データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20貿易・デジタル経済大臣会合閣僚声明

[場所] 
[年月日] 2019年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 我々、G20貿易大臣及びデジタル経済大臣は、2019年6月8日及び9日、G20の貿易及びデジタル経済政策に係る協力を更に強化するため、世耕弘成経済産業大臣閣下、石田真敏総務大臣閣下及び河野太郎外務大臣閣下を議長として、日本国茨城県つくば市において会合した。

2. G20貿易・デジタル経済大臣会合には、全てのG20構成国並びに招待国である2019年APEC議長国のチリ、アフリカ連合代表のエジプト、エストニア(デジタル経済セッションにのみ参加)、オランダ、ナイジェリア(貿易セッションにのみ参加)、NEPAD代表のセネガル、シンガポール、スペイン及びベトナムが集まった。国際機関*1*も会合に参加した。

3. 我々は、グローバルな成長のための我々の共通の目標を達成するため、一層努力することの必要性を議論した。国際貿易及び投資は、成長、生産性、イノベーション、雇用創出及び開発のための重要なエンジンであり続けなければならない。

4. 革新的なデジタル技術は、莫大な経済的機会をもたらし続けている。同時に、それらは挑戦も創出し続けている。

5. 貿易大臣とデジタル経済大臣の両方が初めて一堂に会した本会合は、貿易とデジタル経済との間のインターフェイスに関する我々の理解を深める機会を提供した。

6. 我々は、各国のニーズ、優先課題や状況を考慮しながら、貿易及び投資とともに、デジタル技術を最大限に利用し、並びにデジタル転換及びグローバル化の便益を確保することにより、持続可能で革新的なグローバル社会の実現に向けていかに協働することができるかについて議論した。

I. デジタル経済

1. 概要:人間中心の未来社会

7. 我々、G20デジタル経済閣僚は、デジタル経済の発展による利益を最大化するとともに、課題を最小化し、発展途上国及び少数派の集団に特に配意しながら課題を克服するため、どのようにデジタル政策を策定し、推進することができるかについて議論した。

8. G20は、2016年の杭州サミットの過程で、中国の議長下でデジタル経済に関する政策議論を開始し、G20構成国がデジタル経済、イノベーション及び新産業革命に関する包括的な議論を行った。ドイツは、初のG20デジタル経済閣僚会合を設置し、デジタル経済に関するG20ロードマップと閣僚宣言によってデジタル政策に関する包括的な展望を作成した。2018年、アルゼンチンはG20デジタル政策レポジトリを創設することに加えて、電子政府、デジタルの男女格差、インフラ整備及びデジタル経済の計測に焦点を当てた。デジタル経済閣僚は、新興技術やオンラインプラットフォームのような新しいビジネスモデルの市場への影響と、公正で、予測可能で、透明で、競争的かつ非差別的なビジネス環境を推進する必要性のさらなる理解に向けた継続的な作業が不可欠であることを記した宣言を公表した。

9. これらの議論を再確認し、包摂的、持続可能、安全であり、信頼できるとともに革新的な社会をデジタル化によってどのように実現するかについての意見を交換した。我々は、日本においてソサエティ5.0として推進されている人間中心の未来社会の概念を共有する。ソサエティ5.0は、発展した社会を実現するために、日本政府によって推進されている人間中心の未来社会のビジョンであり、現実世界と仮想世界のますますの融合を通じて、持続可能な開発目標(SDGs)に向け前進することによって、経済的成長と社会課題の解決を実現するものである。

10. デジタル化は我々の経済及び社会全体に対して、利益を生み出し続けることが期待される。人工知能(AI)や第5世代移動通信システム(5G)、モノのインターネット(IoT)、分散型台帳技術(例ブロックチェーン)といった新興技術の利用により向上した生産性によりもたらされる利益は、新たな機会を創出することで全ての個人及び企業に力を与えるとともに、新たなサービスや雇用を創出し、個人及び企業の一層の幸福や更なる包摂性に結びつく。

11. デジタル化は、社会に利益をもたらす非常に大きな潜在能力を有している一方で、一定の懸念も引き起こす。デジタル格差は、革新的技術を広く採用・活用することを可能にするエビデンスに基づく政策アプローチ及びデジタル経済の計測を改善する取組へのコミットメントによって対処されるべきである。我々は、デジタル化によってもたらされる利益を活用するとともに、それに伴う課題を軽減するために、デジタル経済における信頼を促進するよう協働すべきである。

12. G20は自由、オープン及び安全なインターネットを推進し、暴力過激主義及びテロリスト目的のためのインターネットの利用と戦うことへのコミットメントを再確認し、デジタル産業が全てのステークホルダーと協働してインターネット及びソーシャルメディアの暴力過激主義及びテロリスト目的のためのインターネットの利用と戦うことを奨励する。

13. 我々は、公平性、公正性、透明性及び説明責任の確保をはじめとする、国際経済や相互運用性を考慮に入れた共通の価値や原則を共有することを通じ、政府、市民社会、国際機関、学術界、産業界を含むすべてのステークホルダー間の信頼の上にデジタル社会が成り立たなければならないとの見解を共有する。我々は、G20デジタル経済マルチステークホルダー会議で得られた見解に注目し、2019年11月末にベルリンで開催される第14回国連インターネット・ガバナンス・フォーラム及び2020年3月末にジュネーブで開催されるWSISでのマルチステークホルダーの議論に期待している。

14. 過去のコミットメントや成果の上に、以下の取組を通じ、我々の経済及び社会のデジタル化による利益を最大化して共有するために、我々G20閣僚は、国内の経験及び国際的な政策を促進することにコミットする。

2. データフリーフローウィズトラスト(信頼性のある自由なデータ流通)

15. 我々は、杭州、デュッセルドルフ及びサルタにおけるコミットメントを再確認しつつ、デジタル化が、我々に包摂的で持続可能な経済成長を促進する機会をもたらすという理解を共有した。デジタル化はまた、社会的及び文化的な進歩と発展を促し、イノベーションを促進し、個人及び零細企業、中小企業を含む産業界が新興技術とデータから裨益する能力を与える。

16. データ、情報、アイデア及び知識の越境流通は、生産性の向上、イノベーションの増大、より良い持続的発展をもたらす。同時に、我々は、データの自由な流通が一定の課題を提起することを認識する。プライバシー、データ保護、知的財産権、セキュリティに関する課題に引き続き対処することにより、さらにデータの自由な流通を促進し、消費者及びビジネスの信頼を強化することができる。信頼を構築し、データの自由な流通を促進するためには、国内的及び国際的な法的枠組みの双方が尊重されることが必要である。このようなデータフリーフローウィズトラスト(信頼性のある自由なデータ流通)は、デジタル経済の機会を活かすものである。我々は、異なる枠組みの相互運用性を促進するために協力するとともに、開発に果たすデータの役割を確認する。

3. 人間中心の人工知能(AI)

17. 政府、国際機関、学術界、市民社会、民間部門を含む全てのステークホルダーがそれぞれの役割においてこれまで行ってきた取組を認識し、技術がどのようにして社会にインパクトを与えるかに配意しつつ、G20は、デジタル分野における起業、研究開発及びこの分野でのスタートアップの拡大及び不釣り合いに高いコストに直面する中小零細企業(MSMEs)によるAIの導入に特に焦点を当てつつ、イノベーションと投資が推進される人間中心のAIの実現環境を提供するよう努める。

18. 我々は、AI技術が、包摂的な経済成長を促進し、社会に大きな恩恵をもたらし、個人に力を与えることを助けることができる点を認識する。AIの責任ある利用は、広範な社会の価値観を損なうリスクを軽減し、SDGsに向けた進歩を助け、持続可能で包摂的な社会を実現する原動力となり得る。AIの責任ある利用によってもたらされる利益は、労働環境と生活の質を改善し、女性と女児及び社会的弱者を含む全ての人に機会を与える人間中心の未来社会を実現する可能性を生み出すことができる。

19. 同時に、我々は、AIが他の新興技術と同様に、労働市場の変化、プライバシー、セキュリティ、倫理的問題、新たなデジタル格差及びAIに関する人材育成の必要性を含む社会的課題を提起し得ることも認識する。AI技術への人々の信頼と信用を醸成し、その潜在能力を十分に引き出すために、我々は、OECDAI勧告から引用され、Annexに添付されている非拘束式のG20AI原則によって導かれるAIへの人間中心のアプローチにコミットする。このAnnexには、「包摂的な成長、持続可能な開発及び幸福」「人間中心の価値観及び公平性」「透明性及び説明可能性」「頑健性、セキュリティ及び安全性」「アカウンタビリティ」が含まれる。また、Annexは、国際協力及びリスクを抱える発展途上国や少数派の集団の包摂性に特に注意を払いつつ、リスクと懸念を最小化しながら、AIの恩恵を最大化し共有することを目的として、政策立案者のためのガイダンスを提供する。

20. 人間中心のAIの追求にあたり、G20構成国は、既存の枠組みに沿ったプライバシー及び個人データの保護を促し続けることの必要性を認識している。G20はまた、AIに関する人材育成及び技能開発を促進する必要性についても認識している。我々はそれぞれ国際的な協力に継続的に努めるとともに、研究開発、政策の発展及びG20デジタル政策レポジトリやその他の協調的な取組を通じた情報共有といった分野で適切な会合を用いて協働する。

4. ガバナンスイノベーション - デジタル経済の機動的で柔軟な政策アプローチ ‑

21. 我々は、今までと比較してよりイノベーションを生み出しやすい政策立案のアプローチから、新たな技術の可能性を最大限に利用するという利益が得られることを認識する。我々は、デジタル技術の可能性を実体化するためのイノベーションが起こりやすい政策を目指して努力するとともに、それに応じてイノベーションに対する障害を取り除くことを指向する。

22. 例えば規制のサンドボックスなどを通じて、すでに様々な国が、より柔軟で、総体的であるとともに機動的である政策アプローチを意図したプロセスを進めつつあることを我々は認識する。政策、規制、あるいは規制的制約の除去が、経済成長とともに、途上国や零細中小企業の包摂的な発展に貢献し、これを加速することができる。

23. デジタル時代のガバナンスは、法的な確実性を損なわないようにしつつも、イノベーションにつながりやすいものであるだけでなく、それ自体が革新的である必要がある。相互運用が可能な基準や枠組み、あるいは規制の協力はその一助となるものである。関連する全てのステークホルダーが個々の役割に応じて参加する国際的、国内的な政策立案は、広範な社会課題に対処し、技術をどのようにして政策ツールに統合していくかという検討を促進する手段となるものである。

24. 我々は、よりよい政策アプローチを採用して、技術的なイノベーションに導くため、アルゼンチン議長の下で設置されたG20デジタル政策レポジトリの活用も含め、G20構成国の間で優良事例を共有することを支持する。また、我々は、関係する国際機関における作業を認識する。

5.デジタル経済におけるセキュリティ

25. デジタル経済におけるセキュリティは、デジタル技術やデジタル経済全体における人々の信用を強化するために不可欠である。我々は、セキュリティギャップや脆弱性に対処するために、それぞれの役割の中における政府やその他のステークホルダーの重要性を認識する。これらは、デジタルイノベーションや消費者及び産業界による信頼に負のインパクトを与え、そのため、我々がデジタル化の利益を最大限に享受することを妨げる。デジタル経済におけるセキュリティは、政府が自らのサービスを提供する際にも重要である。

26. IoTを含む新興技術の急速な広がりとともに、デジタル経済におけるセキュリティについての現在の議論の価値は高まっている。我々、G20構成国は、これらの緊急の課題への更なる取組の必要性を認識する。

 デジタル経済におけるセキュリティの世界的な観点とともに、ローカル化されカスタマイズされたセキュリティの枠組みや方法論を発展させる必要性を認識する。オープン性、透明性、コンセンサスの原則に基づく、産業主導及び市場主導の世界的な技術標準が相互運用性を生み出す助けとなる。これらは、世界的なデジタル経済の利益を実現するために不可欠である信頼を促進する。

27. 我々は、デジタル経済におけるセキュリティを向上させる取組の重要性について、理解を高める必要性を認識している。これらの課題についてさらに議論するため、民間や技術コミュニティ、市民社会、関係する国際機関をはじめとするステークホルダーの果たす役割について認識している。我々は、デジタル経済におけるセキュリティについて既存の権限の中で取り組む国際機関やデジタル経済におけるセキュリティの取組について留意する。

6. SDGsと包摂性

[デジタル格差への取組及びデジタル化の促進]

28. デジタルインフラ

 我々は、改善された接続性及びブロードバンドアクセスがデジタル経済の発展に必要な条件であると同時に、包摂的な成長と持続可能な開発の強力な実現要因であることを認識している。それゆえ、我々は光ファイバケーブルや5Gその他の超高速接続技術、より多くの個人が光ファイバにより接続できるようにするための光ファイバインフラの拡大及び冗長性の確保を含む国内及び国際的なデジタル接続インフラへの投資の促進を目的とした取組を支援している。投資を促進し、公正かつ競争的であり、非差別的な市場を推進し、接続及びデジタルサービスのアクセスしやすさ、購入しやすさ、品質及び安全性を高め、デジタル経済成長へのアクセスを向上させる適切な政策アプローチの妥当性を認識する。我々は、2025年までに全ての人々によるインターネットへの普遍的かつ手頃な価格でのアクセスを推進するというG20共通の目標を奨励している。G20構成国は、特に貧困撲滅と遠隔教育に焦点を当て、地方の繁栄を推進するために、地方での接続を推進するよう奨励している。

29. デジタルリテラシー

 今日のデジタル格差は技術へのアクセスに関するものだけではなく、それを使用するための適切なスキルと知識に関するものも含まれる。消費者本位のデジタル環境創出だけでなく適切なスキルと知識を持つことは、人々が個人生活や職業生活のためにデジタル化の恩恵を受ける能力に直接影響を与える。我々は、G20構成国が、脆弱な集団及び労働市場の変化に特に焦点を当ててデジタルリテラシー戦略を推進することを奨励する。

30. デジタルの男女格差の解消

 我々は、デジタルリテラシーのためのスキル開発や、デジタルアクセスの向上及び特にデジタルの男女格差に配意したデジタル技術の採用といった方法でデジタル格差を解消することの重要性を再確認するとともに、ブリスベンでG20構成国がコミットした25by25のゴールに向けた取組とともに、ドイツ及びアルゼンチンの議長国下のDETFで議論されたように地方に住む人々へ貢献することを再確認する。EQUALSとG20#eSkills4girlsイニシアチブの継続的な支援により、我々は、デジタル経済における女性と女児の参加が、より強い経済成長、イノベーション、包摂性を支え、社会的幸福を高めることを再確認する。我々は更に、性別ごとに分類されたデータを測定し追跡するための枠組みの開発すること等を通じ、G20構成国がデジタルの男女格差を解消する行動をとること、女性に対する虐待やオンライン上の危険な行動に対処しつつ、女性のデジタルネットワークへのアクセスを増やすために努力すること、女性及び女児のSTEM(科学、技術、エンジニアリング、数学)への参加を強化すること、デジタルビジネスにおける女性の起業を支援すること、並びに既存のパートナーシップや枠組みと協働することを奨励する。技術はすべての人にとってアクセス可能であるべきである。G20は既存のG20デジタル経済測定のためのツールキットを使用して、デジタルにおける女性参画の指標を追加する。

31. 中小零細企業(MSMEs)と起業家の包摂性

中小零細企業と起業家は、イノベーションとデジタル経済の重要な推進力である。リープフロッグ技術を使用することを含め、中小零細企業がデジタル経済に積極的に参加できるような促進的な環境は、包摂的で持続可能な社会を構築するのに役立つ。G20は、デジタル起業の推進と拡大に関する慣行を交換し共有することを奨励する。

32. あらゆる年齢層の人々/障害者のための包摂的な設計

人々がデジタル技術を利用するためのより高いスキルを開発するというアプローチに加え、我々は、デジタル技術がユーザーフレンドリーで人間中心であるべきであり、障害者、高齢者又は低いデジタルスキルを持つ人々を含む様々な集団が使用できるように設計されるべきであることを認識する。例えば、センサーやVUI(音声ユーザーインターフェース)などの新しいデジタルインターフェースの使用が障害者や高齢者の包摂に役立つ可能性がある。

33. 産業のデジタルトランスフォーメーション

デジタル化は、様々な分野で経済成長と社会発展に貢献し得る。世界経済において最も重要な産業の一つである製造業は、よりデジタル化され、ネットワーク化され、インテリジェントになっている。G20は、製造業部門を含めたすべての部門の、非常に質の高い包摂的な発展の推進を視野に入れて、デジタル産業政策についてグッドプラクティスや経験を共有し、世界的に好ましい環境を創造するため行動する。

34. スマートシティ

世界の人口とエネルギー消費の大部分が集中する都市地域の持続的かつ包摂的な成長に貢献するため、G20は、B20及びU20から勧告のあった、スマートシティ開発に向けた都市間のネットワーク化と経験共有を奨励する。スマートシティの導入にあたっては、透明性、強靭性、プライバシー、セキュリティ、効率性及び相互運用性が考慮されるべきである。関心を表明する都市及び都市のネットワークは、10月の設立が提案されている「グローバル・スマートシティ・コアリション(Global Smart City Coalition)」に参加することができる。G20は、6月29日の大阪での開催が計画されている、来る「スーパーシティ・スマートシティフォーラム」に留意する。

[デジタル化を通じたSDGs達成に向けた行動の計画]

35. 持続可能な開発のための2030アジェンダに関するG20行動計画の実施に貢献し、デジタル化の恩恵を世界規模で共有し、誰も取り残さないために、我々は、社会問題の解決において、グッドプラクティスや自身の経験から習得した教訓を、G20デジタル政策レポジトリを通じて共有するよう努力する。

36. 我々は、グッドプラクティスや共有された知識を活用することで、全てのステークホルダーがそれぞれの役割において協働し、発展途上国及び地域並びに世界規模でデジタル化を推進することを奨励する。この目的のために、全てのG20構成国と関心のある国は、どのようにグッドプラクティスと知識を活用し、発展途上国や地域におけるSDGsに向けた取組の前進を含むデジタル化に向けた努力を協調し、協力し、支援するための行動を起こすかについて議論することが要請される。我々は、デジタルガバナンスは、繁栄、社会的包摂、そして環境の持続可能性を、測定可能な結果と結びつけるための不可欠な手段であると考える。我々は、「SDGsロードマップのための開発、科学、技術、及びイノベーションの開発のための基本理念」についての開発作業部会の作業に留意する。我々は、SDGs推進の原動力として、世界中での能力構築にコミットする。

37. この知識共有の活動は、既存の権限及び能力の範囲内で世界銀行及びその他の国際機関に支援され、関心のあるG20構成国及びその他の国によって管理される。

7. 今後の進め方

38. 我々は、人間中心の未来社会に向けた取組を継続するとともに、デジタル社会のグローバルに包摂的な発展のため、包摂的なデジタル経済ビジネスモデルを含めたデジタル化におけるグッドプラクティスと経験の共有を、全ての関心国とステークホルダーとともに、継続して取り組むことの重要性を引き続き強調する。

39. G20の過程におけるG20エンゲージメントグループとその他の市民社会のグループの、G20における役割と貢献を認識する。APT、ERIA、IMF、ITU、OECD、UNCTAD、世界銀行、WTOをはじめとする国際機関による、専門的な知見のG20のDETFにおける貢献に感謝し、デジタル経済の正のインパクトを最大化するための国際機関の取組を歓迎する。

II. 貿易

1.貿易面での進展に関する対話

40. 我々、G20貿易大臣は、現在の貿易環境について意見交換を行った。我々は、貿易及び投資の拡大が将来の広範囲にわたる経済的繁栄と持続可能な成長を促進する上で重要な要因となることに同意する。

41. 我々は、貿易及び投資の成長が2018年に減速し、これが2019年及び2020年の世界成長見通しを以前の予測よりも弱める一因となっていることに留意する。2020年において成長は増加することが予想されている一方で、現在の貿易環境から生じる下方リスクが成長を鈍化させる可能性がある。

42. 我々は、昨年マル・デル・プラタでコミットしたように、リスクを緩和し、輸出業者及び投資家の間での信頼を高めるための対話を継続した。我々は、貿易上の緊張に対応し、互恵的な貿易関係を醸成する必要性を確認した。

43. 我々は、市場を開かれたものとするため、自由で公平かつ無差別で、透明性があり、

予測可能で安定的な貿易及び投資環境を実現するために努力する。

44. 国際貿易は、生産性、イノベーション、雇用創出及び開発のために重要である。我々は、世界貿易機関(WTO)がこの目的のために行ってきた貢献を認識する。我々は、WTOの機能を改善するために行動が必要であることに同意する。我々は、多角的貿易体制を支持し続けることへのビジネス界からG20に対する要請を認識する。

2. 市場主導の投資決定を促進する健全なビジネス環境

45. 我々は、特に世界経済が一層統合されてきている中で、幾つかの分野における構造的な問題が否定的な影響を及ぼし得ることを再確認する。我々は、公平な競争条件を確保し、ビジネスをしやすくする環境を醸成するために努力する。

46. 多くのG20構成国は、産業補助金についての国際的な規律を強化する必要性を確認し、及び農業に影響を及ぼす貿易の規律を改善するための現在進行中の国際的な努力を歓迎する。我々の多くは、農業補助金及び農業の市場アクセスについて強調した。

47. 我々は、投資のための、開かれた、透明性があり、かつ、これを促す世界的な政策環境を醸成するため、開かれた、無差別で、透明性があり、かつ、予測可能な投資のための条件を改善することの価値を認識する。

3. 持続可能で包摂的な成長に貢献する貿易及び投資の促進

48. 貿易及び投資は、広範囲にわたる持続可能な世界的成長、包摂性、貧困削減及び持続可能な経済発展に貢献してきた。特に、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)は、貿易、投資及び開発を形成する助けとなる世界経済の重要な特徴である。

49. 貿易及び投資の利益は、全ての国や社会の全ての構成員、特に脆弱な人々には十分広く共有されてきていないという認識がある。我々は、貿易の利益を高め、参加を広める必要がある。また、貿易及び投資の効果を一層良く理解し、それらの利益を市民たちに一層良く伝え、及びそれらの課題に対処する必要性を確認する。

50. 我々は、女性、若者、零細・中小企業(MSMEs)等といった、国際貿易から十分な恩恵を受けてこなかったグループが国際貿易の機会を捉えることを支援しつつ、その参加を促進し、円滑化し、拡大すべきである。我々は、ますます有意義な方法で、GVCへの開発途上国及びMSMEsの一層の参加が可能となることを追求し続ける。この文脈で、我々は、農業食料GVCへの参加と価値の増加を支援するG20の貿易及び投資政策決定のオプションの鍵となる要素に関する昨年の議論を想起する。

51. 我々は、ビジネス部門の声として「B20東京サミット共同提言「持続可能な開発目標(SDGs)のためのソサエティ5.0」に留意する一方で、これらの提案に対する国内の異なる見方を認識する。

52. 我々はまた、民間部門からの見方を反映し、かつ、責任あるビジネス上の行動を通じてSDGsの達成に共に貢献するために努力を強化するとの世界的企業の意図を反映する「ビジネス自主行動計画」がB20で採択されたことに留意する。

53. 我々は、G20の各構成国による異なった個別のアプローチを認めつつ、お互いの経験から学ぶことを目的とし、貿易及び投資を通じて広範でかつ持続可能な成長と包摂性に貢献するビジネス及び政策の事例に関する情報を共有する。また、我々は、売り手、買い手及び社会に利益がある「三方よし」の理念の重要性に留意する。

4. WTO改革並びに二国間及び地域貿易協定における最近の進展

54. 我々は、G20ブエノスアイレス首脳宣言を基礎として、第12回WTO閣僚会議に向けた取組を含め、切迫感を持って必要なWTO改革に着手するため、他のWTO加盟国と共に建設的に取り組んでいく。

55. 我々は、WTO加盟国の貿易関連政策が透明であることの重要性を認識する。我々は、この目的を考慮に入れて、透明性と通報の改革に関する進行中のイニシアティブに留意する。我々は、既存の通報義務を果たすことへのコミットメントを確認する。

56. 我々はまた、WTOの機能を一層効果的にするため、WTOの通常委員会及び機関の活動を強化するための進行中のイニシアティブに留意する。

57. 我々は、機会を創出し、及び様々な課題に対処する上でのWTOの役割の重要性を確認する。我々は、第11回WTO閣僚会議(MC11)におけるマンデートに基づき、漁業補助金に関する包括的で実効的な規律に合意するための取組への支持を改めて表明する。我々はまた、WTOのルールを更新するために進行中の幾つかのイニシアティブに留意する。

58. 我々は、電子商取引に関する作業計画の重要性を再確認する。

59. 我々は、電子商取引に関する共同声明イニシアティブに基づき進行中の議論に留意する。

60. WTOでのそれぞれの共同声明イニシアティブの参加加盟国は、現在進行中の議論を歓迎し、進展を得ることにコミットすることを確認する。

61. 我々は、デジタル化の便益を世界全体で共有するため、発展途上国を含め、ICTに焦点を当てたインフラへの投資を向上し、デジタル経済への途上国の参加を促進する必要性があることを認識する。我々はまた、女性、若者及びMSMEsがデジタル化の恩恵を一層享受するためのキャパシティビルディングの必要性を認識する。このため、我々は、貿易及びデジタル経済の潜在力を活用し、拡大するための努力を継続していく。

62. 我々は、WTOと整合的な二国間及び地域の自由貿易協定の補完的役割を認識する。

63. 我々は、WTO加盟国によって交渉されたルールと整合的な紛争解決制度の機能に関し、行動が必要であることに同意する。

III. 貿易とデジタル経済のインターフェイス

64. 我々、G20貿易大臣及びデジタル経済大臣は、貿易や商業分野を含む我々の社会と経済におけるデジタル化の影響が増大していることを認識し、ブエノスアイレス首脳宣言に従って貿易とデジタル経済との間のインターフェイスの重要性を再確認する。我々は、貿易とデジタル経済との間のインターフェイスについての関連する課題について意見交換を行った。

65. 我々は、信頼性のある自由なデータの流通に関する概念、電子商取引に関するWTOでの議論、キャパシティビルディングの必要性を含む様々な課題について、全ての国がこれらの機会を実現できることを確保する重要性を念頭に置きつつ、意見を交換した。経済や社会のあらゆる側面を変革し、並びに経済成長、雇用創出、包摂性、開発及びイノベーションに貢献し得るデジタル化の利益を高めることを目的として、議論は継続されるべきである。

IV. 大阪サミットに向けて

66. 我々は、貿易及びデジタル経済の分野におけるG20の協力を深める観点から、首脳に対し、大阪サミットにおいてこれらの重要な項目を検討することを共に推奨する。



ANNEX

G20 AI原則

 G20は以下のセクション1の信頼できるAIのための責任あるスチュワードシップに関する原則を支持し、セクション2の勧告について留意する。

1. 信頼できるAIのための責任あるスチュワードシップに関する原則

1.1 包摂的な成長、持続可能な開発及び幸福ステークホルダーは、人間の能力の増強や創造性の向上、少数派の包摂の促進、経済・社会・性別などにおける不平等の改善、自然環境の保護を通じ、包摂的な成長、持続可能な開発及び幸福の活性化のような人々と地球にとって有益な結果を追求することにより、信頼できるAIのための責任あるスチュワードシップに積極的に取り組むべきである。

1.2 人間中心の価値観及び公平性

a)AIのアクターは、AIシステムのライフサイクルを通じ、法の支配、人権及び民主主義的な価値観を尊重すべきである。これらには、自由や尊厳、自主自律、プライバシーとデータの保護、無差別と平等、多様性、公平性、社会正義、国際的に認知された労働権が含まれる。

b)このため、AIのアクターは、人間による最終的な意思決定の余地を残しておくことなど、状況に適

した形で且つ技術の水準を踏まえたメカニズムとセーフガードを実装すべきである。

1.3 透明性及び説明可能性

AIのアクターはAIシステムに関する透明性と責任ある開示に取り組むべきである。このため、AIのアクターは下記の目的で、状況に適した形で且つ技術の水準を踏まえた有意義な情報提供を行うべきである:

i. AIシステムに関する一般的な理解を深めること。

ii. 職場におけるものを含め、AIシステムの関与をステークホルダーに認識してもらうこと。

iii. AIシステムに影響される者がそれから生じた結果を理解できるようにすること。

iv. 要因に関する明快且つ分かりやすい情報、並びに予測、勧告あるいは判断の根拠となった論理に基づいて、AIシステムから悪影響を受けた者がそれによって生じた結果に対して反論することができるようにすること。

1.4 頑健性、セキュリティ及び安全性

a)AIシステムは、通常の使用や予見可能な使用及び誤用あるいはその他の悪条件下においても正常に機能するとともに、不合理な安全リスクをもたらすことがないよう、そのライフサイクル全体にわたって頑健且つセキュリティが高く、安全なものであるべきである。

b)このため、AIシステムの出力に関する分析と問合せに対する対応を可能とするため、AIのアクターは、データセットやプロセス、AIシステムがそのライフサイクルに行った決定に関することも含め、状況に適した形で且つ技術の水準を踏まえたトレーサビリティを確保すべきである。

c)AIのアクターは、その役割や状況、能力に基づき、系統化されたリスク管理のアプローチをAIシステムのライフスタイルの各段階に適用することにより、プライバシーやセキュリティ、安全性、バイアスといったAIシステムに関するリスクに絶え間なく対処していくべきである。

1.5 アカウンタビリティ

AIのアクターは、その役割と状況に基づき、また、技術の水準を踏まえた形で、AIシステムが適正に機能していることと上記の原則を順守していることについて、アカウンタビリティを果たせるようにすべきである。


2. 信頼できるAIのための国内政策と国際協力

2.1 AIの研究開発への投資

a)信頼できるAIの実現に向けたイノベーションを促進するため、各国政府は、学際的な取組を含め、技術的に困難な課題やAIの社会的・法的・倫理的な影響と政策課題に焦点を当てた調査研究及び研究開発について、長期的な公共投資を検討し、また民間投資を奨励すべきである。

b)また、各国政府は、不適切なバイアスがなく、相互運用性と技術標準の利用を増進するため、十分な代表性を有し、且つプライバシーとデータの保護を順守する開かれたデータセットについて、公共投資を検討し、また民間投資を奨励すべきである。

2.2 AIのためのデジタル・エコシステムの整備

各国政府は、信頼できるAIのためのデジタル・エコシステムとそれへのアクセスを整備すべきである。このエコシステムには、デジタル・テクノロジーとデジタルインフラ、必要に応じてAI知識を共有するためのメカニズムが含まれる。これに関連し、各国政府は、データ・トラストのような、安全、公平、適法且つ倫理的にデータを共有するためのメカニズムに対する支援を検討すべきである。

2.3 AIを推進するための政策環境の整備

a)各国政府は、信頼できるAIシステムが研究開発の段階から展開・稼働の段階への迅速な移行を支援するための政策環境を整備すべきである。このため、政府は必要に応じてAIシステムの実験と拡張のための制御された環境下での実証実験の活用を検討すべきである。

b)各国政府は、信頼できるAIの実現に向けたイノベーションと競争を奨励するため、必要に応じ、AIシステムに適用される政策及び規制の枠組みやその評価メカニズムの見直しと改正を行うべきである。

2.4 人材育成及び労働市場の変化への準備

a)各国政府は、仕事の世界と社会全体の変化に備えるためにステークホルダーと緊密に協働すべきである。政府は人々に必要なスキルを習得させるなどして、人々が広い範囲で適用されるAIシステムを効果的に利用し、それとうまく関わることができるようにすべきである。

b)各国政府は、就労期間を通じたトレーニング・プログラムや離職を余儀なくされた者への支援、労働市場における新たな機会へのアクセスなどを通じ、AIの普及がもたらす労働市場の変化が労働者にとって公平なものであるよう万全を期すため、社会的な対話などの措置を講じていくべきである。

c)各国政府はまた、職場におけるAIの責任ある利用の推進、労働者の安全及び仕事の質の向上、起業家精神と生産性の向上、AIの恩恵の幅広く且つ公平な共有が確保されるようにするため、ステークホルダーと密接に協働すべきである。

2.5 国際協力

a)開発途上国を含め、各国政府は、ステークホルダーとともに、これらの原則を推進し、信頼できる

AIのための責任あるスチュワードシップを促進するために積極的に協力すべきである。

b)各国政府は、必要に応じてOECDやその他の世界的及び地域的な国際場裏において、AI知識の共有を推進するために協働すべきである。政府はAIに関する長期的な専門知識を蓄積するために、国際的且つ分野横断的であり、マルチステークホルダーによる開放的な取組みを奨励すべきである。

c)各国政府は、相互運用性があり、且つ信頼できるAIの実現のため、マルチステークホルダーの合意に基づく世界的な技術基準の開発を推進すべきである。

d)各国政府はさらに、AIの研究開発や展開を測定すると共に、これらの原則の履行の状況を評価する際に根拠となる証拠を収集するため、国際的に比較可能な測定基準の開発とその利用を奨励すべきである。


{*1* 国際機関: APT(デジタル経済)ERIA、IMF、ITC(貿易)、ITU(デジタル経済)、OECD、UNCTAD、世界銀行及びWTO}