データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 財務大臣談話 −日本議長下での20か国財務大臣・中央銀行総裁会議について−

[場所] 福岡
[年月日] 2019年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

(G20議長国としてのビジョン)

 現下の世界経済は、国際金融危機から10年が経過し、安定性を維持しているものの、近年、経済成長は鈍化し、金融の脆弱性も高まるなど、様々な下方リスクが存在する。将来の危機に備えてこれまで以上に警戒を強化していく必要がある。

 加えて、世界は、高齢化社会への対応、途上国におけるインフラ・社会保障制度の整備、気候変動対策など、数多くの伝統的な課題を依然として抱えている。また、急速な技術革新により、経済の生産性が向上する一方、金融サービスや雇用の在り方が劇的に変化するなど、技術革新に伴う大きな変化への対応が新たな課題として顕在化している。

 このような状況の中で、経済成長の果実の分配の不均衡から一般市民の不満が高まり、これまで世界に平和と繁栄をもたらしてきた国際経済秩序や国際協調といった価値は危機に瀕している。このままでは国際社会は分断され、各国はいよいよ閉鎖的となり、経済の悪化と社会の不安定化の悪循環が助長される状況に陥りかねない。

 振り返れば、日本は、第二次世界大戦後の国際経済秩序と国際協調から最も多くの恩恵を受けた国の一つである。既に先進国となった日本は、これらの秩序と協調の価値を守るため、G20議長国としての機会を積極的に活用し、G20 を世界経済の課題に各国と連携して取り組む場として再活性化する責務と使命を担っている。

(G20の役割・日本議長下のプライオリティ)

 このような観点からG20の役割を見直せば、危機克服が求められたサミット設立当時とは、現在の世界経済の置かれた状況は異なる。G20に今求められている役割は、世界経済の持続可能で包摂的な成長の実現のための基盤づくりであろう。G20は、現在の国際社会において真に求められている事項に集中し、効果的にその役割を果たさなければならない。

 こうした世界経済の持続可能で包摂的な成長の実現のための基盤づくりの観点から、日本議長国下においては以下の3つのテーマに注力したい。

①世界経済のリスクと課題の整理

②成長力強化のための具体的取組

③技術革新・グローバル化がもたらす経済社会の構造変化への対応

 まず、第1に、世界経済のサーベイランスを通じて、世界経済の主なリスクをモニターし、経済危機の芽を事前に摘む。これは、世界経済の大宗を占めるG20の最重要の責務である。

 併せて、持続可能でバランスのとれた経済成長に向けて、過度な経常収支不均衡の原因や対応の方向性を議論する。経常収支の不均衡は、二国間の貿易上の措置ではなく、マクロ経済に関する国際協力を通じた貯蓄・投資バランスの適正化によって対処する必要がある。このためには、更に、企業の過度な貯蓄や人口の高齢化など、貯蓄・投資バランスに影響を与える構造要因の理解も必須である。

 また、高齢化は、あらゆる国が遅かれ早かれ直面する重要な課題であり、マクロ経済に与える影響、労働供給の減少への対応、高齢化と金融包摂など、様々な政策課題について包括的に議論したい。

 第2に、成長力強化のための具体的な取組を取り上げる。

 まず、質の高いインフラ投資を促進する。インフラ整備は生産性を向上させるために重要だが、インフラそのものの物理的価値を超えて、長期的な経済・社会への波及効果(spillovers)も重要である。質の高いインフラ投資は、民間資金の動員等を通じたインフラ投資の量の増加のための取組を強化するのみならず、雇用創出、能力構築、技術移転など、持続可能な成長の基盤となる。また、災害リスクファイナンスなどの自然災害に対する財政の強靭性を強化する取組は、そういった基盤を一層強固にする。

 また、物的インフラへの投資だけでなく、人的インフラへの投資も重要である。この観点から、途上国におけるUHC(Universal Health Coverage)の達成に向けた持続可能なファイナンスの実現も、成長力の強化のために不可欠と考えている。

 更に、低所得国において債務が累積し、債務脆弱性が高まっている問題にも対応する。借り手だけでなく官民の貸手の双方が、債務の透明性の向上及び債務の持続可能性の確保に取り組むことが不可欠である。

 第3に、技術革新・グローバル化がもたらす経済社会の構造変化への対応を取り上げたい。急速に進むデジタル化等の技術革新やグローバル化は、世界の社会・経済構造やビジネスモデルを大きく変化させてきており、これを健全な成長につなげるべく、国際経済システムの分断を避けつつ、政策面の対応を行うことは、先進国・途上国問わず直面する喫緊の課題である。

 国際租税については、デジタル化に伴う課税原則の見直しについての議論とともに、租税回避・脱税への対応に引き続き取り組む。

 金融分野においては、金融市場の分断回避に向けた取組みを進めると共に、暗号資産への対応、分散型台帳技術等の技術革新がもたらす機会とリスクの両面への取組みを進める。

(日本議長下の運営方針)

G20 がこうした役割を効果的に果たしていくためには、G20 プロセスの効率化が必要である。G20 本会合は、戦略的に重要なアジェンダに焦点を絞って議論し、また、国際機関等の場で議論される重要なグローバル課題に政治的モメンタムを与える。G20としての作業は、国際機関等の専門的知見も活用しながら、作業部会では成果を重視し効率的な議論を行いたい。

(結び)

 我々G20の財務大臣・中央銀行総裁は、世界経済の行く末に責任を負っている。G20 の場を活用して、このような持続可能で包摂的な成長の基盤づくりに向けた主要テーマについて、活発で建設的な議論を行うことを期待している。