データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジファイナンス強化の重要性に関するG20共通理解

[場所] 福岡
[年月日] 2019年6月6日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.背景

 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は、持続可能で包摂的な成長の礎である。全ての人々が経済的困難を伴うことなく必要な質の高い保健サービスを享受することを確保するUHCの推進は、健康状態の向上を通じ、人的資源の開発に貢献する。これは、雇用創出の促進 、家計負担の軽減、貧困の削減、経済的包摂の促進、健康安全保障の強化、ひいてはマクロ経済の安定につながる。

 しかしながら、大きな課題が残されている。多くの途上国は、不十分な国内資金動員、保健分野での非協調的な開発援助、非効率かつ不公正な保健システム、といった複数の課題に加え、自国の保健財政制度の将来的な安定性に関する新たな課題に直面している。例えば、(1)非感染性疾患、人口の高齢化、技術の進歩に伴うコスト圧力の上昇、(2) 労働者の非正規から正規経済への移行の遅れ、(3)パンデミックや薬剤耐性(AMR)といった公衆衛生上の緊急事態が挙げられる。

 このような背景から、我々は、以下に示される説明文とともに、ここにUHC推進に向けた保健ファイナンス強化の重要性にかかる共通理解を示す。なお、この文書の文言は、各国の状況や優先事項を踏まえ解釈される必要がある。我々は世界銀行による貴重な背景資料の作成に感謝する。

2.財務当局が主に考慮すべき点

経済発展の早期段階にUHCを推進することの重要性と将来への備え/

 経済発展の早い段階におけるUHCに向けた前進は、長期にわたる持続可能で包摂的な経済成長のための強固な基盤を構築する。これは、将来的な人口高齢化に備えた政策余地の創出と強じん性の構築とともに、人口ボーナス享受の可能性に伴いうる。さらに、政府は、変化する各国の状況に適応していくことの重要性についても認識すべきである。

公平かつ公正な国内資金の優先的活用

税、保険料、

 一部自己負担のような国内資金は、長期的に安定した財源であるため、保健システムの主要財源となるべきである。各国政府は、自国の状況に従い、国内財源の最適な構成を自ら決定すべきである。政府は、必要に応じ歳入を動員するための能力強化を通じ、広範で多様な歳入ベースの確立を追求することができる。政府はまた、利用者が自己負担への依存により経済的困窮に陥らないことを担保したうえで、公平で均衡の取れたリスク負担を目指すことが推奨される。一部自己負担は、保健サービスへのアクセスに与えうる悪影響を最小化した上で実施されうる。また、国内財源に係る制度の設計にあたっては、貧困層及び脆弱層の家計負担の軽減を確保する取組の一環として、十分な財源を得るための財政余地と累進性を考慮すべきである。

国内資金を補完する形での国外資金の活用

 国外資金は、被援助国自身では対処できない分野に対処するために戦略的に動員されうる。開発援助戦略を被援助国内の保健財政及び開発ニーズに調和させるには、パートナーシップの仕組みや協調プラットフォームが有用である。一方で、国の発展に伴い、外的資金から国内資金への転換が段階的に進められるべきである。

費用対効果が高く公平な保健システム

 競合するニーズの優先順位付け、有用性の低い支出の抑制、技術の活用の促進、健康増進や予防を含む不可欠な保健サービスへの投資を通じ、政府は保健制度の費用対効果を改善すべきである。同時に、予防接種や必要な医薬品へのアクセスを含む質の高いプライマリー・ヘルス・ケアサービスが全ての人にアクセス可能であるよう担保することも重要である。適切な場合には、科学的に証明された伝統的な医療及び補完医療についても、UHCに包含し得る。

公衆衛生上の緊急事態に対する備えと対応

 保健財政制度は、WHOの国際保健規則(2005)に従って、公衆衛生上の緊急事態に対する備えを有したうえで、国内的、地域的及び世界的な健康安全保障に貢献するものであるべきである。国内の緊急対策費とともに、WHOの緊急対応基金や世界銀行のパンデミック緊急ファシリティ(PEF)のような外的資金を、公衆衛生上の緊急事態に対する迅速な対応を支援するために活用しうる。

制度的な能力の構築

 適時かつ効果的な財源の徴収や支出の割当てのため、組織的な能力の開発は重要である。さらに、政府は、プライマリー・ヘルス・ケアサービスと中核的な公衆衛生機能の両方について十分な投資を確保すべきである。これらは、正規部門と非正規部門の双方をカバーする健全な制度を通じて可能となる。加えて、保健従事者とサービス提供者の能力構築も必要となる。

民間部門の貢献

 多くの国は、民間の保健サービス提供者、金融機関、及び市民社会をUHC戦略の中に組み込んでいる。民間部門の関与は、保健サービスの提供や保健財政についての開発プログラムに対する重要な貢献となりうる。質の管理、並びに規制、ガバナンス、及び監視のメカニズムは政府が制度化すべきである一方で、非国家主体もこれに貢献しうる。市民社会主体との連携は、説明責任と透明性を向上させ、貧困層や社会的に取り残された人々の医療アクセス向上につながる。

財務省の役割と保健当局との連携

 我々は、効率性の改善と公共財政管理の強化のため、財政当局と保健当局の連携を中心に、政府一体での取組や多分野にわたるアプローチが重要であると考える。保健省は、質が高く、財政的に持続可能で、公平で、包摂的な保健政策の設計に責任を有するが、この 使命は保健省のみでは達成することはできない。財務当局も、保健制度に関する財源の設計と確保に共同責任を有する。特に、人口動態の変化や技術発展により生ずるコスト圧力を十分に考慮したうえで、財政の持続可能性と広範なカバレッジのバランスをとる必要がある。財務省と保健省双方の知見の融合は、UHC推進に向けた我々のグローバルな取組を加速するであろう。