データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20カンヌ・サミット 成長と雇用のためのカンヌ・アクションプラン

[場所] カンヌ
[年月日] 2011年11月4日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 世界経済は新たな困難な局面に入った。世界の成長は弱まり,下方リスクは高まり,信認は衰えた。一部先進国の公的債務水準の持続可能性に対する不確実性は増加し,また公的部門から民間部門への及び対外部門から国内部門への需要のリバランスは実現していない。

・欧州では,一部の国におけるソブリン債務リスクが,金利コストの上昇と銀行システムにおけるストレスという困難な動きを生み出しており、それが現在、ユーロ圏における信認や実体経済の活動の重荷となっている。ユーロ圏の成長率はより弱まり,失業率は高まることが今予想されている。

・米国では,景気の回復が予想されていたよりも浅い。弱い雇用増加,住宅部門における継続する調整及び関連する家計のバランスシートの再建の組み合わせによって,求められる民間需要の回復は実現していない。中期的な財政健全化を巡る一層の確実性と決意は、成長の強化に貢献するであろう。

・新興国市場では,先進国の状況がこれら新興国への重荷となるにつれて,経済成長減速の明確な兆候も見られる。一部の新興市場国において,金融の安定や経済過熱のリスクが依然として存在する。一部の国における為替レートの柔軟性の欠如は,これらのリスクに対応する政策の選択肢を制限している。

 これらの課題に直面し,我々は,強化された国際的な政策協調が今必要とされているということに合意する。我々は,短期の脆弱性に対処し,中期的な成長のための基盤を強化するためのアクションプランに合意する。

 我々は,景気回復を支援すること,金融の安定を確保すること及び信認を回復することに,強くコミットしている。これらのすべての方面における集合的な行動によってのみ,我々は,より強固で持続可能かつ均衡ある成長に近づくだろう。我々の究極的な目標は,より多くかつ良質な雇用を我々の市民に提供し,すべての国での社会的包摂を促進し,特に世界中の低開発国での開発及び貧困削減を促進することである。

 我々は,継続した大規模な不均衡を評価するための参考となるガイドラインを用意するというソウル・コミットメントを達成した。このアクションプランは,G20の見解を反映し,またこれらの不均衡の根本原因及びそれらに対処するために提言される政策についてのIMFスタッフの独立した評価を活用している。我々は,遅滞なく次に挙げる行動の導入を断固として追求することにコミットする。

短期の脆弱性の解決及び金融の安定の回復

 我々は,我々の中期的な改革を補完する方法で,短期的な景気回復を持続させ,成長を促進し,金融の安定を回復するための計画に合意した。

1.我々は,銀行システム及び金融市場の安定を確保するために必要なあらゆる行動を取ることにコミットする。現下のリスクに対処するため,我々は,銀行が適切に資本増強され,かつ十分な資金へのアクセスを保持することを確保する。中央銀行は必要に応じて,銀行に流動性を供給できるよう準備を継続する。

2.G20メンバーは,景気回復を確保するために、政策措置の適切な組合せを実施することに合意する。

 a)金融政策は,中期的に物価の安定を維持し,経済回復を支援しつづける。中期的な財政健全化計画も含め,各国の事情に応じて,金融政策は,物価情勢の中期的見通しへのありうる影響を前提として,経済・金融市場の状況変化に対応する。

 b)先進国は,以下の各国ごとのコミットメントに規定されるものを含め,各国の異なる状況を考慮しつつ,信認を構築し,成長を支えるための政策を採用し,財政健全化を達成するための明確で,信頼に足る,具体的な取組みを実行する。

 c)ユーロ圏の国々の政府は,ユーロ圏の安定を確保するために必要となる全ての必要な措置と行動をとることにコミットしており,包括的なパッケージを採択した。(i)7月21日にEFSFの手法の柔軟化を決定した後,10月26日のユーロ圏首脳会合でEFSFの資金基盤を1兆ユーロまで大幅にレバレッジをかけることに合意した。(ii)ユーロ圏各国は,経済と財政のサーベイランスとユーロ圏のガバナンスを大幅に強化することに合意した。(iii)ソブリン債市場における緊張に直面しているユーロ圏のメンバー国によって,財政健全化と構造改革についての具体的な取組がなされる。(iv)厳格な調整プログラムと,民間の投資家によって保有されるギリシャ国債の自発的な名目上のディスカウントを通じて,ギリシャ債務の持続可能性を確保するための例外的な解決策が見出された。(v)最後に,適切な場合におけるターム物の資金へのアクセスを円滑化させること,及び,実体経済への与信の流れを維持し,これらの計画が過度のデレバレッジにつながることの無いよう確保しつつ,大きな銀行の資本規模について、ソブリンへのエクスポージャーを考慮した後で2012年6月末までにコア・ティア1資本を9%まで一時的に増加させることを含む、銀行セクターの信認を高める包括的な一連の措置が合意された。

 d)イタリアは,2012年から開始して公的債務残高対GDP比を迅速に減少させ,2013年までに均衡予算近くまで到達することにコミットする。この目標は,夏季に承認された600億ユーロの財政パッケージの完全履行に基づいており,欧州連合の法令と,憲法における均衡予算ルールの導入の双方に由来する財政ルールの強化によって裏付けられる。イタリアは,10月26日に発表された成長を高める構造改革の包括的な計画を完全にかつ迅速に実施することにコミットする。

 e)米国は,信頼に足る中期的な財政健全化計画と調和した,公共投資,税制改革,的を絞った雇用措置等を通じた,景気回復を維持するための短期的措置のパッケージの適時の実施にコミットする。

 f)日本は,中期的な財政健全化のコミットメントを確保しつつ,震災復興のための少なくとも19兆円(GDPの約4%)と見込まれる本格的な財政措置の迅速な実施にコミットする。

 g)依然として財政が比較的健全な,オーストラリア,ブラジル,カナダ,中国,ドイツ,韓国及びインドネシアは,各国の状況を考慮しつつ,財政の自動安定化機能を作用させることに合意し,世界経済状況が大きく悪化した場合には,中期的な財政目標を維持しつつ,国内需要を支える裁量的措置を適切にとることに合意する。

 h)新興市場国は,経済の強靭性を高めるためのマクロ経済政策を採用することにコミットし,黒字国は,より内需主導の成長に移行するためのマクロ経済政策を採用し,これにより世界経済の回復と金融の安定を支える。

3.我々は,市場で決定される為替レートシステムに向けてより迅速に移行し,根底にあるファンダメンタルズを反映するため,為替レートの柔軟性を向上させるとともに,通貨の競争的な切り下げを回避するという我々のコミットメントを確認する。上記の行動は,世界的な流動性と資本フローの変動の高まりにより生じる諸課題に対処する手助けとなり,これにより為替レートの改革の更なる進捗を促進し,外貨準備の過度の蓄積を減少させる。我々は,ルーブルがより市場の力に沿って動くことを許容するロシアの外国為替制度の最近の変更を歓迎し,根底にある市場のファンダメンタルズと整合的に為替レートの柔軟性を向上させる中国の決意を歓迎する。

4.我々は、外貨準備の蓄積という観点からの,大きな一次産品生産者の特別な環境を認識する。

5.すべての政策分野で,我々は,国内目的のために実施される政策による他国への負の波及効果を最小化することにコミットする。我々は,強固で安定した国際金融システムが我々の共有する利益であること,及び,市場で決定される為替レートに対する我々の支持を再確認する。我々は,為替レートの過度の変動及び無秩序な動きは,経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。

6.我々は,IMFが,そのシステム上の責務を果たすために,十分な資金基盤を持つべきことにコミットする。

中期的な成長基盤の強化

 我々は,経済回復への足元のリスクに対処するための行動は,信認を高め,世界経済の生産量を増加し,雇用を創出するための持続的で広範な改革によって補完されなければならないことに合意した。

 我々は,中期的な成長基盤の強化のため,次の6分野の計画に合意した。(1)財政健全化へのコミットメント,(2)経常収支黒字国で民間需要を押し上げ,また,適切な場合,経常収支赤字国で公的部門から民間部門へ需要を移転させることへのコミットメント,(3)G20メンバーの中で,経済成長を高め,雇用創出を強化するための構造改革,(4)国内及び世界的な金融システム強化のための改革,(5)あらゆる形態の保護主義を排除しつつ,自由貿易・投資を促進するための方策,(6)開発を促進するための行動。別添(英文(PDF))は,主要な行動は,以下に要約されている,全メンバーによる政策コミットメントの詳細である。

1.明確で具体的な財政健全化計画は,財政を信頼に足る持続可能な軌道に乗せるために必要不可欠であり,また,経常収支赤字の削減(国内貯蓄の増加)の鍵となり、多くの大規模な国における世界的なリバランスを更に促進する。

 a)オーストラリア,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,韓国,スペイン,英国及び米国は,明確で信頼に足る財政健全化計画によって2013年までに2010年の水準から財政赤字を半減し,2016年までに公的債務残高を対GDP比で安定化または削減するトロント・コミットメントを再確認する。これらの計画は,慎重な経済見通しが提供され,場合によっては,景気循環を考慮に入れた財政ルールによって強化されることにより,様々な経済状況においても,堅固なものとなるだろう。特に:

 ◦米国は,今後10年間で約1兆ドルの裁量的支出削減を規定し,及びそれを超えて,少なくとも追加的に1.2兆ドルの財政赤字削減を確定する2011年予算管理法に基づく,バランスのとれた財政赤字削減計画を通じ,公的債務残高対GDP比を,遅くとも2010年代半ばまでに減少傾向に置くことにコミットする。その計画は,給付プログラムの改革を含む追加的歳出削減,歳入を高め,税率を下げ,税の抜け穴をふさぎ,租税支出を削減する税制改正,予測可能性と信頼性を高めるためのより強力な予算ルールを含むであろう。予算管理法と合わせて,これらの改革は,10年間で合計4兆ドルの財政赤字削減をもたらすだろう。

 ◦フランスは,次の方策を通じ,2013年に財政赤字を3%まで削減することにコミットする。中央政府及び健康保険支出におけるより厳しい歳出制限,より対象を絞った社会移転,成長に配慮した租税支出の削減,及び安定性を維持するために行われる既存の財政ルールの憲法での規定。

 ◦英国は,計画している財政健全化及び2010年の歳出見直しの際に策定した詳細な4か年部門別歳出計画へのコミットメントを再確認する。また,英国は,成長に配慮した財政調整を確保する措置や,寿命の変化に対応してより体系的に公的年金支給年齢の将来的な引上げを行うなど,長期の歳出圧力及び不均衡を解消する措置を含む,構造改革を実施する。

 b)日本は,トロント・コミットメントを達成するため,2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げることなどの方針を定めた社会保障・税一体改革成案を具体化し,これを実現するための所要の法律案を2011年度内に提出することにコミットする。

 c)インドは,統一の物品・サービス税を含む税制改革を通じて歳入の動員を強化すること,並びに個人及び法人税制を徹底的に見直すことにコミットする。

2.大きな経常黒字を抱える国や民間需要が相対的に弱い国は,世界的な需要をリバランスし持続させる上で重要な役割を果たす。

 a)ドイツは,民間の消費及び投資を促進する取組を実施する。これにより,両構成要素が,GDPのシェアで表現して時間とともに増加すると期待される。ドイツは,低い投資及び高い民間貯蓄の原因となっている可能性がある非効率性の軽減を含め,内需を強化することを目的とした措置をとることにコミットする。

 b)日本は,近年において民間需要が相対的に弱いことを認識しつつ,民間の消費及び投資を促進する取組を実施する。これにより,両構成要素が,GDPのシェアで表現して時間とともに増加すると期待される。これは,さまざまなサービスに対する需要を高める政策からなる「新成長戦略」の実施を加速することを含む。

 c)中国は,社会的セーフティ・ネットの強化,家計所得の増加及び経済成長パターンの変革のための措置を実施することにより,需要を国内消費に向けてリバランスする。これらの行動は,根底にある経済のファンダメンタルズをよりよく反映するために,より柔軟な為替レートを促進し,外貨準備の蓄積のペースを次第に低下させるための現在実施中の措置によって強化される。

 d)他の黒字国は,彼らも世界的なリバランスを促進する重要な役割を有していることを認識し,民間支出を奨励することにコミットする(インドネシア,韓国)。インドネシアは,民間投資を大幅に増加させるであろうインフラに関する国家計画を発表した。

3.さらなる構造改革の進展は,すべてのG20メンバー国の生産量を増加させる上で,重要である。

 a)構造改革は,正規かつ良質な雇用を増加させるためのインセンティブを提供する,積極的かつ柔軟な労働市場政策,及び効果的な労働制度と組み合わせられる。メンバーは,長期の失業を削減し,適切な場合,高齢労働者や女性の参画を奨励するための税制及び給付の改革を含む,雇用流動性の促進及び労働参画の促進にコミットする。

 b)メンバーは,競争を高め,歪みを削減する。行動には,インフラ投資(ブラジル,インド,インドネシア,メキシコ,サウジアラビア,南アフリカ),研究,教育及び職能開発の支援,及び,機械類と製造原料への関税の撤廃(カナダ),現在の5ヵ年計画に記載された,生産要素の価格形成における改革,市場に基づいた金利改革の秩序だった手法による促進,及び人民元の資本勘定自由化の漸進的な達成(中国),生産性を高めるためのサービス部門における構造改革(フランス,ドイツ,イタリア,韓国),より雇用に配慮した税体系を目指す税制改革(ドイツ,イタリア),金融機関の情報開示基準の向上(ロシア),貧困層へ対象を絞った支援を提供しつつ,無駄で市場歪曲的な補助金の中期的な縮小(インド,インドネシア),エネルギーの効率性と再生可能及び国内のエネルギー資源の利用拡大に向けた改革(トルコ),農業部門改革(アルゼンチン),貿易・投資促進のための地域統合の強化(南アフリカ),短期金融市場に係る慣行の改善及び監督の強化,並びに対GDP比の家計貯蓄率の増加の促進に資する改革(米国),効果的な炭素価格メカニズムを通じたクリーン・エネルギー経済への移行(オーストラリア),グリーンな成長を促進する取組(韓国)を含む。

 c)EUは,成長を高めるための12の主要優先行動に基づく包括的プログラムを通じて,単一市場への統合を加速しかつ更に深化させることに全面的にコミットする。これらには,サービス,欧州横断ネットワーク,単一デジタル市場,労働者流動性,中小企業向け金融及び課税の分野における取組みを含む。「欧州2020(Europe 2020)」戦略の枠組みの中で,EUは,2020年までの複数項目にわたる目標を採択した。すなわち,20-64歳人口における雇用率の75%までの引上げ,教育水準の向上,研究開発分野における官民投資水準の割合をEU全体のGDP比3%までの引上げである。

 d)我々は,世界の経済成長と整合的な水準において国際石油市場の安定を維持することや,あらゆる国におけるエネルギー政策の透明性を向上させることが,世界の経済回復にとって重要であることを認識する。

 e)サウジアラビアは、世界経済を支えるため,石油市場の安定化に関して引き続きシステム上の役割を果たすことにコミットしている。

4.我々は,ソウル・サミットを通じて合意した金融セクター改革の課題を,完全にかつ適時に実施することにコミットする。これは以下を含む。:合意したスケジュールに沿ったバーゼルⅡ,Ⅱ.5,Ⅲの実施,より密度の高い監督の取組,店頭デリバティブにおける清算及び取引義務,健全な報酬慣行のための基準及び原則,単一で質の高い改善された国際的な会計基準の達成,システム上重要な金融機関によってもたらされるリスクに対処する包括的な枠組み,シャドーバンキングへの規制及び監視の強化。我々は,新興国・途上国における金融の安定の問題に関するIMF,世界銀行及びFSBの共同報告書を承認する。

5.我々は,トロントで合意したように,あらゆる形態の保護主義に対抗し,WTO非整合的な措置を是正し,多国間の貿易アジェンダを前進させるとの我々のコミットメントを再確認する。

6.貿易及び投資への障壁を削減することは,開発ギャップを削減し,ミレニアム開発目標(MDGs)に向けた進捗を支援することに役立つ一方,能力構築,及び,余剰貯蓄を,インフラ開発を含む途上国における成長を促進する投資に結びつけることを支援するための更なる取組は,世界経済の成長,リバランス及び開発に対して正の波及効果をもちうる。

 a)後発開発途上国における市場アクセスの改善は,貿易能力の強化のための貿易円滑化,貿易金融,及び「貿易のための援助」プログラムの強化によって補完されるべきである。

 b)途上国は,より強固で,より均衡ある世界経済の成長に貢献する潜在性を有しており,特にインフラ分野において,投資先の市場としてみなされるべきである。我々は,国際開発金融機関(MDBs)のインフラ行動計画及びインフラ投資に関するハイレベル・パネルの提案を歓迎する。開発のための公的資金の十分な流れを確保することは,民間資本を活用する革新的なアプローチを促進することと同様に,重要である。

 我々は,短期の脆弱性を解決し,改革を前進させるという我々のコミットメントを達成することにも,説明責任を持ち続ける(付属書参照)。我々は,財政,金融セクター,構造,金融・為替レート,貿易及び開発政策における我々のコミットメントの進ちょく状況を評価する枠組みを用意し,2012年及びそれ以降での報告及びモニタリングを強化する。ソウルで合意したように,我々は参考となるガイドラインを,リバランスの進捗,及び財政,金融,金融セクター,構造,為替レート,その他の政策の整合性を評価するメカニズムとして使用し続ける。

 我々は,経済状況の進展に応じて,将来において政策協調を継続する。我々の強固で持続可能な均衡ある成長のための枠組み(フレームワーク)は,一時点の取組ではなく,状況の進展に合わせた動学的なプロセスである。

 我々は,財務大臣に対して,脆弱性に対処し成長を持続させるために今後数ヶ月間緊密に協働することを求める。