データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 首脳声明:「回復と改革のためのグローバル・プラン」

[場所] ロンドン
[年月日] 2009年4月2日
[出典] G20公式サイト
[備考] 
[全文]

1.我々、G20の首脳は、2009年4月2日にロンドンで会合を開いた。

2.我々は、世界経済に対する現代最大の挑戦、すなわち、前回会合以来深刻化し、各国の女性、男性及び子供たちの生活に影響を与える、すべての国が解決のために団結しなければならない危機に直面している。世界的な危機には世界的な解決策が必要である。

3.我々は、次のような信念から出発する。繁栄は不可分であり、成長は持続的であるために共有されなければならず、回復のための我々の世界的な計画は、先進国だけでなく世界の新興市場国や最貧国の勤勉な家族のニーズと雇用をその中心に置かなければならず、また、現在の人々だけでなく将来世代の利益も反映しなければならない。我々は、持続可能なグローバリゼーションと万人の繁栄の増進のための唯一の確かな基盤は、市場原理、効果的な規制及び強力な世界的機関に基づく開放的な世界経済であると信じる。

4.それゆえ我々は本日、以下を実現するために必要なあらゆる行動をとることを誓約する。

 ○信認、成長及び雇用を回復する。

 ○貸出を回復するために金融システムを修復する。

 ○信頼を取り戻すために金融規制を強化する。

 ○今般の危機を克服し、将来の危機を防止するため、国際金融機関に資金を与え、これを改革する。

 ○繁栄を支えるため、世界の貿易及び投資を促進し、保護主義を拒否する。

 ○包括的で環境に優しく持続可能な回復を実現する。

これらの誓約を果たすために共同で行動することにより、我々は世界経済を不況から脱出させ、将来このような危機が再発することを防止する。

5.本日我々が達した合意、すなわち、国際通貨基金(IMF)の資金基盤の7500億ドルへの三倍増、特別引出権(SDR)の2500億ドルの新規配分への支持、国際開発金融機関による少なくとも1000億ドルの追加的融資への支持、2500億ドルの貿易金融支援の確保、及び、合意されているIMFの金売却からの追加的資金の最貧国向け譲許的貸付のための利用は、合計で追加的に1.1兆ドルの、世界経済における信用、成長及び雇用を回復するための、支援プログラムを構成する。これは、各国がそれぞれとっている措置と併せ、前例のない規模での回復のためのグローバル・プランを構成する。

成長と雇用の回復

6.我々は、前例のないかつ協調された財政拡大を行っている。これは、何もしなければ失われていたであろう何百万人もの雇用を維持するか、または創出し、来年末までに5兆ドルに上り、生産を4%拡大し、また、環境に優しい経済への移行を加速する。我々は、成長を回復するために必要な規模の継続した財政努力を行うことにコミットしている。

7.我々の中央銀行もまた、例外的な行動をとった。大多数の国で金利は大胆に引き下げられており、我々の中央銀行は、価格の安定と整合的に、非伝統的な政策手法を含むあらゆる金融政策手法を用いつつ、必要とされる間、緩和政策を維持することを誓約した。

8.成長を回復するための我々の措置は、我々が国内の貸出及び国際的資本フローを回復するまでは、効果的なものとならない。我々は、流動性を供給し、金融機関に資本注入し、不良資産の問題に断固として対処することにより、我々の銀行システムに重要かつ包括的な支援を提供してきた。我々は、貸出の回復及び金融システムの修復のための合意されたG20枠組みに沿って政策を実施することで、金融システムを通じた通常の与信の流れを回復し、システム上重要な金融機関の健全性を確保するために必要なあらゆる行動をとることにコミットしている。

9.これらの行動は、総体として、現代における最大の財政・金融刺激策、及び、金融セクターに対する最も包括的な支援プログラムを構成する。共に行動することにより政策の効果は拡大する。これまでに発表された例外的な政策手段は遅滞なく実施されなければならない。本日、我々はさらに、国際金融機関と貿易金融を通じ、世界経済のため、1兆ドルを超える追加的資金を提供することに合意した。

10.先月、IMFは、世界経済の実質成長が再び始まり、2010年末までには2%を超える成長となると予測した。我々は、本日合意した行動及び、長期的な財政の持続可能性を保持しつつ成長と雇用を回復するために協働するとの揺ぎない決意は、成長基調への回復を加速させるとの自信を持っている。我々は本日、その結果を確保するために必要なあらゆる行動をとることにコミットし、IMFに対し、とられた行動及び必要な世界的行動を定期的に評価するよう求める。

11.我々は、長期的な財政の持続可能性及び価格の安定を確保する決意であり、また、金融セクターを支え、世界需要を回復するために現在とることが必要な施策からの確かな出口戦略を導入する。我々は、合意された政策を実施することが、経済に対する長期的なコストを抑え、長期にわたって必要な財政再建の規模を縮小させることになると確信している。

12.我々は、すべての経済政策を、協力的で他国への影響について責任あるかたちで実施し、通貨の競争的な切り下げを回避し、また、安定的で良く機能する国際的金融システムを促進する。我々はまた、我々の経済及び金融セクター、我々の政策が他国に与える影響、並びに世界経済が直面するリスクに関するIMFの率直、公平かつ独立のサーベイランスに、現在及び将来においてコミットする。

金融監督及び規制の強化

13.金融セクター及び金融規制・監督における主要な失敗が危機の根本原因であった。我々が金融システムにおける信頼を取り戻すまでは、信認は回復されない。我々は、持続的な成長を支え、ビジネスと市民のニーズに応える、将来の金融セクターのための、より強力で世界的により整合的な監督・規制枠組みを構築すべく行動をとっていく。

14.我々はそれぞれ、国内の規制システムが強固であることを確保することに合意する。他方、我々はまた、各国間のより一層の整合性と組織的協力、及び、世界的金融システムが必要とする国際的に合意された高い基準の枠組みの構築についても合意する。強化された規制・監督は、適切性、公正性及び透明性を促進し、金融システム全体に渡るリスクを防ぎ、金融及び経済の循環を増幅するのではなくむしろ抑制し、不適切にリスクの高い資金調達源への依存を低減し、過度のリスク・テイクを抑制しなければならない。規制当局及び監督当局は、消費者及び投資家を保護し、市場規律を支え、他国への悪影響を回避し、規制の潜脱の余地を低減し、競争及びダイナミズムを支持し、市場における技術革新に歩調を合わせていかなければならない。

15.この目的のため、我々は、別添の進捗報告に示されるとおり、前回の会合で合意された行動計画を実施している。我々はまた、本日、「金融システムの強化」についての宣言も発表した。特に、我々は以下に合意する。

 ○金融安定化フォーラム(FSF)を引き継ぐものとして、強化された権限を有する新たな金融安定理事会(FSB)を設立する。これはすべてのG20諸国、FSFメンバー、スペイン及び欧州委員会を含む。

 ○FSBは、マクロ経済上・金融上のリスク及びそれに対処するために必要な行動について早期警戒を実施するため、IMFと協働すべきである。

 ○我々の当局がマクロ健全性上のリスクを特定し、考慮に入れることができるよう規制システムを再構築する。

 ○規制及び監督を、システム上重要なすべての金融機関、商品及び市場に拡大する。これには、システム上重要なヘッジファンドが初めて含まれる。

 ○賃金と報酬に関するFSFの厳格な新原則を支持し、実施するとともに、すべての企業の持続的な報酬体系及びすべての企業の社会的責任を支持する。

 ○景気回復が確実になれば、銀行システムにおける資本の質、量及び国際的な整合性を改善させるための行動をとる。将来的には、規制は、過度のレバレッジを防止するとともに、好況時に資本バッファーを積み増すよう求めなければならない。

 ○タックス・ヘイブンを含む非協力的な国・地域に対する措置を実施する。我々は、財政及び金融システムを保護するために制裁を行う用意がある。銀行機密の時代は終わった。我々は、税に関する情報交換の国際基準に反しているとグローバル・フォーラムによって評価された国のリストを本日経済協力開発機構(OECD)が発表したことに留意する。

 ○会計基準設定主体に対し、評価及び引当てに関する基準を改善し、単一の質の高いグローバルな会計基準を実現するため、監督当局及び規制当局と緊急に協働することを求める。

 ○規制監督及び登録を信用格付会社に拡大し、特に、受け入れがたい利益相反を防ぐため、これらの会社がグッド・プラクティスに関する国際的規範を遵守することを確保する。

16.我々は、財務大臣に対し、行動計画に定められた予定表に沿って、これらの決定の実施を完了するよう指示する。我々は、FSB及びIMFに対し、金融活動作業部会(FATF)及びその他の関連機関と協働しつつ、進捗状況を監視し、11月にスコットランドで開催される次回の財務大臣会合に報告書を提出するよう要請した。

世界的な金融機関の強化

17.最近の世界の成長の原動力であった新興国及び途上国もまた、世界経済における現在の停滞を助長する挑戦に直面している。世界的な信認と経済回復のため、資金がこれら諸国に流入し続けることが必須である。そのためには、国際金融機関、特にIMFの大幅な強化が必要である。それゆえ我々は本日、景気循環緩和のための支出、銀行の資本増強、インフラ整備、貿易金融、国際収支支援、債務借換え及び社会支援のための財源調達を助けることにより、新興市場国及び途上国の成長を支えるため、国際金融機関を通じて8500億ドルの追加的資金を利用可能とすることに合意した。この目的のため、

 ○我々は、最大5000億ドル増強され、拡大されたより柔軟な新規借入取極(NAB)に後に組み入れられる、加盟国からの2500億ドルの当面の融資を通じてIMFの資金基盤を増強すること、及び、必要であれば市場借入を検討することに合意した。

 ○我々は、低所得国向けを含む国際開発金融機関による融資を、少なくとも1000億ドル大幅に増加することを支持し、すべての国際開発金融機関が適切な資本を有することを確保する。

18.これらの資金が、成長を支えるために効果的かつ柔軟に使われることが不可欠である。我々は、この観点から、IMFによる新たなフレキシブル・クレジット・ライン(FCL)、及び、改革された融資及び融資条件枠組みについてなされた進展を歓迎する。これらによりIMFは、その融資制度が加盟国の国際収支資金ニーズの基底にある原因、特に銀行及び企業セクターへの外国資本フローの引揚げに有効に対処することを確保できる。我々はFCLの利用を求めるメキシコの決定を支持する。

19.我々は、世界経済に2500億ドルを注入し、国際流動性を高めるSDRの一般配分、及び、第4次協定改正の迅速な批准を支持することに合意した。

20.国際金融機関が危機の管理及び将来の危機の予防に役立つために、我々はこれらの機関の長期的な適切性、有効性及び正統性を強化しなければならない。本日合意された資金の大幅な増加と並行して、我々は、国際金融機関が、直面する新しい挑戦の中で加盟国及び利害関係者を効果的に支援できることを確保するよう、これら機関を改革し現代化する決意である。我々は、これら機関の権限、業務範囲及びガバナンスを世界経済の変化とグローバリゼーションの新しい挑戦を反映するように改革する。また、最貧国を含む新興国、途上国はより大きな発言権と代表権を持たなければならない。これには、より戦略的な監督及び意思決定を通じたこれら機関の信頼性及び説明責任を向上させるための行動が伴わなければならない。この目的のため、

 ○我々は、2008年4月に合意されたIMF出資比率及び発言権の改革パッケージの実施にコミットするとともに、IMFに対し、次回の出資比率見直しを2011年1月までに完了するよう求める。

 ○これと並行して、我々は、IMFに戦略的指示を与え、その説明責任を高めることにつき、IMFの総務のより強い関与について考慮が払われるべきことに合意する。

 ○我々は、2008年10月に合意された世界銀行改革の実施にコミットしている。我々は、次回会合において、発言権・代表権改革に関して加速された工程表に沿った更なる勧告がなされ、2010年春の会合までに合意されることを期待している。

 ○我々は、国際金融機関の長及び幹部は、開かれた、透明で、実力本位の選任プロセスを通して任命されるべきとの点で合意した。

 ○現行のIMFと世銀のレビューに基づき、我々は、議長に対し、G20の財務大臣と協働して、包含的プロセスの下、広く協議するとともに、国際金融機関の対応力と適応力を改善するための更なる改革に関する提案を次回会合に報告するよう求めた。

21.グローバリゼーションに対する新たな挑戦のために、国際金融機関を改革することに加え、我々は、持続可能な経済活動を推進する主要な価値と原則に関する新たな世界的コンセンサスが有益であることに合意した。我々は、次回会合で更に議論をすることを念頭に、そのような持続可能な経済活動のための憲章といったものに関する議論を支持する。我々は、この件に関する他のフォーラムにおける作業に留意し、持続可能な経済活動のためのこの憲章の更なる議論を期待している。

保護主義への対抗と世界的な貿易・投資の促進

22.世界貿易は半世紀にわたって繁栄の増進を支えてきた。しかし、現在、世界貿易は25年間で初めて減少している。需要の落ち込みは、高まる保護主義の圧力と貿易信用の引揚げにより悪化している。世界の貿易・投資の再活性化は、世界の成長の回復に不可欠である。我々は、過去の保護主義という歴史的な過ちを繰り返さない。この目的のため、

 ○我々は、ワシントンで行ったコミットメントを再確認する。投資あるいは物品及びサービスの貿易に対する新たな障壁を設けず、新たな輸出制限を課さず、世界貿易機関(WTO)と整合的でない輸出刺激策をとらない。我々は、そのようないかなる措置も速やかに是正する。我々は、この誓約を2010年末まで延長する。

 ○我々は、財政政策や金融セクター支援措置を含む国内政策措置が貿易・投資に与えるいかなる悪影響も最小化する。我々は、金融保護主義、特に途上国に対する世界の資本フローを抑制する措置に、逃避しない。

 ○我々は、そのようなあらゆる措置について、WTOに迅速に通報する。我々は、WTOに対し、他の国際機関とそれぞれの権限の範囲内で協働しつつ、これらの取組に対する我々の遵守状況を監視し、四半期毎に公表するよう求める。

 ○我々は、同時に、貿易・投資を促進し、円滑化するためにできるあらゆる手段を講ずる。

 ○我々は、我々の輸出信用及び投資機関並びに国際開発金融機関を通じた貿易金融を支援するため、今後2年間で少なくとも2500億ドルが利用可能であることを確保する。我々は、我々の規制当局に対し、貿易金融のための資本要件について利用可能な柔軟性を活用することを要請する。

23.我々は、喫緊に必要とされているドーハ開発ラウンドの野心的でかつバランスのとれた妥結に向けて引き続きコミットしている。これは世界経済を少なくとも年間1500億ドル拡大させるであろう。これを達成するため、我々は、モダリティーに関するものを含むこれまでの進展を基礎とすることにコミットしている。

24.我々は、当面、この決定的に重要な問題に繰り返し焦点を当て、政治的関心を示す。我々は、このプロセスを前進させるために、継続中の我々の作業及び関連するすべての国際会議を利用する。

万人のための公平で持続可能な回復の確保

25.我々は、成長を回復するのみならず、公平で持続可能な世界経済の基礎を築く決意である。我々は、今回の危機が最貧国の最も脆弱な人々に不相応な影響を与えていることを認識しており、世界の潜在力に対する長期的な損失を最小化するため、危機の社会的な影響を軽減する共同の責任を認識している。この目的のため、

 ○我々は、ミレニアム開発目標の達成、並びに、貿易のための援助、債務救済及びグレンイーグルズにおけるコミットメント、中でもサブサハラ・アフリカに対するもの、を含む我々それぞれのODA公約の達成に関する歴史的なコミットメントを再確認する。

 ○我々が本日とった行動と決定は、低所得国を含む途上国及び新興市場国の危機への支援の大幅な増加の一環として、低所得国の社会的保護を支援し、貿易を促進し、開発を保護するために500億ドルを提供する。

 ○我々は、長期的な食料安全保障への投資、並びに、インフラ危機ファシリティー及び緊急社会対応基金を含む世界銀行の脆弱性枠組みに対する任意の二国間拠出などにより、最貧国の社会的保護のための資金を利用可能とする。

 ○我々は、新しい歳入モデルと整合的に、合意されている金売却からの追加的資金が、余剰収益とあわせ、今後2〜3年にわたり最貧国に60億ドルの譲許的かつ柔軟な追加的資金を供給するために利用されることにコミットした。我々はIMFに対し、春の会合で具体的な提案を提出するよう求める。

 ○我々は、債務持続性枠組みの柔軟性を見直すことに合意し、IMF及び世界銀行に対し、春の会合において国際通貨金融委員会(IMFC)及び開発委員会に報告するよう求める。

 ○我々は、国連に対し、他の世界的機関と協働しつつ、危機が最貧層及び最脆弱層に与える影響を監視するための効果的なメカニズムを設置するよう求める。

26.我々は危機の人的側面を認識している。我々は、雇用機会の創出及び所得支援策を通じ、危機により影響を受ける人々を支援することにコミットしている。我々は男女双方のために公正で家族に優しい労働市場を構築する。我々はこのため、ロンドン雇用会議及びローマ社会サミットの報告、そしてそこで提案された主要な原則を歓迎する。我々は、最も脆弱な人々に焦点をあて、成長への刺激、教育・訓練への投資及び積極的な労働市場政策により、雇用を支援する。我々は、国際労働機関(ILO)に対し、その他の関係機関と協働して、これまでにとられた行動及び将来必要となる行動を評価するよう求める。

27.我々は、強靱で持続可能で、かつ環境に優しい回復を実現するという目標に向け、財政刺激プログラムにより財源を与えられた投資を最大限活用することに合意した。我々は、クリーンで革新的、資源効率的かつ低炭素型の技術及びインフラへの移行を行う。我々は、国際開発金融機関がこの目標の達成に全面的に貢献するよう促す。我々は、持続可能な経済を構築するための更なる措置を特定し、協働する。

28.我々は、共通だが差異ある責任の原則に基づいて不可逆的な気候変動の脅威に対処し、2009年12月のコペンハーゲンでの国連気候変動会議において合意に達することへのコミットメントを再確認する。

コミットメントの遂行

29.我々は、切迫感と決意をもってこれらの言葉を行動に移すべく協働することにコミットしている。我々は、我々のコミットメントに関する進捗をレビューするため、本年末までに再度の会合を持つことに合意した。