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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 質の高いインフラ投資に関するG20原則

[場所] 福岡
[年月日] 2019年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

序文

 インフラストラクチャー(インフラ)は、経済的繁栄の原動力であり、G20の鍵となる目標である、強固で、持続可能で、均衡ある、包摂的な成長と、持続可能な開発のための強固な基盤となるものであって、かつ、グローバル・国家・地域の開発プライオリティを推進していく上で決定的に重要なものである。それにもかかわらず、新規インフラ、既存インフラの双方に関し、世界は依然として莫大な投資資金のギャップに直面している。これは、経済成長及び開発、安定し信頼できる公共サービスの提供にとって深刻な足枷になりうるものである。こうした文脈で、G20はインフラ投資の規模を拡大させる必要性を強調してきた。2018年に首脳たちにより支持された「インフラを投資対象とするためのロードマップ」のように、民間資金の一層の動員に向けた具体的な方策を見出す努力がなされてきた。

 G20はまた、2016年杭州サミットでの首脳コミュニケや「ロードマップ」を含め、質の高いインフラ投資の重要性を強調してきた。インフラにおいては、量と質は補完的な関係になりうる。これまでG20議長国は、とりわけ民間部門や、国際開発金融機関(MDBs)を含む機関を通じた資金など、様々な資金源からの資金の動員に努力してきた。質の高いインフラ投資を改めて強調することは、こうしたこれまでのG20議長国の努力を礎として、インフラ・ギャップの縮小、インフラの投資対象資産としての育成、及び、国毎の条件に基づくインフラ投資の正のインパクトの最大化に貢献するものである。

質の高いインフラ投資の促進に向けた原則

 この文書は、質の高いインフラ投資のために我々が共有する戦略的方向性と志を示す、任意で拘束性のない一連の原則を提示するものである。

原則1:持続可能な成長や開発の達成のための、インフラによる正のインパクトの最大化

1.1 経済活動の好循環の実現

 質の高いインフラ投資を追求する狙いは、財政の健全性を確保しつつ、インフラがもたらす経済、環境、社会及び開発面における正のインパクトを最大化し、経済活動の好循環を創出することにある。こうした経済の好循環は様々な形をとりうる。インフラの建設、運営、維持管理の期間を通じ、新たな雇用が創出される一方、インフラの正の波及効果は、経済を刺激し、雇用の一層の需要をもたらす。先進技術やノウハウは、自発的かつ相互に合意した条件で移転されうる。これらは、資源のより良い配分や、能力強化、技能の向上、そして生産性の向上を地元経済にもたらしうる。こうした推進力は、経済の潜在成長力を高め、投資家の裾野を広げ、一層の民間投資を呼び込み、経済のファンダメンタルズの一層の改善をもたらす。このことは、貿易や投資、経済発展を促進する。投資によって期待されるこれら全ての効果は、プロジェクトの設計や計画時に考慮されるべきものである。

1.2 持続可能な開発や連結性の促進

 インフラ投資は、経済、環境、社会、ガバナンスの側面を考慮に入れるべきである。また、インフラ投資は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や国・地方の開発戦略、関連する国際公約と整合的な形で、地球に対する長期的な視点に基づく共有された責任感と、幅広い協議や共同努力、便益の共有の精神によって導かれるべきである。インフラの設備やサービスは、持続可能な開発を中核に据えるべきであり、また、広範に利用可能で、アクセス可能で、包摂的で、あらゆる人々にとって有益である必要がある。経済活動の好循環は、インフラへのアクセスの向上を通じて、また、国家間の合意に基づいた国家的・地域的・グローバルなインフラの連結性の向上を通じて、一層確かなものとなろう。国内資金動員は、インフラに係る資金ギャップを解決する上で決定的に重要である。途上国に対するプロジェクト組成などにおける能力強化への支援が、国際機関の参加を伴いつつ、途上国に対して提供されることが必要である。質の高いインフラ投資はまた、個別の国々の条件に適合し、また、合わせて、地元の法規制と整合的なものとなることが必要である。

原則2:ライフサイクルコストを考慮した経済性向上

 質の高いインフラ投資は、インフラの資産価値や経済、環境、社会面での便益との比較において、(計画、設計、資金調達、建設、運営と維持管理(O&M)、潜在的な処分という)インフラのライフサイクルを通じた全体的なコストを考慮することにより、価格に見合った価値(value for money)を実現するとともに、ライフサイクルコストの観点から支払い可能なものであるべきである。このアプローチの活用は、既存のインフラを修繕・改良するか、あるいは新たにプロジェクトを立ち上げるか、という選択を後押しする。「インフラ・プロジェクト組成段階に係るG20原則」に述べられているように、この関連でプロジェクト組成は決定的に重要である。

2.1 効率性を確保するに際しては、インフラ投資のライフサイクルでのコストとベネフィットを考慮に入れるべき。建設、運営と維持管理、潜在的な処分に係るコストは、プロジェクト組成の開始段階から推計されるべき。コスト・オーバーランを解決し、維持管理に係る継続的なコストを賄うメカニズムを特定することは、プロジェクト・レベルでの財務の持続可能性を確保する上で決定的に重要。コスト・ベネフィット分析は、インフラ・プロジェクトのライフサイクルを通じて活用されるべき。

2.2 インフラ・プロジェクトには、事業遅延やコスト・オーバーラン、及び供用開始後におけるリスク軽減の戦略を含めるべき。この目的を実現するために必要な要素は、(1)プロジェクトを通じた広範な利害関係者の関与、及び、(2)計画、運営、及びリスクの配分又は軽減に関する専門知識、(3)適切なセーフガードや仕組みの適用、を含みうる。

2.3 既存インフラ、新規インフラの経済性を向上させるため、革新的技術を、インフラ・プロジェクトのライフサイクルを通じ、適切な場合に利用すべき。先進技術は、新規・既存の(インフラ)資産にとって重要な構成要素であり、インフラの使用、パフォーマンス、安全性をモニタリングするためのデータの利用可能性を向上させるのに役立ちうるもの。

原則3:インフラ投資への環境配慮の統合

 生態系や生物多様性、気候、気象、資源利用に対する、インフラ・プロジェクトの正・負双方の影響は、これらの環境面の配慮を、インフラ投資のプロセス全体にわたって取り込むことにより、内部化すべきである。これには、環境関連情報の開示を改善し、それによってグリーンファイナンス商品の使用を可能とすることが含まれる。インフラ・プロジェクトは、国家戦略や、自国が決定する貢献の実施を決めた国における当該貢献に沿ったものであり、また、国毎の事情に留意した、長期的な低排出戦略への移行に沿ったものであるべき。

3.1 これらの環境配慮を、インフラ・プロジェクトのライフサイクル全般に定着させるべき。インフラ・プロジェクトの開発、運営と維持管理、潜在的な処分がもたらす環境への影響は、継続的に評価されるべき。生態系を活用した適応策が検討されるべき。

3.2 インフラ投資の環境への影響はあらゆる利害関係者に対して透明にされるべき。このことは、持続可能なインフラ・プロジェクトに対する評価を高め、関連するリスクへの意識を向上させることに寄与。

原則4:自然災害及び、その他のリスクに対する強靭性の構築

 自然災害の回数や規模の増大、環境変化の緩やかな発現を踏まえ、我々は、長期的な適応力を確保し、これらリスクに対するインフラの強靭性を構築する喫緊の必要性に直面している。インフラは人為的なリスクに対しても、強靭であるべきである。

4.1 インフラを設計するに際しては、堅実な災害リスク管理を織り込むべき。包括的な災害リスク管理計画は、インフラの設計や維持管理に反映され、必要不可欠なサービスの再構築を考慮すべき。

4.2 適切に設計された災害リスクファイナンス・保険メカニズムはまた、予防措置への資金供給を通じ、強靭なインフラ整備を行うインセンティブを与えることに資する。

原則5:インフラ投資への社会配慮の統合

 インフラは、包摂的であり、あらゆる人々の経済参加や社会包摂を可能にするものであるべきである。経済・社会への影響は、インフラ投資の質を評価するに際して重要な構成要素として考慮されるべきであり、プロジェクトのライフサイクルを通じて体系的に管理されるべきである。

5.1 インフラ・サービスへの開放的なアクセスは、社会において差別を生じさせない方法で確保されるべき。これは、利用者にアクセスを分け隔てなく確保する観点から、プロジェクトのライフサイクルを通じて、影響を受けるコミュニティとの有意義な協議や包摂的な意思決定を行うことにより達成。

5.2 プロジェクトのライフサイクルを通じて包摂性の実践を主流化すべき。インフラの設計、提供、管理に際しては、あらゆる人々、特に、女性や子供、移転を強いられるコミュニティや個人、障がい者、原住民や貧困層、社会の周縁に追いやられた人々など、とりわけ脆弱な状況にある人々の人権やニーズを尊重すべき。

5.3 全ての労働者は、尊厳を持って、差別されることなく、インフラ投資により創出される雇用にアクセスする機会、技能を向上させる機会、安全で健康的な条件下で働くことのできる機会、公平に報償され扱われる機会を等しく与えられるべき。インフラが、充分な賃金を伴うものを含む雇用への均等なアクセスや、インフラ投資により創出される機会を通じて、女性のエンパワーメントを如何に促進するかを、特に考慮すべき。女性の権利は、労働市場への参加や、技能研修、職業安全及び保健に関する政策などの職場環境の整備において尊重されるべき。

5.4 インフラの建設現場、周辺コミュニティの双方において、職場における安全面・健康面での条件を整備すべき。職場での安全性と健康状態の維持は、世界規模で大きな経済的利益を実現。

原則6:インフラ・ガバナンスの強化

 プロジェクトのライフサイクルを通じた強固なインフラ・ガバナンスの確保は、インフラ投資の、長期的な費用対効果や説明責任、透明性や廉潔性を確たるものとする上での鍵となる要素である。国は、関連する国際公約を踏まえ、公的部門、民間部門双方において、明確なルール、強固な制度、良いガバナンスを導入すべきである。これらは、投資の意思決定に関連する様々なリスクを軽減し、それにより民間部門の参画を促進する。政府の様々なレベルを通じた連携が必要である。能力構築もまた、十分な情報に基づく意思決定や、腐敗防止の努力の効果を確保するに当たって鍵となる。更に、改善されたガバナンスは、責任ある企業行動慣行を含む、民間部門のベスト・プラクティスによってサポートされうる。

6.1 インフラ・プロジェクトが、価格に見合った価値(value for money)を実現し、安全であり、効果的であることを確保し、それにより当初想定された利用法から逸脱しないようにするため、調達における開放性と透明性が確保されるべき。透明、公平で、十分な情報に基づく、包摂的な意思決定、入札、及び業務執行のプロセスは、良いインフラ・ガバナンスの礎。資金調達や公的支援の条件などに関する、より高度な透明性は、調達プロセスにおけるイコール・フッティングの確保に資するもの。利用者や地元の人々、市民社会団体や民間部門など、広範な利害関係者が関わるべき。

6.2 個々のプロジェクトの財務面での持続可能性を評価するとともに、利用可能な資金全体の枠内で候補となるインフラ・プロジェクトを優先付けするため、良く設計され、機能しうるガバナンスの制度を整備すべき。インフラ投資が財政に重大な影響を及ぼしうることを踏まえ、プロジェクト・レベルでの財務面での持続可能性に加え、公的資金によるインフラ・プロジェクトや偶発債務が与える、マクロレベルでの債務持続可能性への影響が、考慮され、また透明であることが必要。このことは、ライフサイクルコストを考慮したvalue for moneyの実現や、財政の持続可能性の促進、将来の候補プロジェクトのための財政余力の確保、一層の民間投資の動員に貢献。インフラ投資に係る、機能的に統合され透明な意思決定の枠組みは、維持管理と新規投資の双方を考慮し、効率的な資源配分を確保。

6.3 透明性と併せ、腐敗防止に向けた努力は、インフラ投資の廉潔性を守り続けるべきもの。インフラ投資は、潜在的に大規模、複雑、長期的で、広範な関係者が関与。インフラ・プロジェクトは、プロジェクトのあらゆる段階において、腐敗リスクを軽減する方策を整えるべき。

6.4 適切な情報やデータへのアクセスは、投資の意思決定や、プロジェクトの管理や評価を支援する要素。情報やデータへのアクセスは、コスト・ベネフィット分析を行うために国内において利用可能である必要があり、政府の意思決定や政策のモニタリングをサポートし、プロジェクト組成のプロセスやその管理を促すもの。