データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

[場所] 
[年月日] 2020年7月18日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.世界の経済活動は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの影響とそれに伴う需給の混乱により、2020年には急激に縮小することが見込まれる。世界経済の見通しは引き続き不確実性が高く、より大きな下方リスクにさらされている一方で、経済が徐々に再開し、重大な政策行動の効果が顕在化することにより、世界の経済活動は今後回復していくことが見込まれる。我々は、下方リスクから守りつつ、人々の生命、雇用及び所得を守り、世界経済の回復を支援し、金融システムの強靭性を強化するため、全ての利用可能な政策手段を引き続き用いることを決意している。

2.我々は、国際金融機関(IFIs)及び関連する国際機関が新興国、開発途上国及び低所得国に対して極めて重要な支援を提供できることを確保しつつ、前例のない財政政策、金融政策及び金融安定化政策を実施し、新型コロナウイルスのパンデミック及び保健、社会及び経済へ複合的に与える影響に対処するため、即時かつ例外的な措置を講じている。グローバルな状況は、経済、社会、環境、技術や人口動態の変化によって、急速に変容し続けている。我々は、協働して、危機前のアジェンダと整合的な方法で、回復を形づける上で現在の変容を最大限活用しつつ、強固で、持続可能で、均衡のとれた、包摂的な成長を達成すべく、迅速かつ強固な回復を支援するための取組を継続し、必要に応じて強化する。財政・金融政策は、補完的な形で必要な限り実施され続ける。金融政策は、引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に、経済活動を支え、物価の安定を確保する。我々は、成長、生産性、イノベーション、雇用創出及び開発を支えるため、引き続き国際的な貿易及び投資を促進し、サプライチェーンの強靭性を強化する。我々は、国際的な協調及び枠組みを強化するために、引き続き共同行動をとる。

3.2020年4月15日の会合で承認されたG20行動計画は、我々がこの危機を切り抜け、強固で持続的かつ包摂的な世界経済の回復を見通すうえで、国際経済協力を推進するための具体的な行動への我々の対応及びコミットメントの道しるべとなる重要な原則を定めている。我々は、G20行動計画の実施を実質的に進め、パンデミック、自然災害、環境リスクを含む、将来のショックに対する強靱性を強化しつつ、世界経済の回復を支援するための進捗及び今後の道筋を含む、G20行動計画のコミットメントのモニタリングに関する情報を提供する最初の「G20行動計画進捗報告書(付表I)」を承認する。

4.我々は、G20行動計画が、変化する保健及び経済状況に迅速に対応することを可能にする生きた文書であるという我々の合意を再確認する。各国は異なる危機対応の段階にあり、世界経済の見通しが進展し続けていることを認識し、更なる取組が必要となっている。特に、G20行動計画の第3の柱―封じ込め措置解除後の、強固で持続可能、均衡のとれた、包摂的な成長への回帰―は、世界経済の回復の支援に向け2た協力の基礎を提供する。我々は、これまでのコミットメントに基づき、また近々行われるG20財務大臣・保健大臣合同会合の議論を考慮し、関係作業部会に対して、11月のG20首脳会議に先立って、2020年10月の次回会合に提示される予定の、更新されたG20行動計画を策定するよう指示する。我々は、G20行動計画を定期的に見直し、更新し、実施を捕捉し、報告するという我々のコミットメントを再確認する。

5.新型コロナウイルスのパンデミックは、全ての人々にとって得られる機会を向上する必要性を強化した。我々は、包摂的な成長を促進するというこれまでのコミットメントを再確認しつつ、不平等を削減するために引き続き取り組む。我々はまた、社会の最も脆弱な層に対する危機の不均衡な影響に引き続き対処する。こうした中、我々は、新型コロナウイルスのパンデミックへの迅速な対応を支援し、強固で、持続可能で、均衡のとれた、包摂的な回復に向けて前進するために活用できる有用な一連の政策オプションとして、全ての人々にとって得られる機会を向上するためのG20政策の選択肢のメニューを承認する。

6.我々は、債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)の下で達成した進捗を歓迎する。2020年7月18日現在、42か国がDSSIの恩恵を受けることを要請しており、猶予される2020年中の債務支払額は、推定53億ドルに上る。国際通貨基金(IMF)や世界銀行グループ(WBG)は、財政の監視枠組みや、債務データの質と整合性を強化し、債務の開示を向上させるプロセスを提案した。DSSI適格国に対して最大限の支援を供与するため、我々は、その実施にあたり、引き続き緊密に連携する。全ての二国間の公的債権者は、完全に、かつ、透明性高く、このイニシアティブを実施するべきである。国際開発金融機関(MDBs)は、彼らの現在の格付や低い資金調達コストを維持しながら、DSSI適格国に対し、DSSIの猶予期間中、資金フローを純増で供与することや、各適格国に供与される新規資金の更なる詳細を提供することなどを通じ、DSSIを支援する共同の取組を更に進めることが奨励される。我々は、国際金融協会(IIF)の「民間部門の任意の参加のための条項」に留意する。我々は、更なる進捗の必要性に留意するとともに、民間債権者が、適格国から要請があった際には、同等の条件で、DSSIに参加することを強く奨励する。我々は、新型コロナウイルスのパンデミックの状況の進展、及び、2020年10月の会合に先立ってG20に提出される予定の、適格国の流動性ニーズに関するIMF及びWBGのレポートの結果を考慮しながら、2020年下半期に、DSSIの延長の可能性を検討する。我々はまた、IIFの「債務透明性のための任意の原則」の実施に関し、データ保存先を特定する取組を含め、アップデートを期待する。

7.我々は、持続可能な資本フローの促進、国内の資本市場の発展を含め、長期的な金融の強靭性を強化し、成長を支える一方で、金融の安定性を短期的なリスクから守るために、国際機関を含め、個別的にまた集団的に、迅速な行動をとることを引き続き決意している。我々は、2020年7月8日にG20とパリフォーラムが共催したハイレベル大臣会合「新型コロナウイルスの危機への対処―持続可能な資本フローと3強固な開発金融を回復する―」を歓迎する。この会合の資本フローの変動と開発金融に関する議論は、この課題についての我々の作業に役立つ。

8.我々は、強固で、クォータを基礎とし、かつ、十分な資金基盤を有するIMFを中心とした、より強固なグローバル金融セーフティ・ネットを確保するという我々のコミットメントを再確認する。我々は、この危機に対応するためのIMFの行動を歓迎する。我々は、IMFの危機対応能力を強化するため誓約された、低所得国の重要な資金ニーズに対応するための、即時の資金貢献を歓迎するとともに、さらなる迅速な貢献を要請する。我々はまた、過去の危機から関連する経験を引き出し、IMFによる、危機の進展に伴い、加盟国の資金ニーズを満たす追加的手段の模索を要請する。

9.インフラは成長と繁栄の原動力であり、それは経済回復及び強靭性を促進するために重要であるとともに、技術の活用を通じてさらに高められ得る。我々は、ライフサイクルを通じた投資の意思決定を改善し、インフラ・プロジェクトの価格に見合った価値を高め、社会、経済、環境面でよりよい成果をもたらすよう質の高いインフラ投資を促進することを目的として、インフラにおける技術の活用を促進する「G20リヤド・インフラテック・アジェンダ」を承認する。「投資対象としてのインフラに向けたG20ロードマップ」に沿って、我々は、民間のインフラ投資に影響を与える課題に関する投資家の視点を反映し、それらに対処するための政策の選択肢を提示する「インフラ投資における機関投資家及び資産運用者との協働に関するG20/OECDレポート」を歓迎する。我々は、関心あるMDBs及び国際機関の参加の下、柔軟な方法による構造的な協働を通じて、この作業を継続することを期待する。我々は、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に関し、G20メンバーが主導するケーススタディ調査や、あり得る指標の探求の継続等による、これまでの進展を歓迎し、その作業を推進する。我々は、データへのアクセスに関する進行中の作業を通じて、インフラ投資の意思決定をより良いものとする必要性を認識する。

10.我々は、世界規模で公正、持続可能かつ現代的な国際課税システムのための協力を継続していく。我々は、新型コロナウイルスのパンデミックが経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応に係る作業に影響を与えたことを認識する。我々は、G20/OECD「BEPS包摂的枠組み」が2020年10月の次回会合にそれぞれの柱の青写真に関する報告書を提出すべく、グローバルなコンセンサスに基づく解決策に係る作業を前進させ続けることの重要性を強調する。我々は、残された相違点を乗り越えるために両方の柱における更なる進捗について引き続きコミットしており、グローバルなコンセンサスに基づく解決策に今年至るための我々のコミットメントを再確認する。我々は、国際的に合意された税の透明性基準の実施における進捗及び確立された自動的情報交換における進捗、並びに関心ある国のためのデジタルプラットフォーム向けモデル報告ルールに係る合意に示される進展を歓迎する。我々は、G20/OECD「BEPS包摂的枠組み」のBEPS年次進捗報告書を歓迎する。我々はまた、「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」の進捗報告書を歓迎し、途上国4に対する持続可能な税収基盤を築くための税に関する能力強化に係る支援を継続する。

11.我々は、新型コロナウイルスのパンデミックへの国ごとの又は国際的な対応の支えとなる、金融安定理事会(FSB)による2020年4月G20への新型コロナウイルスに関する報告書で示された5原則へのコミットメントを再確認する。我々はこれらの対応が国際基準に概ね沿い、また国際基準へのコミットメントを再確認するものであることを歓迎する。我々は、金融安定への影響及び講じられた政策措置に焦点を当てた、FSBの新型コロナウイルスに関するアップデートを歓迎する。我々はFSBに対し、非金融法人の状況に特に留意しながら、流動性、支払い能力及び景気循環増幅効果に関するものを含む金融セクターの脆弱性を引き続き監視するとともに、加盟法域、国際機関及び基準設定主体の間で規制・監督上の措置についての連携及び明確なコミュニケーションを継続するよう求める。我々は、これまでに合意された改革を巻き戻すことなく、資本・流動性バッファーの利用を含む、国際規制基準に内在する既存の柔軟性を用いることを支持する。我々は、配当及び自社株買いへの制約に関するアプローチを通じたものを含め、各国の状況を考慮しつつ、銀行セクターの損失吸収力及び融資能力をどのように適切に保全するかについて引き続き検討する。我々は、2020年3月に観察された市場環境について、ノンバンク金融仲介(NBFI)セクターがもたらす含意を含め、基準設定主体の作業を活用し、2020年11月までに包括的な確認を実施するとのFSBの計画を歓迎する。我々は、改革の重要な便益と、残された破綻処理の実行可能性への障壁に対処するための更なる作業の必要性とに焦点を当てた、FSBの「大きすぎて潰せない問題(TBTF)」に対する改革の影響評価に関する市中協議文書を歓迎する。サステナブル・ファイナンスの動員、及び金融包摂の強化は、世界の成長と安定にとって重要である。FSBは気候変動が金融安定に与えるインプリケーションの調査を継続している。我々は、こうした分野における民間部門の参加と透明性の広がりを歓迎する。

12.新型コロナウイルスの影響は、LIBOR算出の裏付けとなる市場がもはや十分に活発ではないことを明らかにした。我々は、2021年末のLIBORからの移行期限の重要性を再確認する。我々は、残された課題に対処し、LIBORからのグローバルな移行を支援するための提言を含め、市場参加者及び当局の準備水準についてのFSBの評価を歓迎する。我々はFSBに対し、関連する国際機関及び基準設定主体と連携して、LIBORエクスポージャー、移行状況及び2020年7月のG20向け報告書の提言実施に係る進捗の監視を継続することを求める。

13.このパンデミックは、送金を含め、より安価で、迅速に、アクセス可能で、透明性のある決済を促進するために、クロスボーダー決済の仕組みを改善する必要があることを再認識させた。我々は、積年の課題への対処を通じたクロスボーダー決済の改善のための、包括的な一連の「構成要素」を提示する決済・市場インフラ委員会(CPMI)の第二次報告書を歓迎する。我々は、FSBが国際機関及び基準設定主体(SSBs)と連携して2020年10月会合までに報告する、グローバルなクロスボーダ5ー決済の改善に向けたG20ロードマップに期待する。同ロードマップには、実務的な手順や例示的な所要期間が含まれる。

14.金融包摂の推進に向けデジタル技術による恩恵を享受するべく、我々は、金融包摂のためのグローバル・パートナーシップ(GPFI)によって作成された「若者、女性、中小企業(SME)のためのデジタル金融包摂に関するG20ハイレベル・ポリシー・ガイドライン」を承認する。我々は、金融包摂行動計画の作成及びToR(付託事項)の更新を含め、「GPFI作業計画と体制:2020年へのロードマップ」で示された最終的な簡素化作業を完遂するGPFIの取組みを歓迎する。

15.我々は、新型コロナウイルスに関する金融活動作業部会(FATF)の報告書の中で詳述されているマネーロンダリング、テロ資金供与対策を支持し、マネーロンダリング、テロ資金供与及び拡散金融と闘い、これを防止するための国際的な基準設定主体としてのFATFへの支持を再確認する。我々はこれらの脅威のすべての資金源、技術及び経路に対処していくという我々のコミットメントを再確認する。我々は、相互審査における専門性に対する支援等により、FATF型地域体のグローバルネットワークを強化することに対するコミットメントを再確認し、世界全体でのFATF基準の完全、効果的かつ迅速な履行を求める。我々は、不法資金供与の新しい手段を可能にし得る新興金融技術に警戒を続けるようFATFに求め、それらの技術がマネーロンダリング、テロ資金供与対策への取組を支援する上でもたらす潜在力にFATFが焦点を強めていることを称賛する。

16.我々は、特に今般の困難な状況の中で、G20CwAイニシアティブに対する継続的な支援及び全てのパートナーとの強力な協調の重要性を強調する。 (以上)