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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20 開発作業部会 持続可能な開発目標達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs)ロードマップ策定の基本的考え方

[場所] 
[年月日] 2019年6月29日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

冒頭

1. 2015年9月,国際連合総会は,169のターゲットで構成される17の持続可能な開発目標(SDGs)を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を全会一致で採択した。

2. SDGsは,2030年までの持続可能な開発の達成に向けて,また,「誰一人取り残さない」ことを確保するため,国や国際社会が共同作業を通じ,貧困,ジェンダー不平等,環境及びその他の地球規模課題に包括的に取り組むためのビジョンである。持続可能で,包摂的な,人間中心の,強靱な(resilient)社会を達成することが世界にとって共通の抱負である。

3. 2030アジェンダによれば,科学技術イノベーション(STI)の活用は,SDGsの達成のために極めて重要である(「STIforSDGs」)。さらに,アディス・アベバ行動目標(AAAA)のSTIの節では,加盟国に対し,「知識の共有と協力を強化するのを助けるため,国の持続可能な開発戦略の不可欠な要素としてSTI戦略を採用する決意」(パラグラフ119)を要請し,「技術促進メカニズム(Technology Facilitation Mechanism(TFM))」の設立を決定した(パラグラフ123)”。

4. G20は,政府,学術界,研究機関,市民社会,民間セクター及び国際機関を含む様々な利害関係者の効果的な関与は,STIの潜在力を活用する上で不可欠であると認識する。同様に,G20は,それぞれの地に根ざし,カスタマイズされたSTIの適用のためのベスト・プラクティス及び手法を特定し,共有し,推進する重要性及び,低所得国及び途上国においてデジタル化を主流化するためのG20デジタル経済タスクフォース(DETF)の取組の重要性を認識する。

5. SDGs達成のためのSTIロードマップ(以下「ロードマップ」という。)は,そのようなマルチステークホルダーの関与及び国際パートナーシップを促進する上で多くの効果的なツールの1つとなり得る。ロードマップの策定及び適用は任意であるが,ロードマップの基本的考え方の概要は以下のとおりである。

SDGs達成のためのSTIロードマップ策定の基本的考え方

1 ロードマップの構成

6. SDGs達成のためのSTIロードマップは,国家開発戦略と整合的な形で政策行動計画として機能し,SDGsについて包括的な取組を行うものである。SDGs間の相互依存性及び相互関連性に照らし,ロードマップは,SDGs間であり得るトレードオフを管理する一方で,SDGs間の相乗効果を追求するために利用することができる。また,ロードマップは,ステークホルダー間の調整のためのコミュニケーション・ツールとして,短期から長期までの計画や優先事項の設定を支援することもできる。

7. ロードマップには,国際,地域,国及び地方レベルでの協力並びに異なる分野での協力を伴い得る様々な階層がある。それぞれのロードマップは,実施の各段階における進捗モニタリングを可能にするよう,実質的なインパクトを確保するための具体的な行動を明記すべきである。ロードマップの策定を望む政府は,国際連合のSDGs達成のためのSTIに関するマルチステークホルダー・フォーラム(国連STIフォーラム)を含む様々なフォーラムにおける関連議論に留意しつつ,この構成を考慮すべきである。

8. ロードマップの策定を追求する政府の役割は,政策実施の一貫性を目指しつつ,全ての関連するステークホルダーとの対話及びそれら関係者からのインプットを通じて,ロードマップの戦略的方向性を設定することである。可能であれば,あらゆるレベルにおけるロードマップは,全体の進捗状況をモニタリングし,政治,社会,経済及び科学的な派生的問題と共に内在する課題を特定するために取りまとめられるべきである。進捗状況は,可能な限り,国の手続及び優先事項に沿った様々な報告方法を用いて評価すべきである。

2 政府の役割

9. 「STIforSDGs」の推進に当たっては,持続可能で包摂的な開発を達成するために,国家開発戦略及びSTI政策と方向性を合わせるべきである。

10. 政府は,知的財産権を保護するメカニズムを含め,STIの発展を促進するために必要な前提条件を考慮すべきである。G20は,STIforSDGsを可能にする土台となるインフラの発展を推進すべきである(例:デジタルインフラ,ICTネットワーク,研究開発インフラ等)。STEM(科学,技術,工学,数学)への投資及びG20の#eSkills4Girlsで合意されたように,STEM分野における女性及び女児の積極的な役割の推進にも適切な考慮が払われるべきである。

11. 政府は,この目標に向けて,必要に応じて資源を配分し,ロードマップ策定の促進及び実施のために民間セクターによる投資を奨励するべきである。

3 経験及びグッドプラクティスの共有

12. ロードマップは,画一的アプローチ(one-size-fits-allapproach)によるべきではなく,ロードマップを策定するならば,全ての側面における持続可能性の達成を探求するとともに,地方固有の文化,歴史的背景,先住民及び地方固有の知識を考慮し,全てのステークホルダーと共に包摂的な方法で行われるべきである。

13. 各国の開発段階,社会経済状況及び制度的背景に特別な配慮がなされるべきである。

14. これに関連して,G20加盟国及びG20非加盟国は同様に,類似する問題や課題に直面することを避けるため,プロセスを開始しようとしている国やその他の主体に役立つように,ロードマップの策定及び実施に関連した様々な課題について幅広く共有すべきである。同様に,国及びその他の主体が政策選択肢に関する視野を広げるためにロードマップの形成に関する様々な情報及び経験の共有を受けることは,国やその他の主体にとって有益かつ建設的なものとなり得る。G20は,ロードマップの策定は,全てのレベルに渡って知識及びグッドプラクティスを自発的に共有することにより,大いに利益を得る可能性があることを認識する。

4 国際協力

15. 国際協力を通じたSTIにおける能力構築は,各国が持続可能な開発を達成することを可能にするものであり,ロードマップに含めることを検討すべきである。南南協力,南北協力,三角協力を含む国際協力は,能力構築及びSTI分野の教育の促進,並びに科学技術に係る人材の移動の促進のための手段となり得る。G20は,AAAA*1*に沿って,とりわけ後発開発途上国,内陸開発途上国,小島嶼開発途上国及びアフリカ諸国を含む開発途上国の課題を考慮に入れつつ,各国が,政府開発援助(ODA)を含むがこれに限定されるものではない,それぞれの国際協力の様式において,STIの要素を含むように検討するよう招請する。

16. G20は,また,開発パートナー及び国際機関に対し,i)ピア・ラーニング(注:協働という理念に基づく学習)を促進し,ii)開発パートナー及び国際機関の貢献を,研究,技術協力及び相互に合意された条件に基づく技術の任意の移転のために,国のロードマップにおいて特定されたニーズに連携させ,iii)特に教育機関で技術イノベーションを推進するために科学的研究の文化を育むことを奨励する。

17. さらに,G20は,TFM,国連技術バンク,国連STIフォーラム,開発のための科学技術委員会等の既存のイニシアティブに留意する。

5 その他留意点

18. SDGs達成のためのイノベーションの促進は,より良い成果及びより大きな影響のために新しい又は改善された解決策を可能にするという点において重要であり,最も貧しく最も脆弱な人々に裨益するとともに力を与える。国は,ビジネスモデル,政策実行・アプローチ,技術,行動科学の洞察や製品及びサービスの提供方法を含む,革新的な解決策の採用を促進することを検討すべきである。

19. 国は,開発課題にSTIに基づいた解決策を適用する際に,STIの適用の倫理的,社会的及び法的な影響を考慮することもできる。G20は,開発途上国の福祉に対するSTIの適用の影響評価を実施する重要性を認識する。

20. 技術には,青少年の育成や起業家精神,ジェンダー平等や女性及び女児のエンパワメントにおいて重要な役割を果たす潜在力があるため,ロードマップは,青少年や女性の観点を考慮に入れたSTI政策の立案も検討すべきである。

(了)

{*1* AAAAは「相互に合意された条件に基づく技術の移転を含む、新しい独創的研究と技術の創造、開発及び普及並びに関連するノウ・ハウは、経済成長と持続可能な開発の強力な駆動体である(パラグラフ114)」と認識し,「全ての持続可能な開発目標を実施する国の計画を支援するため、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国、アフリカ諸国及び紛争中や紛争後の状況にある諸国を含む、開発途上国における効果的且つ対象を特定した能力構築を実施するための強化された国際支援とマルチ・ステークホルダー・パートナーシップの確立(パラグラフ115)」を求めている。}