データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20トロント・サミット宣言 別添Ⅰ:強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み

[場所] トロント
[年月日] 2010年6月27日
[出典] 外務省仮訳
[備考] 
[全文]

1.ワシントン,ロンドン及びピッツバーグのG20サミットで合意した例外的かつ高度に調和された政策措置の結果として,世界経済は予想されていたよりも速く回復している。過去2年間の我々の断固たる,前例のない行動は,景気の下降を抑え,回復を促進してきた。

2.しかし,リスクは残っている。失業率は多くのG20諸国で容認できないほど高いままである。G20メンバー間で,先進国の中でも,先進国と新興国の間でも,回復は一様でない。これは,継続的な経済拡大に対するリスクをもたらす。更なる政策措置がなければ,世界的な経常収支不均衡が再び拡大するリスクがある。我々の金融セクターの修復及び改革項目の進ちょくには相当の進展があったが,依然金融市場は脆弱であり,与信の流れは抑制されている。幾つかの国々における巨額の財政赤字と上昇する債務の水準に対する懸念はまた,不確実性及び金融市場の変動の要因となっている。

3.G20の最も優先的な課題は,我々の金融システムをリスクに対して強化することを含め,回復を確保し,強化すること,及び強固で持続可能かつ均衡ある成長のための基礎を築くことである。我々は,したがって,多くのG20諸国によってとられた行動及びコミットメントを歓迎する。最近の措置の中で,我々は特に,欧州金融安定化メカニズム及び同ファシリティの完全な実施,欧州の銀行において現在実施されているストレス・テストの結果を公表するとのEUの決定,並びに多くのG20の国々における,財政健全化計画及び目標に関する最近の発表を歓迎する。これらは,我々の集合的幸福に対する多大な貢献を示すとともに,我々のこれまでの行動の上に立脚する。我々は,経済成長を強化し,強固で持続的な回復を促進するために引き続き協力し,適切な行動をとる。

4.我々がピッツバーグで立ち上げた,強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みは,我々の共通目標を達成するための手段である。G20メンバーは,世界経済全体の健全性を確保するため,国際社会に責任を有する。我々は我々の共通目標を達成するために,我々の政策行動の集合的な整合性を評価し,政策枠組みを強化することにコミットした。我々の集合的な政策行動を通じて,我々は,成長が持続可能で,より均衡がとれ,世界のあらゆる国・地域に共有され,及び我々の開発目標と整合的であることを確保する。

5.我々は,我々の相互評価プロセスの第一段階を完了した。ピッツバーグで我々が要請したように,G20財務大臣・中央銀行総裁は,IMF,世界銀行,OECD,ILO,及びその他の国際機関の支援を受けて,我々の個々の政策枠組みの集合的な整合性と政策シナリオ案の下での世界経済の見通しを評価した。

6.評価によれば,調整された政策対応がなければ,世界の生産量は恐らく危機前のトレンドを下回ったままとなり得,大多数の国で失業率は危機前よりも高い水準にとどまり,幾つかの先進国の財政赤字及び債務は容認できないほど高い水準に達し,並びに危機の間縮小した世界的な経常収支不均衡は再び拡大する。さらに,この見通しは,大きな下方リスクにさらされている。

7.我々は,より良い結果を得ることができると結論づけた。IMFと世界銀行は,我々がより野心的な改革の経路を選べば,中期的には我々は以下のことを成し得ると見込んでいる。

・世界の生産量を最大4兆米ドル押し上げる。

・概算で5200万人の雇用を創出する。

・最大で9000万人の人々を貧困から救い出す。及び,

・世界的な経常収支不均衡を大幅に縮小する。

 我々が調和された方法で行動すれば,すべての地域が,現在及び将来においてより豊かになる。さらに,持続的な世界経済の成長を増進することは,最貧国の人々を含む,万人の生活を改善するために,我々がとり得る最も重要な措置である。

8.我々は,回復の持続,雇用の創出,及びより強固で,より持続可能で,より均衡のとれた成長の達成のために協調行動をとることにコミットしている。これらは,各国の状況に即して差別化される。本日我々は以下に合意した。

・先進国において,財政刺激策を遂行し,「成長に配慮した」財政健全化計画を説明し,それを将来に向けて実施すること。

・幾つかの新興国において,社会セーフティ・ネットを強化し,コーポレート・ガバナンス改革,金融市場の発展,インフラに対する支出を強化し,為替レートの柔軟性を拡大すること。

・我々の成長見通しを増加及び持続させるために,G20メンバー全体において構造改革を追求すること。及び,

・世界的な需要のリバランスを更に進展すること。

金融政策は,物価の安定を達成するために適切なものであり続け,それにより回復に貢献する。

9.我々は,先進国において,財政刺激策を遂行し,今後実施される「成長に配慮した」財政健全化計画を説明することに合意した。健全な財政は,回復を維持し,新たなショックに対応する柔軟性を提供し,人口の高齢化という課題に対応する能力を確保し,並びに将来の世代に赤字及び債務という遺産を残すことを回避するために必要不可欠である。調整経路は,民間需要の回復を持続させるため,注意深く水準調整されなければならない。幾つかの主要国が同時に財政調整を行うことが,回復に悪影響を及ぼすリスクがある。また,必要な国で健全化が行われないことは,信認を損ない,成長を阻害するリスクがある。このバランスを反映し,先進国は, 2013年までに赤字を少なくとも半減させ,2016年までに政府債務の対GDP比を安定化又は低下させる財政計画にコミットした。日本の状況を認識し,我々は,成長戦略とともに最近発表された日本政府の財政健全化計画を歓迎する。深刻な財政課題がある国は,財政健全化のペースを加速する必要がある。財政健全化計画は,信頼に足る,明確に説明されるもので,国の状況に即して差別化され,経済成長を促進する措置に焦点を当てる。

10.我々は,先進国によるこれらの財政健全化計画の指針となる一連の原則に合意した。

・財政健全化計画は信頼に足るものである。かかる計画は,経済成長及び各国の財政状況に関する慎重な仮定に基づくものであり,財政の持続可能性を確保するとの目標への道程を達成するための具体的な方策を特定するものである。予算枠組みと制度の強化は,健全化戦略の信頼性を支えることを助け得る。

・今こそ我々の中期的財政計画を説明すべき時である。我々は,財政を持続可能なものとするための明確で信頼に足る計画を作り上げる。財政刺激策を引き揚げ,赤字及び債務を減少させるスピードとタイミングは,各国の状況及び世界経済のニーズに即して差別化される。しかし,健全化は2011年には先進国において開始すべきであり,現在重大な財政課題に直面している国々はより早く開始すべきであることは明らかである。

・財政健全化は経済成長を促進する措置に焦点を当てる。我々は,資源が最も必要とされる箇所に資源を配分しつつ,我々の介入に伴う全体の費用を削減することを助けるため,より効率的に財政資金を使用する方法を模索する。加えて,我々は,長期的な成長を促進する構造改革に焦点を当てる。

11.先進赤字国は,開かれた市場を維持し,輸出競争力を強化しつつ,国内貯蓄を拡大するための行動をとるべきである。

12.黒字国は,その外需への依存を減少させ,国内の成長の源により焦点を当てるための改革を実施する。これは,外部からのショックに対する彼らの強じん性を強化し,より安定的な成長を促進することを助ける。これを行うために,先進黒字国は内需の増加を支援する構造改革に焦点を当てる。新興黒字国は国の状況に即して次の改革を実施する。

・予防的動機に基づく貯蓄を減少させ,民間支出を刺激することを助けるために,(公的医療保険及び年金制度のような)社会セーフティ・ネット,コーポレート・ガバナンス及び金融市場の発展を強化すること。

・生産能力を増強し,供給面のボトルネックを削減することを助けるためにインフラ支出を増加させること。及び,

・根底にある経済のファンダメンタルズを反映するために為替レートの柔軟性を向上させること。為替レートの過度の変動や無秩序な動きは,経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る。根底にある経済のファンダメンタルズを反映し市場で形成される為替レートは,世界経済の安定に資する。

13.すべてのG20メンバーにおいて,我々は,構造改革が経済成長及び世界の厚生に多大な影響を与え得ることを認識する。我々は,最も脆弱な人々に特に注意を払いつつ,我々の経済の潜在成長を向上させる措置を実施する。改革は,賃金が生産性とともに上昇すれば,広範な需要の拡大を支援し得る。より市場競争及び経済成長を支援する政策と,国の状況と整合的な社会セーフティ・ネットを保持する政策との間の適切な均衡をとることが重要となる。これらの措置全体はまた,需要を引き出すことを助ける。これらの措置は以下を含む。

・先進国,特に危機の間生産能力を幾分喪失したと見込まれる国における製品,サービス及び労働市場の改革。労働市場改革は,より的を絞った失業給付及びより効率的な積極的労働市場政策(職業再訓練,求職活動及び能力開発プログラム,並びに労働移動の向上等)を含み得る。それはまた,雇用を支える,賃金交渉制度のための適切な条件の導入を含み得る。製品及びサービス市場改革は,サービスセクターにおける競争の強化,ネットワーク産業,実務サービス及び流通セクターにおける競争障壁の削減,技術革新の奨励,並びに外国との競争に対する障壁の更なる削減を含み得る。

・新興市場国における労働移動に対する制限の削減,外国からの投資機会の向上,及び製品市場規制の簡素化。

・新たな保護主義的措置の回避。

・貿易の流れを通じ世界的な成長を加速させるためのドーハ・ラウンドの妥結。開かれた貿易は万人に多大な利益をもたらし,世界的なリバランスを促進し得る。

・金融の修復及び改革を加速させるための行動。先進国における金融セクターの規制と監督の弱さが,最近の危機を招いた。我々は,G20の金融改革アジェンダを実施し,実体経済のニーズにこたえる,より強固な金融システムを確保する。危機の中心ではないが,幾つかの新興国の金融セクターは,高い経済成長率及び開発を促進し,維持するために必要な深度・幅のあるサービスを提供できるように,更に発展する必要がある。先進国における金融改革が,新興・途上国への資金の流れに及ぼすどのような悪影響も考慮することが重要である。また,開かれた資本市場を確保し,金融保護主義を回避するためにも警戒が必要である。

14.我々は,2010年4月に会合を行った労働及び雇用大臣による,世界経済危機の雇用への影響に関する勧告を歓迎する。我々は,強固な雇用増加の達成及び最も脆弱な人々に対する社会的保護の提供へのコミットメントを再確認する。効果的な雇用政策は,質の高い雇用を回復の中心に置くべきである。我々は,OECDと協力した国際労働機関(ILO)による,現在及び将来の職に必要とされる技能を労働者に身につけさせる訓練戦略に関する取組に対して,謝意を表する。

15.我々は,開発の格差を縮小するとともに,我々の政策行動が低所得国に与える影響を考慮しなければならないことにコミットしている。我々は,官民双方からの開発資金を奨励する新しいアプローチを通じることも含め,開発資金を引き続き支援する。危機は,世界のあらゆる地域における貧困国の開発軌道に長期的に持続する影響を与える。これらの影響の中でも,途上国は官民双方からの資金確保において,より多くの課題に直面するだろう。我々の多くが,事前購入制度,中小企業(SME)チャレンジ及び金融包摂に関する最近の進展等の資金の革新的アプローチを実施することを通じて,この資金不足への対処を助けるための措置を既にとっている。低所得国は,より強固で,より均衡のとれた世界経済の成長に貢献する可能性を有しており,投資先の市場としてみなされるべきである。

16.これらの措置は国レベルで実施される必要があり,個別国の状況に即して調整される。我々は幾つかのG20メンバーにより発表された,我々の共通目標の達成に向けた追加的な措置を歓迎する。

17.このプロセスを促進するために,我々の各国主導の協力的な相互評価の第二段階は,国及び欧州のレベルで実施される。各G20メンバーは,より強固で,より持続可能で,かつより均衡のとれた成長を確保するために,本日我々が合意した政策を実施するためにとっている措置を特定する。我々は,我々の財務大臣及び中央銀行総裁に対し,これらの措置を精査し,次回の我々の会合で報告することを求める。我々は,必要に応じ,IMF,世界銀行,OECD,ILO及び他の国際機関の専門知識を引き続き活用する。これらの措置は,ソウル・サミットで発表される我々の包括的な行動計画の基礎を形成する。強固で持続可能かつより均衡のとれた成長を追求するに当たり,我々は経済発展の社会的及び環境的側面を勘案するための測定方法への取組を引き続き奨励する。

18.我々が既にとってきた重要な政策措置とともに,本日我々が行う政策コミットメントにより,強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の目標を達成することが可能となり,その便益がG20内及び世界中で実感される。