データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20 ブリスベン・サミット 首脳コミュニケ

[場所] オーストラリア・ブリスベン
[年月日] 2014年11月16日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.世界中の人々に対してより良い生活水準及び質の高い雇用を生み出すために世界の成長を引き上げることは,我々の最優先課題である。我々は,いくつかの主要国において成長がより強固になっていることを歓迎する。一方で,世界的な回復は,鈍く,ばらつきがあり,かつ,必要とされる雇用を生み出していない。需要の不足が世界経済を抑制しており,供給側の制約への対応が潜在的な成長を引き上げるための鍵である。金融市場におけるリスクや地政学的な緊張によるリスクを含めて,リスクは残っている。我々は,成長を引き上げ,経済の強じん性を高め,かつ,グローバルな機関を強化するために連携して取り組むことにコミットする。

2.我々は,これらの課題を克服し,並びに強固で持続可能な,かつ,均衡のある成長を達成し,及び雇用を創出するための取組を強化することを決意している。我々は,良好に機能する市場が繁栄を支えることを認識しつつ,成長及び民間部門の活動を引き上げるために構造改革を実施している。我々は,マクロ経済政策が,成長を支え,需要を強化し,かつ,世界的なリバランスを促進する上で,適切であることを確保する。我々は,引き続き,債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せつつ,短期的な経済状況を勘案し,機動的に財政戦略を実施する。我々の金融政策当局は,そのマンデートと整合的に,必要な場面では,回復を支えデフレ圧力に対処することにコミットしている。我々は,我々の政策が与える世界的な影響に留意し,波及効果に対応するために協力する。我々は,信頼及び回復を支えるためにあらゆる政策的な手段を用いる用意がある。

3.本年,我々は,2018年までにG20全体のGDPを少なくとも追加的に2%引き上げるという野心的な目標を設定した。IMF及びOECDの分析によれば,我々のコミットメントが完全に実施されるならば,GDPを2.1%引き上げる。これにより,世界経済の規模が兆米ドル以上増大し,数百万人の雇用が創出される。投資を引き上げ,貿易及び競争を増加させ,並びに雇用を促進するための我々の措置は,我々のマクロ経済政策と並び,開発及び包摂的な成長を支援し,並びに不平等及び貧困を削減することを助ける。

4.成長を促進し,及び質の高い雇用を創出するための我々の行動は,ブリスベン行動計画及び各国の包括的な成長戦略に示されている。我々は,国際機関の分析による情報提供を受けながら,我々のコミットメントの実施及び成長目標に向けた実際の進捗について監視し,互いに責任を持つ。我々は,我々の成長戦略が,成果を出し続けることを確保するとともに,我々の次回会合において進捗をレビューする。

成長を引き上げ,雇用を創出するための協働

5.世界的な投資及びインフラの不足への対処は,成長,雇用創出及び生産性の引き上げにとって極めて重要である。我々は,公共及び民間の良質のインフラ投資を引き上げるための複数年にわたる作業計画である,グローバル・インフラストラクチャー・イニシアティブを承認する。我々の成長戦略は,公共投資を強化する行動並びに民間部門による新たな投資の資金を呼び込む上で不可欠である,我々の国内投資及び金融環境を改善するための行動を含む主要な投資イニシアィブを含んでいる。我々は,良質な投資,特にインフラへの投資を促進し優先順位付けするための一連の自発的なリーディング・プラクティスについて合意した。我々は,投資家とプロジェクトとを結び付けることを助けるため,データの不足に対処し,また,見込まれるプロジェクトに関する情報を改善する。我々は,機関投資家からの長期の資金供与を容易にするとともに,特に中小企業のための,透明性が確保された証券化を含む市場からの資金源を奨励することに取り組んでいる。我々は,追加的な貸付を提供するためにバランスシートの活用を最適化する国際開発金融機関と協力し続け,各国の開発銀行にもそれを奨励し,及びインフラに関する我々の取組によって低所得国が恩恵を受けることを確保する。

6.このイニシアティブの実施を支援するため,我々は,4年間のマンデートを有するグローバル・インフラストラクチャー・ハブ(GIH)の設立に合意する。このハブは,政府,民間部門,開発銀行及びその他の国際機関の間の知識共有のプラットフォーム及びネットワークの 構築に貢献する。このハブは,インフラ市場の機能及びファイナンスを改善するために,これらグループ間の協働を促進する。

7.開発途上国においてインフラを強化し,また,より多くの民間部門の投資を呼び込むため,我々は,我々の取組を補完する,世界銀行グループによるグローバル・インフラストラクチャー・ファシリティの設立を歓迎する。我々は,他の開発銀行による類似のイニシアティブ 及びそれらの間の継続的な協調を支持する。

8.貿易及び競争は,成長,向上した生活水準及び雇用創出の力強い原動力である。今日の世界において,我々は,完成品のみを取引しているわけではない。我々は,中間財及びサービスを輸出入することによる物づくりのために協働する。我々は,グローバル・バリュー・チェーンを十分に活用するために調整がなされ,かつ,開発途上国のより広範な参加及び価値の付加を奨励する政策を必要とする。我々の成長戦略には,コストの低減,税関手続の簡素化,規制負担の削減及び貿易促進的なサービスの強化により貿易を円滑化するための改革が含まれる。我々は,新規事業参入や投資に対する障壁を下げること等により,競争,起業及びイノベーションを促進している。我々は,保護主義抑止のための,長年にわたるスタンドスティル及びロールバックへのコミットメントを再確認する。

9.投資,貿易及び競争を促進させるための我々の行動は,質の高い雇用を創出する。しかし,我々は,より一層,失業に対処し,参加を増大させ,また,質の高い雇用を創出しなければならない。我々は,1億人以上の女性が労働力となり,世界の成長が大幅に増大し,貧困及び不平等が削減されるよう,各国の事情を考慮に入れて,我々の国々における男女間の労働力率の格差を2025年までに25%減少させるとの目標に合意した。

10.我々は,若者が教育,訓練又は雇用の状態にあることを確保するよう行動することによって,受け入れられないほどの高水準にある若者の失業を減少させることに強くコミットする。我々の雇用計画には,見習い制度,教育及び訓練への投資並びに若者の雇用及び起業を奨励することへのインセンティブが含まれる。我々は,労働市場を強化し,また,適切な社会的保護制度を有することにより,インフォーマル性並びに構造的及び長期的な失業に対処することに焦点を当て続ける。職場の安全及び健康の改善は,優先事項である。我々は,我々の雇用労働大臣に対し,雇用作業部会の支援を受けて,2015年中に我々に対して報告を行うこ とを求める。

11.我々は,貧困の撲滅及び開発並びに我々の行動が低所得国及び開発途上国における包摂的で持続可能な成長に貢献することを確保することにコミットする。我々は,世界平均の送金費用を5%まで削減し,また,金融包摂を強化することを優先事項とする強固で実際的な措置をとることにコミットする。G20食糧安全保障・栄養フレームワークは,フード・システムにおける投資を増加させ,食料供給を拡大するために生産性を向上させ,また,所得及び質の高い雇用を創出することによって,成長を強化する。我々は,野心的なポスト2015年開発アジェンダの策定に向けた国連における取組を支持する。G20は,経済の成長及び強じん性を強化することによって貢献する。

より強固で,より強じんな世界経済の構築

12.世界経済の強じん性及び金融システムの安定性の強化は,成長及び発展を支える上で極めて重要である。我々は,金融危機に対応して我々が行った中核的なコミットメントの重要な面を達成した。銀行の資本及び流動性ポジションを改善し,デリバティブ市場をより安全にするための我々の改革は,金融システムにおけるリスクを低減させる。我々は,グローバル なシステム上重要な銀行に対し,こうした銀行が仮に破たんした際に納税者を一層保護する追加的な損失吸収力を持つよう要求する,別添に示された金融安定理事会(FSB)の提案を歓迎する。シャドーバンキングに係る枠組みの達成に関して進展があり,我々は,更なる取組のために更新されたロードマップを承認する。我々は,銀行とノンバンクとの間のリスク経路を縮小する措置に合意した。しかし,より強固で,より強じんな金融システムを構築するため,決定的に重要な作業は残っている。現下の課題は,新たなリスクに引き続き注意を払 いつつ,我々の政策枠組みの残っている要素を最終化することであり,また,合意した金融規制改革を完全に実施することである。我々は,規制当局に対し,合意されたG20のデリバティブ改革の迅速な実施における更なる具体的な進展の達成を要請する。我々は,国・地域が,サンクトペテルブルク宣言に則り,正当化されるときには,相互の規制に委ねることを奨励する。我々は,これらの改革の実施及び効果について報告するというFSBの計画,FSBの今後の優先事項を歓迎する。我々は,国家債務再編のプロセスの秩序及び予見可能性を強化するためになされた進展を歓迎する。

13.我々は,国際課税システムの公正性を確保し,かつ,各国の歳入ベースを保護するための措置をとる。利益は,利益を生み出す経済活動が行われ,及び価値が創出される場所で,課税されるべきである。我々は,国際課税ルールを現代化するためのG20/OECD税源浸食・利益移転(BEPS)行動計画に関する重要な進展を歓迎する。我々は,有害な税の慣行を構成すると認められる特定の納税者に対するルーリングについての透明性を含め,2015年中にこの作業を取りまとめることにコミットしている。我々は,パテントボックス税制に関する進展を歓迎する。国境を越える脱税を予防するため,我々は,相互主義に基づいた,税に関する情報の自動的な交換(AEOI)のための国際的な共通報告基準を承認する。我々は,所要の法制手続の完了を条件として,2017年又は2018年末までに,相互に及びその他の国との間で自動的情報交換を開始する。我々は,同様に行動するとの金融センターのコミットメントを歓迎し,また,全ての国・地域に対して,我々に加わるよう要請する。我々は,開発途上国が自らの懸念に対処するために,BEPSプロジェクトにより深く関与することを歓迎する。我々は,開発途上国と共に,その税務執行能力を開発し,AEOIを実施するために取り組む。我々は,国境を越える法令遵守活動についての我々の税務当局間の一層の協働を歓迎する。

14.我々は,成長及び強じん性を支援する2015-16年G20腐敗対策行動計画を承認する。我々の行動は,法律上の相互援助の強化,腐敗による収益の回収促進及び腐敗した公務員への安全な逃避先の拒否を含めた協力及びネットワークを構築している。我々は,実質的所有者の透明性に関するG20ハイレベル原則を実施することにより,公共及び民間の部門並びに実質的所有者の透明性を促進することにコミットする。

国際機関の強化

15.G20は,主要な世界経済の課題への対処を支援するための最前線に位置しなければならない。世界経済に関する機関は,効果的であり,代表的であり,かつ,変化する世界経済を反映する必要がある。我々は,FSBにおける新興経済地域の代表の増大及びFSBの実効性を維持するための他の取組を歓迎する。我々は,強固で,クォータを基礎とし,かつ,十分な資金基盤を有する国際通貨基金(IMF)を維持することにコミットする。我々は,サンクトペテルブルクにおけるコミットメントを再確認し,この観点から,我々は,2010年に合意されたIMFクォータ・ガバナンス改革や新たなクォータ計算式を含む第15次クォータ一般見直しの進捗が引き続き遅れていることに深く失望している。2010年改革の実施は,引き続きIMFに対する我々の最優先課題であり,我々は,米国に対し,これらを批准することを強く促す。仮に本年末までにこれが実現しない場合,我々は,IMFに対し,既存の作業を基に,次のステップについての選択肢を用意しておくことを求める。

16.我々は,成長を進め,及び雇用を創出するため,開かれた世界経済における強固な貿易体制を必要とする。企業が貿易協定を最大限活用することを支援するため,我々は,我々の二国間,地域間及び複数国間の協定が相互に補完し,透明性をもち,かつ,世界貿易機関(WTO)のルールの下でのより強固な多角的貿易体制に貢献することを確実にするよう取り組む。これらのルールは,経済的な繁栄を達成してきた世界の貿易体制のバックボーンであり続ける。現在及び将来の課題に対応する強固で,かつ,効果的なWTOは必要不可欠である。我々は,貿易円滑化協定の完全な,かつ,迅速な実施を助け,及び食糧安全保障に関する規定を含む米国とインドとの間で得られた突破口を歓迎する。我々は,バリ・パッケージの全ての要素を実施し,及び交渉を軌道に戻すためのドーハ開発アジェンダの残っている問題に関するWTOの作業計画を迅速に定めることにコミットする。これは,多角的貿易体制における信用 及び信頼を回復するために重要である。我々は,明年会合する際に,その体制をより良く機能させるための方法について議論することに合意した。我々は,引き続き,支援を必要としている開発途上国に対して貿易のための援助を提供する。

17.エネルギーに関する協力の強化は優先事項である。世界のエネルギー市場は著しい変革を遂げている。強固で,かつ,強じんなエネルギー市場は,経済成長にとって極めて重要である。今日,我々は,エネルギー協力に関するG20原則を承認する。我々は,我々のエネルギー大臣に対し,この作業を進めるための選択肢について2015年中に会合し,及び我々に報告することを求める。ガスは,ますます重要なエネルギー源となっており,我々は,ガス市場の機能を改善するために取り組む。

18.エネルギー効率を改善することは,持続可能な成長及び開発並びにエネルギーへのアクセス及びエネルギー安全保障に対して高まる需要への対処の助けとなる費用効率的な方法である。それは,企業及び家計におけるコストを削減する。我々は,エネルギー効率のための資金に関する取組と同様,車両,特に大型車のパフォーマンスの効率性及び排出,ネットワーク機器,建造物,産業プロセス並びに発電に関する新たな取組を含むエネルギー効率に関する任意の協力のための行動計画を承認した。我々は,貧困層を対象とした支援を提供する必要性を認識しつつ,無駄の多い消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し,及び段 階的に廃止するという我々のコミットメントを再確認する。

19.我々は,力強く,かつ,効果的な行動を支持する。我々の行動は,国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及びその合意された成果と整合的に,持続可能な開発,経済成長並びにビジネス及び投資の確実性を支援する。我々は,2015年にパリで行われる第21回締約国会議(COP21)において,UNFCCCの下で全ての締約国に適用される議定書,他の法的文書又は法的効力を有する合意された成果を成功裡に採択するために協働する。我々は,準備ができた締約国に対し,COP21に十分に先立ち(準備ができた締約国は2015年第1四半期までに),自主的に決定する約束の草案を通報するよう奨励する。我々は,緑の気候基金等,適応及び緩和のための資金の動員に対する我々の支持を再確認する。

20.我々は,ギニア,リベリア及びシエラレオネにおけるエボラ出血熱の流行の人道的及び経済的な影響を深く憂慮している。我々は,緊急の,かつ,調整された国際的な対応を支持し,並びにこの危機を抑制し,及びそれに対応するために我々にできる全てのことを行うことにコミットしている。我々は,国際的な金融機関に対し,エボラ出血熱の流行及び中東におけるものを含む他の人道的危機による経済的影響への対処に追われている国を支援するよう要請する。

21.我々は,経済成長を引き上げ,雇用創出を支援し,開発を促進し,かつ,世界の信頼を確立することにコミットすることを引き続き固く決意している。我々は,本年のオーストラリアのリーダーシップに感謝する。我々は,2015年にトルコの議長の下で協働するとともに,2015年11 月15日及び16日にアンタルヤで開催される我々の次回会合において進捗について議論することを期待している。我々は,また,2016年に中国で会合することも期待している。