[文書名] G20トロント・サミット宣言 別添 II :金融セクター改革
1.金融危機によって,大きなコストが生じた。この危機の再発は許されない。最近の金融市場の変動は,金融の修復及び改革の完了のために協働するという我々の決意を強固にした。我々は,我々の経済のニーズに寄与し,モラルハザードを抑制し,システミックなリスクの積み上がりを抑制し,強固で持続可能な経済成長を世界的に支援する,より強じんな金融システムを構築する必要がある。
2.我々は,健全性監督の強化,リスク管理の改善,透明性の促進及び国際協力の継続的な強化により,世界的な金融システムの強化に向けて,共同で,大きく進ちょくした。我々は,米国における強力な金融規制改革法案を歓迎する。
3.しかし,成すべきことは更にある。金融セクターの更なる修復は,持続可能な世界経済の回復の達成に極めて重要である。世界的な金融システムを強化し,持続的な経済成長の促進に必要な信用を回復するため,銀行のバランスシートと市場の健全性の回復や透明性の強化,金融機関のコーポレート・ガバナンスとリスク管理の改善に向けて,更なる取組が求められる。我々は,欧州の銀行システムの強じん性や透明性に関して市場に安心感を与えるために,欧州の銀行に対して現在実施されているストレス・テストの結果を公開するとのEUの首脳達による決定を歓迎する。
4.我々は,金融セクターの改革に向けた,ワシントン,ロンドン及びピッツバーグ・サミットにおけるコミットメントを,合意された又は前倒しされた期間で達成するため,協働することを誓約する。移行期間については,先進国や新興国における改革の累積的なマクロ経済への影響を勘案する。
資本及び流動性
5.我々は,金融セクター改革のアジェンダの中核は,資本・流動性の強度を改善し,過度なレバレッジを抑制することにかかっていることに合意した。我々は,資本の質,量及び国際的な整合性を向上させ,流動性基準を強化し,過度なレバレッジとリスク・テイクを抑制し,並びに景気循環増幅効果(プロシクリカリティ)を抑制することに合意した。
6.我々は,銀行の資本及び流動性のための新しい国際的枠組みに向けた,バーゼル銀行監督委員会(BCBS)の作業の進ちょくを評価するとともに,その作業を歓迎し,及び支持する。銀行システムの強じん性の水準を大幅に引き上げる改革に関して,著しい進ちょくがあった。
・新たな改革が完全に実施された時に,資本の量は大幅に増加する。
・資本の質は大きく改善され,銀行の損失吸収力は強化される。
7.我々は,以下によって所要資本を引き上げることになる新しい資本の枠組みについて,ソウル・サミットの際に合意に達することを支持する。
・銀行が,例外的な政府支援を受けなくても,最低限,最近の金融危機と同程度のストレスに対し業務継続ベースで十分な損失吸収力を有する資本によって耐えられるよう,控除後の普通株式を,Tier1資本の中で,リスクアセットに対して増加する割合で保有する新規制を定めること。
・国際的に整合性がとれた適切な経過期間の後,普通株式等,あるいは株式会社形態でない場合はそれと同等の資本に対して一般的に適用される,国際的に整合性がとれ,透明かつ保守的自己資本控除の仕組みに移行すること。
8.すべての主要な金融センターがバーゼルIIを2011年までに採用するとのピッツバーグ・サミットにおける我々の合意を踏まえ,我々は,すべてのメンバーが新しい基準を採用するとともに,持続的な回復と整合的で,市場の混乱を抑えるような時間的枠組みにより,金融安定理事会(FSB)及びBCBSが行うマクロ経済影響評価に基づく移行期間を経て,2012年末までを目標に,これらの基準を段階的に実施することで合意した。
9.段階的実施の枠組みは,各国の異なる出発点や状況を反映し,新基準との間の当初の差異が各国が新たな国際基準に収れんするに従って,時間をかけて縮小するように設定されるものとする。公的セクターから注入された既存の資本については,移行期間中は現行の取扱いが認められる。
10.我々は,適切な検討と水準調整に基づいた適切な移行期間の後,第一の柱の下での取扱いへの移行を視野に入れつつ,バーゼルIIのリスクに基づく枠組みの補完的指標としてレバレッジ比率を導入することへの支持を改めて表明する。比較可能性を確保するため,レバレッジ比率の詳細は,会計上の差異を完全に調整した上で,国際的に調和のとれたものとする。
11.我々は,BCBSによって現在実施されている,新たなバーゼル基準の潜在的な影響を測定する影響度調査の重要性を認識し,新たな資本・流動性の基準が,質が高く,適切に水準調整されていることを確保する。BCBS-FSBのマクロ経済への影響度調査は,新たな基準の段階的実施期間を調整する。
12.我々は,改訂されたトレーディング勘定ルールのすべての項目について,統一的な実施日を2011年12月31日までとするBCBSの合意を歓迎する。
13.我々は,市場の規律を強化し,民間部門が投資の損失を完全に負担する金融システムの実現を助ける,コンティンジェント・キャピタルの役割を検討するBCBSの作業を支持する。コンティンジェント・キャピタルの検討は,2010年の改革パッケージの一部に含められるべきである。
14.我々は,FSB及びBCBSに対して,ソウル・サミットまでに改革措置全体のパッケージの進ちょくを報告するよう要請した。我々は,金融セクターには強固な経済をけん引する極めて重要な役割があると認識する。我々は,強じんで,安定し,継続的な信用供与を確保する金融システムの設計にコミットする。
よりきめ細かい監督
15.我々は,新しくより強固なルールはより実効的な監督によって補完されねばならないと合意した。我々は,バーゼル委員会の実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則にコミットし,FSBに対して,国際通貨基金(IMF)と協議し,特に早期の介入を含む,リスクを事前に特定し対処するために採用されるべき監督当局の権限や能力及び特定の権能に関する監督強化の勧告を,2010年10月に財務大臣及び中央銀行総裁に報告するよう指示した。
金融機関の破たん処理
16.我々は,金融システムにおけるモラルハザードを抑制するとの我々のコミットメントを実施している。我々は,危機時にすべての種類の金融機関を,納税者が最終的に負担することなく,再編又は破たん処理する権能と手法を我々が備えるシステムを設計し,実施することにコミットする。これらの権能は業務継続時の資本・流動性の再編,及び清算時の再編及び段階的整理を促進すべきである。我々は,金融の安定性を保つ方法で,我々の国内の破たん処理の権能と手法を支持し,及び実施することにコミットし,並びに2010年3月にBCBSにより発出された,国境を越えて業務を行う銀行の破たん処理に関する10の鍵となる勧告を実施することにコミットした。この点に関し,我々は,関連する各国当局が協力し,国境を越えた破たん処理について協調する能力を付与するため,必要に応じて,各国の破たん処理及び倒産手続,並びに法律の変更を支持する。
17.我々は,破たん処理制度が,以下をもたらすべきことに合意する。
・モラルハザードを抑制し納税者を守るための損失の適切な配分
・保険でカバーされた預金者に対する間断のないサービスを含む,中核的な金融サービスの継続
・市場における破たん処理制度の信頼性
・伝播の最小化
・秩序立った破たん処理に関する事前計画や契約関係の移転
・国境を越えて業務を行う金融機関の破たんの場合の国内及び国・地域間における実効的な協力と情報交換
システム上重要な金融機関への対処
18.我々は,システム上重要な金融機関におけるモラルハザードのリスクの抑制に関するFSBの中間報告を歓迎した。我々は,これらのリスクに対処するためには,更なる取組がなされなければならないと認識した。そのような金融機関に対する健全性規制は,それらの破たんコストに応じたものでなければならない。我々は,ソウル・サミットまでに,システム上重要な金融機関に関連する問題に効果的に対処し,同機関を破たん処理するための具体的な政策勧告を検討し,策定するよう,FSBに対して要請した。これは,コンティンジェント・キャピタル,ベイルイン・オプション(債権者による寄与),追加的健全性規制,構造の制限,無担保債権者のヘアカットの手法を含む,市場の規律を促進する金融商品及びメカニズムの検討とともに,よりきめ細かい監督を含むべきである。
19.我々は,FSBによって特定された,主な複雑な金融機関の監督カレッジ及び危機管理グループの発展に関し,多大な進展がみられたことを歓迎した。
20.我々は,2010年末までに,国境を越えて業務を行う主な金融機関の再建及び迅速な破たん処理に関する合意された各社別の計画を策定するため,引き続き協働することに合意した。我々は,さらに,金融機関の破たん処理手続において,国・地域間で協力することを確保するため,作業を続けることにコミットした。
金融セクターの責任
21.我々は,金融システムの修復又は破たん処理の資金を提供するための政府の介入が行われた場合には,関連するあらゆる負担に対し金融セクターが公平かつ実質的な貢献をすべきことに合意した。
22.そのために,我々は,様々な政策手法があることを認識した。金融機関への賦課金を追求する国もあれば,異なった手法を追求する国もある。様々な政策手法は,以下の原則に従うことに合意した。
・納税者を保護する
・金融システムからのリスクを抑制する
・与信の流れを好況時及び不況時に保護する
・個々の国の状況及び選択肢を勘案する
・公平な競争条件の促進を助ける
23.我々は,この分野におけるIMFの作業に感謝した。
金融市場のインフラ及び規制の範囲
24.我々は,システミックなリスクを抑制し,市場の効率性,透明性,公正性を改善するため,金融市場のインフラを強化する必要があることに合意した。規制潜脱行為を最小化し,公平な競争条件を促進し,適切性,健全性及び透明性に関する原則の広範な適用を進める世界的な行動が重要である。
25.我々は,店頭デリバティブの規制及び監督の実施を加速するために,協調して取り組み,また,透明性を向上し標準化を促進することを誓約した。我々は,遅くとも2012年末までに,標準化されたすべての店頭デリバティブ契約について,適当な場合には,取引所又は電子取引基盤を通じて取引し,また,中央清算機関(CCPs)を通じて決済するという我々のコミットメントを再確認する。店頭デリバティブ契約は,取引情報蓄積機関(TR)に報告されるべきである。我々は,国際基準に則した中央清算機関や取引情報蓄積機関の設立に向けて取り組むとともに,あらゆる関連情報への各国規制当局・監督当局によるアクセスを確保する。さらに,我々は,証券金融や店頭デリバティブ取引におけるヘアカット設定や証拠金の慣行に関し,景気循環増幅効果(プロシクリカリティ)を抑制し金融市場の強じん性を向上させる政策措置を追求することに合意した。我々は,この分野において多くの作業が行われたことを認識した。我々は,これらの措置を実施するための更なる進ちょくを引き続き支援する。
26.我々は,ヘッジファンド,信用格付会社,店頭デリバティブの透明性及び監督を改善する強力な措置の実施を,国際的に整合的で無差別な方法で加速することにコミットした。また,我々は,商品市場の機能及び透明性を改善することにコミットした。我々は,信用格付会社に対して,透明性を向上し,質を改善し,そして利益相反を避けることを求めるとともに,各国監督当局に対し,信用格付会社に対する監督を実施する際に,引き続きそれらの事項に焦点を当てるよう求める。
27.我々は,規則や規制において外部格付への依存を抑制することにコミットした。我々は, BCBSにおいて進行中の,資本規制の枠組みにおいて外部格付を利用することによって生じる負のインセンティブに対処するための作業や,FSBにおいて進行中の,当局及び金融機関による外部格付への依存を抑制する一般原則を策定するための作業を認識した。我々は,2010年10月に財務大臣及び中央銀行総裁に報告するよう,それらに対して要請した。
28.我々は,規制当局・監督当局者間の情報交換を促す証券監督者国際機構(IOSCO)の重要な作業,並びにヘッジファンドの監督について,関連する規制及びシステミック・リスクへの対処を目的としたIOSCOの原則を認識した。
29.我々は,FSBに対し,これらの分野におけるこれまでのG20のコミットメントの各国及び地域による実施をレビューし,世界的な政策の一体化を促し,更なる作業が必要であれば,2010年10月に財務大臣及び中央銀行総裁に対し,評価及び報告を行うよう求めた。
会計基準
30.我々は,単一の質の高い改善された世界的な会計基準の実現が重要であることを改めて強調した。我々は,国際会計基準審議会及び米国財務会計基準審議会が2011年末までに収れんに向けたプロジェクトを完了するための努力を増すことを促した。
31.我々は,国際会計基準審議会が,新興市場国へのアウトリーチを含め,独立した会計基準設定プロセスの枠内において,利害関係者の関与を更に改善することを奨励した。
評価とピア・レビュー
32.我々は,IMF及び世界銀行の金融セクター評価プログラム(FSAP)及びFSBのピア・レビュー・プロセスを通じた,我々の金融システムに対する強固で透明性のある独立した国際的な評価及びピア・レビューを支援することを誓約した。我々の金融システムの相互依存性及び一体性といった性質は,我々すべてが我々のコミットメントを実践するよう求めている。幾つかの国における弱い金融システムは国際的な金融システムの安定性に脅威を与える。金融セクターを万人のためにより安全なものとするに当たって,国際的な評価とピア・レビューは基本となるものである。
33.我々は,国際的な金融セクターの監督及び規制政策や基準の具体化,様々な基準設定主体間の協調,並びにテーマ別及び国別のピア・レビューの実施,及びセクター及び国・地域における一貫した実施を通じて公平な競争条件を促進することによる改革アジェンダに対する説明責任の確保における,FSBの主要な役割を再確認した。そのために,我々は,FSBに対して,増大する需要に見合うよう能力を強化する方策を探ることを奨励する。
34.我々は,金融システムの世界的な性質を反映するために,G20のメンバーを超えてアウトリーチ活動を拡大し,公式化するよう,FSBに対して要請した。我々はIMF及び世界銀行を含む他の重要な組織と共に,FSBの顕著な役割を認識した。他の国際基準設定主体や監督当局とともに,これらの組織は,我々の金融システムの健全性と安定性において,中心的な役割を果たす。
35.我々は,金融及び規制政策の国境を越えた一貫した実施を促し,想定された結果を達成する上での実効性を評価する手段として,FSBによるテーマ別ピア・レビューを完全に支持する。我々は,健全な報酬に関するFSBの基準の実施に関する進ちょくを示したFSBの報酬に関する第一回テーマ別ピア・レビュー報告書を歓迎したが,完全な実施にはほど遠い。我々は,年末までに,すべての国や金融機関がFSBの原則と基準を完全に実施するよう奨励する。我々は,FSBに対し,この分野における継続的なモニタリング及び2011年の第二四半期に2回目の包括的なピア・レビューを実施するよう求める。また,我々は,FSBのリスク開示に関するテーマ別レビューの結果に期待する。
36.我々は,FSBの国別レビュー・プログラムの有意義な進展を認識した。これらのレビューは,IMFや世界銀行の金融セクター評価プログラムを補完する重要なものであり,課題への対処に向けたピア・ラーニングや対話のためのフォーラムを提供する。3つのレビューが,今年,完了する。
その他の国際基準及び非協力的な国・地域
37.我々は,包括的,統一的,透明な評価に基づき,非協力的な国・地域に対処するため,また,国際金融機関(IFIs)による支援とともに,技術的支援を提供することを含め,基準遵守を奨励するための措置及びメカニズムを検討することに合意した。
38.我々は,税目的の透明性及び情報交換についてのグローバル・フォーラムの作業を完全に支持し,相互審査プロセスの進ちょくとすべての関係国に開かれた情報交換のための多国間の仕組みの開発を歓迎した。我々の2009年4月のロンドンでの会合以降,署名された税情報の協定数は500近く増加した。我々は,グローバル・フォーラムに対し,有効な情報交換を達成するために必要な法的枠組みへの対処において各国が行った進ちょくについて,2011年11月までに首脳に報告するよう奨励する。我々はまた,失われた財産の回収プログラム(StAR)における進ちょくを歓迎し,腐敗による収益の回収に向けた進ちょくを監視する努力を支持する。我々はタックス・ヘイブンに対する対抗措置を使用する用意をする。
39.我々は,資金洗浄やテロ資金供与に対する闘い,戦略上の欠陥を有する国・地域の公表リストの定期的な更新についての金融活動作業部会(FATF)及びFATF型の地域機関の作業を完全に支持する。我々はまた,FATFに対し,資金洗浄及びテロ資金対策(AML/CFT)に関する国際基準の世界的な遵守を,引き続き監視し強化することを奨励する。
40.我々は,すべての国・地域における健全性に関する情報交換と国際協力の基準の遵守に関するFSBの評価プロセスの実施を歓迎した。