データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20腐敗対策閣僚会合閣僚宣言

[場所] 
[年月日] 2020年10月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1 我々、腐敗の予防・撲滅を所掌するG20閣僚は、国際的な腐敗との闘いにおける模範を示し続けるに当たり、G20メンバーとしてのコミットメントについて議論するため、2020年10月22日にサウジアラビア議長下に会した。今年は、腐敗を撲滅し、模範を示すための国際的な取組に対し、G20としていかに実用的かつ有益な貢献を継続することができるかを首脳(リーダー)が検討するための包括的な提言を作成することを目的としてG20腐敗対策作業部会(ACWG)設立されてから10年目となる記念すべき年である。我々は、全ての構成国及び国際機関による貢献を認識するとともに、過去の議長国によるリーダーシップに感謝する。

2 我々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる未曾有の世界的な社会的・経済的脆弱性の文脈において、経済成長、持続可能な開発、質の高い投資と革新及び政府と市民の間の信頼に対する腐敗の脅威が高まり、深刻な影響を及ぼしていることを強調する。緊急的な措置は経済危機及び回復時に必要である一方、不正流用、詐欺及びその他の形態の腐敗のリスクを創出する可能性がある。我々は、個別的及び集団的に我々の腐敗対策に係る取組の強化にコミットし、特に国連総会腐敗特別総会(UNGASS)、第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)及び第9回国連腐敗防止条約(UNCAC)締約国会議に向けて貢献することを期待する。これに向けて、我々は、国家主権、国内法及び人権の基本原則を害することなく達成される必要性を認識するとともに、特に国際的なコミットメント及び規範の実施とモニタリング、情報とグッド・プラクティスの共有を通じて腐敗との闘いにおいて多数国間の取組が果たす重要な役割に留意する。

3 我々は、国際的な腐敗対策に係る既存の枠組み、特に国連腐敗防止条約(UNCAC)、国際組織犯罪防止条約(UNTOC)、OECD外国公務員贈賄防止条約及びその関連文書並びに金融活動作業部会(FATF)基準で示されている義務・コミットメントの重要性を強調する。これらの枠組みは、各国が腐敗、マネーロンダリング及びその他の関連する深刻な経済犯罪を予防し、撲滅するために講じるべきしっかりとした取組を包括的に含んでいる。そのため、我々は、既存の義務とコミットメントをより一層効果的に実施することを誓約し、これらの枠組みが腐敗及び関連する課題に対する国際協力及び協調を拡大するための今後の取組の基盤としての役割を果たすべきであることを認識する。

腐敗対策優先課題

新型コロナウイルス感染症による危機

4 我々は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより人命が失われた悲しみと幅広い苦悩に心から哀悼の意を表明する。正当な貿易、公共調達と財政の清廉性及び透明性、グローバルヘルス、安全性とセキュリティ全てが現下の危機においてこれまで以上に腐敗に対して脆弱であるように、パンデミックは腐敗が脆弱な人々に直接的かつ不均衡な形で影響を及ぼす可能性を明らかにした。我々は、2020年3月26日に発出された「新型コロナウイルスに関するG20首脳テレビ会議首脳宣言」に沿って、連帯の精神に基づき、この危機に対するグローバルな対応の実施に当たり、協調することをコミットする。

5 我々は、危機は迅速な行動を必要とする一方、危機への対応として行われる経済的支援の速度と規模は、腐敗、詐欺及び不正流用のリスクを高める可能性があることを認識する。これは次に、救済措置の有効性を妨げ、公的機関への信頼を損ない、最終的には国民の福利にも害を及ぼし得る。腐敗対策は、透明性と清廉性を確保するため国内及び国際的な危機対応プログラムに組み込まれるべきである。我々は、新型コロナウイルス感染症をきっかけに腐敗撲滅のため継続的な集団的かつ協調的な取組にコミットする。これを受け、我々は、これらの取組のための主要分野の概要として腐敗対策作業部会で作成された、G20腐敗及び新型コロナウイルス感染症に係る「コール・トゥ・アクション」(アネックスA)をエンドースする。各国によるこのような対策の考案及び実施を一層支援すべく、危機の最中及び将来発生しうる事態のための取組に向けた準備として、我々は、保健分野及び緊急支援(援助、刺激、救済)の実施における腐敗の予防、撲滅に係るグッド・プラクティスの最初の見解を提供する「G20新型コロナウイルス感染症への対応における腐敗撲滅グッド・プラクティス集」(アネックスF)を歓迎する。

国際的な腐敗対策に係る法執行協力促進のためのリヤド・イニシアチブ

6 我々は、国連腐敗防止条約第48条を念頭に、特に捜査の準備段階において、腐敗防止に係る法執行機関間の協力を一層強化する必要性を認識する。この点において、刑事共助を含む国際協力を促進することを目的として、腐敗対策法執行当局のグローバル・オペレーショナル・ネットワークの構築に向けたサウジアラビアのイニシアチブを歓迎する。これは、OECD法執行機関実務者のグローバル・ネットワーク(GLEN)、OECD法執行機関実務者の非公式会合(LEOs)及びINTERPOL/StARグローバルフォーカルポイントネットワークといったインフォーマルな国際協力のための既存のプラットフォーム及びネットワークを補完し、包摂的な形で腐敗対策法執行機関間の直接的なやりとりを促進させる。この観点から、我々は、「リヤド・イニシアチブ」(アネックスB)を歓迎する。

2020 ハイレベル原則

7 G20腐敗対策行動計画2019-2021に沿って、我々は、2020年議長下で策定された(1)「国家腐敗対策戦略の策定と実施」、(2)「ICTの活用による公的部門の清廉性向上」及び(3)「民営化及びPPPにおける清廉性向上」の3つのハイレベル原則をエンドースする。これらの文書は、(i)国家腐敗対策戦略を改定、作成、又は実施、(ii)個人データ保護規則に配慮した上での腐敗の予防、摘発及び撲滅のためのICTの効果的かつ安全な活用、(iii)腐敗リスクを最小限に抑えながら、民営化またはPPPの過程にある民間部門の関与、を望む国に対してガイダンスを提供するものである(アネックスC)。

説明責任及び透明性

8 我々は、説明責任と透明性の向上に向けた共通のコミットメントの実施にコミットする。国際法に則り、また主権を害さないよう作成され、過去に首脳によってエンドースされた各種のG20腐敗対策ハイレベル原則、ガイド、共通原則は、我々の主要な提言を示したものである。我々は、過去にエンドースされた成果文書の効果的な実施を確保することを決意するとともに、G20腐敗対策行動計画2019−2021で定められたように、進行中のコミットメント及びより広範な目標をフォローアップする。さらに、行動計画に沿って、また、共通のコミットメントの実施における我々の個別的及び集団的な進展を反映するための重要なメカニズムとして、国際協力及び財産回復に係る我々の集団的な進展を初めて詳細に提供し、これらの分野における将来的な取組の範囲を示した「G20腐敗対策説明責任報告書」(アネックスD)の改革されたアプローチを歓迎する。このアプローチは、将来の議長によって構築され、腐敗対策作業部会が毎年説明責任報告書を公表する。そうすることで、我々はG20腐敗対策作業部会による成果文書へのアクセスを向上させ、市民社会、非政府組織、コミュニティベースの組織、学術界、メディア、民間部門及びその他のステークホルダーを含む公的部門以外の個々及び団体の関与を促進する。

既存の腐敗対策優先課題

国際協力と財産回復

9 我々は、犯罪収益の回復を含め、国境を越えた腐敗事案の捜査・訴追には国際協力が不可欠であることを認識し、事例捜査、コミュニケーション、経験共有の強化にコミットする。我々は、財産回復に関して過去にエンドースされた成果文書に従って行動することにコミットする。この分野での効果的な取組には、全ての国が国内で行動を起こし、国際協力に関与することが必要である。我々は、犯罪収益を追跡、凍結、没収するために協力し、そのような没収された資産が、効果的かつ透明性のある方法で、必要に応じて、国内法及びUNCAC等の国際的な義務に整合的な形で、返還又は処分されることを保証することを誓約する。また、我々は、財産回復に対して移転国、受取国、他の以前の合法的な所有者及び、必要に応じて、市民社会の間のパートナーシップの精神に基づきアプローチすることを誓約する。この目的のために、我々は、OECDが金融活動作業部会(FATF)事務局、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)、世界銀行との協働で作成した「経済犯罪・犯罪者及び財産回復に対処するための国際協力スコーピングペーパー」(アネックスF)を歓迎する。同スコーピングペーパーに基づき、「G20腐敗・経済犯罪・犯罪者及び没収した奪われた財産の回復に係る国際協力についての行動」(アネックスE)をエンドースする。

実質的所有者の透明性

10 我々は、腐敗が前提犯罪となる場合も含め、法人の悪用防止やマネーロンダリング、テロ資金供与に関する取決めを効果的に実施し、必要に応じて、追加の措置を講じることにコミットする。我々は、法人及び取決めの最終的な実質的支配者を特定するための措置を実施する際に模範を示すために努力を倍加させる。

セーフ・ヘブンの拒否

11 我々は、UNCACの創設犯罪を行った者へのセーフ・ヘブンの提供とその犯罪収益を拒否するため、国内法に整合的な形で協働することにコミットする。我々は、ランク、地位、ステータスに関係なく、そのような犯罪者が正義を回避することを防ぎ、腐敗収益の国境を越えた隠蔽を抑制し、腐敗犯罪の犯罪化及び起訴、並びに適当な場合には、国内法及びUNCACに基づく国際的な義務に合致する形で、没収した奪われた財産の回復及び返還を追求することを誓約する。我々は、さらに、情報交換及び事例捜査協力を強化し、必要に応じて、犯罪人引渡し及び刑事共助に関する二国間及び多数国間協定又は取決めを締結する可能性を検討することにコミットする。

贈収賄の犯罪化

12 我々は、外国公務員への贈賄を含む贈収賄を国内法上犯罪化し、国内外の贈収賄を効果的に防止、摘発、捜査、起訴、制裁する取組を強化することにコミットする。公平な競争の場を促進するための鍵となる国際貿易及び投資に係る腐敗との闘いは、引き続きG20の最優先事項である。我々は、各国に同トピックに関する民間部門との協力の促進を奨励し、G20メンバーにおける企業が、腐敗リスクに関する意識を高めるために適切な措置を講じ、効果的な緩和及びコンプライアンスシステムを開発することを奨励する。我々は、UNCACに例示された国際的なコンセンサスに基づき、規制された、法律に基づく、クリーンなビジネス環境を育成することを目指す。さらに、我々は、OECD贈賄作業部会との関係の深化を歓迎する。我々は、また、全てのG20メンバーによるOECD外国公務員贈賄防止条約の順守の可能性を期待して、UNCAC第16条の規定に従い、2021年までに外国公務員贈賄の犯罪化及び外国公務員贈賄法令の施行に向けた具体的な取組を示す。腐敗対策作業部会は2021年に進捗状況を確認し、アップデートを提供する。

公的部門の清廉性

13 我々は、過去にエンドースされたハイレベル原則に従い、公共調達情報の透明性とアクセスを保障することにより、公的部門の清廉性及び効率性の向上にコミットする。我々は、公共調達及び公共予算の公平性、清廉性及び透明性を促進することで、健全なガバナンスの原則に基づき構築された、包摂的で、持続可能な、全ての人に公平な成長の促進にコミットする。この目的のために、我々は、腐敗対策機関と最高監査機関の間の協力を歓迎する。また、我々は、腐敗を予防するための全体的アプローチの一部としての民間部門及び市民社会の幅広い参加を促進する必要性を強調し、改善された調達法令、規制、内部及び外部監査、政策及び手続は、これに必要な信頼を助長することができることを認識する。

民間部門と非政府組織(NGO)の清廉性

14 我々は、民間部門及び非政府組織(NGO)と協力し清廉性の促進にコミットする。これを達成するために、我々は、関連する民間団体及びスポーツ団体による適切な腐敗対策倫理規範、コンプライアンスプログラム及び行動規範の採用を奨励する。我々は、市民社会が、清廉性の文化を育み、国内法及び国際的な義務に合致する形で、過去にエンドースされた関連するハイレベル原則を効果的に実施するのを支えるうえで大きな役割を果たすことを認識する。

ステークホルダーの関与

15 市民社会、非政府組織、コミュニティベースの組織、学術界、メディア及び民間部門を含む公的部門以外の国際組織、個人及び団体とのパートナーシップの強化を通じて、腐敗の防止及び撲滅に向けてマルチステークホルダーアプローチをとり、また、促進することにコミットする。我々は、共通の目標は社会の全ての組織による集合的な努力なしでは達成できないことを認識する。また、我々は、他のG20ワークストリームとの協力を深めるための努力を歓迎する。

今後の方向性

16 急速に変化する国際環境の中で、我々は、法の支配及び人権の基本原則を適切に考慮し、包括的かつ全体的な腐敗防止アジェンダを個別的及び集団的に追求することにコミットする。我々は、「腐敗に対するゼロ・トレランス、制度内の抜け穴ゼロ、行動における障壁ゼロ」のスタンスを想起する。模範を示すため、我々は、ジェンダーと腐敗、危機時の腐敗、腐敗指標、公益通報者保護、新たな腐敗の形態、その他のG20腐敗対策行動計画2019−2021で言及されている他のすべての分野等のトピックに関する今後の取組を歓迎する。さらに、我々は、今後数年間にかけて、開発途上国に対する技術支援と能力開発の取組の向上に努める。

17 我々は、サウジアラビア議長が特に困難な年にリーダーシップを発揮し、初の腐敗対策閣僚会合を開催したことに謝意を表明する。腐敗対策作業部会の創設から10年を経て、本閣僚会合は、あらゆる形態の腐敗を拒絶する文化を構築するとのG20メンバーの永続的なコミットメントを表明し、G20メンバーが腐敗との闘いにおいて主導的な役割を果たし続けることを確保する。我々は、今後の議長国に対し、この目的のために、適切な場合に、定期的に閣僚会合を再召集するとともに、過去の首脳宣言の下でなされたコミットメントの実現を支援し、腐敗対策作業部会の今後の取組に係る方向性を設定することを奨励する。