[文書名] 仏EU共催「インド太平洋閣僚会合」における林外務大臣によるスピーチ
ル・ドリアン外相、ボレル上級代表、御列席の皆様、本会合でスピーチができることを光栄に思います。特に、オンライン参加を認めていただいたル・ドリアン外相とボレル代表に感謝申し上げます。
2月21日にロシアが「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」の「独立」を承認する大統領令に署名するなど、ウクライナ情勢が益々緊迫化しています。今回の一連のロシアの行為は、ウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、国際法に違反するものであり、ロシアの行為は決して認められるものではなく、強く非難します。こうした中で、このインド太平洋閣僚会合が開催されたことを日本政府として歓迎します。国際秩序を支える普遍的価値と原則を守るための同志国の連携に我々がコミットしていることの証左と考えます。
日欧は、冷戦後の東欧やバルカン諸国の安定のため協力しました。その頃、果たして我々の誰かが日欧でインド太平洋での協力について話し合う会合が開催されることを予想できたでしょうか。
インド太平洋地域では、北朝鮮はIRBM級弾道ミサイルの発射など新たな次元の挑発を行い、中国は東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや緊張を高める活動をエスカレートさせています。さらに、中露は、艦艇による日本列島周回など、我が国周辺でも、懸念すべき連携した動きを見せています。中国は、先般の首脳会談の際に発出された共同声明において、NATOの東方不拡大を含むロシアの安全保障上の立場を支持すると表明しています。
こうした新たな国際環境への対応の指針は、やはり、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値と原則です。各地域において、力の論理が益々幅をきかせ、既存の国際秩序を揺さぶっています。この「力」には、軍事力に加え、経済力あるいは技術力を含むことは、欧州が受けている経済的威圧やサイバー攻撃が示すとおりです。
日本としては、自国の防衛力強化と日米同盟を軸として、地域のパワーバランスの変化に対応することを目指しています。それができてこそ、真の平和と安定のための外交的取組がより効果的に機能すると考えています。
それとともに、世界の人口の半数以上を抱え、世界経済の成長のエンジンであるインド太平洋地域において、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を構築していく必要があります。このようなビジョンを実現するためには、各国の取組に加えて、欧州、同志国、日米豪印等の協力を含めた結束、連携強化がこれまで以上に重要です。この文脈において、インド太平洋地域の中心に位置するASEANは「自由で開かれたインド太平洋」の実現の要であり、日本とEUが共にASEANの中心性と一体性を支持し、盛り立てていくことも重要です。
その上で、日欧で具体的にいかなる協力を進めていくべきかについて述べたいと思います。
地域の安定と繁栄を守るためには、海洋安全保障の取組が欠かせません。日本は、海上法執行能力などの協力を継続していきます。欧州諸国によるインド太平洋への艦船派遣及び日本を含む地域のパートナーとの共同訓練を歓迎しており、更なるプレゼンス強化を期待します。
インフラ開発支援において、魅力的かつ公正な選択肢を示していく必要があります。この点、日本は東部ミクロネシアにおける海底ケーブル延伸事業に米国及び豪州と連携して参画するなどの取り組みを進めています。
また、財政基盤の脆弱な途上国が特定国への依存度を高めてしまいがちなことを利用して自国の影響力を増大しようとする試みは放置してはなりません。また、そうした国々の持続可能な発展を実現するために国際ルールの枠外での、不透明かつ不公正な貸し付けの問題に対処しなければなりません。こうした観点からは、途上国が国際ルールを遵守しない貸付に頼らなくてもよいような環境を作ることも重要です。
こうした問題意識を踏まえつつ、日EUは、他の同志国と協力していくべきです。その上で連結性パートナーシップの下で、EUのグローバル・ゲートウェイとのシナジー効果を追求していきます。
日本は、自由で公正な経済圏の拡大の恩恵を受けて、戦後、経済成長を実現してきました。だからこそ、不公正な貿易慣行や経済的威圧のような行為には引き続き強く反対するとともに、同志国と連携して、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化をしていく必要があります。
重要性が増すデジタル分野においては、日本は、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)の実現に積極的に取り組んでいます。EUと共にデータ流通の国際的な共通ルール作りに向けて連携していきます。
同時に、経済安全保障分野も重要です。基幹インフラやサプライチェーンの脆弱性を解消し、自律性を向上させるとともに、先端技術の流出を防止することによって自国の優位性を維持することが重要です。このような強みは、経済的威圧を抑止することにもつながります。こうした分野においても、同志国の連携を進めていく必要があると考えています。
本日の会合を通じて、インド太平洋を舞台とする我々同志国間の協力と連携が深化することを期待します。
御清聴ありがとうございました。