データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20ソウル・サミット首脳宣言 附属書III G20腐敗対策行動計画(仮訳)

[場所] ソウル
[年月日] 2010年11月12日
[出典] 外務省仮訳
[備考] 
[全文]

 腐敗は市場の公正性を脅かし,公平な競争を弱体化させ,資源の配分をゆがめ,公衆の信頼を損ない,法の支配を弱める。腐敗は経済成長に対する深刻な障害であり,先進国,新興国及び途上国にとって重大な課題である。主要貿易国の首脳として,我々は,腐敗を防止し,これに対処し,クリーンなビジネス環境を促進する法的及び政策的枠組みを確立し,また,腐敗と闘うための能力構築の取組においてG20諸国を引き続き支援する特別な責任を有する。

 我々の一連の首脳宣言に基づき,G20は,国連腐敗防止条約(UNCAC)の規定にその原則が盛り込まれている,実効的な世界的腐敗対策制度に向けた共通のアプローチを支持すること,我々の経済に影響を与える優先度の高い分野において行動することにより集団的なリーダーシップを示すこと,及び世界的なビジネスにおいて大きなシェアを占める我々の民間部門の利害関係者を,クリーンなビジネス環境を支援する革新的で協調的な慣行の策定と実施に,直接関与させることにコミットする。この点に関し,G20は,いかにG20が腐敗と闘う国際的な取組に対して実際的かつ価値のある貢献を引き続き行い,模範を示し得るかについて,2010年11月に韓国において首脳が検討するための包括的な提言を策定する作業部会を設置することにトロントにおいて合意した。

 この点に関し,我々は国際商取引における経済協力開発機構(OECD)外国公務員贈賄防止条約や地域的文書等他の国際文書を含め,UNCACなどの既存の世界的なメカニズムに立脚するとともに,これらを補完することの重要性を認識する。

 この目的のため,G20は,以下を含むものの,しかし,それに限定されるものでない鍵となる分野において,模範を示す。

1.G20諸国が可能な限り早期にUNCACを批准又はこれに加入し,また完全に実施すること,非G20諸国にUNCACの批准又はこれに加入することを促すこと,新たな実施レビュー・メカニズムの下で,我々の個別レビューが,実効的かつ完全な形で実施され,かつ透明性と包括性の水準を向上させるよう努めることを確保することを通じて,現在のUNCACの実施レビュー・メカニズム実施要領に従った個別のレビューを強化すること。

2.外国公務員の贈賄の犯罪化等による国際的な贈賄に対する法令及び他の措置を採用及び執行するとともに,国際商取引における外国公務員贈賄防止条約の基準に関し,OECD贈賄作業部会内での更なる積極的な関与又は同条約の批准につなげるために必要な議論を,2012年までに自発的に開始すること。G20諸国はまた,国連腐敗防止条約の外国及び公的国際機関の職員に対する贈賄に関する第16条の効果的な実施を促進する。

3.腐敗した公務員が世界的な金融システムにアクセスし,腐敗による収益を洗浄することを防止するため,我々はG20に対し,資金洗浄を防止しこれと闘うための努力を更に強化するよう求めるとともに,金融活動作業部会(FATF)に対し,ピッツバーグにおいて要請したように腐敗対策問題を重視し続けるよう,並びに引き続き戦略的なマネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)上の不備を有する国・地域を特定し及びこれに関与し続け,また,クロスボーダー電信送金,真の受益者,顧客のデューデリジェンス及び「重要な公的地位を有する者」に関する透明性を求めるFATF勧告を,更新し実施する作業について,フランスにおけるG20において報告するよう求める。

4.腐敗した公務員が処罰されずに海外渡航することを防止するために,G20は,腐敗した公務員や彼らを腐敗させた者に対して,我々の管轄権内への入国を拒否し,安全な逃避先を与えないようにするための協力的な枠組みを検討する。この目的のために,G20の専門家は,既存の慣行や障害を考慮しつつ,腐敗した公務員の入国を拒否する国家的対策をとるための共通原則を策定する可能性を精査し,この権限の適用に関する二国間協力の枠組みを勧告する。

5.国際的な協力を強化し,腐敗や贈収賄に対処する我々の取組を通じて模範を示すために,G20はUNCAC,取り分け犯罪人引渡し,法律上の相互援助及び財産回復に関する規定の利用を促進し,必要な場合には技術援助を提供するとともに,犯罪人引渡し,法律上の相互援助及び財産回復に関する二国間及び多国間の条約の締結を奨励する。我々は,UNCACの実施を更に促進するため,UNCACのレビュー・メカニズムの実施を通じて,関係諸国により特定された技術援助要求に対応するよう努める。

6.海外に隠ぺいされた腐敗行為による収益の回復を支援するため,すべてのG20諸国は,取り分け犯罪収益の移転の防止及び探知,財産の直接的な回復のための措置,財産追跡,凍結及び没収についての国際協力を通じた財産回復のためのメカニズム,自発的な情報の開示に関する特別な協力についての措置,並びに財産の返還及び処分等,UNCAC第5章に規定されたこれらの措置を採用する。この目的のために,G20諸国は,フランスでの2011年のサミットの時までに,腐敗と財産回復に関する法律上の相互援助のための明確で実効的な伝達手段や,その他の形態の国際協力の枠組みを確立し,特に,これらがまだ実施されていない場合には,腐敗と財産回復に関する国際的な法律上の相互援助要請に責任を有する適切な当局を指定し,腐敗事案に関する法執行と国際協力のためのコンタクトポイントを確立し,適切な機関において財産回復のための特別の専門的知識を発展させる。

7.腐敗が疑われる行為を誠実に報告した公益通報者を差別的及び報復的な行為から保護するため,G20諸国は,公益通報者の保護ルールを2012年末までに制定し,実施する。そのために,G20の専門家は,OECDや世界銀行などの機関による既存の取組を基礎に,公益通報者の保護に関する既存の法制及び執行のメカニズムについて研究し,結果をとりまとめ,公益通報者の保護に関する法制についてのベスト・プラクティスを提案する。

8.腐敗防止及び腐敗との闘いにおいて,腐敗対策機関又は執行機関の効果的な機能を強化し,またこれらの機関が不当な影響を受けることなく職務を遂行できるよう,G20諸国は可能な限り早期に,UNCACの第6条(腐敗対策機関)及び第36条(専門の当局)を履行するために必要な行動をとる。

9.財政管理を含め,公的部門における公正性,透明性,説明責任及び腐敗防止を促進する。

 G20は,国際機関が透明性,高い倫理基準,効果的な内部保障措置及び最高の公正性の基準をもって運営されることを奨励するために,国際機関のガバナンスについて発言する。そのため,我々は,グッド・プラクティス及びこの目的に資する方法を明らかにするための国際機関や国内当局間による継続的な対話を求める。

 ビジネス界は,腐敗対策の利害関係者であり,この問題への関与が不可欠である。G20は,官民連携を奨励し,民間部門を世界的な腐敗との闘いに関与させるためのイニシアティブを策定し,実施するための有意義な機会を提供する。

 この目的のため,G20は,

・ベスト・プラクティス及びビジネス界による腐敗との闘いへの他の関与のあり方について検討し,G20の企業がいかに継続中の取組を共有できるかを検討するため,フランスが議長国である期間中に民間部門を招待して会合を開くことにより,企業の取組を強化する。

・首脳による検討及び適切な場合にはその後の実施のために,2011年末までに,妥当性,公正性及び透明性を改善するための複数の利害関係者によるイニシアティブを提言することを目標として,一部の特定部門における商取引における脆弱性を特定するために産業界及び市民社会と作業することによって,特定部門における汚職と闘う。

 模範を示すため,G20はそのコミットメントに責任を負う。腐敗対策基準についての既存のピア・レビュー・メカニズムへの参加を越えて,行動計画の実施にかかるG20諸国の個別及び全体の進ちょく状況についての報告が,作業部会で合意された上で,この行動計画の対象期間中,毎年,G20の首脳に提出される。

 この文脈において,腐敗対策作業部会は,フランスでの次回サミットで首脳への最初の監視報告書を準備する。