[文書名] 日メコン協力のための東京戦略2018
2018年10月9日,日本国,カンボジア王国,ラオス人民民主共和国,ミャンマー連邦共和国,タイ王国及びベトナム社会主義共和国の首脳は,東京にて第10回日本・メコン地域諸国首脳会議のために一堂に会し,「日メコン協力のための東京戦略2018」を採択した。
I 日メコン協力の成果及び将来の方向性
1. 日本国とメコン諸国の首脳(以下「首脳」という。)は,2009年の第1回日メコン首脳会議以来,日メコン協力が地域の平和,安定及び繁栄にもたらした貢献を高く評価した。本年シンガポールにおいて開催された第11回日メコン外相会議の成功を祝し,また「日メコン連結性イニシアティブ」のレビューを含む同外相会議の議長声明に満足をもって留意しつつ,首脳は,「新東京戦略2015」の成果,過去3年間で7,500億円以上のODA支援を実施するという日本の完了したコミットメント及び質の高いインフラを通じた連結性強化の促進を賞賛した。メコン諸国は,日メコン協力における日本の長年にわたる支援に対し深い謝意を表明するとともに,首脳は,日メコン協力10周年の機会に,首脳は日本とメコン諸国の関係を戦略的パートナーシップへと高めることを決定した。
2. 首脳は,このような背景の下に,日メコン協力を現在の地域及び国際情勢においてより適切なものとするために,同協力をアップデートすることで一致した。首脳は,第11回日メコン外相会議における提言に基づき,「生きた連結性」,「人を中心とした社会」及び「グリーン・メコンの実現」という日メコン協力の新たな三本柱を打ち立てることを決定した。さらに,首脳は,地域のみならず世界において,日メコン協力が平和,安定及び繁栄に貢献するべきであるとの認識を共有した。そのために,首脳は,日メコン協力のプロジェクトを,「東京戦略2018」の実現のための行動計画として,次のイニシアティブと相乗効果のある形で実施することを決定した。
日メコン協力と持続可能な開発のための2030アジェンダ
3. 首脳は,メコン各国の特異性を考慮しつつ,とりわけ人間の安全保障の理念に基づいた「誰一人取り残さない」社会を実現するための持続可能な開発目標(SDGs)の推進が,メコン地域をより持続可能で,多様で,包摂的なものとする鍵であると再確認した。次の日メコン協力の三本柱が,日本が追求するSDGsモデルの柱及び,開発格差を是正し,ASEAN共同体ビジョン2025と持続可能な開発のための2030アジェンダとの補完性を促進するためのASEANによる進行中の作業と共通点を有していることを認識しつつ,首脳は,メコン地域におけるSDGsの実現に向けて協力する決意を表明した。首脳は,その観点から,メコン地域におけるSDGsの実現に貢献する,SDGsのための日メコン協力プロジェクトを特定した(別添1)。メコン地域におけるSDGsの実現を確かなものとするため,これらプロジェクトに基づいて,また,メコン地域が直面する新たな課題を考慮しつつ,首脳は,第11回日メコン首脳会議の場で,2020年までの「グリーン・メコンに向けた10年」のための現行の行動計画を「2030年に向けたSDGsのための日メコンイニシアティブ」へと格上げすることを決定し,高級実務者会合に対し議論を開始するよう指示した。
日メコン協力と自由で開かれたインド太平洋
4. 首脳は,平和,安定及び繁栄を確保するために,法の支配に基づく自由で開かれた秩序を強化する各国の継続した努力の重要性を強調するとともに,インド洋と太平洋を結ぶメコン地域が自由で開かれたインド太平洋の実現により大きな利益を得ることのできる地理的優位性を有していることを確認した。この観点から,メコン諸国の首脳は,地域及び世界における平和,安定及び繁栄に貢献する,自由で開かれたインド太平洋を実現するための我が国の政策を歓迎した。首脳は,自由で開かれたインド太平洋の促進に貢献し,これを補完する日メコン協力プロジェクトを着実に実施する決意を表明した(別添2)。
日メコン協力とエーヤワディー・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)
5. 日本は,ACMECSをメコン各国独自の取組として評価し,日メコン協力とACMECSの間に相乗効果を見い出すことが望ましく,効果的であることを確認した。首脳は,ACMECSマスタープラン(2019-2023)の実現に資する日メコン協力を取りまとめる作業を賞賛した(別添3)。メコン諸国は,日メコン協力とACMECSの間の連携を前進させるために,ACMECS関連会合に参加するとの日本の意図を歓迎した。
6. 首脳は,別添1から3までに示された具体的な日メコン協力プロジェクトを着実に実施するため,次のような実施機関の間の連携並びに多国間開発銀行及び地域のステークホルダーとの協力の重要性に留意した。-それぞれのパートナーシップ取決めの下で日本の国際協力機構(JICA)とタイの周辺諸国経済開発協力機構(NEDA),また,JICAとタイ国際協力機構(TICA)との間で行われている連携
−アジア開発銀行(ADB),東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)及び東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター(日本アセアンセンター)との連携-大メコン圏経済協力プログラム(GMS)やメコン河下流域イニシアティブ(LMI)を含む,地域協力に係る枠組み及びプログラムとの協力
II 日メコン協力の新たな三本柱
A. 生きた連結性
7. メコン圏は,中国,インドその他ASEAN諸国といった新興の巨大市場を連結する。最適で,これら三つの成長市場と補完し合う産業構造は,メコン圏をアジアの新興巨大市場の中心としてメコン圏を活性化する。したがって,メコン地域内外の産業構造を前進させ,バリュー・チェーン・ネットワークを改善することが重要である。首脳は,メコン地域内外において「ハード連結性」,「ソフト連結性」及び「産業連結性」を更に強化する重要性を再確認した。かくして,生きた連結性は,引き続き日メコン協力の主要な柱の一つである。この観点から,メコン諸国の首脳は,ASEAN内外の連結性強化に貢献してきた日ASEAN統合基金(JAIF)を強化する必要性を強調した。首脳は,メコン地域のニーズ及び優先度を念頭に置き,特に国際スタンダードに沿った「質の高いインフラ」の促進並びに「メコン産業開発ビジョン2. 0」及びその「早期実施措置」の進展を通じた,連結性強化に向けた取組を強化する意図を表明した。この関連で,首脳は,ASEANによるメコン地域の14のパイロット都市を含むASEANスマート・シティ・ネットワーク(ASCN)の設立を歓迎した。日本は,メコン地域におけるスマート・シティ開発のための支援を引き上げることへの関心を表明した。さらに,首脳は,閣僚及び実務者に対し,メコン内外におけるサプライチェーンをも強化する,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定交渉を年内に実質的に妥結させるために最大限の努力を尽くすよう指示した。
A. 1 ハード連結性
8. 首脳は,陸・海・空の連結性強化に貢献する物理的なインフラ整備におけるこれまでの進展を歓迎し,とりわけ,東西経済回廊及び南部経済回廊のミッシングリンクを埋めるという強いコミットメントを再確認した。この目的のため,首脳は,開放性,透明性,経済的実行可能性,社会的及び環境的考慮,受益国の財政健全性といった「質の高いインフラ」開発の国際スタンダードを,「質の高いインフラパートナーシップ」及び「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」の下で促進する重要性を再確認した。首脳は,メコン地域における環境に優しく,経済的で,安定した電力供給システムにかかる考慮を含めて,エネルギー・インフラの連結を強化する重要性を強調した。インフラ整備及び官民連携(PPP)促進の潜在性及び重要性を認識しつつ,この観点から,首脳は,民間セクターの参加を歓迎した。
A. 2 ソフト連結性
9. 首脳は,地域の経済発展と密接に関連させながら急増するソフト連結性の需要を満たすための取組を更に強化する重要性を認識した。この観点から,国境の安全及び通関手続の更なる改善及び促進のために,税関手続の近代化は最優先課題である。首脳は,税関職員に対する能力構築プログラムのための技術協力を継続する必要性を再確認した。首脳は,民間企業によるFTAの活用のための能力構築が貿易手続の円滑化のため必要であることに留意した。情報通信技術(ICT)は,メコン諸国の連結性強化に重要な役割を果たしている。首脳は,ICT分野,特に電気通信,サイバーセキュリティー及び放送に係る協力を促進する意図を共有した。首脳は,デジタル化が人々にもたらしてきた課題に対処することを決定した。首脳は,メコン諸国において制度的枠組みを改善し,電子商取引を含む新たなデジタル経済にこれらの国が参加できるようにする重要性を再確認した。首脳は,メコン地域内外における連結性を強化するために,郵便のネットワーク及びサービスを改善する重要性についての見解を共有した。首脳は,郵便分野における,特に郵便のネットワーク及びサービスの近代化のための,日本とメコン諸国の間の協力を促進する努力を歓迎した。
A. 3 産業連結性
10. 首脳は,「コネクテッド・インダストリーズ」を促進し,メコン諸国におけるサプライチェーンへの非メコン各国の参加を支援する意図を再確認した。この目的のため,首脳は,メコン圏の製造及びサービス産業への投資,中小企業及び創造的な新興企業を含む日系企業とメコンの企業の間のビジネスマッチング並びに経済特別区(SEZ)の開発に取り組むことを決定した。
B. 人を中心とした社会
11. 人を中心としたアプローチは,メコン地域における経済発展をより均衡のとれた,持続可能なものとする。このアプローチは,メコン諸国を,「誰一人取り残さない」多様で包摂的な社会へと転換する措置を含み,スポーツ・文化交流,青少年交流,地方自治体交流,観光交流及び放送プログラムを含む人と人の交流を通じた,「人と人の連結性」の実現を目的とする。日本とメコン諸国の双方向の観光は,持続可能なインフラ,デジタルイノベーション及び質の高い観光商品・サービスの開発を通じて増加し,その恩恵は地方及び全国的に分配され,脆弱な共同体に届けられるべきである。この観点から,首脳は,日本及びメコン諸国の人々の間の相互理解及び交流を促進する貴重な機会として,「日メコン交流年2019」の実施を歓迎した。
B. 1 人材育成
12. 首脳は,人工知能(AI),デジタル関連分野及び国際ビジネスの観点から,産業及びビジネスの分野における人材育成の重要性を再確認した。産業人材育成協力イニシアティブを通じたものを含め,日本が積極的にメコン諸国のために取り組んできた産業人材育成に加え,首脳は,日本の金融庁とメコン諸国政府当局との間で実施されている,グローバル金融連携センター(GLOPAC)を始めとするニーズに基づいた研修及びフェローシップ・プログラムを通じた,技術協力のための積極的な取組を歓迎した。首脳は,フード・バリューチェーンを含む農業及び食料産業分野における人材育成の重要性を強調した。
B. 2 保健
13. 首脳は,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に向けた進展を加速化させ,2030年までに,誰であろうと,どこに住んでいようと,全ての人々に保健医療を普及させるコミットメントを再確認した。この目的のため,首脳は,日メコン協力の文脈において,保健分野に更に注力することを決定した。この観点から,UHC並びに医療,介護,予防及び健康な生活を実現する街づくりを含む全てのヘルスケア関連産業を,アジア健康構想(AHWIN)の下,ERIAと連携し,振興するための取組を強化する意図を共有した。
B. 3 教育
14. 首脳は,教育が,平和で,繁栄した,持続可能な共同体を構築する基礎であるとの認識を共有した。この観点から,持続可能な開発のための教育(ESD)の促進,高等教育協力及び知見の共有を含む様々な取組を通じて,教育分野で連携を促進する意図を再確認した。
B. 4 法律及び司法協力
15. 首脳は,日本及びメコン諸国の間の緊密な協力を通じて,法律及び司法の分野で得られた進展を高く評価し,法の支配の強化に向け,法制度・司法改革のための技術協力並びに刑事司法実務家及び法律専門家の能力構築を継続する意図を再確認した。さらに,首脳は,地域における海洋法執行を更に強化する決意を新たにした。首脳は,日本が,2020年に京都において,第14回国連犯罪防止刑事司法会議を主催することを歓迎した。
C. グリーン・メコンの実現
16. 気候変動及び海洋ごみ汚染対策,水資源管理並びに防災を含むグリーン・メコンの実現は,日本及びメコン諸国にとっての共通の目標であり,また,SDGsの実現にとっての本質的な要素でもある。メコンの美しく,クリーンな環境を保護することに焦点を当てて経済的繁栄を実現することは,将来世代に対する我々の責任である。この観点から,メコン諸国は,廃棄物管理,持続可能な都市,汚水処理,海洋汚染,海洋ごみ,化学物質,生物多様性及び気候変動に対処する質の高い環境インフラの整備を含む「日ASEAN環境協力イニシアティブ」の下での日本の継続した支援を評価した。分野を超えた参加者が議論に参加し,知見を共有するグリーン・メコン・フォーラムの成功に鑑み,首脳は,日本とタイが,「グリーン・メコンに向けた10年」のための行動計画及びその改訂版のフォローアップを行うために,グリーン・メコン・フォーラムを今後共催するとの継続したコミットメント及び用意を歓迎した。首脳はまた,グリーン・メコンを実現するためのビジョン及び展望を共有するために,より多くのメコン地域の若い世代がグリーン・メコン・フォーラムに参加することを慫慂した。
C. 1 防災及び気候変動
17. 「仙台宣言」及び「仙台防災枠組2015-2030」の枠内で,首脳は,メコン地域の持続可能な発展を阻害し得る災害の予防及び削減に取り組む。メコン地域を含む国際社会に気候変動が深刻な脅威を与え,深刻な災害の原因となり得る現在の状況を認識しつつ,首脳は,地域の対応能力を強化し,同地域の気候変動に共同で対処する努力を再確認し,パリ協定を完全に履行するとの強いコミットメントを再確認した。生態系に基づく防災の包含は,防災並びに気候変動の緩和及び適応において効果的かつ持続可能でありえる。この文脈で,首脳は二国間クレジット制度(JCM)を推進することを決定した。
C. 2 水資源管理
18. 首脳は,水資源の持続可能な利用及び管理の重要性を強調し,国境を越える水資源管理を含むメコン河における水に関する問題に対処するために,特にメコン河委員会のような地域的及び国際的組織との更なる連携にコミットした。首脳はまた,LMIと連携する必要性を強調した。
C. 3 循環経済
19. 3R(リデュース,リユース,リサイクル)に基づいたアプローチ及び環境上適切な廃棄物管理が人々の健康な生活を確保し,都市問題及び海洋ごみ汚染を解決するために重要であることを認識し,首脳は,同分野における協力を強化する意図を確認した。
C. 4 水産資源の保全及び持続可能な利用
20. 首脳は,科学的根拠に基づく,鯨類を含む水産資源の持続可能な利用についての重要性を確認した。
III地域情勢とグローバルな課題
21. 首脳は,域内外の平和,安定及び繁栄を確保するため,地域及びグローバルな共通の懸念に関する緊密な協力を促進し,深化させる強い決意を再確認した。首脳は,この地域における平和,安全保障及び安定を維持・促進すること,及び,普遍的に認められた国際法の諸原則に従い,威嚇又は武力の行使に訴えることなく,法的及び外交的プロセスの完全な尊重を含む,紛争の平和的な解決への共有されたコミットメントを再確認した。
22. 首脳は,6月の米朝首脳会談及び本年の南北首脳会談を含む,現在進行中の外交努力について,朝鮮半島の恒久的な平和と安定につながりうる北朝鮮に関する諸懸案の包括的な解決に向けた一歩として,歓迎した。首脳は,北朝鮮が,関連安保理決議に従って,全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な,検証可能な,かつ不可逆的な廃棄を実現することへのコミットメントを表明した。首脳は,北朝鮮に対して前述の目標に向けて具体的な行動をとるよう求めた。また,首脳は,関連安保理決議を完全に履行することへのコミットメントを再確認した。首脳は,拉致問題の即時解決を含む,国際社会の人道上の懸念に対処することの重要性を強調した。
23. 首脳は,南シナ海におけるルールに基づく秩序,平和,安全保障,安定,安全,航行及び上空飛行の自由を維持・促進することの重要性を再確認し,南シナ海が平和で,安定し,繁栄した海であることの恩恵を認識した。首脳は,南シナ海に関する行動宣言(DOC)全体の完全かつ実効的な履行の重要性を強調した。ASEANと中国との間の交渉の最近の進展を確認し,首脳は,相互に合意されたタイムラインでの実効的な南シナ海における行動規則(COC)の妥結の重要性を強調した。首脳は,この地域における安定を確保するため,このような外交的取組が非軍事化と平和で開かれた南シナ海につながるべきであるとの認識を共有した。
24. 首脳は,信用及び信頼を損ない,緊張を高め,この地域における平和,安全保障及び安定を損ない得る,この地域における埋立てや活動を含む南シナ海における状況に対する懸念に留意した。首脳は,相互の信用及び信頼を高め,活動の実施に当たっては行動を自制し,状況を更に複雑化させ得る行動を回避し,国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に従って,紛争の平和的解決を追求することの必要性を再確認した。首脳は,非軍事化及びDOCにおいて言及された事項を含む,南シナ海における状況を更に複雑化し,緊張を高め得る全ての活動の自制の重要性を強調した。