データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

[場所] サウジアラビア,リヤド
[年月日] 2020年2月23日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 2019年末に安定化の兆しが見られた後、世界経済の成長は2020年及び2021年に緩やかに上向くことが見込まれる。この回復は、緩和的な金融環境の継続及び貿易を巡る緊張についてのいくつかの緩和の兆しによって支えられている。しかしながら、世界経済の成長は鈍いままであり、地政学的な及び残り続ける貿易を巡る緊張や政策に関する不確実性からくるリスクを含む、見通しに対する下方リスクは根強い。我々は、新型コロナウイルス(COVID-19)の最近の流行を含む、グローバルなリスク監視を強化する。我々は、これらのリスクに対処するための更なる行動をとる用意がある。

2. 我々は、強固で持続性があり均衡のとれた包摂的な成長を実現するため、また、下方リスクから守るために全ての利用可能な政策手段を用いつつ、我々の潜在成長力を高めるために構造改革の実行を継続することに引き続きコミットする。債務残高対GDP比が持続可能な道筋にあることを確保しつつも、財政政策は、機動的に実施し、成長に配慮したものとすべきである。金融政策は、引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に、経済活動を支え、物価の安定を確保するべきである。我々は、国際的な貿易及び投資が、成長、生産性、イノベーション、雇用創出及び開発のための重要なエンジンであることを改めて強調する。我々は、大阪サミットでの貿易及び投資に関する首脳の合意を再確認する。我々は、国際的な協力及び枠組みを強化するために、引き続き共同行動をとる。我々はまた、2018 年3月に行った我々の為替相場のコミットメントを再確認する。我々は引き続き金融の脆弱性を監視し、必要に応じ引き続き対処する。我々はまた、強固で、クォータを基礎とし、かつ、十分な資金基盤を有するIMFを中心とした、より強固なグローバル金融セーフティ・ネットを確保するという我々のコミットメントを再確認する。

3. 我々は、経済、社会、環境、技術や人口動態の変化によって急速に変革しつつあるグローバルな状況に直面している。我々の共同の取組みは、持続可能な開発及び成長を促進し、すべての人々が生活し、仕事し、繁栄できる環境を創出するよう努めるべきである。成長への包摂的なアプローチは、まだ活用されていない経済の潜在力をより活用し、不平等への対処をより助け、社会の全ての層、特に女性及び若者を、よりエンパワーすることができる。したがって、我々は全ての人々にとって得られる機会を向上するために、各国が参考として活用できる政策の選択肢のメニューを作成することに合意する。

4. インフラは経済の成長と繁栄の原動力であり、それは技術を通じてさらに高められ得る。インフラにおけるより幅広い技術の活用がもたらす潜在的な便益は大きい。それは、ライフサイクルを通じた投資の意思決定を改善し、インフラ・プロジェクトの価格に見合った価値を高め、社会、経済、環境面でよりよい成果をもたらすよう、質の高いインフラを建設、運営、維持管理する際の効率性を向上させる。我々は、インフラにおける技術の活用を後押しするため、インフラ技術(インフラテック)のアジェンダを策定することに合意する。我々は、これまでのコミットメントと努力を再確認するとともに、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」において示されている我々の戦略的方向性と高い志に向けた取組を前進させる。我々はまた、インフラ投資における民間部門の参加のための規制枠組みに焦点を当てることを含め、「投資対象としてのインフラに向けたロードマップ」の実施を引き続き前進させていく。

5. 成長を支え、金融強靭性(レジリエンス)及び金融包摂を強化するため、国内資本市場発展のための取組を加速させることは必要不可欠である。我々は、国際通貨基金(IMF)及び世界銀行グループ(WBG)による新興国における現地通貨建て債券市場の近年の発展に関する共同ノートを歓迎し、特に新興国及び発展途上国における国内資本市場発展に関する現在進行中の取組を、各国固有の状況を考慮しつつ、強化することを歓迎する。

6. 我々は、賢人グループの提言が複数年にわたる性質のものであることを認識しつつ、そのフォローアップにおける進捗を肯定的に受け止める。我々は、「効果的なカントリー・プラットフォームに関するG20参照枠組み」を承認し、脆弱国を含む開発途上国における国主導の試行的なプラットフォームの実施の達成状況に関する国際開発金融機関(MDBs)からのアップデートを期待する。我々は、民間部門の資金動員強化に向け、開発金融における政治リスク保険の役割を向上させるため、多数国間保証機関(MIGA)と他のMDBsとの間の協力合意の実施を奨励する。この文脈において、我々は、イスラム開発銀行とアフリカ開発銀行の間の共同保証プラットフォームを歓迎する。我々は、実施段階において参画するIO(WBG,AFDB,IMF)の強化された役割の下、CwAへの継続した支援及びG20パートナーによる更なる二国間の関与を強調する。

7. 我々は、債務の透明性及び持続可能性を向上させるための、債務者及び公的・民間の債権者双方による協働の重要性を再確認するとともに、債務脆弱性に対処するための更なる取組を奨励する。この点に関し、我々は、IMFの債務上限ポリシー及び世銀グループの持続可能な開発金融ポリシーの見直しの文脈の中で、新たに生じつつある債務脆弱性に対処するための「様々な角度からのアプローチ」の実施について、担保付貸付の慣行の分析を深める作業のアップデートを含め、IMF及び世銀グループによるアップデートを期待する。我々は、IMF、世銀グループ及びその他の国際開発金融機関(MDBs)に対し、債務の記録・監視・報告、債務管理、公的財政管理、国内資金動員の分野における債務者の能力強化のための取組を継続することを求める。我々は、「G20持続可能な貸付に係る実務指針」の実施に関するIMF及び世銀グル-プのノートで強調されている課題についての議論を前進させていく。我々はまた、国際金融協会の「債務透明性のための任意の原則」の実施に関し、データ保存先を特定する取組を含め、アップデートを期待する。我々は、低所得国(LICs)の債務に関してIMF、世銀グループ及びパリクラブによって現在行われている取組と、債権者たる新興国のより幅広い関与に向けたパリクラブにおける継続した取組を支持する。

8. 我々は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応に係る最近の進捗を歓迎する。我々は、G20/OECD「BEPS包摂的枠組み」において合意された、第1の柱の統合的アプローチに係る制度の大枠を交渉の土台として承認するとともに、第2の柱の進捗報告書を歓迎する。我々は、両方の柱について残された相違点を乗り越えた更なる進捗を奨励し、2020年末までの最終報告書によるコンセンサスに基づく解決策に向けた我々のコミットメントを再確認する。我々は、政治的合意の基礎をなすグローバルなコンセンサスに基づく解決策の主要事項について、G20/OECD「BEPS包摂的枠組み」が2020年7月までに合意することの重要性を強調する。我々は、この作業を完了し税の安定性を確保するための国際協力の重要性を再確認する。我々は、国際的に合意された税の透明性基準の実施に係る進捗を歓迎する。我々は、その基準を満足に実施していない法域の更新されたG20/OECDによるリストに留意する。リストに載った法域に対しては、防御的措置が検討される。我々は、「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」を通じた協調を含む、開発途上国における税に関する能力構築を引き続き支持する。我々は、全ての法域に対し多国間税務行政執行共助条約に署名及び批准するよう求める。

9. 合意された国際基準に基づく、開かれた、強靭な金融システムは、持続可能な成長を支えるために極めて重要である。我々は、合意された金融規制改革の完全、適時かつ整合的な実施に引き続きコミットしている。我々は、これらの規制改革の影響を引き続き評価し、「大き過ぎて潰せない」問題に対する改革の影響についてのFSBによる評価を期待する。我々は、ノンバンク金融仲介に関するものを含め、金融安定性に対する脆弱性と生じつつあるリスクについて、引き続き特定し、注視し、必要に応じ対処する。状況に応じ、マクロ・プルーデンス政策はツールキットの一部になりうる。我々は、規制・監督上の協力等により、意図せざる、悪影響をもたらす市場の分断に対処するべく、引き続き取り組む。我々はまた、サイバーの強靭性を高める努力を続け、サイバー攻撃への対応や復旧のための効果的な取組に関するFSBのツールキットを期待する。我々は、コルレス銀行関係の解消の原因及び結果と、銀行サービスへの送金業者のアクセスにかかる課題について、引き続き監視し、対処する。サステナブル・ファイナンスの動員、及び金融包摂の強化は、世界の成長と安定にとって重要である。FSBは気候変動が金融安定に与えるインプリケーションの調査を行っている。我々は、こうした分野における民間部門の参加と透明性を歓迎する。

10. 我々は、市場が2021年末より前にLIBORから代替参照金利に移行する必要があることを強調する。したがって、広く利用されているLIBOR指標の見込まれている公表停止に対する関係者の準備が不十分であった場合に生じうるリスクを考慮すれば、この移行を成し遂げるため、公的部門による支援の下、民間部門による緊急の取組が必要である。この移行までに残された時間の短さを考慮すれば、潜在的な金融安定リスクに対処するため、2020年中に大きな進捗が必要である。我々は、FSBに対し、2020年7月までに指標の移行に関する残された課題を特定するとともに、それらに対処する方法を模索することを求める。

11. 我々は、技術革新は、金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得るという我々の見解を再確認し、デジタル時代における規制・監督上の課題の枠組みを構築する取組を支持する。そのため、我々は、BigTechの金融分野への進出の高まりに関連したインプリケーションを検討するために、関連する各金融規制基準設定主体も関与させながら、FSBの地域諮問グループを活用する包摂的なアプローチを歓迎する。我々はまた、FSBに、技術が可能とする規制・監督上の解決策(RegTechやSupTech)への異なるアプローチについて報告することを要請する。我々は、金融安定、消費者及び投資家保護、マネーロンダリング及びテロ資金供与への対策、及び通貨主権に係る問題などマクロ経済上のインプリケーションに関するリスクを含め、金融技術革新に伴う潜在的なリスクに引き続き警戒を続ける。2019年の首脳宣言を基礎として、我々は、最近採択された仮想資産や関連業者に対する金融活動作業部会(FATF)基準を実施するよう各国に促す。我々は、リスクはサービス開始前に吟味され、適切に対処される必要があるとした、所謂‘グローバル・ステーブルコイン’とその他の類似の取組に関する2019年10月の声明を再確認し、これらの取組に関する規制上の提言を作成するFSBの取組を支持する。このため、我々は、FSB、IMF、そしてFATFの報告を期待し、また、マネーロンダリング及びテロ資金供与への対策の基準を適用するとのFATFの声明を歓迎する。我々は、送金を含む、より安価で、迅速な資金移動を促進するよう、グローバルなクロスボーダー決済を改善する必要性を認識する。我々は、FSBに、決済・市場インフラ委員会(CPMI)やその他の関係基準設定主体や国際機関と協調して、2020年10月までに、グローバルなクロスボーダー決済を改善するためのロードマップを作成することを要請する。

12. 我々は、金融包摂のためのグローバル・パートナーシップ(GPFI)が、特に女性や若者、中小企業といった、十分なサービスを受けられないグループに対するデジタル金融包摂を強調することを支持する。我々は、GPFIの作業計画とその体制の簡素化の進捗を歓迎し、承認された2020年までのロードマップの通りに、そのToR(付託事項)を更新することをGPFIに要請する。

13. 我々は、マネーロンダリング、テロ資金供与及び拡散金融と闘い、これを防止するためのマネーロンダリング、テロ資金供与対策の基準設定主体としてのFATFへの支持を再確認する。我々はこれらの脅威のすべての資金源、技術及びチャネルに対処していくという我々のコミットメントを再確認する。我々は、相互審査における専門性に対する支援等により、FATF型地域体のグローバルネットワークを強化することについてのコミットメントを再確認し、世界的規模でFATF基準の完全、効果的かつ迅速な履行を求める。我々は、拡散金融への国際的な対応を強化するためのFATFが進めている行動を支持する。我々は、不法資金供与の新しい手段を可能にし得る新興金融技術に警戒を続けるようFATFに求める。我々は、FATFの「戦略的な見直し」に期待する。

(以上)