[文書名] G20雇用労働大臣会合 結論文書
1. 2011年9月のパリでの会合以降,世界経済は緩やかな回復を見せている。しかしながら,多くの国では,この緩やかな成長は雇用率に反映されておらず,未だ危機前の雇用率のレベルに戻っていない。いくつかの国では,失業率とインフォーマルで不安定な仕事に就く人の数は,引き続き注意すべき状態が続いている。ILOによれば,2008年以前の状態と比べて,世界中で未だ約5000万人の仕事が不足している。
2. カンヌでの首脳による宣言に述べられているように,「雇用が,強靱で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みの下で我々が実施する,成長及び信認の回復のための行動及び政策の核心でなくてはならない」。ピッツバーグでは,首脳は,質の高い雇用を回復の中心に置くことに合意した。我々は,このコミットメントを再度十分に確認し,質の高い雇用の創出が今まで以上に極めて重要であることを強調する。
3. 2010年4月のワシントンDCでの会合及び2011年でのパリでの会合で,危機時の社会及び雇用への影響を克服し得る政策の実行を推進することの重要性に,我々は合意した。パリで,我々は,とりわけ若年者及びその他の脆弱なグループのための積極的雇用政策の改善の重要性,各国で決定される社会的保護の床の整備による社会的保護の強化の重要性,社会的及び労働的権利の効果的な適用促進の重要性,経済政策及び社会政策の一貫性の強化の重要性について強調した。これらの目標は,相互に強化し合う関係にあるが,強靱で持続可能かつ均衡ある成長を促進する基礎になるものであるため,引き続き優先順位が高い。
4. 我々の主要な関心事の一つは,質の高い雇用の創出である。質の高い雇用は,更に安定した成長に寄与することができ,安定した成長は,個人が貧困を克服して,より社会的に包摂されるとともに,所得分配を改善することに役立つ。政府,労働者及び雇用者は,社会的対話を通じてともに行動することにより,これらの目標に不可欠な貢献をなし得る。
5. 質の高い雇用の促進は,G20各国が直面する主要な課題の一つである。我々の多くの経済における複雑な労働市場の状況は,人々の一部,特に若年者と他の脆弱なグループに重大な影響を与えてきた。若い男女の失業率は,全体の失業率の2倍であり,いくつかの国では,更に高い場合もある。こうした危機感は,2011年9月のパリの会合の間に共有され,カンヌで雇用に関するG20政府間タスクフォースの創設に合意した首脳らによっても確認された。このタスクフォースは,2011年12月に発足して以来,好事例(ベスト・プラクティス)と政策対応に基づいた若年者雇用のための戦略の特定作業を行っている。
6. 雇用危機からの脱却の道を探すためには,特に成長分野での革新的なイニシアティブを特定することが必要である。我々は,質の高い雇用の創出,包括的な経済成長及び天然資源の持続可能な利用を進めるための手段として,持続可能な成長の文脈でのグリーン成長の可能性を探求すべきである。
7. グアダラハラでの会合で,我々は,質の高い雇用を生み出すための政策,若年者雇用を促進するための成功戦略,グリーン成長に関連する雇用創出のための選択肢について議論を行った。多くの課題が各国間で共有されたが,行動の優先順位は,各国の異なる背景と現実を反映していなければならない。意見交換を踏まえ,我々は以下の結論を示す。
I 質の高い雇用の創出及びディーセント・ワーク{前22文字太字}
8. 危機は,G20の経済に対して様々な影響を与えた。危機に対する雇用労働大臣の対応は,フォーマル・セクターにおいてディーセントな賃金と社会保障を備えた,更に質の高い仕事の創出を進めるために,極めて重要である。労働者に雇用機会へのアクセスを提供するために労働市場において要求されるスキルを彼らが得ることを可能にする政策とプログラムを促進しつつ,労働者の権利を保護することもまた,我々の役目である。
9. ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)は,より良い将来への我々の願いを表現したものであり,生活水準の向上のために重要な役割を果たす。労働市場に参加する者に対してディーセント・ワークを与えるための条件を生み出すことは,国際化の恩恵を人々がよりよく分かち合える,より公平な社会の基礎を構築する。したがって,雇用,社会的保護,社会的対話及び労働における基本原則と権利に対する十分な尊重の奨励を継続することを,我々は再度確認する。
10. 大臣として,我々は,雇用機会を生み出し,訓練を提供し,技能を強化し,雇用可能性を高める政策を支援・実施し続けるべきである。これらの行動は,さらに高い生産性につながり,それによって経済発展,投資の引き込み,社会的結合の強化に寄与する。
11. 労働市場での平等な機会の促進は,共有された成長と発展のための重要な柱である。したがって,我々は,人々が企業から雇われ得る能力(エンプロイアビリティ)を高め,スキルを市場ニーズへ適合させ,公共職業サービスを改善し,ジェンダーの視点を政策・プログラムへ統合させ,職場でのあらゆる差別と戦う政策を推進し続ける。
12. 社会的保護制度は,危機において自動的な安定化装置(スタビライザー)として重要な役割を果たす。パリの会合で,我々は,強靱で持続可能かつ均衡ある経済成長と社会的結束を達成する観点から,それぞれの国によって定義された社会的保護の床を発展させることに合意した。この意味で,また,我々の責任と資源の範囲内で,我々は,社会保障制度を改善する政策の策定に貢献するとともに,効率的な積極的労働市場政策と効果的な社会的保護との間の適切な均衡の達成に貢献すべきである。我々はまた,開発途上国がそれぞれの国によって決定された社会的保護の床の実施のための能力構築を支援するため,G20開発作業部会とのより良い協力がなされることを奨励する。この観点から,パリでの我々の結論に沿う国際機関間の調整,協力及び知識共有の努力を歓迎する。パリでの勧告の結果,我々はILO及びIMFが,他の国際機関協力によって行った,社会的保護の床の持続可能性に関する協力を歓迎し,その継続を奨励する。我々は,2012年6月の来るILO総会の間に,社会的保護の床に関するILO勧告が採択される可能性を期待する。
13. 我々の国の中には,インフォーマルな活動での雇用が大きな割合を占めている国もあることや,その結果として生産性と雇用の質の低さを招いているという点を踏まえ,我々はフォーマルな労働市場への参加を増加させることを目的とした政策を,企画し実行すべきである。我々は,インフォーマル・セクターの労働者の状況を改善する方法を考え出さねばならない。かつて社会的保護政策から除外されていた労働者,特にインフォーマル経済で働く労働者をこれに含めるため,その適用範囲を拡大しつつ,これらの国は,社会保護政策を更に効果的なものにすべきである。これらの手段はインフォーマル・セクターからフォーマル・セクターへの移行に役立つべきものである。
14. 首脳らがカンヌで指摘したとおり,「経済回復の足元のリスクに対処するための行動は,信認を高め世界経済の生産量を増加し,雇用を創出するための持続的で広範な改革によって補完されなければならない」。構造改革は,とりわけ若年者及び他の脆弱なグループにとって,雇用を優先事項として維持すべきである。これらは,インフォーマルからフォーマルな労働市場,つまり社会保障と公平で尊厳のある収入をもたらす雇用への漸進的なアクセスを向上させるメカニズムであるべきである。それらはまた,労働市場制度の効果的な機能強化に基づいているべきである。構造改革は,労働市場の細分化とインフォーマル・セクターに対応することに貢献すべきである。構造改革は,同時に,生産と収入の増加を促進することができる。
15. 構造改革の実施は,中核となる労働者の権利に影響するものであってはならず,1998年のILO宣言で述べられているように,労働における基本的原則と権利の完全な尊重を確保しなければならない。この意味で,我々は,それらの原則を尊重し,促進し,実現することにコミットすることを再確認する。加えて,公正なグローバル化のための社会正義に関する2008年宣言と,グローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)を支持する。
16. 政策を効率的にし,質の高い雇用創出に刺激を与えるために,社会的,経済的,財政的,環境的な政策及び他のすべての政策の間の一貫性を,国レベル及び国際レベルで継続的に促進することが必要である。国際組織間の一貫性を強化することも,同様に必要である。この観点から,適切な場合には,他の国際機関により奨励された経済政策の社会的影響を評価するために,雇用と社会に関する権限を有する多国間組織のコンサルテーションへの支援を,我々は改めて表明する。我々は,多面的な問題への対処を要望する国々を支援するための南南協力を含む多国間の協力関係が発展していることを歓迎する。
17. 我々は,労働者と雇用者の組織によるG20雇用労働プロセスへの貢献とインプットを歓迎する。公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言で述べられているように,国内の,そして国境を越えた社会的対話は,問題の解決を達成し,社会的結束と法の支配を構築することに関連する。この観点から,我々は,G20雇用労働大臣会合プロセスの一部として,定例的な社会的パートナーとのコンサルテーションを引き続き行う。
II 若年者雇用の促進{前10文字太字}
18. 近年の経済状況の中で,若年者は長期の失業や不完全就業に取り残される非常に高い危険にさらされている。この状態に長くいればいるほど,仕事を探し,スキルを獲得し維持することが難しくなっている。これは若年者に,長く継続的な影響を及ぼす可能性があり,潜在的に,完全に経済に統合される彼らの能力を弱体化させ,それによって個人と社会の双方に影響を与える可能性がある。これらの問題を重要視し,これに取り組む努力を新たにする。
19. 我々は,労働市場のニーズに適合するスキルと訓練を若年者に提供し,企業に雇われ得る能力,平等な機会,起業及び若年者の雇用創出の改善を促進することにより,若年者に対するコミットメントを強めることに合意する。我々は,適切な場合には,若年者を支援するために,積極的労働市場政策と組み合わされた社会的保護メカニズムを強化する。
我々は,若年者雇用に関する経験の共有と適切な政策行動の特定に関し,雇用に関するG20タスクフォースの働きを承認する。我々は,その勧告〔添付文書参照〕を,政策の策定において考慮に入れ,それぞれの国の状況と必要性に従って採用する。我々は特に以下のことを行う。
・必要な場合に,G20雇用タスクフォースで参照された共通経験と政策の方向性の一群から,一つ以上の手段について,国内的な取組を強化する。
・高いレベルの指導と適切な報酬を確保し,低い賃金で利用されることを防ぐ質の高い実習制度を促進し,必要な場合には強化する。
・学校から仕事への移行を成功させる効果を持つと証明されているプログラムを強化する。
・インターンシップ,OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング),実習制度及び専門経験を促進する。
・実習制度の創設及び実施において経験の共有を促進する。また,実習制度の重要性に対する考えを共有する社会的パートナー間の対話を促すことにより,G20各国間で共通の原則を特定する方法を探求する。
・適切な場合に,キャリアガイダンスや教育を提供するとともに,職業経験を高め,ディーセント・ワークの促進に強く焦点を当てながらスキルの獲得を促すために,他の大臣や他のステークホルダーと協力を続ける。
・若年者の起業を支援する。この支援には,助言や財政的な支援,メンタリング,若年起業家の流動性を促進することを含み得る。
・若年者雇用に取り組もうとする国と協力して,ベスト・プラクティスに基づいた,G20各国によって実施されうる自主的な技術協力プログラムを探求する。これらは二カ国間で実施されるか,適当な場合には,国際機関と共に実施され得る。
・適切な場合に,我々は。ILO,OECD及び他の国際機関が,我々の特別な背景や多様性を考慮に入れながら,G20各国で若年者雇用の状況をより良く理解し,政策の発展のための情報を与えるために,定性的及び定量的なデータの分析を行う目的で,各国の機関と協働することを要求する。
・若年者雇用に関する我々の国内イニシアティブの実施を支援するために,ILO,OECD,他の国際機関及び社会的パートナーと協働する。
III 持続可能な開発の文脈において質の高い雇用を生み出す包括的なグリーン成長{前38文字太字}
21. 持続可能な開発の文脈において,よりグリーンな経済に移行することは,社会的不平等を減少させ,ディーセント・ワークを生み出す機会をもたらす。新しい技術への移行は新しい仕事の創出につながり,必要とされるスキルを現在のスキルから変化させるかもしれない。新しい技術へ成功裏に,公平に移行するためには,各国の現実や背景事情に応じて,より良い労働市場の情報,訓練システムの採用及び労働者のスキル向上のための新しい方法が求められる。それゆえに,経済政策と調和させつつ,包括的なグリーン成長に関連する質の高い雇用創出を進めるためには,省庁間での協力,異なるレベルの政府及び機関を横断する協力,そして社会的パートナーとの協力が,高いレベルで必要である。
22. 積極的労働市場政策は,効果的な求職サービス,十分な労働市場の情報及び訓練機会へのアクセスを提供することにより,労働市場の変化に対応すべきである。公共職業サービス及び他のパートナーは,労働者がグリーン成長による利益を得られるよう,需要と供給を結びつけ,訓練機会についての情報を広め,必要とされるスキルについての概要を提供することにより,重要な役割を果たすべきである。グリーン成長の実施努力に起因する施策により影響を受ける可能性がある人々のために,特に職業上の健康と安全を強調しつつ,ディーセント・ワークを提供する公平な移行が考慮されるべきである。
23. 政府は,包括的なグリーン成長のニーズを満たすために,生産的で組織的なプロセスを採用するよう企業を奨励すべきである。新規及び既存の仕事を提供する最も重要な源としての中小企業が,企業行動の中で労働者を訓練し,スキルアップさせる過程によって,確実にグリーン成長の一部となるために,特別な注意が必要である。適切な方法によるグリーン技術の移転が,適当な場合には,国家間と同様に企業間でも考慮され得る。
24. グリーン成長は,包括的で,貧困撲滅と持続可能な成長に寄与するものであるべきである。社会的対話は,職場,作業組織及び生産手段のグリーン化の促進に貢献するべきである。
25. 我々は,長期の持続可能な開発や,とりわけ若年者及び他の脆弱なグループに対する質の高い雇用創出を促すことになる,来たる国連持続可能な開発に関するリオ+20会議の結果を期待する。
IV 今後の道筋{前7文字太字}
26. 我々は,首脳らの検討に資するよう,この結論文書に含まれている提言とイニシアティブを提案する。要約すれば,我々は,経済成長は,質の高い雇用に基づくべきである,すなわち,フォーマル・セクターにおける仕事で,社会保障,尊厳ある賃金及び労働における権利の完全なる保護が与えられる仕事に基づくべきであると信じる。特に,我々は,長期の経済の持続性を確保するために,若年者及び他の脆弱なグループの雇用を生み出し,学校から仕事への移行を促進する政策を推進する必要性を強調する。我々は,包括的なグリーン成長が,持続的な発展の文脈において,雇用創出とディーセント・ワークの源泉であり,また,新しいスキルの獲得を促進する政策を必要とすることに同意する。最後に,我々は,質の高い雇用は,貧困削減と社会的包括にも寄与することに合意する。
27. 我々は,国レベル及び国際レベルでの成長政策と雇用政策の一貫性及びマクロ経済政策と雇用政策の一貫性を再確認する。したがって,我々は首脳に対し,成長と雇用政策の一貫性の観点から,G20財務大臣と雇用大臣の間の協力の強化を提言する。この観点から,強靱で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20枠組みが,どのように雇用創出に貢献できるかに関して国際機関がまとめる予定の報告書を歓迎する。
28. 我々は,最近の高い若年者の失業は,若年者の当面の悪状況に留まらない問題であることを意味する可能性があり,最近の若年者の高い失業と不完全雇用の水準は,多くの国で国によって決定された社会的保護の床の持続可能性に影響を与える可能性があり,生産性主導の高い成長の持続にとって必要とされるスキルの獲得速度に影響するということについて,我々の首脳が留意することを求める。
29. 我々は,G20雇用タスクフォースによって達成された我々の成果,すなわちベスト・プラクティスの交換,労働市場ニーズに適合するために求められるスキルの改善手段,若者に対する十分な指導手段の重要性や,各国によって決定された社会的保護の床の強化のためのアイディアに関し,首脳の注意を喚起する。
30. G20雇用タスクフォースの前期の貢献を受けて,我々は,2012年11月に現在の権限を全うするG20雇用タスクフォースに対し,若年者に関する課題を調査し続けることを指示する。我々はまた,その調査結果とベスト・プラクティスのフォーラムについてアップデートすることを指示する。我々は,首脳らに対し,更にタスクフォースをもう1年間延長することを支持するよう提言し,またその焦点は,2013年に開催される大臣会合へのインプットを提供するために,議長国ロシアのリーダーシップの下に決定されるべきと考える。
31. 我々は,強靭で持続可能なバランスのとれた成長のためのG20フレームワークと雇用創出の間の関係性の観点から,他の国際機関からのインプットとともに,ILOとOECDによる働きに感謝する。さらに,我々は,会議準備におけるILOとOECDの価値ある支援を評価し,両国際機関に対して,我々の作業への支援を継続するよう求める。
32. 我々は,議長国メキシコの下でのG20期間中の,種々の包括的,多様で建設的な社会的対話の重要性を認識する。この観点から,我々は2012年に開催されているL20及びB20の会合を歓迎する。
33. 我々はまた,次回の2013年の会合が,ロシア連邦を議長国として行われることに合意する。我々は議長国メキシコに対し,そのリーダーシップと導きに感謝する。我々はこれを歓迎し,また,我々はロシアと建設的な作業ができることを期待する。