データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日英共同声明

[場所] 
[年月日] 2019年1月10日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

1. 日本と英国は,相互利益,共通の価値及びルールに基づく国際システムを維持することに対するコミットメントに支えられたグローバルな戦略的パートナーシップを有する。2017年8月のメイ首相の訪日により,協力についての新たに共有されたビジョンが設定され,また,経済及び安全保障における関与の重要な変革が示された。本日,我々は,「日英共同ビジョン声明」,「安全保障協力に関する日英共同宣言」及び「繁栄協力に関する日英共同宣言」を再確認した。

2. メイ首相の訪日以来これまでになく進展している両国の協力に基づき,我々は,ルールに基づく国際秩序を維持し,グローバル及び地域的な安全保障並びに自由貿易を促進するため,最も親密な友人でありパートナーとして,日英関係が次の段階に引き上げられたことを確認する。

3. 英国がEUを離脱するに際し,我々は,次の10年の課題と機会を見据え,両国間の戦略的パートナーシップを一層深化させる。我々は,自由で開かれたインド太平洋を維持するために,パートナーと協力することが相互の利益であることを再確認した。我々は共に,アジア及びそれを超える地域において連結性を構築し,安全保障を強化するとともに,両国の経済的パートナーシップを強化し,将来の技術を形作るための科学及びイノベーションにおける強みを活用し,また,世界の貧困に取り組み持続的開発目標(SDGs)を達成するために協働していく。

連結性及び安全保障の強化

4. 戦略的パートナーとして,我々は,両国が共有する利益を保護し,国際的及び地域的安全保障を支えるルールに基づく国際システムを維持するため,両国の安全保障パートナーシップを引き続き拡大し,深化させる。この取組を促進するため,我々は,2019年春に東京において第4回日英外務・防衛閣僚会合を開催することを決定する。

5. 我々は,連結性と安全保障に関する実際的な協力を通じ,ルールに基づく国際秩序を支持し,より連結されたインド太平洋地域を発展させていく。この目的のため,また,自由で開かれたインド太平洋に貢献するため,我々は,所定の対話のメカニズムを通じたものや,開かれたアクセス,透明性,強靱性,ライフサイクルコストを含む経済性及び財政健全性といった国際スタンダードにのっとった質の高いインフラ投資を支える第三国との協力や民間セクターの関与を含む政府間協力を強化する。さらに,我々は,質の高いインフラに係るこれら及びその他の要素を国際スタンダードとして確立させるため,G7及びG20を含む国際場裡における協力を強化する。

6. 我々は,自由で開かれたインド太平洋を維持し促進するため,船舶情報の共有の可能性を含め,海洋状況把握等の事項に関する海洋安全保障協力を強化し,また,海洋安全保障協力に関する取決めを作成する意図を有している。我々は,同演習,寄港,PKO関連の協力並びに両国間の様々な形式の議論を通じた南アジア,東南アジア及びアフリカにおける能力構築の強化等のイニシアティブを通じ,第三国との海洋安全保障及び安全に関する協力を促進する。我々は,また,航空保安,鑑識,IED(簡易爆発装置)対策といった分野において,南アジア及び東南アジアの第三国のテロ対策能力強化のための協力を強化する。我々は,日本の2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の安全上の準備について引き続き協力する。

7. 我々は,両国の防衛パートナーシップを更に広げることにコミットしている。我々は,インド太平洋地域及び欧州において自衛隊及び英国軍の共同演習を増加する。我々は,将来のあり得べき交渉を見据え,日本国自衛隊と英国軍の共同運用・演習を円滑にするための行政上,政策上及び法律上の手続を改善する枠組みに引き続き取り組む。英国は,4隻目となる王立海軍艦艇「HMSモントローズ」を2019年早期に日本に派遣し,北朝鮮に関連する国際連合安全保障理事会決議の履行を支援するため,違法な海上活動に対して警戒監視活動を行う。我々は,将来の戦闘機及び空対空ミサイルに関する協力を探求する可能性を含め,将来の能力のため,防衛産業パートナーシップ及び政府間協働プロジェクトを進展させる。

8. 我々は,国連安保理改革及び国連事務総長のより広範な改革アジェンダの実施を含む国連に関連する事項についての対話に引き続き関与していく。

9. 我々は,関連する国連安保理決議に従い,全ての北朝鮮の大量破壊兵器及び弾道ミサイル並びに関連プログラム及び施設が完全に,検証可能で,かつ不可逆的に廃棄されることに向けた国際社会のコミットメントの重要性を改めて表明した。我々は,この目標に向けて具体的な措置をとるよう北朝鮮に求めるとともに,全ての国連加盟国に対して,前述の目標が達成されるまで維持される関連する国連安保理決議を完全に履行するよう呼びかける。この文脈において,我々は北朝鮮籍船舶が関与する違法な「瀬取り」のような疑わしい海上活動に対する警戒監視活動を通じたものを含む両国のコミットメントも再確認した。我々はまた,拉致問題の早期解決に向けて緊密に協力し続ける。我々は,東シナ海及び南シナ海における状況を引き続き懸念するとともに,係争のある地形の軍事化を含む,現状を変更しようとし,緊張を高めるあらゆる一方的な行動に対し強く反対した。我々は,ウクライナの主権及び領土の一体性を両国が引き続き支持することを改めて確認する。我々は,2018年3月4日のソールズベリーのみならず,化学兵器禁止機関の技術支援訪問によってエームズベリーでも被害が認定された神経剤の使用を非難する。我々は,両国における外国のインテリジェンス・ネットワークの敵対的活動を引き続き阻止し,化学兵器の禁止を堅持する。日本と英国は,ミャンマーにおける状況を引き続き懸念するとともに,ラカイン州への難民の帰還が,自発的に,安全に,尊厳のある持続可能な態様でかつ帰還者の人権が守られながら行われることを確保するために緊密に協調することを決定する。

10. 我々は,自由で,開かれ,平和で,公正かつ安全なサイバー空間を促進することに対するコミットメントを改めて表明し,この点に関し,多国間及び二国間の場において協働する。我々は,サイバー攻撃を抑止し,対応し,緩和するために共に取り組み,国家の無責任な行動を非難する。我々は,サイバーにより可能となる知的財産の窃取その他の脅威から技術を保護するに当たり協力を強化する。我々は,日本のIoTセキュリティガイドライン及びサイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク並びに英国の消費者向けIoT製品のセキュリティに関する行動規範に規定されたガイドラインを参照し,また,両国の市民を保護し,これらの新技術を活用するビジネスを可能とするための両国のアプローチを調和させるべく協働し,インターネットに接続された消費者向け機器の防護を改善し,ボットネットに対抗する。物理空間とデジタル空間がますます連結されていく中,我々は,世界的な分野横断的サプライチェーンのサイバーセキュリティを確保するため,我々のリスク管理に係るアプローチを議論する。

11. 我々は,宇宙空間における活動の長期的な持続可能性及び法の支配を促進することに対するコミットメントを改めて表明し,また,宇宙空間における産業協力が進展していることを歓迎する。

12. 上記の関連する要素は,両国間の様々な形式の協議において取り上げられ,安全保障及び防衛協力に関する共同行動計画に盛り込まれる。

経済的パートナーシップの強化

13. 日本と英国は,開かれ,相互に連結した経済としての価値を共有する自由貿易の最も力強い旗手の一員である。日本は,英国及びEUが離脱協定及び将来関係枠組みを定める政治宣言について合意に達したことによる進展を歓迎する。これらの合意は,ノーディール・シナリオを避ける重要なステップであり,また,実施期間を設定することを含め,透明性,予見可能性及び法的安定性を提供する。

14. 日本は,2018年2月に英国において英国首相が主催した日系企業のためのビジネス・ラウンドテーブルの開催を含め,日系企業の要望に応え,その懸念に耳を傾ける英国の努力を歓迎した。日本は,英国における快適なビジネス環境を確保すること,並びに,法的安定性を確保し,合意無き離脱のシナリオを回避するとともに実施期間中及びその後のビジネスの混乱を避けるために最大限努力することへの英国のコミットメントを高く評価する。実施期間中の法的安定性を確保することへの日本及び英国双方の希望に沿って,日本及び英国は,効力発生後の日EU・EPAを含む日EU間の国際約束が,英EU間の離脱協定に規定されるとおり,実施期間中に日英間において引き続き適用されることを確保する双方の意図を確認した。我々はまた,日本と英国との間の新たな協定が,実施期間の終了を念頭に,できる限り早期に作成されることを確保する意図を確認した。

15. 我々は,日EU・EPAを日英間の将来の経済的パートナーシップの基礎とし て用いるとの過去のコミットメントに基づき議論を進める。両国の自由貿易に 対するコミットメントに沿って,我々は,新たなパートナーシップを日EU・ EPAと同様に野心的で,高い水準の,互恵的なものとする。我々は,透明性, 予見可能性及び法的安定性を提供すること等によってビジネスの継続性を確 保することが最も重要であるとの認識を共有した。我々は,この経済的パート ナーシップについてできる限り速やかに効力を生じさせる意図をもって,その 構築に速やかに取り組む。我々は,このようなパートナーシップを早急に作成 する必要があることを認識する一方で,この新たなパートナーシップを共通の 関心分野において,より野心的で強化されたものとすべく最大限の努力を行う。

16. 日本は,環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定への英国 の加入の可能性について支援することを再確認する。

17. EUとの協定に合意することは引き続き英国にとり最大の優先課題であるも のの,日本及び英国は,「合意無き離脱」のシナリオが与え得る深刻な影響に ついて議論し,貿易及びその他に関する国際約束の下での協力の継続性を可能 な範囲で維持することについて,事務レベルで共に取り組む意図を確認した。

18. 我々は,自由で公正なグローバル貿易を支持するために共に取り組み,全ての 不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘い続ける。我々は,この観点からG7及 びG20において緊密に取り組む。我々は,(1)WTOのルールを貿易上の 緊張の根本原因により良く対処するために改革し,(2)デジタル貿易に係る議論を前進させ,(3)WTOの通報及び監視機能を強化し,及び(4)紛争解決制度の機能を向上させることを含め,WTO改革に係る議論を前進させることを追求する。英国は,WTOの独立した譲許表・約束表を設定する過程において透明性のある方法で引き続き努力し,日本は,これを評価する。日本は,また,政府調達協定への英国の加入を支持する。

19. 英国は,英国の牛肉及び羊肉の輸出に対する市場開放につながる日本の決定を歓迎した。

20. 我々は,金融市場の分断,金融セクターにおける技術革新,高齢化とその政策的対応,サステナブル・ファイナンス及び金融サービス業界における女性の役割の強化について協力しつつ,日英財務協議を通じたものを含め,金融サービスに関するパートナーシップを深化させる。

イノベーションと成長の促進

21. 世界における2つの最も革新的な経済主体として,成長を促進し,現代の大きな課題に対応するため,我々は,科学,研究及びイノベーションに係る新たなパートナーシップを構築する。我々は,我々の経済及び社会に裨益する解決策を共同で示す。

22. 我々は,我々の科学担当省庁及び資金提供機関の間の新たな協力の促進メカニ ズムにより 共同研究計画を可能とする。我々は,科学技術協力に関する日英 合同委員会を通じ,科学,イノベーション及び成長についての協力分野に関す る特別な措置に係る行動計画を策定する。

23. 日本が G20 議長国を務める機会等を活用し,我々は,水素技術の活用や二酸 化炭素の回収・利用・貯留(CCUS)を含むエネルギーイノベーションの加 速のための機会を共同で探求する。我々は,水素閣僚会議において発表された東京宣言を歓迎する。

24. 我々は,イノベーションを創出する基盤として期待されている5Gのユースケース及び効率的な電波利用のベスト・プラクティスを共有する。我々はまた,我々の革新的な企業が,豊富なデータの提供に依存する将来の技術を十分に利用すること及び倫理的で安全で自由な流通を律する原則と方法に基づく協力により信頼を確保することを支持する。我々は,プライバシー及びデータ保護のための枠組みを尊重するとともに,情報の流通の障壁として機能する差別的な貿易慣行に対処する。

25. 我々は,アラン・チューリング研究所と国立研究開発法人理化学研究所の革新知能統合研究センター(AIP),大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)及び国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)の間の人工知能に係る協働を奨励する。我々は,有害な環境のためのロボットに係る協力を強化する機会を探求する。

26. 我々は,イノベーション及びアシステッドリビングにおけるロボット,AI,IoT等の新技術の活用を共に奨励することにより,両国の市民が質の高いより長い人生を送ることを可能とするようにしていく。この点に関し,我々は,日英スマート・アシステッドリビング協調を立ち上げ,また,「ウェルエージング・ソサイエティ・サミット」や「認知症グローバル・ラウンドテーブル」等の機会において,両国の企業関係者やイノベーターの成果を披露するために協力する。我々は,2017年に署名されたMOCに基づく国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)と英国医学研究会議(MRC)の間の協力並びに特に2019年に開始された感染症及び再生医療分野に関する協働を歓迎する。我々は,また,2012年のロンドン・オリンピック・パラリンピック競技大会期間中の英国のイニシアティブに続いて,2020年に東京で開催される「成長のための栄養(N4G)」及び世界栄養サミットを成功させるべく協働する。

27. 我々は,日本貿易振興機構(JETRO),国際貿易省(DIT),デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)及びビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が有する,両国におけるスタートアップ企業の事業開拓支援の機能を活用し,J-Startupを含め先端技術を有するスタートアップ企業の発展とエコシステムの活性化に向け,支援し協力する。

28. 我々は,ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)と経済産業省の間の日英産業政策対話における進展を歓迎し,宇宙,航空,エネルギー及び気候変動,先端製造並びにバイオ経済の諸分野における更なる協力を探求する。

29. 我々は,引き続き,より深い相互理解を醸成し,また,両国間の人的関係を強固にするための新たなモメンタムを与える。我々は,昨年9月にケンブリッジ公爵殿下の出席の下行われた,英国における日本文化にとっての強力なプラットフォームを提供するジャパン・ハウス・ロンドンのグランド・オープニングを歓迎する。我々はまた,「日英交流年 UK in Japan 2019-20」並びにラグビー・ワールドカップ2019日本大会及び2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の間を架橋する日英文化季間2019-2020を祝い,また,日本と英国の幅広い文化,科学及びビジネスの機会を紹介していくために,引き続き共に取り組む。我々は,桜の木を英国に寄贈する日本の民間のイニシアティブについて最新の情報を共有する。