変動適応計画の策定や地域気候変動適応センターの確保が進んでいるが、今後、住民に最も身近な基礎自治体となる市町村を含め、更に促進を図ることが必要である。

 地域レベルで気候変動影響に関する科学的知見を収集し、気候変動影響の評価を行い、自らの施策に適応を組み込んで気候変動適応に関する施策を実施することは地方公共団体にとって困難を伴う。このため、政府は、A-PLATを中心にDIASとも連携した気候変動等に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行う体制を確保し、地方公共団体が円滑に気候変動適応に関する計画を策定するためのマニュアルの整備や研修の実施等により、地方公共団体による地域気候変動適応計画の策定・実施の支援を行う。その際、例えば複数自治体共同での計画の策定や生物多様性地域戦略等の自治体が策定する各種関係施策との連携、地域気候変動適応センターの確保、地域の実情を踏まえ重要な分野に特化した適応の推進など、効果的・効率的に行えるための手法の分析・共有を実施する。

 また、地域気候変動適応センターが地域における気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供並びに技術的助言を的確に行うことができるよう、国立環境研究所と連携しつつ、その活動を後押しするとともに、地域気候変動適応センターに対する国立環境研究所による技術的援助が円滑に行われるよう、国立環境研究所への必要な支援を実施する。さらに、気候変動適応広域協議会を活用し、地域の気候変動適応に関係を有する者の情報共有の促進を図るとともに、これらの関係者連携による地域レベルでの科学的知見の収集や適応策の検討を支援する。

 加えて、政府は、地方公共団体による適応法の施行状況を定期的に把握し、その分析結果をフィードバックすることで、地方公共団体の更なる取組の推進を図る。なお、市町村を含め、多くの地方公共団体が適応法及び本計画の内容等を十分に理解し、地域における気候変動適応に関する施策を展開することができるよう、地方公共団体への積極的な説明や意見交換を行う。

5.事業者等の気候変動適応及び気候変動適応に資する事業活動の促進

基本戦略⑤ 国民の理解を深め、事業活動に応じた気候変動適応を促進する

 気候変動適応に関する施策を推進するには、国民の理解が不可欠である。また、気候変動は、国民の生活にも影響を及ぼすことから、気候変動適応の重要性に対する関心と理解を深め、自ら気候変動適応行動を実施することも重要となる。しかしながら、現時点においては、国民の気候変動適応に対する理解は必ずしも高いとは言えない。

 このため、政府は、教育、広報活動、啓発活動その他の気候変動適応の重要性に対する国民の関心と理解を深めるための取組に加え、災害リスク情報など適応策の実施に必要な各種情報提供などを行う。これらの取組は、各地域において展開していくことが重要であることから、必要に応じて、地方公共団体や関係する民間団体等の協力を得て実施する。さらに、国民の理解を深めるという観点からも、国民一人一人が日常生活において得る気候変動影響に関する情報の有用性に留意し、それを収集・活用していく方策について検討を深める。

 気候変動は、事業者の事業活動にも影響を及ぼすことから、事業者も自らの事業活動を円滑に実施するため、その事業活動の内容に即した気候変動適応を推進することが重要となる。加えて、事業者が気候変動適応に役立つ技術や製品、サービスを活用した適応ビジネスを展開することは、事業者が新たなビジネス機会を得ることにつながるだけでなく、国及び地方公共団体が気候変動適応に関する施策や、他の事業者の気候変動適応の促進に有効となる。現時点で気候変動適応を意識して事業を展開している事業者は多くなく、事業者の気候変動適応及び適応ビジネスを促進していくには、気候変動が事業に及ぼすリスクやその対応について理解を深めるとともに、先進的な事業者の取組事例等を共有していくことが重要である。また、近年、企業においては投資家等から気候変動リスクを開示することが求められており、金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年6月に公表した最終報告書(TCFD提言)に賛同し、自社の気候関連リスク・機会を分析して環境報告書や財務報告書等で開示する動きが大企業を中心に活発化している。また、大規模な風水害が頻発する傾向にあることから、事業継続計画(BCP)において、気象災害を考慮する必要性が認識されつつある。

 このため、政府は、事業者が的確に気候変動適応を推進できるよう、事業者の自主的な気候変動適応を促進するためのガイダンスを整備する。TCFD提言に沿った情報開示や、BCMにおいて気候変動適応に取り組む手法を組み込むなど、企業の効率的かつ効果的な気候変動適応の取組を支援する。また、事業者の有する気候変動適応に関連する技術・製品・サービス等の優良事例を発掘し、国内外に積極的に情報提供することで、その普及を図るほか、事業者の気候変動適応に関連する技術・製品・サービス等を活用したプロジェクトやビジネスが普及するよう、気候変動適応を資金使途としたグリーンボンドの発行促進を含め、適応ファイナンスを積極的に後押しする。

6.気候変動等に関する国際連携の確保及び国際協力の推進

基本戦略⑥ 開発途上国の適応能力の向上に貢献する

 開発途上国は、一般的に気候変動影響に対処する適応能力が不足している国が多い。特に、後発開発途上国や小島嶼開発途上国は、経済構造が気候変動の影響を受けやすい農林水産業に依存している国が多いこと、また、貧困の蔓延は適応能力を制限することなどから、現在及び将来の気候変動に対する脆弱性が大きく、気候変動影響はより深刻になり得る。IPCC第5次評価報告書によれば、例えば、アジアにおいては、河川沿い、沿岸域、都市部での氾濫の増加、暑熱に関連する死亡リスクの増大、干ばつによる水・食糧不足の増大、小島嶼開発途上国においては、海面水位の上昇などが指摘されている。

 今後、洪水や異常気象の頻発化・激甚化など、気候変動影響による食糧不足、農水産物の輸入価格の変動、海外における企業の生産拠点への直接的な影響によるサプライチェーンの分断等が生じることにより、結果的に我が国の経済及び社会に悪影響が及ぶことも懸念されている。また、人間の安全保障の観点からも、開発途上国における気候変動の影響への対応は喫緊で重要な課題と考えられる。

 このため、気候変動に関する途上国支援として、政府は、2021年6月のG7コーンウォールサミットにおいて表明した通り、2021年から2025年までの5年間で官民合わせて6.5兆円相当の気候変動に関する支援を実施し、そのうち適応分野の支援を促進していく。さらに、アジア太平洋地域において気候変動リスクを踏まえた意思決定と実効性の高い気候変動適応策の推進を支援するために構築したAP-PLAT(アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム)を活用し、気候変動リスクに関する科学的知見の充実、ステークホルダーの支援ツールの提供、気候変動影響評価や気候変動適応に関する能力強化等の取組を、脆弱性の高い集団や地域への配慮をしつつ、地域内の各国や関係機関等との協働により推進する。また、様々な国際協力のスキーム、及び気象衛星をはじめとする技術等を活用し、開発途上国において、気候変動及び気候変動影響に関する観測、監視、予測及び評価や、防災、農業、水資源分野等の気候変動適応に関する技術協力を推進する。さらに、地域の実情に応じ、将来の気候変動影響に計画的に対応するための取組の立案のため、研究や技術開発の成果を活用できるよう地域の大学等の連携の推進を図る。

 また、政府は、AP-PLAT及びDIAS等を活用した技術協力を通じ、我が国の事業者の適応ビジネスの国際展開の促進を図る。加えて、気候変動及び気候変動影響に関する観測、監視、予測及び評価や、我が国の災害経験や防災・農業等の気候変動適応に関する技術など、日本が有する知見を活用することで、官民連携による海外展開、国際協力を推進する。

7.気候変動適応に関する施策の推進に当たっての関係行政機関相互の連携協力の確保

基本戦略⑦ 関係行政機関の緊密な連携協力体制を確保する

 気候変動適応に関する施策の推進に当たっては、防災に関する施策、農林水産業の振興に関する施策、生物の多様性の保全に関する施策その他の関連する施策との連携を図ることが重要となる。各分野における気候変動適応に関する施策は、気候変動等に関する共通の科学的知見の下で効果的に進めていくことが重要である。これらの関連する分野別の施策は、国においては多くの関係府省庁が、地方公共団体においては多くの関係部局が担当している。気候変動適応に関する施策を総合的かつ計画的に推進していくには、国又は地方公共団体において、関係府省庁又は関係部局と緊密な連携を図るための連携協力体制を構築し、本計画又は地域気候変動適応計画を策定・実施するとともに、国と地方公共団体が連携協力して一体的に気候変動適応を推進する必要がある。

 政府においては、気候変動適応計画を的確に実施していくため、環境大臣を議長とし、関係府省庁により構成される「気候変動適応推進会議」において、関係府省庁間の必要な調整を行い、連携協力をしながら政府一体となって気候変動適応に関する施策を推進するとともに、その進捗状況を定期的に確認することとする。

 また、国の多くの研究機関が気候変動影響や適応に関する研究を推進していることに鑑み、国立環境研究所を事務局とする「気候変動適応に関する研究機関連絡会議」を活用し、関係研究機関の連携協力を推進する。

 加えて、地域の関係行政機関の連携の下で、地域の実情に応じた気候変動適応を推進するため、国の地方行政機関、都道府県、市町村、地域気候変動適応センター、事業者等により構成される「気候変動適応広域協議会」の場を積極的に活用する。

 地方公共団体においては、地域気候変動適応計画を策定し、的確に実施していくため、政府の気候変動適応推進会議の動向も参照しつつ、関係部局等により構成される会議体を設置すること等により、地方公共団体の関係行政機関との連携協力体制を確保し、地域における気候変動適応に関する施策を推進していくことが望ましい。


第5節 気候変動適応計画の進捗の管理・評価

 気候変動適応を効果的に推進するためには、気候変動影響の評価、気候変動適応計画の進捗管理と見直しを行う順応的なアプローチにより柔軟に対応していくことが重要である。政府においては、以下のとおり、気候変動影響の評価、気候変動適応計画の進捗管理と見直し、また、これに関連する評価手法等の開発を進める。

1.気候変動影響の評価

 気候変動適応に関する施策は、気候変動及び気候変動影響に関する最新の科学的知見を踏まえて実施することが重要である。

 このため、政府は、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価並びにこれらの調査研究を推進するとともに、調査研究等の成果や科学文献により得られる最新の科学的知見を踏まえ、おおむね5年ごとに、気候変動影響の総合的な評価を行う。気候変動影響の総合的な評価についての報告書の作成に当たっては、中央環境審議会に諮問を行い、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の専門家等から構成される委員会において審議を進めることとする。

 次期気候変動影響評価は、直近の評価から起算して、おおむね5年となる2025年度に行うこととする。

 なお、気候変動影響の総合的な評価を効果的に行うには、IPCC等の国際的な動向も踏まえつつ、複数年にわたる調査研究を進める必要があることから、早い段階から計画的に調査研究を推進することとする。

2.気候変動適応計画の見直しと進捗管理

 気候変動適応計画は、気候変動影響の総合的な評価を踏まえて、科学的に確認された最新の気候変動影響に対応できるよう、各分野における気候変動適応に関する施策について検討を加え、見直していくことが重要である。また、気候変動適応に関する施策を効果的に実施していくには、気候変動影響の総合的な評価において重大性や緊急性等が高い分野に対して特に優先的に対応し、科学的知見が乏しい分野の調査研究を推進するなど、施策内容の検討や必要な優先付けを行うことも重要である。

 これに加えて、気候変動適応計画を見直していくためには、計画に基づく施策の進捗状況を定期的・継続的に把握し、必要に応じて評価を行うなど、PDCAサイクルの下で的確に進捗管理を行うことが必要である。短期的な施策の進捗管理については、分野別施策及び基盤別施策に関するKPI4を設定し、年度ごとの指標の変化を確認するとともに、関係府省庁により構成される「気候変動適応推進会議」においてフォローアップを行うこと等により、計画に基づく各施策の進捗状況を的確に把握する。また、中長期的な気候変動適応の進展を把握するための指標を設定し、5年ごとに適応策の効果を把握する(中間年に中間報告書を作成)。特に国、地方自治体、国民の各レベルで気候変動適応を定着・浸透させる観点から、関係府省庁の取組促進、地方公共団体における体制整備等の支援、及び国民の理解の促進の各視点で指標と目標(下表参照)を設定し、目標が達成できるように進捗管理を行う。

 計画の見直しは、2025 年度を目途とする気候変動影響評価や施策の進捗、気候変動の進展を踏まえ、 202 6 年度に行うことを目指す。 ただし、計画全体に関わる新たな課題が明らかとなった場合や、各分野における気候変動適応に関する基本的な施策に影響を与えるような新たな知見が得られた場合等には、その時点において、必要に応じて計画の見直しについて検討する。



表 国、地方自治体、国民の各レベルで気候変動適応を定着・浸透させる視点からの指標と目標
 指標 目標
(目標年度:2026年度)
 備考
【関係府省庁の取組促進】
①重大性及び緊急性が高い項目(大項目)に関する分野別施策KPIの設定比率
100% 89%
(本計画策定時)
【地方公共団体における体制整備等の支援】
②都道府県・政令指定都市による地域気候変動適応計画の策定率
100%      88%
(2021年7月末)
③都道府県・政令指定都市による地域気候変動適応センターの設置率 100% 52%
(2021年7月末)
④都道府県・政令指定都市が策定する行政計画(例:総合計画、地域防災計画等)のうち、いずれかで防災の取組について気候変動適応の視点が反映されている割合 100%  − 
【国民の理解の促進】
⑤気候変動適応の取組内容の認知度(気候変動適応という言葉、取組ともに知っている国民の割合)
25% 11.9%
(2021年3月 内閣府世論調査)
国、地方自治体、国民の各レベルで気候変動適応を定着・浸透させる視点からの指標と目標

3.評価手法等の開発

 気候変動適応計画の効果的な推進のためには、それぞれの施策が気候変動影響による被害の回避・軽減にどれだけ貢献したかなど、気候変動適応に関する施策の効果を定量的に把握・評価していくことが重要である。しかしながら、気候変動適応に関する施策の効果を把握・評価する手法は、適切な指標の設定が困難であること、効果の評価を行うには長い期間を要すること等の課題があり、諸外国においても具体的な手法は確立されていない。

 このため、政府は、気候変動適応計画の実施による気候変動適応の進展の状況をより的確に把握し、及び評価する手法を開発する。具体的には、適応策の実施による気候変動影響の低減効果の評価に係る指標及び手法について、最新の調査研究の知見を整理するとともに、国際的な動向や他国の取組、地方公共団体の取組事例に関する情報を収集し、 より的確な計画のPDCA手法についての検討を進める。

第2章 気候変動適応に関する分野別施策気候変動適応に関する分野別施策

 重大性・緊急性ともに重大性・緊急性ともに●(特に重大な影響が認められる、緊急性が高い)*5*の項目について、より大きな気候変動リスクに対応する、またその分野における適応進展の障壁等を解消する施策においてKPIを設定し、適応策の進捗を把握する。

 また、適応策の実施に要する時間や限界、脆弱性等により、その内容や実施時期、優先付けを考慮する。

 なお、適応を実施するにあたり、以下の点について留意する。

 ・影響の将来予測には、影響を的確に予測評価する手法の確立や不確実性が前提として取り入れられた計画の立案が必要である。

・実施する適応策が温暖化に及ぼす影響の検討や、緩和策とのシナジー/トレードオフの評価について評価し、緩和策の推進によりに、適応可能なレンジを狭適応可能なレンジを狭めないよう、十分な調整が必要である。

・地域により、適応策を講じても影響を低減できる「適応の限界」が異なる。そのため、この「適応の限界」を可視化することが必要である。

・どのような適応策にも限界があるため、品種や生産安定技術の変更なども含めた様々なオプションを持つことが必要である。

・いますぐに対策を実施する短期的視点/数十年かけて効果を見ていく中長期的視点で必要な対策は異なってくる。そのため、短期的/中長期的な対策を並行して実施していく観点が必要である。

・生態系の機能を活用した適応策は、複数の分野での適応策の推進に同時に寄与するなどメリットがあるため、積極的に検討することが望ましい。

分野別施策については、2021年適応計画で示された以下の各種施策を引き続き推進するとともに、年度ごとの取組の進捗状況について把握し、フォローアップを行う。

第1節 農業、林業、水産業

1.農業に関する適応の基本的な施策

(1)農業生産総論

【影響】

○ 農業生産は、一般に気候変動の影響を受けやすく、各品目で生育障害や品質低下など気候変動によると考えられる影響が見られる。

【適応策の基本的考え方】

○ 影響の将来予測については、主要作物等を中心に実施しているが、より一層将来影響の研究を進める必要がある。影響の研究を進める必要がある。

【基本的な施策】

農業生産全般において、高温等の影響を回避・軽減する適応技術や高温耐性品種等の導入など適応策の生産現場への普及指導や新たな適応技術の導入実証等の取組が行われている。

また、地方公共団体(もしくは関係機関等)と連携し、温暖化による影響等のモニタリングを行い、「地球温暖化影響調査レポート」、農林水産省ホームページ等により適応策に関する情報を発信している。

〇 気候変動による被害を回避・軽減するため、生産安定技術や対応品種・品目転換を含めた対応技術の開発・普及、農業者等自らが気候変動に対するリスクマネジメントを行うなど農業生産へのリスク軽減に取り組む。<農林水産省>

○ 気候変動影響評価報告書において、重大性が特に大きく、緊急性及び確信度が高いとされた水稲、果樹及び病害虫・雑草については、より重点的に対策に取り組む。<農林水産省>

○ その他の品目については、これまで取り組んできた対策を引き続き推進するとともに、今後の影響予測も踏まえ、新たな適応品種や栽培管理技術等の開発、又はそのための基礎研究に取り組む。<農林水産省>

○ 引き続き地方公共団体(もしくは関係機関等)と連携し、温暖化による影響等のモニタリングに取り組むとともに、「地球温暖化影響調査レポート」、農林水産省ホームページ等により適応策に関する情報を発信する。<農林水産省>

(2)水稲

【影響】

《現在の状況》

○ 既に全国で、気温の上昇による品質の低下(白未熟粒6の発生、一等米比率の低下等)等の影響が確認されている。また、一部の地域や極端な高温年には収量の減少も見られている。

○ 一部の地域では、気温上昇により生育期間が早まることで、登熟期間前後の気象条件が変化することによる影響が生じている。

《将来予測される影響》

○ コメの収量は全国的に2061〜2080年頃までは増加傾向にあるものの、21世紀末には減少に転じるほか、品質に関して高温リスクを受けやすいコメの割合がRCP78.5シナリオで著しく増加すると予測されている。

○ 高温リスクを受けにくい(相対的に品質が高い)コメの収量の変化を地域別に見た場合、収量の増加する地域(北日本や中部以西の中山間地域等)と、収量が減少する地域(関東・北陸以西の平野部等)の偏りが大きくなる可能性がある。

○ RCP2.6及びRCP8.5の両シナリオにおいて、2010年代と比較した乳白米の発生割合が2040年代には増加すると予測され、一等米面積の減少により経済損失が大きく増加すると推計されている。

○ 二酸化炭素濃度の上昇は、施肥効果によりコメの収量を増加させることがFACE(開放系大気二酸化炭素増加)実験により実証されているが、二酸化炭素濃度の上昇による施肥効果は気温上昇により低下する可能性がある。

○ 将来の降雨パターンの変化はコメの年間の生産性を変動させ、気温による影響を上回ることも想定される。様々な生育段階で冠水処理を施した試験では、出穂期の冠水でコメの減収率が最も高く、整粒率が最も低くなることが示されている。

・水稲 [重大性 (RCP2.6/8.5):●/●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 出穂期以降の高温により白未熟粒が多発する高温障害が頻発していることから、高温耐性品*8*の導入や多様な熟期の品種の作付けにより登熟期高温の回避に努める必要がある。

○ 温暖化の影響によって病害虫の発生時期の早期化、発生量の増加、発生地域の拡大がみられることから、適切な防除対策を行う必要がある。

【基本的な施策】

 高温対策として、肥培管理、水管理等の基本技術の徹底を図るとともに、高温耐性品種の開発・普及を推進しており、高温耐性品種の作付けは漸増している(令和2(2020)年地球温暖化影響調査レポートによる高温耐性品種の作付割合は約11.2%9)。また、病害虫対策として、発生予察情報等を活用した適期防除等の徹底を図っている。今後は、これまでの取組に加え、以下の対策に取り組む。

○ 品種開発に当たっては、高温による品質低下が起こりにくい高温耐性を付与した品種の開発を基本とする。<農林水産省>

○ 現在でも極端な高温年には収量の減少が見られており、将来的には更なる高温が見込まれることから、収量減少に対応できるよう高温不稔【ふねん(ルビ)】10に対する耐性を併せ持つ品種・品種・育種素材の開発を推進する。<農林水産省>

○ 引き続き、高温に対応した肥培管理、水管理等の基本技術の徹底を図るとともに、高温耐性品種の作付拡大を図るため、生産者、実需者等が一体となった、高温耐性品種導入実証の取組を支援する。<農林水産省>

(3)果樹

【影響】

《現在の状況》

○ 果樹は気候への適応性が非常に低い作物であり、2003年に実施された全国的な温暖化影響の現状調査で、他の作物に先駆けて、既に温暖化の影響が現れていることが明らかになった。

○ 果樹は、一度植栽すると同じ樹で30~40年栽培することになることから、気温の低かった1980年代から同じ樹で栽培されていることも多いなど、品種や栽培法の変遷も少なく、1990年代以降の気温上昇に適応できていない場合が多い。

○ かんきつでの浮皮11、生理落果、りんごでの着色不良、日焼け、日本なしの発芽不良、もものみつ症、ぶどうの着色不良、柿の果実軟化など、近年の温暖化に起因する障害は、ほとんどの樹種、地域に及んでいる。

○ りんごでは、食味が改善される方向にあるものの、果実が軟化傾向にあり、これが貯蔵性の低下につながっている。

○ 一部の地域で、気温上昇により栽培適地が拡大している樹種がみられる。

《将来予測される影響》

○ うんしゅうみかんについて、栽培適地は北上し、内陸部に広がることが予測されている。RCP8.5シナリオを用いた予測では、21世紀末に関東以西の太平洋側で栽培適地が内陸部に移動する可能性が示唆されている。

○ りんごについて、21世紀末になると東北地方や長野県の主産地の平野部(RCP8.5シナリオ)、東北地方の中部・南部など主産県の一部の平野部(RCP2.6シナリオ)で適地よりも高温になることや、北海道で適地が広がることが予測されている。

○ ぶどう、もも、おうとうについては、主産県において、高温による生育障害が発生することが想定される。露地栽培の‘巨峰’について、RCP4.5シナリオを用いた予測では、2040年以降に着色度が大きく低下する。

○ 日本なしについて、一部の地域では、自発休眠打破に必要となる低温積算量が減少し、21世紀末には沿岸域を中心として低温要求量が高い品種の栽培が困難となる地域が広がる可能性がある。

○ 果樹の栽培が難しかった寒地では、果樹の栽培適地が拡大することが予測されている。全球の地上気温の平均が1990年代と比べて2℃上昇した場合、北海道では標高の低い地域でワイン用ぶどうの栽培適地が広がる可能性がある。また、亜熱帯果樹のたんかんは、現在の適地は少ないが、気温上昇に伴い栽培適地が増加する可能性がある。

・果樹[重大性(RCP2.6/8.5):●/●、緊急性:●、確信度:●]

【適応策の基本的考え方】

○ 果樹は永年性作物であり、結果するまでに一定期間を要すること、また、需給バランスの崩れから価格の変動を招きやすいことから、他の作物にも増して、長期的視野に立って対策を講じていくことが不可欠である。したがって、産地において、温暖化の影響やその適応策等の情報の共有化や行動計画の検討等が的確に行われるよう、主要産地や主要県との間のネットワーク体制の整備を行う必要がある。

○ うんしゅうみかんの浮皮果を軽減させるジベレリン12・プロヒドロジャスモン13混用散布、りんごの着色不良や日焼け果を減少させるためのかん水や反射シートの導入、ぶどうの着色を改善させる環状剥皮14の生産安定技術、日本なしの発芽不良被害を軽減するための発芽促進剤の利用等の普及に努める。

○ また、うんしゅうみかんから中晩柑への品目転換、りんご・ぶどうの優良着色系品種への転換等の他、高付加価値な亜熱帯・熱帯果樹の導入等の実証等を推進する。

【基本的な施策】

 うんしゅうみかんでは、高温・強日射による日焼け果等の発生を軽減するため、直射日光が当たる樹冠上部の摘果を推進している。また、浮皮果の発生を軽減するため、カルシウム剤等の植物成長調整剤の活用等を推進している。さらに、着色不良対策として、摘果目的に使用するフィガロン15散布の普及を進めている。

 また、うんしゅうみかんよりも温暖な気候を好む中晩柑(しらぬひ、ブラッドオレンジ等)への転換を図るための改植等を推進している。

 りんごでは、着色不良対策として、「秋映【あきばえ(ルビ)】」等の優良着色系品種や黄色系品種の導入のほか、日焼け果・着色不良対策として、かん水や反射シートの導入等を進めている。

 もも、おうとう等を含めた品目共通の干ばつ対策として、マルチシート等による水分蒸発抑制等の普及や、土壌水分を維持するための休眠期の深耕・有機物投入を推進している。また、開花期における晩霜等による凍霜害への対策として、技術指導通知による事前の警戒体制の整備や、防霜ファン等の被害防止設備の設置支援等を推進する。

 気候変動による着色不良果実の発生に対する品目共通の対応策の一つとして、このような果実も果汁用原料として積極的に活用できるよう、加工用果実の生産流通体制を整備している。

今後は、これまでの取組に加え、以下の対策に取り組む。

○ うんしゅうみかんでは、浮皮果の発生を軽減させるジベレリン・プロヒドロジャスモン混用散布、果実の日焼けを防止する遮光資材の積極的活用等による栽培管理技術の普及を推進する。また、着花を安定させるため、施肥方法、水分管理等の改善による生産安定技術の普及を推進する。<農林水産省>

○ りんごでは、高温下での着色不良及び日焼け発生を減少させるための栽培管理技術の普及を推進する。また、栽培適地が移動するとの将来予測を踏まえ、より標高の高い地帯で栽培を行えるよう、栽培実証や、品種を転換するための改植に対する支援を行う。<農林水産省>

○ ぶどうでは、着色不良対策として、「グロースクローネ」等の優良着色系品種や「シャインマスカット」等の黄緑系品種の導入を推進するとともに、成熟期の高温による着色障害の発生を軽減するため、環状剥皮【かんじょうはくひ(ルビ)】等の生産安定技術の普及を推進する。<農林水産省>

○ 日本なしでは、発芽不良の被害を軽減するため、発芽促進剤の利用、肥料の施用時期の変更等の技術対策の導入・普及を推進する。<農林水産省>

○ 育種の側面からは、高温条件に適応する育種素材を開発するとともに当該品種を育成し、産地に実証導入を図る。<農林水産省>

○ このほか、気候変動により温暖化が進んだ場合、亜熱帯・熱帯果樹の施設栽培が可能な地域が拡大するものと予想されることから、高付加価値な亜熱帯・熱帯果樹(アテモヤ、アボカド、マンゴー、ライチ等)の導入実証に取り組み、産地の選択により、既存果樹からの転換等を推進する。<農林水産省>

○ 温暖化の進展により、りんご等において、栽培に有利な温度帯が北上した場合、新たな地域において、産地形成することが可能になると考えられる。このような新たな産地形成に際しては、低コスト省力化園地整備等を推進する。<農林水産省>

(4)麦、大豆等(土地利用型作物)

【影響】

《現在の状況》

○ 小麦では、冬季及び春季の気温上昇により、全国的に播種期の遅れと出穂期の前進がみられ、生育期間が短縮する傾向が確認されている。

○ 大豆では、一部の地域で夏季の高温による百粒重の減少や高温乾燥条件が継続することによるさや数の減少、品質低下が報告されている。

○ 茶では、夏季の高温・少雨による二番茶・三番茶の生育抑制、暖冬による冬芽の再萌芽・一番茶萌芽の遅延などの生育障害が報告されている。

○ 北海道では、土壌凍結深が浅くなったことにより、収穫後圃場に残存するばれいしょの雑草化(野良イモ化)が問題となっている。

《将来予測される影響》

○ 小麦では、北海道の秋播き小麦に関する統計解析の結果、生育期間の気温は茎や穂の長さや千粒重と負の相関関係にあるため、出穂から成熟期までの平均気温の上昇による減収が危惧される。

○ また、播種後の高温に伴う生育促進による凍霜害リスクの増加、高二酸化炭素濃度によるタンパク質含量の低下等が指摘されている。

○ 寒冷地の大豆栽培では、気温上昇は収量に大きな影響を及ぼさないが、二酸化炭素濃度上昇は光合成を促進させ子実重を増加させることが示唆されている。一方、温暖地の大豆栽培では、気温上昇による減収が示唆されている。

○ 北海道では、2030年代には、てん菜、大豆、小豆では増収の可能性もあるが、病害発生、品質低下も懸念され、小麦、ばれいしょでは減収、品質低下が予測されている。

○ 一方、北海道でのばれいしょ生産について、2℃の気温上昇のみを考慮すると潜在収穫量は減少するが、気温上昇による栽培期間の長期化や二酸化炭素濃度上昇を考慮すると、潜在収穫量は増加するという研究がある。

○ 関東地域では、平均気温が2℃上昇すると、平野部全域でエンバクの冬枯れのリスクが高まると予測されている。

○ 茶(品種「やぶきた」)では、静岡県を含む関東地域で一番茶摘採期の早期化に伴い凍霜害発生リスクの高い時期が早まる可能性、南西諸島全域で秋冬季における低温遭遇時間の不足により一番茶の減収が顕在化することが推定されている。

・麦、大豆、飼料作物等[重大性:●、緊急性:▲、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 麦、大豆・小豆、てん菜等については、雨量や気温等の気象条件により収量の変動を受けやすく、湿害や病害虫等により収量の低下が生じることから、気候変動に適応した営農技術の導入や、病害虫に強い品種の育成等により、安定した生産・供給体制を確保することが重要となっている。

○ ばれいしょについては、北海道で初冬の積雪増加による土壌凍結深の減少に伴い、収穫後畑に残ったばれいしょが越冬して雑草化し、後作の生育阻害、連作障害、病害虫発生等の原因となる野良イモの問題が深刻化しており、堀り残しのばれいしょの越冬防止対策が重要となっている。

○ 茶では、省電力防霜ファンシステム等による防霜技術の導入等の凍霜害対策を推進する。また、干ばつ対策として、敷草等による土壌水分蒸発抑制やかん水の実施、病害虫対策として病害虫に抵抗性を有する品種への改植等を推進する。

【基本的な施策】

○ 麦類では、多雨・湿害対策として、排水対策、赤かび病等の適期防除、適期収穫など基本技術の徹底を図るとともに、赤かび病、穂発芽16等の抵抗性品種への転換を推進する。また、凍霜害対策として、気候変動に適応した品種・育種素材、生産安定技術の開発・普及を推進する。<農林水産省>

○ 大豆、小豆等では、多雨・高温・干ばつ等の対策として、排水対策の徹底を図るとともに、地下水位制御システムの普及を推進する。また、病害虫・雑草対策として、病害虫抵抗性品種・育種素材や雑草防除技術等の開発・普及に取り組む。さらに、有機物の施用や病害虫発生リスクを軽減する輪作体系など気候変動の影響を受けにくい栽培体系の開発に取り組む。<農林水産省>

○ てん菜では、病害虫対策として、高温で多発が懸念される病害に対する複合病害抵抗性品種の普及に取り組む。また、高温対策として、現場における生産状況の定期的な把握・調査や最適品種を選択するための知見の集積に取り組むほか、多雨を想定した排水対策に取り組む。<農林水産省>

○ ばれいしょでは、北海道における「野良イモ」対策として、ばれいしょの収穫跡地での雪割り・雪踏みを推進し、土壌凍結及び塊茎凍死の促進により、掘り残しのばれいしょの越冬防止に取り組む。<農林水産省>

(5)野菜等

【影響】

《現在の状況 》

○ 過去の調査で、40以上の都道府県において、既に気候変動の影響が現れていると報告されており、全国的に気候変動の影響が現れていることは明らかである。

○ 特にキャベツなどの葉菜類、ダイコンなどの根菜類、スイカなどの果菜類等の露地野菜では、多種の品目でその収穫期が早まる傾向にあるほか、生育障害の発生頻度の増加等もみられる。

○ ホウレンソウ、ネギ、キャベツ、レタスといった葉菜類では、高温や多雨あるいは少雨による生育不良や生理障害等が報告されている。高温・乾燥や強日照のストレスが原因と考えられるブロッコリーの生理障害、品質低下も報告されている。

○ トマト、ナス、キュウリ、ピーマンといった果菜類では、高温・多雨等による着果不良、生育不良等が報告されている。

○ ダイコン、ニンジン、サトイモといった根菜類では、高温、多雨等による生育不良や発芽不良等が報告されている。

○ イチゴでは、冬から春に収穫する栽培で気温上昇による花芽分化の遅れが、夏から秋に収穫する栽培で花芽形成の不安定化が報告されている。

○ 花きでは、キク、バラ、カーネーション、トルコギキョウ、リンドウ、ユリなどで高温による開花の前進・遅延や生育不良が報告されている。

○ 近年、気候変動により気象災害は激甚化・頻発化し、台風や大雪等の自然災害により、施設の倒壊等の影響が見られる。

《将来予測》

○ 葉根菜類は、生育期間が比較的短いため、栽培時期をずらすことで栽培そのものは継続可能な場合が多いと想定される。

○ キャベツ、レタスなどの葉菜類では、気温上昇による生育の早期化や栽培成立地域の北上、二酸化炭素濃度の上昇による重さの増加が予測されている。

○ 果菜類(トマト、パプリカ)では気温上昇による果実の大きさや収量への影響が懸念される。

・野菜等[重大性:◆、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 露地野菜では、高温条件に適応する品種や栽培技術の導入等の取組の推進を図る。

○ 露地花きでは、適切なかん水の実施等の推進、高温条件に適応する品種や栽培技術等の普及に取り組む。

○ 施設野菜・施設花きでは、頻発化する気象災害に対応するために、施設の耐候性の向上や非常時の対応能力の向上が求められる。

【基本的な施策】

〇 露地野菜では、高温条件に適応する品種の開発・普及を進めるとともに、適正な品種選択、栽培時期の調整、適期防除等を推進する。また、干ばつ対策として、土壌の保水力向上を目的とした深耕や有機物の投入、畑地かんがい施設の整備及び用水の確保、マルチシートの活用等による土壌水分蒸発抑制の取組を推進する。また、干ばつ時に発生しやすいハダニ類、アブラムシ類、うどんこ病等の病害虫の適期防除を推進する。<農林水産省>

○ 露地花きでは、高温対策として生育状況等を考慮した早朝・夕方の適切なかん水の実施、干ばつ対策としてかんがい施設の整備等による用水の確保、表土の中耕、マルチング等による土壌面蒸発の防止、干ばつ時に発生しやすい病害虫の適期防除を推進する。また、高温条件に適応する品種の選抜や栽培技術の開発・普及に取り組む。<農林水産省>

○ 施設野菜・施設花きでは、施設の耐候性向上として、災害に強い低コスト耐候性ハウスの導入、パイプハウスの補強、補助電源の導入を推進する。また、高温対策として、換気・遮光を適切に行うほか、地温抑制マルチ、細霧冷房、パッド&ファン17、循環扇、ヒートポンプ18等の導入の推進に取り組む。さらに、自然災害時に備え、事業継続計画(BCP)の策定を推進する。<農林水産省>

(6)畜産 、飼料作物

【影響】

《現在の状況 》

(畜産)

○ 夏季に、乳用牛の乳量・乳成分の低下や肉用牛、豚及び肉用鶏の成育や肉質の低下、採卵鶏の産卵率や卵重の低下等が報告されている。

○ 記録的猛暑であった2010年の暑熱による家畜の死亡・廃用頭羽数被害は、畜種の種類・地域を問わず前年より多かったことが報告されている。

○ 乳用牛では温湿度指数の上昇に伴う泌乳量の低下、気温上昇による繁殖成績や子牛の成長量の低下の研究事例がある。また、豚では気温上昇による消化吸収能の低下や分娩率の低下、採卵鶏では気温上昇による飼料摂取量の減少等に伴う産卵数の減少や卵質の低下などを示す研究事例がある。

(動物感染症)

○ 国内では見られなかった熱帯・亜熱帯地域に分布する牛のアルボウイルス類(節足動物媒介性ウイルス)の流行や、南西諸島のみ定着すると考えられていたアルボウイルス媒介種であるオーストラリアヌカカの分布が九州地方で確認されている。

○ アルボウイルス類の一種であるアカバネウイルスが東北地方に直接侵入し、北海道までウイルス感染による牛の異常産の発生が広まった事例も報告されている。

(飼料作物)

○ 飼料作物では、関東地方の一部で2001~2012年の期間に飼料用トウモロコシにおいて、乾物収量が年々増加傾向になった報告例がある。

《将来予測される影響》

(畜産)

○ 影響の程度は、畜種や飼養形態により異なると考えられるが、温暖化とともに、乳用牛及び肥育豚の増体日量、肉用鶏の産肉量等家畜・家禽の成長が低下する地域が拡大し、低下の程度も大きくなると予測されている。

○ 乳用牛では、高温になるとへい死リスク、乳量減少リスク及び受胎低下リスクの増加等、負の影響が更に大きくなることが示唆されている。

(飼料作物)

○ 気温の上昇は、一部の作物では夏枯れや冬枯れリスクが高まる可能性がある。

○ 飼料作物(飼料用トウモロコシ)では、2080年代には、関東地域から九州地域にかけて、飼料用トウモロコシの二期作の栽培適地が拡大すると予測されている。

・畜産 [重大性: ●、緊急性:●、確信度:▲ ]

・麦、大豆、飼料作物等 [重大性:●、緊急性:▲、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 飼育密度の緩和や畜体等への散霧等により、家畜・家禽の体感温度を低下させるとともに、換気扇等による換気、寒冷紗やよしずによる日除け、屋根裏への断熱材の設置、屋根への散水や消石灰の塗布等により、畜舎環境を改善する。また、嗜好性や養分含量の高い飼料及び低温で清浄な水を給与する。

○ 国内の飼料生産基盤に立脚した足腰の強い生産に、地球温暖化にも対応しつつ、地域の飼料生産基盤の状況も踏まえながら転換していく。

【基本的な施策】

○ 家畜・家禽では、畜舎内の散水・散霧や換気、屋根への石灰塗布や散水等の暑熱対策の普及による適切な畜舎環境の確保を推進するとともに、密飼いの回避や毛刈りの励行、冷水や良質飼料の給与等の適切な飼養管理技術の指導・徹底に努める。また、栄養管理の適正化等により、夏季の増体率や繁殖性の低下を防止する生産性向上技術等の開発・普及に取り組む。<農林水産省>

○ 動物感染症については、節足動物が媒介する家畜の伝染性疾病に対する効果的な防疫対策等のリスク管理の検討、鳥インフルエンザ対策としての野鳥調査等に取り対策としての野鳥調査等に取り組む。<農林水産省。>

○ 飼料作物では、複数の草種を作付けすることにより、収穫時期を分散し、天候不順による収量減少の影響を緩和する等の気候変動に応じた栽培体系の構築、栽培管理技術や耐暑性や幅広い熟期等の品種・育種素材の開発・普及等の暑熱対策に取り組む。また、抵抗性品種・育種素材の開発・普及等の病害虫対策に取り組む。<農林水産省>

(7)病害虫・雑草等

【影響】

《現在の状況》

(害虫)

○ 西南暖地(九州南部などの比較的温暖な地域)を中心に発生していたイネなどの害虫であるミナミアオカメムシやスクミリンゴガイが、近年、西日本の広い地域から関東の一部でも発生し、気温上昇の影響が指摘されている。

○ 海外から九州地方に飛来するイネの害虫であるウンカ類の数は、ベトナム北部での越冬や強い上層風の頻度が関係する

○ イネの害虫以外でも、気温上昇による分布の北上・拡大、発生量の増加、越冬の可能性が報告・指摘されている。

(病害)

○ 圃場試験の結果、出穂期前後の気温が高かった年にイネ紋枯病の発病株率、病斑高率が高かったことが報告されている。

○ 一部の地域では、高温によるレタス根腐病やトウモロコシ根腐病の発生が報告されている。

○ ライグラスいもち病の発生地域が北上しており、温暖化との関連が指摘されている。

(雑草)

○ 奄美諸島以南に分布していたイネ科雑草が、越冬が可能になり、近年、九州各地に侵入した事例がある。

○ 東北地方では、気温上昇はチガヤ(イネ科の雑草)の生態型の分布特性に影響を及ぼしている。

○ 特定外来生物のナルトサワギクの分布の拡大には、気温が高い四半期の平均気温が大きく関与していると推定されている。

(かび毒)

○ 土壌中に生息するアフラトキシン産生菌の分布を全国で調査した結果、産生菌の分布には気温が関与していることが推察されている。

《将来予測される影響》

(害虫)

○ 気温上昇により寄生性天敵、一部の捕食者や害虫の年間世代数(1年間に卵から親までを繰り返す回数)が増加することから水田の害虫・天敵の構成が変化することが予測されている。

○ 水稲の害虫であるミナミアオカメムシ、ニカメイガ、ツマグロヨコバイについて、気温上昇による発生量の増加が予測されている。ヒメトビウンカとそれが媒介するイネ縞葉枯病の発生に関し、東北、北陸地方で潜在的な危険性が増加すると予測されている。

○ 水稲の害虫であるアカスジカスミカメの成虫発生盛日がイネの出穂期に近づくことで斑点米被害リスクが増加すると予測する研究がある。

○ 水稲害虫以外でも、越冬可能地域や生息適地の北上・拡大や、発生世代数の増加による被害の増大の可能性が指摘されている

○ 夏季の気温上昇は、ミナミアオカメムシ及び一部のアブラムシに高温障害を引き起こす可能性が指摘されている。

(病害)

○ 高二酸化炭素条件実験下(現時点の濃度から200ppm上昇)では、発病の増加が予測された事例がある。

○ 気温上昇によりイネ紋枯病による被害の増大が予測された事例がある。

○ 降水頻度の減少により葉面の濡れが低下し、降水強度の増加により病菌が流出するため、感染リスクが低下するとする研究もある。

(雑草)

○ コヒメビエ、帰化アサガオ類など一部の種類において、気温の上昇により定着可能域の拡大や北上の可能性が指摘されている。

○ 北海道では、気温上昇により帰化雑草イガホビユの発芽条件を満たす日数が増加・早期化するため、畑作物の播種後の発生が増加する可能性が示唆されている。

(かび毒)

○ 気温上昇による土壌中でのアフラトキシン産生菌の生息密度の上昇が懸念されている。

・病害虫・雑草等 [重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 国内における植物病害虫の発生予防及びまん延防止のため、病害虫の発生予察情報に基づく適期防除、侵入病害虫の早期発見・早期防除、植物の移動規制等の対策の強化を推進するとともに、防除技術の高度化等に取り組む。

○ 雑草については、被害を軽減する技術の開発を推進する。

○ かび毒については、汚染実態の調査を実施するとともに、生産者と連携した安全性向上対策の策定・普及と一定期間後の効果検証に引き続き取り組む。

【基本的な施策】

○ 国内で発生している病害虫については、発生状況や被害状況を的確に捉えることが重要である。そこで、指定有害動植物19を対象とした発生予察事業を引き続き実施し、発生状況や被害状況等の変化を調査するとともに、適時適切な病害虫防除のために情報発信を行う。さらに、気候変動に応じて、発生予察の指定有害動植物見直しや、気候変動に対応した病害虫防除体系の確立に取り組む。<農林水産省>

○ 国内で未発生、もしくは一部のみで発生している重要病害虫20については、海外からの侵入を防止するための輸入検疫、国内でのまん延を防ぐための国内検疫、侵入調査及び侵入病害虫の防除を引き続き実施するとともに、国内外の情報に基づいた病害虫のリスク分析も進める。さらに、本分析結果に基づいた輸入検疫措置の検討・見直しに取り組む。<農林水産省>

○ 長距離移動性害虫21については、海外からの飛来状況(飛来時期や飛来量)の変動的把握技術や、国内における分布域変動(越冬可能域の北上や発生・移動の早期化)の将来予測技術の確立に取り組む。<農林水産省>

○ 水田等で発生増加が予測されるイネ紋枯病紋枯病【もんがれびょう(ルビ)】やイネ縞葉枯病【しまはがれびょう(ルビ)】等の病害虫について、水稲の収量等への影響の解明と対策技術の開発を推進する。<農林水産省>

○ 国産農産物や飼料作物のかび毒汚染の調査を継続し、気候変動による影響への対応に努める。農産物や飼料作物のかび毒汚染の増加によって、人や家畜に健康被害を生じる可能性がある場合には、汚染を低減する技術を開発し、農産物や飼料作物の生産者に普及する。かび毒汚染の低減対策は定期的に検証するとともに、新たな生産者に普及する。かび毒汚染の低減対策は定期的に検証するとともに、新たな知見を考慮して、見直しをする。<農林水産省>

(8)農業生産基盤

【影響】

《現在の状況》

○ 農業生産基盤に影響を及ぼしうる降水の時空間分布の変化について、1901~2000年の最大3日連続降雨量の解析では、短期間にまとめて強く降る傾向が増加し、特に、四国や九州南部でその傾向が強くなっている。

○ また、年降水量の10年移動変動係数をとると、移動平均は年々大きくなり、南に向かうほど増加傾向は大きくなっている。

○ 全国のため池管理では、少雨(少雪)の頻度が増加したことにより、貯水量が十分に回復しなかった、受益地で用水不足が生じたといった問題が発生している。さらに、全国の排水機場管理に関しては、大雨・洪水により年間のポンプ運転時間が増大・拡大しているといった変化が生じている。

○ コメの品質低下などの高温障害が見られており、その対応として、田植え時期や用水時期の変更、掛け流し灌漑の実施等、水資源の利用方法に影響が生じている。

《将来予測される影響》

○ 水資源の不足、融雪の早期化等による農業生産基盤への影響については、気温上昇により融雪流出量が減少し、農業水利施設における取水に影響を与えることが予測されている。具体的には、今世紀末の代かき期において北日本(東北、北陸地域)ではRCP2.6シナリオでも利用可能な水量が減少し、RCP8.5シナリオではこれらに加えて西日本(近畿、中国地域)や北海道でも利用可能な水量が減少すると予測されている。

○ 梅雨期や台風期にあたる6~10月では、全国的に洪水リスクが増加すると予測されている。また、降雨強度の増加による洪水の農業生産基盤への影響については、低標高の水田で湛水時間が長くなることで農地被害のリスクが増加することが、将来の大雨特性の不確実性も踏まえた上で予測されている。

○ 全国を対象として、気候変動による中長期的な降水変化がため池に及ぼす影響を分析した結果、RCP2.6、RCP8.5の両シナリオにおいて、大雨注意報の基準雨量を超える回数が21世紀末に増加するため、ため池管理にかかる労力が増加すると予測されている。一方、雨の降らない日も増加すると予測されており、貯水量の回復に影響が出る可能性がある。

・農業生産基盤[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 頻発化、激甚化する豪雨等の災害に適切に対応し、安定した農業経営や農村の安全・安心な暮らしを実現するため、「国土強靱化基本計画」(平成26年6月閣議決定、平成30年12月改定)や食料・農業・農村基本計画(令和2年3月31日閣議決定)等を踏まえ、農業水利施設等の長寿命化、耐水対策、非常用電源の設置等のハード対策と、ハザードマップの作成や地域住民への啓発活動等のソフト対策を適切に組み合わせて推進する。

【基本的な施策】

○ 「農業農村整備における地球温暖化対応策のあり方」に基づき、農業生産基盤に関する適応策検討のための調査を実施するとともに、農業農村整備に関する技術開発計画に基づき、地球温暖化の対応に資する技術の開発を推進する。<農林水産省>

○ 将来予測される気温の上昇、融雪流出量の減少等の影響を踏まえ、用水管理の自動化や用水路のパイプライン化等による用水量の節減、ため池・農業用ダムの運用変更による既存水源の有効活用を図るなど、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、効率的な農業用水の確保・利活用等を推進する。<農林水産省>

○ 集中豪雨の増加等に対応するため、排水機場や排水路等の整備により農地の湛水被害等の防止を推進するとともに、湛水に対する脆弱性が高い施設や地域の把握、ハザードマップ策定などのリスク評価の実施、施設管理者による業務継続計画の策定の推進など、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、農村地域の防災・減災機能の維持・向上を図る。その際、既存施設の有効活用や地域コミュニティ機能の発揮等により効率的に対策を行う。<農林水産省>

○ 今後、気候変動研究の進展に伴う新たな科学的知見等を踏まえ、中長期的な影響の予測・評価を行う。<農林水産省>

○ また、新たな科学的知見や気候モデルを活用した農業生産基盤への影響評価手法を確立し、将来予測に基づく施設整備を行う根拠を明確にした上で、今後の施設整備のあり方を検討する。<農林水産省>

2.林業に関する適応の基本的な施策

(1)木材生産(人工林等)

【影響】

《現在の状況》

○ 一部の地域で、スギの衰退現象が報告されており、その要因に大気の乾燥化による水ストレスの増大を挙げる研究報告例もある。ただし、大気の乾燥化あるいはそれによるスギの水ストレスの増大が、気候変動による気温の上昇あるいは無降雨の発生頻度の増加に伴う土壌の乾燥によって生じているか明確な証拠はない。スギの衰退と土壌の乾燥しやすさとの関連も明らかではない。

○ 気温が高いとマツ材線虫病被害の危険度が高くなることや、マツ材線虫病の分布北限地で被害の分布北限が拡大していることが報告されている。ただし、気温以外の要因もマツ材線虫病被害に影響を与えうるので慎重な検証が必要である。

《将来予測される影響》

○ 気温が現在より3℃上昇すると、年間の蒸散量が増加し、特に年降水量が少ない地域でスギ人工林の脆弱性が増加する可能性を指摘する研究事例がある。

○ その他、ヒノキの苗木について、気温の上昇によるバイオマス成長量の増加は明らかではないとの研究事例や、3℃の気温上昇はアカマツ苗の成長を抑制させるとの研究事例がある。

○ 森林の光合成や蒸発散、有機物分解過程を数式化したプロセスモデルを用いてスギ人工林の純一次生産量を推定する研究が進められている。2050年までに年平均0.9℃上昇する場合には、九州地方のスギ人工林で純一次生産量が低下するという研究事例がある。一方、2100年までに世界平均で4.5℃気温が上昇する場合には、九州地方の広範囲でスギ人工林の純一次生産量が増加するという試算結果もある。

○ カラマツ人工林で実施された林床部炭素フラックス(土壌呼吸、微生物呼吸、林床植生による光合成等)の観測調査では、年平均地温の上昇に伴い年積算炭素排出量が増加した。気温上昇により林床部の地温が上昇した場合、カラマツ人工林から排出される二酸化炭素排出量が増加する可能性がある。

○ マツ材線虫病発生危険域、トドマツオオアブラムシによる被害、南根腐れ病菌の分布が拡大すると予測する研究事例がある。また、ヤツバキクイムシの世代数増加によりトウヒ類の枯損被害が増加するとの研究事例、スギカミキリの世代数増加を予測する研究事例がある。

・木材生産(人工林等)[重大性●:、緊急性●:、確信度:▲ ]

・人工林[重大性●:、緊急性●:、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動が森林・林業分野に与える影響についての調査・研究について推進する。

○ 森林病害虫のまん延を防止するため、森林病害虫等防除法(昭和25年法律第53号)に基づき都道府県等と連携しながら防除を継続して行う。

○ 気温の上昇に伴う昆虫の活動の活発化により、分布域の拡大等のおそれがあるため、気候変動による影響及び被害対策等について引き続き研究を推進するとともに、森林被害のモニタリングを継続する。

○ 気温上昇や乾燥などの生育環境の変化を含めた気候変動に対する影響評価を実施するため、スギやヒノキといった主要造林樹種について産地が異なる種苗の広域での植栽試験の推進による造林木の適応性の評価、これら造林樹種の成長や下層植生などの樹木の周辺環境が受ける影響についての継続的なモニタリング、長伐期林にもたらされるリスクの評価を行う。

【基本的な施策】

○ 森林病害虫のまん延を防止するため、森林病害虫等防除法に基づき都道府県等と連携しながら防除を継続して行う。<農林水産省>

〇 森林被害のモニタリングを継続する。<農林水産省>

(2)特用林産物(きのこ類等)

【影響】

《現在の状況》

○ シイタケほだ場での分離頻度が高いシイタケ病原体のトリコデルマ・ハルチアナムによる被害は、高い温度環境で大きくなることが確認されつつある。

○ ヒポクレア属菌が九州地域のシイタケ原木栽培の生産地で被害を与えるようになってきたことが報告されている。これまで被害報告のなかった千葉県、茨城県、静岡県、愛知県などからも被害が報告されていることから、被害地域は拡大していると考えられる。

○ 夏場の高温がヒポクレア菌による被害を助長する要因となっている可能性があるとの報告がある。

《将来予測される影響》

○ シイタケの原木栽培において、夏場の気温上昇と病害菌の発生あるいはシイタケの子実体(きのこ)の発生量の減少との関係を指摘する報告がある。

○ 冬場の気温の上昇がシイタケ原木栽培へ及ぼす影響については、現時点で明らかになっていない。

○ 原木栽培のシイタケの害虫であるナカモンナミキコバエの出現時期の早まりや、ムラサキアツバの発生回数の増加を予測する研究事例がある。

・特用林産物(きのこ類等)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動を踏まえた持続的な利用や生産の効率化を図る技術の開発・改良等を推進する。

【基本的な施策】

○ 病原菌による被害状況や感染経路の推定、害虫であるキノコバエの被害の発生状況、夏場の高温環境での収穫量への影響等のしいたけの原木栽培における気候変動による影響把握、日光を遮断する寒冷紗の使用によるほだ場内の温度上昇を抑える栽培手法の検討等の取組を実施する。<農林水産省>

○ 温暖化の進行による病原菌等の発生や収穫量等に関するデータの蓄積とともに、温暖化に適応したしいたけの栽培技術や品種等の開発・実証・普及を促進する。<農林水産省>

3.水産業に関する適応の基本的な施策

(1)回遊性魚介類(海面漁業)

【影響】

《現在の状況》

○ 20世紀以降の海洋の昇温は、世界全体の漁獲可能量を減少させた要因の一つとなっていることが指摘されている。

○ 現在、温暖化に伴う海洋生物の分布域の変化が世界中でみられている。日本周辺海域における主要水産資源(回遊性魚介類)の分布域の変化、それに伴う漁期・漁場の変化は下記のとおりである。

・ マサバの産卵場が表面水温の上昇とともに北上し、産卵が終了する時期が延びた。

・ ブリは、日本全体で漁獲量が増加しており、その要因の一つとして、温暖レジームにおいて高い水温が継続していることにより、加入量が増大したこと、又は分布回遊範囲の変化が生じ漁場が形成されたことが挙げられている。

・ サワラは、日本海や東北地方太平洋沿岸域で漁獲量が増加している。

・ シロザケは、海洋生活初期の稚魚に適した水温帯の時期の変化によって回帰率が低下したと推察される。

・ スルメイカは、産卵場の水温上昇に伴い、発生・生残が悪化。

・ サンマは、親潮や黒潮の流路変動の影響と考えられる漁場・産卵場の沖合化。

・ スケトウダラは、北海道周辺海域や日本海において加入量が減少した可能性がある。

○ 高水温によるこのような変化によって加工業や流通業に影響が出ている地域もある。

《将来予測される影響》

○ 世界全体の漁獲可能量が減少することが予測されている。RCP8.5シナリオの場合、21世紀末の漁獲可能量は、21世紀初めと比較して約2割減少すると予測された結果もある。

○ 日本周辺海域の回遊性魚介類については、分布回遊範囲及び体のサイズの変化に関する影響予測が数多く報告されている。魚種別の影響は下記のとおりである。

・ さけ・ます類では水温の上昇により分布域の減少を予測する結果もある。

・ サンマは、漁場が公海域に形成されやすくなることから、我が国漁業者の操業への影響が懸念されている。

・ スルメイカは、2050年には本州北部沿岸域で、2100年には北海道沿岸域で分布密度の低い海域が拡大することが予測されている。日本海におけるサイズの低下、産卵期も変化すると予測された結果もある。

・ マイワシは、海面温度の上昇への応答として、成魚の分布範囲や稚仔魚の生残に適した海域が北方へ移動することが予測された結果もある。

・ ブリは、分布域の北方への拡大、越冬域の変化が予測されている他、既存産地における品質低下が危惧されている。

・回遊性魚介類(魚類等の生態)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

(関連する項目)

・海洋生態系[重大性:●、緊急性:▲、確信度:■ ]

・沿岸生態系(亜熱帯)[重大性:●、緊急性:●、 確信度:● ]

・沿岸生態系(温帯・亜寒帯温帯・亜寒帯))[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 科学的評価に基づく資源管理の推進にあたって環境変動の影響を適切に評価することが必要である。

○ このため、海洋環境調査を活用し、漁場予測や資源評価の高精度化を図る。さらに、これらの結果を踏まえ、環境の変化に対応した順応的な漁業生産活動を可能とする施策を推進する。

【基本的な施策】

○ 調査船や人工衛星等から得られる様々な観測データを同化する手法を高度化し、海況予測モデルの精度を高める。これら情報を元に、環境変動下における資源量の把握や予測、漁場予測の高精度化と効率化を図る。<農林水産省>

○ マグロ類やカツオ等の国際的な取組による資源管理が必要とされる高度回遊性魚類については、気候変動の影響を受けて変動すると考えられる環境収容力等の推定を目的とし、資源情報、ゲノム情報、海洋情報等、多様なデータの収集と、それらデータの統合・解析システムの開発を目指す。<農林水産省>

○ 有害プランクトン大発生の要因となる気象条件、海洋環境条件を特定し、各種沿岸観測情報の利用による、リアルタイムモニタリング情報を関係機関に速やかに提供するシステムを構築する。<農林水産省>

○ 海洋環境の変化が放流後のサケ稚魚等の生残に影響することが指摘されているため、海洋環境の変化に対応しうるサケ稚魚等の放流手法等を開発する。<農林水産省>

(2)増養殖業(海面養殖業)

【影響】

《現在の状況》

○ 高水温によるホタテ貝の大量へい死、高水温かつ少雨傾向の年におけるカキのへい死が報告されている。

○ 養殖ノリでは、秋季の高水温により種付け開始時期が遅れ、年間収穫量が各地で減少している。また、魚類による食害が報告されている。

○ 養殖ワカメでは、一部の地域で秋季及び収穫時期(2~3月)の水温上昇により、種苗を海に出す時期が遅くなるとともに、収穫盛期の生長や品質に影響が及んでいることが減収の一因となっている。また、養殖ノリと同様に、魚類による食害が報告されている。

○ 有害有毒プランクトンについて、発生北限の北上、寒冷地における暖水種の発生、発生の早期化が報告されている。そのほか、食中毒のシガテラ中毒の原因となる毒化した魚や南方性有毒種の分布域が広がっている可能性がある。

《将来予測される影響》

○ 養殖魚類の産地については、夏季の水温上昇により不適になる海域が出ると予測されている。

○ ノリ養殖では、RCP2.6シナリオの場合、2050年代には水温上昇により育苗の開始時期が現在と比べて20日程度遅れると予測されている。RCP8.5シナリオの場合、2050年代、2090年代になるにつれて育苗開始時期が後退し、摘採回数の減少や収量低下が懸念される。

○ ワカメ養殖では、RCP8.5シナリオの場合、21 世紀末には芽出し時期が現在と比べて約1か月遅くなることや漁期が短くなることが予測されている。

○ IPCCの報告では、海洋酸性化による貝類養殖への影響が懸念されている。

○ 海水温の上昇に関係する赤潮発生による二枚貝等のへい死リスクの上昇等が予想されている。

・増養殖業 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲]

・沿岸域・内水面漁場環境等沿岸域 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

(関連する項目)

・海洋生態系海洋生態系 [重大性:●、緊急性:▲、確信度:■ ]

・沿岸生態系(亜熱帯) [重大性 (RCP2.6/8.5):●/●、緊急性:●、確信度:● ]

・沿岸生態系(温帯・亜寒帯) [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ ノリ養殖において海水温上昇による収穫時期の変化に適応していくために、高水温耐性を有する養殖品種の開発を推進する。また、ノリ養殖における有効な食害防止手法について検討する。

○ 赤潮・貧酸素水塊による漁業被害防止・軽減対策のためには、迅速な赤潮等の情報の提供が肝要である。リアルタイムに赤潮・貧酸素水塊の発生を把握するため、自動観測機器等を活用し、関係研究機関等による広域的なモニタリング技術の開発と動向予測を推進する。また、赤潮を直接消滅させる技術及び回避漁具等の手法を確立する。

○ また、赤潮等への対策と並行して、栄養塩と漁場生産力の関係を科学的に調査し、海域の漁業・養殖業の状況を踏まえた適切な栄養塩(水質)の管理に関する検討等を含め、漁場の生産力(特に二枚貝・小型魚類・ノリ等)を回復・維持していくことについて必要な調査を推進する。

【基本的な施策】

○ 養殖業に大きな影響を及ぼす赤潮プランクトンの発生について、気候変動との関連性に関する調査研究を継続するとともに、赤潮プランクトンの生理・生態的特性を把握し、発生予察や防除等の技術開発を行う。<農林水産省>

○ 海面養殖漁場における成長の鈍化等が懸念されるため、引き続き、高水温耐性等を有する養殖品種の開発等に取り組む。特に海藻類については、これまでに開発した細胞融合技術等によるノリの新規育種技術を用いた、高水温耐性を持った育種素材の開発や、ワカメ等の大型藻類の高温耐性株の分離等による育種技術の開発を進める。<農林水産省>

○ 今後、高水温時に多発することが予測される魚病や水温上昇に伴って熱帯及び亜熱帯水域から日本へ侵入が危惧される魚病への対策指針を作成し、各種対策技術を開発する。<農林水産省>

○ 水温上昇によって、未知の魚病が発生する可能性が高くなると考えられるため、病原体が不明の感染症について、病原体の特定、診断、対策等、一連の技術開発を体系化・強化し、未知の魚病が発生した際に迅速に対応できるようにする。これまでにも各種魚病に対する多数のワクチンを開発してきたが、更に多くの魚病へ対応できるワクチンを開発し、普及を図る。<農林水産省>

○ 今後、これらの魚病対策と並行して、最新の育種技術を用いて、温暖化にともなって発生する各種魚病への抵抗性を示す家系を作出し、養殖現場への導入を図る。<農林水産省>

○ 以上の技術開発に加え、病原体の特性、ワクチンの作用機序、耐病性・抵抗性の分子機構等について明らかにしていくこととする。<農林水産省>

○ アサリなどの二枚貝を食するナルトビエイなど水温上昇に伴い出現する種のモニタリングや生態調査をすすめ、生態系や養殖への悪影響を防ぐための管理技術を開発するとともに、地域振興に資する効率的な捕獲方法や利用技術ならびに高付加価値化技術の開発を進める。<農林水産省>

○ 沿岸域では海水のpHに影響する二酸化炭素分圧の日周変動の幅が大きいことが知られているが、生物への影響機構について未解明であることから、これを明らかにして二枚貝養殖等への酸性化の影響予測を行うとともに、予測に基づいた対策技術を開発する。<農林水産省>

(3)増養殖業(内水面漁業・養殖業)

【影響】

《現在の状況現在の状況》

〇 内水面漁業・養殖業が気候変動により受けた影響はまだ顕在化していない。ただし、一部の湖沼では暖冬により湖水の循環が弱まり、湖底の溶存酸素が低下し貧酸素化する傾向が確認されている。

〇 滋賀県琵琶湖におけるホンモロコ・ニゴロブナの個体数の激減について、暖冬による循環の遅れ、及び人為的な水位操作や湖岸環境の改変等との複合作用によるものとする報告がある。

○ 高温によるワカサギのへい死が報告されている。

《将来予測される影響》

○ 湖沼におけるワカサギの高水温による漁獲量減少が予想されている。

○ 21世紀末頃において、海洋と河川の水温上昇によるアユの遡上時期の早まりや遡上数の減少が予測されている。

・増養殖業 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

・沿岸域・内水面漁場環境等 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

(関連する項目)

・淡水生態系(湖沼、河川、湿原) [重大性:●、緊急性:▲、確信度:■ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 内水面水産資源の増殖技術の研究開発を推進するとともに、生息環境改善の手法や放流効果の高い種苗生産技術等得られた成果が広く活用されるように普及を図る。

【基本的な施策】

○ 気候変動に伴う河川湖沼の環境変化がサケ科魚類、アユ等の内水面における重要資源の生息域や資源量に及ぼす影響評価に取り組む。<農林水産省>

○ 海洋と河川の水温上昇による遡上時期の早まりや遡上数の減少が予測されているアユについては、資源の増大・回復を図るため、沿岸や河川の水温が、遡上・流下の状況や放流個体の成長等に及ぼす影響について分析し、適切な放流時期や水温を検討することで、効果的な放流手法の開発を進める。<農林水産省>

○ 高水温による漁獲量減少が予測されているワカサギについて、給餌放流技術を高度化するため、種苗生産の安定化、量産化および簡易化を目指し、餌料プランクトンの効率的生産技術の開発、種苗生産時の最適な飼育密度・餌料密度の解明、粗放的かつ大量生産可能な種苗生産技術の開発に取り組む。<農林水産省>

○ 高水温に由来する疾病の発生等に関する情報を収集する。水温上昇により被害の拡大が予測される内水面魚類の疾病については、病原体特性及び発症要因の研究とそれを利用した防除対策技術の開発を行う。<農林水産省>

(4)沿岸域・内水面漁場環境等(造成漁場)

【影響】

《現在の状況現在の状況》

(回遊性魚介類以外の海面漁業)

○ 各地で南方系魚種数の増加や北方系魚種数の減少などが報告されている。

○ アワビでは、主要漁獲物が在来種から暖海性小型アワビに遷移する事例がある。

○ アサリでは、水温や地温の上昇が資源量や夏季の生残に影響しているとする研究事例がある。

○ 藻場の減少に伴い、生息場としての藻場への依存性の強い、イセエビやアワビ類の漁獲量も減少していることが報告されている。

○ 瀬戸内海においては、水温上昇により、イカナゴなど瀬戸内海に生息する生態系に影響が出ているほか、南方系の生物の増加による二枚貝や藻場などの食害が発生している。

(海藻・藻場)

○ 水温の上昇による藻類の生産力への直接的な影響と、藻食性魚類等の摂食活動の活発化による間接的な影響によるものと考えられる藻場の減少や構成種の変化が、各地で生じており、地理的な分布も変化している。

○ 高水温による天然ワカメの不漁、水温上昇によるマコンブのバイオマス量の減少が報告されている。

(有害有毒プランクトン・魚類)

○ 有害有毒プランクトンについて、発生北限の北上、寒冷地における暖水種の発生、発生の早期化が報告されている。そのほか、食中毒のシガテラ中毒の原因となる毒化した魚や南方性有毒種の分布域が広がっている可能性がある。

《将来予測される影響将来予測される影響》

(回遊性魚介類以外の海面漁業)

○ 生態系モデルと気候予測シナリオを用いた影響評価は行われていないものの、多くの漁獲対象種の分布域が北上すると予測されている。

○ 海水温の上昇による藻場を構成する藻類種や現存量の変化によって、アワビなどの磯根資源の漁獲量が減少すると予想されている。

(海藻・藻場)

○ 北日本沿岸域の主要コンブ11種では、海水温の上昇によりすべての種で分布域が大幅に北上する、もしくは生育適地が消失する可能性があると予測されている。RCP8.5シナリオでは全種を合わせた分布域が2090年代では1980年代の0~25%に縮小し、RCP4.5シナリオでも11種中4種のコンブが日本海域から消失する可能性があると予測されている。

○ 北西太平洋では、水温上昇によりホンダワラ属アカモクの分布が北上し、2100年には本州の広い範囲で消失すると予測されている。

○ RCP2.6シナリオの場合、日本沿岸のカジメの分布には、藻食性魚類による食害の影響のみ顕在化する。RCP8.5シナリオの場合、高水温による生理的影響と食害の双方の影響により、2090年代にはこれまで分布適域であった海域で生育が困難になると予測されている。

○ RCP2.6シナリオの場合、瀬戸内海から黒潮流域のカジメ類の分布について、2050年代では現状の藻場を維持できる可能性があるが、RCP8.5シナリオの場合、瀬戸内海の全域で大幅に減少する可能性があると予測されている。

(有害有毒プランクトン・魚類)

○ 海水温の上昇に関係する赤潮発生による二枚貝等のへい死リスクの上昇等が予想されている。

・沿岸域・内水面漁場環境等 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

・増養殖業 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 豊かな生態系を育む機能を有し、水産資源の増殖に大きな役割を果たしている藻場・干潟の実効性のある効率的な保全・創造を推進するため、各海域における藻場・干潟衰退要因を的確に把握し、地方公共団体が実施する藻場・干潟の造成等のハード対策と、漁業者・地域住民等が実施する保全活動等のソフト施策を一体とした広域的対策を推進する。

〇 環境変化に対応した漁業生産の安定化を図るため、モニタリング体制を強化し、魚種や海藻類の分布域の変化等に対応した基盤整備や資源管理の取組と連携しつつ水産生物の生活史を踏まえた水産生物のすみかや産卵場等となる漁場整備を推進する。

【基本的な施策】

○ 藻場造成に当たっては、現地の状況に応じ、高水温耐性種の播種・移植を行うほか、整備実施後は、藻の繁茂状況、植食性動物の動向等についてモニタリングを行い、状況に応じて植食性魚類の除去などの食害生物対策等を実施するなど、順応的管理手法を導入したより効果的な対策を推進する。<農林水産省>

○ 今後、海水温上昇による海洋生物の分布域・生息場所の変化を的確に把握し、それに対応した水産生物のすみかや産卵場等となる漁場整備、海域環境をより的確に把握するためのモニタリング体制の強化、地域の研究機関との連携体制の構築、調査・実証の強化、豪雨等の災害時を想定したBCP策定などの魚策定などの魚場の災害対応力強化等に取り組む。<農林水産省>

○ 気候変動に適応した漁場造成の基盤として、気候変動が魚類や海藻類の生育に与える影響及び分布状況の把握手法を開発する。<農林水産省>

○ 各海域の藻場・干潟分布状況や磯焼け要因を踏まえて、高水温等の環境変化に対応した海藻種を用いた藻場造成手法を開発する。<農林水産省>

4.その他の農業、林業、水産業に関する適応の基本的な施策

(1)野野生鳥獣の影響(生鳥獣の影響)

【影響】

《現在の状況》

○ 日本全国でニホンジカやイノシシの分布を経年比較した調査において、分布が拡大していることが確認されている。

○ 積雪深の低下に伴い、越冬地が高標高に拡大したことが観測により確認されている。また、ニホンジカの生息適地が1978~2003年の25年間で約年間で約1.7倍に増加し、既に国土の既に国土の47.9%に及ぶという推定結果が得られており、この増加要因としては土地利用変化よりも積雪量の減少が大きく影響している可能性が指摘されている。

○ ニホンジカの増加は、狩猟による捕獲圧低下、土地利用の変化、積雪深の減少など、複合的な要因が指摘されている。ニホンジカの分布拡大に伴う植生への食害・剥皮被害、ヤマビルの分布拡大等の影響が報告されている。

《将来予測される影響》

○ ニホンジカについては、気候変動による積雪量の減少と耕作放棄地の増加により、2103年における生息適地が、国土の9割以上に増加するとの予測がある。

○ 一方、イノシシ等ニホンジカ以外の種については、気候変動による分布域の変化

等の将来影響については知見が確認されていない。

・野生鳥獣の影響 [重大性:●、緊急性:●、確信度:■ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 野生鳥獣の生息域の拡大等による森林・農作物への鳥獣被害の深刻化・広域化に対応するため、関係府省が連携し、戦略的に各種対策を組み合わせることにより鳥獣被害対策を強化する。令和3年に改正された「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号)を踏まえて、鳥獣の広域での捕獲の強化や人材育成の充実強化等を推進する。

○ 鳥獣保護管理施策等との連携を図りつつ、効果的かつ効率的な捕獲及び防護技術の開発・実証、林業関係者など地域と連携した捕獲、防護柵等の設置を引き続き推進する。

○ 被害発生のおそれのある森林については、市町村森林整備計画において、鳥獣害防止森林区域に積極的に設定して、必要な対策を講じる。

【基本的な施策】

 これまでの取組として、農作物についてはニホンジカ、イノシシ等による鳥獣被害防止のための侵入防止柵の整備、捕獲活動、環境整備等への支援を行っている。森林・林業については、造林木や植生を保護するための防護柵等の設置や、林業関係者が主体となった広域かつ計画的な捕獲のモデル的な実施等に取り組んでいる。水産業ではカワウの駆除等の取組や、トドによる漁業被害を防止・軽減するための猟銃による採捕、強化繊維による保護網を用いた改良漁具等の導入促進等の様々な取組を実施している。

○ 今後、侵入防止柵の設置、捕獲活動の強化、ICTやドローン技術等を活用した捕獲・被害対策技術の高度化等に引き続き取り組むとともに、地方公共団体が連携した広域的対策、多様な人材の活用、専門的な知識経験を有する人材の育成、技術開発の成果の普及等を推進する。また、野生鳥獣の生息状況等に関する情報の把握やる。また、野生鳥獣の生息状況等に関する情報の把握や農林水産業への被害のモニタリングを継続する。<農林水産省>

○ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)に基づき、都道府県によるニホンジカ等の捕獲を強化するとともに、鳥獣の捕獲の担い手の育成等を図り、鳥獣の科学的・計画的な保護・管理を推進する。<環境省>

(2)食料需給

【影響】

《現在の状況 》

○ 主要穀物(小麦、大豆、トウモロコシ、コメ)を中心に、世界各地で気候変動による収量等への影響が報告されている。暑熱と気温上昇に伴う潜在蒸発散量の増加により、特に低緯度地域で収量が減少していることや、二酸化炭素濃度の上昇による施肥効果と播種日の移動など簡易な対応策を考慮しても、気候変動により世界全体での平均収量が減少していること等が報告されている。

○ 既に世界的にさまざまな段階の適応が進んでいる。播種日の移動や品種の変更といった栽培管理を変更する比較的簡易な対応だけでなく、栽培する作物の変更や栽培地域の移動などより大掛かりな対応も見られる。

○ 穀物収量の減少が社会・経済に影響を及ぼした近年の事例として、オーストラリアで干ばつなど異常気象による世界的な減産が2006~2008年の穀物価格高騰の一因になったこと、2010年のロシアの熱波と干ばつによる小麦の供給不足が中東や北アフリカで暴動を引きおこしたこと、2012年の米国の高温・乾燥による減産でトウモロコシや大豆の国際価格が史上最高値を更新したことなどが報告されている。また、1983~2009年の27年間では主要穀物の栽培面積の4分の3が干ばつによる被害を受けたことがあり、収量減少による被害額を推計した研究もある。

○ 気候の年々変動(気候システムの自然変動)が穀物の収量変動の主要因だが、人為的な気候変動により、気候システムの年々変動が変調してきており、一部の地域では干ばつの深刻化を通じて作物生産に影響を与えているとする研究がある。

《将来予測される影響 》

○ 世界全体では、予測される将来の気温上昇はコメ、小麦、大豆、トウモロコシ収量を減少させることが多数の文献を調査した研究で確認されている。一方で、予測される気候変動の収量影響は地域や作物、想定する 二酸化炭素濃度、適応策の有無で異なる。

○ コメ、 小麦 、 大豆 、トウモロコシの主要生産国・輸出国の収量予測結果は下記のとおりである。

・ コメについて、 RCP4.5 シナリオでは 13 の主要生産国で 2080~ 2089 年に平均収量の減少が予測されている。主要輸出国であるタイでは、 RCP8.5 シナリオにおいて高い脆弱性が指摘されている。

・ 小麦について、主要輸出国である米国では、 RCP8.5 シナリオの場合、 2067~2099年の収量が年の収量が1981~2004年と比較して年と比較して70%減少すると予測されている。豪州では、RCP4.5シナリオ及びRCP8.5シナリオでは、2050年代では播種日の変更、品種選択の適応策の実施により収量増加が期待できる一方、RCP8.5シナリオでは、2090年代に栽培適地の減少による収量減少のほうが二酸化炭素濃度の上昇や適応策の効果を上回ることが危惧されている。

・ 大豆について、主要輸出国である米国では、RCP8.5シナリオの場合、2067~2099年の収量が1981~2004年と比較して70%減少すると予測されている。カナダでは、気温上昇による栽培期間の短縮、2041~2070年における収量の微増、RCP8.5シナリオでは2071~2100年における減少が予測されている。ブラジルでは、RCP8.5シナリオの場合、雨季の短縮により、2031~2050年には2013~2030年と比較して二毛作に適した農地が10%減少すると予測されている。

・ トウモロコシについて、主要輸出国である米国では、2021~2050年の収量が1970~1999年と比較して年と比較して20~50%、RCP8.5シナリオの場合2067~2099年の収量が1981~2004年と比較して71%減少すると予測されている。また、RCP4.5シナリオ、RCP8.5シナリオでは2085~2094年において乾燥により米国中西部での減収量が大きくなることも予測されている。

・食料需給 [重大性:★、緊急性:▲、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 不測の事態に備え、平素から気候変動による影響等の分析・評価や、我が国における将来の食料需給に関する調査分析を行い、対応策の検討、見直しを実施することにより、総合的な食料安全保障の確立を図る。

【基本的な施策】

○ 国内外の食料需給の動向に関する情報の一元的な収集・分析を行うとともに、我が国の食料安定供給に与える影響について分析する。これらの情報は、継続的に幅が広く提供する。<農林水産省>

○ 海外における食料供給動向に関する情報の補完・強化を図るため、JAXAと連携し、土壌水分量等の衛星による地球観測データ(解析画像を含む)を一般公開したところであり、今後更なる活用方法を検討する。<農林水産省>

○ IPCC第5次評価結果を踏まえた気候変動、経済成長及び人口増加等に基づく予測モデルによる、世界の超長期的な食料需給予測を踏まえ、我が国における将来の食料需給を見据えた的確なリスクへの対応を検討する。<農林水産省>

○ 中長期的な食料安定供給の確保に向けた戦略を構築していくため、気候変動の影響を考慮しつつ、各国の経済成長や政策の動向等を踏まえた、世界の食料需給に関する中長期的な予測について、農林水産政策研究所と連携を図り、継続的に実施する。<農林水産省>

第2節 水環境・水資源

1.水環境に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(湖沼・ダム湖)

○ 全国の湖沼における全国の湖沼における1981~~2007年度の水温変化を調べたところ、265観測点のうち、夏季は76%、冬季は94%で水温の上昇傾向が確認されている。

○ また、水温の上昇に伴う水質の変化が指摘されているが、水温の変化は、現時点において必ずしも気候変動の影響と断定できるわけではないとの研究報告もある。

○ 一方で、年平均気温が10℃を超えるとアオコの発生確率が高くなる傾向を示す報告もあり、長期的な解析が今後必要である。

(河川)

○ 全国の河川の1981~2007年度の水温変化を調べたところ、3,121観測点のうち、夏季は73%、冬季は77%で水温の上昇傾向が確認されている。

○ また、水温の上昇に伴う水質の変化も指摘されているが、河川水温の上昇は、都市活動(人工排熱や排水)や河川流量低下などにも影響されるため、気候変動による影響の程度を定量的に解析する必要がある。

○ 長良川においては、短期集中降雨の増加、大雨間隔の短期化等により土砂流出量が増加することが報告されている。

○ 平成30年台風第21号による記録的な高潮により、淀川で塩水遡上が起こり、浄水場の原水に塩水が混入したことや、信濃川では、夏季に渇水により流量が減少したことにより塩水遡上が発生し、水門の一部が閉鎖されたことも報告されている。

○ 芦田川支流では、近年の河川流出の傾向として、流量と応答して非常に多くの栄養塩が流出する洪水期と流出量が減少する渇水期の二極化の進行を予測する研究もある。

○ 1980年代の終わりから、気温上昇に伴う真姿の池の湧水水温の上昇が確認されている。

(沿岸域及び閉鎖性海域)

○ 全国207地点の表層海水温データ(1970年代~2010年代)を解析した結果、を解析した結果、132地点で有意な上昇傾向(平均: 0.039℃/年、最小:0.001℃/年~最大:0.104℃/年)が報告されている。なお、この上昇傾向が見られた地点には、人為的な影響を受けた測定点が含まれていることに留意が必要である。

○ 沖縄島沿岸域では、有意な水温上昇あるいは下降傾向は認められなかったとの研究報告もある。

○ 全国289点の沿岸海域のpHデータ(1978~2009年)を用いて解析した結果、有意な酸性化傾向(0.0014/年~0.0024/年)にあることが確認されている。

《将来予測される影響》

(湖沼・ダム湖)

○ RCP2.6、8.5シナリオを用いた研究で、国内37のダムのうち、富栄養湖に分類されるダムが2100年代で増加し、特に東日本での増加数が多くなる予測例がある。

○ 研究は限定的であるものの、RCP8.5シナリオを用いた場合、宍道湖、中海では、21世紀末の表層水温、底層水温の上昇や、海面水位上昇に伴う塩分濃度の上昇が予測されている。

○ RCP8.5シナリオを用いて東北地方のダムを対象にした研究では、将来の流入量の増加に伴うSS(浮遊物質量)の増加によって、濁水の放流が長期化することが予測されている。ただし、気温上昇及び日射量増加が貯水池内濁水現象に与える影響は、年間湖水回転率の大小によって異なる可能性も示唆されている。

○ 気候変動による降水量や降水の時空間分布の変化に伴う河川流量の変化や極端現象の頻度や強度の増加による湖沼・ダム貯水池への影響については、予測の研究は限定的であり、更に積み重ねていく必要がある。

(河川)

○ 雄物川における将来の水温変化の予測では、1994~2003年の水温が年の水温が11.9℃であったのに対して、2030~2039年では12.4℃に上昇すること、特に冬季に影響が大きくなることが予測されている。

○ 2090年までに日本全国で浮遊砂量が8~24%増加することや強い台風22の発生割合の増加等により9月に最も浮遊砂量が増加すること、8月の降水量が5~75%増加すると河川流量が1~20%変化し、1~30%土砂生産量が増加する可能性も予測されている。

○ 水温の上昇による水温の上昇によるDO(溶存酸素量)の低下、DOの消費を伴った微生物による有機物分解反応や硝化反応の促進、植物プランクトンの増加による異臭味の増加等も増予測されている。

○ 仙台平野における帯水層の温度上昇にも影響を及ぼすことが予測されている。

(沿岸域及び閉鎖性海域)

○ 瀬戸内海の物理・熱環境の将来変化予測を行った研究においては、RCP8.5シナリオを前提として、夏季における昇温傾向が強く最大で6月の3.58℃、最小昇温は、12月の2.84℃の海面温度が上昇する予測例もある。

○ 瀬戸内海における将来予測で、水質への影響として大阪湾においては夏季での高温阻害による表層クロロフィルa濃度の低下により底層DOの増加傾向が見られ、夏~秋の貧酸素化が弱まる傾向が見られたが、貧酸素水塊の発生期間は長期化す可能性が見られるといった報告もあり、気候変動が水環境における障害の発生へも可能性が見られるといった報告もあり、気候変動が水環境における障害の発生へも影響を及ぼす可能性が示唆されている。

○ 伊勢湾全体の将来の水温について予測した研究では、将来2℃以上上昇し、特に沿岸部での上昇が顕著である可能性が高い。

○ 東京湾を対象とした研究では2046~2065年における南西方向の強風(AMeDAS観測値における南西の風速0m/s以上)の継続時間は減少する可能性が示唆されており、DO濃度の回復が困難となるおそれもあることが予測されている。

○ 水温の上昇によるDOの低下、DOの消費を伴った微生物による有機物分解反応や硝化反応の促進に加え、植物プランクトンの増減によるDOや異臭味への影響等、水質の変化が予測されている。

・湖沼・ダム湖 [重大性 (RCP2.6/8.5):★/●、:緊急性:▲、確信度:▲ ]

・河川 [重大性:★、緊急性:▲、確信度:■ ]

・沿岸域及び閉鎖性海域 [重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動に伴う水質等の変化が予測されていることを踏まえ、水質のモニタリングや将来予測に関する調査研究を引き続き推進するとともに、水質保全対策を推進する。

○ 「湖沼・ダム湖」については、2050年代までに気候変動によるダム貯水池におけるけるクロロフィルa濃度の増加等が予測されていることを念頭に、水質のモニタリングや将来予測を踏まえ、水質保全に努めていく必要がある。

○ 「河川」については、気候変動による、水質への影響の研究報告は少ないことから、科学的知見の集積に努める必要がある。

○ 「沿岸域及び閉鎖性海域」については、気候変動により水質・水生生態系への影響が生じることから、科学的知見の集積を進めるとともに、これらの影響を踏まえたた施策実行に通ずる着実な検討が必要である。

○ 特に瀬戸内海においては、気候変動の影響も踏まえた栄養塩類と水産資源の関係等について、調査研究を行っていく必要がある。

【基本的な施策】

(湖沼・ダム湖)

○ 水温上昇や降雨の変化に伴う植物プランクトンの変化や水質の悪化が想定される湖沼では、工場・事業場排水対策、生活排水対策などの流入負荷量の低減対策を推進するとともに、植物プランクトンの変動を適切に把握するためのモニタリングの継続や新たな技術の開発に取り組む。<環境省>

○ 湖沼における水温変化に伴う底層環境変化の検討、底層貧酸素化や赤潮、青潮の発生リスクに関する将来予測を行う。<国土交通省、環境省>

○ 深い成層湖沼で水温変化による冬季の全循環不全が予測される場合には、底層DO(溶存酸素)の改善のための適切な対策を検討する。<環境省>

○ これまでの検討を踏まえ、全国の湖沼を対象に適切な適応策を検討するとともに、最新の科学的な知見の把握や、最新の気候モデル、排出シナリオを用いて将来湖沼水質予測の精度の向上を図り、その結果を踏まえて、必要となる適応策の検討を進める。<環境省>

○ 貯水池(ダム湖)については、選択取水設備、曝気循環設備等の水質保全対策を引き続き実施するとともに、気候変動に伴う水質の変化に応じ水質保全設備の運用方法の見直し等を検討する。<国土交通省>

(河川)

○ 気候変動が河川環境等に及ぼす影響について、特定の河川において水質、水温の変化を予測する研究は一部で進められているが、現時点では研究事例が十分ではなく、確信度が低いと評価されていることから、河川環境全体の変化等を把握、予測することは現段階では困難な状況である。このため、引き続き水質のモニタリング等を行いつつ、科学的知見の集積を図る。<国土交通省、環境省>

(沿岸域及び閉鎖性海域)

○ 気候変動が水質、生物多様性等に与える影響に関する科学的知見の集積を図るとともに適応策に関する調査研究を推進する。<環境省>

○ 港湾域、内湾域における水温変化に伴う底層環境変化の検討や、底層貧酸素化や赤潮、青潮の発生リスクの将来予測に関する検討を行う。<国土交通省、環境省>

2.水資源に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(水供給(地表水))

○ 降水の時空間分布が変化しており、無降雨・少雨が続くこと等により日本各地で渇水が発生し、給水制限が実施されている。

○ 1980~2009年の高山帯の融雪時期も時期が早くなる傾向があるが、流域により年変動が大きい。多雪地域である北陸などでは、冬季における融雪量が増加することが報告されており、手取川流域では、降雪現象の減少により春先の灌漑用水が不足することも示唆されている。

○ 気候変動に伴う渇水による維持用水(渇水時にも維持すべき流量)への影響、海面水位の上昇による河川河口部における海水(塩水)の遡上範囲の拡大に関しては、現時点で具体的な研究事例は確認できていない。

(水供給水供給(地下水))

○ 気候変動による日降水量や降水の時間推移の変化に伴う地下水位の変化の現状については、現時点で具体的な研究事例は確認できてない。

○ 地盤沈下が続いている地域が多数存在していることや、渇水時における過剰な地下水の採取により地盤沈下が進行することもある。特に臨海部では、地下水の過剰採取によって帯水層に海水が浸入して塩水化が生じ、水道用水や工業用水、農作物への被害等が生じている地域があることも報告されている。海面水位の上昇による地下水の塩水化の現状については、現時点で具体的な研究事例は確認できてないものの、地球温暖化に伴う海面水位の上昇や高潮氾濫、渇水の頻発化・長期化によって、小規模な島の淡水レンズが縮小する可能性が指摘され、また過剰揚水によって既に縮小した事例が報告されている。

(水需要)

○ 気温上昇と水使用量の関係について、東京では、気温上昇等に応じて水使用量が増加することが実績として現れている。

○ 農業分野では、高温障害への対応として、田植え時期や用水時期の変更、掛け流し灌漑の実施等に伴う増加が報告されている。

《将来予測される影響》

(水供給(地表水))

○ 北日本と中部山地以外では近未来(~2039年)から渇水の深刻化が予測されている。また、融雪時期の早期化による需要期の河川流量の減少、これに伴う水の需要と供給のミスマッチが生じると、水道用水、農業用水、工業用水等の多くの分野に影響を与える可能性があり、社会経済的影響が大きい。

○ 海面水位の上昇による新釧路川の塩水遡上形態の変化を調査した研究では、下流付近で高濃度の塩水が恒常的に侵入する可能性があることが予測されており、河川への塩水遡上範囲が延伸した場合、河川水を利用している施設へ影響が生じるおそれがあることも予測されている。また、由良川では、21世紀末において、河川流量が比較的多いケースにおいても、各取水場付近の塩分は現在よりも高くなり、遡上距離も延びることが予測されている。

○ このほか、現時点で定量的に予測をした研究事例は確認できていないものの、維持用水(渇水時にも維持すべき流量)等への影響、海面水位の上昇による河川河口部における海水(塩水)の遡上による取水への支障などが懸念される。

(水供給(地下水))

○ 黒部川流域において、21世紀末では月降雨量及び融雪量、地下水浸透量は、11~4月に現在より増加、5~6月に現在より減少することが予測されており、地下水資源を活用する地域への影響が懸念される。また、胆沢川扇状地を対象にした研究では、2081~2100年にかけて稲作の灌漑期における地下水位の低下が予測されている。

○ 渇水に伴い地下水利用が増加し、地盤沈下が生じることについては、現時点で具体的な研究事例は確認できていない。

○ 現時点で定量的に予測をした研究事例は確認できていないものの、海面水位の上昇による地下水の塩水化、取水への影響が懸念される。わが国の沖積平野にある大都市の水源や灌漑用水としては河川水利用が多いことから、地下水塩水化による水源への影響が及ぶ地域は限られるが、地下水を利用している自治体では、塩水化の影響は大きくなることが懸念される。

(水需要)

○ 九州で2030年代に水田の蒸発散量増加による潜在的水資源量の減少が予測されており、その他の地域も含め、気温の上昇によって農業用水の需要が増加することが想定される。

・水供給(地表水)[重大性(RCP2.6/8.5):●/●、緊急性:●、確信度:● ]

・水供給(地下水)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:▲ ]

・水需要[重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 渇水による被害を防止・軽減するための対策をとる上で前提となる既存施設の水供給の安全度と渇水リスクの評価を行い、国、地方公共団体、利水者、企業、住民等の各主体が渇水リスク情報を共有し、協働して渇水に備える。

○ 渇水に対する適応策を推進するため、関係者が連携して、渇水による影響・被害の想定や、渇水による被害を軽減するための対策等を定める渇水対応タイムライン(時系列の行動計画)の作成を促進する。

○ 「水供給(地下水)」については、21世紀末までに渇水による地下水の過剰採取による地下水位の低下の可能性があることから、国及び地方公共団体は密接な連携を図りつつ、地域の実情に応じ、地下水マネジメントの更なる推進を図る必要がある。

【基本的な施策】

1)災害リスクの評価

○ 住民や企業等が自ら渇水への備えに取り組むため、既存施設の水供給の安全度を評価するとともに、関係者間で、渇水の初期から徐々に深刻化していく状況とそれに応じた社会経済活動、福祉・医療、公共施設サービス、個人生活等への影響・被害の想定などの渇水リスクを評価し、これらを分かりやすい表現で提示して、国、地方公共団体、利水者、企業、住民等で共有する。<国土交通省>

2)比較的発生頻度の高い渇水による被害を防止する対策

ア.既存施設の徹底活用等

○ 水資源開発施設の整備が必要な地域において水資源開発の取組を進めるとともに、ダムの嵩上げ、貯水池の堆積土砂の掘削・浚渫等による既存施設の機能向上等の可能性を検討する。<国土交通省>

○ 老朽化対策等を着実に実施するなど、維持管理・更新を計画的に行うことで既存施設の機能を維持していく。<国土交通省>

○ 各ダムの貯水・降水状況等を勘案した上で、同一流域内の複数のダムの統合運用等、ダムの効率的な運用の可能性を検討する。<国土交通省>

イ.雨水・再生水の利用

○ 雨水の利用の推進に関する法律(平成26年法律第17号)に基づき、雨水利用のための施設の設置を促進する。<国土交通省>

○ 地域のニーズ等に応じ、下水処理場に給水栓等の設置を進め、道路維持用水や樹木散水等を含め、緊急時にも下水処理水の利用を促進するとともに、我が国が有する水の再利用技術の国際標準化を含めた規格化の検討による水の再利用を促進する。<国土交通省>

ウ.情報提供・普及啓発

○ 関係機関や報道機関と連携し、通常時及び渇水のおそれのある早い段階からの情報発信と節水の呼びかけを促進する。<国土交通省>

○ 水の有効利用を促進するため、水の重要性や大切さについて国民の関心や理解を深めるための教育、普及啓発活動等を行う。<国土交通省>

3)施設の能力を上回る渇水による被害を軽減する対策

ア.関係者が連携した渇水対策の体制整備等

○ 関係者間で、渇水時における水融通・応援給水体制をあらかじめ検討するほか、渇水対策の検討を支援するガイドラインを活用して、関係者が連携し、徐々に深刻化していく渇水の被害を軽減するための対策等を定める渇水対応タイムラインの策定を促進する。<国土交通省>

○ 中長期的な降水等の予測情報の活用を含めた渇水予測技術の向上を図り、前述の渇水対応タイムラインに示した渇水による影響、被害想定等を基に、状況に応じた取水制限の前倒し実施等の可能性を検討する。<国土交通省>

イ.危機的な渇水の被害を最小とするための対策

○ 危機的な渇水に備えるため、既存施設の水供給の安全度と渇水リスクの評価を行い、想定される社会経済活動、福祉・医療、公共施設サービス、国民生活等への影響・被害を踏まえた上で、政府一体となった対応や企業等における渇水の対応、応援給水などの供給先の優先順位の設定等について検討する。<国土交通省>

ウ.渇水時の河川環境に関するモニタリングと知見の蓄積

○ 渇水時の河川流量の減少により、河川に生息・生育する水生動植物等の生態系や水質など河川環境に影響が生じる懸念があるため、渇水時の河川環境に関するモニタリングを実施し、知見の蓄積を図る。<国土交通省>

エ.渇水時の地下水の利用と実態把握

○ 地下水は、平常時における利用だけではなく、渇水時における緊急的な代替水源の一つとして利用することが期待できる。しかし、地下水を過剰に採取することは、地盤沈下や塩水化等の地下水障害を生じさせるおそれがあり、また、これらの地下水に係る現象は一般的に地域性が高い。このため、地方公共団体等の地域の関係者と連携し、地域の実情に応じた持続可能な地下水の保全や利用のためのルールの検討など、地下水マネジメントの更なる推進に取り組む。<国土交通省>

○ 国は緊急的な代替水源としての地下水利用について検討できるよう、地下水の実態把握に関する技術開発を行うとともに、国や地方公共団体等が収集する地下水の各種データを相互に活用するためのルールの作成等の環境整備を行う。<国土交通省>

○ これらのデータを活用し、地下水収支や地下水挙動、地下水採取量と地盤沈下や塩水化等の関係の把握に努める。<国土交通省>

4)農業、森林・林業分野における対策

○ 農業分野では、用水管理の自動化や用水路のパイプライン化等による用水量の節減、ため池・農業用ダムの運用変更による既存水源の有効活用を図るなど、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、効率的な農業用水の確保・利活用等を推進する。<農林水産省>【再掲】

○ 水源涵養機能の維持増進を通じて流域全体の治水対策等に資するため、河川上流域の保安林において、森林整備や山腹斜面への筋工等の組み合わせによる森林土壌の保全強化を図っていくとともに、集中豪雨の発生頻度の増加を考慮した林道施設の整備を推進する。<農林水産省>

5)調査研究の推進

○ 気候変動による水資源への影響や社会への影響を含めた渇水リスクについて調査・研究を推進する。<国土交通省>

○ 地下水の存在する地下構造は、極めて地域性が高く多様性に富んでいることから、地下水の賦存状況、収支や挙動、地表水と地下水の関係等、未解明な部分の研究を推進するとともに、気候変動による地下水への影響について、調査・研究を進める。<国土交通省>

○ 諸外国の水銀行制度や緊急の節水策としての課金制度について現状を調査するとともに、その適用性について調査・研究を推進する。<国土交通省>

第3節自然生態系

1.共通的な取組

陸域・淡水・沿岸・海洋の各生態系は密接に関わりを持っており、また気候変動に対し生態系が全体として変化することを踏まえ、第3節自然生態系においては以下の基本的な考え方及び共通的な取組を定める。

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動に対し生態系は全体として変化するため、これを人為的な対策により広範に抑制することは不可能である。また、生態系を保全すること自体が上述した農林水産業等の諸問題に対しても適応策として機能するという認識が必要である。

○ 自然生態系分野における適応策の基本は、長期にわたる継続的なモニタリング等の調査により生態系と種の変化の把握を行うとともに、気候変動の要因によるストレスのみならず気候変動以外の要因によるストレスにも着目し、これらのストレスの低減及び保護地域やその他の生物多様性の保全に資する地域等による生態系ネットワークの構築により、気候変動に対する順応性の高い健全な生態系の保全と回復を図ることである。

○ 特に自然生態系分野における適応に資すると期待される地域(気候変動の下で各生物種が逃避・生残できる地域(逃避地)や、個体の供給源となり得る地域等)における保全・管理の強化やその面的な拡大及び連結性の確保、低地性の生物種が高地へとむやみに拡大することを防ぐための自然環境利用上の対策を図ることも重要である。

○ ネットワーク構築に当たっては、国土全体にわたる広域的な観点と属地的な観点の双方から、生態系の連結性と健全性を高めることで気候変動等による環境の変化に対して強靱な国土を形成することが重要である。

○ 広域的な観点からは、2021年のG7首脳会合で採択された「G7・2030年自然協約」において、2030年までに少なくとも陸域及び海域の30%を保全又は保護するための新たな世界目標を支持し、自国においても同じ割合の保全又は保護の範を示すとされたことも踏まえ、森里川海のつながりによる生態系サービスの持続性を維持すべく最も効果的な場所において保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定、これら地域の質の改善を行うことが必要である。

○ 属地的な観点からは、多様な生息空間、餌資源量の確保など、生物のライフサイクルを支えるための属地的な生態系の質を高めていく手法が必要である。特に、昆虫はその生物量や送受粉によって生態系を支える基盤であり、生態系の強靱性にとって重要であることから、都市の小さな緑地や里地里山の農地など身近な自然環境においても、それらの種のライフサイクルを支えることが必要である。

○ 限定的な範囲で、生態系や種、生態系サービスを維持するため積極的な干渉を行う可能性もあるが、生態系等への影響や管理の負担を考慮して、相当慎重な検討が必要である。生態系への影響を回避するために逃避地をつくることも考えられるが、すぐに移動する対象と移動できない対象があり、効果は種によって異なるため、留意が必要である。また、期待される効果に応じて他の施策も含めて検討することが重要である。

○ 適応策の検討に際しては、対象地域の基盤情報を収集し、既に顕在化している影響又は懸念されている影響についての評価指標を決定した上で将来予測を行い、その結果に応じた対策を立案することや、地域の関係者との意見交換等を通じ、地域の状況を踏まえた保全・利用に関する計画を策定し、合意形成を図るとともに、役割分担しつつ連携・協力して総合的に対応することが重要である。対策の立案に際しては、対象地域において保全すべき生物や当該生物に悪影響を与える生物の分布に気候変動の影響が予測されるか否かや、逃避地があるか否か等に応じた選択肢を検討する必要がある。また、取組の実施に当たっては、評価対象の変化をモニタリングし、計画を定期的に見直す順応的管理が求められる。また、適応策を適切かつ効果的に進めるために、長期的視点で自然環境の管理や調査研究に携わる人材の育成を図ることが必要。

○ 生物多様性保全とのシナジーを最大化するとともに、トレードオフを最小化する観点が重要。健全な生態系が有する機能は、防災・減災や、都市における暑熱の緩和、沿岸域や閉鎖性水域における水質悪化への対応など、様々な分野の適応策に貢献する。このような考え方は、NbSのうち、生態系を活用した適応策(EbA)や生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)と呼ばれるものであり、マルチベネフィットをもたらす取組として重要。特に、地域の強靱性(レジリエンス)の向上のため、地域の地形や生態系の状況を踏まえ、自然災害に対して脆弱な土地の利用を避け、災害リスクの高い地域から低い地域への居住を誘導することや、自然環境が有する多様な機能を有効に活用した地域の防災・減災力の強化等を進めていくことが必要である。

○ 気候変動による影響は不確実性が高く、長期にわたって影響が進行するため、種の分布・個体数や生態系サービス等に明確に変化が現れるまでには時間を要する。このような変化は長期的視点で捉える必要があり、短期的なモニタリング結果のみでは影響の判断ができない。そのため、長期的なモニタリング等の調査を継続するとともに、必要に応じ、強化・拡充する必要がある。

○ 確信度が低い項目については、研究事例が限られること、人為的・土地利用の影響も受けることから、気候変動による生物多様性等への影響を把握するための調査・研究の推進、的確な情報発信・共有を通じて、科学的知見の集積に努める必要がある。

【基本的な施策】

○ 気候変動による生態系や種の分布等の変化をより的確に把握するため、モニタリング等の調査を引き続き実施するとともに、必要に応じて強化・拡充する。<環境省>

○ 気候変動による生物多様性及び生態系サービスへの影響について把握するための調査・研究を推進する。また、自然生態系分野における適応策の考え方が自然環境に関わる各種の計画等へ位置づけられるよう、普及啓発を進める。<環境省>

○ 「国立公園などの保護区における気候変動への適応策検討の手引き」等を用いて自然生態系分野における適応策の考え方の普及を図り、保護地域の管理に関するものを含む自然環境関係の計画等に位置づけられるように努める。<環境省>

○ 気候変動以外のストレス(開発、環境汚染、過剰利用、外来種侵入など)の低減に引き続き取り組み、健全な生態系の保全に努める。また、適応策の実施に当たっては、生物多様性への負の影響の回避・最小化に努める。<環境省>

○ 生物が移動・分散する経路を確保するのみならず、多面的な機能の発揮が期待されるよう、保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定を進めることにより、都市の小さな緑地や里地里山の農地など身近な自然環境も含めた生態系ネットワークの形成を推進する。また、必要に応じて、劣化した生態系の再生を推進する。<農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 生態系の保全に関する施策について、気候変動の影響も考慮して、必要に応じ保全目標、保全対象、保全手法等の見直しを検討するとともに、モニタリングの結果等を踏まえた、順応的な適応策を推進するための体制構築を行う。<環境省>

○ 気候変動の影響による生物多様性の損失や生態系サービスの低下による悪影響が著しい場合に限り、限定的な範囲で、現在の生態系・種を維持するための管理、生息域外保全、気候変動への順応を促す管理等の積極的な干渉の実施について検討する。その検討は生態系等への影響や管理の負担を考慮して、慎重に行う。<環境省>

○ 生態系が有する機能を活かしたEco-DRRやEbAの取組を含め、NbSに関する知見や事例を収集するとともに、機能評価手法等に関する調査・研究を進める。また、これらの取組の方向性や踏まえるべき視点、技術的知見等を取りまとめた手引きを作成し、地域における実装を推進する。<環境省>

○ 気候変動と生物多様性及び生態系サービスの関係に係る情報の発信・共有と普及啓発を進める。<環境省>

2.陸域生態系に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(陸域生態系(高山・亜高山帯))

○ 気温上昇や融雪時期の早期化等の環境変化に伴い、高山帯・亜高山帯の植生分布、群落タイプ、種構成の変化が報告されている。大規模な植生変化としては、森林帯の標高変化、高山帯におけるハイマツやチシマザサ等の分布拡大、高山帯へのイノシシやニホンジカの侵入、高山湿生植物群落の衰退が報告されている。

○ 高山植物群落の開花期の早期化と開花期間の短縮により、花粉媒介昆虫の活動時期と開花時期のずれ(生物季節の変化による相互関係の崩壊)が観測されている。

(陸域生態系(自然林・二次林))

○ 気候変動に伴う自然林・二次林の分布適域の移動や拡大の現状について、各植生帯の南限・北限付近における樹木の生活型別の現存量の変化が確認されている他、北海道の天然生針広混交林における針葉樹の成長量の経年的な減少傾向、及び広葉樹の成長量の増加傾向が確認されている。

○ 気温上昇の影響によって、過去から現在にかけて落葉広葉樹が常緑広葉樹に置き換わった可能性が高いと考えられている箇所が国内複数地域において確認されている。

○ 樹木の肥大成長について、早材成長の急速化が報告されている樹種がある。

○ 北海道の春植物においては、春の雪解けが早い年には花粉媒介昆虫の発生日よりも開花期が早まることで、送粉者とのミスマッチ(フェノロジカルミスマッチ)が発生し、結実率が低下する傾向が確認されている。

(陸域生態系(里地・里山生態系))

○ 気温の上昇による、モウソウチク・マダケの分布上限及び北限付近における分布拡大が報告されている。

○ マダケ・モウソウチク以外の里地・里山の構成種の変化の現状について、一部の地域で南方性チョウ類の増加等が報告されているものの、現時点で網羅的な研究事例は確認されていない。

(陸域生態系(人工林))

○ 一部の地域で、気温上昇と降水の時空間分布の変化による水ストレスの増大により、スギ林が衰退しているという報告がある。

(陸域生態系(野生鳥獣))

○ 日本全国でニホンジカやイノシシの分布を経年比較した調査において、分布が拡大していることが確認されている。

○ 積雪深の低下に伴い、越冬地が高標高に拡大したことが観測により確認されている。また、ニホンジカの生息適地が1978~2003年の25年間で約1.7倍に増加し、既に国土の47.9%に及ぶという推定結果が得られており、この増加要因としては土地利用変化よりも積雪量の減少が大きく影響している可能性が指摘されている。

○ ニホンジカの増加は狩猟による捕獲圧低下、土地利用の変化、積雪深の減少など、複合的な要因が指摘されている。ニホンジカの分布拡大に伴う植生への食害・剥皮被害、ヤマビルの分布拡大等の影響が報告されている。

(陸域生態系(物質収支))

○ 気候変動に伴う物質収支への影響の現状について、現時点で研究事例は限定的である。

○ 日本の森林における土壌GHG(温室効果ガス)フラックスは、1980~2009年にわたって、二酸化炭素・一酸化二窒素の放出、メタンの吸収の増加が確認されている。

○ 富士山麓のカラマツ林における林床部炭素フラックスについて、年平均地温の上昇に伴い年積算炭素排出量が増加する傾向が確認されている。また、林床植生の光合成量は、台風による林冠の撹乱等による、林床部の光環境の変化に大きく影響されることが確認されている。

○ 降水の時空間分布の変化傾向が、森林の水収支や土砂動態に影響を与えている可能性があるが、長期データに乏しく、変化状況を把握することは困難な状況となっている。

《将来予測される影響》

(陸域生態系(高山・亜高山帯))

○ 高山帯・亜高山帯の植物種・植生、及び動物(ライチョウ)について、分布適域の変化や縮小が予測されている。例えば、ハイマツ、コメツガ、及びシラビソは21世紀末に分布適域の面積が現在に比べて減少することが予測されている。

○ 地域により、融雪時期の早期化による高山植物の地域個体群の消滅が予測されている。

○ 生育期の気温上昇により高山植物の成長が促進され、植物種間の競合状態が高まることによる種多様性の減少、低木類やチシマザサの分布拡大などの植生変化が進行すると予測されている。

○ 生育期の気温上昇と融雪時期の早期化により、高山植物群落の開花時期の早期化と開花期間の短縮化が促進され、花を利用する花粉媒介昆虫の発生時期とのミスマッチ(フェノロジカルミスマッチ)のリスクが高まると予測されている。

(陸域生態系(自然林・二次林))

○ 冷温帯林の構成種の多くは、分布適域がより高緯度、高標高域へ移動し、分布適域が減少することが予測されている。特に、ブナ林は21世紀末に分布適域の面積が現在に比べて減少することが示されている。

○ 暖温帯林の構成種の多くは、分布適域が高緯度、高標高域へ移動し、分布適域が拡大することが予測されている。

○ ただし、実際の分布については、地形要因や土地利用、分布拡大の制限などにより縮小するという予測もあり、不確定要素が大きい。

○ 大気中の二酸化炭素濃度の上昇は光合成速度や気孔反応など、樹木の生理過程に影響を与えることが予測されている。

(陸域生態系(里地・里山生態系))

○ モウソウチクとマダケについて、気候変動に伴う分布適域の高緯度・高標高への拡大が予測されており、4℃の昇温を仮定した場合、分布北限が現在より約500km北上する可能性がある。

○ 一部の研究で、自然草原の植生帯は、暖温帯域以南では気候変動の影響は小さいと予測されている。標高が低い山間部や日本西南部での、アカシデ、イヌシデなどの里山を構成する二次林種の分布適域は、縮小する可能性がある。

○ ただし、里地・里山生態系は人為影響下で形成されていることから、気候変動の影響については十分な検証はされておらず、今後の研究が望まれる。

(陸域生態系(人工林))

○ 現在より3℃気温が上昇すると、年間の蒸散量が増加し、特に年降水量が少ない地域で、スギ人工林の脆弱性が増加することが予測されているが、生育が不適となる面積の割合は小さい。

○ 2050年までの影響を予測した場合、日本全体で見ると、森林呼吸量が多い九州や四国で人工林率が高いこと、高蓄積で呼吸量の多い40~50年生の林分が多いことから、炭素蓄積量及び吸収量に対してマイナスに作用する結果となる。ただし、当該予測では、大気中の二酸化炭素濃度の上昇による影響は考慮されていない。スギ人工林生態系に与える影響予測のためには樹木の生理的応答など更なる研究が必要である。九州のスギ人工林を対象にプロセスモデルを用いて一次生産量を予測した研究からは、生育適域かどうかによる違いは見られるものの、現状で生産量が多い地域では温暖化による一次生産の上昇は見込めないと予測されている。

(陸域生態系(野生鳥獣))

○ ニホンジカについては、気候変動による積雪量の減少と耕作放棄地の増加により、2103年における生息適地は、国土の9割以上に増加するとの予測がある。

○ 一方、イノシシ等ニホンジカ以外の種については、気候変動による分布域の変化等の将来影響については知見が確認されていない。

(陸域生態系(物質収支))

○ 年平均気温の上昇や無降水期間の長期化により、森林土壌の含水量低下、表層土壌の乾燥化が進行し、細粒土砂の流出と濁度回復の長期化、最終的に降雨流出応答の短期化をもたらす可能性がある。ただし、状況証拠的な推察であり、更なる検討が必要である。

○ 土壌温暖化実験により、地温の上昇に伴う土壌呼吸の上昇が各地で確認されており、正のフィードバック効果を支持する知見が複数得られている。一方、地温の上昇に伴う土壌呼吸の上昇の程度が、土壌微生物等の気候への順化により経年的に減少する傾向を示す知見も確認されており、地温の上昇が土壌呼吸に与える影響は、森林生態系の種類や立地によってもばらつきがあるものと考えられる。

○ 森林土壌の炭素ストック量は、純一次生産量が14%増加し、土壌有機炭素量が5%減少することが予測されている。

・陸域生態系(高山・亜高山帯)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

・陸域生態系(自然林・二次林)[重大性(RCP2.6/8.5 :★/●、緊急性:●、確信度:● ]

・陸域生態系(里地、里山生態系)[重大性:★、緊急性:●、確信度:■ ]

・陸域生態系(人工林)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲]

・陸域生態系(野生鳥獣の影響)[重大性:●、緊急性:●、確信度:■ ]

・陸域生態系(物質収支)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:▲]

【適応策の基本的考え方】

○ 森林については、原生的な天然林、希少な野生生物が生息・生育する森林の保全管理を推進するとともに、気候変動が森林に与える影響についての調査・研究を推進する必要がある。

○ 特に影響が生じる可能性の高い高山帯などにおいて長期にわたるモニタリング等の調査を重点的に実施することが必要である。

○ 気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、保護地域やその他の生物多様性の保全に資する地域等による国土全体での生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施することが必要である。

○ 特に気候変動の影響を和らげることが期待される地域の保全を強化することや、低地性の生物種が高地へとむやみに拡大することを防ぐ取組等が重要である。

○ 物質収支については、気候変動に伴う地温の上昇により、土壌呼吸を増加させることで、土壌から大気に排出される二酸化炭素が増加し、気候変動を更に加速される可能性について予測されているが、影響の発現時期については知見が不足しており、更なる調査・研究を推進する必要がある。

【基本的な施策】

本節1.に記載した適応策の基本的考え方を踏まえ、共通的な取組を実施するとともに、以下の個別の取組を実施する

○ 天然生林の保全管理に向けては、継続的なモニタリングに取り組むとともに、国有林と民有林が連携して、森林生態系の保存及び復元、点在する希少な森林生態系の保護管理並びにそれらの森林の連続性確保等に取り組む。<農林水産省>

○ 国有林野では、原生的な天然林や希少な野生生物の生育・生息地を保護する「保護林」や野生生物の移動経路となる「緑の回廊」を設定しており、継続的なモニタリング調査等を通じて状況を的確に把握し、渓畔林等と一体となった森林生態系ネットワークの形成にも努めることで、適切に保全・管理を推進する。<農林水産省>

○ 特に影響が生じる可能性の高い高山帯などにおいてモニタリングを重点的に実施し評価を行うほか、国立公園、国有林野の保護林等においても、さらには野生生物についても継続的なモニタリングを行い、気候変動の影響の把握に努める。<農林水産省、環境省>

○ 気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、国立・国定公園等の保護地域の見直しと適切な管理、個体数増加や分布拡大により生態系に深刻な影響を及ぼしているニホンジカ等野生動物の個体群管理、被害防除対策、外来種の防除と水際対策、希少種の保護増殖など、生物多様性保全等のために従来行ってきた施策に、予測される気候変動の影響を考慮し、より一層の推進を図る。<環境省>

○ 国立・国定公園や国指定鳥獣保護区その他の生物多様性の保全に資する地域の設定を進め、国有林野の保護林等と骨格としての生態系ネットワークの形成を図るとともに、渓畔林等と一体となった森林生態系ネットワークの形成を推進する。<農林水産省、環境省>

○ 高山植生等の脆弱な生態系における気候変動への適応策に関する調査・研究結果を踏まえ、保護地域の管理等への適応策の位置づけを推進する。<環境省>

3.淡水生態系に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(淡水生態系(湖沼))

○ 湖沼生態系は、流域土地利用からの栄養塩負荷の影響を受けるため、気候変動の影響のみを検出しにくく、直接的に気候変動の影響を明らかにした研究は国内では限られている。

○ ただし、鹿児島県の池田湖において、暖冬により循環期がなくなり、湖底の溶存酸素が低下して貧酸素化する傾向が確認されている。また、滋賀県琵琶湖におけるホンモロコ・ニゴロブナの個体数の激減について、暖冬による循環の遅れ、及び人為的な水位操作や湖岸環境の改変等との複合作用によるものとする報告がある。

○ 1900年代初頭~2000年代にかけて、全国の湖沼における水草の種構成が変化しており、この変化には気温及び降水パターンの変動が影響しているとの報告がある。

○ 北海道の湖沼について、結氷期間の短縮や、それに伴う植物プランクトンブルームの早期化が確認されている。

(淡水生態系(河川))

○ 我が国の河川は取水や流量調節が行われているため気候変動による河川の生態系への影響を検出しにくく、現時点で気候変動の直接的影響を捉えた研究成果は確認できていない。一方で、魚類の繁殖時期の早期化・長期化や暖温帯性・熱帯性の水生生物の分布北上等、気候変動に伴う水温等の変化に起因する可能性がある事象についての報告が見られる。

(淡水生態系(湿原))

○ 湿原の生態系は気候変動以外の人為的な影響を強く受けており、気候変動による影響を直接的に論じた研究事例は限られている。

○ 一部の湿原で、気候変動による湿度低下や蒸発散量の増加、積雪深の減少等が乾燥化をもたらした可能性が指摘されている。

《将来予測される影響》

(淡水生態系(湖沼))

○ 日本における影響を定量的に予測した研究事例は限られるものの、富栄養化が進行している深い湖沼では、水温の上昇による湖沼の鉛直循環の停止・貧酸素化と、これに伴う貝類等の底生生物への影響、富栄養化の加速が懸念される。

○水温上昇によるアオコを形成する植物プランクトンの増加と、それに伴う水質の悪化や、水生植物の発芽後の初期成長への悪影響等が予測されている。

○ 室内実験により、湖沼水温の上昇や二酸化炭素濃度上昇が、動物プランクトンの成長量を低下させることが明らかになっている。

(淡水生態系(河川))

○ 平均気温が現状より3℃上昇すると、冷水魚であるアメマス及び本州イワナ(ニッコウイワナ・ヤマトイワナ・ゴギ)の分布適域が現在の約7割に減少することが予測されている。また、中国・近畿地方では平均気温の1℃の上昇でも、分布適域が現状の約半分に減少することが予測されている。

○ 源流域のカワゲラ目の分布適域や、サクラマス(ヤマメ)の越夏環境、アユ遡上量についても、気候変動による適域の縮小・消失や遡上数の減少が予測されている河川がある。

○ このほか、現時点で定量的に予測をした研究事例は確認できていないものの、以下のような影響が想定される。

・積雪量や融雪出水の時期・規模の変化による、融雪出水時に合わせた遡上、降下、繁殖等を行う河川生物相への影響

・降雨の時空間分布の変化に起因する大規模な洪水の頻度増加による、濁度成分の河床環境への影響、及びそれに伴う魚類、底生動物、付着藻類等への影響

・渇水に起因する水温の上昇、溶存酸素の減少に伴う河川生物への影響

(淡水生態系(湿原))

○ 釧路湿原において、極端な降水の強度の増大に伴う流域からの土砂及び栄養塩の負荷量の増大が予測されている。加えて、海面水位の上昇に伴い塩水遡上距離が拡大し、湿原生態系の構成種等に影響を及ぼすことが予測されている。

○ 降水量の変化や地下水位の低下により、雨水滋養型の高層湿原における植物群落への影響が予測されている。

○ 現時点で定量的に予測をした研究事例としては確認できていないものの、以下のような影響が想定される。

・日本全体の湿地面積の約8割を占める北海道の湿地への影響

・気候変動に起因する流域負荷(土砂や栄養塩)に伴う低層湿原における湿地性草本群落から木本群落への遷移、蒸発散量の更なる増加

・淡水生態系(湖沼、河川、湿原)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:■ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 陸水生態系においては、長期的に生物種の絶滅リスクが増大していることを踏まえ、重要な陸水域のモニタリング等の調査を長期にわたり重点的に実施することが必要である。

○ 気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、保護地域やその他の生物多様性の保全に資する地域等による水域の連続性を確保し、生物が往来できる生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施することが必要である。

○ 湖沼生態系については、特定の湖沼において、21世紀中頃に水温上昇によるアオコを形成する植物プランクトンの増加とそれに伴う水質の悪化が予測されているが、個々の湖沼の状況により影響や適応の緊急性が異なることから、モニタリング及びその結果を踏まえた対策を実施することが必要である。

○ 河川生態系については、冷水性の魚類や水生昆虫の生息適地が、今世紀中頃あるいは年平均気温1℃の上昇で大幅に減少する地域がみられると予測されているが、個々の河川の状況により影響や適応の緊急性が異なることから、モニタリング及びその結果を踏まえた対策を実施することが必要である。

○ 湿地生態系については、高山帯・亜高山帯の湿原で積雪量の減少によるものと見られる湿原面積の縮小が報告される地域があり、これらについては緊急性が高いことを念頭に、適応策の開発・普及に取り組むことが必要である。

【基本的な施策】

本節1.に記載した適応策の基本的考え方を踏まえ、共通的な取組を実施するとともに、以下の個別の取組を実施する。

○ 生態系や種の分布等の変化の状況をより的確に把握するため、重要な陸水域のモニタリング等の調査を引き続き実施することに加えて、必要に応じて強化・拡充するとともに調査研究を推進し、気候変動の影響把握に努める。<環境省>

○ 気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、国立・国定公園等の保護地域の見直しと適切な管理、外来種の防除と水際対策、希少種の保護増殖など、生物多様性の保全のために従来行ってきた施策に、予測される気候変動の影響を考慮し、より一層の推進を図るとともに、必要に応じて湿地などの生態系を再生する。<環境省>

○ 保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定を進めることに加え、河川、湖沼、湿原、湧水、ため池、水路、水田などの連続性を確保することにより、生物が往来できる水系を基軸とした生態系ネットワークの形成を推進する。<農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 水温上昇により被害の拡大が予測される内水面魚類の疾病については、病原体特性及び発症要因の研究とそれを利用した防除対策技術の開発を行う。<農林水産省>

4.沿岸生態系に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(沿岸生態系(亜熱帯))

○ 沖縄地域で、海水温の上昇により亜熱帯性サンゴの白化現象の頻度が増大している。2016年には、石垣島の石西礁湖周辺において夏季の高水温によるものと考えられる大規模な白化現象が発生している。

○ 太平洋房総半島以南と九州西岸北岸における温帯性サンゴの分布が北上している。

○ 室内実験により、造礁サンゴ種の一部において石灰化量の低下が生じている可能性が指摘されている。

○ 西表島のマングローブについて、海面水位の上昇に伴う冠水頻度の増加によるものと考えられる立ち枯れが確認されている。

(沿岸生態系(温帯・亜寒帯))

○ 日本沿岸の各所において、海水温の上昇に伴い、低温性の種から高温性の種への遷移が進行していることが確認されている。

○ 亜熱帯性の造礁サンゴの分布北限付近での北上、及び海藻藻場の分布南限付近における衰退が観測されており、海藻藻場からサンゴ群集への移行が進行している。

○ 日本沿岸の海水のpHは、海域ごとにばらつきが大きいものの、全体的に低下傾向であり、海洋酸性化の進行が確認されている。

○ 日本沿岸の溶存酸素についても、海域ごとにばらつきが大きいものの、全体的な低下傾向が確認されている。

○ 既に起こっている海洋生態系の変化を、海洋酸性化の影響として原因特定することは、現時点では難しいとされている。

○ 日本周辺に生息する海鳥の一部について個体数の長期的な減少傾向が確認されており、その原因の一つとして気候変化による餌不足が示唆されている。

《将来予測される影響》

(沿岸生態系(亜熱帯))

○ 4℃上昇を仮定した予測では、熱帯・亜熱帯の造礁サンゴの生育に適する海域が水温上昇と海洋酸性化により日本近海から消滅すると予測されている。一方、3℃上昇を仮定した予測では、今世紀末においても生育適域が一定程度残存するとされている。生育に適した海域から外れた海域では白化等のストレスの増加や石灰化量の低下が予測されているが、その結果、至適海域から外れた既存のサンゴ礁が完全に消失するか否かについては予測がなされていない。

○ もう一つの亜熱帯沿岸域の特徴的な生態系であるマングローブについては、海面水位の上昇による分布域の縮小や内陸側への移動が予測されている。特に、後背地が構造物等で分断されている場合は、土砂の利用可能性や移動分散を妨げ、より影響が悪化するとされている。国内における将来予測の知見については現時点では限られており、気温上昇による枯死率の増加を示す予測がある一方、生理特性の温度順化により生育阻害は発生しないとする予測もあり、今後の研究が望まれる。

(沿岸生態系(温帯・亜寒帯))

○ 海水温の上昇に伴い、エゾバフンウニからキタムラサキウニへといったより高温性の種への移行が想定され、それに伴い生態系全体に影響が及ぶ可能性があるが、定量的な研究事例が限定されている。

○ 海洋酸性化による影響については、中~高位の二酸化炭素排出シナリオの場合、特に極域の生態系やサンゴ礁といった脆弱性の高い海洋生態系に相当のリスクをもたらすと考えられる。炭酸カルシウム骨格・殻を有する軟体動物、棘皮動物、造礁サンゴに影響を受けやすい種が多く、その結果として水産資源となる種に悪影響が及ぶ可能性がある。また、水温上昇や低酸素化のような同時に起こる要因と相互に作用するために複雑であるが、影響は増幅される可能性がある。

○ 水温の上昇や植食性魚類の分布北上に伴う藻場生態系の劣化や、熱帯性サンゴ礁生態系への移行が予測されている。

○ また、沿岸域の生態系の変化は沿岸水産資源となる種に影響を与えるおそれがある。また漁村集落は藻場等の沿岸性の自然景観や漁獲対象種等に依存した地域文化を形成している事が多く、地域文化への影響も想定される。

○ 海面水位の上昇による海岸域の塩性湿地等への影響が想定される。

・沿岸生態系(亜熱帯)[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

・沿岸生態系(温帯・亜寒帯)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 特に影響が生じる可能性の高い干潟・塩性湿地・藻場・アマモ場・サンゴ礁等において、長期にわたるモニタリング等の調査を重点的に実施することが必要。また、沿岸域は河川等を通じた陸域との関連性が強いことから、流域全体まで視野を広げることが必要である。

○ 気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、様々な目的の海洋保護区等を連携させて効果的に配置することを主体に、沿岸生態系の連続性を確保し、生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施することが必要である。

【基本的な施策】

本節1.に記載した適応策の基本的考え方を踏まえ、共通的な取組を実施するとともに、以下の個別の取組を実施する。

○ 特に影響が生じる可能性の高い干潟・塩性湿地・藻場・サンゴ礁において、モニタリング等の調査を重点的に実施し気候変動影響の評価を行う。<環境省>

○ また、気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、国立・国定公園等の保護地域の見直しと適切な管理、外来種の防除と水際対策、希少種の保護増殖、干潟等の生態系の再生など、生物多様性の保全のために従来行ってきた、施策において、予測される気候変動の影響を考慮し、より一層の推進を図る。<環境省>

○ 加えて、海岸、干潟・塩性湿地・藻場・サンゴ礁などの保全・再生を行うとともに、保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定を進めることに、生態系ネットワークの形成を推進する。<環境省>

○ 赤潮プランクトンの発生について、気候変動との関連性に関する調査研究を継続する。<農林水産省>

○ サンゴ礁等の脆弱な生態系における気候変動への適応策に関する調査・研究結果を踏まえ、保護地域の管理等への適応策を位置づけるための取組を推進する。<環境省>

5.海洋生態系に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 日本周辺海域ではとくに親潮域、親潮域、黒潮域、及び混合水域において、植物プランクトンの現存量と一次生産力の減少が始まっている可能性がある。

○ 海洋の亜表層域(水深100〜1,000m)では溶存酸素量が継続的に減少していることが判明しており、日本周辺海域でもほぼ全域で亜表層の溶存酸素濃度が減少している。一方、日本周辺海域はもともと溶存酸素濃度が比較的高いことから、海洋生物への直接的な影響は一部の底魚類以外には検出されていない。

○ 西部北太平洋亜寒帯域においては、近年の表層水温の上昇に伴い、暖水性のカイアシ類の分布北上が確認されている。

《将来予測される影響》

○ 気候変動に伴い、植物プランクトンの現存量に変動が生じる可能性がある。全球では熱帯・亜熱帯海域で低下し、亜寒帯海域では増加すると予測されているが、日本周辺海域については、モデルの信頼性が低く、変化予測は現状困難である。動物プランクトンの現存量の変動についての予測も、日本周辺海域の予測の信頼性が高いとはいえない。また、これらから生じる地域毎の影響の予測は現時点では困難である。

○ 日本周辺の海洋保護区について、気候変動への脆弱性を示唆する予測が確認されている。

・海洋生態系[重大性:●、緊急性:▲、確信度:■]

【適応策の基本的考え方】

○ 日本近海の88%で2035年までに予測される気候の変化が、これまで経験されてきた変化の幅以上の変化にさらされるとの予測があるが、気候変動による海水温の気候変動による海水温の上昇、海水面上昇、海洋酸性化等が生態系に与える影響については不明な点が多い。さらに、沖合域の生態系は科学的に解明されていない事象が多く、沿岸域に比べて精度の高い科学的情報が蓄積されていないことも踏まえ、特に海洋保護区や生物多様性の観点から重要度の高い海域等において、モニタリングや将来予測を充実させ充実させることが必要である。

○ 気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、様々な目的の海洋保護区等を連携させて効果的に配置することを主体に、海洋生態系の連続性を確保し、生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施することが必要である。

【基本的な施策】

本節1.に記載した適応策の基本的考え方を踏まえ、共通的な取組を実施するとともに、以下の個別の取組を実施する

○ 赤潮プランクトン発生と気候変動との関連性に関する調査研究を引き続き行う<農林水産省>

○ 沖合海底自然環境保全地域や生物多様性の観点から重要度の高い海域等において、精度の高い科学的情報の蓄積や継続的なモニタリングの実施を推進する。<環境省>

○ 保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定を進めることで、生態系ネットワークの形成を推進する。<環境省>

6.生物季節、分布・個体群の変動に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(生物季節)

○ 植物の開花の早まりや動物の初鳴きの早まりなど、動植物の生物季節の変動にいて多数の報告が確認されている。

(分布・個体群の変動)

○ 過去50年間の全球的な自然生態系の変化の要因について、気候変動は陸域・海域の利用変化及び直接採取(森林伐採、漁獲等)に次ぐ要因であるとされ、加えて気候変動は他の直接的要因による影響を悪化させつつあるとの報告がある。

○ 昆虫や鳥類などにおいて、分布の北限や越冬地等が高緯度に広がるなど、気候変動による気温の上昇の影響と考えれば説明が可能な分布域の変化、ライフサイクル等の変化の事例が確認されている。ただし、気候変動以外の様々な要因も関わっているものと考えられ、どこまでが気候変動の影響かを示すことは難しい。

○ シバスズやダンダラテントウ等の一部の昆虫種については、現地調査及び過去の標本等との比較により、生活史の境界や分布北限が変化したことが明らかになっており、この変化傾向が気温変化の傾向と一致することから、気温の上昇に伴い分布を拡大した可能性が高いとされている。

《将来予測される影響》

(生物季節)

○ ソメイヨシノの開花日の早期化、落葉広葉樹の着葉期の長期化、紅葉開始日の変化や色づきの悪化など、様々な種への影響が予測されている。

○ 個々の種が受ける影響にとどまらず、種間のさまざまな相互作用への影響が予想されている。

(分布・個体群の変動)

○ 気候変動により、分布域の変化やライフサイクル等の変化が起こるほか、種の移動・局地的な消滅による種間相互作用の変化が更に悪影響を引き起こすことや、生育地の分断化により気候変動に追随した分布の移動ができないなどにより、種の絶滅を招く可能性がある。2050年までに2℃を超える気温上昇を仮定した場合、全球で3割以上の種が絶滅する危険があると予想されている。

○ 渡り鳥であるハチクマについて、気候変動に伴う風向き等の変化により、現在の東シナ海上の渡り適地が将来において分断あるいは消失するとの予測がある。

○ 種の分布域が変化することで、地理的に隔離され分化が進んだ2つの集団の生息域が再び重複する「二次的接触」が生じる可能性についての予測も確認されている。

○ 気候変動は外来種の分布拡大や定着を促進することが指摘されており、今後、外来種による生態系への被害のリスクが高まることが懸念される。現時点で定量的に予測をした研究事例は限られているものの、一部の侵略的外来種について、侵入・定着確率が気候変動により高まることが予測されている。

・生物季節 [重大性:★、緊急性:●、確信度:● ]

・分布・個体群の変動(在来種)[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

・分布・個体群の変動(外来種)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 生態環境の変化や気候変動が生態系に与える影響の調査等に有用な基礎資料であるという観点や、生物を通じて四季を感じる文化的な価値があるという観点等を踏まえ、市民参加型の調査を含め、生物季節の変化を把握するためのモニタリング等の調査を継続的に実施することが必要ある。

○ 種の分布や個体群の変化をより的確に把握するため、長期にわたるモニタリング等の調査を継続的に実施することが必要である。

○ 生物が移動・分散する経路を確保するため、保護地域やその他の生物多様性に資する地域する地域等による生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施することが必要である。

○ モニタリングや新たな科学的知見等により得られた情報を踏まえ、侵略的外来種の評価等において気候変動の影響を考慮することにより、生態系等に係る被害を及ぼすリスクが増加した種について適切な対応を行うことが必要である。

【基本的な施策】

本節1.に記載した適応策の基本的考え方を踏まえ、共通的な取組を実施するとともに、以下の個別の取組を実施する

○ 植物の開花等の生物季節の変化を把握するためのモニタリング等の調査を引き実施するとともに、必要に応じて強化・拡充する。<環境省>

○ 人材の確保・育成にも努めながら、研究機関やNPO等の協力を得て行う参加型のモニタリング等の調査を引き続き実施するとともに、必要に応じて強化・拡充する。<環境省>

○ 生物季節、種の分布や個体群の変化をより的確に把握するため、市民参加型の調査を含めたモニタリング等を引き続き実施するとともに、必要に応じて強化・拡充する。特に影響が生じる可能性の高い高山帯や沿岸域に生息する種、個体数増加や分布拡大により生態系に深刻な影響を及ぼしているニホンジカ等野生動物、外来種などについて重点的にモニタリングを実施し、評価を行う。<環境省>

○ 気候変動に対する順応性の高い気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、ニホンジカ等野生動物の個体群管理、侵略的外来種の評価、外来種の防除と水際対策、希少種の保護増殖など、生物多様性の保全のために従来行ってきた施策に、予測される気候変動の影響を考慮し、より一層の推進を図る。<農林水産省、環境省>

○ 生物が移動・分散する経路を確保するため、保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定を進めることにより、生態系ネットワークの形成を推進する。その際に、外来種やニホンジカの分布拡大につながるおそれとそれによる在来種への影響について考慮する。<農林水産省、環境省>

○ 国内希少野生動植物種の保護増殖事業計画等、国の計画については、次の見直し際に気候変動の影響も考慮し、目標や対策について検討する。特に分布域が離島や高山帯等に限定されている種など、気候変動の影響を受けやすい希少種の保全に当たっては、生態系等への影響や管理の負担を考慮しつつ、現存個体群に同種の個体を加える補強や生息域外保全、生殖細胞の保存等について早期に検討する。<環境省>

7.生態系サービス関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 全球的には、気候変動による生態系を構成する生物種の種構成や生物季節、種間の相互作用の変化が生態系の構造や機能に影響を与え、結果として既に生態系サービスへの影響が生じているとする報告がある。

○ 一方、国内において気候変動による生態系サービスへの影響を明らかにした研究は少なく、今後の研究が望まれる。

○ 2016年に石西礁湖で発生したサンゴ礁の白化は、同地域のサンゴ礁がもたらす生態系サービス(漁業生産・水族館への魚の供給、レクリエーション・ダイビング、海藻の防除)の経済価値を減少させたことが示されている。

《将来予測される影響》

○ 生態系サービスへの気候変動による影響予測についての研究を対象に行われたレビューによれば、対象とした研究のうち約60%において、気候変動による生態系サービスへの負の影響が予測されている。

○ 北海道天塩川流域において、気候変動に伴い河川への窒素やリン等の栄養塩の流入量の増加が予測されている。

○ 国内のサンゴ礁がもたらす生態系サービスについて、年間あたり、観光・レクリエーション価値として2,399億円、漁業(商業用海産物)価値として107億円、海岸防護機能として、75.2~839億円とする試算があり、気候変動に伴うサンゴの生息適域の減少に関する予測を考慮すると、これらの生態系サービスが減少あるいは消失する可能性が考えられる。

○ 白化や海洋酸性化によるサンゴ礁へのストレスは、海面水位の上昇へのサンゴ礁の追従を妨げることに加え、サンゴの死滅による海底面の摩擦効果の減少を引き起こし、これらの複合作用の結果としてサンゴ礁による防波機能に深刻な影響が生じる可能性がある。

○ 気候変動の影響によりニホンジカの生息適地が拡大している。京都大学芦生演習林では、ニホンジカの被食圧の著しい増加による蜜源植物の減少が、送粉者減少の主要因の1つと推測される複数の研究結果がある。日本の農業が受ける訪花昆虫による送粉サービスは2013年時点で約4,700億円であり、このうち3,300億円は野生の送粉者により提供されている。シカの増加は日本全国で起こっており、その他の地域でも同様の事態が発生している可能性は否定できず、その場合、野生のハナバチ相の減少が送粉サービスの低下につながっている可能性がある。

・生態系サービス(流域の栄養塩・懸濁物質の保持機能等)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:■ ]

・生態系サービス(沿岸域の藻場生態系による水産資源の供給機能等)[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

・生態系サービス(サンゴ礁によるEco-DRR機能等)[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

・生態系サービス(自然生態系と関連するレクリエーション機能等)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:■ ]

【適応策の基本的考え方】

○ NbSなど生態系サービスがもたらす多様な社会的な便益の定量的な評価や可視化に加え、気候変動によるそれらの便益の変化・社会的な影響等に関する調査・研究を推進し、生態系サービスを持続的に享受するための取組を検討するための科学的な知見を蓄積する必要がある。また、地域における取組の実装を促進していく必要がある。

○ 今後、気候変動による花粉媒介昆虫の分布変化や、媒介昆虫の発生時期と植物の開花時期のミスマッチによる送粉サービスへの影響も懸念されることを踏まえ、普通種も含めて生息地の規模と連続性を確保することが重要である。

【基本的な施策】

○ かつての氾濫原や湿地等の再生による流域全体での遊水機能等の強化に向け、生態系機能の可視化に関する調査・研究を進める。また、技術的知見を取りまとめて発信することで、災害に強く自然と調和した地域作りを推進する。<環境省>

○ 保護地域の拡充やその他の生物多様性の保全に資する地域の設定することにより、生態系ネットワークの形成を推進し、普通種も含めた花粉媒介昆虫等の生息地の規模と連続性を確保する。<環境省>

○ サンゴ礁生態系がもたらす生態系サービスついて、その内容や気候変動による変化が広く国民に伝わるよう管理計画等へ位置づけ、地域におけるその恵みを守るための取組の実施を促進する。<環境省>

第4節 自然災害・沿岸域

1.河川に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況現在の状況》

(洪水)

○ 既往降雨データの分析によると、比較的多頻度の大雨事象については、その発生頻度が経年的に増加傾向にあることが示されている。

○ 浸水面積の経年変化は高度経済成長期に比べれば全体として減少傾向にあり、この傾向を説明する主たる要因として治水対策の進展が挙げられる。一方、近年においては、浸水面積はおおむね横ばいとなっており、人口減少下において浸水想定区域内の人口が相対的に増加しているほか、氾濫危険水位を超過した洪水の発生地点数は国管理河川、都道府県管理河川ともに増加傾向にあり、気候変動よる水害の頻発化・激甚化が懸念されている。

○ これまでの治水施設の整備水準は、現行計画上の目標に対して整備途上である。

○ 日本は洪水氾濫による水害に関して依然として脆弱性を抱えており、気候変動がより厳しい降雨状況をもたらすとすれば、その影響は相当に大きい可能性がある。

○ 平成30年7月豪雨においては、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与もあったとされており、記録的な長時間の降雨に加え、短時間高強度の降雨も広範囲に発生したことにより、各地で洪水氾濫と内水氾濫が同時に発生するなどした。

(内水)

○ 既往降雨データの分析によると、比較的多頻度の大雨事象については、その発生頻度が経年的に増加傾向にあり、年超過確率1/5や1/10の、短時間に集中する降雨の強度が過去50年間で有意に増大してきている。

○ これまでの下水道整備により達成された水害に対する安全度は、計画上の目標に沿って着実に向上しているが、引き続き取組が必要。

○ 水害被害額に占める内水氾濫による被害額の割合(2005~2012年の平均値)は、全国では約全国では約40%であり、大都市を抱える東京、愛知、大坂、福岡ではそれを上回る割合となった。

○ このような短時間に集中する降雨の頻度及び強度の増加は、浸水対策の達成レベルが低い都市部における近年の内水被害の頻発に寄与している可能性がある。平成30年7月豪雨においては、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与もあったとされており、内水氾濫による床上浸水、床下浸水の被害の約9割が下水道の排水施設の整備が途上である地区で発生したことが報告されている。

《将来予測される影響》

(洪水)

○ RCP2.6、RCP8.5シナリオなどの将来予測によれば、洪水を起こしうる大雨事象が日本の代表的な河川流域において今世紀末には現在に比べ有意に増加することが予測されている。

○ 複数の文献が、洪水を発生させる降雨量の増加割合に対して、洪水ピーク流量の増加割合、氾濫発生確率の増加割合がともに大きくなる(増幅する)ことを示している。この増幅の度合いについては、洪水ピーク流量に対して氾濫発生確率のそれがはるかに大きくなると想定される。

○ 世界や日本において、気温上昇に伴う洪水による被害の増大が予測されている。

○ 河川堤防により洪水から守られた地域(堤内地)における氾濫発生確率が有意に高まれば、浸水被害が増大する傾向が示されている。

○ 海岸近くの低平地等では、海面水位の上昇が洪水氾濫による浸水の可能性を増やし、氾濫による浸水時間の長期化を招くと想定される。

(内水)

○ RCP8.5シナリオを用いて埼玉県における内水氾濫の将来予測を行った結果、現行計画の年超過確率1/5規模の降雨に対応した下水道を整備した場合でも、21世紀末では内水浸水範囲の拡大及び内水浸水深が増加し、内水氾濫により浸水の影響を受けることが想定される人口も増加する可能性が示唆された。一方、将来の人口変動を考慮した場合は、人口減少の影響が大きく、現在人口条件の場合と比べて浸水リスク人口が減少する可能性が示されている。

○ RCP8.5に対応するシナリオを前提とし、日本全国における内水災害被害額の期待値を推算した研究では、2080~2099年において被害額が現在気候の約2倍に増加することを示している。

○ 河川や海岸等の近くの低平地等では、河川水位が上昇する頻度の増加や海面水位の上昇によって、下水道等から雨水を排水しづらくなることによる内水氾濫の可能性が増え、浸水時間の長期化を招くと想定される。

○ 都市部には、特有の氾濫・浸水に対する脆弱性が存在するため、短時間集中降雨が気候変動影響により増大し、そこに海面水位の上昇が重なれば、その影響は大きい。

○ 大雨の増加は、都市部以外に農地等への浸水被害等をもたらすことも想定される。

・洪水 [重大性(RCP2.6/8.5)●/●、緊急性:●、確信度:● ]

・内水 [重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

・高潮・高波 [重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動による将来の予測として、短時間強雨や大雨の頻度・強度の増加、総雨量の増加、平均海面水位の上昇、潮位偏差や波高の極値の増大が想定され、それぞれの水災害の激甚・頻発化に加え、土砂・洪水氾濫、高潮・洪水氾濫など複合的な要因による新たな形態の大規模災害の発生が懸念されている。気候変動の予測には幅はあるが、長時間をかけて進める河川整備やまちづくりについては、将来の気候変動の変化等を評価して対策を講じ始めなければ、計画の見直しや追加的な対策の実施に迫られ、必要な河川整備に要する期間が長期化するおそれがあるなど、速やかに気候変動を考慮したものへの見直しは急務である。

○ 気候変動により頻発化・激甚化する水災害に対して、気候変動を考慮した計画に見直すとともに、国、都道府県、市町村、地域の企業、住民などあらゆる関係者が協働して流域全体で行う「流域治水」を推進し、ハード・ソフト一体となった総合的な防災・減災対策を進める。

○ さらに、気候変動による水災害の激甚化・頻発化に対し、外力の増大に対する整備のスピードを考えると、従来の管理者主体の河川区域を中心としたハード整備だけでは、計画的に治水安全度を向上させていくことは容易でない。このため、従来の管理者主体の事前防災対策を進めていくと同時に、降雨が河川に流出し、さらに河川から氾濫する、という水の流れを一つのシステムとして捉えられるよう、集水域と河川、氾濫域を含む流域全体で、かつ、これまで関わってこなかった流域の関係者まで含め流域全員参加で被害を軽減させていく「流域治水」の取組を進めていく。

○ 「流域治水」としては、流域全員の参画のもと、想定される最大規模の洪水までのあらゆる洪水の発生を念頭に、流域の特性に応じ、

・ 氾濫をなるべく防ぐ・減らすための対策(ハザードへの対応)

なるべく氾濫を防げるよう治水施設の整備等を進める

・ 被害対象を減少させるための対策(暴露への対応)

治水施設の能力を上回る大洪水が発生した場合を想定して、「危ない土地には住まない」という発想を持ち、被害を回避するための土地利用規制を含めたまちづくりや住まい方の工夫などの被害対象を減少させるための対策

・ 被害の軽減・早期復旧・復興のための対策(脆弱性への対応)

氾濫の発生に際し、的確・適切に避難できるようにするための体制の充実といった被害軽減のための対策と、被災地における早期の復旧・復興のための対策

の3要素を総合的かつ多層的に進める。

〇 気候変動による降雨量の増加、潮位の上昇等に対して、管理者が主体となって行う治水対策に加え、関係省庁・関係自治体・官民が連携して、

・ 利水ダムを含む既存ダムやため池の洪水調節機能の強化

・ 水田・ため池等の雨水貯留浸透機能の活用

・ 水害リスク情報の空白域を解消

・ 都市計画・建築等を担当する部局とも連携し、複数自治体が連携した土地利用規制や、居住の誘導、住まい方の工夫等の防災まちづくり

・ 応急活動、事業継続等のための備えの充実

といったハード・ソフト一体の対策を推進する。

○ また、流域治水の推進に当たっては、自然環境が有する多様な機能を活かしたグリーンインフラの活用を推進し、遊水地等による雨水貯留・浸透機能の確保・向上を図るとともに、災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を積極的に保全又は再生することにより、生態系ネットワークの形成を推進する。

○ 水災害の激甚化・頻発化に対応するには、線状降水帯等による集中豪雨や台風等に対する観測体制の強化・予測精度の向上といったソフト対策の強化も重要である。大雨特別警報発表の技術的改善や、災害発生の危険度を示す危険度分布(キキクル)等によって住民の避難行動を促すとともに、その適切な利活用について平常時から取組を一層強化・推進することにより、気象災害等による死傷者数の低減を図る。

〇 また、台風・集中豪雨の監視・予測、航空機・船舶の安全航行、地球環境の監視や火山監視等、国民の安全・安心の確保を目的とした、切れ目のない気象衛星観測体制を確実にするため、2029年度目途の後継機の運用開始に向け、2023年度を目途に後継機の製造に着手する。後継機には高密度観測等の最新技術を取り入れ、防災気象情報の高度化を通じて自然災害からの被害軽減を図る。

○このような対策を推進するに当たっては、地域の地形や生態系を読み取ることにより暴露の回避を図るとともに、健全な生態系が有する機能を活かして脆弱性の低減を図るEco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction:生態系を活用した生態系を活用した防災・減災)やグリーンインフラの考え方を取り入れることが重要である

【基本的な施策】

1)気候変動の影響を踏まえた治水計画の見直し

○ 科学技術の進展や将来降雨の予測データの蓄積を踏まえ、将来の降雨量変化倍率、アンサンブル実験による将来の降雨波形等を用い、気候変動による降雨量の増加等を反映したものに河川整備基本方針を順次見直していく。<国土交通省>

○ 過去の実績洪水を目標とする現在の河川整備計画の早急な達成を目指すとともに、併せて気候変動による降雨量の増加等を考慮した河川整備計画へ見直す。<国土交通省>

○ 激甚化、頻発化する局地的な大雨等に対応するため、浸水シミュレーション等によるきめ細やかな災害リスク評価に基づき、下水道によるハード・ソフト両面からの浸水対策計画の策定を推進する。<国土交通省>

2)災害リスクの評価

○ 対策の主体となる地方公共団体、企業、住民等がどの程度の発生頻度でどのような被害が発生する可能性があるかを認識して対策を進める必要があるため、各主体から見て分かりやすく、きめ細かい災害リスク情報を提示する。<国土交通省>

○ 単一の規模の外力だけでなく様々な規模の外力について浸水想定を作成して提示するとともに、床上浸水の発生頻度や人命に関わるリスクの有無、施設の能力や整備状況等についても提示する。<国土交通省>

○ 各主各主体が参画する様々な協議会等を活用して、災害リスク情報を共有し、対策の促進を図る。<国土交通省>

○ 各主体が対策を進める上で必要となる具体的な被害の想定に当たっては、氾濫域における人口や資産の集積状況、インフラ・ライフラインや病院・福祉施設等の立地状況、産業構造・産業立地の状況、高齢化の状況等、地域の実情に応じた検討を行う。<国土交通省>

○ 最悪の事態も想定した対策の検討のため、浸水想定区域の指定の対象とする外力を、想定し得る最大規模のものとするとともに、洪水だけでなく、内水、高潮も対象とする。その際、地方公共団体、企業、自治組織、住民等が避難等の検討ができるよう、浸水深だけでなく浸水継続時間を明示する。<国土交通省>

3)比較的発生頻度の高い外力に対する防災・減災対策

比較的発生頻度の高い外力に対しては、これまで進めてきている施設の整備を着実に進めるとともに、適切な維持管理・更新を行うことにより、水害の発生を着実に防止する防災・減災・減災対策を進める。

ア.施設の着実な整備

○ 引き続き築堤や河道掘削、洪水調節施設、下水道等の施設の整備を着実に実施する。その際、災害リスク評価を踏まえ、効果的・効率的な整備促進を図る。また、施設計画の目標や内容等について、近年の大雨等の発生頻度の増加等を踏まえ、必要に応じて見直す。<国土交通省>

イ.既存施設の機能向上

○ 既設ダムを運用しながら治水機能の増強等を行うダム再生、既存の下水道施設の増補管や貯留施設の整備など、既存ストックのより一層の機能向上を図る。<国土交通省>

ウ.維持管理・更新の充実

○ ICT等を活用し、河川や下水道の施設の状況をきめ細かく把握する。また、CCTV等を活用し、洪水や内水に関する情報の把握に努める。<国土交通省>

○ 必要な貯水池容量を維持・確保するため、ダムの堆砂対策を引き続き推進する。<国土交通省>

エ.水門等の施設操作の遠隔化等

○ 水門等の確実な操作と操作員の安全確保のため、水門等の施設操作の遠隔化・自動化等を推進する。<国土交通省>

オ.できるだけ手戻りのない施設の設計

○ 気候変動により外力が増大し、将来、施設の改造等が必要になった場合でも、できる限り容易に対応できるよう、改造等が容易な構造形式の選定や基礎部等をあらかじめ補強しておくことなど、外力の増大に柔軟に追随できるできるだけ手戻りのない設計に努める。<国土交通省>

カ.総合的な土砂管理

○ 山地から海岸まで一貫した総合的な土砂管理の取組を、関係機関の連携のもと推進する。モニタリングにより土砂動態を把握するとともに、総合土砂管理計画を策定し、透過型砂防堰堤の整備、ダム堆積土砂の下流還元、サンドバイパスによる海岸の侵食対策など、土砂移動の連続性を確保する取組を推進する。<国土交通省>

4)現況の施設能力を上回る外力に対する防災・減災対策

現況の施設能力を上回る外力に対しては、施設の運用、構造、整備手順等の工夫により減災を図るとともに、災害リスクを考慮したまちづくり・地域づくりの促進や的確な避難、円滑な応急活動、事業継続等のための備えの充実など、施策を総動員して、できる限り被害を軽減する防災・防災・減災対策に取り組む。

① 施設の運用、構造、整備手順等の工夫

現況の施設の能力を上回る外力に対し、これまで超過洪水等を考慮して進めてきている対策を着実に進めるとともに、施設の運用、構造、整備手順等の工夫等により防災・防災・減災を図る。

ア.既存施設の機能を最大限活用する運用

○ 利水ダムを含む既存ダムについては、ダムの洪水調節機能を最大限活用するため、、事前放流の取組を推進する。<国土交通省>

○ ダム上流域の降雨量やダムへの流入量の予測精度の向上を図ることで、ダム操作の更なる高度化に努める。<国土交通省>

○ 内水対策について、水位情報等を活用した下水道管渠のネットワークや排水ポンプの運用方法について検討する。<国土交通省>

イ.河川や下水道の施設の一体的な運用

○ 河川及び下水道の施設の一体的な運用の推進を図るため、河川及び下水道の既存施設を接続する連結管や兼用の貯留施設等の整備を推進する。<国土交通省>

ウ.決壊に至る時間を引き伸ばす堤防の構造

○ 既に築造されている堤防の信頼性を向上させる観点も含めて、堤防が決壊に至るまでの時間を引き延ばし、避難等のための時間をできる限り確保することを可能とするような堤防の構造について検討する。<国土交通省>

エ.高規格堤防整備事業の推進

○ 人口・資産等が高密度に集積する首都圏及び近畿圏のゼロメートル地帯等の低平地において、施設の能力を上回る洪水による越水、浸透等に対して堤防の決壊を防ぐことができる高規格堤防の整備を推進する。<国土交通省>

オ.大規模な構造物の点検

○ ダム・堰など大規模な構造物については、想定最大外力など、設計外力を上回る外力が発生した場合を想定し、構造物の損傷などの有無や、その損傷による影響について点検し、必要に応じて対策を実施する。<国土交通省>

② まちづくり・地域づくりとの連携

今後、都市や中山間地において、人口減少等を踏まえたまち・地域の再編が進められていく機会をとらえ、災害リスクを考慮したまちづくり・地域づくりの促進により減災を図る。

ア.総合的な浸水対策総合的な浸水対策

○ 流域のもつ保水・遊水機能を保全・確保・向上するなどの総合的な浸水対策を推進する。<国土交通省>

イ.土地利用状況を考慮した治水対策

○ 輪中堤等によるハード整備と土地利用規制等によるソフト対策を組み合わせるなど、関係部局が連携し、地域の意向も踏まえながら土地利用状況を考慮した治水対策を推進する。<国土交通省>

ウ.災害リスク情報のきめ細かい提示・共有等

○ まちづくり・地域づくりや民間投資の検討、住まい方の工夫に資するよう、災害リスク情報を受け手に分かりやすい形で提示するとともに、関係機関の協力を得つつ、様々な機会をとらえて提示する取組を進める。<国土交通省>

エ.災害リスク.災害リスク分析を通じた安全なまちづくり・住まい方

○ コンパクトなまちづくりの推進と併せ、災害リスクの分析を適切に行い、立地適正化計画・防災指針の作成等を通じ、災害リスクの低い地域への居住や都市機能の誘導を促す。<国土交通省>

○ 3D都市モデル(PLATEAU)を活用した災害ハザード情報等の3次元表示により、災害リスクを見える化することで、住民の防災意識の向上につなげるとともに、これを活用した防災計画の立案等、防災対策の高度化を図る。<国土交通省>

オ.まちづくり・地域づくりと連携した浸水軽減対

○ 災害リスクが比較的高いものの、既に都市機能や住宅等が集積している地域については、適切な役割分担の下、災害リスクを軽減するために河川の整備に加え、地方公共団体・民間による雨水貯留浸透施設、止水板の設置などを重点的に推進する。<国土交通省>

カ.まちづくり・地域づくりと連携した氾濫拡大の抑制

○ 二線堤、自然堤防、連続盛土等の保全、市町村等による二線堤の機能を有する盛土構造物の配備など、まちづくり・地域づくりと連携した氾濫の拡大を抑制するための仕組みを検討する。<国土交通省>

○ ゼロメートル地帯等には人口・資産が多く集積し、ひとたび大水害が発生すると広範囲で長期間の浸水が想定される。そのため、高台の拠点を確保し、想定される浸水深よりも高い位置にある道路や通路等で線的・面的につなぐことで、命の安全・浸水深よりも高い位置にある道路や通路等で線的・面的につなぐことで、命の安全・最低限の避難生活水準を確保し、さらには浸水区域外への避難を可能とする「高台まちづくり」を推進する。

キ.地下空間の浸水対策

○ 地下空間からの避難行動の時間の確保等のために、地下街等の施設管理者による止水板等の設置や適切な避難誘導など、地下空間への浸水防止対策や避難確保対策を促進する。<国土交通省>

③ 流域治水におけるグリーンインフラの活用推進等

流域治水の推進に当たっては、自然環境が有する多様な機能を活かしたグリーンインフラの活用を推進し、遊水地等による雨水貯留・浸透機能の確保・向上を図るとともに、災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を積極的に保全又は再生することにより、生態系ネットワークの形成を推進する。<国土交通省>

ア.雨水貯留・浸透施設の整備等

○ 特定都市河川浸水被害対策法に基づく、河川・流域指定並びに流域水害対策計画の策定や雨水貯留浸透施設等の整備を実施する。また雨水の貯留・浸透により副次的に健全な水循環の確保にも寄与する。<国土交通省>

イ.流域治水における生態系ネットワークの形成等

○ 流域治水の取組において、自然環境が有する多様な機能を活かすグリーンインフラの考えを推進し、災害リスクの低減に寄与する生態系の機能の積極的な保全又は再生を図る。また、かわまちづくり等による魅力ある水辺空間の創出や、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観の保全・創出、湿地再生等を推進する。<国土交通省>

ウ.グリーンインフラ官民連携プラットフォームの活動拡大

○ 産学官の多様な主体が参加するグリーンインフラ官民連携プラットフォームにおけるグリーンインフラの社会的な普及、グリーンインフラ技術に関する調査研究、資金調達手法等の検討等の活動の拡大を通じて、分野横断・官民連携によるグリーンインフラの社会実装を推進する。また、グリーンインフラの計画・整備・維持管理等に関する技術開発を推進するとともに、地域モデル実証等を行い、地域への導入を推進する。さらに、グリーンインフラ技術の社会実装の拡大を通じて、グリーンボンド等の民間資金調達手法の活用により、グリーンファイナンス、ESG投資の拡大を図る。<国土交通省>

エ.生態系を活用した防災・減災

○ 過去に湿地や氾濫原であった場所を再生することで、危険な自然現象への暴露を回避しつつ、生態系が持つ保水・貯留機能を流域全体で強化するため、生態系機能ポテンシャルマップの作成、技術的知見等の情報提供を行い、流域の自治体等による取組等を促進する。<環境省>

④ 避難、応急活動、事業継続等のための備え

施設の能力を上回る外力に対して、的確な避難、円滑な応急活動、事業継続等のための備えの充実を図る。特に、施設の能力を大幅に上回る外力に対しては、最悪の事態を想定し、国、地方公共団体、公益事業者、企業等が、主体的に事態を想定し、国、地方公共団体、公益事業者、企業等が、主体的に連携して、ソフト対策に重点を置いて対応する。

ア.観測等の充実

○ 河川や下水道等の水位等を確実に観測するよう観測機器の改良や配備の充実を図る。<国土交通省>

イ.水防体制の充実・強化

○ きめ細かく設定した重要水防箇所や危険箇所の洪水時の情報を水防管理者に提示する。また、洪水だけでなく、内水及び高潮についても水位を周知する。さらに、洪水や内水、高潮及び津波に関する活動拠点の整備や水防資機材の備蓄を行う。<国土交通省>

ウ.河川管理施設等を活用した避難場所等の確保

○ 円滑かつ迅速な避難等に資するため、堤防や河川防災ステーション等の河川管理施設等を活用して、避難場所や避難路の確保に努める。<国土交通省>

エ.避難の円滑化、迅速化を図るための事前の取組の充実

○ 水害ハザードマップについて住民等から見て分かりやすい表示となるよう努めるとともに、街のなかに、その場所において想定される浸水深、その場所の標高、退避の方向、避難場所の名称や距離等を記載した標識の設置を進める。<国土交通省>

オ.防災関係機関、公益事業者等の業務継続計画策定等

○ 防災関係機関等が、応急活動、復旧・復興活動等を継続できるよう、市役所等の庁舎や消防署、警察署、病院等の重要施設の浸水防止対策の実施やバックアップ機能の確保、業務継続計画の策定等を促進するための方策を検討する。<総務省、国土交土交通省>

○ 公益事業者が被害をできる限り軽減するとともに、早期に復旧できるよう、タイムラインへの参加を促す方策を検討する。<国土交通省>

カ.避難を促す分かりやすい情報の提供

○ 雨量の増大や洪水による河川水位の上昇、台風・低気圧による高潮等の危険の切迫度が住民に伝わりやすくなるよう、防災情報と危険の切迫度との関係を分かりやすく整理して提供するなど、情報の受け手にとって分かりやすい情報の提供に努める。<国土交通省>

キ.応急活動、事業継続等のための備えの充実

〇 都市開発などの機会を捉え、地区レベルでのエネルギーの面的利用を推進し、災害時の業務継続に必要なエネルギーの安定供給を図る。<国土交通省>

ク.避難や救助等への備えの充実

○ 大規模水害時等における死者数・孤立者等の被害想定を作成し、この被害想定を踏まえ、国、地方公共団体、公益事業者等の関係機関が連携した避難、救助・救急、緊急輸送等ができるよう、これら関係機関が協働してタイムラインを策定する。<警察庁、国土交通省>

ケ.避難情報の的確な発令のための市町村長への支援

○ 非常時において国・都道府県が市町村をサポートする体制・制度を充実させるとともに、平時においても、危険箇所等の災害リスクに関する詳細な情報を提供する。<国土交通省>

コ.災害時の市町村への支援体制の強化

○ TEC-FORCE(Technical Emergency Control FORCE:緊急災害対策派遣隊)、D.Waste-Net(災害廃棄物処理支援ネットワーク)等が実施する市町村の支援体制を強化する。<国土交通省、環境省>

サ.氾濫拡大の抑制と氾濫水の排除

○ 大規模な水害においては、氾濫被害の拡大防止や早期の復旧・復興のため、迅速に浸水を解消することが極めて重要であり、氾濫水排除に係る計画をあらかじめ検討するとともに、氾濫水を早期に排除するための排水門の整備や排水機場等の耐水化、燃料補給等のためのアクセス路の確保、予備電源や備蓄燃料の確保等を推進する。<国土交通省>

シ.企業の防災意識の向上、水害BCPの作成等

○ 企業等の被害軽減や早期の業務再開を図るため、水害を対象としたBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の作成や浸水防止対策の実施を促進するための方策について検討する。<国土交通省>

ス.各主体が連携した災害対応の体制等の整備

○ 施設の能力を大幅に上回る外力により大規模な氾濫等が発生した場合を想定し、国、地方公共団体、公益事業者等が連携して対応するため、多機関連携型の水害対応タイムラインを作成・運用する。<国土交通省>

セ.災害廃棄物等処理への備えの充実

○ 災害時における一般廃棄物処理事業の継続的遂行に関する観点を含めた災害廃棄物処理計画等の策定を推進する。また、災害廃棄物等を適正かつ円滑・迅速に処理できる強靱な廃棄物処理システムを構築するため、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルで取組を進める。<環境省>

ソ.調査研究の推進

○ できるだけ手戻りのない施設の設計を行うに当たって、気候変動による影響をより精度よく想定する必要があるため、気候変動予測技術の向上等に取り組む。<国土交通省>

○ 気候変動による海面水位の上昇に伴う高潮・高波による被災リスクの上昇や、内水の排水条件が厳しくなることに伴う浸水などへの影響を明らかにする。また、気候変動に伴う土砂や流木の流出量の変化等について検討する。<国土交通省>

○ 土砂についても流出量が増大することが予測されるため、河道等に及ぼす影響についての研究も推進する。<国土交通省>

○ 気候変動による水害リスクの増大に対し、例えば水害保険等の活用状況を分析するなどにより、既存の制度・手法等にとらわれない新たな適応策の可能性についての研究を推進する。<国土交通省>

5)農業分野における対策

○ 集中豪雨の増加等に対応するため、排水機場や排水路等の整備により農地の湛水被害等の防止を推進するとともに、湛水に対する脆弱性が高い施設や地域の把握、ハザードマップ策定などのリスク評価の実施、施設管理者による業務継続計画の策定の推進など、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、農村地域の防災・減災機能の維持・向上を図る。その際、既存施設の有効活用や地域コミュニティ機能の発揮等により効率的に対策を行う。<農林水産省>【再掲】

6)観測・予測・情報提供による防災・減災対策

○ 水災害の激甚化・頻発化に対応するには、線状降水帯等による集中豪雨や台風に対する観測体制の強化・予測精度の向上といったソフト対策の強化も重要である。大雨特別警報発表の技術的改善や、災害発生の危険度を示す危険度分布(キキクル)等によって住民の避難行動を促すとともに、その適切な利活用について平常時からの取組を一層強化・推進することにより、気象災害等による死傷者数の低減を図る。<国土交通省>

〇 台風・集中豪雨の監視・予測、航空機・船舶の安全航行、地球環境の監視や火山監視等、国民の安全・安心の確保を目的とした、切れ目のない気象衛星観測体制を確実にするため、2029年度目途の後継機の運用開始に向け、2023年度を目途に後継機の製造に着手する。後継機には高密度観測等の最新技術を取り入れ、防災気象情報の高度化を通じて自然災害からの被害軽減を図る。<国土交通省>

2.沿岸(高潮・高波等)に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(海面水位の上昇)

○日本周辺の海面水位は上昇傾向(+2.8[1.7〜4.0]mm/年:1993~2015年、+4.19

[-1.10~+8.20]mm/年:2004年~2019年)にあったことが、潮位観測記録の解析結果

より報告されている。

(高波・高潮)

○ 現時点では、気候変動による海面水位の上昇や台風の強度の増加が高潮や高波に既に及ぼしている影響又はそれに伴う被害に関しては、具体的な事象や研究結果は確認できていない。

○ 高潮については、極端な高潮位の発生が、1970年以降全世界的に増加している可能性が高いことが指摘されている。

○ 高波については、観測結果より、有義波高の最大値が冬季は日本海沿岸で、秋季は東北太平洋沿岸で増加傾向であること等が確認されているが、これが気候変動によるものであるとの科学的根拠は未だ得られていない。

(海岸侵食)

○ 現時点では、気候変動による海面水位の上昇や台風の強度の増加等が、既に海侵食に影響を及ぼしているかについては、具体的な事象や研究結果は確認できていない。

《将来予測される影響》

(海面水位の上昇)

○ 1986〜2005年平均を基準とした、2081〜2100年平均の世界平均海面水位の上は、RCP2.6シナリオの場合0.26〜0.53m、RCP8.5シナリオの場合0.51〜0.92mの範囲となる可能性が高いとされており、温室効果ガスの排出を抑えた場合でも一定の海面水位の上昇は免れない。

○ 80cm海面が上昇した場合、三大湾(東京湾・伊勢湾・大阪湾)のゼロメートル地帯の面積が現在の1.6倍に増加するなど、影響の範囲は全国の海岸に及ぶ。

○ 海面水位の上昇が生じると、台風、低気圧の強化が無い場合にも、現在と比較して高潮、高波、津波による被災リスクや海岸の侵食傾向が高まる。

○ 河川の取水施設、沿岸の防災施設、港湾・漁港施設等の機能の低下や損傷が生じ、沿岸部の水没・浸水、海岸侵食の加速、港湾及び漁港運用への支障、干潟や河川の感潮区間の生態系への影響が想定される。

(高波・高潮)

○ 気候変動により海面水位が上昇する可能性が非常に高く、それにより高潮の浸水リスクは高まる。

○ 高潮をもたらす主要因は台風であり、気候変動による台風の挙動(経路、規模等)を予測し、それを高潮の将来変化に反映させるための技術開発が近年精力的に進められている。それに基づく検討結果の多くは気候変動による高潮偏差の増大を支持するものとなっている。

○ 高波をもたらす主要因は台風と冬季の発達した低気圧であり、気候変動による台風の挙動(経路、規模等)を予測し、それを予測に反映させるための技術開発が近年精力的に進められている。台風の強度や経路の変化等による高波のリスク増大の可能性が予測されている。

○ 河川の取水施設や沿岸の防災施設、港湾・漁港施設等の構造物などでは、海面水位の上昇や台風や冬季の発達した低気圧の強度が増加して潮位偏差や波高が増大すると、安全性が十分確保できなくなる箇所が多くなると予測されている。

(海岸侵食)

○ 気候変動による海面水位の上昇によって、海岸が侵食される可能性が高い。具体的には、2081~2100年までに、RCP2.6シナリオでは日本沿岸で平均62%(173km²)の砂浜が、RCP8.5シナリオでは平均83%( 232km²)の砂浜が消失するとの報告例がある。

○ 気候変動によって台風の強度が増加すると荒天時の波高が増加する。一方、平均波高は長期的に減少するという研究成果もある。荒天時の波高の増大と平均波高の減少の両方を考慮する必要があるが、波浪特性の長期変動が砂浜に与える影響は、海面水位の上昇が与える影響よりも小さい可能性が高く、気候変動によっては砂浜がより侵食される可能性が高い。

○ 気候変動による極端な降水の頻度及び強度の増大に伴い河川からの土砂供給量が増大すると、河口周辺の海岸を中心に、侵食が緩和されたり、土砂堆積が生じたりする可能性がある。

・海面上昇[重大性:●、緊急性:▲、確信度:● ]

・高潮・高波[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

・海岸侵食[重大性(RCP2.6/8.5)●/●、緊急性:▲、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

(1)港湾

○ 港湾は水際線に存在する特性上、気候変動に対して将来にわたり適応せざるを得ないことから、今後、整備する新規施設や今後とも長期にわたり供用が想定される既存施設については、供用期間中に影響が生じる可能性が高いと考えることが妥当である。

○ 「今後の港湾におけるハード・ソフト一体となった総合的な防災・減災対策のあり方」(令和2年8月、交通政策審議会答申)を踏まえるとともに、堤外地及びその背後地の社会経済活動や土地利用を勘案しつつ、軽減すべきリスクの優先度に応じ、ハード・ソフトの適応策を最適な組み合わせで戦略的かつ順応的に推進することで、堤外地・堤内地における高潮等のリスク増大の抑制、及び港湾活動の維持を図る。また、各種制度・計画等に気候変動への適応策を組み込み、様々な政策や取組との連携による適応策の効果的な実施(適応策の主流化)を促す。

(2)海岸

○ 海象のモニタリングを行いながら気候変動による影響の兆候を的確に捉え、背後地の社会経済活動及び土地利用の中長期的な動向を勘案して、防波堤・防潮堤による「一線防御」からハード・ソフト施策の総動員による「多重防御」への転換を図り、最適な組み合わせで戦略的かつ順応的に進めることで、高潮等の災害リスク増大の抑制及び海岸における国土の保全を図る。

○ また、気候変動により増大する外力として、設計高潮位については平均海面水位の上昇量や潮位偏差の増加量が、設計波については波浪の強大化等が予測されている。このため、海岸保全の目標とするこれらの外力を過去の潮位などの実績に基づくものから将来予測に基づく潮位などを考慮したものに見直す必要がある。

○ 集水域と河川、氾濫域を含む流域全体で、かつ、これまで関わってこなかった流域の関係者まで含め流域全員参加で被害を軽減させていく「流域治水」の取組を進めていく。また、河口付近では、河川堤防と海岸堤防のすり付け、河川計画に用いている水位の設定等、河川・海岸で連続的に防護機能を確保するための調整・検討が必要である。

(3)漁港・漁村

○ 漁港は沿岸域に位置しており、気候変動に伴う海面水位の上昇や潮位偏差、波高の増大によって施設の安全性・利便性に大きな影響を与えることが予測されていることから、戦略的かつ順応的な適応策を講ずる必要がある。

○ 今後、激甚化が懸念される台風・低気圧災害等に対する防災・減災対策に取り組み、災害に強い漁業地域づくりを推進する。

(4)海岸防災林

○ 海岸防災林の整備等を推進する。

(5)空港

○ 気候変動の影響に伴う平均海面水位の上昇、高波等の外力の増大による空港施設への影響を検討し、空港の防災・減災対策へ反映する。

【基本的な施策】

(1)港湾

1)港湾に関する共通事項(モニタリング、影響評価、情報提供等)

○ 気象・海象のモニタリングを実施し、高潮・高波浸水予測等のシミュレーションを行って気候変動の影響を定期的に評価し、関係機関に情報提供する。強い台風の増加に伴う高潮偏差の増大・波浪の強大化、海面水位の上昇による災害リスクの高まりをハザードマップ等により港湾の利用者等に周知するとともに、海面水位の上昇に伴う荷役効率の低下等の影響を評価する。<国土交通省>

○ 堤外地の企業等や背後地の住民の避難に関する計画の作成、訓練の実施等を促進する。加えて堤外地においては、避難と陸閘の操作規則(海岸管理者が策定)との整合をはかり、利用者等の円滑な避難活動を支援する。<国土交通省>

2)防波堤等外郭施設及び港湾機能への影響に対する適応策

○ モニタリングの結果等を踏まえた外力の見直しが必要となる場合、それに対応した構造の見直しにより、係留施設や防波堤の所要の機能を維持する。防波堤、防潮堤等の被災に伴い、人命、財産又は社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれのある場合に備え、設計外力を超える規模の外力に対しても減災効果を発揮できるよう、粘り強い構造に係る整備等を推進する。<国土交通省>

○ 気候変動の影響で航路・泊地の埋没の可能性が懸念される場合、防砂堤等を設置するなどの埋没対策を実施する。災害発生後も港湾の重要機能を維持するため、港湾の事業継続計画(港湾BCP)に基づく訓練に関係者が協働して取り組むとともに、適宜見直しながら拡充を目指す。<国土交通省>

3)堤外地(埠頭・荷さばき地、産業用地等)への影響に対する適応策

○ 民有施設を含めた、海岸保全施設や港湾施設の機能を把握・評価し、リスクの高い箇所の検討等に資する情報を整備する。気候変動による漸進的な外力増加に対して大幅な追加コストを要しない段階的な適応を行えるよう、最適な更新等を行う考え方を検討する。<国土交通省>

○ 避難判断に資するために、観測潮位や波浪に係る情報を地域と共有する。<国土交通省>

○ 企業等による自衛防災投資の促進などを図るため、災害リスクに関するきめ細かな情報提供について検討する。<国土交通省>

○ コンテナターミナル等の高潮の浸水により、コンテナの航路・泊地への流出や荷役機械の電気系設備等の故障等により、港湾機能が著しく低下することから、平成29年度に作成した「港湾の堤外地等における高潮リスク低減方策ガイドライン」に基づく事前防災行動を時系列に整理した「フェーズ別高潮対応計画」の策定・実行とともに、コンテナの固縛や電気系設備の嵩上げ等、港湾における高潮対策を推進する。<国土交通省>

4)背後地(堤内地)への影響に対する適応策

○ 民有施設を含めた、海岸保全施設や港湾施設の機能を把握・評価し、リスクの高い箇所の検討等に資する情報を整備する。<国土交通省>

○ 気候変動による漸進的な外力増加に対して大幅な追加コストを要しない段階的な適応を行えるよう、最適な更新等を行う考え方を検討する。<国土交通省>

○ 民有施設(胸壁、上屋、倉庫、緑地帯等)を避難や海水侵入防止・軽減のための施設として活用を図るための検討を行う。<国土交通省>

○ 中長期的には、臨海部における土地利用の再編等の機会を捉えた防護ラインの再構築とともに、高潮等の災害リスクの低い土地利用への転換を進める。<国土交通省>

5)桁下空間への影響に対する適応策

○ 将来の海面水位の上昇が有意に認められる場合には、海面水位の上昇量を適切に把握するとともに、通行禁止区間・時間を明示し、橋梁・水門等と船舶等との衝突防止を図るとともに、クリアランスに課題の生じるおそれのある橋梁の沖側に係留施設を配置するなど、港湾機能の再配置を図る。<国土交通省>

(2)海岸

1)増大する外力に対する施策の戦略的展開

○ 気候変動の影響による平均海面水位の上昇は既に顕在化しつつあり、今後、更なる平均海面水位の上昇や台風の強大化等による沿岸地域への影響が懸念されていることを踏まえ、地域の自然的・社会的条件及び海岸環境や海岸利用の状況並びに気候変動の影響による外力の長期変化等を調査、把握し、それらを十分勘案して、災害に対する適切な防護水準を確保するとともに、海岸環境の整備と保全及び海岸の適正な利用を図るため、施設の整備に加えソフト面の対策を講じ、これらを総合的に推進する。<農林水産省、国土交通省>

2)超過外力への対応

○ 背後地の状況等を考慮して、設計の対象を超える津波、高潮等の作用に対して施設の損傷等を軽減するため、粘り強い構造の堤防、胸壁及び津波防波堤の整備を推進する。<農林水産省、国土交通省>

3)進行する海岸侵食への対応の強化

○ 将来的な気候変動や人為的改変による影響等も考慮し、継続的なモニタリングにより流砂系全体や地先の砂浜の変動傾向を把握し、侵食メカニズムを設定し、将来変化の予測に基づき対策を実施する。さらに、その効果をモニタリングで確認し、次の対策を検討する「予測を重視した順応的砂浜管理」を行う。<農林水産省、国土交通省>

○ 海岸地形のモニタリングの充実や沿岸漂砂による長期的な地形変化に対する全国的な気候変動の影響予測を行いつつ、海岸部において、沿岸漂砂による土砂の収支が適切となるよう構造物の工夫等を含む取組を進めるとともに、海岸部への適切な土砂供給が図られるよう河川の上流から海岸までの流砂系における総合的な土砂管理対策とも連携する等、多様な関係機関との連携の下に広域的・総合的な対策を推進する。<農林水産省、国土交通省>

4)広域的・総合的な視点からの取組の推進

○ 一体的に社会経済活動を展開する地域全体の安全の確保、快適性や利便性の向上に資するため、海岸背後地の人口、資産、社会資本等の集積状況や土地利用の状況、海岸の利用や環境、海上交通、漁業活動等を勘案し、関係する行政機関とより緊密な連携を図り、広域的・総合的な視点からの取組を推進する。特に、気候変動の影響による平均海面水位の上昇については、長期的視点からこうした取組を進めるうえで目安となる平均海面水位を社会全体で共有するよう努める。<農林水産省、国土交通省>

5)調査・研究の推進

○ 気候変動の影響による将来予測に関する最新の知見を継続的に共有し、対策に最新の知見を見込むことができるような体制の構築、効果的な防災・減災対策に関する調査研究、広域的な海岸の侵食や影響予測に関する調査研究、適切な維持及び修繕に関する調査研究、生態系等の自然環境に配慮した整備に関する調査研究、新工法等新たな技術に関する研究開発等を推進していく。<農林水産省、国土交通省>

〇 民間を含めた幅広い分野と情報の共有を図りつつ、互いの技術の連携を推進するとともに、国際的な技術交流等を図り、広くそれらの成果の活用と普及に努める。<農林水産省、国土交通省>

(3)漁港・漁村

○ 海面水位の上昇や異常気象による潮位偏差、波高高波の増大増加などに対応するため、気候変動による影響の兆候を的確に捉えるための潮位や波浪のモニタリングを行うとともに、その結果を踏まえて、気候変動の影響による外力の長期変化も考慮した漁港施設の整備を計画的に推進する。<農林水産省>

○ 各漁業地域がおかれた状況や気候変動による影響等を踏まえ、ハード・ソフト両面から防災・減災対策を促進し、海岸保全施設の整備等のハード対策に加え、ハザードマップの作成等のソフト対策を推進する。<農林水産省>

○ 気候変動による影響を明示的に考慮した海岸保全対策に転換するため、将来的に予測される平均海面水位の上昇などの外力の長期変化にも対応した海岸保全基本計画の変更を推進する。<農林水産省>

(4)海岸防災林

○ 海岸防災林等の整備を強化し、津波・風害の災害防止機能の発揮を図る。<農林水産省>

(5)空港

○ 気候変動に伴う平均海面水位の上昇諒、高波等を適切に把握し、高潮発生時等の空港施設(基本施設※、廢水施設及び護岸等)への影響を検討することにより、台風等に備えた浸水対策等を実施する。

※基本施設:滑走路、着陸帯、誘導路及びエプロン<国土交通省>

○ 施設により防護仕切れないケースにも備えるため空港BCP(第7節参照)には浸水等により空港の各種機能が喪失した場合の対応計画をも併せて策定し、ハード・ソフト一体で取り組む。<国土交通省>

3.山地(土砂災害)に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 気候変動の土砂災害に及ぼす影響を直接分析した研究や報告は、現時点で多くはない。しかし、最近の降雨条件と土砂災害の実態、最近発生した土砂災害、特に多数の深層崩壊や同時多発型表層崩壊・土石流、土砂・洪水氾濫による特徴的な大規模土砂災害に関する論文や報告は多く発表されている。これらの大規模土砂災害をもたらした特徴のある降雨条件が気候変動によるものであれば、気候変動による土砂災害の形態の変化が既に発生しており、今後より激甚化することが予想される。

《将来予測される影響》

○ 降雨条件が厳しくなるという前提の下で状況の変化が想定されるものとして以下が挙げられる。(ここで、厳しい降雨条件として、極端に降雨強度の大きい大雨及びその高降雨強度の長時間化、極端に総降雨量の大きい大雨、広域に降る大雨などを表す。)

・ 集中的な崩壊・がけ崩れ・土石流等の頻発、山地や斜面周辺地域の社会生活への影響

・ ハード対策やソフト対策の効果の相対的な低下、被害の拡大

・ 深層崩壊等の大規模現象の増加による直接的・間接的影響の長期化

・ 現象の大規模化、新たな土砂移動現象の顕在化による既存の土砂災害警戒区域以外への被害の拡大

・ 河川への土砂供給量増大による治水・利水機能の低下

・ 森林域で極端な大雨が発生することによる流木被害の増加

・ 空港の浸水被害による運用への影響

・土石流・地すべり等[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 土砂災害は複雑な誘因、素因が連関して発生し、正確な発生予測が難しいことから、ハード対策とソフト対策を一体的に進めていくとともに、大規模化・頻発化する土砂災害に対する計画の見直し等を進めていく。

○ 近年、気候変動に伴う豪雨により全国で多発が想定される多発が想定される、斜面崩壊や土石流、河川流量増加の同時発生でリスクが高まると考えられる土砂・洪水氾濫に対しては、土砂・洪水氾濫危険流域の抽出等の土砂・洪水氾濫リスクの評価手法を検討・整理のうえ、よりリスクの高い流域において砂防堰堤や遊砂地等の事前防災対策を実施することで、効果的な整備を推進する。

○ 土砂・洪水氾濫、土石流等の発生時に、大量に発生・流下する流木に対しても、効果的な施設整備を推進する。

○ 気候変動に伴う降雨特性の変化により土砂移動の頻発化が懸念され、砂防堰堤の整備等の事前防災の着実な進捗のみならず、砂防堰堤等の維持管理を実施するタイミングや実施頻度にも検討・見直しが生じる可能性があることから、対応策の検討を進める。

○ 土砂災害の頻発化・激甚化に対しては、ライフライン・重要交通網・市町村役場等を保全する土砂災害対策の重点的な実施や、気候変動の影響により頻発する土砂・洪水氾濫対策等の推進を図るとともに、土砂災害防止法に基づき土砂災害ハザードマップによるリスク情報の周知を図るなど、ハード・ソフト一体となった対策を推進する。

○ 気候変動に伴い降雨特性が変化することによって、どの地域でどのような土砂移動現象がより一層頻発化し、若しくは新たに顕在化するのかを適切に評価する評価手法を新たに構築する。また、評価結果を社会全体で認識できるようにする。

○「流域治水」としては、流域全員の参画のもと、流域の特性に応じ、

・ 氾濫をなるべく防ぐ・減らすための対策(ハザードへの対応)

なるべく氾濫を防げるよう治水施設の整備等を進める

・被害対象を減少させるための対策(暴露への対応)

治水施設の能力を上回る大洪水が発生した場合を想定して、「危ない土地には住まない」という発想を持ち、被害を回避するための土地利用規制を含めたまちづくりや住まい方の工夫などの被害対象を減少させるための対策

・被害の軽減・早期復旧・復興のための対策(脆弱性への対応)

氾濫の発生に際し、的確・適切に避難できるようにするための体制の充実といった被害軽減のための対策と、被災地における早期の復旧・復興のための対策の3要素を総合的かつ多層的に進める。

○ 気候変動の影響に伴う大雨の発生頻度・強度の増加による空港施設への影響を検討し、空港の防災・減災対策へ反映する。

【基本的な施策】

1)土砂災害の発生頻度の増加への対策

○ 気候変動に伴う土砂災害の発生頻度の増加が予測されていることを踏まえ、人命を守る効果の高い箇所における施設整備を重点的に推進するとともに、避難場所・経路や公共施設、社会経済活動を守る施設の整備を実施する。<国土交通省>

○ 砂防堰堤の適切な除石を行うなど既存施設も有効に活用する。<国土交通省>

○ 施設の計画・設計方法や使用材料について、より合理的なものを検討する。<国土交通省>

〇 地域のくらしに不可欠なライフラインを保全する土砂災害対策を推進する。<国土交通省>

○ 地域の中心集落等を結ぶ重要交通網を保全する土砂災害対策を推進する。<国土交通省>

○ 地域の中心集落における市町村役場等を保全する土砂災害対策を推進する。<国土交通省>

○ 土砂災害を対象としたハード・ソフトの施策を組み合わせ土砂災害に強い地域づくり、及びハザードエリアからの居住移転を推進する。<国土交通省>

○ ハザードマップ等の作成支援などを通じて警戒避難体制の強化を図り、住民や地方公共団体職員に対する普及啓発により土砂災害に関する知識を持った人材の育成を推進する。<国土交通省>

2)警戒避難のリードタイムが短い土砂災害への対策

○ 住民が一刻も早く危険な場所から離れることができるよう、危険な場所や逃げる場所、方向等について周知を徹底するため、実践的な防災訓練、防災教育を通じて、土砂災害に対する正確な知識の普及に努める。<国土交通省>

○ 土砂災害警戒情報の改善、ソーシャルメディア等による情報収集・共有手段の活用等を検討する。<国土交通省>

3)土砂・洪水氾濫への対策

○ スクリーニング結果に基づき、土砂・洪水氾濫の危険性のある流域において、「土砂・洪水氾濫対策計画」を策定する。<国土交通省>

○ 「土砂・洪水氾濫対策計画」に基づき重要度・優先度の高い箇所から対策事業を実施する。<国土交通省>

4)深層崩壊等への対策

○ 人工衛星等の活用により国土監視体制を強化し、深層崩壊等の発生や河道閉塞の有無をいち早く把握できる危機管理体制の整備を推進する。<国土交通省>

○ 空中電磁探査などの新たな技術の活用を推進する。<国土交通省>

○ 河道閉塞等により甚大な被害が懸念される場合の緊急調査及びその結果の市町村への情報提供、関係機関と連携したより実践的な訓練の実施、無人航空機(UAV)の導入など、対応の迅速化、高度化に取り組む。<国土交通省>

5)流木災害への対策

○ 流木捕捉効果の高い透過型堰堤の採用、流木止めの設置、既存の不透過型堰堤を透過型堰堤に改良することなどを検討する。<国土交通省>

○ 林野庁と連携した流木発生ポテンシャル調査に基づく、流域全体における流木対策に取り組む。<国土交通省>

6)都市山麓グリーンベルト整備事業の推進

○ 山麓斜面に市街地が接している都市において、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を保全・創出することを目的に、市街地に隣接する山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成を図る。<国土交通省>

7)上流域の管理

○ 人工衛星や航空レーザ測量によって得られる詳細な地形データ等を定常的に蓄積することで、国土監視体制の強化を図る。<国土交通省>

8)災害リスクを考慮した土地利用、住まい方

○ 土砂災害警戒区域の指定や基礎調査結果の公表を推進することで、より安全な土地利用を促していく。特に、防災拠点や基礎的インフラ・ライフライン施設安全確保を促進する。<国土交通省>

○ 災害リスクが特に高い地域について、土砂災害特別警戒区域の指定による建築物の構造規制や宅地開発等の抑制、がけ地近接等危険住宅移転事業等により当該区域から安全な地域への移転を促進する。<国土交通省>

9)調査研究の推進

○ 土砂災害に関しては、発生情報と降雨状況、土砂災害警戒区域等を組合せ、災害リスクの切迫性をより確実に当該市町村や住民に知らせる防災情報についても研究を推進する。<国土交通省>

○ 雪崩災害については、気候の変化に伴い降雪の量、質等が変化することに加え、近年でも、普段雪の少ない地域において、大雪や極めて急速な積雪の増大等の事例も見られることから、降雪・積雪等に関する観測を続けるとともに大雪や雪崩による災害への影響について、さらに研究を推進する。<国土交通省>

10)災害廃棄物等処理への備えの充実

○ 災害時における一般廃棄物処理事業の継続的遂行に関する観点を含めた災害廃棄物処理計画等の策定を推進する。また、災害廃棄物等を適正かつ円滑・迅速に処理できる強靱な廃棄物処理システムを構築するため、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルで取組を進める。<環境省>

11)空港における降雨強度増加への対応

〇 気候変動に伴う大雨の発生頻度や強度の増加を適切に把握し、大雨時の空港施設(基本施設※、排水施設及び護岸等)への影響を検討することにより、台風や豪雨に備えた浸水対策等を実施する。

※基本施設:滑走路、着陸帯、誘導路及びエプロン<国土交通省>

○ 施設により防護仕切れないケースにも備えるため空港BCP(第7節参照)には浸水等により空港の各種機能が喪失した場合の対応計画をも併せて策定し、ハード・ソフト一体で取り組む。<国土交通省>

4.山地(山地災害、治山・林道施設)に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 過去30年程度の間で50mm/h以上の大雨の発生頻度は約1.4倍に増加しており、人家・集落等に影響する土砂災害もそれに応じて増加している。また、長時間にわたって停滞する線状降水帯による集中豪雨の事例も頻繁に発生しており、それが比較的広範囲に高強度の大雨をもたらすことにより、流域に同時多発的な表層崩壊や土石流を誘発した例も多くみられる。

○ 異常な豪雨による多量の雨水が、地形・地質の影響により土壌の深い部分まで浸透することで、立木の根系が及ぶ範囲より深い部分で崩壊が発生する等、森林の有する山地災害防止機能の限界を超えた山腹崩壊等が発生しており、成熟した森林が失われるリスクも高まっている。山腹崩壊地に生育していた立木と崩壊土砂が、渓流周辺の立木や土砂を巻き込みながら流下し、大量の流木が発生するといった流木災害が頻発化している。

○ 人工林における風害が増加しているかどうかについては、研究事例が限定的であるため、現時点では必ずしも明らかでない。一方で、林木が過密な状態で成長した場合や、強雨によって土壌へ大量の水が供給された場合に、強風に対する力学的抵抗性が減少することが示されている。

《将来予測される影響》

○ 森林には、下層植生や落枝や落葉が地表の侵食を抑制するとともに、樹木が根を張りめぐらすことによって土砂の崩壊を防ぐ機能がある。気候変動にともなう大雨の頻度増加、局地的な大雨の増加は確実視され、崩壊や土石流等の山地災害の頻発が予測されるとともに、これらの機能を大きく上回るような極端な大雨に起因する外力が働いた際には、特に脆弱な地質地帯を中心として、山腹斜面の同時多発的な崩壊や土石流の増加が予想されている。

○ 台風による大雨や強風によって発生する風倒木等は山地災害の規模を大きくする可能性が指摘されている。

・土石流・地すべり等[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

(関連する項目)

・水供給(地表水)[重大性(RCP2.6/8.5)●/●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 大雨や短時間強雨の発生頻度の増加、豪雪等により、山地災害などが激甚化・頻発化する傾向にあることを踏まえ、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」等に基づき治山対策及び森林整備を推進する。

○ 気候変動による水災害リスクの増大に備えるために、流域全体のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う「流域治水」の取組と連携し、河川上流域等での森林整備・保全の取組を各流域で推進する。

○ 尾根部からの崩壊等による土砂流出量の増大、流木災害の激甚化、広域にわたる河川氾濫など災害の発生形態の変化等に対応した治山対策を推進する。

○ 気候変動に伴う豪雨の増加傾向を踏まえ、ハード・ソフト一体的な対策による山地災害への対応、森林・林業分野に与える影響についての調査・研究について推進する。

○ 災害の激甚化、走行車両の大型化、未利用材の収集運搬の効率化に対応できるよう、河川沿いを避けた尾根寄りの線形選択、余裕のある幅員や曲線部の拡幅、土場等の設置、排水機能の強化等により、路網の強靱化・長寿命化を図る。

【基本的な施策】

〇 国民の安全・安心を確保する観点から、森林の有する水源の涵養、災害の防備等の公益的機能を高度に発揮させるため、保安林の配備を計画的に推進する。<農林水産省>

〇 事前防災・減災の考え方に立ち、治山施設の整備や森林の整備等を推進し、山地災害を防止するとともに、これによる被害を最小限にとどめ、地域の安全性の向上を図っている。さらに、山地災害が発生する危険性の高い地区(山地災害危険地区)に係る情報の提供等を通じ、地域における避難体制の整備等と連携し、減災に向けた効果的な事業の実施を図る。<農林水産省>

〇 水源涵養機能の維持増進を通じて流域全体の治水対策等に資するため、河川上流域の保安林において、森林整備や山腹斜面への筋工等の組み合わせによる森林土壌の保全強化を図る。<農林水産省>

○ 山腹崩壊等に伴う流木災害が顕在化していることを踏まえ、流木捕捉式治山ダムの設置や根系等の発達を促す間伐等の森林整備、渓流域での危険木の伐採、渓流生態系にも配慮した林相転換等による流木災害リスクの軽減に取り組む。<農林水産省>

○ 土砂の崩壊や土石流等が発生するおそれのある山地災害危険地区等においては、土砂流出防備保安林等の配備を計画的に進め、伐採・開発等に対する一定の規制措置を講じるとともに、きめ細かな治山ダムの配置などによる土砂流出の抑制を図る。<農林水産省>

〇 また、近年の集中豪雨の発生頻度の増加を考慮した林道施設の整備を推進することにより、施設の防災機能の向上を図る。<農林水産省>

○ 新たな科学的知見や気候モデルの精度向上等も踏まえながら、レーザ測量などを活用した地災害危険地区の把握精度の向上、災害リスクに対応するための施設整備や森林の防災・減災機能を活用した森林管理について検討を行う。<農林水産省>

5.強風等に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 気候変動に伴う強風・強い台風の増加等とそれによる被害の増加との因果関係について、具体的に言及した研究事例は現時点で確認できていないが、気候変動が台風の最大強度の空間位置の変化や進行方向の変化に影響を与えているとする報告もみられる。

○ 気候変動による竜巻の発生頻度の変化についても、現時点で具体的な研究事例は確認できていない。

○ 急速に発達する低気圧は長期的に発生数が減少している一方で、1個あたりの強度が増加傾向にあることも報告されている。

《将来予測される影響》

○ RCP8.5シナリオを前提とした研究では、21世紀後半にかけて気候変動に伴って強風や熱帯低気圧全体に占める強い熱帯低気圧23の割合の増加等が予測されているものの、地域ごとに傾向は異なることが予測されている。

○ また、強い竜巻の頻度が大幅に増加するといった予測例もある。

○ 現時点で定量的に予測をした研究事例は確認できていないものの、強い台風の増加等に伴い、中山間地域における風倒木災害の増大が懸念されている。

・強風等[重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動に伴う強風・強い台風の増加等とそれによる被害の増加との因果関係について、具体的に言及した研究事例は現時点で確認できておらず、科学的知見の集積が必要である。

【基本的な施策】

○ 上記の通り、近未来(2015~2039年)から気候変動による強風や強い台風の増加等が予測されていることから、気候変動に伴う強い台風に対しては、引き続き災害に強い低コスト耐候性ハウスの導入等を推進するとともに、竜巻に対しては、竜巻等の激しい突風が起きやすい気象状況であることを知らせる情報の活用や、自ら空の様子に注意を払い、積乱雲が近づくサインが確認された場合には、身の安全を確保する行動を促進する。<内閣府、農林水産省、国土交通省>

6.適応復興の推進

【適応策の基本的考え方】

○ 災害からの復興に当たっては、単に地域を元の姿に戻すという原形復旧の発想に捉われず、将来のインフラのメンテナンスコストの抑制を図る観点も踏まえつつ、土地利用のコントロールや災害リスクの低い土地への住居・施設の移転を含む気候変動への適応を踏まえた「適応復興」を推進する必要がある。

【基本的な施策】

○ 気候変動対策と防災・減災対策を効果的に連携して取り組むため、「気候変動×防災」の主流化や、「適応復興」の取組の促進するための地方公共団体向けマニュアルを作成する。<環境省>

7.その他共通的な取組

【適応策の基本的考え方】

1)災害廃棄物等処理への備えの充実

○ 災害廃棄物処理計画策定の推進や強靱な廃棄物処理システムを構築するための取組等を進める。

2)調査研究・技術開発

○ 外力の増大が予測されていることを踏まえ、施設への影響を踏まえた堤防等の技術開発等やブルーカーボン生態系等による減災機能の定量評価手法開発などの調査研究を推進する。

【基本的な施策】

1)災害廃棄物等処理への備えの充実

○ 災害時における一般廃棄物処理事業の継続的遂行に関する観点を含めた災害廃棄物処理計画等の策定を推進する。また、災害廃棄物等を適正かつ円滑・迅速に処理できる強靱な廃棄物処理システムを構築するため、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルで取組を進める。<環境省>

2)調査研究・技術開発

○ 超過外力が作用する場合の施設への影響を踏まえた、堤防等の技術開発を進めるとともに、海岸侵食対策にかかる新技術の開発を推進する。<国土交通省>

○ ブルーカーボン生態系等による減災機能の定量評価手法開発など、沿岸分野の適応に関する調査研究を推進する。<国土交通省>

第5節 健康

1.暑熱に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 死亡リスクについて、日本全国で気温上昇による超過死亡(直接・間接を問わずある疾患により総死亡がどの程度増加したかを示す指標)の増加傾向が確認されている。

○ 特に高齢者の超過死亡者数が増加傾向にあるが、15歳未満の若年層においても、気温の上昇とともに外因死が増加する傾向にあることが報告されている。

○ 熱中症について、年によってばらつきはあるものの、熱中症による救急搬送人員、医療機関受診者数・熱中症死亡者数の全国的な増加傾向が確認されている。年齢区分別では、高齢者の熱中症による救急搬送人員・熱中症死亡者が多く、住宅内でく発症し、重症化しやすい傾向にあることが報告されている。また、若・中年層では、屋外での労働時・スポーツ時に発症することが多いことが報告されている。

《将来予測される影響》

○ 死亡リスクについて、日本を含む複数国を対象とした研究では、将来にわたって、気温上昇により心血管疾患による死亡者数が増加すること、2030年、2050年に暑熱による高齢者の死亡者数が増加することが予測されている。

○ 熱中症について、2090年代には、東京・大阪で日中に屋外労働可能な時間が現在よりも30~40%短縮すること、屋外労働に対して安全ではない日数が増加するとが予測されている。また、屋外での激しい運動に厳重警戒が必要となる日数が増加することが予測されている。

○ 熱中症発生率の増加率は、2031~2050年、2081~2100年のいずれの予測も北海道、東北、関東で大きく、四国、九州・沖縄で小さいことが予測されている。RCP4.5シナリオを用いた予測では、東京都23区と仙台市では2050年代に、2000年代と比較して熱中症リスクが2.4倍増加するとされている。年齢別にみると、熱中症発生率の増加率は65歳以上の高齢者で最も大きく、将来の人口高齢化を加味すれば、その影響はより深刻と考えられる。

・死亡リスク[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

・熱中症 [重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 熱中症による救急搬送人員、医療機関受診者数・熱中症死亡者数の全国的な増加傾向が確認されており、また、今後も熱中症リスクの増加が予測されていることから、熱中症の注意喚起や関係団体等への周知等が必要である。なお、情報伝達を行う際に、個人が取るべき対策についての普及啓発等と組み合わせた施策実施が有効である。

○ 特に高齢者の熱中症による救急搬送人員・熱中症死亡者が多いことや、暑熱による高齢者の死亡者数や熱中症発生率が増加することが予測されていることから、高齢者世帯への熱中症の予防情報伝達が重要となる。ただし、高齢者をターゲットとした施策は重要であるが、屋外での労働時・スポーツ時を含め他に対策が必要な対象者の見落としがないように留意すべきである。

○ さらに、屋外での労働時に発症することが多いことが報告されていることから、炎天下等の厳しい条件下での作業を行う際には、機械化等による身体作業強度の低減、連続作業時間の短縮、作業の時間帯の変更などの熱中症予防対策措置を講ずることが重要である。また、作業の軽労化に資する機械の技術開発・改良の検討も必要である。

○ また、実際の適応策導入による成果等の情報を継続的に収集、評価していくことや、先進的な事例については情報を収集することが重要である。

○ 以上のような課題に対処するため、改正適応法において、実行計画の策定、熱中症特別警戒情報の発表、指定暑熱避難施設や熱中症対策普及団体の指定を制度化すること等が規定された。国、地方公共団体、産業界、各種団体及び国民の各主体が一体となって熱中症対策を進めていくことが重要である。

【基本的な施策】

○ 気候変動に伴う熱関連のリスクについては、引き続き科学的知見の集積に努める。<環境省>

○ 気候変動が熱中症に及ぼす影響も踏まえ、熱中症対策推進会議の下で、関係府省庁が連携しながら、救急、教育、医療、労働、農林水産業、スポーツ、観光、日常生活等の各場面において、気象情報及び暑さ指数(WBGT)の提供や注意喚起、予防・対処法の普及啓発、発生状況等に係る情報提供等を適切に実施する。<内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省>

○ 「熱中症警戒アラート」により熱中症の注意喚起を行う。<国土交通省、環境省>

〇 熱中症特別警戒情報について、的確かつ迅速に発表するため運用に関する指針や体制を整備するとともに、都道府県及び報道機関へ通知及び周知する。<環境省>

○ 熱中症に関するセミナーの開催、パンフレット作成等を通じて、国民の意識向上や、企業・地方公共団体の取組の促進を図る。<環境省>

○ 熱中症による救急搬送人員の調査・公表や、予防のための普及啓発を引き続き行っていく。<総務省>

○ 学校における熱中症対策としては、夏季における休業日等の取り扱いを含めた熱中症事故の防止について、引き続き教育委員会等に注意喚起を行っていく。<文科学省>

○ 製造業や建設業等の職場における熱中症対策を引き続き推進していく。<厚生労働省>

○ 訪日外国人旅行者等に対してウェブサイト等で熱中症等関連情報を発信するとともに、災害時情報提供アプリの活用を促す。<国土交通省>

○ 都道府県や関係団体等に対し、水分・塩分のこまめな摂取や吸汗・速乾素材の衣服の利用などの注意事項について農林水産業従事者への周知を依頼するとともに、官民が連携して行う「熱中症予防声かけプロジェクト」を通じ、ポスター・チラシを作成し啓発を行う。<農林水産省>

○ 「熱中症警戒情報(改正適応法施行前は熱中症警戒アラート」の通知機能を追加したMAFFアプリの利用促進等、農林水産業従事者に対する熱中症予防対策について、関係省庁と連携して都道府県や関係団体等と協力し、周知や指導を推進する。<農林水産省>

○ 農林水産業における作業では、炎天下や斜面等の厳しい労働条件の下で行われている場合もあることから、暑熱期に屋外で行われる農作業等の自動化技術の開発を推進し、また、ロボット技術やICTの積極的な導入により、作業の軽労化を図る。<農林水産省>

2.感染症に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(水系・食品媒介性感染症)

○ 海水表面温度の上昇により、夏季に海産魚介類に付着する腸炎ビブリオ菌数が増加する傾向が日本各地で報告されている。

○ 外気温と感染性胃腸炎のリスクの間に相関性があることが報告されており、外気温上昇により、ロタウイルス流行時期が日本各地で長期化していることが確認されている。一方で、外気温が低下すれば、急性下痢発生率が増加することを報告する文献もある。

(節足動物媒介感染症)

○ デング熱を媒介する蚊(ヒトスジシマカ)の生息域が2016年に青森県まで拡大していることが確認されている。

○ 蚊媒介感染症の国内への輸入感染症例は増加傾向にあり、感染症媒介蚊の生息域や個体群密度の変化を考慮すると、輸入感染症例から国内での感染連鎖の発生が危惧される。

○ 実際に、2019年9月に京都府又は奈良県でデングウイルスに感染してデング熱を発症した国内感染例が確認された。デングウイルス感染者の移動により、このような散発例は国内各地で発生するリスクがある。

○ ダニ等により媒介される感染症(日本紅斑熱やつつが虫病等)についても全国的な報告件数の増加や発生地域の拡大が確認されている。

(その他の感染症)

○ インフルエンザや手足口病、水痘、結核といった感染症の発生の季節性の変化や、発生と気象条件(気温・湿度・降水量など)との関連を指摘する報告事例が確認されている。

○ ただし、これらの感染症類(水系・食品媒介性感染症や節足動物媒介感染症を含む)の発症には、社会的要因、生物的要因の影響が大きい点に留意する必要がある。

《将来予測される影響》

(水系・食品媒介性感染症)

○ 大雨によって飲料水源に下水が流入することにより、消化器疾患が発生する可能性が予測されている。

○ RCPシナリオを用いた予測では、RCP4.5シナリオ、RCP8.5シナリオで、21世紀末にかけて日本全国で下痢症の罹患率が低下することが予測されている。

(節足動物媒介感染症)

○ ヒトスジシマカの分布可能域について、RCP8.5シナリオを用いた予測では、21世紀末には気温がヒトスジシマカの生息に必要な条件に達し、北海道の一部にまで分布が広がる可能性が高い。

○ また、ヒトスジシマカの吸血開始日は初春期の平均気温と相関があり、気温上昇が進めば、吸血開始日が早期化する可能性がある。

○ 気温上昇が進めば、ヒトスジシマカやアカイエカの活動期間が長期化する可能性がある。

○ 他にも、気温上昇により、日本脳炎を媒介する外来性の蚊の奄美・沖縄地方での分布可能域が拡大する可能性が指摘されている。

○ 感染症媒介蚊以外の節足動物も気候変動の影響を受ける可能性はあるが、現時点で日本における感染症リスクの拡大に関する具体的、直接的な研究事例は確認されていない。

(その他の感染症)

○ 気候変動に伴い、様々な感染症類の季節性の変化や発生リスクの変化が起きる可能性がある。

○ 降水等の気象要素とインフルエンザ流行の相関性が多数報告されており、これらの知見は、国内で将来予測される降水量の変化の観点からみても、重要と思われる。

○ 一方で、インフルエンザ以外のものも含めた気候の変化によって生じる様々な感染症類について現状では文献が限られているため、今後の将来予測に向け、定量的リスク評価研究の進展が望まれる。

・水系・食品媒介性感染症[重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

・節足動物媒介感染症 [重大性:●、緊急性:●、確信度:▲ ]

・その他の感染症 [重大性:★、緊急性:■、確信度:■ ]

【適応策の基本的考え方適応策の基本的考え方】

○ 節足動物媒介感染症のうち蚊媒介感染症については、発生の予防とまん延の防止の対策に努めるとともに、感染症の発生動向の把握に努める。

○ 感染症と気候変動による感染リスクの関係の研究事例が限られることから、科学的知見の集積に努める必要がある。

【基本的な施策】

○ 感染症と気候変動の関係については研究事例が限られ不確実性を伴う要素も多いことから、今後気候変動による気温の上昇等が予測されていることも踏まえ、気温の上昇と感染症の発生リスクの変化の関係等について科学的知見の集積に努める。<環境省>

○ 引き続き、蚊媒介感染症の発生の予防とまん延の防止のために「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針(平成27年4月年28日)」に基づき、都道府県等において、感染症の媒介蚊が発生する地域における継続的な定点観測、幼虫の発生源の対策及び成虫の駆除、防蚊対策に関する注意喚起等の対策に努めるとともに、感染症発生動向の把握に努める。<厚生労働省>

3.冬季の温暖化

【影響】

《現在の状況》

○ 冬季の気温の上昇に伴い冬季死亡率が低下しているという具体的な研究事例は現時点では確認できていない。

○ 一方、低温による死亡者数・死亡率については、1990年代以降国内で増加傾向にあり、特に高齢者で増え、若年~中年者で減少傾向にある。

○ 近年、暑熱に対する相対危険度は低下している一方、低温に対する相対危険度は増加傾向にあり、極端な低温環境下では、全疾患や循環器病(脳卒中や院外心停止、心筋梗塞)、呼吸器系疾患のリスクが増加する可能性が報告されている。

《将来予測される影響》

○ 国内の冬季の平均気温は、RCP4.5シナリオの場合、2030年代に、全国的に2000年代よりも上昇し、全死亡(非事故)に占める低温関連死亡の割合が減少することが予測されている。一方、影響を最も大きく受ける高齢者人口が増加するため、低温関連死亡数自体は増加することが予測されている。

○ 全球を対象とした予測でも、RCP8.5シナリオにおいて、日本を含む東アジアで、気温の上昇に伴い、低温関連死亡が2010年代に比して減少することが予測されている。

・冬季死亡率等[重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動と低温関連死亡の因果関係について、具体的に言及した研究事例は現段階で限定的であることから、科学的知見の収集が必要である。

【基本的な施策】

○ 気候変動による冬季死亡率の低下の顕在化について、既往の知見が確認できていないことから、科学的知見の集積に努める。<環境省>

4.その他の健康への影響に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(温暖化と大気汚染の複合影響)

○ 温暖化と大気汚染に関して、気温上昇による生成反応の促進その他のメカニズムにより、粒子状物質を含む様々な汚染物質の濃度の変化が報告されている。

○ 近年、光化学オキシダント(Ox)及びその大半を占めるオゾン(O3)の濃度の経年的増加を示す報告が多く、温暖化も一部寄与している可能性が示唆されている。

○ 温暖化に伴うO3濃度上昇は、O3関連死亡(全死亡・心血管疾患死亡・呼吸器疾患死亡)を増加させる可能性がある。

(脆弱性が高い集団への影響(高齢者・小児・基礎疾患有病者等))

○ 暑熱による高齢者への影響が多数報告されている。日射病・熱中症のリスクが高く、発症すれば重症化しやすいことや、気温が上昇すれば、院外心停止のリスクが増すことが報告されている。

○ 熱中症発症リスク・熱中症死亡リスクについては、高齢者と比して屋外で暑熱環境に暴露される可能性が高い20代~60代のリスクが高いことも確認されているほか、所得や社会的地位等の生活水準との関係性を報告する文献も多数見られる。

○ 基礎疾患有病者に関しては、呼吸器疾患を持つ高齢患者にとっては、睡眠時の暑熱環境が呼吸困難感と身体の調子の低下に影響することが報告されている。また、低温に伴う影響として、高齢者に加えて、高血糖症患者の脆弱性が高く、循環器病死亡を発生させるリスクが高いことが報告されている。

(その他の健康影響)

○ 気温上昇による睡眠の質の低下・だるさ・疲労感・熱っぽさなどの健康影響の発生・増加が報告されている。

○ 高温・低温と心血管疾患や呼吸器疾患の発症・救急搬送との関係を指摘する報告もみられる。

○ 国内では知見が限定的であるが、国外を対象とした研究では、高温環境にも伴う急性腎障害の発生や労働者の生産性低下、自然災害に伴う精神疾患の発生が報告されており、国内でも同様の影響が生じることが懸念される。

《将来予測される影響》

(温暖化と大気汚染の複合影響)

○ 産業や交通の集中でオキシダント濃度が高くなっている都市部で、現在のような大気汚染が続いた場合、温暖化によって更にオキシダント濃度が上昇し、健康被害が増加する可能性がある。

○ 複数のRCPシナリオに基づく、オゾンPM2.5による超過死亡率の予測では、東アジアにおいて、RCP6.0シナリオで2050年に、その他のRCPシナリオでは2030年代に超過死亡率がピークに達し、その後減少に転じることが予測されている。

○ 日本を対象とした研究では、2020年代までにオゾン・PM2.5による早期死亡者数が増加することが予測されている。

(脆弱性が高い集団への影響(高齢者・小児・基礎疾患有病者等))

○ 脆弱脆が高い集団への影響について、暑熱により高齢者の死亡者数の増加を予測する文献はみられるものの、基礎疾患有病者や小児への影響についての情報は限定的である。

(その他の健康影響)

○ 2070年代8月の健康影響を予測した文献では、暑熱により、だるさや疲労感、寝苦しさに影響を与えることが指摘されている。

○ 過去の統計データに基づいた研究では、気温上昇に伴い、各種犯罪件数(殺人・暴行・窃盗など)と自殺件数が増加することも推測されている。

○ 気温上昇に伴い、労働効率や教育・学習の効率に影響が生じたり、極端現象(強い台風、熱波・寒波、洪水など)により心身ストレスに影響が生じることが想定されるが、文献は限定的であり、今後、定量的リスク評価に関する研究が望まれる。  

・温暖化と大気汚染の複合影響[重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

・脆弱性が高い集団への影響 [重大性:●、緊急性●、確信度:▲ ]

・その他の健康影響 [重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 「脆弱性が高い集団への影響」については、高齢者の熱中症による救急搬送人員・熱中症死亡者が多いことや、暑熱による高齢者の死亡者数や熱中症発生率が増加することが予測されていることから、高齢者世帯への熱中症の予防情報伝達が必要である。

○ また、環境情報と死亡データなど既存データとの関係性の研究や、健康被害や受診情報の収集、蓄積、管理体制の整備の検討、屋外労働のあり方の検討、自治体レベルでの暑熱対策の成功事例の収集、定量的リスク評価に関する研究など科学的知見の集積が重要である。

【基本的な施策】

○ 近年の研究では、オキシダントに加え、粒子状物質についても気温上昇により濃度が変化する要因があることが報告されていることから、科学的知見の集積を図るとともに、オキシダントや粒子状物質等による大気汚染への対策を引き続き推進する。<環境省>

○ 局地的豪雨等により合流式下水道で越流が起こり、公衆衛生・水質保全・景観に影響を及ぼすことについては、合流式下水道改善対策等の水質改善対策を引き続き推進する。<国土交通省>

○ 脆弱集団への影響、臨床症状に至らない影響等については、気候変動の影響に関する知見が不足していることから、科学的知見の集積を図る。<環境省>

第6節 産業・経済活動

1.金融・保険に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 自然災害の多発・激甚化や自然災害補償の普及・拡大等に伴い、近年の傾向として保険金支払額が著しく増加し、恒常的に被害が出る確率が高まっていることが確認されている。過去の主な風水災害による保険金の支払額上位10件のうち7件を2014年以降の災害が占めており、2018年の台風第21号による損害への支払額が最も大きく1兆円に達している。

○ 保険会社では、従来のリスク定量化の手法だけでは将来予測が難しくなっており、今後の気候変動の影響を考慮し、不確実性を織り込んだリスク評価手法を確立することが必要となっている。

○日本における金融分野への影響については、具体的な研究事例が確認できていない。

《将来予測される影響》

○ 自然災害とそれに伴う保険損害が増加し、保険金支払額や再保険料が増加する可能性がある。ただし、現時点では、日本に関する研究事例は限定的にしか確認できていない。

・金融・保険[重大性:●、緊急性:▲【黄色】、確信度:▲ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 自然災害リスクについて、損害保険会社におけるリスク管理の高度化に向けた取組の推進や、金融・保険業界に対する水害リスク情報や水害の回避・被害軽減のための様々な取組についての情報提供、関連する科学的知見の集積を図る。

○ 自然災害に伴う世界的な損害額の増大は保険業にも影響を及ぼすことが予測されていることから、適応策を検討していくことが重要である。

【基本的な施策】

○ 自然災害リスクについて、今後も引き続き、損害保険各社におけるリスク管理の高度化に向けた取組を促すとともに、モニタリング手法の高度化に取り組む。<金融庁>

○ 引き続き気候変動の影響に関する科学的知見の集積を図る。<環境省>

2.観光業に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 気温の上昇、降雨量・降雪量や降水の時空間分布の変化、海面水位の上昇は、自然資源(森林、雪山、砂浜、干潟等)を活用したレジャーへ影響を及ぼす可能性があるが、現時点で研究事例はスキー場への影響を除いて限定的にしか確認できてない。

○ 観光資源である滝の凍結度や流氷の減少、スキー場における積雪深の減少のほか、厳島神社での台風・高潮被害の増加が報告されている。

《将来予測される影響》

〇 高山性のライチョウ、高山植物冷水性魚類であるイワナ等の生息・生育適域の減少及び一部地域での消失、森林構成樹種の分布や成長量の変化、ニホンジカ等の高標高への分布拡大、亜熱帯域におけるサンゴ礁の分布適域の減少や消失等の自然生態系の変化が予測されており、登山やダイビング等のアウトドアレジャーにも影響を及ぼしうる。

○ スキーに関しては、降雪量及び最深積雪が、2031~2050年には北海道と本州の内陸の一部地域を除いて減少することで、ほとんどのスキー場において積雪深が減少することで、ほとんどのスキー場において積雪深が減少すると予測されている。また、積雪量の減少により来客数・営業利益の減少が予測されている。

○ 積雪量の減少により交通負担が軽減することで社寺への来客数が増加すると予測する研究がある。

○海面水位の上昇により砂浜が減少することで、海岸部のレジャーに影響を与えると予測されている。

・観光業[重大性:★、緊急性:▲、確信度:● ]

・観光業(自然資源を活用したレジャー等)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ スキー場や海岸部の自然資源を活用したレジャーについては、2050年までに主に観光資源の損失等の負の影響が予測されていることから、地域特性を踏まえ適応策を検討していくことが重要であるため、地域における気候変動の影響に関する学的知見の集積を図る。

【基本的な施策】

○ 日本政府観光局の年中無休・24時間対応の多言語コールセンターや災害時情報提供アプリの周知を図るとともに、災害による風評被害を最小限に抑えるため、ウェブサイト等による正確な情報発信を実施する。<国土交通省>

○ 災害時にホテル・旅館等宿泊施設を避難受入施設として迅速に提供できるようにするため、宿泊関係団体等と地方公共団体との協定の締結を促す。<国土交通省>

○ スキー、海岸部のレジャー等の観光業については、地域特性を踏まえ適応策を検討していくことが重要であることから、地域における気候変動の影響に関する科学的知見の集積を図る。<環境省>

3.産業・経済活動(金融・保険、観光業以外)に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

(製造業)

○ 気候変化により、様々な影響が想定されるが、現時点で製造業への影響の研究事例は少数である。

○ ただし、製造業は水害により131億円(2017年)の被害が発生しており、大雨発生回数の増加による水害リスクの増加が指摘されている。

○CDP24気候変動質問書(2017年)の回答では、製造業においては気候変動の影響を事業活動へのリスク要因とみる一方で機会要因とみる企業が多い結果を得ている。

○ 製造業についてはサプライチェーンなどの海外影響が国内の製造業に影響を与えることについて留意する必要がある。

(食品製造業)

○ 農畜水産物は気候変動の影響を受けやすく、それらを原材料とする食料品製造業は、例えば農作物の品質悪化や収量減、収量減、災害によるサプライチェーンを通じて、特に原材料調達や品質に対して影響を受けやすいと考えられ、既に影響が生じ始めている事例が報告されている。

(エネルギー需給)

○ 気候変動によるエネルギー需給への影響に関する具体的な研究事例は少数である。

○ 猛暑による事前の想定を上回る電力需要を記録した報告がみられる。

○ 強い台風によりエネルギー供給インフラが被害を受けエネルギーの供給が停止した報告がみられる。

(商業)

○ 飲料やエアコンの販売数と気温上昇との間に関係があることが報告されている。飲

○ 急激な気温変化や大雨の増加等により季節商品の需給予測が難しくなっている事例、大雨や台風により百貨店やスーパーなどの売上の増減や臨時休業が起きる事例等が報告されている。

(建設業)

○夏季の気温上昇により、コンクリートの質を維持するための暑中コンクリート工事の適用期間が長期化している。

○過去5年間(2016~2020年)の職場における熱中症による死亡者数、死傷者数は、ともに建設業において最大となっている。

(医療)

○現時点で、医療産業への影響について、以下のような影響や報告が一定程度見られる。

・断水や濁水による人工透析への影響や気温と救急搬送人員との関係等に関する研究報告

・熱帯あるいは亜熱帯地域に存在する病原細菌への国内での感染事例

・洪水による浸水が発生した医療機関への被害事例

《将来予測される影響》

(製造業)

○気候変動による製造業への将来影響が大きいと評価している研究事例は乏しいものの、企業が気候変動をリスクやビジネス機会として認識していることを示唆する報告がみられる。

(エネルギー需給)

○ 気候変動によるエネルギー需給への将来影響を定量的に評価している研究事例一定程度あるが、現時点の知見からは、地域的にエネルギー需給量の増減があものの、総じてエネルギー需給への影響は大きいとは言えない。

(商業)

○ 気候変動による商業への将来影響を評価している研究事例は乏しく、商業への影響は現時点では評価できない。

・製造業[重大性★:、緊急性:■、確信度:■ ]

・製造業(食品製造業)[重大性:●、緊急性:▲、確信度:▲ ]

・エネルギー需給[重大性:★、緊急性:■、確信度:▲ ]

・商業(小売業)[重大性:★、緊急性:▲、確信度:▲ ]

・建設業[重大性:●、緊急性●、確信度:■ ]

・医療[重大性:★、緊急性:▲、確信度:■ ]

【適応策の基本的考え方】

○ 「建設業」については、近年の集中豪雨の被害状況をみると、建築計画設計における対応を超えた水害が増えており、建築物単独での浸水・防水対策には、技術的、経済的に限界がある。そのため、建築単位では、ソフト対策である避難対策を行うとともに、地区単位での土木・都市デザインの対策との組合せと連携を含めた対策が必要となる。

○ また、作業従事者等に向けた熱中症対策として、情報の提供・普及啓発が必要である。加えて中長期的には、省人化・無人化技術の開発も必要となる。

○ 近年増加している自然災害によって電力インフラ・システムが被災し、電力の供給がおびやかされるケースが発生していることを踏まえ、電力インフラ・システムの強靱化(電力レジリエンス)を促進する必要がある。

○ 企業等の被害軽減や早期の業務再開を図るため、BCM((Business Continuity

Management:事業継続マネジメント)やBCP((Business Continuity Plan:事業継続計画)の作成が必要である。

○ TCFD提言のガイダンス、取組事例等を踏まえた事業者による気候関連の情報開示の取組を推進する。

○ 食料品製造業については、例えば農作物の品質悪化や収量減、収量減、災害によるサプライチェーンへの影響を通じて、特に原材料調達や品質に対して影響を受けやすいと考えられ、既に影響が生じ始めている事例が報告されていることを念頭に、事業活考えられ、既に影響が生じ始めている事例が報告されていることを念頭に、事業活動の特性を踏まえた適応策の検討が重要である。

○ 気候変動や世界的な原材料の需要拡大等により、輸入原材料の逼迫が予想されることから、持続的かつ安定的な原材料の調達に向け、サプライチェーンにおけるロスの削減や、調達先の多様化やバックアップについて検討する必要がある。

○ 気候変動に伴う「製造業」、「商業」、「建設業」、「医療」への被害の影響について、具体的な研究事例は限定的、又は確認できておらず、科学的知見の集積が必要である。

【基本的な施策】

1)製造業、エネルギー需給、商業、建設業、医療の各分野における適応策

○ 製造業や建設業等の職場における熱中製造業や建設業等の職場における熱中症対策を引き続き推進していく。<厚生労働省>【再掲】

○ 製造業、エネルギー需給、商業、建設業、医療の各分野においては、現時点で気候変動が及ぼす影響についての研究事例が少ないため、科学的知見の集積を図る。加えて、事業者が公表している環境報告書の内容の確認や、事業者へのヒアリング等を通じて、事業者が認識している気候変動の影響についての情報を収集・整理する。また、得られた知見を踏まえて、気候変動の影響に関する情報等の提供を通じ、官民連携により事業者における適応への取組や、適応技術の開発の促進を行う。<経済産業省、環境省>

2)物流における適応策

○ 災害時にラストマイルも含めて支援物資輸送が円滑に行われるよう、地方公共団体と物流事業者体との支援物資の輸送、保管協定等に係る高度化や、民間物資拠点のリストの拡充等を行う。<国土交通省>

○ 鉄道貨物輸送を推進していく観点から、台風・雪崩・土砂災害等により貨物輸送に障害が発生した場合、関係者で連携した対策を講じる。<国土交通省>

4.その他の影響(海外影響、その他)に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 気候変動の影響として予想される海外の影響事例が報告されている。例えば、気候変動による過去30年間の世界の主要穀物の収量低下を推定した事例、海外の穀物生産地で生じた干ばつにより食料価格が上昇した事例がある。2011年のタイ国チャオプラヤ川の洪水では、多数の日系企業に被害をもたらし、ハードディスクのサプライチェーンにおける日系企業の損失を約3,150億円と試算している事例や、日本の損害保険会社が日系企業に支払う保険金の額が2011年の地震・津波に対する額を上回ったと報告している事例がある。

○ 気候安全保障に関する報告や、気候変動に伴うアジア・太平洋地域における影響を踏まえた外交政策の分析・立案が報告されている。

○ 気候変動によって北極海における海氷面積が減少していることを受け、北極海航路の利活用に対する関心が高まっている。

《将来予測される影響》

○ 国外での影響が、日本国内にどのような影響をもたらすかについては、貿易等の要因が関与する間接的な影響が中心であるが、以下のような研究事例が報告されている。

・気温の上昇により、世界全体で見た場合に作物生産量が変動し、価格に影響を及ぼす可能性がある。

・気温上昇や降水量の変化が、コメ、小麦、トウモロコシの貿易量に変化を及ぼす。海外の大麦生産地での干ばつ等によりビール生産向けの大麦供給量の減少と、それに伴う日本を含めた世界的なビール消費量の減少及び価格の上昇が生じる。

・輸入国の土地利用や労働者の健康への気候変動の影響は、日本への農畜産物・工業製品の輸入の脆弱性を高める。

○ 英国での検討事例等を踏まえると、エネルギーや農水産物の輸入価格の変動、海外における企業の生産拠点への直接的・物理的な影響、海外における感染症媒介者の増加に伴う移住・旅行等を通じた感染症拡大への影響等が日本においても懸念される。

○ 欧米等の国際関係や安全保障に気候変動が及ぼす影響に関する報告では、国際支援の弱体化や負担等の増加、資源管理をめぐる対立の激化などが予測されている。

○ 欧米等の研究事例によると、資源管理、環境移民、脆弱な人々への補償や人権等をめぐり、気候変動が国際社会の不安定化を深める可能性や、社会的に不安定な地域の増加による安全保障政策のリスク等が拡大する可能性が示唆されている。

・その他の影響(海外影響等)[重大性:◆、緊急性:■、確信度:▲ ]

・その他の影響(その他)[重大性:―、緊急性:―、確信度:― ]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動が食料、エネルギー、国土、防衛等に及ぼす影響を念頭に、それらへの影響を最小限にする視点からの気候変動適応に関する施策を推進する。

○ その他の影響(海外影響等)においては、気候変動が及ぼす影響は確信度が低いと評価されていることから、科学的知見の集積を図る。

【基本的な施策】

1)海外影響等における適応策

○ 気候変動が我が国の安全保障に及ぼす影響等について引き続き調査を実施する。<環境省>

2)北極海航路の利活用

○ 北極海航路について、利用動向等に関する情報収集や産学官による協議会での情報共有を図る等、利活用に向けた環境整備を進める。<国土交通省>

第7節 国民生活・都市生活

1.インフラ、ライフライン等に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 近年、日本各地で大雨・台風・渇水等による各種インフラ・ライフラインへの影響が確認されている。

○ 大雨による交通網の寸断やそれに伴う孤立集落の発生、電気・ガス・水道等のライフラインの寸断が報告されている。

○ この他、雷・台風・暴風雨などの異常気象による発電施設の稼動停止や浄水施設の冠水、廃棄物処理施設の浸水等の被害、渇水・洪水、濁水や高潮の影響による取水制限や断水の発生、高波による道路の交通障害等が報告されている。

《将来予測される影響》

○ 気候変動がインフラ・ライフラインにもたらす影響について、全球レベルでは、極端な気象現象が、電気、水供給サービスのようなインフラ網や重要なサービスの機能停止をもたらすことによるシステムのリスクに加えて、国家安全保障政策にも影響を及ぼすとする報告がみられる。

○ 国内では、電力インフラに関して、台風や海面水位の上昇、高潮・高波による発電施設への直接的被害や、冷却水として利用する海水温が上昇することによる発電出力の低下、融雪出水時期の変化等による水力発電への影響が予測されている。

○ 水道インフラに関して、河川の微細浮遊土砂の増加により、水質管理に影響が生じることが予測されている。

○ 交通インフラに関して、国内で道路港湾のメンテナンス、改修、復旧に必要な費用が増加することが予測されている。

○ この他に、気象災害に伴って廃棄物の適正処理に影響が生じることや、洪水氾濫により水害廃棄物が発生することや都市ガスの供給に支障が生じることも予測されている。

○ 交通インフラ等への影響に関して、国内の知見は限定的であるものの、国外では、

極端な降雨による鉄道レールへの影響、洪水・土砂災害による道路網への影響、異常気象による通信インフラへの影響が予測されている。

○ 今後、気候変動による短時間強雨や渇水の増加、強い台風の増加等が進めば、これらのインフラ・ライフライン等にも影響が及ぶことが懸念される。

・水道、交通等[重大性:●、緊急性:●、確信度:● ]

【適応策の基本的考え方】

○ 大雨・台風・渇水等による各種インフラ・ライフラインへの影響に対処するため、施設やシステムの強靱化に取り組むとともに、グリーンインフラの考え方を普及さにせ、その社会実装を推進する。

○ 周辺環境にあわせた多重的な対策の実施(蓄電システムや応急給水体制の構築等)や都市臨海部での海面上昇を踏まえたやインフラ・ライフラインのあり方などの検討が必要である。

【基本的な施策】

1)物流における適応策

○ 災害時にラストマイルも含めて支援物資輸送が円滑に行われるよう、地方公共団体と物流事業者団体等との支援物資の輸送、保管協定等に係る高度化や、民間物資拠点のリストの拡充等を行う。<国土交通省>

○ 鉄道貨物輸送を推進していく観点から、台風・雪崩・土砂災害等により貨物輸送に障害が発生した場合、関係者で連携した対策を講じる。<国土交通省>

2)鉄道における適応策

○ 河川の氾濫や津波等の発生により浸水被害が想定される主要な鉄道施設や地下駅の出入口、トンネル等に於いて、止水板や防水扉の整備等を推進する。また、河川に架かる鉄道橋梁の流失・傾斜対策や鉄道に隣接する斜面からの土砂流入防止対策を推進する。<国土交通省>

〇 鉄道事業者における防災情報等の利活用を促進し、適時の計画運休開始・運転再開を支援する。<国土交通省>

○ 新幹線車両の浸水被害を最小化するための車両基地等重要施設の浸水被害、車両避難、予備品を活用した復旧の迅速化等を図る。<国土交通省>

3)港湾における適応策

○ 我が国の経済及び国民生活を支える海上輸送機能を確保する観点から、浸水被害や海面水位の上昇に伴う荷役効率の低下等に対して、係留施設、防波堤、防潮堤等について所要の機能を維持する。<国土交通省>

○ 災害時において港湾の物流機能を維持し、背後産業への影響を最小化するため、施設について所要の機能の維持を図るとともに、企業等に対するリスク情報の提供や港湾の事業継続計画(港湾BCP)に基づく訓練等に取り組む。<国土交通省>

4)海上交通における適応策

○ 台風などの自然災害時においても、我が国の海上輸送を維持し続けることができるよう、航路標識の安定運用を図るため、災害等に強い機器を整備する。<国土通省>

5)空港における適応策

○ 大規模な自然災害が発生した場合においても、我が国の航空ネットワークを維持し続けることができるよう、空港機能確保のための対策を検討する。各空港で策定された空港された空港BCPに基づき、空港関係者やアクセス事業者等と連携し、災害時の対応を行うとともに、訓練の実施等による空港BCPの実効性の強化に取り組む。<国土交通省>

○ 近年の雪質の変化等を踏まえて空港除雪体制を検討し、再構築を図る。<国土交通省>

6)道路における適応策

〇 災害時には早急に被害状況を把握し、道路啓開や応急復旧等により人命救助や緊急物資輸送を支援するとともに、道路システムのDXを通じてICT技術を活用した迅速な情報収集・提供を推進する。また、「道の駅」においても防災機能の強化を実施する。<国土交通省>

○ 近年の激甚化・頻発化する災害や急速に進む施設の老朽化等に対応すべく、災害に強い国土幹線道路ネットワーク等を構築するため、高規格道路ネットワークの整備や老朽化対策等の抜本的な対策、及び河川隣接構造物の流失防止対策、道路法面・盛土対策、無電柱化、高架区間等の緊急避難場所としての活用、ITを活用した道路管理体制の強化などを推進し、防災・減災、国土強靱化の取り組みの加速化・深化を図る。<国土交通省>

7)グリーンインフラを活用した適応策

○ 産学官の多様な主体が参加するグリーンインフラ官民連携プラットフォームにおけるグリーンインフラの社会的な普及、グリーンインフラ技術に関する調査研究、資金調達手法等の検討等の活動の拡大を通じて、分野横断・官民連携によるグリーンインフラの社会実装を推進する。また、グリーンインフラの計画・整備・維持管理等に関する技術開発を推進するとともに、地域モデル実証等を行い、地域への導入を推進する。さらに、グリーンインフラ技術の社会実装の拡大を通じて、グリーンボンド等の民間資金調達手法の活用により、グリーンファイナンス、ESG投資の拡大を図る。<国土交通省>

○ SDGs、ESG投資への関心が高まる中、人材や民間投資の呼び込みにもつながるグリーンインフラを活用したイノベーティブで魅力的な都市空間の再構築、人口減少・過疎化の進展等に伴い地域で増加する低未利用地を有効に活用し、グリーンインフラにより自然豊かでポストコロナの新たな生活ニーズにも対応しうる地域空間への再生を図る取組等への民間資金の活用を推進する。<国土交通省>

○ まちなか等における老朽ストックを活用した賑わい再生を図る取組に併せて実施するグリーン・オープンスペース等の整備に対する金融支援、サステナビリティに係る投資環境の整備等を通じて、グリーンファイナンスの活用を促進する。<国土交通省>

〇 2027年に横浜市で開催する国際園芸博覧会において、グリーンインフラを実装し民間資金を活用した持続可能なまちづくりのモデル等を国内外に発信する具体的な機会となるよう、関連法律の制定や実施主体となる博覧会協会の設立等のBIEの認定取得に向けた準備を進め、SDGs達成やグリーン社会の構築に向けた取組を推進する。<農林水産省、国土交通省>

8)水道インフラにおける適応策

○ 気候変動が水道インフラに影響を及ぼすことが懸念されることも踏まえ、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に基づく浸水災害対策等、水道施設の耐災害性強化に向けた施設整備を推進するとともに、危機管理マニュアルの策定や、施設の損壊等に伴う減断水が発生した場合における迅速で適切な応急措置及び復旧が行える体制の整備を進める。<厚生労働省>

9)廃棄物処理における適応策

○ 気候変動が社会インフラである廃棄物処理施設に影響を及ぼすことが懸念されることも踏まえ、平時からの備えとして、地域の廃棄物処理システムを強靱化する観点から、市町村等による水害等の自然災害にも強い廃棄物処理施設の整備や地域における地方公共団体及び関係機関間の連携・支援体制の構築を推進する。また、地方公共団体が廃棄物・リサイクル分野における気候変動影響への適応策を検討するための実務的な手引きである「地方公共団体における廃棄物・リサイクル分野の気候変動適応策ガイドライン」の活用を促進する。<環境省>

○ 災害時における一般廃棄物処理事業の継続的遂行に関する観点を含めた災害廃棄物処理計画等の策定を推進する。また、災害廃棄物等を適正かつ円滑・迅速に処理できる強靱な廃棄物処理システムを構築するため、地方公共団体レベル、地域ブロックレベル、全国レベルでの取組を進める。<環境省>

10)交通安全施設等における適応策

○ 災害が発生した場合においても安全で円滑な道路交通を確保するため、交通管制センター、交通監視カメラ、車両感知器、交通情報板等の交通安全施設の整備を推進するとともに、通行止め等の交通規制を迅速かつ効果的に実施する。<警察庁>

○ 災害発生時の停電による信号機の機能停止を防止する信号機電源付加装置の整備を推進する。<警察庁>

11)調査・研究

○ 気候変動がインフラ・ライフライン等に及ぼす影響については、具体的に評価した研究事例が少なく確信度が低いことから、調査研究を進め、科学的知見の集積を図る。加えて、事業者が公表している環境報告書の内容の確認や、事業者へのヒアリング等を通じて、事業者が認識している気候変動の影響についての情報を収集・整理する。<環境省>

2.文化・歴史などを感じる暮らしに関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 国民にとって身近なサクラ、イチョウ、セミ、野鳥等の動植物の生物季節の変化について報告されている。特に、サクラについては、ヒートアイランド現象と相まって、郊外に比べて、都市部で開花や花芽の成長速度が速まっていることが報告されている。

○ 生物季節の変化が国民の季節感や地域の伝統行事・観光業等に与える影響について、日光においてサクラの開花の早期化が地元の祭行事に影響を与えている事例が確認できるものの、その他の具体的な研究事例は確認されていない。

《将来予測される影響》

○ サクラの開花及び満開期間について、将来の開花は北日本などでは早まる傾向にあるが、西南日本では遅くなる傾向にあること、また、今世紀中頃及び今世紀末には、気温の上昇により開花から満開までに必要な日数は短くなる可能性が高い。それに伴い、花見ができる日数の減少、サクラを観光資源とする地域への影響が予測されている。

○ ナンコウウメの開花期間について、3℃の気温上昇により、花粉媒介者のフェノロジーとのミスマッチが生じることで自然受粉に影響が生じ、開花期間が短縮化されるとの報告もみられる。

○ 地域独自の伝統行事や観光業・地場産業等への影響については、現時点で研究事例が限定的にしか確認できていない。

・生物季節[重大性:◆、緊急性:●、確信度:●]

・伝統行事、地場産業[重大性:-、緊急性:●、確信度:▲]

【適応策の基本的考え方】

○ 気候変動に伴う地域独自の伝統行事や観光業・地場産業等への影響について、具体的に言及した研究事例は限定的で、科学的知見の集積が必要である。

○ 生態環境の変化や気候変動の生態系への影響把握、身近な生物の観察を通じた四季の変化や生物への関心を高める活動等、「生物季節観測」の発展的な活用に向けた取組を進める必要がある。

【基本的な施策】

○ 上記の通り、気候変動が生物季節、伝統行事・地場産業等に影響を及ぼす可能性がある。地域で適応に取り組むためには、これらの項目を適切に考慮していくことが重要であり、関連する情報の地域への提供や関係者間の共有を進める。<環境省>

○ 植物の開花や紅葉などの生物季節観測を継続して実施するとともに、市民参加型の調査も含めた発展的な活用に向けた取組を進める。<国土交通省、環境省>

○ 気候変動が伝統行事・地場産業に及ぼす影響については、具体的に評価した研究事例が少なく確信度が低いと評価されていることから、調査研究を進め、科学的知見の集積を図る。<環境省>

3.その他(暑熱による生活への影響)に関する適応の基本的な施策

【影響】

《現在の状況》

○ 日本の中小都市における100年あたりの気温上昇率が1.5℃であるのに対し、主要な大都市の気温上昇率は2.6~3.2℃であり、大都市においては気候変動による気温上昇にヒートアイランドの進行による気温上昇が重なっていることが確認されている。

○ また、中小都市でもヒートアイランド現象が確認されている。ヒートアイランド現象により都市部で上昇気流が発生することで短期的な降水量が増加する一方、周辺地域では雲の形成が阻害され、降水量が短期的に減少する可能性があることが報告されている。

○ 大都市における気温上昇の影響として、特に人々が感じる熱ストレスの増大が指摘され、熱中症リスクの増大に加え、発熱・嘔吐・脱力感による救急搬送人員の増加、睡眠の質の低下による睡眠障害有症率の上昇が報告されている。

《将来予測される影響》

○ 国内大都市のヒートアイランドは、今後は小幅な進行にとどまると考えられるが、既に存在するヒートアイランドに気候変動による気温の上昇が加わり、気温は引き続き上昇を続ける可能性が高い。

○ 気温上昇に伴い、体感指標であるWBGT(Wet Bulb Globe Temperature:暑さ指数)も上昇傾向を示す可能性が高い。全国を対象に21世紀末の8月のWBGTを予測した事例(RCP4.5シナリオを使用)では、将来、暑熱環境が全国的に悪化し、特に東北地方で現在と比較して大きくなる可能性が示されている。

○ 熱ストレスの増加に伴い、だるさ・疲労感・熱っぽさ・寝苦しさといった健康影響が現状より悪化し、特に昼間の気温上昇により、だるさ・疲労感が更に増すことが予測されており、気温上昇後の温熱環境は、都市生活に大きな影響を及ぼすことが懸念される。

○ 加えて、熱ストレスが増加することで労働生産性が低下し、労働時間の経済損失が発生することが予測される。

・暑熱による生活への影響[重大性:●、緊急性:●、確信度:●]

【適応策の基本的考え方】

○ ヒートアイランド現象を緩和するため、都市における緑地の確保や緑化をはじめ実行可能な対策を継続的に進めるとともに、ソフト対策などの短期的に効果が現れやすい対策を併せて実施する。

○ ヒートアイランド現象の緩和には長期間を要することを踏まえ、ヒートアイランド現象の実態監視や、ヒートアイランド対策の技術調査研究を行う。

【基本的な施策】

1)緑化や水の活用による地表面被覆の改善

○ 気温の上昇抑制等に効果がある緑地・水面の減少、建築物や舗装等によって地表面が覆われることによる地表面の高温化を防ぐため、地表面被覆の改善を図る。<国土交通省>

○ 大規模な敷地の建築物の新築や増築を行う場合に一定割合以上の緑化を義務づける緑化地域制度等の活用や、住宅や建築物の整備に関する補助事業等における緑化の推進、一定割合の空地を有する大規模建築物について容積率の割増等を行う総合設計制度等の活用により、民有地や民間建築物等の緑化を進める。<国土交通省>

○ 都市公園の整備や、道路・下水処理場等の公共空間の緑化、官庁施設構内の緑化、新たに建て替える都市再生機構(UR)賃貸住宅の屋上等の緑化を推進する。<国土交通省>

○ 都市農地は、都市の緑を形成する主要な要素になっており、ヒートアイランド現象の緩和など、国土・環境の保全の役割を果たしているため、都市地域及びその周辺の地域の都市農地の保全を推進する。<農林水産省、国土交通省>

○ 下水処理水のせせらぎ用水、河川維持用水等への更なる利用拡大に向けた地方公共団体の取組の支援や、雨水貯留浸透施設の設置の推進等により、水面積の拡大を図る。<国土交通省>

○ 道路緑化等の総合的な道路空間の温度上昇抑制対策に向けた取組を推進するとともに、緑陰の提供により快適な歩行空間を形成する。<国土交通省>

2)人間活動から排出される人工排熱の低減

○ 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(平成27年法律第53号)(建築物省エネ法)等に基づき住宅・建築物の省エネルギー化を推進するほか、自動車からの排熱減少に資する次世代自動車の普及拡大、都市鉄道等の整備による公共交通機関の利用促進、自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成、エネルギー消費機器等の効率化に取り組む。<国土交通省>

○ ビッグデータ等を活用した渋滞対策等による交通流対策を更に推進する。<国土交通省>

○ トラックによる貨物輸送から、鉄道・内航海運による貨物輸送へのモーダルシフトを推進するとともに、トラック輸送についても共同輸配送等を通じて輸送の効率化を図る。<国土交通省>

○ 官民連携協議会を推進母体に、下水熱利用の案件形成を支援する等、下水熱の有効利用を推進する。<国土交通省>

3)都市形態の改善(緑地や水面からの風の通り道の確保等)

○ 都市を流れる「風の道」を活用する上での配慮事項等を示した「ヒートアイランド現象緩和に向けた都市づくりガイドライン」の活用を促進することにより、広域、都市、地区のそれぞれのスケールに応じて、都市形態の改善や地表面被覆の改善及び人工排熱の低減等の対策が適切に行われる都市づくりを推進する。<国土交通省>

○ 「首都圏の都市環境インフラのグランドデザイン」及び「近畿圏の都市環境インフラのグランドデザイン」に基づく取組の推進、特別緑地保全地区制度等による緑地の保全、都市山麓グリーンベルトの整備や、雨水、下水再生水利用によるせせらぎ整備等により、都市における水と緑のネットワークの形成を推進する。<国土交通省>

4)ライフスタイルの改善等

○ ライフスタイルの改善に関しては、都市の熱の発生抑制を図る観点でのライフスタイルの改善に向けた取組の推進(市民活動による打ち水の実施、緑のカーテン等の普及推進、自転車通勤等の促進、省エネルギー製品の導入促進、日傘の使用、夏の軽装推進等)及び自動車の効率的利用(エコドライブの推進)を図る。<警察庁、経済産業省、国土交通省、環境省>

5)観測・監視体制の強化及び調査研究の推進

○ ヒートアイランド現象の観測・監視及び要因分析に関する情報を提供するとともに、内容の充実に取り組む。<国土交通省>

○ 建築環境総合性能評価システム(CASBEE)の開発・普及促進、効果的なヒートアイランド対策のための都市計画に関する技術の調査研究に取り組む。<国土交通省>

○ 地表面の被覆や利用状況(土地利用・土地被覆)のモニタリングと時間変化は、都市化の進展やヒートアイランド現象を評価する上で重要であるため、地球観測衛星「だいち」で取得されたデータで空間解像度30mという細かさで土地被覆分類図を作成し、一般へ公開している。今後は、アルゴリズムの更新等で土地被覆分類図の高精度化を推進する。<文部科学省>

6)人の健康への影響等を軽減する適応策の推進

○ 暑熱回避行動による熱ストレスの低減を促すため、気象データより全国各地における暑さ指数(WBGT)の実況値・予測値を算出し、環境省熱中症予防情報サイトにおいて他の熱中症予防情報と併せて公表する。<環境省>

○ 適応策の効果を定量的に評価した上で、住民等が適応策導入の効果が実感できるような効率的な適応策の実施方法を明確化し、地方公共団体や事業者に対し、地域や街区、事業の特性に応じた適応策の実施を促す。<環境省>


第3章 気候変動適応に関する基盤的施策

第1章第4節に示す基本戦略の②⑥の戦略は、各主体が適応を実施していく上で分野横断的に取り組むことが重要である。適応策あるいは適応策の前提となる気候変動リスクは、地域性を考慮する必要があり、地域性を踏まえた施策は基盤的な取組に支えられる。

また、分野別施策と同様に、政府全体・各機関の基盤的取組を包括的に把握できるKPIを設定し、適応策の進捗を把握する。

気候変動適応の推進の基盤となる施策については、2021年適応計画で示された以下の各種施策を推進するとともに、年度ごとの取組の進捗状況について把握し、フォローアップを行う。

第1節 気候変動等に関する科学的知見の充実及びその活用に関する基盤的施策

(観測・監視)

○ 「地球観測の推進戦略」(平成16年12月総合科学技術会議意見具申)に基づいて設置された地球温暖化分野の連携拠点において、関係府省庁・関係機関が連携して包括的なデータの収集、長期継続的な観測の実現、データの利便性の向上等に取り組む。<内閣府、文部科学省、国土交通省、環境省>

○ 気温や降水量等とともに、気候変動との関連が深い温室効果ガス、エーロゾル、日射・放射等について、地上における観測をはじめ船舶や航空機、衛星等の高精度で継続的な観測を実施し、大気及び海洋等の気候変動に関する長期的な監視情報を提供するとともに、大雨等の極端な現象の出現頻度増加及び海洋酸性化の進行等に関する詳細な情報を提供する。<文部科学省、国土交通省、環境省>

○ いぶき(GOSAT)シリーズによる地球全体の二酸化炭素及びメタンの継続的な観測を行い、気候変動に関する科学的知見を充実させる。<環境省>

○ 引き続き全国の潮位観測施設において潮位を観測するとともに、海岸昇降検知センターから、海面変化をはじめとする地球科学の研究に役立てるための資料を公表する。<国土交通省>

○ 全国の電子基準点で衛星測位システム(GNSS)の連続観測を実施し広域の地殻変動を監視し、監視結果を海面水位変動の検出等の検討資料として活用する。<国土交通省>

○ 人工衛星「だいち2号」等の観測データを用いて地盤変動を監視し、関係機関へ情報提供する。<文部科学省、国土交通省>

○ 観測技術を高度化するため、温室効果ガスや大気汚染物質の全球分布を測定する衛星搭載センサを開発するとともに、海洋や極域の観測を強化する。特に、北極に関しては、「我が国の北極政策」(平成27年10月16日総合海洋政策本部決定)に基づき、北極域における気候変動に関する研究開発等の取組を推進する。中でも、気候変動予測等の精度向上を図るため、北極域研究船の整備や同船を活用した国際連携による観測の推進等を通じて、観測データの空白域となっている北極海のデータの充実を図る。また、地域の日射量、風況、温度、降雨、エーロゾル等を高精度で計測する。さらに、それらの影響を直接受ける生態系の変化を把握することは、生態系が基盤をなす人々の暮らしや各種産業への、気候変動による影響を観測・監響を観測・監視する基盤的役割を果たすと考えられる。このため、気候変動による生態系の変化等に係るモニタリングを強化・拡充する。等に係るモニタリングを強化・拡充する。<文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 長期的な地球温暖化等の気候変動や異常気象の分析、災害事例を教訓とした防災地球温暖化等の気候変動や異常気象の分析、災害事例を教訓とした防災対策や気候変動対策対策や気候変動対策の基盤となる均質かつ高精度な、新たな全球長期再解析データを整備する。<国土交通省>

○台風・集中豪雨などのほか地球環境の監視等を目的とした、切れ目のない気象衛星観測体制を確実にするため、高密度観測等の最新技術を取り入れた後継機を、2029年度目途で運用開始する。<国土交通省>

(予測技術)

○ スーパーコンピュータ等を用いたモデリング技術やシミュレーション技術の高度化を通じて、時間・空間分解能を高めるとともに不確実性の低減を図り、発生確率を含む高精度な気候変動予測情報を創出する。また、各分野の適応策を推進するに当たりニーズを踏まえた我が国の気候変動予測データの整備を推進する。<文科学省、農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 最新の数値シミュレーション技術を応用して、温暖化の進行に伴う我が国の気候の将来変化の予測を実施し、大雨等の極端な現象の解析も含め、詳細な情報を提供するほか、気候変動予測情報の高度化に努める。また、気候変動予測情報の利用者向けに解説情報を提供する。<国土交通省>

○ 最新の気候変動予測データや、全球気候モデルのダウンスケーリングを活用することで、洪水や高潮による将来の外力の変化を分析する。<国土交通省>

(調査・研究)

○ 土地固有の自然災害リスクの評価等に資するため、国土調査法(昭和26年法律第180号)に基づき、土地本来の自然地形・地質、過去の土地利用の変遷、災害履歴等に関する調査を行う「国土調査(土地分類基本調査)」、及び表流水・地下水に関する基本的な情報を収集する「国土調査(水基本調査)」を着実に実施し、調査成果を提供する。<国土交通省>

○ 適応と相乗効果をもたらす施策や適応を含む複数の政策目的を有する施策に関する調査研究、気候変動の影響、コスト、社会の脆弱性に関する調査研究、適応策に関する知見収集を進める。水災害に関して、気候変動予測等に関する科学的知見に基づき、気候変動の影響を評価し、適応可能な種々の技術政策を提示し、またそれを支える技術の開発・普及を行う。<総務省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省>

○ A-PLATやDIASの整備や、多様な地球環境データを共通的に使用可能とするための情報基盤の整備に関する研究開発を推進するとともに、フューチャー・アース構想等、国内外のステークホルダーとの協働による研究を推進する。<文部科学省、環境省>

○ 台風に関する気候変動影響の知見の拡充のため、近年大きな被害をもたらした台風と同様の台風が、地球温暖化が進行した条件下で襲来した場合のシミュレーシンを実施し、台風の発達や、洪水、高潮、強風等への影響について評価を行う。<環境省>

○ 積雪寒冷地における気候変動の影響について、急速に発達する低気圧に伴う吹雪や視程障害等の変動傾向、ダム流域における積雪・融雪量の把握手法、河川環境及び水資源・水利用への影響等に関する調査を行う。<国土交通省>

○ 北海道等の積雪地において、温暖化に伴い、融雪期の急激な気温上昇に起因する急速な融雪や降雨によって土砂災害が頻発することが予想されるため、融雪量の高精度な予測により斜面の安定性を評価する手法を検討する。<国土交通省>

○ 海外の気候変動の影響評価や適応計画等の適応の取組に関する調査研究を進める。<環境省>

○ 気候変動影響に関する観測・監視研究、気候変動影響及び脆弱性評価に関する研究を推進する。<環境省>

○ 気候変動が我が国の安全保障に及ぼす影響等について調査を実施する。<環境省>

○ 気候変動が我が国の安全保障に与える影響について評価し、及び分析し、防衛省として必要な対応を検討する。<防衛省>

○ マングローブなどのグリーンインフラによる台風に対する沿岸域の減災効果について、調査・検討する。<環境省>

○ 気候変動影響の総合的な評価に向けて、国・地方の研究機関が連携しつつ、農業、自然災害、生態系、健康等の多様な分野における気候変動影響の予測・評価に関する総合的な研究を推進する。<環境省>

(影響評価)

○ 我が国の気候変動及び気候変動影響に関する科学的知見を集積し、中央環境審議等の有識者の意見を聴いて、気候変動影響の総合的な評価の改定に向けた検討を進める。<環境省>

(技術開発)

〇 農林水産分野においては、これまで水稲や果樹の品質低下等現在影響が生じている課題に適応するための技術開発を中心に行ってきた。今後は、「みどりの食料システム戦略」に基づき、現場で培われた優れた技術の横展開・持続的な改良と将来に向けた革新的な技術・生産体系の開発を地域の実情に応じて推進する必要がある。このため、予測研究等に基づく中長期的視点に立った適応品種や生産安定技術の開発、気候変動がもたらす機会を活用するための技術開発を実施する。<農林水産省>

第2節気候変動等に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行う体制の確保に関する基盤的施策

○ 関係府省庁は、国立環境研究所が運営するA-PLATを活用し、各府省庁や試験研究機関等が保有するデータベース等の情報基盤との有機的な連携等を通じてその充実・強化を図り、気候リスク情報等を各主体が活用しやすい形で提供する。また、利用者のニーズに応じて、最新の気候シナリオの活用や、影響評価や適応策の立案を容易化する支援ツールを開発・運用するとともに、優良事例の収集・整理・提供を行うことに努める。これらの取組を通じ、科学的知見と政策立案との橋渡しを行う機能の構築を図る。<文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 「統合イノベーション戦略2021」(令和3年6月18日閣議決定)において温室効果ガス等の観測データ予測情報などの地球環境ビッグデータの蓄積・利活用を促進するために、国、企業、地方自治体等の意思決定に貢献する地球環境データプラットフォームとして利用拡大等を推進することとされているDIAS(データ統合・解析システム)の活用も含めて検討する。<内閣府、文部科学省>

○ まちづくり・地域づくりや民間投資の検討に資するよう、様々な規模の外力による浸水想定を作成するとともに、床上浸水の頻度や人命に関するリスクの有無等の災害リスク情報や具体的な被災事例を、地方公共団、企業、住民等の受け手に分かりやすい形で提示する。また、雨量の増大や河川水位の上昇等の進行に応じた危かりやすい形で提示する。また、雨量の増大や河川水位の上昇等の進行に応じた危険の切迫度が住民に伝わりやすくなるよう、これらを早い段階から時系列で提供する。<国土交通省>

○ 大規模災害に対する事前の備えや災害時応急対応等の防災施策の円滑かつ適切な実施に資するため、災害発生後速やかに被災地域の空中写真撮影を行い、関係機関に提供するとともに、災害分析の基礎情報として活用するため、国の基本図である電子国土基本図や国土数値情報等の地理空間情報の整備、更新、提供を行う。<国土交通省>

第3節地方公共団体の気候変動適応に関する施策の促進に関する基盤的施策

○ 地方公共団体による地域気候変動適応計画の策定・充実を支援するため、地域気候変動適応計画策定マニュアルを整備し、その普及を図る。<環境省>

○ 各地域内の地方公共団体・地域気候変動適応センター・国の地方行政機関・研究機関等で構成される気候変動適応広域協議会において、地域レベルの気候変動、気候変動影響や適応策に関する情報共有や連携強化等を行う。<農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 地方公共団体及び地域気候変動適応センターの活動支援のため、国立環境研究所が中心となり、地域における気候変動影響及び適応に関連する情報の収集、分析、提供に関する技術的助言を行うほか、地域気候変動適応センターと研究機関や大学との共同研究等を通じて、気候変動影響予測や適応策に関する研究人材を育成するにとともに、地域特有の気候変動影響や適応に関する科学的知見を集約する。<環境省>

○ 地方公共団体の気候変動適応関係担当者等が、気候変動影響や気候変動適応に関する理解を深めることができるよう、簡易に学習できる支援ツールの開発・運用及び優良事例の収集・提供を行う。<環境省>

○ A-PLAT等において、DIASとも連携してダウンスケーリング等による高解像度の予測データなど地域が必要とする様々なデータ・情報にもアクセス可能とするとと予測データなど地域が必要とする様々なデータ・情報にもアクセス可能とするとともに、地方公共団体が活用しやすい形で情報を提供する。また、地方公共団体による影響評価や適応計画の立案を容易化する支援ツールの開発・運用や優良事例の収集・整理・提供を行う。<文部科学省、国土交通省、環境省>

○ 地方公共団体、地域気候変動適応センター、地域の研究機関、大学等と協力し例えば、地域の特産品に対する気候変動の影響などの地域固有の情報を収集し、気候変動予測等に関する科学的知見に基づき、気候変動影響予測を行い、これらの情候変動予測等に関する科学的知見に基づき、気候変動影響予測を行い、これらの情報を活用して地域における具体的な適応策について検討する。<文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 地方における気候変地方の観測結果や将来予測を定期的に取りまとめ情報を発信する。<国土交通省>

○ 地方公共団体等と連携し、温暖化による影響等のモニタリングを行い、農業生産現場での高温障害など地球温暖化によると考えられる影響及び適応策を取りまとめ、「地球温暖化影響調査レポート」等により情報を発信する。<農林水産省>

○ 気候変動や気象災害に関する知識の普及啓発のため、気候講演会や防災気象講演会等を開催する。<国土交通省>

○ 防災意識の普及啓発のため、学校における防災教育の取組の支援やポータルサイトを通じた支援ツールの提供を行う。また、河川協力団体や住民等による河川環境の保全等の活動の支援を行う。<文部科学省、国土交通省>

○ 土砂災害に対する正確な知識の普及のため、実践的な防災訓練や、児童、生徒への防災教育、住民への講習会、地方公共団体等職員等への研修等を推進する。<国土交通省>

○ 市町村長が避難指示等を適時的確に発令することができるよう、地方公共団体に対し、次の事項について支援等を行う。<総務省>

・具体的でわかりやすい避難指示等の発令基準及び発令対象区域の設定等

・全庁的な災害対応体制の構築

○ 住民等への迅速な情報の伝達体制、要配慮者に対する支援体制の整備の推進について支援等を行う。<総務省>

○ 激甚化、頻発化する大規模災害に迅速かつ的確に対処できるよう、消防の広域化を推進するとともに、地方公共団体が行う緊急消防援助隊の登録を支援し、消防防災体制の充実強化を図る。<総務省>

○ 地域防災力の充実強化のため、地域防災体制の中核的存在である消防団について、団員の処遇改善等を通じた団員数の確保に努めるとともに、消防団の避難誘導や救助活動を安全に行うために必要な資機材、車両、施設等の整備充実及び教育訓練の充実について支援等を行う。また、自主防災組織による地域防災力強化の必要性の周知、防災知識の普及啓発を図るとともに、消防職団員等が自主防災組織等に対して訓練等を行い、自主防災組織を始めとする地域の防災リーダー育成について支援等を行う。<総務省>

○ 水の有効利用を促進するために、水の重要性や大切さについて国民の関心や理解を深めるための教育、普及啓発活動等を行う。<国土交通省>

○ 気候変動と生物多様性及び生態系サービスの関係に係る情報の共有と普及啓発を行う。<環境省>

○ 災害廃棄物対策を促進するため、災害廃棄物処理計画の策定、点検・見直しに関するモデル事業や研修等の実施、全国8つの地域ブロック協議会を通じた共同訓練や情報共有、人材交流等の支援を行う。<環境省>

○ 地方公共団体による適応法の施行状況を定期的に把握し、その分析結果をフィードバックすること等により、地域気候変動適応計画のPDCAの充実など、地方公共団体の更なる取組の促進を図る。<環境省>

○ 地方公共団体による気候変動適応対策に要する資金のグリーンボンドによる調達を促進するため、国内におけるグリーンボンドの発行支援体制を整備することにより、適応対策の効果の明確化と対策に要する資金の調達円滑化を図る。<環境省>

第4節 事業者等の気候変動適応及び気候変動適応に資する事業活動の促進に関する基盤的施策

○ 気候変動の影響や適応の重要性について、国民や事業者等の理解を促進するため、A-PLAT等を通じて、普及啓発用コンテンツを提供する。また、民間事業者が事業活動を行う上で参考となるよう、国内外の気候リスク情報を集約し、提供する。<環境省>

○ 事業活動における気候リスクを把握して対応する「気候リスク管理」及び気候変動への適応に資する技術・製品・サービスを提供する「適応ビジネス」について、国内外の事業者の優良事例を収集・提供し、事業者の適応に対する認識を高め、取組を促進する。<経済産業省、環境省>

○事業者が自らの事業活動に関連する気候変動のリスクと機会を把握し、その事業活動に即した適応策を講じる際の参考となるよう、事業者向けの適応ガイダンスを整備し、その普及を図る。<環境省>

○農業、防災、水資源など各分野の適応策を実施するための技術・製品・サービスを有する民間事業者が、自社の技術・製品・サービスを「適応ビジネス」として国内外の市場に参入することで、新たなビジネス機会の創出につながることが認識できるよう、「適応ビジネス」についての情報発信を行う。<環境省>

○地方公共団体等と協力し、地域でのシンポジウムの開催や刊行物の発行等を通じ、地域が直面する気候変動の影響や、一人一人が実践できる適応の取組等について分かりやすく伝える普及啓発活動を推進する。<環境省>

○地域住民等が、身近に感じている気候変動影響に関する情報について、効率的な収集方法について検討する。<環境省>

○関係府省庁は、相互に連携して、気候リスク情報等について、シンポジウムやパンフレット等の刊行物、インターネットなどを通じ、分かりやすく国民各層に伝える普及啓発活動を推進する。<文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省>

第5節 気候変動等に関する国際連携の確保及び国際協力の推進に関する基盤的施策

(開発途上国への支援)

○ 気候変動に脆弱な小島嶼開発途上国を含む開発途上国への支援については、各国のニーズや政策的優先課題を念頭に、ジェンダー配慮や地域住民の参加の促進等の気候変動枠組条約下のパリ協定のルールブック及び、国別の適応計画の策定に関するガイドライン、ガイダンスに沿うよう留意しつつ、我が国の適応計画策定の経験を踏まえ、相手国政府・関係機関との連携体制づくり等を通じて、途上国における気候変動影響評価や適応計画策定への協力を行う。<環境省>

○ 新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発等、欧米とは気象条件や生産構造が異なるアジアモンスーン地域等に対する国際貢献国際貢献に資する技術開発及びその支援を行う。<農林水産省>

○ 森林の防災・減災機能を活用した山地流域の強靱化方策の普及等を推進する。<農林水産省>

○ 途上国における持続可能な森林経営や森林保全等の取組を支援するとともに、森林の防災・減災機能の強化に資する技術開発等を推進する。<農林水産省>

○ 気候変動の影響によりリスクが増大することが予測される、水資源・防災、食料・農業、森林・林業、自然環境・生態系等の多様な分野において、我が国の技術や経験を活用しながら適応策の実施を支援する。特に小島嶼開発途上国や後発開発途上国に対しては、我が国の経験・ノウハウ等を共有するとともに、必要となる人材育成等を通じて総合的な支援を実施する。<外務省、農林水産省、国土交通省、環境省>

○ 気候変動の影響によりリスクが増大することが予測される洪水や海岸災害や海岸災害等への対応については、科学的知見に基づくリスク評価を含む洪水対策や海岸防護計画の策定支援等により、構造物対策(ハード)への事前防災投資強化を通じて根本的な災害リスク削減を促進する。また、気象観測強化による科学的な災害リスク把握や災害監視の支援も行い、ハード・ソフト両面からの残余リスク対策も推進する。災害が発生した後には「Build Back Better(より良い復興)」のコンセプトに基づき、復旧・復興支援を通じ、根本的なリスク削減事業の実施を検討する。水災害が懸念されるアジアの代表流域を対象に、気候変動も考慮に入れた水災害リスク評価行い、適応のための計画立案に必要な情報を提供する。<外務省、国土交通省>

○ 気候変動に伴う海岸侵食や自然災害については、サンゴ礁・マングローブ林など地域の生態系を活用した海岸保全の提案等を実施する。<環境省>

○ 防災協働対話の推進、地球観測に関する政府間会合(GEO)の枠組みやDIAS等を活用した地球観測データ・気候変動予測データの共有等、産官学一体となった技術ノウハウの提供等を通じ、我が国の技術を適応分野での国際協力に活用する。<文部科学省、国土交通省>

○公共交通指向型都市開発(TOD)に代表される、我が国の都市分野にかかる法度・技術等のノウハウを海外へ発信すること等を通じ、インフラ整備と一体となった都市開発を推進することで、相手国の都市問題の解決を図る。<国土交通省>

○アジア・太平洋地域における気候変動適応に関する情報基盤として構築した、AP-PLAT取組による情報や影響評価ツールの提供や人材育成を進める。<環境省>

○アジアをはじめとする開発途上国における災害廃棄物対策を促進するため、日本の災害廃棄物対策に係るノウハウを提供するとともに、国際協力機構(JICA)等と連携した被災国支援スキームの構築等に取り組む。<環境省>

(国際枠組みを通じた支援・貢献)

○我が国が最大30億ドルの拠出にコミットしている緑の気候基金(GCF)では、開発途上国に対する緩和と適応への支援を50:50に資金配分するとともに、適応の資金の少なくとも50%を後発開発途上国(LDC)、小島嶼開発途上国、アフリカに配分することとなっている。このことも踏まえ、適切な事業推進がなされるよう積極的に取り組んでいく。<外務省、財務省、環境省>

○アジア太平洋適応ネットワーク(APAN)、世界適応ネットワーク(GAN)等の国際ネットワークを通じ、我が国の経験・知見等を広く共有することにより、適応分野の人材育成に貢献する。<環境省>

○IPCC第6次評価報告書等各種報告書の承認・採択や第7次評価報告書等各種報告書の作成に向けて、IPCC総会や各種会合への我が国の専門家の派遣を通じた知見の提供、我が国からの報告書執筆者の輩出及び執筆者の活動の支援などを推進し、IPCCの活動及び報告書作成へ貢献していく。<外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省>

○国際標準化機構(ISO)等における適応に関する国際規格化について、議論の動向を把握しつつ、我が国の経験や技術等を踏まえて貢献していく。<環境省>

○海面上昇の監視等に必要な位置の基準を整備することを目的として、国際的なVLBI(超長基線電波干渉法)観測へ参画するとともに、より高精度な観測を目標とする新たなVLBI観測を推進する。<国土交通省>

○政府間会議やセミナー等の開催、途上国を対象とした研修の実施、本邦下水道技術の海外実証事業の実施、下水道グローバルセンター(GCUS)による官民連携での海外展開活動等を通じ、下水道分野における海外展開を推進する。<国土交通省>

〇仙台防災枠組2015 -2030やSDGs達成に向けて各国の気候変動対策及び災害リスク削減事業、「防災の主流化」に向けた取組を推進する。気候変動枠組条約をはじめ、SDGs、仙台防災枠組、2015--2030等の多様な国際的枠組に沿って、G7、G20等の国際会議の機会も活用し、適応策、防災、気候変動影響により増大する洪水をはじめとする災害リスク削減に関する知見の共有に貢献する。<内閣府、外務省、国土交通省、環境省>

第4章 熱中症対策実行計画に関する基本的事項

第1節 熱中症対策実行計画の目標及び計画期間

改正適応法第16条第1項に規定する実行計画の目標は、本計画第1章第1節に示す本計画の目標及び第2章第5節1に示す暑熱に関する適応の基本的な施策を踏まえ、中期的な目標(2030年)として、熱中症による死亡者数(5年移動平均死亡者数)について、現状から半減することを目指す。

実行計画の計画期間は、本計画第1章第2節に示す本計画の計画期間を踏まえ、おおむね5年間における熱中症対策の具体的施策を示す。

第2節 熱中症対策実行計画に定める施策や取組

実行計画においては、熱中症対策に関する国、地方公共団体、事業者、国民及び独立行政法人環境再生保全機構の基本的役割を定めるものとする。その際、熱中症対策の推進に当たっては、熱中症による救急搬送人員や死亡者の年齢や状況等に関する調査結果、個人の体質や暑熱順化等に応じた暑さへの耐性等を踏まえ、効果的な施策を策定し、関係府省庁や地方公共団体が連携して一体的に実施することが重要である。また、個人や周囲の人々が、暑熱による影響の受けやすさを認識し、自発的に熱中症予防行動をとることが重要である。

実行計画においては、熱中症対策に関する具体的施策として、熱中症予防行動等に関する効果的な普及啓発や情報提供、高齢者等の熱中症弱者のための対策、学校等の管理者がいる場等における対策、地方公共団体及び地域の関係主体における対策、産業界との連携、調査研究の推進等について定める。また、極端な高温の発生に備えた対応について定める。その際、改正適応法に規定されている熱中症警戒情報及び熱中症特別警情報の発表及び周知、指定暑熱避難施設、熱中症対策普及団体及びそれらに係る地方公共団体の取組に関する事項を定める。

また、実行計画においては、熱中症対策の推進体制並びに実行計画の見直し及び評価等について定めるものとする。


添付資料気候変動影響評価報告書(2020)のポイント

本報告書は、気候変動が日本にどのような影響を与えうるのかについて、科学的知見に基づき、全見に基づき、全7分野71項目を対象として、影響の程度、可能性等(重大性)、影響の発現時期や適応の着手・重要な意思決定が必要な時期(緊急性)、情報の確からしさ(確信度)の3つの観点から評価を行ったものである。本報告書は、令和3年度に予定している気候変動適応計画の変更や、地方公共団体及び事業者による気候変動影響の把握や適応策の検討等に活用されることを想定している。

1.知見の増加と確信度の向上

今回根拠とした引用文献数は1261件であり、前回評価時(2015年)の約2.5倍であった。科学的知見が充実したことで、前回評価時に比べ31項目で確信度が向上し、その結果55項目(77%)で確信度が中程度以上となった。これは、より高い確度で確信度が中程度以上となった。これは、より高い確度で気候変動による影響を評価できるようになったことを示している。また、前回は重大性又は緊急性の評価ができなかった項目についても、その多くで評価が可能となった(重大性に関しては11項目中9項、緊急性については7項目中5項目)。重大性に関しては可能8項目について気候シナリオ別に評価するなど、よりきめ細かな評価を行っている。

なお、知見の少ない自然生態系や産業・経済活動などの分野を中心に確信度が低い項目もあるため、更なる研究・調査の推進が必要である。

2.影響の重大性、緊急性、確信度が高いと評価された項目等

今回の評価は、気候変動による影響が重大かつ緊急であることを示している。全7分野71項目のうち、49項目(69%)が「特に重大な影響が認められる」、38項目(54%)が「緊急性が高い」と評価された。また、重大性、緊急性ともに高いと評価された項目は33項目(46%)であった。また、今回新たに3項目が「特に重大な影響が認められる」、8項目が「対策の緊急性が高い」と評価された。

以下にその一部を紹介する。なおこの他にも、前回から引き続き、重大性、緊急性、確信度のいずれも高いと評価された項目や、今回新たに追加され重大性、緊急性が高いと評価された項目など注目すべき影響がある。

■重大性、緊急性、確信度のいずれも高いと評価された項目のうち今回確信度が向上した項目

(今回確信度が向上した項目(「低い」又は「中程度」→「高い」)を記載。「熱中症等」は前回から確信度が変更されていないが、健康分野で重大性、緊急性、確信度のいずれも高いと評価された項目がこれのみであるため掲載。)

【農業】農業生産基盤

<現在の状況>無降水日数の増加、冬季の降雪量の減少による用水不足等

<将来予測される影響>利用可能な水量の減少、斜面災害の多発による農地への影響等

【水資源】水供給(地表水)

<現在の状況>無降水日数の増加等による渇水等

<将来予測される影響>海面水位の上昇による河川河口部における海水(塩水)の遡上による取水への支障等

【自然生態系(沿岸生態系)】亜熱帯

<現在の状況>夏季の高水温によると考えられる大規模なサンゴの白化、海面水位の上昇に伴うマングローブの立ち枯れ等

<将来予測される影響>亜熱帯域におけるサンゴ礁分布適域の減少等

【自然災害】内水

<現在の状況>内水氾濫が水害被害額に占める割合(2005~2012年平均)は全国で約40%、大都市ではそれ以上等

<将来予測される影響>短時間集中降雨と海面水位上昇による都市部の氾濫・浸水等

【自然災害(山地)】土石流・地すべり等

<現在の状況>流域での同時多発的な表層崩壊や土石流等による特徴的な大規模土砂災害の発生等

<将来予測される影響>大雨の発生頻度の上昇や広域化に伴う土砂災害の発生頻度の増加、規模の増大等

【健康(暑熱)】熱中症等

<現在の状況>熱中症による救急搬送人員、熱中症死亡者数等の全国的な増加等

<将来予測される影響>屋外労働可能な時間の短縮、熱中症リスクの増加等

【国民生活・都市生活(都市インフラ、ライフライン等)】水道・交通等

<現在の状況/将来予測される影響>気候変動による短時間強雨や渇水の増加、強い台風の増加等に伴うインフラ・ライフライン等への影響等

■新たに「特に重大な影響が認められる」と評価された項目と現在の状況の例

【水資源(水供給)】地下水

渇水に伴う地下水の過剰採取、地下水位の低下等の影響が生じている。

【健康】脆弱性が高い集団への影響

暑熱による高齢者への健康影響等が生じており、今後も増加することが予測されている。

※本項目は今回の評価で新規追加

【産業・経済活動】建設業

台風や竜巻、大雪による建物への影響が生じており、風荷重、空調負荷等に関する設計条件・基準等の見直しの必要性が検討されている。

※本項目は新たに「対策の緊急性が高い」とも評価

■新たに「対策の緊急性が高い」と評価された項目と現在の状況の例

(重大性についても高いと評価されている項目を記載。)

【農業】畜産

家畜の生産能力、繁殖機能の低下等の影響が生じている。

【自然生態系(陸域生態系)】自然林・二次林

植生帯境界付近における森林構成種の変化等、新たな現在影響が確認されている。

【自然生態系(陸域生態系)】人工林

一部地域で水ストレス増大によりスギ林が衰退している。

【自然災害】強風等

台風の最大強度の空間位置等の変化、竜巻被害等の新たな現在影響が確認されている。

【健康】節足動物媒介感染症

感染症媒介蚊(デングウイルスを媒介するヒトスジシマカ等)の生息域の拡大、活動期間の長期化が確認・予測されている。

3.気象災害への気候変動影響

近年我が国は、平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、令和元年房総半島台風(台風第15号)、令和元年東日本台風(台風第19号)など、多くの激甚な気象災害に見舞われている。

平成30年度及び令和元年度の風水害による保険金支払額が2年連続で1兆円を超えるなど、気象災害による国民生活、産業活動等への影響は大きく、気象災害への気候変動影響について関心が高まっている。令和2年6月には、武田内閣府特命担当大臣(防災)(当時)と小泉環境大臣が気候変動リスクを踏まえた抜本的な防災・減災対策に関する戦略として共同メッセージを発表し、災害からの復興に当たって、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進める「適応復興」の発想の重要性等について示したところである。

これまでに経験した台風や大雨等への気候変動の影響についての研究事例は少ないが、例えば気候変動が台風の最大強度の空間位置の変化や進行方向の変化に影響を与えているとする報告がみられる。また平成30年7月豪雨では、広い範囲で長時間の記録的な大雨がみられたが、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加が一連の降水に寄与したとの報告がある。また将来の影響に関しては、地域ごとに傾向は異なるもしたとの報告がある。また将来の影響に関しては、地域ごとに傾向は異なるものの、21世紀後半にかけて、気温上昇に伴い強風や強い台風が増加すること等が予測されている。また、日本の代表的な河川流域において、洪水を起こしうる大雨が、今世紀末には現在に比べ有意に増加するという予測もある。

4.複合的な災害影響

平成29年7月九州北部豪雨や平成30年7月豪雨に関しては、土砂災害と洪水氾濫が同時に生じ、それらが相互に影響することで被害が甚大化したことが報告されている。過去の災害に対する気候変動影響は必ずしも明らかになっていないものの、気候変動により総降雨量の大きい大雨や勢力の強い台風等の発生頻度の増加が予測されていることを踏まえ、本報告書では、複数の要素が相互に影響しあうことで、単一で起こる場合と比較して広域かつ甚大な被害をもたらす「複合的な災害影響」に着目し、現在の影響等を記載した。

■実際に発生した複合的な災害影響

(平成29年7月九州北部豪雨)

●広範囲にわたる斜面崩壊や土石流が直接的な災害の原因となったが、それに伴う多量の土砂が下流域に流出し、河川を埋め尽くすような河床上昇を引き起こすことで、甚大な洪水氾濫を助長

●崩壊によって発生した多量の流木が、渓岸や河岸の樹木の流木化と合わさって、下流域の被害を拡大

(平成30年7月豪雨)

●記録的な長時間の降雨に加え、短時間高強度の降雨も広範囲に発生したことにより、各地で洪水氾濫と内水氾濫が同時に発生

●上流部で発生した土砂災害による大量の土砂が、継続する降雨により河川に流入し続けたために、流速が比較的緩やかになる下流部に堆積して、河床上昇を引き起こすとともに、下流で土砂が氾濫したことにより、土砂・洪水氾濫が発生

5.分野間の影響の連鎖

気候変動による影響に適切に対処するためには、このような各分野において生じる影響の把握・予測だけでなく、分野・項目を超えた影響の連鎖に着目することの重要性が指摘されている。例えば近年の気象災害において、インフラの損傷やライフラインの途絶により、社会・経済へ大きな影響を及ぼしたことが確認されている。そのため本報告書では、ある影響が分野を超えて更に他の影響を誘発することによる影響の連鎖や、異なる分野での影響が連続することにより影響の甚大化をもたらす事象を「分野間の影響の連鎖」と定義し、事例を整理するとともに、懸念される影響についされる影響について記載した。これらの発生メカニズムは複雑であり、現在では知見が少なく評価を実施できていないため、今後の科学的知見の充実が望まれる。

■分野間で連鎖する影響の例

●気温上昇に伴うヒトスジシマカ等の分布拡大⇒節足動物感染症リスクの増加

●海面水位の上昇による砂浜の消失や降雪量の減少による積雪深の不足⇒レジャー・観光業への影響

●気温上昇に伴うサクラ・ウメの開花の早期化⇒それらを鑑賞するための伝統行事や祭りの時期への影響

6.適応と緩和の両輪での対策推進の重要性

これまで述べてきたような気候変動による影響に対し、治水や農林水産業をはじめとする様々な分野において、将来の気候変動影響予測を踏まえた適応策が計画・実施されている。今後、より精細・的確な影響評価が充実することで、より合理的で効率的な対策の計画・実施が可能になると期待される。一方、世界の平均気温は工業化以前に比べて現在までに約1℃上昇しており、地球温暖化が現在の進行速度で進行すると、2030~2052年の間に気温上昇が1.5℃に達する可能性が高いことが予測されている。また、それを超えると深刻で不可逆的な変化・影響が生じ得る閾値(ティッピングポイント)の存在が指摘されていることなども踏まえ、気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求し、重大な気候変動影響を低減・回避するため、こうした適応の取組とあわせ、緩和の取組の着実な実施が重要である。


表 分野・項目の分類体系
分野 大項目 小項目
農業・林業・水産業 農業 水稲
野菜等
果樹
畜産
病害虫・雑草等
農業生産基盤
食料需給
林業 木材生産(人工林等)
特用林産物(きのこ類等)
水産業 回遊性魚介類(魚類等の生態)
増養殖業
沿岸域・内水面漁場環境等
水環境・水資源 水環境 湖沼・ダム湖
河川
沿岸域及び閉鎖性海域
水資源 水供給(地表水)
水供給(地下水)
水需要
自然生態系 陸域生態系 高山・亜高山帯
自然林・二次林
里地・里山生態系
人工林
野生鳥獣の影響
物質収支
淡水生態系 湖沼
河川
湿原
沿岸生態系 亜熱帯
温帯・亜寒帯
海洋生態系   
その他 生物季節
分布・個体群の変動
生態系サービス 流域の栄養塩・懸濁物質の保持機能等
沿岸域の藻場生態系による水産資源の供給機能等
サンゴ礁による Eco-DRR 機能等
自然生態系と関連するレクリエーション機能等
自然災害・沿岸域 河川 洪水
内水
沿岸 海面水位の上昇
高潮・高波
海岸侵食
山地 土石流・地すべり等
その他 強風等
複合的な災害影響   
健康 冬季の温暖化 冬季死亡率等
暑熱 死亡リスク等
熱中症等
感染症 水系・食品媒介性感染症
節足動物媒介感染症
その他の感染症
その他 温暖化と大気汚染の複合影響
脆弱性が高い集団への影響
(高齢者・小児・基礎疾患有病者等)
その他の健康影響
産業・経済活動 製造業   
食品製造業   
エネルギー エネルギー需給
商業   
小売業   
金融・保険   
観光業 レジャー
自然資源を活用したレジャー業   
建設業   
医療   
その他 海外影響
その他
国民生活・都市生活 都市インフラ、ライフライン等 水道、交通等
文化・歴史などを感じる暮らし 生物季節、伝統行事、地場産業等
その他 暑熱による生活への影響等
分野間の影響の連鎖 インフラ・ライフラインの途絶に伴う影響   



{*1* 令和3年2月26日中央環境審議会地球環境部会中長期の気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会地球温暖化対策検討WG合同会合(第3回)ヒアリング}
{*2* 適応法附則第2条では、政府は、この法律の施行前においても、気候変動適応計画を定めることができるとされている。}
{*3* 気候変動法逐条解説では、地域気候変動適応計画については、必ずしも独立した計画を策定する必要はなく、各地方公共団体の環境基本計画や地球温暖化対策推進法に基づく地方公共団体実行計画など、他の関連計画の中に入れ込むことも含め、柔軟に対応できるものとしている。}
{*4* Key Performance Indicator:政府の適応に関する取組の短期的な進展を確認することを目的とし、目標や効果につながる施策の達成度合いを、可能な限り定量的に測定するための重点的な指標}
{*5* 本章における、各分野の気候変動影響評価の結果や、【影響】の記述の詳細や根拠文献等についてはについては「気候変動影響評価報告書((2020年12月、環境省)月、環境省)」を参照。を参照。}
http://www.env.go.jp/earth/tekiou.html}
{*6* デンプンの蓄積が不十分なため、白く濁って見える米粒}
{*7* IPCC第5次評価報告書での気候モデル予測で用いられる温室効果ガスの代表的な濃度の仮定(シナリオ)。4つのシナリオがあり、RCP2.6シナリオでは0.3〜1.7℃、RCP4.5シナリオでは1.1〜2.6℃、RCP6.0シナリオでは1.4〜3.1℃、RCP8.5シナリオでは2.6〜4.8℃の範囲に入る可能性が高いと予測される。}
{*8* 高温にあっても玄米品質や収量が低下しにくい品種}
{*9* 令和2年産主食用作付面積(全国):1,366,000ha、令和2年産高温耐性品種作付面積:152,804ha}
{*10* 開花期の高温により受精が阻害され、子実にデンプンが蓄積しないこと}
{*11* 果皮と果肉が分離する現象で品質低下をもたらす}
{*12* 果樹の生育促進、開花促進、果実肥大等の目的で使用される植物成長調整剤}
{*13* 果実の着色促進、うんしゅうみかんの浮皮軽減等の目的で使用される植物成長調整剤}
{*14* 幹の表皮を剥皮することによって、葉で作られた栄養分を剥皮部分より下部へ移行させることなく果房へ集中させることで、着色の改善につながる技術}
{*15* かんきつ類の熟期促進、摘果、浮皮軽減等の目的で使用される植物成長調整剤}
{*16* 収穫期の降雨等により、収穫前の穂に実った種子から芽が出てしまう現象}
{*17* 水滴で湿らせた冷却パッドと冷却ファンを組み合わせ、農業用ハウス内を気化冷却により冷房効果を得る装置}
{*18* 電気等の少ない投入エネルギーで効率的に熱エネルギーを利用する技術}
{*19* 植物防疫法(昭和25年法律第151号)第22条1項において、国内における分布が局地的でなく、又は局地的でなくなるおそれがあり、かつ、急激にまん延して農作物に重大な損害を与える傾向がある病害虫で、農林水産大臣が指定する。}
{*20* 国内にまん延すると有用な植物に重大な損害を与えるおそれがある病害虫}
{*21* 自分の飛翔能力だけでなく、大規模な気象現象を利用して、数百kmから数千kmを移動する害虫を指す。ウンカ類、アブラムシ類、ヤガ類など農業上の重要な害虫も多く含まれる。日本では梅雨時期に発達する下層ジェント気流によって、中国大陸から海を越えてトビイロウンカ・セジロウンカなどが主に西日本に移動してくることが知られている。}
{*22* 本計画における「強い台風」は、必ずしも気象庁が定義する「強い台風(最大風速33m/s以上44m/s未満)」を指さず、相対的に風速の大きな台風全般を意味する。}
{*23* 「強い熱帯低気圧」に一般的な定義はなく、文献によって異なり得るが、ここでは概ね、気象庁の定義による「強 い (最大風速 33m/s 以上 44m/s 未満) 」以上の強さの台風に相当するような熱帯低気圧全般を意味する。}
{*24* ロンドンに本拠地を置く国際NGOで、気候変動や森林、水分野に関する企業の取組を評価}

{●は赤丸}
{▲は黄色}
{◆は茶色}
{★はオレンジ}
{■は青}

{湛水に「たんすい」とルビあり}
{寒冷紗に「かんれいしゃ」とルビあり}
{雨水に「あまみず」とルビあり}
{涵養に「かんよう」とルビあり}