データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日印ビジョンステートメント

[場所] 
[年月日] 2018年10月29日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

繁栄のためのパートナーシップ

 2018年10月28日から29日にかけて,ナレンドラ・モディ・インド首相は安倍晋三日本国総理大臣との年次首脳会談のため,日本を訪問した。滞在中,モディ首相と安倍総理は二国間関係の発展に向けた比類の無い可能性を認識し,過去4年間における多大な実績を再認識し,日印関係の将来に関して以下のような共通のビジョンを示した。

1 日印特別戦略的グローバル・パートナーシップは,歴史に深く根差し,共通の価値観に基づくものであり,両国の国民にとってのより良い未来の実現に向けて,共通の戦略的目標を前進させ,平和,繁栄及び進歩を達成するための主要な源泉である。両首脳がシンポジウム「アジアの価値観と民主主義」で明確に示したように,日印の間で学術的,精神的,学究的交流の長い歴史を通して共有されてきた,自由,人道主義,民主主義,寛容性,非暴力という普遍的な価値は,日印二国間関係の基礎をなすのみならず,インド太平洋地域及び世界全体の利益のために協働する原則を強調するものである。

2 両首脳は,この共通ビジョンを達成するために,日本とインドが,共有された繁栄のため,法の支配,阻害されない通商並びに人,テクノロジー及びアイデアの移動を確保するための意思疎通と連結性を強化することにより,信用と信頼を醸成するルールに基づいた包摂的な世界秩序のために協力するよう努めなければならないという考えを共有した。

3 モディ首相は,日印関係が極めて充実した内容と大きな目的を備えた形で,インドのアクト・イースト政策の礎となるパートナーシップに転換したことを認識した。安倍総理は,地域秩序における日印関係の基本的な重要性を強調し,「日印新時代」を発展させインド太平洋の平和,安定及び繁栄のために一層協力していくことを決意している。日印の共通のビジョンに基づき,両首脳は,自由で開かれたインド太平洋に向けて協働していくという揺るぎない決意を改めて述べた。両首脳は,また,ASEANの一体性と中心性が,包摂的で全ての国に開かれているインド太平洋の概念の中核にあることを確認した。両首脳は,米国及びその他のパートナーと具体的な協力を拡大していく意思を共有した。インド太平洋に関する両首脳のビジョンは,国家主権と領土の一体性を尊重し,航行及び飛行の自由,阻害されない適法な通商を確保し,脅迫や武力の行使に訴えることなく,国連海洋法条約を含む普遍的に認められた国際法の原則に基づき,法的及び外交的プロセスを完全に尊重した紛争の平和的解決を追求するルールに基づいた秩序に依拠するものである。

4 両首脳は,地域経済及び開発の戦略及び優先順位に従い,国際スタンダード及び責任のある債務による資金調達の慣行に基づき,開放性,透明性がある二国間及び他のパートナーと共に実施される質の高いインフラを通じた連結性の強化及び共通の繁栄のための能力強化を含むその他のプロジェクトに関する協力を満足感とともに確認した。この相乗効果は,スリランカ,ミャンマー,バングラデシュ,アフリカを含むインド太平洋地域におけるインドと日本の間の協働プロジェクトにおいて具体化されている。この点,両首脳は,この地域における産業回廊及び産業ネットワークの発展に向けた日本とインドのビジネス界の交流を更に促進する「アジア・アフリカ地域における日印ビジネス協力プラットフォーム」の設立に向けた議論を歓迎した。

5 両首脳は,日印アクト・イースト・フォーラムを通じ,連結性,持続可能な森林及び生態マネジメント,防災並びに人物交流を強化するプロジェクトを特定し,実行することによるインド北東部の発展に向けた進展を歓迎した。両首脳はまた,インドにおけるスマートアイランドの開発の重要性を強調した。

6 モディ首相は,日本のODAがインドの社会経済開発に多大な貢献をしていることに対して感謝を表した。安倍総理は,主要な質の高いインフラ案件と能力開発を通じたものを含め,社会産業開発のためのインドの取組を引き続き支援していく意図を表明した。両首脳は,インド独立75周年に示される日印協力の重要な象徴であるムンバイ-アーメダーバード間高速鉄道計画について,円借款の供与に係る交換文書の署名を含め,その進展を満足感とともに確認した。また,両首脳はインドの都市のよりスマートな発展を支える地下鉄案件における継続的な協力を歓迎した。インドは西部貨物専用鉄道(DFC)といった質の高いインフラ案件やデリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)構想を通じ連結性の強化において日本が果たしている役割を一層評価した。

7 両首脳は豊かな未来に向けた日印経済パートナーシップの真の可能性を実現するため,インドの人口ボーナスと日本の資本及び技術に相乗効果を与えることに引き続きコミットする。この点について,インドは,資源及び高度技術の共有並びに,日本の官民セクター投資の積極的な動員を通じた「メイク・イン・インディア」や「スキル・インディア」,「クリーン・インディア・ミッション」といった鍵となる変革的イニシアティブへの日本の力強い支援を歓迎した。両首脳は,知的財産権分野における両国の当局同士の緊密な協力を確認し,一定の特定された発明分野における二国間の特許審査ハイウェイ(PPH)を2019年度第一四半期に試験的に開始することで一致した。両首脳は,「日印投資促進パートナーシップ」の下でのインドにおける日本の海外直接投資の拡大,日本工業団地(JITs)における進展,及び日印投資促進ロードマップに含まれるその他のイニシアティブを歓迎した。日印両国政府は、金融・経済協力の強化の観点から,総額を750億ドルとする二国間通貨スワップ取極(BSA)を締結することで合意に達した。対外商業借入(ECB)について、最低平均借入期間が5年を超えるインフラ分野向けECBに関し為替ヘッジ義務が課されないこととなる。

8 両首脳は,インドの様々な州における日本式ものづくり学校(JIMs)及び寄付講座(JEC)の範囲及び数を拡大することにより,技能開発における協力を更に強化する意図を共有した。産業界の新たなニーズに一致する形で,日本の「イノベーティブ・アジア」イニシアティブ,外国人技能実習制度(TITP)等の枠組みの活用を通じたものを含む人材育成及び人材交流における協力が更に促進される。

9 両首脳は,包括的な日印デジタル・パートナーシップの立ち上げを歓迎し,「日印スタートアップ・ハブ」及び広島県におけるNASSCOMのITコリドーの活用,高度人材の呼込,及び官民の関係機関の連携を通じて,社会に役立つIoT・AIソリューションの構築及び新興技術分野での協働を目指すことで一致。これは,インドの旗艦プログラムである「DigitalIndia」,「StartupIndia」,「SmartCity」と日本の「ソサエティ5.0」との融合を通じ,社会的利益を向上させることになる。また,両国は,日本のステークホルダーの参加を得てインドにおけるスタートアップ企業に投資するためのファンドの創設を奨励・支援する。

10 両国が高齢化等の課題への対処を含め,両国民に入手可能なヘルスケアの提供に向けて努力し,両首脳は,互恵的で相互利益のあるアプローチを通じ,入手可能な技術,技能開発及びヘルスケアのベストプラクティスを導入することによる,日本のアジア健康構想とインドのアユシュマン・バラット等のヘルスケアに関するイニシアティブとの連携を歓迎する。また,両国は,アーユルベーダやヨガを含む,総体的な代替ヘルスケアの提供の豊かな歴史を有する伝統医療の分野での協力に向け,さらなる情報交換と取組を進める。

11 両首脳はまた,農業の生産性を向上させ,収穫及び収穫後の損失を低減させる,官民関係者の間の,農業,食品加工及び林業における二国間協力を両国が進める中で得られた進展を歓迎した。

12 両首脳は,人的交流が日印パートナーシップの中核であることを再確認し,「インド太平洋フォーラム」を含む文化,教育,議会,学術及びトラック1.5の交流の進展に満足の意を示した。また,両首脳は,観光分野が大きな未開拓の潜在性を有する分野であるとみなし,ビザ要件の一層の緩和や観光促進を通じて,今後の双方向の交流の強化に向け努力することで一致した。さらに,両首脳は,高等教育と女性のエンパワーメントにおける日印パートナーシップを一層促進すること,並びに学術,青少年及びスポーツ交流を促進することで一致した。インドにおける日本語教師養成センターの共同立ち上げは,両国民の間の橋渡しとなる。両首脳は,日印地方自治体間の交流の着実な拡大の重要性を強調した。

平和に向けたパートナーシップ

13 両首脳は,二国間の安全保障及び防衛協力を一層深化させ,既に設置されている協議枠組み(年次防衛相会談,防衛政策対話,国家安全保障局長及び国家安全保障顧問間の対話,各軍種間の事務レベル対話,海上保安当局間の対話,各軍種間の訓練を含む。)に加えて日印外務・防衛閣僚会合(2+2)を設ける希望を確認した。両首脳は,二国間の安全保障及び防衛協力の戦略的深化につながる日印物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉開始を歓迎した。

14 両首脳は,海上自衛隊とインド海軍の頻繁な共同訓練及びマラバール演習のレベルの深化並びに長年にわたる海上保安当局間の対話及び訓練等の協力に見られるように,海洋安全保障協力が著しく進展していることを認識した。両首脳は,インド太平洋地域における海洋状況把握(MDA)の拡大に係る交流の強化が,地域の平和と安定に寄与することを認識し,海上自衛隊とインド海軍の間の協力の深化に係る実施取決めの署名を歓迎した。

15 日印間の防衛装備・技術協力は,官民一体となって技術力と産業基盤を強化させるための広大なスコープ及び可能性を有している。このため,両首脳は日本とインドの防衛産業及び関係当局間の交流を促進することを更に再確認し,また,陸上無人車両(UGV)及びロボティクス分野における共同研究の開始を歓迎した。両者は,US-2飛行艇に係る協力に関して引き続き努力する。

16 両首脳は,宇宙活動の長期的な持続可能性を促進するとのコミットメントを改めて表明し,宇宙における二国間協力を強化するために,年次の宇宙対話を立ち上げることを決定した。また,両首脳は,共同月極域探査ミッションに係る関係当局間での技術協力が進展していることを歓迎した。

17 両首脳は,6月のシンガポールにおける米朝首脳会談及び本年の三度の南北首脳会談を含む朝鮮半島における最近の動きを,北朝鮮に関する諸懸案の包括的な解決に向けた一歩として歓迎した。両首脳は,関連する国連安保理決議に従った,北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な廃棄(拡散とのつながりに関する懸念に対処することを含む。)を実現することの重要性を強調した。両首脳は,関連する国連安保理決議の完全な履行に対するコミットメントを再確認した。両首脳はまた,北朝鮮に対し,拉致問題の可能な限り早期の解決に取り組むよう求めた。

18 両首脳は,核兵器の全面的な廃絶に向けた共通のコミットメントを再確認し,核拡散及び核テロリズムの課題に対処するための国際協力を強化することに対する堅い決意を維持する。安倍総理は,包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の重要性を強調した。

両首脳は,シャノン・マンデートに基づく,非差別的な,多数国間の,国際的でかつ効果的な検証が可能な兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に関する交渉の即時開始及び早期妥結を呼びかけた。両首脳は,3つの国際的な輸出管理レジームへのインドの完全な参加の後,国際的な不拡散の取組を強化することを目指し,インドが原子力供給国グループのメンバーになるために引き続き協力していくことを約束した。

19 両首脳は,脅威を増すテロとその国際的な広がりを最も強い言葉で非難した。両首脳は,テロリストのネットワーク及び資金源を断絶し,テロリストの国境を越えた移動を阻止し,テロリストの安全な逃避地とインフラを根絶するために取り組むよう全ての国に呼びかけた。両首脳は,全ての国が,自国の領域がいかなる態様であれ他国へのテロ攻撃を開始するために使われないことを確保する必要性を強調した。両首脳は,情報及びインテリジェンスの一層の共有を通じたものを含め,テロ及び暴力的過激主義対策におけるより強力な国際的パートナーシップの必要性を強調した。両首脳は,パキスタンに対し,2008年のムンバイでのテロ事件及び2016年1月のパタンコートでのテロ事件の加害者を始めとするテロ事件の加害者を裁くよう要請した。両首脳は,アル・カーイダ,ISIL,ジャイシュ・エ・ムハンマド,ラシュカレ・タイバ及びこれらと関係を有する組織によるテロの脅威に対する協力を強化することに対して期待を表明した。

20 日本とインドは,迅速かつ有意義な国連改革,特に,21世紀の実情を踏まえた,より正統性があり,実効的で,代表性が高い組織にするための国連安全保障理事会の包括的な改革を追求する。両首脳はまた,第73回国連総会での政府間交渉におけるテキスト・ベース交渉の開始を含め,このプロセスを加速させる決意を表明した。この点に関連し,両首脳は,改革を推進する国々とのグローバルな連携の重要性を強調した。両首脳は,日本とインドが,拡大された安保理における常任理事国の正統な候補であるとの確固たる共通認識に基づき,それぞれが常任理事国の候補であることを相互に支持する。

グローバルアクションのためのパートナーシップ

21 両首脳は,持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための一層の協力の重要性を強調した。両首脳は,汚染管理,持続的な生物多様性管理,化学物質及び廃棄物管理,気候変動並びに排水処理といった分野での,関係当局間の協力枠組みを活用した環境パートナーシップを強化することに一致した。両首脳は,気候変動に対処するための協調的な世界的規模の行動をとる必要性を強調し,国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で採択されたパリ協定に従って,この分野で主導的役割を果たすことで一致し,パリ協定実施指針の策定及び二国間クレジット制度構築に向けた協議をさらに加速させることで一致した。

22 両首脳は,原子力,再生可能エネルギーを含む持続可能でクリーンなエネルギーに関する協力を強化すること並びにクリーンコール技術の利用,原油と天然ガスのプロジェクト及びLNGのサプライチェーンにおける協力のための努力を継続する一方で,水素を基礎としたエネルギーにおける協力の可能性を探究することのコミットメントを再確認し,「日印エネルギー転換協力プラン」を歓迎した。さらに,両国は,ハイブリッド車や電気自動車など,環境に配慮したクルマの生産とともに,エネルギー効率と省エネ,エネルギー貯蔵においても協力していく。両首脳は,民生用原子力協力に関する日印協議の進展を歓迎するとともに,この点について議論を継続することを決定した。インドは,クリーンで手頃かつ持続可能なエネルギーの選択肢である太陽エネルギーの利用を促進するための国際的な取組を強化するものであるとして,太陽に関する国際的な同盟への日本の加盟を歓迎した。

23 両首脳は,ワークショップの開催を通した二国間及び様々なフォーラムでの多数国間での防災における協力の進展を満足して振り返った。両首脳は,早期警報メカニズム,水資源管理,宇宙基盤技術及び災害に強いインフラ等の分野で,「仙台防災枠組2015-2030」の効果的な実施の重要性を認識した。

24 両首脳は,ルールに基づく多角的貿易システムの重要な役割を強調し,持続可能な成長と開発を達成するため,WTOの機能強化及び,自由で公正かつ開かれた貿易に繋がるWTO改革の緊急の必要性を共有した。両首脳は,あらゆる不公正な貿易慣行を含む保護主義に抵抗することを改めてコミットし,貿易歪曲的措置を除去する必要性を強調した。両首脳は,自由で開かれたインド太平洋の利益を完全に実現するために質の高い,包括的でバランスの取れた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定交渉の早期妥結の戦略的重要性を再確認した。

25 両首脳は,地域,多国間フォーラム及び機関における協議と協力を強化する重要性を強調した。両首脳は,持続可能な成長と開発,経済的安定,食及び水の安全,環境保護,災害緩和,テロ対策,サイバー安全保障,クリーンエネルギー並びに,科学技術開発を促進することによって,我々の時代の必要性と課題に効果的に対処することに一致した。両首相は,近年二国間関係が,大きな目的と内容を獲得したことを再確認した。両首脳は,今日の日印特別戦略的グローバル・パートナーシップの成熟における相互信頼と深い確信,そして,より安全で平和的で繁栄した地域と世界の構築に向けて共に努力するという両国の将来に向けて本パートナーシップが持つ大きな約束を強調した。