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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回G20貿易・投資担当大臣臨時テレビ会議閣僚声明

[場所] 
[年月日] 2020年5月14日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 我々,G20及び招待国の貿易・投資担当大臣は,貿易及び投資に対する新型コロナウイルスのパンデミックの影響を緩和するために協力し,及び協調するとともに,強固で持続可能でありかつバランスのとれた包摂的な成長を基礎とするグローバルな経済回復に向けた堅固な基盤を作るために貢献するとの決意を改めて確認する。

 我々は,貿易・投資作業部会によって作成された「新型コロナウイルスに対して世界貿易・投資を支えるためのG20による行動」(附属書)を承認する。このうちの短期的な対応は,新型コロナウイルスの影響を緩和するためのものであるのに対し,長期的な行動は,世界貿易機関(WTO)の必要な改革と多角的貿易体制を支持し,グローバル・サプライチェーンを強靱なものとし,そして国際投資を強化するものである。

 我々は,世界の貿易及び投資並びにグローバル・サプライチェーンに新型コロナウイルスが及ぼす影響に関する統合された詳細な分析を提供するために国際機関が実施する共同の取組を歓迎する。我々は,投資並びに不可欠な物品及びサービスの流通を円滑なものとするため,各機関の権限の範囲内でこれらの国際機関との協働を継続する。

 我々は,このパンデミックの貿易に対する影響を精査しつつ,情勢を注意深く観察し続けることとし,必要に応じ再び会合する。我々は,G20貿易・投資作業部会に対し,これらの行動に対して引き続き最大限の注意を払い,これらの合意された行動の実施状況をアップデートすることを指示する。



附属書

新型コロナウイルスに対して世界貿易・投資を支えるためのG20による行動

1 短期的な集団的行動

1.1 貿易制限

1.1.1 新型コロナウイルスに対処するための貿易上の緊急措置は,不可欠な医療物資,医療機器及びその他の重要な物品及びサービスに対する輸出制限を含め,必要と認められる場合には,的を絞り,目的に照らし相応で,透明かつ一時的なものであって,最も脆弱な人々を守る上での我々の利益を反映し,貿易に対する不必要な障壁又はグローバル・サプライチェーンへの混乱を生じさせず,WTOのルールと整合的なものであることを確保する。

1.1.2 非商業的な人道上の目的のために購入される産品に対するものを含め,農産品に対して輸出制限を導入することを差し控えるとともに,各国の要件に適合する形で,国内の食料安全保障を妨げることなく,不必要な食料の備蓄を避ける。

1.1.3 各国の要件に適合する形で,不可欠な医療物資,医療機器及び個人防護具の輸出に対する輸出制限の対象から新型コロナウイルスに関連する人道支援を除外することを検討する。

1.2 貿易の円滑化

1.2.1 WTO貿易円滑化協定,特にこのパンデミックの間において極めて重要なその規定(例えば,第7条1(到着の前の手続の処理),同条3(関税,租税,手数料及び課徴金の最終的な決定からの引取りの許可の分離)及び同条8(急送貨物)の規定)の実施を可能な限り加速する。

1.2.2 WTO貿易円滑化協定に従って税関手続を迅速化し,簡素化するとともに,実現可能で実際的な場合には,スマート・アプリケーションの利用を含め,電子的な書面及び手続の利用を奨励する。

1.2.3 関連する現行の国際基準の更なる利用を促し,かつ,関連の基準に関する情報へのアクセスが個人防護具及び医療物資の生産を可能とするに当たって障害とならないことを確保することにより,衛生上の障害及び技術的障害を減少させる。

1.2.4 貿易上の取引を円滑なものとするため,適当な場合には,国内の関係法令に従い,G20の内部で医療物資の供給者に関する必要な情報を共有する。

1.2.5 公衆衛生の指針に従って,医療用の機器と部品及び個人防護具の生産能力を拡大するよう,G20経済・産業担当大臣らを促す。

1.2.6 このパンデミックの間において不可欠な物品及びサービスの流通を容易なものとするため,国内法令に従い,オンラインでのサービス及び電子商取引の利用を促進するよう,G20デジタル担当大臣らを促す。

1.2.7 このパンデミックと闘い,かつ,新型コロナウイルスの社会経済的影響を最小限にする我々の努力に沿う形で公衆衛生を保護しつつ,国内法令に従い,不可欠な越境移動の再開を容易なものとするよう,我々の政府を促す。

1.2.8 WTO,経済協力開発機構(OECD),国連食糧農業機関(FAO),国連世界食糧計画(WFP)等の国際機関によるグローバルな農業供給,物流網及び農産食品の生産及び貿易に対する新型コロナウイルスの影響を分析する努力を支持する。

1.3 透明性

1.3.1 各国が自国の国境で現在実施している措置に関する経験及びベスト・プラクティスを共有するとともに,合理的な期限内に我々それぞれの政府の連絡窓口を特定する。

1.3.2 税関その他の国境業務を含め,新型コロナウイルスに対して導入された貿易関連措置を,WTO協定上の我々の義務に従って通報する。

1.4 物流ネットワークの運用

1.4.1 連結性を維持しかつ雇用を守るために必要不可欠な前提を確保するため,空,陸及び海の連結性を高め,かつ,貨物運送の利用に当たっては不可欠な物品の移動を優先させるために民間セクターと協働するよう,G20交通担当大臣らを促す。

1.4.2 適用可能な安全及び保安基準に従い,旅客機を物品輸送のための貨物機に一時的に転用することにより,航空貨物の能力を増加することを容易にするよう,G20交通担当大臣らを促す。

1.4.3 合理的な期限内において,かつ,実施可能な限り,車両,運転手並びに貨物又は乗客及び旅客に対する措置の施行手続(特に検疫区域に対するもの)に関する情報を公衆が利用可能なものとするよう,G20交通担当大臣らを促す。 1.4.4 国内関係法令に従い,海上交通路を通じた物品の移動を確保するための国際的な慣行及び指針を遵守するよう,G20交通担当大臣らを促す。

1.5 中小・零細企業(MSMEs)への支援

1.5.1 国際機関に対し,このパンデミックがMSMEsに対して引き起こしたグローバル・バリューチェーンの混乱に関する詳細な報告書を,それぞれの権限の範囲内で作成するよう要請する。 1.5.2 民間セクターとの深い協力などを通じ,MSMEsのための通信チャネルやネットワークの向上を奨励する。

2 長期的な集団的行動

2.1 多角的貿易体制の支持

2.1.1 WTOの機能を改善するために必要なWTO改革を進めるとともに, 国際貿易の流通の安定性と予見可能性を促進する上での多角的貿易体制の役割を支持する。

2.1.2 「WTOの将来に関するリヤド・イニシアティブ」に基づくものを含め,G20がどのようにWTOでの作業を後押しし得るかについての議論を継続する。

2.1.3 WTO協定上の我々の義務に従い,透明性を強化し,採用された貿易関連措置をWTOに通報するよう努める。

2.1.4 自由で公正かつ包摂的及び無差別で,透明性があり,予測可能でかつ安定した貿易及び投資環境を生むため,また,開かれた市場を維持するために協働する。

2.1.5 ビジネスをしやすくする環境を醸成するため,公平な競争条件の確保に取り組む。

2.1.6 貿易とデジタル経済とのインターフェースの重要性を改めて確認する とともに,電子商取引に関する共同声明イニシアティブと電子的送信に対する関税についてのモラトリアムについて進行中の議論に留意し,また,WTOにおける電子商取引に関する作業計画を再び活性化する必要性を改めて確認する。

2.1.7 開かれかつ一層強靱なサプライチェーンを促進し,また,医薬品,医療用品その他の保健関連製品の分野における生産能力と貿易を拡大するためのWTOでの新型コロナウイルス関連のイニシアティブを探求する。

2.2 グローバル・サプライチェーンの強靱化

2.2.1 デジタル貿易/電子商取引を含め,特に,不可欠な物品及びサービスの生産と貿易の拡大を支えるためグローバルな危機の間に採用され得る措置に関し,ベスト・プラクティスの発展と共有を支援する。

2.2.2 電子的な書面の管理に関連する事項に関し,税関当局を含め,貿易の規制に責任を有する当局間での協力を強化する。

2.2.3 B20からのインプットに留意しつつ,MSMEsに役立つ貿易関連の情報及びグローバル市場に関する情報について,それらの透明性と利用可能性を確保する。

2.2.4 B20からのインプットに留意しつつ,多国籍企業とMSMEsとの間での協力を強化するための交流及び政策を奨励する。

2.2.5 例外的にかつ国内法令に従い,また,公衆の健康を保護する努力を阻害することなく,グローバルな保健上の危機が生じた際に,不可欠なビジネスのための移動を含め不可欠な越境移動を許容する任意の指針を策定するよう,我々の政府を促す。

2.3 国際投資の強化

2.3.1 「G20グローバル投資政策に関する指導原則」を想起し,持続可能な発展のため国際投資を強化すべく採用される行動に関し情報を共有する。

2.3.2 新型コロナウイルスのパンデミックに関連する分野又はこれにより影 響を受ける分野における投資を促進するためのベスト・プラクティスを共有する。

2.3.3 必要不可欠な医療物資,医療機器,持続可能な農業生産等,投資が必要とされる重要分野を特定するために協働する。

2.3.4 医療物資,医療機器及び個人防護具を生産するための新たな能力への投資を奨励する。

2.3.5 投資機会及び投資活動の特定に当たって,企業及び投資家と共に取り組むよう,政府当局を促す。

2.3.6 外国直接投資に関する政策策定の一環として,必要に応じ,民間セクターとそのニーズに関し協議することを奨励する。

2.3.7 投資の促進に関し開発途上国及び後発開発途上国に供与される技術支 援及び能力構築に関する協力を奨励する。