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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(2010年4月23日)

[場所] ワシントン D.C.
[年月日] 2010年4月23日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.我々、G20財務大臣・中央銀行総裁は、世界経済の回復及び強固で持続可能かつ均衡ある成長への移行を確実なものとし、金融規制改革と国際金融機関に関する我々の課題が順調に進んでいることを確かめるため、ワシントンDCにて会合した。

2.世界経済の回復は、主としてG20の前例のない、協調した政策努力のお陰で、以前予想されていた以上に進んでいる。しかし、それは地域内・地域間で異なるスピードで進んでおり、多くの国で失業率は依然高い。我々はこのような状況では異なる政策対応が必要であることを認識する。成長が未だに政策支援に大きく依存しており、持続可能な財政と整合的な国においては、回復が確実に民間セクター主導となり、より確固たるものになるまでは政策支援が維持されるべきである。既に出口を実施している国もある。我々は皆、あらゆる波及を考慮しつつ、各国個別の状況に応じた例外的なマクロ経済支援策及び金融支援策からの信頼性ある出口戦略を練るべきである。我々は、健全な財政、物価の安定、安定的、効率的で強靭な金融システム、雇用創出及び貧困削減と整合的で、十分に調和した経済政策を追求する必要性を強調する。それが可能な国では、国内における成長の源を拡大すべきである。これは貯蓄を増やし財政赤字を削減すべき国における需要減少の影響を和らげるであろう。

3.我々の、世界経済の強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みは、持続力のある成長と我々の共通目標を達成するに当たっての課題に対処するための協働を継続する上での、重要な仕組みである。セント・アンドリュースで提示された我々の予定表に従って、我々は、IMF及び世界銀行の支援を受けつつ、我々の国及び地域の政策枠組み、計画及び予測を共有し、我々の目標との集合的な整合性を評価し、世界経済の見通しの、今後を見渡した評価を作成することにより、枠組みの相互評価の協力的な協議プロセスの最初の段階を実行した。我々は更に、我々の世界経済の見通しを改善し、我々が共通目標に近づくことを可能にするような各国の政策が集合的に有する影響を評価し、我々を支援することができるよう、IMFや他の国際機関に対してガイダンスを提供した。この目的のため、この声明の別添において示されている通り、我々は政策シナリオ案の作成を指示する際の原則について合意し、強固で持続可能かつ均衡ある成長という目標をより詳細に説明した。これらのインプットを利用しつつ、我々は、2010年6月のサミットにおいて我々の首脳が検討するための、最初の政策オプションを作成する。

4.一層一体化しつつある金融規制改革の問題の性質を認識し、我々は改革のアジェンダをロンドンとピッツバーグで首脳達により合意された予定に従って十分に実施することへの強いコミットメントを再確認した。良好な進展がなされており、モメンタムを維持するために、我々は:

 ・ 我々の改革は多面的であるが、その中核は過度のリスク・テイクを抑制する明確なインセンティブにより補完されたより強固な資本基準でなければならないと再確認した。我々は銀行資本の量と質の双方を改善し、過度のレバレッジを抑制するため、国際的に合意されたルールを2010年末までに策定することに改めてコミットした。これらのルールの実施は、2012年末までを目標に、金融情勢が改善し景気回復が確実になった時点で段階的に行われることとなろう。これらの新たなルールの実施は、強力な監督で補完されるべきである。我々は現在行われている定量的及びマクロ経済への影響度調査の重要性を強調し、我々の6月の会合におけるFSBによるそれらの進捗の更新を期待している。

 ・ FSB、バーゼル委員会、IMFの作業の進捗を密接にレビューし、ガイダンス及び強力な支援を提供することに合意した。我々はFSB がシステム上重要な金融機関について、健全性基準、ショックの伝播を抑制する市場インフラ、破たん処理の手段及び枠組を策定することを支持し、2010年6月の我々の会合での進捗の報告を期待している。我々は金融セクターが銀行システムの修復のための政府の介入に関連するあらゆる負担に対し公平かつ実質的な貢献をどのようになし得るかについての各国がとってきた又はとることを検討している一連の選択肢に関するIMFの最終報告を受け取ることを期待している。我々はIMFに対し、いかなる特別な政府介入が発生する場合にも国内の金融機関が負担を支払うことを確保し、金融機関の過度のリスク・テイクに対処し、公平な競争条件の促進に資するための選択肢について、各国の状況を勘案しつつ更に検討することを求める。我々はこれらの問題相互の関連性に関するFSB、IMF及びバーゼル委の共同レポートを歓迎し、先へ進むにあたって、我々は健全でより強固な資本及び流動性の枠組みの方向へ明確に進むためには、金融システム及びより広範な経済に対する改革の累積的な影響を勘案する必要があることに留意した。そして、

 ・ 単一の質の高い国際的な会計基準の実現、報酬慣行に関する国際的基準の実施の重要性を強調し、FSBの報告を歓迎した。また、必要に応じ、全ての標準化されたOTCデリバティブの中央清算及び取引所又は電子取引基盤を通じた取引並びに全てのOTCデリバティブ取引の取引情報蓄積機関への報告に関する基準策定の完了、ヘッジ・ファンド、信用格付会社に対する着実で調和の取れた監督の重要性を強調した。我々は、資金洗浄やテロ資金供与に対する闘いにおける、とりわけ戦略上の欠陥を有する国・地域についての声明を本年2月に発出した点での、金融活動作業部会(FATF)の前進を歓迎した。我々はまた、税の透明性及び情報交換についてのグローバル・フォーラムによる報告、相互評価プロセスの立ち上げ及び全ての国に開かれた情報交換のための多国間メカニズムの進展を歓迎した。我々はFSBによる、全ての国・地域における健全性に関する情報交換と協力の基準の遵守に関する評価プロセスの立ち上げを歓迎した。

5. 我々は、IEA、OPEC、OECD、世界銀行から出された、エネルギー補助金の範囲及びピッツバーグでのコミットメント実施のための提案についての報告書草案を確認した。各国のオーナーシップと置かれた状況に従い、必要不可欠なエネルギーサービスを必要としている人々に提供することの重要性を認識しつつ、我々は無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を中期的には合理化し、段階的に廃止するための戦略及び予定表を我々の6月の会合に向けて、用意することを再確認した。

6.我々は、ピッツバーグで合意された国際金融機関の代表権及びガバナンス改革を成し遂げるため前進していくよう強く促した。我々は、11月のソウル・サミットまでに、IMFがクォータ及びガバナンス改革をまとめるよう強く促した。我々は、援助効果を確かなものにするための改革と共に、世界銀行のボイス改革と資金のパッケージについて、今回の開発委員会で合意がなされることを期待する。我々は、野心的なIDA16及びアフリカ開発基金の増資に向けて作業する。我々はIaDBとEBRDの資本を増強し、強固な改革アジェンダを採択することについて原則合意したことを歓迎し、アフリカ開発銀行の一般増資についての議論に関する結論に期待している。我々は、全ての国際金融機関によるハイチの債務の全額免除を、我々の負担の分担を通じる場合も含めて、支持することに合意するとともに、IaDB及び世界銀行におけるハイチの債務免除の合意とハイチ復興開発基金の設立を歓迎した。

7.我々は金融包摂専門家グループにより達成された進展を認識し、「中小企業金融チャレンジ」の成功裏の立ち上げに期待している。我々は、金融セーフティネット専門家会合の作業を歓迎し、各国が健全なインセンティブに基づきつつ、グローバルな資本フローの変動により良く対処することを支援するためのグローバルな金融セーフティネット改善のための政策オプションを検討することに合意した。より一般的に一次産品価格に関して、非効率な市場や一次産品価格の過度の変動は、生産者・消費者双方にネガティブな影響を与える。我々は、生産国・消費国双方における実物及び金融市場の機能及び透明性を改善することにより、一次産品価格の過度な変動に対処するための作業を完了する。

8.我々は、6月カナダ・トロントでの首脳会合の準備のため、韓国・釜山で2010年6月4-5日に次回会合することに合意した。

強固で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20の枠組み

枠組みの主たる目的は、相互に利益をもたらす成長経路を実現し、将来の危機を回避するための、一貫性のある中期的政策枠組みの実施をG20各国に奨励することである。G20各国は各国個別の状況に相応しい政策枠組みを採用すべきである一方、この目的を実現するための集合的な行動をとることには明確な便益がある。また、このような手法は新興市場国及び途上国の生活水準も向上させるだろう。

多くの政策改革の便益が実現するには数年を要するかもしれないため、G20各国は、中期的により強固で、より均衡のとれた、より持続可能な成長を達成するための行動を今開始することを検討すべきである。強固で持続可能かつ均衡ある成長を維持できるように、政策枠組みは、将来への期待に働きかけ、また潜在的なリスクに対処し、ショックに円滑に対応できるよう十分に柔軟にしておくために今後を見渡したものであるべきである。

強固で持続可能かつ均衡ある成長という目標は、緊密に関係しており、互いに補強しあうように追求される必要がある。

強固な成長は、

a.G20各国の現在の産出及び雇用ギャップを可能な限り早急に埋めるべきである。

b.中期的には潜在成長率に収斂していくべきである。

c.長期的には、主として、より効果的な構造政策の実施を通じて利用可能な資源を効率的に活用することで、潜在成長率を上昇させることにより高められるべきである。

持続可能な成長は、

a.中期的には内在する潜在成長と一致し、それにより長期的な成長の確固たる基盤を提供すべきである。

b.持続可能な財政と物価及び金融の安定を基盤とすべきである。

c.経済及び金融のショックに対して耐性を有するべきである。

d.主として、競争的な市場の動きにより決まるべきである。

e.社会や環境に係る政策目標と整合的であるべきである。

均衡ある成長は、

a.世界の全てのG20各国・地域に亘る裾野の広いものであるべきである。

b.持続的で安定性を損なう対内・対外インバランスを生じさせないようにすべきである。

c.広範な開発目標、とりわけ長期的には各国の生活水準を高い水準へと収斂させることと整合的であるべきである。

このG20への支援を提供する際には、IMFはG20首脳がピッツバーグで昨年合意した一般的な原則(http://www.pittsburghsummit.gov/mediacenter/129639.htm)に留意すべきである。これに加え、IMFは政策シナリオ案を作成する際に、次の原則に従うべきである。

1.IMFは限られた数の(即ち、3-4を超えない)政策シナリオ案を代理に対し提示すべきである。

2.全てのシナリオはG20を上記に示された共通目標に近づける集合的な成果を確保することを目指す政策を含まなければならない。

3.全てのシナリオは、G20・非G20国間での波及効果とともに各国の異なる発展段階を考慮しつつ、G20間で調整や改革への貢献が分かち合われ、強固で持続可能かつ均衡ある成長という相互の利益が広範に共有されることを示さなければならない。

4.IMFは、中期的に強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の目標全体を達成するために必要な、特定の実行可能な財政・金融・構造及び金融セクター政策措置を検討すべきである。

5.シナリオの中で提案された政策提言の広範な社会・環境・開発面の影響を考慮すべきである。

6.政策シナリオは、政策措置実施のペースと、その実行可能性・信頼性・有効性との間での選択を考慮すべきである。また、世界経済の成長を引き上げることと、より持続可能で均衡ある成長を達成することとの間の選択も考慮されるべきである。

7.多くの政策改革の便益が実現するには数年を要するかもしれないため、シナリオは、中期的により強固で、より均衡のとれた、より持続可能な成長を達成するために今実施できる措置を検討すべきである。

8.6月の政策措置は、国・地域の異なる経済構造や政策枠組みを考慮しつつ、似た状況に直面している国々のグループ、適当な場合には地域的な経済機構の措置として示されるべきである。

9.IMFは、個別国のマクロ経済政策の持続可能性や安定性を評価するプロセス全体を通じて、G20各国と緊密に協議すべきである。

これらの原則を用いて、政策シナリオ案についてのIMFの報告は、調整のもたらすグローバルな影響や幅広い指標に亘るメンバー国への影響を明確に記述すべきである。

我々は世界銀行に対し、グローバルな成長のリバランスの一環として、開発と貧困削減の推進に関する進捗について我々に助言するよう求める。また、我々は、金融セクター政策に関するFSB、労働市場政策に関するILO、貿易政策に関するWTO、適切な場合におけるOECDとUNCTADから等々の、他の国際機関からの貢献に期待している。