データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第26回日EU定期首脳協議共同声明

[場所] ブリュッセル
[年月日] 2019年4月25日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

 安倍晋三日本国内閣総理大臣,ドナルド・トゥスク欧州理事会議長及びジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長は,本日,ブリュッセルにおいて,第26回となる日本と欧州連合(EU)との定期首脳協議を行い,次の声明を発出した。

 我々日本及びEUの首脳は,国際法の尊重に基づく平和,安全保障,持続可能な開発及び繁栄のために協力する決意を再確認する。我々は,効果的な多国間主義,民主主義,人権,国際連合をその中核とするルールに基づく国際秩序を支持するため,引き続き協力していく。

日EU関係

 我々は,本年2月1日に日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)の暫定的適用が開始されたことを歓迎する。また,我々は,日EU・SPAの第1回合同委員会において,持続可能な連結性及び質の高いインフラ,地球規模課題,データ・セキュリティ及び安全保障協力を含む,日EU・SPAの下での優先分野が議論されたことを歓迎する。この文脈において,我々は,海洋ガバナンスを含む海洋問題についての対話を強化する。日EU・SPAは,日EUのパートナーシップ全般を強化し,平和,安定及び繁栄をグローバルに進める日EUの強固な政治的意思を示すものである。

 我々は,日EU経済連携協定(EPA)が2月1日に発効したことを,日EU関係における最大の成果の一つとして歓迎する。EPAは,自由で,開かれた,ルールに基づく,かつ,公正な貿易及び投資を促進するための21世紀における高い水準のルールのモデルである。我々はまた,EPAの第1回合同委員会が開催され,双方の市民,消費者及びビジネスの利益のため,この協定を完全かつ効果的に実施し,この協定による関税その他の特恵の利用を最大限促進するとの共同のコミットメントを確認したことを歓迎する。我々は,国際基準を遵守すること等を通じて,日本及び欧州の産品の市場アクセスを拡大するとのコミットメントを再確認する。この観点から,我々は,乳及び乳製品,卵及び卵製品に関するEUの第三国リストへの日本の掲載を歓迎するとともに,日本とEUの産品に関する輸入措置の更なる見直し及び地域主義に関する進行中の取組を含む双方の重要課題への対処に,引き続き取り組んでいく。同時に,我々は,環境及び労働に関する高い水準の保護の必要性に留意しつつ,持続可能な開発に貢献する方法で国際貿易の発展を促進することの重要性を想起する。この点に関し,EPAの貿易及び持続可能な開発章の規定の実施の重要性を再確認する。日本とEUとは,高い水準の合意を達成することを目指し,投資に関する協議を続けていく。我々は,国際貿易における課題,エネルギー・環境・気候変動問題に関連した経済の転換,国際的な投資及び連結性に関するイニシアティブ並びにデジタル経済に焦点を当てた,日EUハイレベル産業・貿易・経済対話の設立及び2018年10月の第1回会合の開催を歓迎する。

 我々は,G7及びG20における質の高いインフラ及び持続可能な成長のための資金の動員へのコミットメントを含め,日EU間及び国際場裡におけるルールに基づく連結性へのコミットメントを強調する。我々は,既存の日EU間協力枠組みを活用し,運輸,エネルギー,デジタル,人的交流を含む持続可能な連結性及び質の高いインフラについてのパートナーシップにコミットする。我々は,インド洋から太平洋にまたがる地域を含む欧州・アジア太平洋間の連結性に関し,経済,社会,財政,金融及び環境の持続可能性の改善に向け,引き続き協力する。我々は,透明性,包摂性,連結性における投資者及びビジネスの公平な競争条件,無差別のアクセス,開放的な公共調達,債務持続可能性,国際的な財産権の保護,国際規範及び基準の尊重を促進させるよう協力する。また,我々は,日EU間の運輸協力を深化させることで一致し,可能な限り本年中の日EUの航空の安全に関する協定の迅速な署名に期待するとともに,航空業務の一定の側面に係る協定を可能な限り早期に交渉する。

 我々は,高い水準の個人データ及びプライバシーの保護,中核となる一連の個人の権利並びに独立したデータ保護機関による執行に基づき,データが安全に流通する世界最大の地域を創出し,及び両国の仕組みの高い水準の類似性に立脚した,データの十分性に係る日EU相互の決定を歓迎する。このような類似性に基づき,我々は,個人データ保護の世界標準の形成のため,国際的なパートナーと引き続き協働する。

 我々は,研究及びイノベーションに関する日EU戦略的パートナーシップへのコミットメントを再確認し,共同プロジェクトへの共同支援の拡大にコミットする。我々は,科学技術振興機構と欧州研究会議の研究者の間の協働の機会を提供する新たな取決めを歓迎する。

 我々は,低炭素エネルギーシステムへの転換を支援するため,柔軟かつ透明性の高い液化天然ガス(LNG)市場の発展に向けた共同の取組を含む,世界及び国内における持続的かつ廉価で安定的なエネルギー供給,並びに水素,エネルギー効率及び再生可能エネルギー技術等のエネルギー・イノベーションに係る調整を強化する意思を確認する。我々はまた,エネルギーへの持続的アクセス及び強靱性を促進するために資金を動員し,市場・投資環境を改善するために協働することを歓迎する。

 我々は,教育・文化・スポーツ政策対話及び日欧大学間の提携による修士課程プログラムへの共同助成を歓迎する。

グローバルな課題,ガバナンス

 緊密であり,かつ,志を共にするパートナーとして,日本とEUとは,ルールに基づく国際秩序を擁護するために,G7及びG20の場で協働する。共有された価値を堅持し,過去のコミットメントを実施し,及び新たな課題に対処することを通じて,6月のG20大阪サミットの成功を確実なものとすることは,我々の共同の野心である。

 我々は,開かれた市場を維持し,WTOを中心とするルールに基づく多角的貿易体制を強化するとのコミットメントを再確認する。G7シャルルボワ・サミット,G20ブエノスアイレス・サミット及び日米EU三極貿易大臣会合において決定されたように,我々は,WTO改革を進展させるために引き続き取り組む意思を確認する。日本とEUとは,公平な競争条件を確保し,主要分野でのルール・メイキングを始めとするグローバルな貿易課題に対処するため,既存のWTOルールの改善のために協働する。我々は,WTOの他の主要なメンバーと共に産業補助金に係る規律の強化に関する交渉を開始し,強制的な技術移転に対処するための協力を強化することにコミットする。我々は,WTOの通常委員会の監視機能の強化及び上級委員会が本来の機能を確保するための協力に,引き続き取り組む。我々はまた,電子商取引に係るグローバルなルールの導入に向けたWTOにおける交渉の重要性を認識し,G20の日本議長国の下で,この目的に向けて政治的な推進力を与えることを目指す。

 我々は,G20サミット及び2019年6月8日~9日のつくば市での貿易・デジタル経済大臣会合を含め,イノベーション及び包摂性を促進するため,我々の経済及び社会のデジタル変革を踏まえた日EU間のデジタル協力を強化する。これに関連して,G20議長国としての日本は,「信頼性のある自由なデータ流通」(DFFT)イニシアティブのコンセプトを,議論のために提示する。我々は,データの潜在性を十全に活用するため,国際的な議論,特にWTOにおける電子商取引交渉に政治的な推進力を与える大阪トラックの立ち上げに向けて協働する。また,我々は,デジタル経済に関するその他のイニシアティブにおいても協力する。

 我々は,開かれ,自由で,安定し,アクセス可能で,相互運用可能な,信頼できる,かつ安全なサイバー空間に対する強い支持を再確認する。我々は,各々の規制枠組みを相互に尊重しつつ,個別に及び共同で,データ・セキュリティに関する互いの信頼を強化するための具体策をとるよう協力する。我々は,既存の国際法,特に国連憲章のサイバー空間への適用の促進につき,引き続き結束している。我々は,人権の完全な尊重の保証,サイバー空間における知的財産の窃取,その他の悪意あるサイバー活動及びオンライン上の違法コンテンツとの闘い並びに地域的な信頼醸成措置の重要性を強調する形で,自発的かつ拘束力を有しない責任ある国家の行動に係る規範の発展及び実施に関する協力を再確認する。また,我々は,サイバー空間の安定性を確保する上での民間部門及びその他のステークホルダーの重要性を強調する。

 我々は,G7やG20の場を含め,人工知能(AI)に対する人間中心のアプローチを推進するために協働する。

 我々は,17の持続可能な開発目標(SDGs)を掲げる2030アジェンダへのコミットメントを再確認する。我々は,同アジェンダ実施に向けた機運の再活性化のため,2019年9月の首脳級国連ハイレベル政治フォーラムを考慮しつつ,協力を強化する。我々は,世界各地の前例のない異常気象を認識し,「IPCC1.5度特別報告書」にある最新の科学的知見を考慮することも含めて,気候変動に対処する地球規模の取組を更に強化していく緊急性を強調する。我々は,カトヴィツェ・ルールブック(パリ協定実施指針)に則ったパリ協定の完全かつ効果的な実施にコミットしている。

 我々は,パリ協定の目標達成のために必要な更なる取組を勘案し,国,企業,市民社会に対し,全ての面において気候変動に対する一層の行動をとるよう呼びかける。我々は,パリ協定に沿う形で温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡の達成を目指して努力し,関連する全ての議論の場で日EU協力を強化しつつ,2020年までに野心的な長期的温室効果ガス削減戦略を策定することを通じ,リーダーシップを示す決意を維持する。我々は,特に非連続なイノベーションによる環境と成長の好循環を加速させることの重要性に関するG20の成功のために協働する。

 我々は,パリ協定の目標を達成するため,2019年9月の国連気候アクション・サミットの成功のための協力を強化する。日本及びEU構成国は,本年初めての公式増資プロセスを実施する緑の気候基金の効率的かつ効果的な運用に向け協働する。我々は,持続可能な投資に向けた民間資本の展開を支援する方途に関し,協力を強化するとともに,経験を共有する。

 我々は,環境に関する課題に対処する決意を再確認する。我々は,循環型経済及び資源効率性を進展させること,安全かつ持続可能な代替策を推進しつつ,マイクロ・プラスチックを含む海洋プラスチックごみに対する具体的行動を促進すること,また,使い捨てプラスチック製品の環境への悪影響に対処することにコミットしている。この文脈において,国連環境総会の第4回会合において採択された閣僚宣言で想定される革新的解決策を想起し,これに対する我々の支持を再確認する。我々は,2020年に昆明で開催される国連生物多様性会議において包摂的,野心的かつ現実的なポスト2020枠組みを確保することも通じ,生物多様性条約の目的を達成することにコミットしている。我々は,2018年5月10日に国連総会で採択された決議72/277号「世界環境憲章に向けて」に基づくプロセスの終わりに国連総会に勧告を行うことを視野に,建設的に取り組んでいくことについてのコミットメントを強調する。

外交・安全保障政策

 我々は,法の支配に基づき,また協議・連携の強化を通じ,国際的な平和と安定の促進に共に貢献することについてのコミットメントを確認する。我々は,イラン核合意の包括的共同作業計画への共同の支持を改めて表明する。我々は,北朝鮮による核兵器,及びその他の大量破壊兵器並びにあらゆる射程の弾道ミサイル計画の完全な,検証可能な,かつ不可逆的な廃棄,拉致問題の早期解決及び朝鮮半島の平和と安全に向けた外交的関与に係る米国が現在行っている取組への支持,ノルマンディー・フォーマットによる交渉への完全な支持を含むウクライナ東部紛争,ロシア連邦によるクリミア半島の違法な併合及びケルチ海峡における緊張,並びに東シナ海及び南シナ海において,国際法,特に国連海洋法条約に反する武力による威嚇又は武力の行使及び一方的行動を差し控えることの決定的な重要性を強調するような海洋安全保障の諸事項に取り組むことへの共有されたコミットメントを再確認する。

 我々は,特に海洋安全保障,テロ対策,サイバー・セキュリティ及び危機管理の領域における安全保障・防衛に関する対話及び協力を強化することにコミットしている。日本は,EUによる東アジア・サミットに更に関与していくことに対する継続的関心を歓迎し,同地域において法の支配を促進するEUの努力を認識する。

(了)