データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

[場所] バーデン=バーデン,ドイツ
[年月日] 2017年3月18日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.我々の会合は、世界経済の回復が進捗する中で行われた。しかし、成長は依然として望ましいペースよりも弱く、世界経済の下方リスクが残存している。我々は、国際的な経済・金融協力へのコミットメントを再確認する。我々は、経済、金融の強靭性を高めつつ、強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長という我々の目標を達成するため、全ての政策手段-金融、財政及び構造政策-を個別にまた総合的に用いるという我々の決意を再確認する。金融政策は引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に経済活動と物価の安定を支える。しかしながら、金融政策のみでは均衡ある成長に繋がらない。財政政策は、債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保しつつ、機動的に実施し、成長に配慮したものにし、質の高い投資を優先し、機会を提供し包摂性を促進する改革を支持するべきである。我々は、構造改革と財政政策が我々共通の成長目標を支える重要な構成要素であることを強調し、「強化された構造改革アジェンダ」に沿って、各国の状況に応じた政策オプションを引き続き模索する。我々は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する。我々は、為替市場に関して緊密に協議する。我々は、通貨の競争的な切り下げを回避することや競争力のために為替レートを目標とはしないことを含む、我々の以前の為替相場のコミットメントを再確認する。我々は、政策に関する不確実性を軽減し、負の波及効果を最小化し、透明性を向上させるために、マクロ経済及び構造問題に関する我々の政策行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う。我々は、我々の経済に対する貿易の貢献の強化に取り組んでいる。我々は、経済成長の追求に当たって、過度の世界的な不均衡を縮小し、更なる包摂性及び公正を促進し、格差を削減するために努力する。我々は、経済の強靱性を強化する一連の原則に合意する。この原則は、ハンブルク行動計画の下でのG20諸国の成長戦略の更新において考慮される、メニューを提供する。我々は、フレームワーク作業部会における包摂的成長に関する作業に留意する。

2.我々は、アフリカ連合の「アジェンダ2063」に沿った、持続可能かつ包摂的な成長を推進するため、アフリカ諸国との国際的な経済・金融協力を深化、拡大させる。我々は、インフラを含む民間投資の促進を目的とする「アフリカとのコンパクト」(CwA)というイニシアティブを立ち上げた。このイニシアティブは、需要主導であり、各国の状況や優先順位を尊重する。このイニシアティブは、個別に策定される投資コンパクトの中で利用できる、グッド・プラクティス及び手段のモジュールを提供する。こうした投資コンパクトは、個々のアフリカ諸国、国際金融機関及び二国間のパートナー等の複数のステークホルダーのコミットメントを通じて実行される。我々は、アフリカ開発銀行、IMF、世界銀行グループによるレポート及びその他のコンパクトへの貢献者を歓迎する。我々は、コートジボワール、モロッコ、ルワンダ、セネガル、チュニジア、アフリカ開発銀行、IMF、世界銀行グループ及び関心のある二国間パートナーが投資コンパクトに取り組み、強固な投資環境を構築する意向であることを歓迎する。我々は、提供された投資機会を民間セクターが活用することを奨励し、その他のアフリカ諸国、国際機関及び二国間パートナーが投資コンパクトに参加することを奨励する。我々は、この作業の継続と他のイニシアティブとの一貫性を支持する。

3.我々は、国際金融アーキテクチャを、また強固で、クォータを基盤とし、かつ、十分な資金基盤を有するIMFを中心としたグローバル金融セーフティーネットを、更に強化していくことに引き続きコミットする。我々は、IMFの貸出手段の実効性をそのマンデートに沿ってさらに向上させるための、IMFによる、新たな手段の可能性を含む取組を支持する。我々は、新たな計算式を含む、第15次クォータ一般見直しを2019年春会合まで、遅くとも2019年年次総会までに完了させることに取り組んでいる。我々は、それぞれのマンデートを反映した、IMFと地域金融取極(RFA)のより効率的な連携を達成するための努力を継続する。債務持続性を確保するために、我々は、債務者、及び債権者の共通の責任を反映した「持続可能な貸付に係る実務指針」を歓迎する。「GDP連動債の羅針盤」は、GDP連動債の重要な点を概観する。不足する公的資源と、持続可能な経済発展に向けた民間部門の主要な役割を踏まえ、我々は国際開発金融機関(MDBs)による民間資本を動員するための作業を歓迎する。我々は、MDBsに対して、次の会合までに「共同原則」を最終化し、2017年7月の首脳サミットまでに「民間資金動員のための目標」を策定するよう求める。我々は、2017年7月の首脳サミットまでに「MDBsバランスシート最適化に関するG20行動計画」及び「インフラ投資を支援する行動に関する意図のMDBsによる共同表明」及び「グローバル・インフラ連結性アライアンス」のアップデートの実施に関する、MDBsの共同レポートを期待する。我々は、これらのイニシアティブを支持する更なる措置を講じるようMDBsに求める。我々は、

「マクロ経済の脆弱性に直面した国が資金を要望する場合の、IMFとMDBsの効果的な協調に関する原則」を歓迎する。我々は、とりわけ、脆弱国家への支援を倍増し、民間部門の発展を強調する第18次国際開発協会増資(IDA18)を歓迎する。

4.我々は、資本フローの監視及び資本フローの過大な変動に起因するリスクの管理を引き続き強化する一方で、開かれた資本市場、及び国際資本フローを支えるシステムを改善していくことの重要性及び恩恵を認識する。この目標を支持するため、我々は、IMFや他の国際金融機関の、マクロプルーデンス政策を含む、この分野での更なる取り組みに期待する。OECDに加盟していない、いくつかのG20諸国が、OECD資本自由化コードに参加する意図を表明し、既に本年から遵守のための手続きを進めている。OECD資本自由化コードの現在の強度や広範な範囲を維持しつつ、我々は、その適切な柔軟性に関する作業を含む、現在行われているコードの見直しを歓迎する。コードをまだ遵守していないG20諸国は、各国の状況に配慮した上で、現在行われているコード見直しに自主的に参加し、コードを遵守することを検討するよう奨励されている。

5.開かれた、強靭な金融システムは、持続可能な成長と発展を支えるために極めて重要である。このため、我々は、合意されたG20金融セクター改革の課題の、適時、完全かつ整合的な実施及び最終化を支持するというコミットメントを再確認する。我々は、資産運用業の活動がもたらす構造的な脆弱性に対応するFSB(金融安定理事会)の政策提言を支持するとともに、IOSCO(証券監督者国際機構)に対して、提言を適時に運用に移すための具体的な措置を策定することを求め、FSBに対して、2017年7月の首脳サミットまでに、この作業の進捗を報告することを求める。我々は、シャドー・バンキングあるいはその他の市場型金融活動に関連するものを含め、金融システムにおいて生じつつあるリスク、特にシステミックなリスク、及び脆弱性を引き続きしっかりと監視し、必要に応じ対処する。我々は、FSBに対して、2017年7月の首脳サミットまでに、シャドー・バンキングによるそのようなリスクに対処するための利用可能な監視・政策手段の十分性と、政策上の更なる注目が必要か否かの評価を提示することを求める。我々はまた、店頭デリバティブ市場に対する改革の実施と影響に関するFSBによる包括的なレビューを期待するとともに、店頭デリバティブ改革の完全、適時かつ整合的な実施の完了を、まだ行っていないG20メンバー国に対し、要請する。我々は、中央清算機関(CCPs)の強靭性、再建及び破綻処理可能性を向上させるためのガイダンスの策定に向けた、CPMI(決済・市場インフラ委員会)、IOSCO及びFSBによる進捗を歓迎するとともに、2017年7月の首脳サミットまでの公表、及び必要に応じた追加の作業の計画を期待する。我々は、公平な競争条件を促進しつつ、銀行セクターにおける資本賦課の全体水準を更に大きく引き上げることなくバーゼルⅢの枠組みを最終化するためのバーゼル銀行監督委員会(BCBS)の作業に対する支持を確認する。我々は、金融セクターにおける不正行為リスクに対処するための作業計画における進捗の重要性を再確認するとともに、2017年7月の首脳サミットまでに、FSBから報告を受けることを期待する。我々は、重大で意図せざるいかなる結果にも対処すること等により、我々の全体的な目的との整合性を確保するため、改革の実施と影響に対する監視を引き続き向上させる。我々は、FSBの第3回年次報告を期待する。我々はまた、G20金融規制改革の実施後の影響の評価のための構造的な枠組みを策定するためのFSBによる作業を歓迎するとともに、その枠組みの主要な要素に関する市中協議が早期に実施された後に、2017年7月の首脳サミットまでにその枠組みが提示され、公表されることを期待する。我々は「G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則の実施を評価するためのOECDメソドロジー」を歓迎する。

6.我々は、潜在的なリスクを適切に管理する一方で、デジタルイノベーションがもたらす利益や機会を享受することを確保するため、全ての国が、それぞれの国内で、かつFSBや他の国際機関や基準設定主体と協力し、クロスボーダーの問題の検討を含め、デジタル金融の状況をしっかりと監視することを奨励する。我々は、技術的に可能となった金融イノベーション(FinTech)と関連する金融安定の観点からの主要な規制上の課題の特定に関するFSBの作業を歓迎する。

7.情報通信技術(ICT)の悪意のある利用は、各国及び国際金融システムにとって極めて重要である金融サービスを混乱させ、セキュリティと信頼を損ない、金融安定を脅かしうる。我々は、G20以外の国からのものも含め、ICTの悪意ある利用に対するG20メンバー国における金融サービスと金融機関の強靭性を向上させる。我々の国境を越えた協力を強化することを目的として、我々は、FSBに対して、効果的な慣行を特定する等のための第一歩として、我々の国・地域内における既存の関連する公表されている規制や監督上の慣行、及び既存の国際的なガイダンスに関する現状調査を実施することを求める。FSBは、2017年7月の首脳サミットまでにこの作業の進捗を報告するとともに、2017年10月までに現状調査に関する報告書を提出すべきである。

8.我々は、金融包摂、特に、脆弱なグループの金融包摂、及び持続可能なグローバル・バリュー・チェーンへの中小企業の参加を進めるための、金融包摂のためのグローバル・パートナーシップ(GPFI)の作業を支持する。我々は、更新された「G20金融包摂作業計画」において、デジタル金融包摂の機会と課題が十分にカバーされることを奨励する。我々は、G20メンバー国及び非メンバー国が「デジタル金融包摂に関するG20ハイレベル原則」の実施に向けた措置を取ることを奨励する。デジタル世界における金融市場の高度化や金融商品へのアクセスの増加を踏まえ、我々は、金融リテラシー及び消費者保護の向上の重要性を強調し、関連するOECD/INFEの作業を歓迎する。我々は、「G20中小企業金融行動計画」の実施における進展を歓迎するとともに、非メンバー国がこの取組に参加することを引き続き奨励しつつ、中小企業金融環境の改善における更なる大きな進展にコミットする。

9.我々は、世界規模で公正かつ現代的な国際課税システムのための取組を続ける。我々は、

「税源浸食と利益移転(BEPS)」パッケージの適時の、一貫した、広範な実施に引き続きコミットし、「BEPS包摂的枠組み」への参加の拡大を歓迎し、関係・関心のある全ての国・法域に参加を奨励する。我々は、OECDが2017年7月のG20サミットまでに、4つのミニマム・スタンダード全てを含むBEPS実施の進捗について報告することを求める。我々は、2017年6月7日の「BEPS防止に向けた租税条約に関する措置実施のための多数国間条約」の第1回署名式と、2017年9月から開始するOECDの共通報告基準(CRS)に基づいた金融口座情報の初回の自動的交換に期待する。我々は、全ての法域に対し税務行政執行共助条約に署名し、これを批准するよう求め、共通報告基準の実施に未だコミットしていない金融センターを含む全ての関係法域が遅滞なく実施しコミットすること、及び、遅くとも2018年9月から共通報告基準に基づく交換を開始するための国内法制の導入を含む必要な全ての行動をとることを求める。さらに、OECDが、2017年7月のG20サミットまでに、税の透明性に関して合意された国際的基準の、満足のいく水準での実施に向けて十分な進捗が見られない法域のリストを準備することを期待する。リストに載った地域に対しては、防御的措置が検討される。我々は、特に「アディス税イニシアティブ」の原則に従った、開発途上国の税の能力構築に係る的を絞った支援、及び、2017年半ばまでにその進捗状況が示される「税に関する協働のためのプラットフォーム」による作業を引き続き支持する。

10.我々は、成長志向の租税政策についての国際協調を歓迎し、OECD及びIMFによる税と包摂的な成長、及び税の安定性に関する作業を歓迎する。我々は、我々は税の安定性についての報告書が提出されたことを認識し、各法域に対して、報告書の中で提案されている、税の安定性強化のための実用的な手法を自発的に検討することを奨励する。それらの手法は、国内法制の枠組と国際租税条約において実施される紛争防止や紛争解決についての手法を含む。我々は、OECDとIMFに対して、税の安定性向上に関する進捗を2018年中に評価することを求める。我々は、BEPSプロジェクトの一環として、OECD電子経済タスクフォースにおいて、電子化が課税にもたらす影響についての議論を実施してきた。我々は,電子経済タスクフォースを通じて、この課題について更なる作業を行い、2018年のIMF/世界銀行春季会合までに中間報告することを求める。

11.我々の腐敗、租税回避、テロ資金供与及びマネーロンダリングへの戦いの重要な手段として、我々は、国際基準の効果的な実施を通じた法人及び法的取極めの透明性、及び国内及び国際的場面における実質的所有者情報の入手可能性を一層向上させる。この点、我々は、金融活動作業部会(FATF)と「税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム」の作業を歓迎する。我々は、実質的所有者に関する補完的な租税分野における取組について、2017年7月の首脳サミットまでにOECDからの進捗報告を期待する。

12.我々は、送金、金融包摂、貿易及び開放性を支えるため、コルレス銀行の減少を評価し対処するための、FSBが調整する行動計画における進捗報告書及び2017年の作業計画を歓迎する。我々は、送金サービスの提供も支援する、FATFによる「コルレス銀行業務に関するガイダンス」の公表を歓迎する。我々は、必要に応じて、規制期待の明確化に向けた更なる作業に期待する。送金をめぐる環境を更に改善させるため、我々は、送金コストを低下させうる取組と施策の促進を含む、送金の促進に関するGPFIによる進捗を支持する。更に、我々は、民間部門との対話において、銀行サービスへのアクセスを含む、送金業者に関連するあらゆる具体的課題を明確化させ、その取組につき2017年7月までに我々に報告するためのFATF、FSB及びGPFIによる共同の取組を歓迎する。我々はまた、国際機関を含む全ての関連するステークホルダーに対して、とりわけ技術支援を通じて、送金とコルレス銀行をめぐる監督環境を改善するための国内の能力構築における各国への支援を引き続き実施することを求める。

13.我々は、テロ資金供与のすべての資金源、技術及びチャネルに対処していくという我々のコミットメント、並びに世界的規模でFATF基準を速やかかつ効果的に実施することの我々の要請を再確認する。我々は現在行われているFATFの組織的な基盤、ガバナンス及び

能力を強化するための作業を歓迎、支持するとともに、FATFに対し、2017年7月の首脳会合までに、FATFメンバーによる作業のアップデートを求める。我々は、全てのメンバー国に対し、FATFがそのマンデートを効果的に果たすために必要なリソースと支援を得ることを確保するよう要請する。

14.我々は、貧困層を支援する必要性を認識しつつ、中期的に、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金を合理化し、及び段階的に廃止するというコミットメントを再確認する。更に、我々は、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の各国間のレビューを、まだ開始していない全てのG20諸国ができるだけ早期に開始するよう奨励する。

15.我々は、経済及び金融統計に関する当局間グループ(IAG)による、細粒データの共有と利用可能性のための勧告を歓迎する。我々は、2017年10月のワシントンD.C.での我々の会合までに、データギャップイニシアティブの全体的な進捗に関するFSBとIMFによる共同報告書を期待している。我々はまた、IMFの既存のインフラに基づき、公的に利用可能なマクロプルーデンス政策データベースを作成することにより情報共有を促進するための、IMFがFSB及びBISと協議をしつつ行う作業を歓迎する。

(以上)