データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20開発大臣会合コミュニケ

[場所] マテーラ
[年月日] 2021年6月29日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

開発途上国の新型コロナからの回復を支援し、持続可能な開発のための2030アジェンダの進捗を促進するためのグローバルな対応

1. 我々、G20の開発国際協力担当大臣は、途上国が現在の保健、人道、社会経済危機を克服し、全ての人にとってより良い未来に向けて努力しつつ、野心的でありながらも具体的で、実行可能かつ協調的な、新型コロナウイルス(COVID-19)へのグローバルな対応にコミットし、呼びかけるために、イタリアG20議長国下で初めて集まった。持続可能な開発のための2030アジェンダと持続可能な開発目標(SDGs)、アディスアベバ行動目標(AAAA)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及びパリ協定はこのコミュニケの不可欠かつ共通の参照文書であり、これらの文書は包摂的で、強靭で、社会的、経済的、環境的に持続可能な回復を形作るための共通の青写真を提供している。我々は、2030アジェンダと、G20開発作業部会(DWG)が扱っている、「持続可能な開発のための2030アジェンダに関するG20行動計画」の適時かつ野心的な実施に向けたコミットメントを再確認する。G20は、途上国支援、「開発途上国における新型コロナウイルス対応及び復興に向けたG20の支援」、G20各国により提唱された多額の資金パッケージ、「食料安全保障、栄養及び食料システムに関するマテーラ宣言」、2021年5月のローマでのグローバル・ヘルス・サミットの成果など、危機に対して迅速な対応を提供してきた。我々は、また「世界人道概況2021」を通じて、新型コロナパンデミックによる喫緊の人道上の影響に対処することの重要性を想起し、我々は、議長国イタリアと国連世界食糧計画(WFP)の共同開催によるブリンディジでの人道支援に関するG20閣僚級イベントを歓迎する。我々は、各国政府と緊密に連携しながら、一貫した協調的な対応を取る。

2. こうした努力にもかかわらず、我々は、今回の危機が持続可能な開発のための2030アジェンダに向けた進捗を後退させ、特に脆弱な状況にある人々において、教育、特に女子教育やジェンダー平等の成果の後退等の甚大な影響を与えていることを深刻に懸念している。国際社会が直面する最大の課題のひとつは、あらゆる場所で全てのSDGsの進捗を加速させる持続可能な回復の土台を築くことであり、すなわち、あらゆる形態の貧困と栄養不良を無くし、働きがいのある人間らしい仕事を創出し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成し、不平等を減らし、気候変動とや生物多様性の損失の原因と結果に対処し、腐敗や不正な資金の流れと戦い、あらゆるレベルにおいて、有効で、透明で、説明責任を有する機関を発展させることである。我々は、健康、経済、社会、環境への絡み合った危機の影響に直面している全ての途上国・地域を、アフリカ、後発開発途上国、小島嶼開発途上国における特有の課題を認識した上で、支援することを決意する。パンデミックを克服することは、安定的で持続するグローバルな回復の前提条件である。新型コロナのパンデミックの新たな波や、世界各地でのワクチン接種の規模やペースの違いから、回復は国によって、また国内でも一様でない。この点において、我々は、グローバル・ヘルス・サミットでG20首脳が認識したとおり、大規模な新型コロナ予防接種の国際公共財としての役割を再確認し、国際的なワクチン製造能力の強化や多様化への取組の支援を行うACTアクセラレータ(ACT-A)におけるワクチンの柱(COVAX)との連携や保健システムの強化等を通じて、安全かつ有効で入手可能な新型コロナ関連物資(ワクチン、治療、診断、個人防護具)への適時でグローバルかつ公平なアクセスを強化するための協力的な取組の拡大の必要性を改めて表明する。我々は、国内の状況が許す場合には、ACT-Aのワクチンの柱(COVAX)との協働を含め、安全かつ有効で、質の高く、入手可能なワクチンの世界的な共有に向けた支援を行うことを強調する。我々は、日本とGaviの共催による最近のCOVAXワクチン・サミットの成果を歓迎する。

3. 我々は、これらの目標の達成を可能にする政策環境を醸成し、多国間協力と全ての利用可能な資金動員を強化する必要がある。グローバル、地域、国レベルでの行動によって、危機を克服し、SDGsを達成するための国と地域の取組を支援すべきである。イタリアG20議長国下で、我々は、持続可能な開発のための資金調達における資金の動員、活用、整合性を強化し、地方レベルにおけるSDGsの達成に向けた中間都市の役割を強化する協調的な取組に注力する。我々の取組は、包摂的、強靱、社会的、経済的、環境的に持続可能かつ強力な回復を目指すと同時に、ワンヘルス・アプローチと女性と若者のエンパワーメントの促進を目指す。

持続可能な開発のための資金調達

4. 途上国における新型コロナパンデミックの影響により、資金調達の必要性が高まっている一方、危機の緩和、回復、SDGs達成のために利用可能な資金は減少している。G20は、模範を示し、より包摂的かつ持続可能な回復に向けた国際的な取組を支援するのに適した立場にある。2020年にサウジアラビア議長国下で承認された持続可能な開発のための資金調達フレームワークに基づいて、我々は、既存のコミットメントに沿った国内資金とODA、また、南南協力や三角協力の取組、ブレンディッド・ファイナンスと民間セクター資金を含む、全てのソースからの資金の動員の強化や、SDGsへの整合性とインパクトの促進にコミットする。G20は、途上国の差し迫った流動性のニーズや債務脆弱性に対応するため、重要な措置を講じてきた。これらには以下が含まれる:債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)の2021年末までの最終延長、DSSI後の債務措置に係る共通枠組、野心的なIDA-20増資に向けた現在進行中及び今後の交渉、2022年に予定されているアフリカ開発基金の増資、IMFによる6500億米ドルの特別引出権(SDR)の新規一般配分と、脆弱な国の利益のための自主的な割り当ての可能性の呼びかけ。G20財務大臣会合の成果を補完するものとして、持続可能な開発のための資金調達に向けた我々の貢献は、全ての利用可能な資金のSDGsへの整合性と、国家資金調達枠組、資金調達手段、利用可能な財政余地の活用の改善に向けた3つの補完的な分野に焦点を当てる。

5. 適切に設計された透明性のある国家主導の資金調達フレームワークは、国及び地方の持続可能な開発戦略を実施し、公的及び民間資金をその目的に整合させ、SDGsへの民間投資を促進すると同時に、持続可能な開発のための政策一貫性を促進するための鍵である。アディスアベバ行動目標で強調されているように、統合された国家資金調達フレームワーク(INFF)は、持続可能な開発のための国家総合戦略を支援する上で重要な役割を果たすことができる。我々は、財政を国の優先事項及びSDGsと整合させるためのINFF構築が、70か国以上において進捗したことを歓迎する。我々は、政策対話、知識共有、技術支援、能力開発の促進によって、自主的な採用、各国のオーナーシップ、国家の優先事項との整合性、地方の状況に応じた調整の原則に従ったINFFの幅広い採用と運用を支援する。我々は、INFFに関するUNDPの実績調査報告書に感謝して留意し、パートナーたる国際機関や公的及び民間のステークホルダーと引き続き協力して、途上国によるINFFの実施に向けた努力を支援するとともに、持続可能な開発のための公的総支援(TOSSD)の採用について、既存のコミットメントを弱めることのない包括的な枠組として、自主的に検討する。

6. 債券、基金、他の投資促進手段を含む、持続可能性に関連する資金調達手段は、環境保全、ジェンダー平等、社会開発、持続可能なインフラと都市を含む、持続可能な開発目的の促進を目指しており、途上国のSDG資金調達ギャップの縮小に向けた資金動員において重要な役割を果たし、国家及び地方の戦略の一部として、長期的な資金調達手段となり得る。我々は引き続き、全ての国の関連するステークホルダーと協力して、これらの手段の実施を妨げる主要な制約要因を特定して対処し、それらの開発への影響を高めるための具体的な方法を模索する。我々は、投資の影響と透明性を測る基準の重要性を認識する。特に、債券発行を地方の状況に応じて調整し、先進国の資本市場における金融手段を通じて資金調達を促進し、各国のオーナーシップを確保し、現地の資本市場の発展を支援すると同時に、専用の技術支援プログラムや知識の交換を通じて、当該国の債務管理能力を強化するようなアプローチを検討する。我々は、全ての国の発行者と規制当局に対し、SDGsウォッシュを回避するための透明性の促進と好事例の活用を奨励し、タクソノミーを活用する場合には、各国・地域の状況及び国際的なガイドラインを適切に考慮することを奨励する。我々は、途上国におけるグリーン・ボンド、ソーシャル・ボンド、サステナビリティ・ボンドの発行拡大に関するOECDの実績調査報告書に感謝して留意する。我々は、関連する国際機関、ステークホルダー及び金融市場関係者が、途上国で持続可能性に関連した資金調達手段を促進する我々の取組を支援するように奨励する。

7.我々は、G20の共通ビジョンと、財政スペースの活用におけるSDGとの整合性に向けた任意の報告原則が、G20財務トラックとの協力強化を含め、自主的かつ事例ごとに適用されるよう引き続き取り組む。我々は、新たな「SDGコンプライアンス」の条件を回避しながら、このビジョンの可能性を追求し、SDGs達成に向けて資金を投入することを含め、パートナー国や国際機関と協力することを期待する。この共通ビジョンは、G20財務トラックと連携して開発され、自主的に適用され、全ての利用可能な資金を考慮に入れることを目的としている。ビジョンには、特に、以下に関する重要性が含まれる可能性がある。すなわち、新型コロナウイルスからの回復パッケージが長期的な2030アジェンダと連携し、緊急措置への活用のみに留まらないこと、そして、全ての公的支出がSDGsの達成に実質的に貢献し、他に害を与えないことである。関心のあるパートナー国における、そのようなSDGsへの資金配分に関するあり得べき自主的報告は、理想的にはSDG目標レベルに対して、国家の持続可能な開発戦略と、政府が主導する戦略の運用手段となるであろうINFFに関連するものであり、必要に応じて関連するあらゆる利害関係者を巻き込み、政策対話や関連する地元関係者のための能力開発を伴うべきである。

8. 国内及び国際的な資金調達は、アディスアベバ行動目標に基づいた透明性と相互説明責任の重要性に留意しつつ、2030アジェンダとSDGsの統合的で不可分な性質と整合的に、国の優先事項に合わせるべきものであり、持続可能な開発を推進すべきである。イタリアG20議長国下において、我々は、貧困を根絶し、脆弱性と不平等を減らすための横断的かつ触媒的な主要分野として、ジェンダー平等、質の高い教育と働きがいのある人間らしい仕事を通じた若者のエンパワーメント、社会的保護システムの重要性に焦点を当てている。我々は、包括的で、強靭で、持続可能な社会的保護システムと関連する能力開発のため、資金調達メカニズムを強化及び拡大することに国、地域及び世界レベルで注目が高まっていることを歓迎する。我々は、持続可能な社会的保護システムの資金調達において、外部支援と国内資金の補完性を促進することの重要性を強調する。INFFは、政策の一貫性と社会的支出の効率を促進する観点を含め、全ての資金の整合性において重要な役割を果たすことができる。我々は、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行グループ(WBG)による社会的保護システムへの資金調達に関するスコーピング・ノートに感謝して留意し、これらの分野における国内及び国際的な資金動員を支援するために、あり得べきG20の行動を特定することを目的として、G20の雇用、教育及び財務トラックと協力することを期待する。

地域開発と地方におけるSDGs推進

9. 地方自治体は、パンデミックの複雑で多面的な影響を緩和し、より良い前進を実現するための重要な主体である。過去のG20議長国の成果物*1*に基づき、国の状況に応じて、政府のあらゆるレベルで協力し、包摂的、強靱かつ持続可能な回復に向けた取組を主導し、気候変動の原因と結果に取り組む地方自治体を支援することにコミットする。我々は、多国間のガバナンスシステム、対話、及び政策の設計と実行に、地域的アプローチを採用することの妥当性を強調する。このようなアプローチは、ワンヘルス・アプローチと整合的な形で、国内の文脈と状況に応じて、人間と動物の健康及び環境の相互関係を考慮に入れる必要がある。

10. 我々は、中間都市には、地方においてSDGsを達成するために重要ではあるが、多くの場合未だ開発されておらず、十分に活用されていない可能性があること、また、女性、若者、遠隔地やインフォーマルな居住地を含めた脆弱な状況に暮らす人々のエンパワーメントを可能とする環境を提供できることを認識する。これらの中間都市は、より包摂的、強靭かつ持続可能であり、誰ひとり、どのような地域も取り残さない開発モデルを推し進めるために、中央政府と協働しつつ、地方と都市を連続させ、問題に取り組み、解決策を見つけ、行動する上で決定的な役割を果たすことができる。中間都市はより大きな注目に値する。我々は、質の高いインフラ投資に関するG20原則及び地域連結性のための質の高いインフラに関するG20ガイドラインを通じた、地方と都市のつながりや連結性強化は、地方におけるSDGs推進に貢献し、特に地方における雇用、責任のある消費と生産、地方における環境保護や食料安全保障、持続可能なサプライチェーンの促進に資すること、また、それらが開発戦略において適切に優先されるべきであることを強調する。

11. 我々は、地方におけるSDGsを推進するために、全てのステークホルダー、特に地方の関係者とともに、イノベーションと知識の共創を促進することを目的としている。我々は、マルチレベルの政策対話やパートナーシップの促進を目指し、中間都市の可能性を制限する、知識、政策、財政、経営的人的資本の分野も含めた能力の格差の解消に向けた活動を拡大するための支援や能力開発を動員することを目指す。中間都市とその周辺地域に影響を与える格差に取り組むには、より幅広い協調した取組が必要である。そのため、我々は、これらの格差に取り組み、中間都市の開発の可能性を最大化するための地方、国内、国際的な活動を支援するための、開かれた、包摂的な政策対話の場である「地方におけるSDGs推進と中間都市のためのG20プラットフォーム」の設立に向けて取り組み、地方におけるSDGs推進に向けた努力を支援し続けていく。この連携的なG20プラットフォームは、中間都市と地方におけるSDGs推進に関する分析や知識を取りまとめたものを作成し、仲介するために、既存の知識基盤とネットワークに基づいて構築される。この取組で鍵となる分野は、地方におけるSDGs推進のための都市間のパートナーシップの促進、そして、これらのパートナーシップの好事例を取りまとめた好事例集の準備である。我々は、OECDと国連人間居住計画による運営組織に対し、それぞれのマンデートや予算、作業計画に沿う形で、G20開発作業部会やその他関連する国際機関やパートナーと緊密に調整しながら、このG20プラットフォームへの技術的な支援を検討するよう要請する。

SGDs達成に向けたG20の取組とアウトリーチ

12. 我々は、全ての国、民間セクター、市民社会、国際及び地域機関とのパートナーシップの下、持続可能な開発をグローバルに促進、加速するためのコミットメントを再確認する。我々は、G20のエンゲージメント・グループ(B20(ビジネス)、C20(市民社会)、L20(労働)、T20(シンクタンク)、U20(都市)、Y20(若者)、W20(女性)―及び、途上国の代表)が開発作業部会に貴重なインプットを行うことに感謝する。我々は、G20の他のワークストリームと協力し、2030アジェンダに関するG20行動計画を進める上での開発作業部会の重要な役割を強調するとともに、G20における持続可能な開発のための調整主体であり、政策リソースとしての開発作業部会の役割を再確認する。我々は、特にイタリア議長国による、開発作業部会と財務トラック間の緊密な連携と調整を歓迎するとともに、持続可能な開発のための2030アジェンダにおけるG20の取組を促進するための、共通の目標に向けた継続的な取組に期待する。これらを前進させるために、我々は、新型コロナパンデミックの影響で著しく後退したSDGsの達成と途上国における回復を促進するためのG20の取組の継続性と有効性を確保するために、過去のG20の成果と既存のイニシアティブの下、取組を進めていく重要性を認識する。


{*1* 地域連結性のための質の高いインフラに関するG20ガイドライン(2020年)、G20スマート・モビリティ・プラクティス(2020年)、質の高いインフラ投資に関するG20原則(2019年)、地域計画を通じた持続可能な居住に関するG20ハイレベル原則(2018年)、G20農村部の若者雇用のためのイニシアティブ(2017年)、アフリカ及び後発開発途上国の工業化の支援に関するG20イニシアティブ(2016年)。}