データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 食料安全保障と持続可能なフードシステムに係るG20行動計画

[場所] アンタルヤ
[年月日] 2015年11月16日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 我々,G20のリーダーは,世界の食料安全保障,栄養及びフードシステムの持続可能性を改善するという課題に取り組むことにコミットする。過半数の開発途上国が,飢餓で苦しむ人々の割合を半減させるというミレニアム開発目標のターゲットを達成したが,国連食糧農業機関は,未だに7億9500万人の人々が栄養不足であると推計している。2050年までに推定97億人とされる世界人口を養うためには,世界の食料供給を60パーセント増加する必要がある。我々は,天然資源への増大する圧力と気候変動の影響に直面する中,食料安全保障及び栄養を改善するためには,より持続可能で強靱なフードシステムを構築すると同時に,生産性を向上させる必要があることを認識する。

2. 我々は,G20が食料安全保障と栄養を改善するための国際的な取組を強化し,持続可能な開発目標の達成に貢献することができると信じている。生産性を向上し,環境的,経済的,社会的に持続可能で,質の高い多様な食事を支えるフードシステムを目指す必要性の観点から,我々は,ブリスベン・サミットで承認した「G20食料安全保障・栄養フレームワーク」の重要性を再確認する。我々は,フードシステムにおける責任ある投資を増加させること,フードシステムにおける所得と質の高い雇用を増加させること,食料供給を拡大させるために持続可能な形で生産性を増加させること,という同フレームワークにおける3つの目的を改めて表明する。

3. 我々は,生産性の向上及び持続可能なフードシステムを達成するための最良の方法に関する農業大臣の意見と提言をまとめたコミュニケを承認する。我々はまた,G20食料安全保障・栄養フレームワークの「実施計画」の中で提示された,優先すべき行動を承認する。この「食料安全保障と持続可能なフードシステムに関するG20行動計画」の中で,我々は,G20の比較優位を最もよく反映し,G20食料安全保障・栄養フレームワークの優先目標の達成に大きく貢献すると我々が信じる,重要な行動にコミットする。それらは,G20のメンバー国と低所得開発途上国(LIDCs)の双方に関係し,小規模農家や家族農業者,農村の女性や若者のニーズに特に注意を払うものである。我々は,関連する進行中のG20のイニシアチブへの支援を改めて表明し,2011年の「食料価格乱高下及び農業に関する行動計画」の実行への我々のコミットメントを再確認する。

農業及びフードシステムにおける責任ある投資の促進

4. 我々は,より高い生産性,包摂的な成長,貧困削減,そして食料安全保障及び栄養の改善につながり,経済的,社会的,環境的に持続可能である,農業及びフードシステムにおける責任ある投資を促進するための取組を強化する。我々はまた,世界農業食料安全保障プログラムを支援し続ける。フードバリューチェーンへの全般的な投資は,生産性と生産量を向上させ,適正な職業と所得を生み出し,食料の損失・廃棄を削減するという我々の目標にとって重要である。我々は,公的部門に加えて,小規模農家や彼らの組織を含む民間部門が,これらの投資を行い,フードバリューチェーンにおける生産性,効率性及び持続可能性を高めるために必要な技術とグッド・プラクティスを発展させる上で必要不可欠であることを認識する。我々は,共通の目標を追求するために,民間部門と共に効率的に取り組む努力を強化する。

5. 農業及びフードシステムにおける責任ある投資を促進していくためには,メカニズムと手段が必要である。G20は,世界食料安全保障委員会によって承認された,「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」及び「国家の食料安全保障の文脈における土地,漁業,森林の保有に関する責任あるガバナンスのための任意ガイドライン」の策定を支援した。我々は,FAO,IFAD,UNCTAD,世界銀行グループ,ILO,OECDに対して,これらの原則の運用についてG20や他の関心のある国々に対して,指針を提供するよう要求する。

6. 我々は,責任ある投資への支援にあたっては,機能的な市場,オープンでルールに基づいた多角的貿易体制,包摂的な金融機関,保証された土地所有,社会的保護,リスク管理,そして過度な価格乱高下の悪影響を制限する措置につながる,インフラや政策も含めた環境整備も必要であることを認識する。我々は,世界の食料安全保障におけるルールに基づいた多角的貿易体制の重要な役割と,ドーハ開発アジェンダを速やかにまとめるという観点から,進行中のWTO交渉へのコミットメントを再確認する。

食料安全保障のための市場の透明性の改善

7. 我々は,農業市場のデータと透明性を更に改善していく。G20の農業市場情報システム(AMIS)は,透明性を改善し,協調性を欠いて不安定化を招く政策行動の危険性を減少させることによって,国際農業商品市場における大きな予期せぬ価格変動の可能性を減少させるメカニズムを成功裡に立証した。我々は,AMISの進行中の取組を支援すると共に,規則的で信頼でき,正確で,時宜にかなった比較可能なデータを公開することによって,世界的なデータと市場の透明性を実質的に改善し,迅速対応フォーラムに対して,世界の食料市場における政策的な課題に取り組むよう奨励するために,より深く強力に協調することをコミットする。

人材育成支援

8. 労働への女性の参画を増大させ,若者の失業を削減するためのG20能力戦略とG20目標を基に,我々は,訓練と能力開発を通じて,特に小規模農家や女性と若者にとってのフードシステムの雇用及び起業機会を支援する。改善された食料安全保障及び栄養は,包摂的な経済成長と,特に女性と若者にとっての雇用創出,そして社会的保護のメカニズムを必要とする。我々は,農業と持続可能なフードシステムが,女性と若者にとってより良い暮らしの機会を提供でき,また将来の農業生産を拡大することができると信じている。

9. 訓練プログラム,能力開発,そして小規模農家,女性,若者の生産資源へのアクセス改善のためには,特別な努力が必要である。我々は,能力予測・マッチング,徒弟制度及び仕事と結びついた研修方針,そして生産資産へのアクセス改善についての成功経験を共有するために,南南協力・三角協力を含む

メカニズムを探求する。我々は,適切な栄養が人間開発の必要条件であることを認め,社会的保護と

セーフティネットプログラムの重要性を強調する。我々は,栄養に配慮した社会的保護の分野における最も効果的な政策とプログラムのベストプラクティスの普及を強化し,対等な立場での協力への支援,関連する国際的,地域的なイベントの促進,既存のプラットフォームと知識ハブの推進を通じて,開発途上国間での経験や教訓の情報交換を強化する。

持続可能な生産性向上の促進

10. 我々は,成功した政策,技術,手法の知識を共有し,それらの適応と採用を奨励することなども通じて,特に小規模農家にとっての持続可能な生産性向上を支援し続ける。農業生産性の向上は持続可能性と密接に連携したものでなければならない。既存のG20のイニシアチブの中には,協力を促進し,研究結果と政策経験を共有することによって,生産性と生産量を増加させることを目的とするものもある。我々は,それらの有効性を高める努力を奨励する。我々は,首席農業研究者会議が,生産性の向上と持続可能なフードシステムを達成するという目的により沿ったものとなるようにする。

11. 我々は,既存の技術革新及び新しい研究・技術の両方を採用することによって,農業の生産性を増加させることの重要性を強調する。我々は,助言,普及,そして農業技術革新システムにおける政策経験や成功手法を共有するために,G20のメンバー国間及び低所得開発途上国(LIDCs)との間において,更なる協力と情報交換を求める。

食料の損失・廃棄の削減

12. 我々は,世界的に食料の損失・廃棄を削減することにコミットする。我々は,食用のために生産された

食料の3分の1が失われ,廃棄されており,食料安全保障,栄養,天然資源の利用及び環境に悪影響をもたらしていることを,懸念を持って留意する。これは,経済的,環境的,社会的に非常に重要な地球規模の問題である。我々は,適切な手段が国ごとによって異なることを認識すると同時に,安全で栄養があるにも関わらず,従来は廃棄されている食料について,人々を養うために,廃棄されることなく回収し,再配分することを優先する。我々は,食料の損失・廃棄の測定及び削減における情報と経験を共有するため,既存のプラットフォームを基礎にし,G20のメンバー国と低所得開発途上国(LIDCs)の双方に関係する,技術的プラットフォーム創設の決定を歓迎するとともに,可及的速やかな関連国際機関による効果的運用を要求する。

13. 改善された食料安全保障及び栄養,そしてより持続可能なフードシステムは,地球規模の優先課題である。我々は,我々がここで提唱する行動が肯定的な結果をもたらし,包摂的な成長に貢献することができると信じている。我々は,それらの実現にコミットし,既存のメカニズムを通じて進捗を管理する。我々は,我々が特定した行動への積極的参加を確保するために,関連する国際機関と共に取り組み続ける。