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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20農業大臣会合閣僚コミュニケ

[場所] イスタンブール
[年月日] 2015年5月7-8日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 我々、G20農業大臣は、2050年までに90億人と想定される世界人口のために、世界の食料安全保障及び栄養の課題に取り組むことをコミットする。我々は、天然資源及び生物多様性に対して強まる圧力並びに気候変動の影響は、我々が経済面、社会面及び環境面の全ての次元においてより持続可能であり、かつ、特に、食品ロス及び廃棄を最小化するようなフードシステムに向けて移行しつつ、生産性を向上させなければならないことを意味していることを強調する。持続可能であり、かつ強靭なフードシステムに対する責任ある投資は、食料供給を増大させるために生産性を向上させるとともに、農村地域において、特に、女性及び若者の所得及び質の高い雇用を増加させるものであり、貧困を削減するとともにG20の包括的な成長のアジェンダに資するものである。我々の首脳は、食料安全保障及び栄養がG20の最優先事項であることを強調するとともに、2014年には「G20食料安全保障及び栄養フレームワーク」を承認した。

2. 食料安全保障及び栄養は、G20メンバー及び非メンバー双方にとっての関心事項である。我々は、G20の食料安全保障及び開発アジェンダと連携し、特に、国家の食料安全保障の文脈における、食料不安と適切な食料への権利の漸進的な実行への障壁の主因となっている貧困と闘っている、開発作業部会(DWG)の取組を評価する。我々は、「G20食料安全保障及び栄養フレームワークの実施計画」案の進展を歓迎する。

3. 我々は、農業及び食料安全保障の分野、特に「2011年の食料価格乱高下及び農業に関する行動計画」における今日までのG20の業績を評価する。この業績には、「農業市場情報システム(AMIS)」、特に「世界農業食料安全保障プログラム(GAFSP)」を通じた持続的な生産性向上への支援、「責任ある農業投資原則(PRAI)」の策定と自発的な実施への支援、毎年の「首席農業研究者会合(MACS)」を通じたイノベーションの促進、「農業リスク管理のためのプラットフォーム(PARM)」、「熱帯農業プラットフォーム(TAP)」などである。これら成功したイニシアティブは、我々が継続して支援する必要があることの根拠となる。AMISは特に成功したイニシアティブである一方、定期的で、信頼でき、正確で、適時で比較可能な情報を公開することによって世界の情報と市場の透明性を実質的に向上させるため、我々は、AMISにおけるより深く強固な協働に専念する。また、「迅速対応フォーラム」が世界の農業及び食料安全保障の諸課題に取り組むことを慫慂する。

4. 十分な栄養は、人材育成、生産性、成長に欠くことのできないものである。我々は、第二回国際栄養会議で採択された「栄養に関するローマ宣言」を再確認する。我々は、任意の「行動枠組み」で提起された政策の選択肢と戦略を歓迎し、政府及びその他関係者に対してそれらを各国の食料及び栄養の戦略に必要に応じて統合することを強く慫慂する。我々は、「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマとする2015年ミラノ国際博覧会と、食料安全保障及び栄養に関する多くの関連行事を歓迎する。

5. 持続可能なフードシステムは、持続的な、生産性の向上と生産の増大を促進し、天然資源をより効率的に利用し、強靭性を増大させ、気候変動枠組条約(UNFCCC)に従った気候変動への取組を支援する。土壌の肥沃度や保水量を改善し、また荒廃した土地を再生させることは、変動する気候において食料安全保障のために農業の生産性を向上するための主要な要素である。持続可能なフードシステムは、食料安全保障や天然資源のより持続的な利用のみならず、特に小規模農家、農村の女性・若者に対し、質の高い仕事を通じた経済的及び社会的機会の促進を支援する。インフラ、灌漑、土壌の保護、開かれた透明性のある市場、技術、知識共有、金融サービスを含む農村サービス、改良普及及び指導サービス、社会保護プログラム、仕事における健康と安全、雇用サービス、職業訓練、教育への責任ある官民の投資を促進させる諸政策の特定・実施のためには、責任ある政府当局間で良好な協調を図ることが必須である。

6. 生産から食品加工及び流通を通じ小売及び消費に至るフードバリューチェーン全体を考慮した、包括的なフードシステム・アプローチが必要である。公的部門の取組に加え、我々は、投資を行う上での、またフードバリューチェーンの生産性、効率性及び持続性を向上させるために必要とされる技術や優良事例の開発を行う上での民間部門の重要な役割を認識し、民間部門と連携した取組に一層努力する。我々は、2014年に世界食料安全保障委員会(CFS)によって承認された任意の「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」や、「農業における投資のためのOECD政策枠組み」といった政策ガイダンスを適切な方法で利用することを慫慂する。

7. フードバリューチェーンの全ての段階における投資は、生産性の向上、雇用と所得創出、食品ロス・廃棄の削減にとっての基礎となるものである。我々は、インフラを含む投資を可能とする国内環境を促進する。また、十分に機能している市場、小規模農家と女性の市場への統合、包摂的な金融制度、土地の権利の保証、社会保護、リスク管理、過度な価格変動の負の影響を制限する措置に資する諸政策も促進する。我々は、2012年にCFSによって承認された「国家の食料安全保障の文脈における土地所有、漁業、森林所有に関する責任あるガバナンスのための任意ガイドライン(VGGT)」や、2014年に承認された「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」の実施を促進させる各国・国際機関による努力を支援する。我々は、FAO、IFAD、UNCTAD、世界銀行グループ、OECDに対して、これらの原則の実践化について、関心国に指針を提供することを求める。

8. 我々は、世界の食料安全保障における多角的貿易システムが果たす基本的役割、ドーハ開発アジェンダを早期に終結させることを目指して進行中のWTO交渉、またナイロビにおける第10回WTO閣僚会合の成功への我々のコミットメントを再確認する。我々は、WHO、FAO、その他関連国際機関に対して、科学的助言及びガイダンスを全ての国に提供するCODEX(コーデックス委員会)やIPPC(国際植物防疫条約)、OIE(国際獣疫事務局)のような標準策定機関の能力向上を継続することを求める。

9. 持続的な農業生産性の向上は、持続可能なフードシステム及び食料安全保障の達成にとって基礎となるものである。G20は、農業生産性の成長を支援するため、過去に多くのイニシアティブに着手した。これらの努力は、適切な場合には強化される必要がある。我々は、フードシステム全体を例えば加工、貯蔵、配送の分野に含めるため、また包括的かつ持続的な農村開発のより広範な文脈において小規模農家や家族農業者を含む脆弱な農業者の特別なニーズを検討するため、それらを適切な方法で拡張することを支持する。MACSは、持続的な生産性の獲得を引き起こす主要な分野において、世界的な研究の優先度を特定する国際的な協働を促進させること、また官民における組織間での協働を促進させることについて重要な役割を担っている。我々は、MACSに対して、これらニーズを考慮し、持続可能な農業及びフードシステムへの移行の支援に特に焦点を当てつつ農業及び食料安全保障の諸問題に関するG20アジェンダの支援方法を提案することを求める。食料安全保障のための気候変動への挑戦として、我々はUNFCCCの取組を支援し、また2015年12月にパリで開催されるCOP21が成果を挙げることを期待する。

10. 生産性の向上は、新たな研究やイノベーション同様に技術の採用とその共有によって促進され得る。我々は、好ましい政策や規制環境、効果的で局地的に適用された技術的な助言と普及事業なしに採用されることはないと認識している。持続可能なフードシステム及び食料安全保障の促進において農業政策が果たす役割について考慮しつつ、我々は、これらの点に関する政策の経験や成功事例について、G20メンバー間のより大きな協力と情報の交換、そして非メンバー諸国との共有を求める。我々は、OECDや他の関係国際機関に対し、持続的な農業の生産性向上のためにG20が開始した枠組みの開発支援を継続することを求める。

11. フードバリューチェーンを通じた食品ロス・廃棄がかなり広範であること、また食料安全保障、栄養、天然資源の使用、環境に対する負の影響があることに我々は大きな関心を持って留意する。我々は、これを経済面、環境面、社会面での極めて重大な世界的な問題として強調し、全てのG20メンバーにこれに対処するための取組を強化することを慫慂する。我々は食品ロス・廃棄の削減はG20の共同行動のための良い目標であり、G20はこの点において、世界的なリーダーシップを発揮できると信じる。我々は、CFSの「食品ロス・廃棄に関する政策勧告」を想起する。政策の整合性に照らして、我々は「G20食料安全保障・栄養フレームワークの実施計画」の一部として、DWGが食品ロス・廃棄を削滅させるための行動を進展させるための取組を継続することを慫慂する。

12. 我々は、食品ロス・廃棄に対処するための具体的な行動が国とフードシステムによって様々である中、行動の優先度は、廃棄された食品を他用途に使用するより、人々に供給するために安全と栄養の予防と回復を基本とするべきと認識する。我々は、各国の事情と市場を基盤としたアプローチを考慮し、フードシステムの効率の向上や食料不安の減少のためにこうした活動の優先度を促進することの重要性を認識する。食品ロス・廃棄を削減させるよりよい目標設定への介入のためには、食品ロス・廃棄の経済的・物理的な規模のよりよい推計とそれらの経済的・社会的・環境的影響及びその基礎的な要因についての共通の理解も必要である。政策インセンティブ、インフラ投資、市場イノベーション、消費者教育、食べられる食品のロスや廃棄分の回収や再分配、ビジネスインセンティブ、民間投資などの食品ロス・廃棄の削減に関する各国の経験を共有することは、この課題に対処する世界的な取組を促進する。

13. G20メンバーが食品ロス・廃棄の削減の進捗を監視できる整合性のある推計を確立するため、G20メンバーが検討できる共通の定義及び計測の枠組みには価値がある。我々は、「食品ロス・廃棄に関する国際イニシアティブ(Save Food)」に留意し、IFPRIや他の関係する国際機関と共にFAOに対して、既存システムを基にして、食品ロス・廃棄の計測や削減における情報と経験の共有のためのプラットフォームの構築を求める。このプラットフォームは、G20メンバー及びその他の国々の経験を含み、また、低所得開発途上国に焦点を当てるべきである。

14. 我々は、農業次官級がDWGと協働して、本日の会合の結果とDWGの実施計画の勧告をアンタルヤ首脳会議における検討のために、「食料安全保障/持続可能なフードシステムに関するG20行動計画」にまとめることを要請する。これは、G20メンバーと低所得開発途上国の両者にとって関係するものである。